No.622

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良いお年を

NOVEL,テニプリ,塚跡 2024.12.31

#両想い #ラブラブ #リクエスト

 待つという時間は、好きでもなければ嫌いでもない。 というか、時と場合と相手による、としか言いようが…

NOVEL,テニプリ,塚跡

良いお年を


 待つという時間は、好きでもなければ嫌いでもない。
 というか、時と場合と相手による、としか言いようがない。たとえば相手が時間に遅れてしまっても、正当な理由があれば怒ったりしない。部下だとすれば大事な商談だったら他の奴の手前、怒ることもある。逆に、渋滞に捕まってこっちの方が時間を守れないことだってある。まあそうならないようにスケジュールは管理してるんだが、どうしてもままならない時ってのはあるだろう。
 だから、時と場合と相手による。
 そして俺は、ことコイツに関してはほとほと甘いと思っている。
 まだ待ち合わせの場所に現れない恋人――手塚国光に対しては。
 別にな、いいんだよ。待ち合わせに遅れようが、マメに連絡してこなかろうが。アイツだって忙しい身だってのは分かってるからな。
 だがしかし、いい加減に寒い。だって冬だぜ? 12月、年末、天気予報はところにより雪、だそうだ。……手袋してくりゃよかったぜ。手塚がこんなに遅れるって分かってたら、あんなに急いで仕度したりしなかった。とは思う。
 思うが、分かってても急いじまっただろうなとも思うんだ。何しろ俺は手塚が好き過ぎる。逢えると思うだけで、気持ちが逸っちまうくらいには。
 いつからだっただろう。俺の中で手塚が特別な相手になっちまったのは。あの夏の関東大会。意識し出したのは絶対にそこからで、全国大会が終わったらなんでか自然とそうなってた。そうなってたというのは、まあ、つきあうことになったんだが、どっちが告白したとかそういうレベルじゃなくてな。
 時間があればテニスして、たまに会話もない中で読書して、メールしあったりして、ふと気がついた。あ、これつきあってんのか、って。手塚にも訊いてみたら「そうだな」しか返ってこなくて、俺たちにはそれが【普通】だったんだ。コート上で交わした球が、何よりも雄弁に想いを語り合った、それだけ。
 俺は手塚が好きで、手塚も俺が好き。そして同等かそれ以上に、テニスを愛している。それだけ分かってれば充分だった。
 手塚なら、安心して気持ちを預けられる。俺も、手塚の気持ちを全部受け止められる。
 思えば、あの年頃で運命の相手を見つけられたのは奇跡みたいなもんだ。同じ世界で、同じ目線でいられる相手なんて、この地球上をどれだけ探してもアイツ以外にいないと思う。
 それをベタ惚れと称するならそうなんだろう。盲目だと言われても構わない。
 そんな相手を待つという時間が、苦痛であるわけがねえだろ?
 まあちょっと心配するから連絡くらいこまめにしろと言ってやりたいが。
 素っ気なく『すまない少し遅れる』とだけ。今どこにいて、どれくらいで到着できそうなのか、一切分からない。
 駅前は待ち合わせスポットにもなっていて、人でごった返している。カップルや友人同士、親子連れ。みんな楽しそうな顔をしていて、今年一年が良い年だったんだろうことが分かる。その締めくくりに、大切な相手と過ごせるのは幸福だ。
 さて俺の大切なヤツはいつ来るんだろうか。
 この人混みで、無事に見つかるかという懸念は一切ない。何しろアイツは目立つ。俺が言うなってハナシだが、事実なんだからしょうがない。アイツ自身はそんなことないだろうって言うんだが、自覚がないだけだ。
 手塚のオーラはすげえんだよな。テニスしてる時もそうだが、うっかりすると気圧されそうな光に包まれてる。
 そこまで思って、ふと中学時代のことを思い出した。
 手塚がキラキラして見える。そう思っていた頃のことを。それがどういう現象だったかちゃんと理解したのは、アイツから俺がキラキラして見えると言われた時。
 何のことはない、誰よりも光り輝いて見えたのは、お互い相手が好き過ぎるからだ。恥ずかしいこと言い合ってたな、あの頃はよ。
 ガキだった、と指先でこめかみを押さえた頃、スマホがメッセージの受信を報せた。
『もうすぐ着く。どの辺りにいる?』
 待ち人はようやく到着するらしく、その字面だけでも俺の口許が緩む。ったく、どうしようもねえな。
『見つけてみな』
 俺はそれだけ返して、既読がついたのを確認してスマホをポケットにしまった。この忙しい俺様を四〇分も待たせたんだ、これくらいの意地悪はしてもいいだろ? 駅前で待ち合わせってことは変えてねえんだから。
 さてどれくらいで見つけてくれるか、と思っていた俺の視界、向こうの車線にタクシーが停まるのが見えた。この時間帯、停まるタクシーなんて何台もある。それなのに、降りた客を見た瞬間に呆れてしまった。ラケットバッグを担いでいるあたり、トレーニングから直行だったんだろう。
 けど、どうして俺の方が先に見つけちまうんだろうな。サングラス越しでさえ、手塚はすぐに分かるんだ。
 あー……あの頃と何も変わってねえな。キラキラしてて綺麗だ。腹立つくらいいい男じゃねーの、ったく……。
 手塚は、きょろりと辺りを見回している。俺を探しているんだろう。だけどすぐに、視線が止まった。道路を挟んだこちら側にいる俺を見つけて。早ぇよ。
 一応変装のつもりなのか、マスクで口許を隠した手塚が小さく頷いたのが見えた。『そこにいろ』ということだろう。逃げるつもりはねえんだけどな。
 なにせ逢いたくて仕方なかった恋人だぜ。
 手塚は近くにあった横断歩道まで移動し、信号が変わるのを待っている。マスクだけじゃ隠しきれてねえのか、近くにいる女性陣が手塚のことをチラチラと見ている。少し前に世間を騒がせたランキングプレイヤーともなれば、注目もされるだろう。……アイツには少し指導してやった方がいいかもしれねえ。
 手塚が横断歩道を渡って、こちら側に歩んでくる。距離が縮まるにつれて、俺の心音が速くなっていくようだ。
 冗談だろ、つきあって何年経つと思ってんだよ。
「遅れてすまない。待たせてしまったな、跡部」
「いや……久しぶり、手塚」
 お互い多忙な毎日を送っていて、恋人同士とはいえめったに逢えない。本当に久しぶりに電話越しじゃない声を聞いて、安堵と同時に照れくささもわき上がってくる。
「元気そうで何よりだ」
「お前もな。案外速く俺を見つけたじゃねーの」
 それが落ち着かなくて茶化してみたら、すっと目が細められた。ああ、これは何かに呆れている時の表情だ。
「お前みたいに目立つ男を見つけられないと思うのか? たかがサングラスひとつでお前の存在感が消せると思うなよ」
 なんで怒られてんだよ俺は。できるだけ目立たないようにしたつもりなんだぜ、これでも。
「それに、昔と変わっていない。お前はいつもキラキラしているからな」
 仕方ないと呆れるように手塚が肩を落とす。俺はそれを見て笑ってしまった。ついさっき、俺も同じことを考えていたせいだ。コイツ、本当に俺のこと好きすぎだろ。
「俺の台詞じゃねーの」
「お互いにどうしようもないな」
 そうだなと言いつつ、予約していたレストランへと向かう。途中でチラチラと意味深な視線を向けられるが、気にしていたらきりがねえ。手塚を見てんのか俺を見てんのか、俺たち二人を見てんのか。
 まあどっかのSNSに上げられても構わねえけど、今日は邪魔されたくねえな。
 クリスマスは忙しくて逢えなかったから、久しぶりのデートなんだ。ツリーを一緒に見られなかったのは残念だが、隣にコイツがいるなら関係ねえしな。
 クリスマスのイルミネーションも、ニューイヤーのイルミネーションも、手塚国光の輝くオーラには霞んでしまう。
「今日のレストラン、和食が美味いところにしたんだ。さすがにうな茶はねえがな」
「手配を任せてしまってすまないな。ありがとう」
「ん? お前と過ごせるならお安い御用だぜ?」
「お前は本当に俺のことが好きすぎではないのか」
「アーン? そりゃ誰より愛してるに決まってんだろ」
 否定せずに特大の愛情表現してやれば、手塚が言葉に詰まったのが分かる。慣れろよばぁか、何年つきあってんだ?


 レストランに着いて、コース料理を楽しむ。近況を報告し合ったり来年の予定を確認したり。
 あの頃はファストフードだったのが高級レストランに変わり、俺も手塚もあの頃とは髪型も変わって、背も少しだけ伸びた。
 それでもコイツとのこんな関係は、これから先も変わらねえんだろうなと思う。それが俺には心地良い。
「こたつを買った?」
「ああ、ずっとタイミングなくて、今年こそって思ってな。やっぱりいいなあれ」
「あの広い部屋にこたつか……少し愉快な光景だな」
「こたつ入って仕事するとはかどる反面、そのままそこで寝そうになる」
「風邪を引くだろう、やめろ」
 本気で怒りそうな手塚を前に、気をつける、と肩を竦めた。
「でも、おかげで仕事が落ち着いてきたから、来年は今年より大会にも出られると思う。どっかでお前と当たったらいいな」
 俺がそう言うと、手塚は目に見えて嬉しそうな顔をする。かっ……わ、いい、じゃねーの……ばか。
「公式戦でお前と戦えるのは嬉しい。そうなったらいいと俺も思う」
「ん。そういや手塚、マイアミん時また新しい技使ってたよな。あれってどういう原理で――」
「ああ、あれは――」
 手塚の顔つきが変わる。きっと手塚から見た俺の顔つきも変わってしまっているんだろう。テニスのことになると、俺たちは熱が入ってしまう。恋人同士のデートにしては色気の欠片もない会話が繰り広げられて、冷えていたはずのグラスのワインはぬるくなっていった。
 気づけば料理はデザートまで出そろって、あまり味わった記憶がない。もったいないことをしたなと思うが、俺と手塚では致し方ないところもある。テーブルでチェックを済ませ、身支度を整えた。
「手塚、このあとはどう――」
 どうする、と言いかけた頃、手塚が店の給仕を呼んだ。入店時に預けていたものを持ってきてもらったらしい。紙袋に入ったラッピングが飛び出て見えてんだけど……まさか、それ。
「手塚?」
 手塚はそれを、俺にずいと差し出してくる。
「クリスマスに逢えなかったからな」
 俺は驚くとともに、失態を犯したことを悟る。頭を抱えた。コイツ、普段そうマメな方じゃねーくせに、なんでこんな時だけ! 嬉しいけど、申し訳なくもある。
「……俺、今回何も用意してねえぜ?」
「別に構わない。体で返してもらうからな」
「はぁっ!?」
 手塚らしくねえ、って思った、けど……別にそれはそれで構わねえっていうか、まあ、恋人なんだしおかしくねえよな。たっぷりサービスしてやるか。
「中、確認してくれないか、跡部」
「開けていいのかよ?」
 手塚がこくりと頷く。割とでけぇな……と思いつつ紙袋から取り出してリボンを解く。こういうとき、指輪とかじゃねえのが手塚らしいんだよな。
 ……って、なんだこれ。おい、待て。待て待て待て。
「手塚っ、これ……」
「気に入ってくれたらいいんだが」
「……ラケット……」
 茫然とした。手塚からのプレゼントは、テニスラケットだった。たぶん、特注だ。来年からはテニスにももう少し打ち込めると言った矢先のこれだ。俺、言ってなかったよな?
「できるだけお前の使っている物に合わせたつもりだが」
「あ、ああ……うん、手に馴染む」
 重さも、ガットのテンションも、グリップも、俺の好みにドンピシャだ。さすがに何年も、……何年もネット越しに見つめ合ってきた最高の好敵手じゃねーの!
「手塚、これどこにオーダーしたんだ? 俺もお前に……」
「お前の会社だが」
 絶句、なんてもんじゃねえ。コイツいつの間に……! そうだよ、俺は自分でブランド立ち上げてプレイヤーのサポートもしてるから、ラケットの製作だったらうちでできる。
 してやられた。
 くそ、すげえ嬉しい。
「お前のブランドの物をお前に贈るのもどうかと思ったんだが、品質も素材も申し分ないと思ったからな」
「サンキュ手塚。すげえ嬉しいぜ。今すぐテニスしてえ」
「できるだろう。お前ならすぐにどこかのコートを借り切れるんじゃないのか」
 煽るように手塚がじっと見つめてくる。良い度胸じゃねーの手塚ァ!
 俺はすぐにスマートフォンで近くの系列コートに連絡をした。手塚も機嫌がよさそうで、最初からそのつもりだったんだなと思う。
「ふふ、手塚と年越しテニスなんて、贅沢じゃねーの。たっぷり体で返してやるぜ」
 店を出て、コートへ向かって二人で歩き出す。
「テニスのことだけ言ったわけではないいんだが」
 しれっとそんなことを呟く手塚に、俺の頬はボッと真っ赤になったことだろう。
 俺は相変わらずキラキラとしたオーラを放つ手塚の手を取って、指を絡めた。
 返してやろうじゃねーの、ばぁか。
「いいぜ手塚、俺様の美技に酔いな」
 コートでも、ベッドでも。



「一緒に年越しする塚跡」ということでリクエストいただきました
#両想い #ラブラブ #リクエスト