No.621

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キラキラ

NOVEL,テニプリ,塚跡 2024.12.25

#両想い #クリスマス #リクエスト

 待つという時間は、好きでも嫌いでもなかった。 だが、待たせるという状況とどちらがいいかというと、待…

NOVEL,テニプリ,塚跡

キラキラ


 待つという時間は、好きでも嫌いでもなかった。
 だが、待たせるという状況とどちらがいいかというと、待つ方がいい。そんな程度だった。
 だが今は、少しそわそわとした気分にさえなる。これは恐らく、楽しんでいるということなのだろう。
 吐き出した息が、白く視界をぼかす。手袋をしてくればよかったなと思うくらいには気温は低く、俺は本を読むことを諦めて、閉じてカバンにしまう。そうしてポケットに手を突っ込み、まだ来ない待ち人を待った。
 待ち合わせスポットでもあるこの駅前は、さすがに人でごった返している。いちばん分かりやすいスポットではあるのだが、この人混みの中で皆よく自分の待ち合わせ相手を見つけられるものだと思う。
 まあ俺はそういう心配もないんだが。
 何しろアイツは目立つ。過ぎるほどに目立つ。中学三年の平均身長よりだいぶ高いからとかそういうことではない。なんなら俺の方が高いのだからな。あの容姿では目立つのも仕方ないとは思う。あの金色の髪は自前らしく、一度目にしたら焼きついてしまうのも無理はない。だがそれでも、染髪が容易になっている昨今、珍しい髪色でもないのだ。
 そうではなくて、アイツはなんだか……キラキラしているというか、発するオーラが周りと違うんだ。だから人混みでだってすぐに見つかる。アイツが待ち合わせをここに指定してきた時だって、特に心配はしていなかった。
 もうそろそろ着く頃だろうかと腕時計を覗き込む。待ち合わせの時刻、ジャストだ。
 遅れるという連絡は入っていないから、俺は辺りをきょろりと見渡し始めた。アイツは時間にルーズな方ではないからな。
 視線を少し左に移したところで、見慣れたオーラを見つけてしまった。
 ああ、ほら、いつもこうだ。
 夜だから、余計にキラキラして見える。
 アイツもすぐに俺を見つけたようで、人の合間を縫って歩み寄ってくる。
「悪い手塚、待たせちまったか」
「いや、時間丁度だろう跡部」
 目の前まで来た待ち人は、跡部景吾。氷帝学園テニス部の部長――いや、今は次代に引き継いだのだから元部長か。
 夏の大会が終わって、俺たちは極自然な流れでこうなった。
 こう、というのは、親密な関係ということだ。つまり交際をしている仲で、今日は世間で言うクリスマス。こうして待ち合わせて一緒に出掛けることも、なんら不思議ではない。
「車で乗り付けるかと思っていたが」
「近くで降ろさせた。こんな人混みじゃ停めるのが大変だろ」
「なるほど」
 この目立つ男は、外見どおり目立つことも好きなようで、プレイのパフォーマンスも葉でだ。リムジンだとかで横付けする可能性もあったが、この時期ここら辺がひどく混雑するということは知っていたらしい。
 跡部は時々突拍子もないことをするが、ちゃんと常識というものも身につけているし、周りの迷惑になるようなことはしない。そういうところが非常に好ましいのだが。
「……あんまり注目集めちまうと、足止め食らうからよ。今日はそういう邪魔されたくねえし」
「可愛らしいことを言うんじゃない」
「可愛くはねえだろ! 真顔でなに言ってんだお前」
 思わず口に出してしまったらしいが、本当にそう思ったんだ。跡部はいつも周りを囲まれていて、それを苦にも感じていないようだ。だが今日だけはというのを可愛く思って何が悪い。
 とはいっても、別に特別なことをするわけでもないんだがな。綺麗だというイルミネーションを見にいって、食事をして、帰る。ただそれだけだ。中学生なのだからそれくらいだろう。ただ、これを跡部に任せてしまうと高級ディナーやらクルーズやらが用意されてしまうので、俺の方からプランを申し出た。
 それをとても嬉しそうにしてくれたのは、俺の方こそ嬉しかったがな。
 跡部の普通と、俺の普通は違う。それは当然のことで、これから少しずつ知って擦り合わせていけたらと思っている。
「で、どっちだって? ツリーのイルミネーションとか、見にいくの初めてだぜ」
「向こうだな。今日は混んでいると思うが……今まで行ったことはなかったのか」
「イギリスいた頃はずっとホームパーティーしてたけど、最近は両親も忙しいし、俺自身もな。特別なことはしてなかったぜ」
 ツリーが設置されている方へ歩きながら、俺は少し驚いた。特別なことはしていなかった? と半信半疑で訊ねてみたら、氷帝学園を飾り付けるのと、チャリティバザーを催してどこかの施設に寄付したのと、学園の食堂で出すケーキを準備しただけだ、と。
 何が特別なことはしていない、だ。跡部の話は半分くらいに聞いていた方がいいなと、改めて実感した。
「だから、ツリー見にいくって発想がなかった。ありがとな手塚、誘ってくれて」
「……お前にとって貴重な体験になるというのは理解した。だが確かに俺も、お前と交際していなければ、ただツリーのイルミネーションを見にいくという発想にはならなかったと思う」
 別に俺はクリスチャンというわけでもないし、クリスマスを特別なイベントと思ったこともなかった。ただ、世間が飾り付けられていく様は見ていて楽しく、浮かれてしまうのは否めない、といったところ。
「お互い初めて、だな」
 そう言って笑う跡部に、俺は小さく頷いた。特別な交際をするのが初めてなのだから、跡部との経験はすべてが初めてになってしまう。そういうことが増えるたびに浮かれるのだろうかと思ったが、まあ、そうなんだろうな。お互いに。
 跡部が隣を歩いている。ただそれだけなのに、落ち着く。以前まではネット越しだった距離が、こんなに近づいているんだ。反面、落ち着かなくもある。恋人同士というのは、いったいどこまで近づいていいのだろうか。
 ちらりと横目で跡部を見やると、上機嫌できょろきょろと視線を泳がせている。跡部にとって、やはり珍しい光景なのだろう。俺の隣で楽しんでくれているのなら、それでいい。
「あ、手塚、あれか? ツリー」
「ああ、あの辺りだな」
 前方に、一際目立つ、光る一角。跡部はそれを指さして、少し歩調を速めたようだ。ツリーは逃げたり消えたりしないのに、速く見たい気持ちと一緒に足を踏み出しているらしい。そんな跡部の隣に並んで、綺麗に飾られたツリーへと歩んだ。
「さすがに人が多いな」
「そりゃクリスマス当日だし、仕方ねえだろうな。でも、すげえ綺麗だ」
 ツリーの周りは本当に人がたくさんだ。嬉しそうに眺めている人、スマートフォンで写真を撮っている人、電話の向こうの相手と楽しそうに会話している人。この通りの街路樹がイルミネーションで装飾されているから、立ち止まっている人ばかりというわけでもないが、ゆっくり眺めるのは少し難しい。
「これ、写真撮れるか?」
「あまり立ち止まっていると他の通行人に迷惑になるな。……跡部、通路の向こうが少し空いている」
「ああ、あっちの方が撮りやすそうだな」
 通路を挟んだところへ二人で移動した。恐らく、間近で見たい人とそうでない人の比率が違うのだろう。何にせよ、移動したところの方がゆっくり眺められそうでよかった。
「すげえキラキラしてる。綺麗だな」
「ああ。しかしこれほどの装飾、準備する人たちも大変だろう」
「こういうのがあるなら、来年はどこかに出資でもするか」
「少しは中学生らしくしろ」
「お前に言われたかねぇ」
 跡部はスマートフォンで楽しそうに写真を撮っている。俺も撮ってはみたが、あまり上手く収まらなかったな。どうすればいいのかと思い悩んでいると、跡部がカメラ部分をこちらに向けたままシャッターを押した。
「なんで俺を撮るんだ」
「ん? 恋人の可愛い瞬間を写したいって思って何が不思議だよ」
「……可愛くはないだろう」
 真顔でなにを言っているんだ、と先程のやり取りをし返して、俺は小さく息を吐く。本当に何を言っているんだろうな、コイツは。
「まあ可愛いってのは語弊があるかもしれねえが。けど、クリスマスだとさすがの手塚もちょっと浮かれたりするんだなって思って、嬉しいのは本当だぜ」
「浮かれ……」
「普段写真とか撮ったりしねえだろ? どうすりゃ上手く撮れんのかって悩んでるとこ、可愛いじゃねーの。それが俺と一緒の時ってのがたまらねえんだよ」
 見透かされているようで、俺はじっと跡部を見つめる。他人の弱点を見抜くこの男のこういうところは、少し苦手だ。俺の分が悪くなる。
「今日、一緒に見に来られて本当に嬉しいぜ。また知らないお前を知れた」
 そう言いながら笑う跡部は、本当にキラキラとしている。イルミネーションの光が降ってきているせいじゃない。どうしてなんだろう。視界の中の何よりも、俺には跡部がいちばんキラキラとして見える。
「……光るものを綺麗に撮るには、どうしたらいいんだ?」
「お前カメラの設定とか何もいじってねえんだろ。ちょっと貸してみな」
 得意げに手を差し出す跡部に、俺は自分の端末を素直に渡した。鼻歌でも歌いかねない様子で跡部は設定とやらを構ってくれて、「ほら」と手渡してくれた。正直、どこがどう変わったのか分からないが、跡部が言うのならそうなんだろう。
「あの辺のオーナメント撮ってみろよ。あ、サンタがいるじゃねー……の……」
 指導するようにツリーを指さす跡部にカメラのレンズを向けて、シャッターを押した。
 よかった、綺麗に撮れたようだ。
「…………なんで俺を撮ってんだよ」
「ツリーを撮るとは言っていないが」
「……光るものをって言ってただろうが」
「間違ってないだろう」
「意味分かって言ってんのか?」
 おかしなことを言ったつもりはない。事実を言ったまでなんだが。俺が肯定の意味で何も答えないでいると、跡部は恥ずかしそうに視線を泳がせた。賛辞などめいっぱい浴びているだろうに。
「……てめェの方こそキラキラしてるくせによ」
「どういうことだ」
「俺にはお前の方こそ輝いているように見えるってんだ。人混みでも絶対にすぐ見つけられるぜ」
 照れ隠しなのか、悪態のように呟くそれは、俺が跡部に対して思っているのと同じことだ。
 ……そうか、跡部もそう思ってくれているのか。
「お前は俺のことを好きすぎないか」
「俺の台詞じゃねーの」
「お互い様だということだな」
「…………ん」
 そうやって俺たちは、自分の端末に保存された相手の写真を開いて見せる。やっぱり画面の向こうでは分かりづらいが、綺麗だなと素直に思った。
 跡部の目に俺はこう見えていて、俺の目に跡部はこう見えている。
 目の前の本物には敵わないが、どこか満たされた気分だ。
 写真を見ていた視線が、ゆっくりと上がって、重なる。
 同じタイミングで瞬きひとつ。
「……メリークリスマス、手塚」
「メリークリスマス。来年もともに過ごせたらいい」
 目蓋を伏せるのと、唇が近づいていくスピードはほぼ同じ。
 初めて触れ合わせたそこは、思ったよりも柔らかだった。


「相手の写真を撮る塚跡」でリクエストいただきました。

#両想い #クリスマス #リクエスト