- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.193, No.192, No.191, No.190, No.189, No.188, No.187[7件]
Saphirのヒカリ-005-
そこに向かって足を踏み出しかけたそのとき、
「アードライ、待たせてすまない……どうしたんだ?」
「イクスアイン! どういうことだあれは!」
買い物を終えて店を出てきたイクスアインに、指をさして示してみせる。なぜハーノインが女性と一緒に茶など飲んでいるのかと、眉をつり上げて。
イクスアインはアードライが指し示したその方向を確認して、一瞬言葉を失ったようだった。それに気づき、アードライは失敗だったとようやく言葉を止める。
あんな場面を見たらイクスアインが傷つくのは目に見えている。見ないように進路を変えた方がよかっただろうかと思うが、目的がハーノインである以上どうしても避けては通れない。
「アイツはまた……仕方ないヤツだな」
しかしアードライの予想を裏切って、イクスアインはため息と一緒に呆れた声を吐き出した。
「ま、また……だと? どういうことなんだイクスアイン。なぜ自分の恋人が他の女性と一緒にいて平気な顔をしている!?」
イクスアインはまたと言った。ということは、こんな場面に出くわしたのは初めてではないということだ。それならば驚かなかったのも頷けるが、どうしてそんな諦めたような言葉しか出てこないのか。
「アイツの癖みたいなものだ。街へ出て、好みの女性がいたら必ず声をかけてる。一緒にお茶を飲んだり、食事をしたり。映画を観に行ったこともあるそうだ」
アードライは絶句した。毎回こうなのかと、思わずハーノインを振り向く。作戦中には絶対に見せない、人なつっこい笑顔が、癇に障った。
「なぜ……なぜお前は怒らないんだ!? その日限りかもしれんが、あちらの方がよほど恋人らしく見え―」
恋人らしく見えるといいかけて、アードライは口をつぐんだ。その光景を眺め口唇を引き結び、こっそり拳を握るイクスアインを見てしまって。
「私にだって、アイツ以外のひとのことを思う時がある。その日限りじゃない分、私の方がアイツを裏切っているのかもしれない」
「カイン大佐を慕う気持ちはあれとは違うだろう! いいのかイクスアイン、ハーノインが、お前以外に笑いかけるんだ。恋人みたいに、優しく笑うあれを見て、お前は不愉快にならないのか!」
不思議な距離感のある二人だと思っていた。その理由がこんなことであるのなら、なんと腹立たしいことか。こんなにくだらない理由が二人の間に壁を作っているのなら、自分が協力などしてやる必要はない。
だから、イクスアインには否定してほしかった。せめて仲間には幸福になってほしいと思っている。
「愉快なわけがないだろう!」
イクスアインが、珍しく声を荒らげて否定する。アードライはホッとした。ハーノインのことを語る時ひどく優しげな顔つきになるイクスアインを知って、そんなに軽い気持ちではないのだと思ったのは間違いではなかったのだと。
「だが、私とハーノインでは、街中で恋人同士のようには振る舞えない。いくらハーノインがそれを望んでも、無理な話だ。だから、気分転換に女性とそうやって過ごすアイツを責められない」
イクスアインは顔を背け、口唇を噛む。手をつないで歩くことも、キスをすることもできない。だからハーノインにそういう願望があって、女性にそれを求めたとしても責めることができないのだ。
「私を少しでも好きでいてくれるなら、それでいいと思っている」
「嘘をつくな! そんなに拳を震わせておいて、なにがそれでいいんだ、イクスアイン」
「いいんだアードライ、もう帰ろう。ことを荒立てたくない。それに……」
腕をつかんで揺さぶってくるアードライから視線を背けて、ハーノインと一緒にいる女性の後ろ姿を確認する。それになんだと詰め寄るアードライに、イクスアインは声を押し殺して答えた。
「たぶん、あの女性を気に入っているんだろう。私が知る限りでは三度目だ」
ハーノインは確かに女性に声をかけるのが趣味といってもいいくらいだが、二度三度と席を共にする女性は本当に少ない。
三度目ともなれば、もしかしたら待ち合わせでもしたのかもしれない。
「イクスアイン……それでお前は、今までやり過ごしてきたというのか? 本当は嫌なんだろう」
「……嫌だが、そんなこと……言えない……アイツの負担になる!」
本当は自分だけ見ていてほしい。自分だけに笑いかけてほしい。そんな子供みたいな独占欲、拒まれた時に傷がいっそう深くなりそうで言い出せない。
「だったら私が言ってくる」
悔しそうに目を伏せたイクスアインの腕を放し、アードライは踵を返す。ハッとしたイクスアインが顔を上げた時にはもう、ハーノインが座っているオープンテラスへ向かってしまっていた。
「な、ま、待てアードライ、ことを荒立てたくないと言ったはずだぞ」
「荒立てなければならないほど放っておいたのはお前自身だろう、イクスアイン!」
「アードライ!」
イクスアインの制止を振り切って、アードライはズカズカと道路を突っ切る。イクスアインはそれを追い手を伸ばすも、間に合わなかった。
「ハーノイン、どういうことか説明しろ」
そうして遠慮もなにもなく、ハーノインと女性との間に割り込みテーブルに手をつく。本来フェミニストであるアードライが、女性に対してそうするのは、本当に珍しかった。
「アードライ? え、なに、どうしたんだ?」
ハーノインは、突然現れて状況の説明を求めるアードライにさすがに驚いて、目を見開く。
「よせアードライ、帰るぞ。すまないハーノ、あとで説明する」
「説明を求めているのは私だ、離せイクスアイン」
イクスアインは、こんなこと望んでないとアードライを制し、ハーノインと女性に謝罪してもう帰ろうと思っていた。長くいたい場面ではない。しかしアードライも案外頑固なもので、ハーノインの考えていることを聞かなければ気が済まないようだった。
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い #ウェブ再録
Saphirのヒカリ-004-
軽い昼食を終えて出かける準備をし、通路に出たところでちょうど同じく準備を終えたらしいイクスアインを見つけ、アードライは声をかけた。
「イクスアイン、行けるか?」
「早いなアードライ。すまないが少し待っててくれ、ハーノを起こしてくる」
肩をすくめてそう答えたイクスアインに、え? とアードライは目をしばたたかせる。ハーノインはまだ寝ているのかという呆れと、それをさも当然のように起こしに行くイクスアインの自然さが、もしかしてと思わせた。
「イクスアイン、ハーノインも街へ行くようだったら、私は遠慮させてもらうが……そこまで野暮じゃない」
休日を共に過ごす恋人たちの邪魔をするつもりはない。別行動で問題ないはずだ。
「構わないさ、どうせヤツとは街で別れるんだ」
イクスアインはそう言って笑い、ハーノインの部屋へと入っていく。
アードライの頭の中には疑問符が押し寄せてきた。一緒に街へ向かいそこで別れる恋人同士がいるのか? なぜ一緒に過ごさないのだ? 趣味が合わないということか? と、今いち関係性のつかめない仲間の行く末を案じる。
いろいろなパートナーがいるものだなと、ドアの隙間から中を窺った。故意ではなく、たまたま視線がそこに行ってしまっただけなのだが、ものすごく悪いことをしたかとすぐに視線を逸らす。
ハーノインのベッドに腰をかけ体をかぶせているイクスアインの背中が目に入ったのだ。位置的に考えて、あれは口づけをしている体勢。大切そうに引き寄せたハーノインの手には、イクスアインの髪が絡んでいた。
やっぱり邪魔ではないだろうか? とほんの少し頬を染めつつ、二人を待つ。勝手に行くこともできないし、今声をかけることもできない。ほんの少し開いたドアを放って行けば、通りがかった誰かが覗いてしまうかもしれない。ツメが甘いと心の中で責め立てることで、覗いてしまった自分の失態を覆い隠した。
「おっ待たせ~」
「アードライ、すまないな、行こう」
声をかけられ、アードライはハッと顔を上げる。すっかり準備を整えたハーノインとイクスアインがそこにいた。どうやらアードライが同行することは知らされていたらしいが、ハーノインが驚く様子は見られない。
「さて、行こか。アードライはどこ目当て?」
「え、あ、ああ……茶葉と、あと……新しいティーカップでもあれば」
通路を三人で歩きながら、休日にこのメンツでいるのは珍しいなとハーノインは愉快そうな声で訊ねる。アードライはそれに答え、二人が気にしないなら街まで同行させてもらおうとゆったり口の端を上げた。
「あー、お前のよく行ってる本屋の傍にそういうのあったよな、イクス。一緒に行って見てこいよ」
「ああ、そうする」
「ハーノインはどうするんだ?」
「俺? 俺はこれ~」
やはりイクスアインとハーノインは街では別行動になるのかと不可解でしかないアードライが訊ねると、ハーノインは耳をピンと指先ではじく。
そこには、色が違うふたつのピアス。同じ形をしたものが右耳にもひとつある。
「新しいの買いに行くのか?」
「そ、特注してたヤツできたって連絡入ったからさ」
ハーノインは嬉しそうに呟く。特注とは、よほど複雑な形なのか、色なのか、石なのか。ハーノインの耳を飾るものがまた増えると知って、イクスアインが訊ねた。
「それ、痛くないのか?」
「平気だって、これは耳挟んでるだけだし。イクスもしてみる?」
「いや、私はいい。そういうのはお前の方が似合うだろう」
イクスも似合うと思うけどなーと、ハーノインは残念そうだ。無理に飾らせるつもりはないようだが、興味を持ってくれるのは歓迎らしい。
そのやりとりを見て、趣味が合うわけでも、合わないわけでもないようなのになとアードライは小首を傾げる。まったくおかしな距離の恋人同士だと謎を増やす結果となった。
「じゃあイクス、アードライ、ここでな」
街まで出向き、店が建ち並ぶ手前でハーノインはひらひらと手を振ってきた。イクスアインもそれを不思議には思わず、ああと頷いて別の方向へ体を向けている。
「あ、そうだ。夕飯どうする? こっちで食うならどっか店探しておくけど」
「いや、そんなに時間はかからないと思う。お前は好きにしたらいい」
それぞれの予定を曖昧に確認し合って、恋人たちは分かれる。ハーノインはアクセサリーを販売している店の方へ、イクスアインは本屋の方へ。
「本当に別行動なんだな。あまり恋人らしくないように思うが……」
「耳が痛いが、私たちはこれが普通だ。四六時中一緒にいるのが恋人とは思わないし、そんなのは小さい頃に死ぬほどやって飽きている」
イクスアインは笑って、先にアードライの買い物につきあおうと紅茶の置いてある雑貨店へと足を向けていく。
そう言えば幼なじみなんだったなと、よくは知らない生い立ちを思い浮かべてみる。確かにいつでも一緒にいればそれが恋人かというと違うだろう。ふたりには、これが自然なことなのか。
「それに一緒にいると、甘えそうになる。それでは駄目なんだ。事実、どこが好きなのかと訊かれて答えられないほど、手の届く距離というのに甘えている」
イクスアインはほんの少しだけ目を伏せて呟く。
「近すぎると、見えないものというものはあると思う。ハーノインの髪、陽の光みたいな色をしているだろう? 時々まぶしいんだ」
なるほどとアードライは相づちを打つ。ハーノインがまぶしいということに同意をしたわけではなく、イクスアインがどれだけハーノインを想っているかが分かった気がして。
本当に今まで、自分の心を分析したことがなかったのか。
「任務で離れている時はやっぱり心配になるが、それはたぶんお互い様だと思っている」
だから日常を感じる時に離れて見てみるのは、自分の中の想いを確認するためにはいいのかもしれないと、イクスアインは棚に並べられたティーセットのカップをしげしげと眺めた。
オレンジのライン、恋人の色だ。
「イクスアインは、ひどく分かりやすいな。軍人には向いていないかもしれない」
そんな様子をアードライは笑い、自分も気に入るカップを手に取って眺める。想いを知ってしまえば、なんてたやすく心が見えるのだろう。
「……以前ハーノにも同じようなことを言われた気がする。そんなに表に出やすいのだろうか? 今まで隠してきたから、話せることに浮かれているかもしれない」
イクスアインはカップの色になにを思い浮かべたか知られてしまって、バツが悪そうに棚へと戻す。誰かに想いを聞いてもらえるというのは、思った以上に解放感があるものだ。
「私でよければ相談にくらいは乗ってやろう。仲間だしな」
「充分乗ってもらっている。だから今日は礼をしようと思って」
そうだ自分のカップを選びにきたわけではないと思い出して、イクスアインは照れくさそうに眼鏡を押し上げた。
「義理堅いな。そんなところにも、ハーノインは惹かれているのだろうか」
じゃあこの茶葉を、とアードライはお気に入りの茶葉を礼にしてもらおうとイクスアインに手渡す。イクスアインはそれを受け取って、どうかなと苦笑した。
「私がハーノを想うほどには、想われているかどうか分からない。いや、私がどれだけハーノを好いているか自分でも分からないのに、推し量ることなどできないな」
初めて、イクスアインが寂しそうな顔を見せる。アードライは仲間として接してきて初めて触れたイクスアインの不安に驚いた。
戦闘時には冷静に戦況を把握し最善の策を展開するのに、恋に関してはこんなに幼くなってしまうのか。
「訊いたらいいのではないか? どれほどの想いがあるのか、態度だけでは分からんだろう」
なんだったら今から訊きにいけばいいと、アードライは持っていたティーカップを棚に戻す。訊く相手はすぐ近くにいるというのに、なにをためらっているのか。
アードライ自身には、恋を語る相手はいない。が、親友と思っている男にはどうやら大事な相手がいるようだ。身分的に片恋だろうと分かるのがつらいところだが、イクスアインとハーノインは、手の届く、それこそ肌を合わせられる距離にいる。
伝えられるものなら、言ってほしいことがあるのなら、生きているうちに心を交わした方がいいに決まっているのに。
「ア、アードライ、待ってくれ、まだこれ支払い終わってないし」
「あとでいいじゃないか。お前たちを見ているとその煮え切らん態度が苛立ってくる」
どうあってもアードライは互いの想いの深さを確認させ合いたいようで、頑として聞かない。逃げたりしないようにと、手までつかんでくる始末だ。
「わ、分かったから。行こう。ただ、ちゃんとこれ買ってからにしてくれ。礼ができないだろう」
イクスアインとしても、訊ねてみたいことではあった。アードライは背中を押して……いや、引っ張っていってくれる。きっかけでしかないが、ずっと心にたまっていた不安を吐き出すことができるだろうか。
そう思いながら、イクスアインは茶葉の支払いをしに向かう。アードライはそれを横目に、店を出てハーノインの向かったのアクセサリー店へと視線を移した。
はずだった。
それが、途中で止まってしまう。
オープンタイプのカフェに、ハーノインの目立つ髪を見つけた。買い物を終えてそこで一休みしているのなら、問題はなかったのだ。
彼が、一人でいたのなら。
しかし、アードライが発見したハーノインの正面に、女性が一人座っている。なにやら楽しそうに談笑している様子が窺い知れて、アードライは太腿の横でぎゅっと強く拳を握った。
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い #ウェブ再録
Saphirのヒカリ-003-
「こういう時、ハーノインと答えられない私は、やっぱりアイツをそれほど好いていないのかもしれない」
「私としては、ハーノインと答えてくれるのを待っていたんだが……」
失敗だったなとアードライはため息を吐く。イクスアインほどカインに信頼を寄せているわけでもないアードライとしては、仲間として認めている、より近しい存在を選んでほしかった。
「だが、たとえ誰かの助けが要るのだとしても、ハーノインが私の力を必要とするだろうか? アイツはなんでもソツなくこなしてしまうからな。私が助けられることばかりだ」
少しだけ口調の変わったイクスアインに気がつき、アードライは顔を上げる。
「いつだってそうだった。ハーノがいなかったら、あの厳しい訓練にも耐えられなかっただろうな」
共に幼少時代を過ごし、育った故郷を襲撃され、それでもあそこでくずおれてしまわなかったのは、ハーノインがいたからだ。カルルスタインに入ったあとも、何度もくじけそうになったのに、ハーノインは傍にいてくれた。
「友人でも幼なじみでも恋人でも、アイツを表現するには言葉が負けてしまうように思う」
イクスアインの口許がゆるむ。滅多に見ないその表情に、アードライは目を瞬いた。
「イクスアイン……自覚をしていないのかもしれないが」
「え?」
「相当のろけているぞ、それは」
聞いているこちらの方が照れくさくなってしまう、とアードライは続ける。のろけている? とイクスアインは反芻し、理解して顔から火を噴いた。そんなつもりではなかったのに、懐かしさがそうさせたのだろうか。
「安心しろイクスアイン、お前はハーノインを好きで仕方がないようだ」
「いや、あの、これはっ……そういうつもりで言ったんじゃなくて」
「好きではないのかもなどと、どの口が言うのか……」
心配をするだけ無駄だったなとアードライは呆れたようにため息をついた。他人からはそう見えるのかと、イクスアインはいたたまれなくなる。
「ハーノインにも訊ねてみたいが、どんな答えが返ってくるのだろうな」
「ハーノに? まじめに答えるだろうか、アイツ」
互いが好きあっているのなら邪魔をしないようにしようとは思うが、ハーノインの方はまだ気持ちを聞いていない。いい加減な気持ちではないと思うが、いったいどれほどのものなのか。
「まじめな交際なら、まじめに答えるだろう?」
「…………そう、だな」
「何か気がかりでもあるのか」
口ごもるイクスアインを不審に思って、アードライの顔が険しくなる。
「いや、気がかりというか……その、もし聞いたら……お、教えて、ほしい……」
次第に俯いていくイクスアインの声が、小さくなっていく。
「好かれているとは思う。だが……どこをどんな風にどれだけ想ってくれているか、知らないんだ」
アードライはなんだそんなことかと息を吐いた。やはり相手の気持ちは気になるだろう。第三者に対して、自分のことをどう思っているかという問いに、なんと答えるのか。
それは、自身に直接言われるのとはまた違う趣きがあるのだろう。
「だったら、イクスアインが私に対して言ったハーノインへの想いもアイツに教えてやるのがフェアだが、どうする?」
「えっ、あっ……それは……少し、待ってくれ」
そうか確かに自分だけ聞いてはフェアじゃないなとイクスアインは気がつき、だけど今言ったものを伝えられても困る。
「せめてひとつくらい、アイツの好きなところを挙げたい……が、迷っていて」
律儀な男だなとアードライは思う。ハーノインのどこに惹かれたのかと訊いた自分に対しても、答えるつもりらしい。
「一日くらい待つが?」
「…………そうしてくれるとありがたい」
ちゃんと考えると呟くイクスアインは、珍しく歳相応の顔つきだった。アードライはそれにふっと笑う。きっとハーノインは、アードライが知らない顔をたくさん知っているのだろう。そしてイクスアインも、アードライの知らないハーノインをたくさん知っているに違いない。
「楽しみにしている」
そろそろ乗馬の時間だとアードライは腰を上げる。今日はいつもより楽しいかもしれない。
「イクスアインは、このあとどうするんだ?」
「ここで少し本でも読みながら考えることにする」
「ああ、じゃあティーポット置いておくから、好きに使うといい」
「いいのか? 茶葉、もう残り少ないみたいだが……」
アードライのお気に入りのものじゃないかと続けるが、アードライは構わないさと笑った。
「また買ってくる。午後からは街に出てみようと思っていたところだ」
「そうなのか。ちょうどいい、私も街へ行くから、一緒に出よう」
迷惑でなければと付け加えたイクスアインに、アードライはこちらこそよろしく頼むと笑ってみせる。では午後にと声を交わし、アードライは談話室をあとにし、イクスアインは紅茶を入れ直しソファに腰をかけた。
心遣いの礼に茶葉でも買って渡そうと、香り高い紅茶を、気分を変えてストレートで飲んでみた。
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い #ウェブ再録
Saphirのヒカリ-002-
「おはようイクスアイン」
談話室でいつものように読書をしようと思うと、やはりいつものようにアードライがソファで紅茶を飲んでいた。
「おはようアードライ。いつもながら早いな」
「私は普通だ。クーフィアやハーノインが遅すぎるのだろう。エルエルフなど、いつ眠っているのかしれないほど早い」
その物言いに、イクスアインは違いないなと苦笑した。クーフィアやハーノインが昼間で寝ていたりするのは皆が知っている。あれでよく特務大尉など務まるものだ。
「飲むか?」
「ああ、いただこう」
イクスアインがアードライの正面のソファに腰をかけると、すかさず紅茶を勧めてくれる。イクスアインはそれを素直に受けて、温かな紅茶にミルクと少量のシュガーを流し込んだ。
「少し疲れているようだが、大丈夫なのか?」
「……そうか? ちゃんと眠ったつもりなんだが」
お気に入りの紅茶で喉を潤しながら、アードライがイクスアインに視線をよこしてくる。ここに来る前に見た鏡の中の自分は、気遣われるほど疲弊しているとは思わなかったが、他人が見れば違うのだろうかとイクスアインは肩をすくめた。
「いくら休日とはいえ、有事には出動がかかる。ほどほどにしておくといい」
ん? と小首を傾げ、次の瞬間カッと頬を赤らめる。アードライが何のことを言っているのか気づき、思わず顔を覆った。
「な、なんで分かるんだアードライ……っ」
「気づいていないのか。ハーノインと夜を共にした翌日はほんの少し顔がゆるんでいる。まあ、私はお前たちのことを知っているからこそ気がつくのかもしれないが」
アードライはティーカップの縁に口を付けながらフォローを入れてくれるが、それでもイクスアインは不覚だと感じてしまう。
ハーノインとのことを知られたのは少し前だ。任務で別れる時、ほんの少し視線をやり取りしたのと、指先を触れ合わせたそれだけで、悟られてしまった。
任務を終えてから問いつめられたが、あろうことかハーノインが肯定してしまったのだ。まだごまかしようがあっただろうに、隠すのと否定するのとはわけが違うと呟いて、ハーノインは笑った。
任務に支障がないなら誰を好きになろうと別に構わないだろうと、あの場にいなかったはずのエルエルフが珍しく話しに割り入ってきたのも驚いたが、彼も以前から気づいていたという事実に、恥ずかしくて死にたくなったのを、今でも覚えている。
しかしふたりの関係がそこで留まっていてくれるのは、アードライもエルエルフも、面白半分にからかったりする輩ではないからだ。そもそもエルエルフはさほど興味がなさそうだった。
「参考までに訊ねたいのだが、イクスアイン」
「な、なんだ?」
「ハーノインの、どこに惹かれたんだ? お前ならそれなりの家の子女を望むことだってできるだろう」
アードライの言葉に、イクスアインはわずかに逡巡してティーカップを静かにソーサーへと戻す。それを見て、アードライは「答えづらいことを訊いたなら謝罪しよう」と目蓋を伏せた。イクスアインは、あわててそれを否定した。
「いや、そうじゃないんだアードライ。今までそういうことを考えたことがなくて」
どこに惹かれたのかという問いに、答えづらいわけはない。すべて自分の意思なのだから、なにもおそれる必要はないのだ。
「考えたことがない? それで深い仲になれるものなのか」
「改めて考えると、すぐには出てこないというだけだ。私たちは幼い頃から一緒にいたからな、アイツのアイツらしさに惹かれていると答えても、きっと誰も分からない」
苦笑して、イクスアインはソファの背にもたれる。ギッとほんの少し立った音を素直に耳に入れ、ハーノインを思い浮かべた。
「たとえば………………たとえばだな……」
しかし、やはり具体的にどこ、という箇所が思い浮かばない。トレーニングはサボるし街へ出れば必ず女性に声をかけるし肝心なことは言わないし朝には弱いし夜にはときおりひどいし、そういえばどこに惹かれたのか、本当に分からなくなってしまった。
「イクスアイン、そんなに悩まなければいけないのなら、別にいい。お前たちが本当に好きあっているなら、せめて邪魔はしないようにと思っただけだ」
「アードライ……」
ティーポットから紅茶を注ぎ、ほんの少しシュガーを溶かし、アードライは呟く。
「正直、お前たちのことを知った時は戸惑ったんだ。同性では婚姻も結べないし、子も成せない。命の危険を伴う軍人だからこそ、それを諦めて手近な相手で済ませているのかと……思わないでもなかった」
ああ、だからか、とイクスアインは思う。だからハーノインとの関係が発覚したとき、あんなに責めてきたのか。
「すまなかったなイクスアイン。私はハーノインほどお前を知らないし、お前ほどハーノインを知りもしない。お前たちが共に過ごしてきた時間を、否定するようなことを言ったかもしれない」
「いや、そんなことはない。逆に、いちばん最初に責めてくれたのがアードライでよかったと思う。名前も知らないような連中だったらと思うと、腸が煮えくり返るな」
共に任務に就く仲間でよかったと、本当に思う。あのときはただ関係がバレたと周りの反応を恐れるばかりだったが、おかげで今は少し肩の力が抜けたようだ。
秘密を共有する相手がいるという安堵感がそうさせるのだろう。イクスアインはティーカップを持ち上げ、冷めかけた紅茶をすすった。
「だけど、怖いな」
「なにがだ? イクスアイン」
「私は今までアイツを……ハーノインを好きだと思っていたが、こういうとき即座に答えられないということは、自分で思っていたより好きではなかったのだろうか?」
思い込みだったかもしれない。幼い頃から一緒にいて、一緒にいすぎて、ハーノインしかいないと思いこんでしまったのではないだろうか。
「アードライ、お前の言うとおり、私たちはお互い手近すぎる。欲をぶつけるには、最良の相手だったかもしれない」
「イクスアイン。私が言うのもどうかと思うが、マイナスの思考は良くない。戦線において判断を鈍らせる」
「分かっている……任務に支障はきたさないさ。カイン大佐の期待を裏切るわけにもいかないからな」
ふと息を吐き出して、眼鏡のブリッジを押し上げる。任務中にこんなことを考えていたら、作戦の失敗につながる。それはすなわち、上官であるカインの不興を買いかねないのだ。それだけはどうしても避けたい。
「相変わらず、大佐に心酔しているんだな」
「ああ、カイン大佐は素晴らしい方だからな」
そうでなければこんなところにはいないとイクスアインは不敵に笑ってみせる。
あの時なくしていたかもしれない命は、カインに救われている。その恩はまだ返せていないのだ。両親の敵を取るため、恩を返すため、カルルスタインの厳しい訓練に耐え抜いてきたのだ。
「私も尊敬はしている。作戦が失敗したことは一度もないし、エルエルフを一人旅団と呼ばれるまでに育てた方だ。上官としては申し分ない。だがイクスアイン、ハーノインは……なにも言わないのか?」
アードライの瞳がまっすぐに見つめてくる。なにを言いたいのかすぐに理解し、イクスアインは瞬きひとつで肯定してみせた。
「今さらなんだろうな、アイツがなにも言わないのは。私が大佐をお慕いしている理由はハーノインも知っているから」
むしろ、ハーノインがカインに信頼を寄せない理由の方が分からない。訊ねてみたいが、そうしたところでお互いカインに対する感情は変わらないだろう。
「そんなものか……私だったら、恋人が他の男に心酔しているのは気に食わないがな。ハーノインは見かけによらず心が広いということか?」
カインに対する尊敬の想いと、ハーノインに対する想いは違う。どちらかを諦めろと言われても、おそらくどちらも捨てたりできない感情だ。ハーノインはそれを理解して、なにも言わないのだろうか。
「どうだろうな、見かけ通りのような気もするが。気にならない程度の気持ちなのかもしれない」
「まったく分からないな。お前たちは深い仲でありながら気持ちが浅いかもなどと言うのか」
自嘲気味に笑って俯くイクスアインに、ある種の苛立ちを感じる。
「イクスアイン、もしカイン大佐とハーノイン、どちらかを選べと言われたら、お前はどちらを選ぶんだ?」
アードライの放つ刃が心臓に突き刺さる。そんな事態にはならないといえないのが、軍人である。たとえば命にかかわることだったり、作戦の遂行にかかわることだったり、選ばなければいけない場面は起こりうる。
作戦の遂行であれば当然上官であるカインの言い分を支持しなければいけないし、プライベートな約束だったらハーノインを優先したい。
だが、命を選べと言われたら? どちらかの命しか選べないと言われたら?
そのときは、どちらを選ぶだろうか。
「…………分からない」
そんな事態はこない方がいいと願うだけで、答えには行き着かない。意地の悪い質問だなとアードライに小さく嫌味をぶつけてやるが、イクスアインの答えは靄がかかったままだ。
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い #ウェブ再録
Saphirのヒカリ-001-
最近、気づいたひとつのことがある。
それは、目覚めるといつも恋人の指に自身の髪が絡んでいることだ。腕を枕にして眠っても頭を抱えられているし、背中を向けて眠ってもなぜか彼の指は髪を絡めている。
別に不快な感覚はない。むしろその指先が触れているから、ひとりの時より深く寝入ることができると自覚していた。
イクスアインは目蓋を閉じ、恋人の体温をもう一度確認してから目蓋を持ち上げる。まだ眠っている彼を起こさないようにゆっくりと体を起こし、脱ぎ捨ててあったシャツを羽織ってベッドを降りる。
ん、と少し寒そうに身じろいだ男を見下ろして笑い、ブランケットを肩まで引き上げてやった。
気怠い体で身支度を整え、彼の触れていた髪を指で梳いて整える。
そうしてから、すぅすぅと寝息を立てる彼へと手を伸ばした。
「―ハーノイン、ハーノ。起きろ」
軍人がこんなに無防備に深く寝入っていいものかと思うが、そこは自分がいるから安堵できるのだと少しだけ自惚れておこう。
「ん……? なにイクス、もう戻るのか?」
揺り起こした相手は眠そうに目をこすりながらもベッドの上で体を起こした。まだ起床時刻ではないことには申し訳ないと思うが、出ていく時には起こせと言うのは彼の方だ。
「ああ、今なら人目にはつかないからな」
「泊まっていけばいいって、いつも言ってんのに」
「馬鹿、こんな狭いとこに泊まるなど、見つかったら言い訳のしようがないだろう!」
これももう、何度したやり取りだろうか。
ハーノインとは、幼なじみであり、カルルスタイン機関の同期でもあり、それと同時に恋人でもあった。
体を重ねながらも絶対に朝をこの部屋で迎えないのは、ひとえに内密の関係だからだ。もう少し広い部屋ならまだしも、ベッドとデスクを置いてしまえばそれまでというくらいの面積では、二人でいるには狭い。さらに言えば、イクスアインの部屋は隣だ。そこまで歩くのが困難という言い訳もできない。
「ま、しょーがないか。俺だって、バレてお前が変な目で見られるのは嫌だからな」
ハーノインが、ベッドの上から腕を伸ばしてくる。それに招かれて、イクスアインは腰を折って身を寄せた。そうやって口唇が重なるのもいつものこと。
そんな時にもハーノインの指先は髪をいじっていることに気づいて、思わずおかしくなってしまった。
「なんだよ?」
「いや、別に」
軽い挨拶程度に済ませ、朝の触れ合いを終える。もう部屋を出なければ、早い者は起き出して廊下を歩いていてもおかしくないのだ。
「イクス、街行くんだったら起こして。俺も一緒に行くから」
「また寝るつもりか。たまにはそのまま起きててみろ」
「やーだ、ねみい」
ハハハと笑って、ハーノインはまたベッドに横たわってしまう。有事でない時くらい規則正しい生活を心がけろと言ってやりたいが、彼にとってはそれが規則正しいのかもしれない。
イクスアインはため息を吐き、踵を返す。
「おやすみ、イクス」
「……ああ、おやすみハーノ」
眠そうな声にそう返して、扉越しに通路の様子を窺ってからドアを開けた。足早に自分の部屋へ向かい、やっと一息つく。
時刻は〇六〇三。起床までもう少しあるが、ハーノインのように眠ってしまうことはできない。しかし体は休息を求めていて、イクスアインは仕方なくベッドに体を横たえた。こうしているだけでも疲れは取れるだろうと、セットしたアラームを確認して目蓋を伏せる。
起床まで一時間。疲れた体と、正反対に幸福な気持ちを反芻するこの時間は、決して嫌いなものではなかった。
ほんの少し―寂しさと不安があることを除いてしまえば。
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「説明って言われても、見ての通り彼女にお茶奢ってんだけど」
ハーノインは悪びれもせず、現在の状況を簡潔に述べる。そうだ、言われずとも分かるその状況を、ハーノインの口から聞きたくはなかったのに。イクスアインはアードライを止めながらも顔を背け、早く立ち去りたいとさえ願った。
「ねえハーノイン。この子たちよね? 写真の」
そのとき、女性の声がしてふと思考を止める。え? とイクスアインとアードライは、同時に女性へと視線を移した。
「あーそうそう。ごめんな騒がしくて」
「いいよ、大丈夫。ハーノインが自慢するだけあって、綺麗ね」
「だろ」
ハーノインは不敵に笑う。
アードライにもイクスアインにも、同じくらいの疑問符がおそってきた。写真の、とはどういうことだろう。自慢とはいったい? と二人で小首を傾げていると、女性の方がそれに気がついたようだった。
「あれ、ハーノインあなた、言ってなかったの?」
「や、言ったぜ俺。ピアスできたから、受け取りにいくって」
ピアス? とイクスアインとアードライの声が重なる。そういえば確かに、特注したものができたと言っていたのを思い出す。
「彼の注文難しかったのよ。特に、えーと……君の方ね。もっと落ち着いた色がいいだの、艶が足りないだの。わがまま言いたい放題」
まあそれに見合うお金はもらったからいいけど、と女性は続ける。君の方、と指さしたのはイクスアイン。よくよく見てみれば、ハーノインの左耳にひとつ飾りが増えていた。
では、ハーノインのピアスを作った女性なのかとようやく気がついて、何度も逢っていた理由も知れる。誤解していたような事態ではなかったとあって、アードライはホッとしたあとに醜態をさらした自分に羞恥を覚えた。
「す、すまない、あの、誤解していた。みっともないところをお見せして、申し訳ない」
「え? あー、なるほどそういうことね。ハーノインとデートしてると思ったんだ」
素直に謝罪したアードライに、事態を把握した女性は面白そうに笑う。俺はデートでもかまわないけどと口の端を上げるハーノインに、年下は守備範囲外と軽くあしらって、さてと時計を覗き込む。
「じゃあ、私はもう行くわ。またねハーノイン、今後ともご贔屓に」
「ああ、ありがとう。また何かあったら頼むよ」
女性はカタリと席を立ち、ハーノインに別れを告げる。本当にただの商談の延長だったようで、ふたりの間には色っぽい雰囲気など微塵も感じられなかった。
「ハーノイン、本当にすまない……まさかそういう事情だったとは思わなくて」
「あー、いいっていいって。誤解してもしょうがない状況だったし」
アードライは重ねて詫び、頭を抱えた。ハーノインも、この場に割り込まれた理由に気がついて苦笑した。自分の普段の行いも問題だっただろうかと。
「そっちは買い物終わったのか?」
店内で必要以上に目立つのはそれほど好きではない。ハーノインは店を出ようと立ち上がり、立ち尽くしていたイクスアインと視線を同じ高さにした。
「ハーノ……そのピアス……」
増えた飾りは深い深い青。
イクスアインは、ハーノインが今日買い求めたそれをじっと眺めて呟く。答えを求めたわけではなく、気づいた驚嘆を口にしたまでだったが、ハーノインは嬉しそうに耳を撫でた。
「ああ、お前の色な」
喉をこみ上げてくるものがある。
「―ハーノ……!」
イクスアインはそれを抑えようとして、口を右手で覆った。空いた左手を引き、ハーノインはカップを戻しに向かう。そんな二人の背中を眺め、色? と首を傾げたアードライは、やがて気がついて思わず頬を染めた。
「ハーノイン、イクスアイン。私は先に帰るから、その、少しふたりでゆっくりするといい」
店を出て、アードライはふたりに声をかける。これ以上は邪魔になってしまうと、まだ頬を染めたまま。
「え、いいのに別に」
「私が良くない。あとハーノイン、今度聞かせてもらいたい。イクスアインのどこにそんなに惹かれたのかを」
イクスアインには一日待ってやると告げ、謎の答えを求めた。忘れてなかったのかとイクスアインは視線だけで応じる。そこへ、助け船のような追い打ちのようなハーノインの言葉が降ってきた。
「どこって、ぜんぶに決まってんじゃん。挙げてったら三日三晩はかかるね」
なんの臆面もなく言ってのけるハーノインに、アードライは呆れた。呆れつつも、幸福そうで嬉しかった。
「具体的に言ってやれ。イクスアインにな。イクスアイン、お前もちゃんと言うんだぞ」
羞恥に負けそうなイクスアインに釘を刺し、アードライは踵を返す。軽い足取りは、ふたりの想いに触れたからだろう。帰ったらイクスアインのくれた茶葉でティータイムだと、空を見上げた。
「……なあ、イクス、もしかして妬いてくれてたり、……しないよなー」
顔を俯けたイクスアインを振り向いて、ハーノインは可能性を口にする。アードライの乱入はイクスアインとのことを知っているせいだろうが、当人はどう思っていたのか気になるところである。
が、反応は薄い。妬かれるほど好かれている自信は、ハーノインには今のところなかった。
「妬いた、と言っていいのか分からない……」
仕方ないかーと歩き出したところへ、イクスアインの小さな声。聞き逃すわけもなく、ハーノインは振り返った。
「え?」
「お前と恋人同士みたいに過ごせる女性たちに、嫉妬はする。不愉快だった。だけど」
イクスアインは俯けていた顔をようやく上げる。泣きそうになるのを我慢して、笑うことなんてできなかったけれど。
「だけど、お前の耳を飾るのが俺の色だと知って、そんなもの吹き飛んでいったよ」
「イクス……」
もしかして思っているより好かれているのだろうかと続けるイクスアインに、ハーノインも同じことを思う。
自分の方が想いが大きいと思いこんできたけれど、お互い様だったようだ。この想いが負担にならないようにしてきたが、それが逆に不安になっていたなんて思いもしなかった。
「イクス」
ちょっとこっち、と手を引かれる。前方にかかる力で、イクスアインは歩かされた。
「ハーノ、なにを―」
「キスしたい、イクス。今」
引っ張り込まれた狭い路地で、互いを正面に体を寄せ合う。イクスアインは視線を左右に走らせて正面のハーノインへと戻し、目蓋を伏せた。
「ん……」
こんなところで口唇を合わせるのは初めてだ。普段は互いの部屋か、絶対絶対誰にも見られない密室。屋外でなんて、誰に見咎められるか分からない。
分からないのに衝動は治まらなくて、ついばむようにキスをした。
「んっ……ハーノ……ッ」
「イクス、……イクス」
キスの合間に名前を呼び合えば、抱きしめる腕の力がさらに強くなる。それは想いの分の強さとなって、ふたり同じ力で愛しいひとを抱きしめた。
「ハーノ、好きだ……お前が思っているよりずっと、私は……お前が好きなんだ」
「ん、嬉しい、俺も……お前のこと好き……大好き」
離した口唇の傍で囁き合って、もう一度重ねる。こんなに簡単なことだったのに、どうして今まで口にしていなかったのだろう?
「俺が女の子たちとお茶すんのはさ、情報収集でもあるんだよね。女の子っておしゃべりだからさ、俺らの気づかないとこまで気づいてたりすんの」
こつりと額がぶつかる。
「だけど、お前が嫌ならやめるよ?」
多分に趣味も含まれているのだろうが、ハーノインの言うことは理解できた。イクスアインは少しだけ視線を泳がせて、答えた。
「お前が本当に想っているのが私なら、構わない」
もう本当の想いの強さを知った。嫉妬はするだろうが、ハーノインの中に必ず自分がいることを考えれば、些細なことのように想った。
「ハーノ、私は……カイン大佐を尊敬している。私たちは
あの方に助けられた。報いたい気持ちは強い」
「……分かってる。そのために訓練耐えたの、知ってるから」
「もし大佐かお前かを選べと言われたら、大佐を選ぶかもしれない」
イクスアインは、アードライに訊ねられた問いに答えを出す。その時になってみないと分かりはしないが、可能性はゼロではない。
「……そっか…」
ハーノインの顔が、寂しそうに翳ったのを見てしまう。それは当然だろうと思った。
「だけど、ハーノイン。この先お前以上に愛しく想う相手など現れないと断言できる」
ためらいも臆面もなく言い放ったイクスアインに、ハーノインは目を見開いた。
「お前が愛しい……ハーノ」
飾る必要のない、素直な気持ちだ。どうか届けばいいと、イクスアインは指先でハーノインの頬に触れる。ハーノインはその手をぎゅっと握りしめ、
「バカ、そういうのは……俺に先に言わせろよッ……」
悔しそうに幸福そうに、口づけた。
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