華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.652
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.30
#お題 #両想い
好き合っている恋人同士ではあるが、おおっぴらにくっついて歩ける環境ではない。それが少しだけ、ほんの…
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン
お題:リライト様 /「……誓うか?」
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好き合っている恋人同士ではあるが、おおっぴらにくっついて歩ける環境ではない。それが少しだけ、ほんの少しだけ、不満だ。手を繋いで歩きたい。ビルの陰でキスをしたい。一緒に部屋のカーテンを選んで、ベッドを選んで、揃いの食器をカゴに入れたい。
同性だというのは、今の日本ではまだまだ難しい。
恋人の部屋でくらいしか、体をくっつけていられない。寄りかかってくる髪にそっと口づけて、無意識に香りを吸い込む。染み渡っていくその芳香がいくらか落ち着かせたけれど、こうなると帰りたくなくなるのが困る。
「なんだよ、手塚ぁ。ずいぶんと甘いことしてくれるじゃねーの」
恋人である跡部が、それはもう楽しそうに、嬉しそうに振り向いてくる。まっすぐな青の瞳は大好きなもののうちのひとつで、答えることも忘れて見入ってしまいそうだ。
「たまにはそういう気分の時もある。俺はお前のことが好きなのだからな」
「そうかい、ありがとよ」
そう言って、跡部は頬へとキスをくれる。彼はこの環境に満足しているだろうかと訊いてみたいが、呆れられそうでなかなか音にできない。
「俺がキスしてやってんのに、なんだその顔は。頬じゃ不満だってか? ほらこっち向きな」
それが顔に出てしまったのか、キスが足りないのだと思われて頬を包まれる。顔の向きを変えさせられたと思ったそのすぐ後に、唇に跡部の唇が触れた。別に足りないとは思っていなかったが、くれるものならもらいたい。逃さないように背を抱いて唇を押しつけると、しまったというように肩が揺れた。
「そういうつもりじゃなかったんだが」
「お前が悪い」
「……このスケベ」
そう言いつつも、跡部はろくに抵抗せずに押し倒されてくれる。今日こそゆっくり彼を堪能しようと思う。
――思う、だけだったが。
随分と余裕がなかったなと、気怠そうに髪をかき上げる跡部に、すまないとだけ返す。もっとゆっくり、いつもよりずっと優しくしようと思っていたのだが、やはり失敗したようだ。幸いにも、不機嫌な様子は見られずホッとする。
「まあ、俺様だってお前に欲しがられんのは悪くない気分だぜ。外じゃあ、俺が一方的にお前を好いてるように見えるらしいからな」
「俺まであからさまにしたらいけないだろう。世間の目というものがある」
「フン、そんなものが気になるかよ?」
なる、とシャツのボタンを留めながら跡部に背を向けた。男同士である上に、跡部は財閥の跡取り息子だ。とんでもない男に惚れてしまったのは自覚しているが、彼を巻き込んでしまって良かったのかどうか、いまだに答がでない。いや、今さら駄目だったと言われても手放せないのだが、後ろめたさは残る。
「世間の反応なんかで、お前と変にこじれたくない。俺らしくないとは思うが、お前とのことに関しては、できるだけリスクを回避したい。……まあそもそも俺は表に出すのは不得手のようだが」
「本当に、テニスだとあれだけ強引で傲慢なのにな。あと、ベッドの中でも」
「………………すまないとは言っておく。だが優しくしたいと思っていることだけは知っておいてほしい」
くっくっと楽しそうな笑い声が背中に刺さる。
「これから一緒に過ごしていく中で、ちゃんとできるようにする。まだ、お前を手に入れたということで浮かれている段階なのだと思う。来月……いや、無理だな、来年くらいまではこんなふうかもしれない」
「いや、別に構わねーよ。俺を優しく抱くってのが最終目標なら、ずっと満足しねーでいい」
「それではいつまで経っても、………………いいのか?」
いつまでも優しく抱けないというのは問題があるのではないかと思い振り向いたが、その言葉の裏にある、未来を望む心が見えてしまった。来月も、来年も、その先も、優しく抱くことを追求している限りは傍にいられる。優しく抱けたと思っても、「まだだ」と思えば次につながる。満足しなくていいというのは、つまりそういうことなのだろう。
「強引でも、傲慢でもいい。お前はずっと、俺をベッドに引っ張り込んで抱いときゃいいんだよ」
「ずっとか」
「ああ、ずっとだ」
「分かった。ではそうしよう」
シーツを伝って寄ってきた手に、そっと手を重ね合わせる。そのまま持ち上げて、手の甲にキスを降らせた。それはまるで、結婚の誓いのようだ。
「なあ、……誓うか? どっか恋人の聖地にでも行って」
「聖地……そんなところがあるのか」
「法的な証しをもらえるわけじゃねえが、いいだろ。俺とお前の気持ちがあれば充分だぜ」
跡部が体を起こして座り込み、手塚が誓いを降らせた手の指を絡めてきた。まっすぐに見つめてくる瞳を逸らすつもりはさらさらなくて、手塚も絡んだ指を握り返す。
「婚姻届は出せないからな。だがお前が俺を望んでくれるなら、そこでお前に誓うか」
「ああ、お前は俺に。俺はお前に」
どちらが先に動いたということもなく、お互いの真ん中で、唇が重ねられる。触れて、離れて、触れて、離れる。
満ち足りた気分で口の端が上がったけれど、跡部の指先はぐっと衿を掴んでくる。
「ところでよ、手塚。テメェなんでシャツなんか着てんだ。帰すわけねえだろ」
「え? うわ、おい……っ」
そのまま引き寄せられて、跡部ごとベッドに逆戻り。楽しそうに笑う跡部の髪がシーツの上に散らばった。手塚のことを強引で傲慢だと言う彼だって、割と本気で強引で傲慢だ。
だが誘われたのならば仕方ないと、跡部の熱を堪能するためにシャツのボタンに指をかけた。
今回も優しくはできそうにないなと思いながら。
#お題 #両想い