- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.53, No.52, No.51, No.50, No.49, No.48, No.47[7件]
少年の秘密-004-
「スガタは、本当にワコのこと大事なんだな」
ワコを送り届けて、タクトはスガタとふたり、歩く。
「今日はそればかりだな、タクト。まるで言い聞かせているみたいだ」
そうかな、と思い出して、そういえばそうだったかもと困ったようにタクトは笑う。
「ワコと僕が許嫁同士だってことを、気にしているのか? 恋愛は自由だと、僕は思っているんだけどね」
スガタは自嘲気味に笑う。
親が決めた許嫁という関係に、どれほどの意味があるのだろう。相手がワコでなければ、監視の目を振り切ってでも、とっくにこの島から逃げ出していただろうとは、思うけれど。
「お前は、ワコが好きなのか?」
「好きだと思うよ」
「そうか」
予測していた答えだ。スガタはタクトの素直さを羨ましく思う。
「ごめんスガタ」
立ち止まり、タクトは満点の星を見上げた。そうされたスガタは意味をはかりかねて、三歩先でタクトを振り返る。
恋愛は自由だと、行ってきたはず。ワコとはまだ何も誓いを交わしていない限り、制約など亡いはずなのに。
「僕に謝らなきゃいけないようなことをしたのか? …あのミズノとかいう女のことか。確かに、ワコ以外の女といるところを見るのは気にくわない」
「僕がちゃんとワコを守れていたら、お前がザメクとアプリボワゼする必要はなかった」
死ぬかもしれないと分かっていてもなお、スガタはワコを守る為に王の柱を発動させた。
「なんだ、そんなことか」
スガタはゼロ時間の中で目覚め、結果的には現実世界で再会もできたけれど、歴代のザメクのドライバーと同じ運命をたどることだって、充分あったのだ。
「お前が自分の弱さを嘆くなら結構だ。僕は僕の意志で戦う」
スガタは静かに、目を細める。
ザメクのスタードライバーになった者の末路は知っている。だからこそ、その一度きりの発動はワコを守る時だと決めていたのだ。
「お前が弱いのは知っている。だけどそれを僕に押しつけるな、タクト」
目が覚めた今、生きていることに感謝はしている。死にたくなどはなかったが、この命はワコにくれてやるものだと思っていた。
だけど今、こうして生きている。
ツナシ・タクトとこうして言葉を交わしている。
「お前も、あの力を使うなと言うんじゃないだろうな」
「…言わないけど、思ってる。ワコの、あんな涙を見るのはもうごめんだよ」
自分では止められない。シンドウ・スガタでなければ、駄目なのだ。
「使うななんて言わないよスガタ。僕がお前の力を借りなくてもいいくらい、強くなれば、それでいいだろ?」
不敵に笑うタクトに一瞬、スガタは目を瞠る。
「僕はワコが好きだし、スガタにも生きててほしい」
そのためならきっと、どんなピンチだって切り抜けてみせる。
それは強い意志で、スガタを突き刺してきた。
「……タクト、お前は今、ワコが好きだと言ったな。その言葉をどこまで理解している?」
どこまでって、とタクトはスガタの言葉をなぞる。
好きだという言葉に、いろんな種類があることくらいは知っている。
どういう意味だろう?とタクト自身が首を傾げた。
友達として、大好きだ。
仲間として、大好きだ。
それは、スガタに対しても言える。
守ってやりたいと、望むならこの島から出させてやりたいと思っている。
それも、スガタに対して言える。
「……すぐに答えられん程度の想いか。話にならないな」
「僕は二人とも大事なだけだ! だからっ……だから、三人でいられたらなって……思っただけで」
「だから僕を受け入れたのか?」
ザァと風が吹く。
スガタが何のことを言っているか明確に理解していて、それでもタクトはすぐに答えることができなかった。
「だから、僕に抱かれたのか?」
「スガタ、僕は」
タクトはすぐに答えることができない。
どうしてだろう。あんなに素直に、シンドウ・スガタという男を受け入れてしまったのは。
そうしているのが自然で、むしろどうして今まで別々のものだったのだろうとさえ感じたように思う。
肌に触れているのが気持ちよくて、あまりにも自然だったから。だから、特別なこととして認識できなかったのだ。
「でも……スガタだってワコのこと大事だろ…?」
「ああ。ワコだけが大切だ、この先ずっとな」
揺るぎない意志だ。そこまで強い意志を貫き通せるから、王のシルシを受け継いで、ザメクを発動させながらも生きていられるのか。
「僕はワコのためなら命を懸けられる。だがタクト、お前の為に命は懸けられん」
その命は、一人の少女のためのもの。同時に二人へは、捧げてやれない。
スガタはワコを大切だと言いながら、タクトを自分のものにした。
「言い訳めいた言葉だな、スガタ。僕は別に、気にしてない……友達だろ、僕たち」
まるで浮気の常套文句のようだ。だけどタクト自身、それ自体をあまり気にとめていない。
「僕もお前もワコが大切で、僕はスガタが大事だ。変わらないよ…」
初めて体を重ねた相手が同姓だなんて、それはやっぱり誰にも言えないけれど、スガタを責めたり嫌いになったり、そんなことは考えたりもしていなかった。
スガタがいなくなることだけが恐ろしい。三人でいられなくなることが、いちばん怖い。
「僕の命はワコのものだ。お前には何もやれん」
「命なんていらない、スガタはそのままでそこにいてくれたらいいんだよ!」
「それでもお前を愛していると言ったら、どうする、タクト」
歩きだして、スガタを追い越すかどうか、といった瞬間、すぐ真横で聞こえた声に足が止まる。
「…………愛!?」
思わずスガタを振り向いて、聞き直した。
「愛してるって、それ、……LOVEってこと?」
「そうだな。自覚をしたのは今日だが」
逸る心臓、たぎる心、嫉妬にそらす視線、そらしたくない目線。
「僕を好きだから、抱いたのか?」
「どちらが先かわからないけどな。好きだから抱いたのか、抱いたから好きになったのか。だけど今日……お前を見ていて思った」
スガタの腕が伸びてくる。頬を包む手のひらは、いつもより少し暑い気がした。
「出逢った時から興味を持っていたのは、お前が…お前だったからなんだ」
体ひとつで本土からこの島に来て、なにを企んでいるのか、最初はそれだけを気にしていた。何かあるはずだと。
まさか銀河美少年だとは思わなかったが、あの時の胸騒ぎは、スガタが受け継いだシルシが共鳴していたのだろうか。
「タクト、どうして拒まない。僕はこのまま、お前をどうにでもできるんだぞ」
両頬を包まれたまま、至近距離で言葉を紡ぐスガタを、タクトはただ見つめているだけだった。
沈黙が訪れる。
それなのに視線の交錯は途切れずに、いつしか引かれあっていった。
――――スガタ……。
瞼が落ちる。
口唇が触れる。
髪が、互いの頬に触れる。
「なあ、スガタ」
――――僕はワコを守るためにここに来て、お前に出逢うために生まれてきたのか…な。
離れた口唇が最初に紡いだのは、罵倒でもなくまた愛の言葉でもなかった。
「ワコには、言えないな」
どうしよう、と困ったような困ってないような口調で、タクトは頬をかく。
「ワコを泣かせるなよ、タクト」
ふ、と笑ってスガタは歩き出す。その言葉には若干抗議をしたくて、タクトは後を追った。
「ワコを泣かせるなって、スガタに言われたくないよね」
いちばん泣かせているのはスガタのくせに。
それは口に出さないで、視線だけで訴えてやる。
「さて、どうするタクト」
「え?」
道が分かれるところでスガタは、ぴたりと立ち止まる。タクトは不思議そうに、振り向いた。
「向こうは学園の寮。こちら側は僕の家だ」
どちらへ行くもお前の自由、という余地を残しながらも、スガタの視線はそうは言ってない。
「来いよ、タクト」
「無断外泊って、なんかペナルティなかったけ」
すくめた肩はイエスのシルシ。
二人はそれから、一言も交わさずにシンドウ家へと進路を取った。
#STARDRIVERー輝きのタクトー #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク
少年の秘密-003-
「ありがたいねえ。シンドウ流古武術の師範代に、わざわざ稽古付けてもらえるなんて」
タクトはそう言って、木刀を二本構える。
袴を着こなすあたり、やはりそれなりに心得があるようだと、スガタも正の構えでタクトを見据えた。
「気をつけろ、僕のは少し長いぞ」
「では、……遠慮なく」
道場に、ピンと張り詰めた空気が流れる。
視線が外せない。
もとより武人たるもの対峙する相手から視線など逸らせないが、スガタはこの時、改めて自覚したものがある。
―僕は間違っていない。
ガッと木刀が鳴る。本当になんの遠慮もなく二刀を振るうタクトに、歓喜で背筋がわなないた。
―間違いない、タクト……!
武者震いに限りなく近い何かだ。いや、これは、そのものと言ってしまっても良いだろう。
こんな高揚感は今まで感じたことがない。
古武術とは言ってもこの島の住民ではもう、手合わせする者さえいない。
メイド兼監視役のあの二人とは、たまに刀を交わすが、どちらとも本気にはなれなかった。
見物と称してスガタを監視している二人のメイド。彼女たちはスガタが「第一」ではあるが、それよりももっと大切な「ゼロ」の使命がある。
責めたい気持ちが、ないわけではない。
だがそれも、今はどうでも良いことのように感じられる。
いつものつきまとうような視線さえ、感じられない。
代わりにと言ってはなんだが、タクトの突き刺さる視線が心地良い。
遠慮のない、攻撃的な瞳。何に対してもまっすぐな、少年の瞳だ。
―だが、まだだ……足りん!
タクトの木刀をなぎ払い、のど元への一突き。ワコたちの息を飲む音が、聞こえてきた。
「お、見事……、けど、二度目はねえぜ!」
寸止めで突いた木刀の先端。
揺るがない切っ先に、タクトは瞬きをできずにいたが、ひるんだりしてはいけないという教えか、はたまた本能か、それでもスガタを睨みつけた。
「次は払えるってか? だが、戦いに二度目はない」
「おいおい、これは稽古だろう?」
稽古にしては、目が真剣だったなと、スガタは言いかけて止める。
いや、止めさせられた。
空気の流れが止まる。時間が止まる。
実際どうなっているかは分からないが、それはモノクロからの始まりだった。
「ゼロ時間っ……!」
ワコが立ち上がる。隣のジャガーとタイガーは、その瞬間に時を止めたままだ。
誰かがサイバディを発動させている。
三人は、息を潜めた。
ここ、ゼロ時間の空間に来られるのは、選ばれた者のみだ。シルシを持つ者、仮面で空間にシンクロして入り込む者。
「そろそろ来る頃だと思ってたぜ」
タクトは、陰を振り仰ぐ。敵のサイバディはすべて破壊すると決めた。
迷うことはもう、ない。
「アプリボワゼェエッ!!」
タクトのシルシが青白く光る。そうしてタウバーンに乗り込めば、あとは敵を倒すだけだ。
現在、唯一第三フェースの発動が可能なサイバディ・タウバーン。
この島に来て、タクトは出逢ったのだ。
少女と、少年と、そしてサイバディ。
聞かされていた運命と同じ。だけど、こんなにも心が震える者だとは思っていなかった。
与えられた運命だ。
だが、タクト自身が選んで、決めたものだ。
ワコとスガタを振り仰いで、
―間違ってねーよな、じいちゃん!
少年は二本の剣を引き抜いた。
「確かに、二度目はなかったな」
敵のサイバディを破壊したタクトを見下ろして、スガタは呟く。
そうして通常時間に戻ってきた三人は、ほうっと息を吐いた。これから戦いはもっと激化していくだろう。今はこれで済んでも、敵のフェーズが上がってしまったら、その先は分からない。
―もっと……強くならなきゃ。これが俺の運命なら、そこで生き抜いてやる。あのふたりを……死なせたくない。
タクトはワコとスガタを見やり、改めて思う。
敵のサイバディが全部なくなってしまえば、きっとワコはこの島を出ていける。
スガタだって、シルシに縛られることなく生きていける。
―そうだろ、じいちゃん。
「タクトくん、どんどん強くなっていくよね。敵だって、いろんなもの使ってくるのに」
「それでもまだ、僕には敵わないけどね。ワコ、もう遅いよ。送っていく」
ワコは不思議そうに、でも嬉しそうにタクトの勝利を喜ぶ。スガタは相変わらず手厳しいが、認めてくれてはいるようだ。
着替えてくるよと背を向けるスガタを、タクトも追いかける。
「僕もいくよ。ワコを送って、そのまま帰る」
「えっ、いいよいいよ、私一人で大丈夫だし」
「駄目だよワコ。夜道を女の子一人じゃ歩かせられない」
特にきみはね、とスガタは付け加えて、ジャガーとタイガーにワコを頼むよと笑ってみせた。
「なあスガタ、敵も……見境なくなってきてないか?」
「焦りもするだろう。タウバーンどころか、王である僕のザメクも敵に回しているんだからな」
私服に着替えながら、タクトは俯いた。
スガタのサイバディは、現存している中で最強と言われている。王のシルシを受け継いだ者の名として、彼はスガタと名付けられた。
もし、シルシを受け継いでいなかったら、彼は何という名前だったのだろう、と想像して、スガタ以外に思いつかないなとタクトはひとり、笑う。
「なんだ? タクト」
「いや、スガタはスガタだなあって思って。お前で、よかったなって」
本当にそう思うよとタクトはスガタを振り向く。
スガタもワコもタクトも、逃れられない運命を背負って生まれてきたと言うのなら、それは受け入れてやろうとタクトは思う。
だけどいつか出逢うはずだっただろう仲間が、この二人でよかったと、心から思うのだ。
「逢えて、よかったよ」
「僕はお前ほど割り切れていない。時々お前がうらやましいよ、タクト」
着替えを終えて、スガタはワコの元へと向かう。タクトは慌ててそれを追って、玄関先でぶーたれながら待っていたワコに笑った。
「そんな顔するなよワコ、僕たちはきみのこと守りたいんだから」
仕方ないなあとなだめながら、ワコの家へ三人で向かう。そんなに遠い距離ではない、一人でだって帰れるのにといまだにワコは気にしているらしい。
敵だって、一日に何度も攻撃はしかけてこないだろう。だがそれでも、油断は禁物なのだ。
「ワコ、自覚をしてくれ。狙われているんだってことを。きみは一人で戦うことはできないだろう」
「スガタ! 言い方ってもんがあるだろ!」
「それでもワコを守るのは僕の意志だ」
分かってるな?とスガタはワコを見やる。ワコはひとつ瞬きをして、分かってるよと小さく頷いた。
#STARDRIVERー輝きのタクトー #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク
少年の秘密-002-
三人で登校する時はいつの間にか位置が決まってしまっている。ワコを挟んで左右にスガタとタクト。両手に花状態のワコは、他の女生徒からそれは羨ましがられていることだろう。
「タクトくん今日はなんか元気ないね。何かあった?」
「えっ? え、……そうかな」
ひょいとのぞき込んでくるワコに、タクトはなんと答えればいいのかわからない。
気分が沈んでいるのは自覚していたが、そうなる理由がわからなかった。
「具合が悪いのなら、無理に学校いくことないぞ」
「……平気だよ」
体調が悪いわけではない、とワコを通り越してスガタを睨む。確かに体中が痛むけれど、動けないほどだとは思えない。
その痛みを与えた張本人は、知らんぷりで前だけ見据えていた。
そこにいたから抱いたなんて、いけしゃあしゃあと言ってのけた、王のドライバー。
「あまりワコを心配させるなよ」
「スガタくんが言える立場かなあ?」
私まだ怒ってるんだけど、と歩道の真ん中で詰め寄られて、スガタは珍しく視線を逸らして肩をすくめた。
気分が沈んでいる理由は分からない。
スガタを責めない理由も分からない。
だけど、自分のいちばんの望みは、分かっているつもりだった。
「スガタ、今日放課後…空いてる?」
「特に予定は入れてないが…稽古のことか?」
「話があるんだ。稽古の後でいいから、時間空けといてくれよ」
分かった、と返ってくる。それ以上は一言も交わさないで、学校へと向かっていった。
放課後、演劇部・夜間飛行の活動は、活動であって活動でないようなものだった。
まだ企画段階であって、どんな話なのか、どんな演出なのか、どんな配役なのか、それさえ決まっていない。
ただ、スガタとタクトの魅力を全面に引き出したもの、ということだけだ。
きゅ―う。
「あっ、副部長!」
演劇部の大事な一員が、お散歩から帰ってきた。一人、珍入者を連れて。
―あれ、あの子。
可愛らしいピンクの髪が見える。タクトは目をしばたかせた。
「おお、お~っ」
「イイねえ、あなたオーラ出てるぅ」
副部長につられて体ごと視線が動く少女は、どうやら可愛い狐が珍しくて仕方ないらしい。
まあ、疑問は多々あるだろう。なぜこんなところに。なぜ部員…しかも副部長なのか。学校の許可はあるのか。エトセトラ。
「名前は?」
部長であるサリナが、少女に訊ねる。
「一年二組のミズノちゃん」
すかさず、タクトが声を投げかける。部員の視線が、タクトへと集まった。
「やあ」
「タクトくんだあああああ!」
少女は素早いモーションでタクトの隣に陣取った。腕の中の副部長は、苦しそうにもがいている。
「あれ、すでに仲良し?」
「今朝ちょっとトイレで一緒に。ねーっ」
不思議少女と名高いミズノと、青春バカ美少年が急接近などとは、校内でセンセーションを起こすに違いない。
「トイレで一緒に?」
「トイレで一緒にぃ?」
「大胆だな」
「トイレで何したの?
「ちがっ、そういう意味じゃ!」
あからさまに軽蔑する女子の視線、驚きを隠せないようなスガタの視線、キラキラオーラ満載のミズノの視線。
タクトは居場所がなくなって、助けを求めるようにスガタを見やる。
ジャガーやタイガーと日常的に接している彼なら、きっとこういう時の対処も慣れているだろうと。
だけど、一瞬重なった視線は鋭く、ビクリと肩をすくめた。
―な……に、今の。なんか怒ってねぇ…?
すぐに逸らされてしまった視線は、それ以降重なることがなくて、それがタクトには落ち着かない。
すぐ隣ではワコと楽しく話しているのに、その声が自分に向けられることがない。
許嫁同士だからという、そんなレベルの話ではない。
明らかに【タクト】をシャットアウトしているように感じられた。
ドクンと、心臓が鳴る。
喉を通っていく唾液が、いつになく熱く、痛いように思う。
スガタとワコの声が頭の中に響いて、ぐらぐらと視界が揺れる。喉を押さえても、熱さも痛みも変わらない。こめかみを、汗が通った。
「タクトくん? タクトくん大丈夫? どうかしたの?」
「え、あ、いや大丈夫だよミズノちゃん、なんでも」
「お熱かなあ?」
なんでもない、と言いかけたタクトは、グイと引き寄せられて固まった。
すぐ目の前に、少女の鼻先。ぶつかる額。ガッチリと抱かれた頭。
「たっ、タクトくん…!」
ガタリと、椅子が鳴った。
ワコは思わず体を引く。二人の正面にでもいれば、違うと分かるだろうが、タクト側から見てしまうとそれは、情熱的なキスのように映った。
スガタは目を瞠り椅子をぎゅっと握る。ざわりと走った不快感の正体には、薄々感づいていながら、それと認めたくはなかった。
「熱はないみたいだね」
「えっ、あ、う、うん」
不意に離れていく少女の体。ミズノはえへへと笑い、またちょこんとタクトの隣に座り直した。何もなかったように。
―女の子って、やっぱりいいにおいがするんだなあ。
思って、ふるふると首を振った。
「ミズノちゃん、演劇部入る? あのね、俺も入ってんだけどさ」
「入るー!」
一も二もなく、ミズノは答える。それはきっと、恋する乙女のドライブ。
分かりやすいなあと、感づくものがひとり、ふたり、さんにん。
タクトに急接近してきた女の子に、内心面白くないものがひとり。
なんでもないように振る舞うものが、ひとり。
「部員、増えてよかったな」
スガタはそう呟いて微笑む。きっとスガタに好意を持っている女生徒が見たら、昇天してしまうだろう。
「スガタくん、何か機嫌悪い?」
「どうして? ワコ。僕はいつも通りだよ」
「スガタくんは時々平気で嘘をつくからなあ」
そうだったかな、と笑う。巫女などやっていると、人の真実まで見えてしまうのか。
それとも、スガタのことだから分かるのか。
タクトは、そんな二人を眺めて複雑な気分になった。
「タクト」
「えっ、あ、なに?」
見透かされたわけでもないだろうに、タイミング良くというか悪くというか、スガタに呼ばれてタクトは慌てる。
「稽古つけてやるって言ったろ。これ以上遅くなると、帰れなくなるぞ」
「あっ、ああそうだった! ……て、どんだけシゴかれんの僕…」
がっくりとうなだれるタクトに、
「僕がいいと言うまでだ」
スガタは笑って追い打ちをかけた。
彼の笑顔は怖い。内に何を潜めているか分からないのだ。
あの笑顔を前にして、自分の考えていることをを素直に言えるだろうかと、タクトは項垂れた。
「じゃあ今日は解散しとく? えぇと…ミズノちゃんだっけ。明日も来れる?」
来ますー! と嬉しそうにミズノは両手を高く挙げる。少しでもタクトの近くにいたいのだ、とありありと分かるオーラが、放たれていた。
タクト本人が、それに気づいているかは別として。
スガタはそんなミズノを一瞥して、目をそらした。
#STARDRIVERー輝きのタクトー #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク
少年の秘密-001-
少年は、人に言えない運命を持っていた。
いつか出逢う、大切な誰かのために、誰にも言えないヒミツを持っていた。
ぱしゃんと湯が鳴る。程良い温度は、疲れた体を癒してくれた。
「ゼイタクだよなぁ~、朝から温泉なんてー」
「この島の風呂は、ほとんどが温泉だよ」
タクトは、視線だけでスガタを見やり、そしてぐるりと目を走らせる。
本当に贅沢だ。こんなに広い温泉が家にあるなんて。スガタの家だから、と言ってしまえばそれまでのような気もするが、やっぱり羨ましかった。
「いいよな、この島」
「このシンドウ家に生まれなければな」
スガタは自嘲気味に喉を反らせ、縁に頭を乗せる。濡れて艶めく青の髪に、心臓が揺れた。
―やっぱり綺麗な顔してるなあ、スガタは……。
他意はなくそう思って、視線で追う。
濡れた髪、滴の残る額、つんと天をさす鼻筋、薄い口唇、白い肌。
学園の女子たちが騒ぐのも無理はないと、素直に受け入れてしまえる説得力だ。
「タクト?」
「えっ、あっ、何でもない!」
視線に気がついてか、スガタが振り向いてくる。そこでやっと自分の目線を自覚して、慌ててそっぽを向いた。
なんだ?と思いつつ、スガタはタクトの体の線を眺めた。
自分よりも少し色のついた肌。クセのある髪。発達途中ながらも無駄のないラインは、思わず触れたくなってしまう。
「ぼっちゃま、お背中お流ししましょうかー」
ドアの向こうから声をかけてくるのは、シンドウ家のメイドである。
「いっ?」
スクールメイトで、同じ演劇部で活動する仲間でもあるけれど、限りなく一般庶民であるタクトには、その忠義は理解しがたい。
「いや、今日はいいよ」
「はーい」
入ってくんの!?と驚きと期待で出入り口を振り向いたタクトに、スガタは笑う。この年の男子としては、タクトの反応は正常なものだろう。
「ん? ……今日はって、言った」
安心とがっかりが、タクトのため息に混じる。スガタの返答が引っかかって、眉を寄せた。
「……いっつも、流してもらってんのか?」
シンドウ家では、それが日常なのだろうか。そういえば、あの二人が声をかけてきても、スガタにあわてる様子はいっさいなかった。
「ん? ……ああ、そういう教育受けてるからな、あの二人は」
別に興味もなさそうに、スガタは答える。スガタにしてみれば、そんな日常に疑問を抱かれるとは思っていなかったのだ。
「僕はそういうの、やっぱり分からないな。ワコは……知ってんのか?」
「ワコ?」
「だって、お前の許嫁だろ! ま、万が一間違いとか……あったら、気分良くないと思う」
ぷいとそっぽを向くタクトに、スガタはあからさまに肩を揺らして笑った。
「心配しなくても、タクトが思ってるような間違いは起きないさ」
シンドウ家は、島の巫女の誰かと結婚するしきたりがあるのだと聞いた。
それでどうしてスガタとワコなのかと聞いてみたい気もするが、そうしたところできっと、親が決めたことだと言うに決まっているのだ。
「僕があの二人とどうにかなることはないし、ワコとどうにかなる予定も、今のところはない」
「今のところって」
今後は分からないということか、と眉を寄せるタクトに、スガタはため息をついてみせた。
「タクト、巫女という属性を理解しろ。本来巫女というものは、常乙女でなければならない」
「え? ……あ、」
ごめん、と呟く。
そんな制約があるからなのだろうか? 二人は目に見えて大切に想い合っているように見えるのに、どこか遠慮がちに接しているのは。
「だから、たとえ僕がワコを抱きたいと思っても、穢した瞬間にこの世界は破滅だろうな」
巫女は巫女でなくなり、封印はどうなるか分からない。最悪、サイバディの暴走だってあり得るのだ。
互いに好き合っているのに、うまくいかない想いが、世界中に溢れている。
けれどスガタにとってはそれが通常で、
「そういう間違いが起こらないようにもずっと、監視されてるわけだしね」
タクトにとっては異常だった。
きっとこの二人に比べたら、自分が諦めてきたもののなんと単純なことだっただろう。
「タクト、背中流して欲しかったのか? 呼び戻そうか」
「い、いいよそんなの! 恥ずかしいだろ!」
「恥ずかしい?」
「だっ、だってカノジョでもない子に、裸なんて見せらんないし!」
頬を真っ赤にしたタクトが振り向く。髪よりも赤く見えて、面白い小動物でも見ているような気分になった。
「僕はいいのか?」
スガタの静かな声に、タクトの肩がビクリと揺れる。
わざと意識しないようにしていた話題を、突然、なんの前触れもなく持ち出されて。
「あ、あのさあスガタ、昨日のって」
「なかったことにはできないぞタクト。お前は僕に抱かれた」
「わあああああ言うな! それ以上口にするなスガタ!」
思わず、スガタの口を片手で覆う。
「あっ……」
手のひらに口唇が触れて、ハッとして慌てて離した。
ゆっくりと横に移動して、スガタと距離をとってみても、事実は変わらない。タクトは顔を真っ赤にして俯けた。
ドクンドクンと心臓が鳴る。
忘れたわけではないのだ。
そしてまた、忘れたいわけでもない。
昨夜、スガタと繋がったことを。
「と、友達だよな、お前とは」
「何故?」
「だっ、だってお前はワコが大事だって言った!」
言われなくても分かる。
見ているだけで充分、スガタがワコを大切にしているのは分かる。
「そうだな、それは変わらん」
ひどく真剣な顔で、スガタは答えた。握りしめたこの拳を、タクトはどうしたいと思ったのだろう。先日みたいになぐりつけてやりたかったのか。
「僕はワコが大事だ。この先ずっと、それが変わることはない」
「ああ、分かるよ」
だけどどこかでホッとした。
ワコの涙はもう見たくない。
大事じゃないなんて言ったら、ぶん殴ってやろうかと思ったけれど、その意志は揺るぎないようでホッとする。忍ばせたナイフはワコを守るためだったと知って、安心していた。
「スガタはワコが大事で、大切にしてて、でもそれをちゃんと言ってやれない大馬鹿ヤローだって知ってる」
そんなのはもう、今さらだ。
タクトはそう言って、スガタを振り向く。
「なんで、僕を抱いた?」
怒りたいのではない。責め立てたいわけではない。スガタがワコを泣かせないのであれば、他のことはどうだっていいような気がしていた。
「僕も訊きたい。何故僕に抱かれた? タクト」
視線が交錯する。さぐり合う意味でなく、逸らせない視線に心臓が逸る。
「質問に答えろよ」
「そっちこそ」
抱き合った事実は消せない。胸にある、このシルシのように。
視線が数秒絡んだその時、
「スガタくんタクトくん、おはよう」
ドアの向こうからさわやかな声が聞こえて、タクトは思わず肩まで浸かり込む。
それにさえ慣れているのか、スガタはああおはようと返すだけだった。
「タクトくん、昨日泊まってったの?」
「あー、うん」
「やだ、男同士で、もう、やらしいっ」
「な、なんでやらしいの……」
ワコは冗談のつもりで言ったのだろう、和ませるために違いないのだ、ちっとも和まないけれども。
なんと返していいのか分からないタクトを眺め、スガタはおかしそうに肩を揺らす。
「そろそろ出るよ、ワコ。着替えを見たいなら、そこにいてもいいけど」
「えっ? もー、馬鹿なこと言わないでスガタくん!」
私食卓行ってるね、と慌てる様子に、スガタはふっと笑った。
「あんな可愛い許嫁いるくせに」
「なんだよタクト、僕に責任をとれとでも言いたいのか?」
脱衣所で、タクトは自分の体に散らばるキスマークを見つけてため息をつく。
「僕はお前の愛人になる気はないんだよね」
「ただれた青春だな。僕はそれでもいいけれど」
「ふざけんな」
これでは胸の開いたシャツは着れないなと、眉を寄せる。まさかワコの前にこの体をさらす訳にはいかないだろう。
「今はまだ、成り行きだったとしか言えないな」
着替えを終えて出て行くスガタが、不意に呟く。タクトは思わずその背中を振り向いた。
「えっ?」
「さっきの質問に対する答えだ。お前が僕の傍にいたから……だから抱いた」
特に理由なんかない、というスガタの静かな声。言葉の意味を捉えればなんて酷い男だろう、とは思うが、タクトには責めるつもりもない。
ふるふると首を振ると、まだ少し濡れた髪から、雫が落ちる。タクトは手櫛で髪を整えて、スガタの後を追った。
―あんまり覚えてないんだよな。スガタがどんな風に僕を……抱いたのか。
覚えていないのに責められるものか。
ただスガタの口唇が重なって、手のひらがあって、熱くて痛くてしょうがなかったことくらいしか。
「タクトくんどうしたの? あんまり食欲ないみたいだけど」
「え」
テーブルを隔て正面に座る少女から、声がかかる。タクトはハッとして顔を上げた。
「食べないんなら、私がもらうよ?」
「だっ、大丈夫だいじょうぶ、なんでもないよ」
心配してくれているのか、食欲がありすぎて気になるだけなのか。
タクトは作り笑いをしながらオムレツを口に運んだ。
「ふふ、ワコ、足りないならおかわり持ってこさせようか」
「あっ、ううん大丈夫!」
ワコはスガタに向かってぶんぶんと手を振る。やっぱり仲いいなあと、タクトは羨む意味でなく素直に思う。
そういえばあの誕生日プレゼントは、無事スガタに渡せたのだろうか。また何か、別の理由をこじつけて。
「ねえ、もうあの力は使わないで」
責めるワコの声音に、タクトは視線をスガタに移す。スガタがあの力を解放しながらも目覚められたのは、奇跡だったのだろうか。
「次に使ったらその時は、今度こそ目覚めないかもしれない」
ワコの声は強くて、弱い。
スガタに無事でいてほしい。その想いがそうさせるのかと、タクトは瞬きひとつ。
―スガタが眠ってしまうのは……イヤだな…。
「タクトひとりで、ワコを守れるとは思えないんだけどね」
急に話を振られて顔を上げる。
「……言うねえ、決着つけるかぁー?」
ゼロ時間の中でぶつかり合った拳に、決着がついたとは思っていない。
むしろそこがお互いのスタート地点で、ワコへ向かう気持ちの強さを知って、ホッとした思いの方が大きかった。
「決着じゃなくて、稽古をつけてやるよ。さ、学校に行こう」
「え? ……ああ、今日は月曜日か」
そういえばそうだった、とタクトは慌てて朝食を胃の中へと収めた。
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少年の秘密
練習台じゃなくて。
「それで、どうして僕なんだ?」
不機嫌そうなスガタの声が、タクトの耳に入ってくる。不機嫌には、不機嫌で返してやった。
「だって、女の子を練習台にするわけにはいかないっしょ~?」
スガタにしてみれば、そんなにケンカ腰に返されるいわれはない。
タクトにしてみれば、そんなに怒られる理由が分からない。
視線を逸らしたら負けだ。瞬き一つでさえ、命取りになるような気がした。
「だからって僕を練習台にするお前の無神経さが信じられん」
「キスシーンがあるって知っても平然としてるスガタの方こそ、無神経だよ」
短い、沈黙が流れる。
そうして二人ともが困ったような顔をした。
つい先ほど知らされた、劇団夜間飛行の演目、「神話前夜」には、タクトとミズノのキスシーンが盛り込まれているらしい。
いくら演技とはいえ、年頃の男女がそんな!と慌てたのはタクトとワコ。わーいタクトくんとちゅーだああと喜んだのはミズノ。興味津々で目を輝かせたのはジャガーとタイガー。
スガタは、口唇を引き結んだまま、じっとその光景を眺めていた。
「僕の気持ち、知ってるはずだよね、スガタ」
「僕の気持ちも、先日伝えたはずだけど?」
お互いの気持ちは知っているはず。
好きだと言ったら驚くほどの速さで同じ言葉が返ってきて、逆にどうしていいか分からずに、今日に至る。
恋人同士になりましょうと言えばいいのか、手をつないでしまってもいいのか、口づけを交わしてもいいのか。
「だいたいタクトは、キスなんか慣れてるだろう」
「なんで!?」
「僕が何も知らないと思っているのか? 何が青春の1ページだ」
ぐっと詰まる。スガタに気持ちを告げる前、何度か女の子と口唇を触れ合わせてきた。
自分の意思だったかというとそうでもないが、キスには、変わりがない。そのうえ、演技でキスなんて。
「そ、それは……謝るけど、だって」
「お前は隙がありすぎるんだよ。女の子に甘いだけなのか、ちょっと剣の腕が立つからって、いい気になっているのか」
一歩、スガタが足を踏み出す。距離が近づいて、呼吸さえ聞こえてきそうだった。
「……自分より強いって言ったのはお前だろ、お師匠サマ」
一歩、タクトが足を踏み出す。間隔が狭くなって、唾を飲む音さえ聞こえてきそうだった。
「お前は確かに強いさ。だけどツメが甘い……!」
「つ……っ」
伸びた手が、タクトの手首をひねり上げる。しかめた顔のほんの数センチ先で、スガタの髪が揺れていた。
「ここで僕が本気になったら、お前は抵抗できるのか?」
王の瞳に見下ろされて、タクトは目を瞠る。
そして、笑った。
「抵抗なんて、できるわけないじゃん。する意味がないんだから」
いっそ楽しみにも思えて仕方がない。そう続けたら、スガタが呆れたように笑ってくれた。
掴んだ手首をそっと放し、ゆっくりと指を絡め合う。
「練習って言ったことは、謝れ」
「うん、ごめん。僕はスガタとキスをしたい」
「最初から、そう言えばいいんだ」
「スガタこそ、妬いてんならそう言ってよ」
悪態をついて、逸る心臓をごまかして、初めて恋する人と口唇を触れ合わせる。
すぐに離れてしまったことをお互いに不満がって、笑って、長い、キスをした。
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