華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.625
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.03
#お題 #両想い
肌寒い、と、跡部が脱ぎ散らかされていたシャツを足の指で引き寄せる。薄いシャツでも、羽織れば申し訳程…
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン
お題:リライト様 /月明かりの下で
favorite いいね ありがとうございます! 2025.01.03 No.625
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肌寒い、と、跡部が脱ぎ散らかされていたシャツを足の指で引き寄せる。薄いシャツでも、羽織れば申し訳程度には温かくなった。
「跡部、毛布を持ってくるから少し待ってろ」
「いい、ここにいろよ」
そんな跡部に気づいた手塚が、立ち上がってベッドの方へ向かおうとする。
跡部はそれを、気怠い手で引き留めた。
「しかし、寒いのだろう」
「秋も深まるこんな時季に、窓辺で素っ裸じゃ、そりゃあな」
くっくっと喉を震わせて笑う跡部に、だから毛布を持ってくると言っているんだがと、手塚はやんわりと手を外させる。
「鈍感。離れたくねえんだって、はっきり言わなきゃ分からねかよ?」
再び腰を上げようとした手塚だが、跡部の甘ったるい声に踏みとどまった。
「な。いろよ」
ほんの少しためらってみたものの、恋人からのそんな可愛いおねだりを、断れるわけがない。
「お前がそう言うならいいが」
手塚も上半身は裸のままで、寒くないことはないのだが、ここは跡部の好きなようにさせておこう。先ほどまでの情事で、また無茶をさせてしまったのだから。
傍に座り直すと、膝の上に頭を乗せてくる。さらりと額を流れた髪を払ってやって、そのまま少し湿った髪を撫でた。
大きな窓から、月明かりが差し込む。そのおかげで、ルームライトを点けなくても、充分跡部の体を堪能することができた。
まさか、こんな窓際で行為に及ぶことになるとは思っていなかったが、月の光で美しく照らされる跡部の肌を見られて、いつもとは違った興奮を覚えたのは、言わないでおこう。
「手塚、お前さぁ。ベッドじゃねえ方がいいのか? いつもより激しかったぜ」
「そういうわけではない」
だがしっかりとバレてしまっていた。
まあ当然といえば当然だ。欲はダイレクトに跡部に伝わってしまうのだから。
「俺は別にどこでもいいけどな。そういうことは早めに言っておけよ」
「だから、ベッド以外の方が好きとか、そういうわけではないと言っているだろう」
手塚は眼鏡を押し上げて位置を直し、窓越しに大きな月を見上げる。
「ただ、綺麗だなと思った。月明かりの下では、跡部はあんなふうに見えるのだと、いつもよりドキドキしたのは事実だな」
「フ……これも月の魔力かねえ。お前がそんなことを言うなんて。明日は雪が降るんじゃねえのか」
照れくさそうに、跡部が膝の上で目を細める。あまり気持ちを言葉にしないというのは手塚も自覚していて、もう少しくらい言ってやりたいなとは思っている。こんなことを言われてしまえば、余計にだ。
「明日の天気予報は、晴れだ」
「そうかい」
「跡部、俺は俺なりにお前を想っている。上手く言葉にできなくてすまない」
〝すきだ〟の三文字、〝あいしてる〟の五文字。
簡単なはずなのに、どうにもこの唇はそれを奏でてくれない。
それが悔しくて、寂しくて、眉が下がる。だけど跡部は、それに驚いたように目をぱちぱちと瞬いた。
「手塚……? どうしたんだお前。お前が俺を好きなことなんて、とっくに知ってるぜ?」
「それはそうだろうが、好きだとちゃんと言われた方が嬉しいだろう」
「まあ、そりゃそうだが……お前の唇は、充分俺に愛してるって言ってんだけどな」
気にしているのかと、不思議そうに首を傾げながら見上げてこられて、手塚の方こそ首を傾げた音にはできていないのに、愛してると言ってるというのは、どういうことだろう。
「ほら」
跡部は胸の上にかけていたシャツをするりとずらし、白い肌を月明かりのもとに晒した。
「この痕ひとつひとつが、お前の言葉だろ、手塚」
そこかしこに散らばる、キスマーク。胸に、腕に、鎖骨に、腹に。
「お前がそういうの苦手なのは、今に始まったことじゃねーだろ。知ってて俺は惚れてんだし、言っておくがそれは全然マイナス要素じゃない。こうして俺だけに分かるやり方で愛の言霊くれてるだろうが」
確かにめいっぱいの好意でもってそれを鏤(ちりば)めているのだが、それのひとつひとつを、跡部は嬉しいと思ってくれているのだろうか。
「お前と逢ってねえ時も、この痕見てるだけで幸福なんだ。逆に、俺はちゃんとお前を満足させられてんのか、不安にもなる」
「不安? お前がか。そんなもの必要ない」
充分過ぎるほどに満足しているというのに、と手塚は跡部の手を取って握りしめる。
好きだと想いを言ってもらえないことよりも、満足させられているのかということの方に不安を感じているなんて、思ってもみなかった。
「ずっと好きだったんだ、跡部。お前とこんなふうに過ごせるなんて、思ってなかった。俺は充分に幸福を感じている」
恋人同士になって、こんな深夜に二人きり、綺麗で大きな月を見ながら、肌に触れる機会があるなんて。こんな幸福を知ることができるのは、世界で唯一自分だけなのだと思うと、奇跡みたいだ。
「俺はやはりお前のように上手く言葉にできない。お前がそれでもいいと言ってくれるのならば、俺なりの精一杯で伝えていく」
握りしめた跡部の手に、そっと口づける。絡めた指を解くと、跡部が嬉しそうにその手で首を引き寄せてくれる。手塚は背中を曲げて、跡部は肘で上体を押し上げて、二人の真ん中辺りで唇が重なった。
「なあ手塚、じゃあ……伝えてくれよ。もう一度、ここで」
「……ベッドへは行かないのか」
「ここでっつってんだろ」
誘われて、一応促してみるものの、今度は両腕で抱き寄せてくる。
自分としては構わないのだが、風邪でも引いたらどうするのだと、手塚は小さくため息を吐いた。「そんなにヤワじゃねえ」と額をはじかれて、まあそうだろうなと跡部の体をゆっくりカーペットに横たえていく。
「やはり、綺麗だな……」
「そうだろ。さあ、好きなだけ愛してるって言うがいいぜ」
ここに、と跡部が指先でとんとん胸を叩く。
饒舌ではない手塚が、唇で伝える方法を跡部はちゃんと示してくれる。それで良いのだと分かったら、遠慮などする気が失せた。
誘われた以上、そんな気は最初からなかったけれど。
月明かりの下で、白い肌に吐息を乗せて、舌を滑らせ、唇を押し当てて、吸いついて、吸い上げる。
あいしてるの印をそこかしこに鏤めたら、幸福そうに笑う恋人から、あいしてるの音をもらった。
#お題 #両想い