No.620

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好みのタイプ

NOVEL,テニプリ,塚跡 2024.12.13

#両想い #リクエスト

 好きなタイプ? と、手塚はオウム返しに訊ねた。 腰をかけたソファの隣には、目をキラキラと輝かせた跡…

NOVEL,テニプリ,塚跡

好みのタイプ


 好きなタイプ? と、手塚はオウム返しに訊ねた。
 腰をかけたソファの隣には、目をキラキラと輝かせた跡部景吾がいて、これはこれでこのまま見ていたいと思う。
「なぜ急にそんなことを訊くんだ?」
「聞いたことなかったから」
 至極まともな回答が返ってくる。
 確かに、跡部とどころか誰かと好みのタイプの話などしたことがない。そもそもこれは、恋愛的な意味で好感情を持ちやすいタイプを訊いてきているのだろうかと、手塚は僅かに目を細めた。

 だいたい、つきあっている恋人に対して今さら好みのタイプを訊いてくる理由が分からない。片想い中で、相手の好みに近づいて恋を成就させたいというならまだしもだ。

「いくらカタブツだからって、好みくらいあんだろ? 可愛い系とか、きれい系とか、控えめとか、髪型とかよ」
 跡部は指を折り曲げながら、タイプとやらを挙げていく。そもそもあまり興味のない手塚に、可愛い系ときれい系の違いが分からなかったが、ここはどう答えるべきだろうか。
「テニスが好きな人だといい」
「テニスは置いとけよ、ばか」
 即座に却下されて、むっと口を尖らせる。重要な要素なのだが、それ以外となると本当に難しい。
 何か答えないと満足しそうになくて、手塚は仕方なく思考を巡らせた。


「…………何事にも一生懸命なのは、好ましいと思う」


「ふぅん? じゃあ、控えめな方がいいか? それとも賑やかな方が好みかよ」
 ひねり出した答えに、跡部は機嫌が良さそうだ。
 ああ、と手塚はようやく気づく。自分のことを表現してほしいのだなと。
 まあ少し考えれば分かったことだ。交際しているのなら、相手が自分をどう評価して好んでくれたのか、気になるところだろう。
 跡部景吾でもそんなことが気になるのかと、目の前の天上天下唯我独尊を背負っていそうな男をじっと眺めた。
「……好感を持つというのであれば、綺麗な黒髪の、大和撫子のようなひとだろうか」
 少し考え込んだふりをして、手塚は口にした。跡部に遠慮することもなく、ただ好むタイプというのを告げたふうに。
 それを聞いて、跡部は驚いたように目を丸くした。跡部は自身を控えめな方だとは思っていないだろう。加えて、生まれた時から見事な金髪碧眼だ。その青の瞳が、右に揺らぐ。
「……へぇ」
 黒髪、ではないな、と分かりやすくしょぼくれた顔をする。今度は手塚が驚く番だった。
 跡部もそんな顔をするのか。
 恋人の好みからことごとく外れてしまっている自分が、悔しいのか、それとも悲しいのか、寂しいのか。
「黒髪……」
 跡部の指先が、つんと髪を引っ張る。あ、と手塚は小さく息を吐いた。やろうと思えば染めることもできるとでも思っていそうな跡部の指先を、慌てて搦め捕る。
「手塚? なに……」

 そうしてそのまま、唇同士を触れ合わせた。
 意識を逸らせて留めておかないと、跡部はすぐに実行してしまう。彼の行動力を甘く見たらいけない。

「な、……んだよ、急に」
「本気にしたかと思って」
「あ? ……あァん!?」
 触れるだけで唇を離せば、面食らった跡部が訊ねかけてくる。正直に告げれば、からかわれたのだと知った跡部がグッと胸倉を掴んできた。
「おいてめェ、俺様をからかうとはいい度胸だな」
「俺にそんなことを訊くお前が悪い」
「開き直んな!」
「だが、俺が好みのタイプとやらを真剣に考えたことがあると思うのか? だったらお前の方こそどうなんだ。俺はきっとお前の好みからかけ離れているだろう」
 そもそも性別が、という野暮なことは口にせず、なぜ恋人などという関係になっていると思うのかの方を真剣に考えてほしいと思う。
「そりゃ……俺様だってゲイってわけじゃねえからな。手塚じゃなきゃ、惹かれてねえ」
「なら好みのタイプを知ったところで意味がないだろう。お前は結局俺を好きになる」
「てめェな……」
 悔しそうに睨みつけてきながらも、跡部は否定をしてこない。

 こういうところがたまらなく好ましいのだがと思っていることは、言わないでおこうと手塚は思った。

「その自信はどこから出てくんだよ、ったく……」
「俺自身がそうだからな」
 呆れ調子で髪をかき混ぜた跡部に、手塚はそう返してやる。数秒思案した彼は、その意味に気がついてカアッと頬を染める。
 貴重なものを見た、と手塚は満足げに小さく頷いた。
 恋人としてつきあっていても、跡部がこんなふうに驚いて頬を染める場面になどあまり出くわさない。いつも自信にあふれていて、好意を向けられるのは当然だとでも思っていそうで、さすが跡部景吾だと手塚も思っていたのだ。

「お前が俺様にベタ惚れなのは分かった。それでも、からかわれんのは気に食わねえんだが」

 照れ隠しなのか、むっとした表情を作って頬に手を伸ばしてくる。そうしてそのまま、……むに、とつねってきた。
「……おい」
 ここはそっとキスでもする流れではないのか、と手塚の方は意図せずむっとした表情になってしまう。跡部はそれにご満悦な様子で、楽しそうに口の端を上げた。
「はは、変な顔」
 そう言ってもう片方の頬もつまみ、ぐいと横に引っ張る。痛い、と呟いても、うまいこと音になってくれない。まあ実はそんなに痛くもなくて、楽しそうな跡部の顔を見られて満足だ。

 かわいい。

 心の中でそんなことを思い、頬で遊ぶ跡部をじっと見つめる。
 最初は、からかうつもりなどなかった。好みのタイプというのを真剣に考えたことは本当になかったし、今も興味が湧かない。だけど、たとえば跡部と正反対のタイプを告げたらどんな反応をするのかと気になったのだ。
 そうしたら、こんなに可愛らしい反応を返してくれた。

 見た目だけでも好みのタイプに近づくべきかと髪を弄ってみたり、からかわれたと知って怒ったり、仕返しとばかりに頬をつねってみたり。
 普段の跡部からは思いも寄らない。

 手塚は、頬を引っ張る跡部の手にそっと手を添えて外させた。
 あ、と上がった息を吐くような音を、唇で封をする。
 触れ方が深くなるにつれ、指先が絡み出す。手の甲を撫で、ちゅっと舌を吸い上げてみると、仕返しみたいに軽く噛みつかれた。
 唇を離して責めるように目をほそめたら、両手の指先でそっと眼鏡を外される。丁寧につるをたたんでテーブルに置き、跡部は挑発的に唇を舐めた。
「俺様好みのキス、知ってんだろ、手塚ァ」
「ああ、知っている。今までも、これからも俺しか知らないものだな」
 腰に腕を回して引き寄せれば、「お互いにな」と首に腕を巻き付けてくる。
 そんな跡部景吾の反応がとても好ましいと、深く深く口づける。

 もし今度好みのタイプを訊かれたら、跡部景吾と答えてやろうと思うくらいには。


「からかわれた腹いせに手塚の両頬をつねって伸ばしたら、実は「からかった相手に可愛い反撃をされる」シチュエーションに憧れていた」でリクエストいただきました

#両想い #リクエスト