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No.649
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.27
同じ都内に住んでいるとはいえ、恋人とは学校が違う。同じ中学に通っていれば平日には毎日逢うことができ…
No.649
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.27
同じ都内に住んでいるとはいえ、恋人とは学校が違う。同じ中学に通っていれば平日には毎日逢うことができ…
同じ都内に住んでいるとはいえ、恋人とは学校が違う。同じ中学に通っていれば平日には毎日逢うことができるのに、寂しい。もっとも、違う学校に通っているからこそ好敵手として対峙し、全力でぶつかり合って互いを高めあっていけるというのもあるのだが。
「その日は俺が空いてねえな。校内の企画が大詰めなんだ」
『そうか、残念だ……』
電話の向こうで、わずかに沈んだ声が聞こえる。その声にまた切なくなって、胸が締め付けられた。恋人である手塚は、あまり感情を表に出さない。顔にさえ出なくて、周りの連中はそろって「手塚は分かりづらい」と言っている。跡部も最初はそうだったが、最近は分かるようになってきた。嬉しいらしい時の瞬きの仕方、楽しそうな時の指先の行方、安堵した時の吐息の動向。眉間のしわの深さは不満度の表れで、声の浮き沈みもそのまま浮かれ具合と沈み具合だ。
しばらく逢えないのを本当に残念に思っているようで、胸をかきむしりたいほどの愛しさに駆られる。
好きだと言ったのは跡部が先だが、間を置かずに「俺もだ」と返してきた手塚とは、どうやら同じタイミングで恋に落ちたらしい。
どちらがどれだけ気持ちが大きいかなんて野暮なことを言うつもりはさらさらない。自分の方が大きいと思っても、こうして同じにされてしまう。
「手塚、お前氷帝に転入しろ。そうすりゃ逢うのもたやすいぜ」
『そんなことできるわけがないだろう、この時期に。それを言うならお前が青学に来い』
時期がおかしくなければしていたのかと突っ込みたくなる。しかし跡部の方も3年生のこんな時期に転校などできやしない。
「じゃあ、家を出たら向こうで一緒に暮らすかよ? 行くんだろ、ドイツ」
手塚が息を呑んだらしいのが伝わってくる。互いにあまり話題に出さないようにしているが、手塚は中学を卒業したらドイツに行く。テニスをしにだ。もちろん遊びで行くわけではない。プロになるためだ。
それは実に喜ばしいことで、無二のライバルとしては背中を押してやりたい。恋人としては……寂しいが、笑って送り出してやりたい。
しかし、送り出してそのままでいるわけにはいかなかった。手塚がプロになるのを静かに応援しているような男ではない。
『一緒に、というのは……』
「お互いプロになってからの方が楽かもな。互いの拠点に家買って、シーズン中にはそこで過ごすってのもアリだぜ」
『…………そうか、……楽しみだ』
お互いがプロになってからという言葉を、手塚は理解してくれたようだ。静かで抑揚がないように思える声音にも、安堵が混じっている。深く頷くような速度は嬉しさを纏っていて、跡部の方こそ安堵した。
テニスというスポーツで出逢って恋をした自分たちの間に、それは死ぬまで在り続ける。ずっと先に現役を引退したとしても、白髪の老人になった後にも、手塚国光と跡部景吾の間には、黄色いボールが飛ぶのだ。
『ベッドは一つで構わないだろうか』
「ケンカした時どーすんだよ」
『ベッドに入るまでに仲直りすれば問題ない』
あまりに当然のことのように言われて、跡部は思わず噴き出した。ケンカをしなければいいと言うのではなく、ケンカをしても仲直りする期限を設けるとは。
その発想には至らず、改めて相手が自分とは違う思考を持った人間なのだと実感させられる。そして、よく理解してくれていると嬉しくもなる。
手塚とケンカはしたくないが、それこそ別々の人間だ。意見が合わないことだって多々あるだろう。
その際不満を持たずにいられるかと訊かれたら、悩む。いくら惚れた相手だからといって、すべてを肯定するわけではないのだ。
それでもいいと手塚は言ってくれている。自分もそうなのだからと。別々の魂だからこそ惹かれるし、別々の体だから触れ合うことだってできる。
そういった考えを持つ手塚を、本当に好ましく思う。
「なあ手塚」
『なんだ』
「好きだぜ、……っていうより、愛している。俺が生涯をかけるに値するのは、この世界でお前しかいねえ」
この歳で、愛しているなんてそんな大それた言葉を吐くことになるとは、思わなかった。言わせたのは、手塚だ。本当に憎たらしくて、愛おしい。
『……お前はどうしてそう……予告なしにたまらないことを言うんだ』
「しかたねえだろ、言いたくなったんだから」
『こらえ性がないな』
「うるせえな、悪いのかよ」
言った傍からケンカに発展してしまいそうだ。今はまだ、一緒に眠るためのベッドはないというのに。この電話を終える前までには、仲直りとやらをしなければならない。
『いや、嬉しい。それに、言いたくなったから言ったというのならば、俺も堪えずに言いたいことがある』
ひどく真面目くさった声が聞こえてくる。きっと電話の向こうでは、ひどく真面目くさった顔をしているのだろう。
見たかったなという気持ちを今度は抑えて、「なんだよ」と促してみた。
『……もし、今、……すぐに逢いたいって言ったら、どうする』
慎重に言葉を選んでいるようなゆっくりとしたスピードで、手塚は「言いたいこと」を告げてくる。すぐ、とその言葉をなぞって、跡部は部屋の時計を振り向いた。時刻はまもなく0時を指す。公共機関は終わりに向かっていて、今からではとてもじゃないが間に合わない。
だが、逢いたいと言ってくれたのだ。しばらくまともに逢えないことが分かっている今、手塚が逢いたいと望んでくれた。跡部は開いていた文書ファイルを保存して閉じ、チェアから腰を上げる。
「そっち行く。待ってろ」
『来てくれるのか』
「俺だってお前に逢いてえんだよ」
こんなことなら、もっと早く素直になっておけばよかったと思う。端末をスピーカーに切り替え、跡部はローブを脱ぎ捨てる。使用人にこれから出掛ける旨を伝え、車を用意してもらった。
「プロになったら、忙しさは今の比じゃねえかもな、手塚。いい予行演習だ」
「車を出させられるそちらの使用人にしてみたら、迷惑なことこの上ないだろうな』
「今度丁寧にねぎらってやるぜ。俺は今、お前のわがまま聞くのが最重要事項だからな」
『わがままか。そうだな、せいぜい甘やかしてくれ、跡部』
着替えて、髪を梳かし、部屋を出る。通話は保ったまま、跡部は車のリアシートに体を預けた。跡部のわがままを嬉しそうに受け入れる執事に見送られるままに、運転手に行き先を告げるのだった。
#お題 #両想い