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Please marry me!-001-
「おつきあいを前提に結婚してください!」
バサ、と胸の前に真っ赤なバラの花束を突き出した。
自分の顔が赤くなっているか青くなっているかは分からないまま、ミハエル・ブランはきっちり四五度に腰を折る。
撃墜王と謳われる男の、一世一代の告白だ。
心臓はうるさいほどに波打って、花束を差し出す腕も震えて、汗まで出てくる始末。
それでも相手からは何も返ってこず、これは脈ナシかなと少しだけ息を吐いて、諦めかけた、その時。
はああああーと大きなため息が聞こえてきた。
「え、あの、……アルト?」
思わず体を起こして、告白をした相手―早乙女アルトに視線を向けたら。
「逆だろ、バーカ」
思い切り呆れた顔で悪態をつかれた。
バラの花束を、受け取られたあとに。
ミハエル・ブランは両手で顔を覆った。
こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったんだ、と何度も何度も心の中で後悔を繰り返す。
「まだ落ち込んでんのか? ミハエル」
そんな様子を、目の前の席に座る早乙女アルトは面白そうに眺めていた。
「あのな、落ち込みもするだろ。俺がどんな決心でお前に告ったと思ってんだ」
思わずテーブルをバンと叩き、言い返す。責められるいわれのないアルトは口を尖らせて、そんなの知るかとハニーミルクラテをすすった。
「昨日、珍しく今日の予定しつこく聞いてきたから何かあるんだろうなとは思ってたけど……」
明日は予定入ってる? 明日は家にいる? 誰かと約束してない?
そんな風に訊ねた昨日に戻りたい、とミハエルは心の底から思う。
一生に一度、使うか使わないかの勇気を振り絞って愛を告白するはずだった。クラスメイトでチームメイトで、同性である、早乙女アルトに。
好きだと自覚したのは結構前で、だけど言わずにおこうと決めていた。それなのに言わせてしまったのは、あまりにも可愛らしい仕種をしてくれるこの人だ。
だいたい、今のフロンティアでは同性婚はまだ認められていない。禁止されているわけではないが、世間の目はまだ厳しい方、だろう。
「……なあアルト、訊いていいか?」
「うん?」
「今こうしてデートしてくれてるってことは、その、……OKってこと?」
そう、ミハエルもアルトも男だ。普通であれば異性を好きになるよう、本能にインプットされているはずで、こんなに簡単に叶うはずではない。
だけどアルトは、花束を受け取ってくれた。
拒絶されて、避けられて、気持ち悪いと軽蔑されるシーンだって、何度かシミュレーションしてきたのに。
何がどうなって、今アルトとカフェなんかにいられるのだろう。
「結婚とかはまだ考えてなかったけど。まあお前の言いたいことは分かったからな」
まるで何でもないことのように、アルトはラテをすする。そこには照れもからかいもなく、あるのはただ呆れたような眼差し。
「え、……え? ちょっと待って? 突っ込むのそこだけなのか?」
本当は、結婚を前提におつきあいしてください!と言うはずだった。
言いたいのは、おつきあいをしてくださいというところ。
だけどアルトの頭にあるのは、結婚というところ。
「まさか、あのさ、俺の気持ち……知ってた?」
ひとつの可能性を考えて、ミハエルは慎重に訊ねる。押し上げた眼鏡の向こうに、戸惑ったようなみどりの瞳。
アルトはそれに、弾かれたように顔を上げた。ミハエルが想いを告白してから初めての、驚いた表情だった。
「え? お前もしかして、気づかれてないと思ってたのか?」
返ってきた言葉に、ミハエルは頭を抱えた。
「うそだろ……」
なんてことだ。なんてことだ!
まさかこの気持ちが気づかれていたなんて。
隠していたつもりだった。誰にも知られてはいけないと、密かに想ってきたはずだった。
「んー……でもなあ、お前ほど分かりやすいのもなかったんだけど」
「マジかよ、ちくしょう」
こんなことなら、悩んでないでさっさと告っていれば良かったと、ミハエルは眉を寄せた。
「いつ言ってくるのかなって思ってたんだ。お前ずっと悪友ヅラしてるし、必要以上に俺に構ってくるくせに、そういうの言ってこなかったし」
面白そうに笑うアルトに、心臓が撃ち抜かれる。
学校ではあまり見せない表情だ。もしかしたらこれからずっと、こんな表情を間近で見ていられるのだろうかと、らしくなく心が躍った。
「なんで、ずっと言わなかったんだ?」
あれだけあからさまだったのに、と今度はアルトが訊ねる番。
「いや、それはほら……お前が舞台辞めちまった理由考えたら、言えないだろう」
ミハエルにだって、理由はあった。
ただ単に同性だからというわけではなく、アルトを取り巻いていた環境を考えてのことだ。
「お前の女形姿好きだったけど、お前がそういう目で見られるのは嫌いだって知ってたから、ずっと言えなかった」
後ろめたくて、と苦笑するミハエルを、アルトは何も言わずに眺める。それを責めだと感じたのか、
「ごめんな」
小さく呟いたミハエルに、アルトは首を傾げた。
「なにが?」
「正直言うと、夢ん中とか想像の中で、何度もお前を抱いたりしてきたんだ。でも表面は友達ヅラしててさ。それがちょっと、苦痛だったかな」
この手に抱いて、全部自分のものにしたい。だけど汚れてほしくない。そんな二律背反が、ずっとミハエルの恋心を押し殺してきたのに。
「お前はそんなこと知らずに俺に笑ってくれるだろ。もうたまんなくなって、お前に嘘ついてんのしんどくなって、もう玉砕覚悟で言っちまった方がいいやって思ったんだよな」
それが、告白を決意した理由だとミハエルは付け足す。
「俺のどこがそんなに好きなんだよ」
「言っていいのか?」
「訊いてんのは俺だ」
不機嫌そうに眉を寄せるアルトに苦笑して、ミハエルはモカを口に含む。
「全部、って言ったら信じてくれるの?」
女として見られるのが嫌いなお姫様相手に、こんなことを言っても言い訳にしか聞こえないだろう。それでも想う気持ちは本当だ。
「俺は、お前の中の女に惹かれて、男の部分を好きになって、傍にいたいなって思うようになったんだ」
「ふぅん……それで、なのか」
やっと納得がいったと、アルトはついていた頬杖から顔を上げた。ただそれだけを不思議に思っていたようで、特に怒る素振りも見せないアルトに、ミハエルの方が驚いた。
「怒んないの? だってアルト、今まで性別問わず誰に告白されてもOKしてなかったじゃないか。そういうのが理由だと思ってたんだけど」
「今でも、女として見られるのは大嫌いだ」
「だったら」
だったらどうして、ミハエルを拒絶しなかったのか。ミハエルは今、はっきりと女としても見ていたと言ったはずだ。
「……本気の想いならそうでもないって、お前の気持ち知って分かった、から……」
―う、わ……あ……っ!
恥ずかしそうに俯くアルトに、心臓が疼く。
視線が泳ぐのは照れ隠しなのだと、これまでのつきあいで分かっていた。
「俺が本気だから、姫は……受け入れてくれたってこと?」
本気の想いということだけは自信がある。
今までたくさんの女性と深いつきあいをしてきたが、誰一人として本気にはならなかった。なれなかった。
それはきっと、早乙女アルトというひとりの人間に出逢うためだったと言っていいだろう。
「ひ、姫って言うな」
「じゃ、じゃあ……あのさ、恋人だって思っていいのか? 今日こうしてんのは、デートってことでいいんだよな?」
「あ、ああ、そのつもりだったんだけど……いつもとあんまり変わんねえな」
学校帰りに寄り道するのと、なんら変わりないとアルトは言うが、とんでもない。
――――ホントに分かってんのかなこいつ。恋人ってことはつまり、手をつないだって、腕を組んだって、キ、キスをしたっていいんだぜ。
さすがにまだ口には出せずに、ミハエルは口許を押さえた。だけどつまりはそういうことが許される間柄だ。
#両想い #片想い #ウェブ再録

「幸せすぎる」
「大袈裟だな」
「そんなことない、だって俺、今立てるか分かんないんだぜ」
情けない、と笑うけれど、本当は泣いてしまいたいのを我慢したのだ。
「お前、案外へたれなんだな……面白い」
「あのさ、そういうの学校で言ってくれるなよアルト。俺にもイメージってもんが」
飲み終えたラテをトレーに戻し、そろそろ出るかとアルトは立ち上がり、ミハエルを見下ろしてふふんと笑ってみせる。
「なにがイメージだよ。本命には奥手なくせに」
「奥手って、お前ね……っ」
だがしかし、反論できる要素はあまりないなとミハエルが振り仰いだところへ、頬を包むアルトの両手と笑う口唇。
「間違ってねえだろ、バーカ」
「ア、ル……」
被さってくる陰と、夢にまで見たアルトの口唇。
突然の接触に、ミハエル・ブランともあろうものが反応できなかった。瞬きをするのがやっとで、口唇の感触を楽しむ余裕もない。
「お前のそんな顔、初めて見たぜ」
口唇を離してすぐ、そう言って微笑み、アルトは人差し指でミハエルの口唇をつんと押してみる。
たった今自分の口唇が触れていたところが、ぽかんと開かれたままあることが、おかしくてしょうがなかった。
「ちょっ……待、アルトっ」
トレーをまとめて持ち上げるアルトに、ミハエルはやっと我に返り、ガタガタと席を立つ。
不覚。
空とベッドの撃墜王と謳われる男が、まさかキスにさえ反応できないなんて。これだから本気の恋というヤツは、とアルトを追った。
「アルトとの初めてのキス、もうちょっとムードのあるとこが良かったなあ」
「へえ、ムードとか気にするタイプ、……だろうな、今までお前がつきあってきた女とか、そういうの気にしてたんだろ」
カウンターのところで追いついて、どさくさ紛れに手をつなぐ。それを振り払われることはなくて、ミハエルはホッと息を吐いた。
「個人の感覚なんじゃないか? あ、でも今は全然そういう、女の子とつきあってるとかないし、アルトからキスしてくれたの、すごく嬉しい」
ちょっと驚いたよと、振り払われないのをいいことに、指を絡める。
そんなことにすら心臓が破裂しそうだなんて、指を絡め返してくれる可愛い恋人は、知らないのだろうけど。
「なあミハエル、あれって美味いのか?」
「ん、どれ? ……たこ焼き? 食べたことない?」
うん、と決まりが悪そうにそっぽを向いて頷くアルトを、改めて上から下まで眺めてみた。
ストリートに並ぶ移動型の店舗なんて、このあたりでは珍しくもない。お目にかからない日がないというほどなのに。
「本当にお前……お坊っちゃんなんだよなあ」
「バカにしてんのか」
「ああ、悪い悪い貶してんじゃなくてさ。知らないこと俺が教えてやれるっていう優越感は、たまんないんだよね」
言って、にっこりと笑ってやる。アルトの頬がさっと染まったのを、ミハエルが見逃すはずもない。
「どれ食べたい? まずはスタンダードなのからかな」
「……お前に任せる」
オーケイ、と言ってミハエルは店員に八個入りのたこ焼きを注文した。アルバイトらしい女性は、ミハエルの連絡先を訊いてきたが、連れがいるんだとアルトを指す。
その顔がこの上なく優しい形だったことを、アルトは知らない。
「お待たせアルト」
「わ……」
焼きたてらしく、香ってくる匂いは最高だ。
「熱いから気をつけろよ。どっか座ろうか」
「すげえいい匂いがする」
アルトは目をキラキラ輝かせて頷く。本当に初めて触れる食べ物なのだろうなと、ミハエルこそ目をキラキラ輝かせた。
「あつっ」
「ああもう、だから気をつけろって言ったのに。平気か?」
「ん、大丈夫。これ美味しい」
にこりと笑うアルトに、胸がはねる。
こんな風にときおり見せる女性の仕種と表情には、いつも心を持っていかれる。
「お前も食べろよ、ほら」
「ん、ああ、ありがとアルト姫」
「姫じゃねえ」
ぷいとそっぽを向くのはいつもの仕種。その斜め一二五度の角度から見ても可愛いなあと思えてしまうアルトを、抱きしめたい衝動に駆られた。
「ホント美味そうに食うよな。そう珍しいもんでもないのに」
「しっ、仕方ないだろ見たことなかったんだから!」
その衝動を抑えて、顔を真っ赤にして抗議してくるアルトを眺め、肩を揺らして笑った。
「これからもっと可愛いアルトが間近で見られんのかと思うと、幸せ過ぎて夢かと思っちまうぜ」
「さっきからそればっか」
はあ、とため息が聞こえてくる。だけどそれこそ仕方ないじゃないかと、ミハエルは肩を竦めた。
早乙女アルトはこんなみてくれをしていても立派な男だ。銀河カブキの宗家・早乙女一座の大事な跡継ぎ。だったにもかかわらず、彼はパイロット養成コースに転科してきた。
もともと住む世界が違うひとだったのに、いや、だからこそ惹かれたのか、ずっとずっと特別な想いで見つめてきたのだ。
ミハエルはそこまで思って、目を見開いた。
瞬きが止まる。急に世界がモノクロになったかのように、思考さえ止まってしまった。
―駄目、だ……。
どうして忘れていたのだろうと、口許を押さえる。
アルトに気持ちを告げられなかったのには、まだ他にも理由があったのに。
どうして。
「ミハエル? どうしたんだよ、具合でも悪いのか?」
突然言葉を飲み込んでしまったミハエルを不審に思って、アルトが肩を揺さぶってくる。ミハエルはハッとして顔を上げた。
「ごめん何でもないよ」
「本当に?」
嘘くさい、と責めるアルトに、大丈夫だいじょうぶと笑って返し、あとひとつ残ったたこ焼きをアルトの口許に持っていってやる。
こんなのでごまかされるかと睨みつけながらも、アルトの口は嬉しそうにモグモグと動いていた。
「そうやって心配してくれる優しいアルトのこと好きなヤツが、学園にどれだけいると思ってんだ? それこそ可愛い女の子からヤローまで、めいっぱいなんだぞ」
「そ、そんなの知るかよ」
「アルトが知らなくてもそーなの。まったく、この鈍感姫が」
気が気ではなかった。こうやって見つめているだけのうちに、他の誰かのものになってしまわないかと。
自分の恋が叶わないなら、他の誰のものにもなってほしくないと思っていたのも、そう遠いことではない。
「だからさ」
いろんな障害があるこの恋が、こんな形で成就するなんて思ってもみないこと。頬をつねったらきっと目が覚めて全部なかったことになってしまうんだと、さっきからそれだけはできないでいる。
「だから、アルトが俺の気持ちに気づいてくれて、受け入れてくれたのは本当に嬉しい。一生分の運を使い果たしたかもな」
叶わないと思っていたからこそ、告げることができたのだろうか。
本当は、告げていい想いではなかったのに。
「大袈裟だろ」
そう言ってアルトは笑う。けれど、ミハエルは誇張や冗談のつもりで言ったわけではない。
「大袈裟なもんか。アルトが俺の大事な恋人だって、言って回りたいくらいなんだぞ」
分かる?と覗き込むと、アルトは呆れたようにも恥ずかしそうにも肩を竦めた。
空になったたこ焼きのパックを、アルトは店の前のゴミ箱に放って手をパンパンと払う。
#ミハアル #両想い #ウェブ再録