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金色の曼珠沙華-003-

金色の曼珠沙華 2017.10.01

#シリーズ物 #ウェブ再録

 早起きをするのは、苦手でもないが好きでもない。授業で体育があった日の翌日だけは、どうしても早く起き…

金色の曼珠沙華

金色の曼珠沙華-003-



 早起きをするのは、苦手でもないが好きでもない。授業で体育があった日の翌日だけは、どうしても早く起きられないが、それ以外の時なら、こうして目覚ましより早く起きている。
 眠りが浅かったというのもあるだろうが、まだ陽の昇りきっていない朝靄を眺めるのは悪くない。
 十座は、いつものようにランニングをしてこようと、玄関のドアを開けた。
「うわっ」
 その向こう側から、小さな声。十座は驚いて目を瞠った。ドアの向こうに、左京の姿。後少しタイミングがずれていたら、ドアがぶつかっていただろう位置だ。
「さ、左京さん? 悪い……いるとは思ってなくて」
「いや、俺もまさか開くとは思っていなかったからな。すまない」
 朝から左京の顔が見られた、と、十座は小さく胸を鳴らす。
 早起きは三文の得だと言うが本当だなと、思わず緩んでしまう口許を押さえた。
 しかしそこで、あれ、と思う。なぜこんな時間に外にいたのだろうかと。
 左京が、早朝にトレーニングをしているところなど、見たことがない。てめーら体力馬鹿どもと一緒にするなと、稽古中に言っていたのを思い起こせば、秘密の特訓というわけでもないだろう。
「なんだ、こんな時間からトレーニングか?」
「……っす」
 だがよく見てみれば、左京の顔に疲れが見える。ような気がする。十座は中への道を空けつつも、すれ違う左京の顔色を窺った。
「そうか。熱心なのもいいが、あんまり無茶するなよ。オーバーワークって言葉くらい知ってんだろ」
「左京さん」
 ぽん、と背中を叩いていく左京の腕を掴んでしまったのは、とっさだったと想う。
「兵頭?」
「それ、そっくりそのまま返す。アンタまさか、今まで仕事してたんすか」
 振り向いた左京の顔色は、やはり良くない。人間が本来睡眠している時間にまで仕事をして、平気なわけがないのだ。その時は大丈夫でも、疲労は必ず蓄積していく。
 もしかしたら、今日だけではないのかもしれない。
「組で接待が入ってたんだ。仕方ねぇだろうが」
 左京は気づかれたことに眉を寄せ、せっかく掴んだ腕を振り払ってくる。不愉快そうなその声に、十座の方こそ眉間にしわを寄せた。
「アンタらの世界の常識ってヤツは分からねぇが、こんな時間にしか帰ってこられねぇようなとこなのか? そんなに大事な相手だったんすか」
 左京の職業は、ヤクザだ。特に違法性が強いことをやっているわけではないと聞いてはいるものの、その世界の具体的な事項は分からない。
 稽古の前後で仕事にでかけ、朝まで帰ってこられないなんて、相当体に負担をかけているのではないだろうか。
 特に、左京や十座の所属する秋組は、アクション色が強い。今だって殺陣の稽古を強化しているところだ。
「ボスが帰らねぇのに、俺が帰れるわけねーだろ。オトナの世界にはいろいろあるんだよ、ガキ」
 呆れたため息を隠しもせずに、左京は睨みつけてくる。十座は接待とやらを経験したこともないし、ボスとやらの立場に相当する相手がいたこともない。畏怖され、いつだって独りだったのだ。
 だから左京の言うことは、理屈で理解できても体験として納得ができない。世界の違いもあるし、年齢の差だってある。
 ぞわり、と肌があわ立った。
 手を伸ばせば届く位置にいるのに、十座にとって左京はとてつもなく遠い存在だ。
 住んでいる世界が違う。
 年齢が一回りも違う。
 ガキ、と音にされたその言葉で、初めて実感してしまった。
(なんで……どうしてアンタなんだ、左京さん)
 ズキズキと心臓が痛む。ストレッチのような、気持ちのいい痛みではない。クイで打ち付けられるような物理的な痛みでもない。
 どうすればこの痛みが消えていってくれるのか、十座には分からなかった。
「確かに……俺はガキっすけど、左京さんを心配したら駄目なんすか」
「てめーに心配される謂われはねぇ。仮眠したら稽古に出るが、少し遅れるかもしれん。摂津に言っとけ」
 煩わしいとでも言わんばかりに、左京は再び背を向けてしまう。十座は腹の底から苛立って、トレーニングシューズを脱いで左京を追いかけ、追い越した。
「今日の朝稽古はナシだ。摂津に言ってくる」
「あァ? 兵頭てめぇ、今俺が言ったこと聞いてなかったのか」
「聞いてたからだ。無茶なことしてんのはアンタの方だろ左京さん。若くねぇんだから、休め」
 先ほど左京に言われた「ガキ」という単語に反発するように、十座は語気を強めて言った。
 そうやって仕返しをしてしまうところが、曰く、ガキなのだろうけど、左京を心配する想いに、ガキもオトナもない。
「お前な……。旗揚げが成功したからって、気ぃ抜けねぇだろうが。それにはやはり日頃の――」
「左京さん。怒るぞ」
 長いうんちくが始まる前に、十座は左京を振り向いて、正面から言葉を投げつけた。
「日頃の稽古が大事だっていう、アンタの言い分はよく分かる。だけど俺には……俺たちには、アンタは大事なひとなんだ。無理をしてほしくない」
 うっかり「俺には」と限定しそうになって、言いよどむ。
 秋組は、誰が欠けてもいけない。リーダーである摂津万里はもちろんのこと、ムードメーカーである七尾太一、過ぎるほどの気配りで場をまとめる伏見臣、年長者としてアドバイスをする古市左京。
 そこに、半端ないほどの情熱を持って芝居に挑む兵頭十座が加わるのだが、十座自身はそれを自覚していない。それはともかく、劇団に左京は必要な人材だ。
 それを隠れ蓑にして、一個人としても左京を必要としていることを丸め込む。
「頼むから、朝は休んでてくれ。他のヤツらだって、そう言うに決まってる」
 無茶をして、万が一にでも倒れたりしたら、気が気ではない。どうしてもっと強く止めなかったのかと、自身を責める事態に陥るだろう。
 この恋が叶わないのは仕方ないが、だからこそその分、古市左京というひとを大切にしたいのだ。
 十座のそんな真剣さに驚いたのか呆れたのか、左京がぱちぱちと目を瞬く。そうして、ふっと噴き出した。
「ふっ……は、ははっ……くくく」
「左京さん? ……なに笑ってんすか。俺は真剣にアンタを心配して――」
「いや、すまねぇ、馬鹿にしたわけじゃなくてな。ハハッ……っふ、ヤクザ相手に、【怒るぞ】ってなぁ……なかなか言えねぇもんだぜ」
 左京は、どうしても笑いが漏れてしまう口許を押さえながら、噴いてしまった理由を告げてくる。
 悪意があって笑ったわけではないのだと安心して、十座は目を瞬いた。
「左京さん、俺……アンタがそういうのだってときどき思い出す。アンタを、そういう意味で怖いとは思ってないっす」
 左京の、ヤクザとしての仕事ぶりを見ていないせいもあるのか、どうしても結びつかない。
 反社会的な団体への恐怖は、稽古中に怒られるのが怖いという現象とは、まったく違うカテゴリの怖さだ。だがそれを左京に感じたことがない。
「だから俺は、ヤクザのアンタに怒りたいんじゃない。秋組のメンバーとして、だ、大事な相手に、無茶をしてほしくないって言ってるんす」
「兵頭……」
 気持ちを言葉にするのは不得手だ。生来の不器用さに加えて、言葉というものを知らない。……いや、伝える術を知らない。今まで、この強面のおかげで、言葉を伝える前に拳が飛んできた。
 どう言えば、左京に伝わるのか分からない。
「左京さん、頼む」
 分からないなりに、ストレートに伝えてみた。
「…………分かった……」
 頷くまでは通さないとばかりに、左京の前に立ちはだかり、十座はついにその言葉を引き出すことができた。
 左京は気まずそうに顔を背け、ため息を吐く。不服そうではあるものの、願いを聞き入れてもらえて十座はホッと顔の筋肉を緩めた。
「悪い、そうやって心配されること、あんまりなかったから……」
「え、でも……迫田さんとか」
「アイツはうるせぇ。というか、迫田に本気で心配させるようなことはしてねぇはずだ。お前が大袈裟なんだよ」
「そんな顔色してよく言えるなアンタ……ちゃんと睡眠取ってんすか?」
 十座の問いかけに、ぐ、と言葉につまる左京。その様子では、ろくな睡眠も取っていないのだろう。
 ヤクザというものはそんなに忙しいものなのか。その世界を知らないことが、こんなにももどかしいと思ったのは初めてだ。
「……ヤクザにガンつけてんじゃねぇ。分かった、ちゃんと寝るから」
「本当っすか」
「信用ねーな」
「信用してないわけじゃない。心配なだけだ。アンタが寝るの見てからじゃねぇと、落ち着いてランニングにも行けやしねぇ」
「ハ、なんだ、子守歌でも歌ってくれんのか」
「寝付きが悪くなるだけだと思うが」
 心配しているということを、あまり真剣に受け取ってくれない。そんな左京に、若干のいら立ちを覚えながらも、冗談が言えるうちはまだ大丈夫なのかと、横をすり抜けていく左京の横顔を見送る。
 こんな時「劇団仲間」でなく、友人だったり恋人だったりしたら、引きずって部屋に放り込んで、眠るまで見届けていられるのに。
「左京さん、あの、本当に……体、大事にしてくれ」
 今の自分では、そう願うことが精一杯だ。
「分かった分かった、ランニング、気をつけていけよ」
「……っす」
 振り向かないままで、ひらひらと手を振ってくれる左京の背中をじっと眺め、これ以上は踏み込めないなと踵を返し、当初の目的を果たすことにした。

#シリーズ物 #ウェブ再録

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金色の曼珠沙華-002-

金色の曼珠沙華 2017.10.01

#シリーズ物 #ウェブ再録

 は、は、と荒い息がその個室に響く。 べっとりと濡れた手を見下ろし、兵頭十座は焦燥感に襲われた。 カ…

金色の曼珠沙華

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 は、は、と荒い息がその個室に響く。
 べっとりと濡れた手を見下ろし、兵頭十座は焦燥感に襲われた。
 カラ……とトイレットペーパーを引き出してちぎり、自身の体液で汚れた手を拭う。それを白い便器の中に投げつけて水を流す頃、ようやく呼吸が整った。
「……笑い話にもならねぇな」
 いや、まだギリギリ笑い話ですんでいるのだろうか、と十座は大きく息を吐く。
 兵頭十座は古市左京を抱いている。想像の中で、だ。現実の話ではない。ギリギリ笑い話というのは、そういうことだ。
 扉にもたれ、ぐしゃりと髪をかき混ぜる。日に日に、渦巻く欲が大きくなっている気がする、と。もちろん測定しているわけではないし、そんなものどうやって測定するのかも分からないが、感覚の問題だ。
「頭冷やしてこねぇと……」
 十座はトイレを出て、浴場に向かった。この時間帯、団員は全員風呂の時間を終えて、自室なり談話室なりでそれぞれの時間を過ごしているはずだ。
 十座とて、同室の相手がいなければそこで過ごしていたことだろう。だがこの劇団では基本的に二人部屋。悲しいことに、ルームメイトは劇団一いけ好かない相手だ。年頃の男子の生理現象とはいえ、自慰をしているなんて絶対に知られたくない。
 しかもオカズにするネタが、あの古市左京だなんて、死んでもだ。
 浴場の電気を点けず、十座はスタンドシャワーのブースに向かう。ひねった蛇口は、水の方だった。
 ザアッとノズルから降ってくる冷たい水は、とろけてしまった十座の心を固めていってくれる。
「間違って、手ぇ出さねぇようにしねーと……本当に殺される」
 ぼそりと呟く。
 想像の中で左京を組み敷いて、体を暴き、欲をぶつけるこの行為は、どうにも乱暴だ。
 それが現実になってしまわないように、こうして冷やして固めておかねば、世界が変わってしまう。
 恋というものが、こんなにも厄介なものだなんて思いもしなかった。
 そう、恋だ。
 兵頭十座は古市左京に恋をしている。
 冷水で頭を冷やす時間が経つにつれ、十座の意識はすっきりと晴れていく。
 その分、左京への感情を改めて実感することになってしまって、いたたまれないのも事実だった。
「なんで……あの人なんだ……」
 自覚している範囲で、初めての恋だ。
 硬派な強面というイメージが、小さな頃から定着しているせいか、女はおろか男の友人さえできなかった十座が、まさかまともに恋なんてできるはずもなく、この歳まで生きてきた。
 なんの因果か、初めての恋の相手が年上の男性とは。
 叶うわけがない。受け入れてもらえるわけがない。まるで絶望的な恋だ。
 混乱しなかったわけじゃない。最初はなんの間違いかと思った。
 左京を目で追っているのに気がついた時も、彼の演技に惹かれて、できることなら技を盗みたいと思ってのことだと感じていた。
 左京に名を呼ばれるたび胸が跳ねるのも、何か怒られるようなことをしただろうかと、怯えが先立っているのだと感じていた。
 だけど、よくやったなと笑顔を向けられたその瞬間。
 稽古の熱で、首筋を流れる汗を見たその瞬間。
 役の上とはいえ、真剣なまなざしと出逢ったその瞬間。
 恋をしているのだと、気がついた。
(言えねぇけど。誰にも。こんなこと……おかしいんだ。左京さんを……あんな風に抱きたいなんて、思ってねぇのに)
 触れたいとは思っている。口唇に、肌に、体のすべてに。だけど左京は、想像の中でさえ受け入れようとしてくれない。
 そりゃそうだろうなと十座は苦笑して、冷たい水の降ってくるシャワーを止めた。
 ふうーと息を吐く。熱は冷ました。どうしても浮かんでくる左京の顔も頭を振って打ち消した。恋心とやらにも蓋をして、押し込めた。
 今日はもう眠ってしまおうと、体の水分を拭き取り申し訳程度に髪を拭き、浴場を出ようとしたその時。
「あ?」
 なんてことだ。今いちばん顔を見たくない相手と鉢合わせた。
「んだ、てめぇ……」
 相手はルームメイトの摂津万里。部屋にいたのではなかったのかと、あからさまに眉を寄せてやった。
「何してんだよ、こんな時間に。風呂の時間過ぎてっだろーが」
 万里の言うことは正しくて、さらに言えば入浴は決められた時間内に済ませている。不思議がるのも仕方がないだろう。
 だけど、何をしていたかなんて言えるわけもない。左京をネタにトイレで欲を放ち、熱を収めるために冷水を浴びていたなんて、そんなこと。
 絶対に軽蔑される。
(別に摂津にどう思われようが関係ねーが、……知られたく、ねぇ)
 何かと突っかかってくる相手だ、今さら何をどう思われようと関係はない。だけど、知られたくない。
 この劇団は、十座の夢を叶えてくれた。これから先も、もっと色んな役を演じさせてもらえる――自分以外の誰かになれる、大切な場所だ。
 そんな大切な場所で、大事な劇団の仲間を相手に、こんな劣情を抱いているなんて知られたら――そう思うと、背筋を悪寒が走る。
(ここにいたいんだ、俺は)
「……っせーな、てめぇには関係ねーだろう」
 十座は万里を目の前にして珍しく、挑発を受けずに顔を背け、ふいと体を横に流した。今は万里の相手をする余裕なんてない。ありがたいことに、万里の方もそれ以上の挑発を続けてくることはなく、どことなく様子がおかしい。
 だが万里の様子が気にはなっても、てめーの方こそ何かあったのかなんて訊いてやる義理もなければ、そんな余裕もない。十座は万里とすれ違い、そそくさと部屋へ向かっていった。
 そうしてベッドに寝転がる。
 目を開けていても、閉じていても、浮かんでくるのは左京の顔。不機嫌そうなもの、ケンカを止める時の呆れたもの、アドリブに上手く返せた後の満足そうなもの。
(ああ、駄目だ、やっぱり。心臓がいてぇ……)
 想うたび、心臓が締めつけられる。きゅう、と縮んでいくような感覚を味わい、深呼吸をしてどうにか元に戻す。その苦しさを知っているのに、どうして何度も繰り返してしまうのか。
 想わなければ苦しまなくてすむと分かっていても、いつも、いつでも、左京が浮かんできてしまう。
(恋ってめんどくせぇな……)
 そう思ってため息をつくのに、頭の中は左京でいっぱいだ。せっかく収めた熱が、また蘇ってきてしまう。
 違うことを考えようと、大好きなあんみつを思い浮かべた。美味そう、と思ってもうひとつ。もうひとつ。ぽん、ぽん、と浮かび上がってくるあんみつ。黒蜜をたっぷりかけたり、ソフトクリームを乗せたり、ぎゅうひを足したりミカンを足したり。
 そんな中でも、ぽん、と左京の顔が浮かんできた。
「ああ、もう……仕方ねぇな……好きなんだ」
 大好きなあんみつと、大好きな古市左京。
 諦めが悪いのは自覚していた。似合わなくても甘いものは好きだし、どんなに下手くそでも芝居をしたかった。
 どんなに望みがなくても、やっぱりあの人が好きなんだと口角を上げて、十座はゆっくりと眠りに落ちていった。


#シリーズ物 #ウェブ再録

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金色の曼珠沙華 2017.10.01

#シリーズ物 #ウェブ再録

 案外華奢な手を押さえつけて、上から見下ろした。 ドク、と心臓が音を立てたのは自覚していて、その音を…

金色の曼珠沙華

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 案外華奢な手を押さえつけて、上から見下ろした。
 ドク、と心臓が音を立てたのは自覚していて、その音を静める術など知りやしない。ただ、もっと大きく、もっと速くする方法だけは知っていた。
「兵頭っ……よせっ、こんなことしてただですむと思ってんのかてめぇ……!」
 十座はふるりと首を振る。
 ただですむとは思っていない。今でさえ、軽蔑ととてつもない怒りがひしひしと感じられるのだ。自分の望みを実現させてしまったら、すべてが壊れていくのも分かっている。
(止められねぇんだ)
 触れたい。そう思ってしまった熱情は、自分の意志でももうどうにもできない。
 左京さん。
 小さく呼ぶ。
 この想いが叶うのなら、命をくれてやってもいい。そんな風に思うほど、あの人に触れたい。
 口唇を塞いだ。舌に噛みつかれたけれど、それさえも快感に変わっていく。押さえつけて、腕で拘束して、欲をただ、ぶつける。
「兵頭……ッ!」
 熱い吐息と一緒に吐かれる自分の名に興奮して、左京の体を乱暴に暴いていった。
 肌を滑り、口唇を寄せ、吸い上げて、押し込む。壊れてしまうのではないかと思うほど強く引き寄せて、左京の中に熱を流し込む。
(駄目だ、こんな、ことっ……!)
 止めなければと思う心とは裏腹に、欲望だけが先走る。肌をぶつからせ、腰を揺さぶり、涙が左京の睫毛を濡らすのも構わずに、何度も、何度も、打ち付けた。
「左京さん……ッ」


#シリーズ物 #ウェブ再録

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金色の曼珠沙華

NOVEL,A3!,十左,金色の曼珠沙華 2017.10.01

#片想い #ウェブ再録

(画像省略)表紙:みやび様2017/10/01【あらすじ】少し前から左京への恋心を自覚していた十座だ…

NOVEL,A3!,十左,金色の曼珠沙華

金色の曼珠沙華
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表紙:みやび様
2017/10/01
【あらすじ】少し前から左京への恋心を自覚していた十座だが、言わないでおこうと決めていた。だがある日、稽古あとの自主練につきあってもらった際に、止めきれず想いを告げてしまった。
※作中に万紬表現を含みます

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#片想い #ウェブ再録