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No.624
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.02
恋人である跡部は、面倒見がいい。 持てる者の義務というか、ノブレス・オブリージュというか。 それは…
No.624
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.02
恋人である跡部は、面倒見がいい。 持てる者の義務というか、ノブレス・オブリージュというか。 それは…
恋人である跡部は、面倒見がいい。
持てる者の義務というか、ノブレス・オブリージュというか。
それは金銭的なことだったり人脈的なことだったりいろいろだが、少しも苦に感じる様子もなく他人に与える。
自身も忙しくしながらも、周りをよく見ている。数多くいるすべての使用人たちの顔と名前、誕生日を覚えていると聞いたときには、本当に同じ人間かと疑ったりもした。
そういえばテニス部でも絶大な人気を誇っているなと思い出す。
二百人からの部員のパーソナルデータ、プレイスタイルを暗記しているこの男を、ただのテニスプレイヤーとして放っておいていいのだろうか。しかるべき機関で制度や国を動かす職にでも就いた方がいいのではないかと一瞬だけ考えたこともある。そうして、考えた傍から自分で却下する。
テニスでつながっていない未来など、ない。
自分たちはテニスで出逢って、恋をして、これから先も共にいる。そこにはテニスがあるべきだ。
今日だって、一緒にテニススクールをいくつか回って指導しているくらいだ、跡部景吾はテニスから離れるべきではない。そんな傲慢なことを思っても、コートから煽るようにこちらを射貫く視線を受けてしまえば、傲慢な独りよがりばかりとも言えない。
スクールの小さな子たちに手本を見せるのではなかったか、と思いつつ、跡部景吾に誘われて受けない手などない。ラケットを握り直して、彼とネット越しに対峙した。
立ち戻っていく、中学時代の熱い試合。
あれから何度か球を交わしたけれど、惹かれるきっかけとなったあの試合はいつまでも忘れられない。それこそ、永遠にだ。
指導などそっちのけで、跡部の球を受ける。今はあまりまとまった時間が取れないことを考えると、こうして打ち合うのも久しぶりだ。
ラケットを振るう手も熱くなる。子どもたちの歓声が、あの日の歓声と重なっていく。聞き慣れた審判のコールがないのは寂しいが、ネットを挟んだそこに跡部がいればそれでいい。
ああ、彼も楽しそうにしてくれている。全力で打ち合える相手がいるのが嬉しいのだろう。それが生涯を共にすると誓い合った恋人だというのだからこの上ない幸福だ。
跡部の打った球が足元を貫いていく。油断していたわけじゃない。拾えなかったんだ。腕は落ちていないようで、嬉しい。
そんな跡部の元に、子どもたちがきゃあきゃあと駆け寄るのが見えて、ラケットを下ろした。この状態で打つわけにはいかない。
「あとべせんしゅ、すごい、今のどうやったの、ねえぼくもやりたい!」
「わたしが先! ねえおしえて、さっきの、ラケットの面が上になるヤツ!」
「おいおい落ち着け、順番は守らねえとなあ?」
はーい! と元気よく手を挙げる子どもたちと、その子らの頭を優しく撫でる跡部に、思わず口が緩む。忙しいのにスクールの指導なんてして大丈夫なのかと心配したが、いらぬことだったようだ。跡部が、請われると弱いのは知っている。
触れたいと言い出した俺に、困ったような顔をしながらも両腕を広げてくれた跡部の優しさを、俺は誰よりも知っていた。
子どもたちのフォームを順に見てやり、俺にボールを出せと言ってきて、思いっきり打ち返してやれなんて言っている跡部の、だ。
「跡部、今打った子。左足をもう少し外側に向けてやってくれ。それで大分良くなる」
「ん? ああ、なるほどね。ほらちょっと来い。ラケット振る時な、こうして……そうだ、そこ。上手いじゃねーの!」
横で見ている跡部と正面で球を受けることになっている俺とでは、視界が違う。より良くなるように指摘をしてやれば、跡部はすぐに俺の言いたいことを分かってくれる。やはりこの男でなければと、些細なことで惚れ直してしまった。
時間目一杯まで指導に費やし、せがまれるサインをこなして、ようやく車に乗り込んだ頃には、すっかり日が暮れている。
跡部は夕食をどうするのだろうか。できればもう少し共にいたいが、予定を訊いてみよう。
「跡部、この後は? 予定がなければ一緒に食事を」
「ああ、いいぜ。もともとそのつもりだったしな。お前もこのあと空いてんのは知ってる」
「なぜ俺のスケジュールまで把握しているんだ、お前は」
「ばぁか。俺の能力を甘く見んなよ」
そんなつもりはないが。
「で、何が食いたい? 和食の方がいいか」
「お前は何が食べたいんだ。確か前回も俺の好きなものだった気がする」
車の中で、助手席から跡部を振り向く。いつもは運転手に任せているようだが、たまに自分で運転したくなると跡部は言う。二人になりたいからだろうかと自惚れてもいるが、どうにもこの男は俺を甘やかし過ぎる。
「俺はなんでもいいんだよ。たまに逢える恋人の我が儘訊くのは楽しいんだからよ」
「我が儘など言ってないだろう」
「そこは言葉のあやだ。なんだよ、機嫌悪いな?」
「別に、悪くはない。少し寂しいだけだ」
ため息を吐きながらシートに体を預ける。言ってから気がついたが、どうやら俺は寂しがっているらしい。自分の感情なのにうまくコントロールできないのは情けないな。まだボールを打つラインの方が読めるし、コントロールもできる。
「寂しい? って、なんでだ。俺と逢ってんのに」
「俺だってお前の我が儘を聞きたい」
「は?」
先ほども思ったが、跡部は俺を甘やかしすぎるんだ。面倒見がいいというのは聞こえがいいが、俺も跡部を甘やかしたいんだ。だがどうすれば甘やかすことになるのか分からず、我が儘を聞いてやりたいという跡部を真似てみた。
「俺のしたいことばかりしても意味がないだろう。お前は何がいい? 何をしたい? 俺にはお前のような力はないだろうか」
「ま、待てまて、そんなふうに思っちゃいねえよ。……難しいもんだな。何がしたいかなんて、訊かれたことがあまりない」
困ったような声を出す跡部が可愛らしい。今まで与えるばかりで、与えられる側には慣れていないのだろう。俺も俺で、今までそれに甘んじてしまっていた。
「食べたい物でなくても構わない。行きたいところでも、やりたいことでも。大袈裟なことでなくてもいいんだ。そうだな、たとえばトランプがしたいとか、ゆっくりテレビを見たいとか」
「テレビはともかく、二人でトランプか? そうか、そういう……些細なことでもいいのかよ」
「なんでも。時間が足りなければ、必ず調整する」
「いや、そう大袈裟なことでもねえんだよ。今日だけでちゃんとできるぜ」
したいことを思いついたようで、ふっと跡部が笑う。俺の言葉を真似る恋人が、可愛くてしょうがない。そんな彼のしたいことというのは、いったいなんだろう。俺に叶えられるものであればいいが。
「あのよ、手塚……」
「なんだ」
「今日……ウチに泊まってくよな」
「……お前が構わなければ、そうしたいが」
「眠る時……俺を抱きしめて、愛していると言ってほしい」
恥ずかしそうに、気まずそうに口にされたその我が儘にもならない我が儘に、俺は目を見開いた。わざわざ願うようなことだろうか? 確かに俺は言葉にすることが不得手で、そういう愛情表現は……してこなかったかもしれない。
「誤解すんなよ、手塚。お前の愛情が足りねえってんじゃねえ。ただ……お前の体温と、声と……それに包まれて眠りてえってだけだ。……駄目か?」
言葉をなくした俺の心の中を察したのか、跡部がそう続けてくる。やはり安堵してしまって、そうした途端に体の奥からふつふつと愛しさがこみ上げてきた。どうしてくれようこの男。
「駄目なわけはない。どこが我が儘なのか分からんが、たまにはそうやってお前のしたいことを聞かせてくれ。俺には、与えるばかりでなくていい。我が儘を聞きたいというお前の気持ちも、よく分かった」
「いや、手塚国光からの「愛してる」なんて、とんでもねえ贅沢で、最大級の我が儘なんだがな……」
「跡部、愛しているぞ」
「……っ運転中は止めろ、馬鹿……っ」
ステアリングから滑り落ちた跡部の片手を受け止めて、コンソールの上で重ねてみる。そういえば夕食は結局どうするのだったかと思いかけたが、そんなことより跡部に触れていたい。照れて頬を染めた跡部の横顔は、日の落ちた外の景色よりずっとずっと美しかった。
#両想い #未来設定 #お題