No.255

(対象画像がありません)

俺のCandy Star!-018-

俺のCandy Star! 2017.07.17

#シリーズ物 #ウェブ再録

 朝起きると、枕元に見慣れない物体。紬はほんの少し体を強張らせ、ああそうかと思い出した。 その物体は…

俺のCandy Star!

俺のCandy Star!-018-


 朝起きると、枕元に見慣れない物体。紬はほんの少し体を強張らせ、ああそうかと思い出した。
 その物体は水色のぬいぐるみ。
 昨日どこからか落ちてきた、持ち主不明のふわふわ。今日誰の物か訊かないと、と思い身支度を調える。
「あ、おはよう丞……」
「……あぁ」
 ルームメイトの丞に声をかけるけれど、返事はそっけない。昨日のことでまだ怒っているのだろうなと、紬はしょんぼりと肩を落とした。
 気分はずっしりと重く落ち込んでいても、稽古に出ないわけにはいかない。
 リーダーとして、早く行っておかねばと、朝練に向かう。
「おはようございます」
「おはよう」
「……ねむい……」
「密さん寝ないで!」
 東は朝が弱そうだし、密などはいつでも眠そうだ。元気がいいのは、監督くらいいかなと紬は息を吐いた。
「紬くん、元気を出したまえ。ワタシがキミのために詩を考えてきたよ」
「え……?」
 誉にそう言われ、紬は目をぱちぱちと瞬いた。
 確か昨日も詩を贈ってくれたのに。どう反応していいか分からないシロモノだったからこそ、余計に頭に残っている。
「おいまたかよ」
 丞も、呆れたように息を吐く。ということは、紬の勘違いなどではなく、昨日も今日も詩を考えてきてくれたのだ。
「詩人が詩を紡ぐのは、呼吸をするのと同じことなのだよ」
(えーと、確か、遥かなる……)
「遥かなるモンタージュ、 繰り返すデカンタージュ……青春の淡きメモリー、消えゆくセオリー、溜め込むカロリ~。どうかな?」
「え、ええと……? ありがとうございます……?」
 紬は首を傾げた。
(昨日と同じだよね、今の……)
 耳に残っている単語だらけだ。どう反応していいのか分からないのも昨日と同じで、誉の真意が分からない。
「昨日と同じだろう」
 反応に困る、と丞がうんざりとした様子で額を押さえる。はははと紬も苦笑しかけたら、誉の眉が珍しくつり上がった。
「失礼な、これは今日の新作だよ」
「新作? だって、昨日も……」
「誉の詩は独創的だね。韻を踏んでて面白いよ」
 くすくすと笑いながら、東がフォローする。紬は勢いよく東を振り向いて、目を瞠った。なぜ東までもが、昨日と同じことを言っているのか。いづみを振り向けば、昨日と同じように、東のフォローに感心しているようだった。
「おいおい、早くもボケたんじゃないだろうな」
 昨日と違う反応をしているのは、自分自身と丞だけだと気づいた紬は、混乱した。もしかしてまだ夢の中で、起きていないのではないかと思うほど、不自然だ。
「何を言うのかね、ワタシの頭は、二十四時間冴え渡っているよ」
 昨日にはなかった言葉もある。
「紬くん、落ち込んだ時はこれを思い出して、元気を出すといい」
 かと思えば、また同じ言葉、同じ表情、同じ仕草。
(変だ、どうしちゃったんだ、誉さん……)
 誉だけではない、東も、いづみも、密もだ。
 昨日と同じく、マシュマロで釣れることを発見されて、寝そうになるとマシュマロを口付近に持ってこられている。食べたらまた寝てしまうのでは意味がない、といういづみの言葉も、昨日と一緒。
「おい、それ昨日もやってただろう」
「さっきから何を言っているんだね、丞くんは」
「だから、昨日も――」
「ああ、それってもしかして、デジャヴってヤツじゃないかな?」
「確かに、初めて見たはずなのに、前に見たことがある気がするっていうの、ありますよね!」
 違う、と紬は心の中で否定をする。
 デジャヴという現象は知っているし、実際に体感したことはある。
 だけどそれならば、丞が同じように不可解だと感じているはずがないのだ。ふたりで一緒に同じデジャヴを感じるなんて、そんなことがあるものか。
 紬はふと思いつき、携帯端末を取り出す。
「紬さん? 電話でもきたの?」
「いえ、そういうわけじゃ……すみませ――」
 稽古中に、紬が携帯端末を構うことはこれまでなかった。不思議そうに声をかけてきたいづみに、謝罪を返しかけ、目を瞠った。
 画面を見てみれば、日付と、時刻。
「な……んで……」
 そこには、昨日と同じ日付が記されていた。
 故障か――端末だけのことなら、そうも思えた。だが様子のおかしい団員たち、昨日と同じことの繰り返し……紬はそれでも半信半疑で、丞に声をかけた。
「丞、ねえ、見て」
「なんだよ」
「いいから、日付。見て」
 小さくそう囁いて画面を見せれば、丞も同じように目を瞠って、眉を寄せ、そして目を細めて軽く睨みをきかせてくる。
「そんなの、お前のが壊れてるだけだろ。俺のはちゃんと――」
 そう言って、丞も携帯端末を取り出し、え、と小さく声を上げ、息を止めた。
「…………どう?」
「……昨日の日付になってる」
 デジャヴだけでなく、携帯端末の故障まで二人揃ってなんて、起こりうるのだろうか。紬はいづみを振り返り、今日の日付を訊ねてみた。
「監督、今日って何日ですか?」
「今日? 十二日でしょ?」
「十三だろ?」
「十二だよ。間違いない」
 いづみも東も、紬と丞にとっては昨日の日付を口にしてくる。これは本格的におかしいと、紬の袖を引っ張ったのは、丞の方だった。
「稽古はいったん休憩だ。おい、紬」
 まだ始めてもいないのに、といういづみの呟きを背中で聞いて、紬は丞と一緒にレッスン室を抜け出した。そうして談話室へと向かい、小さく呟く。
「丞、これってもしかして……」
「言うな。集団で俺たちを騙してるに決まってるんだ」
 お前の考えているようなことは一切ない、と言いたげな丞の視線が突き刺さるが、証拠にと丞がつけたテレビのニュースは、「十二日土曜日、朝のニュースです」とさわやかに言ってのけてくれた。
 チャンネルを変えてみても、ニュースをやっている局は、十二日土曜日と表示されている。
「どっきりだとしたら、随分手が込んでるね……」
「俺は信じないぞ」
「こんな不思議なことがあるんだ……」
 まさか録画を流しているわけでもないだろうと、紬は丞からリモコンを借りて、自身でもチャンネルを変えてみる。日付は、やはり「昨日」だ。
「とりあえず、稽古に戻ろう丞。ここで議論したって仕方ない」
「……そうだな……」
 そうして恐る恐るレッスン室に戻り、朝練をこなして、朝食を取る。
 オムレツは紬の好物だけれど、昨日も臣が作ってくれた。美味しい、と感想を言えば、ありがとうと朝からさわやかに返されるのも、同じ。
「はよっす~、臣~なんか食いもん~」
 昨日と違うところはないのかと探す中、紬の体が強張った。ダイニングキッチンに響いた眠そうな声は、万里のものだ。
 顔を合わせづらい、と紬は万里とは違う方向に顔を向ける。
 何しろ、昨夜彼に恋を告白されたのだ。
 昨夜の今朝では、心の準備もできていないし、そもそも今はGOD座との勝負のことで頭がいっぱいで、その上今朝から不可解はことばかり起こっている。
(ふ、普通にしてていいんだよね? 万里くんには、一度無理だって言ってるんだし)
「ほら万里。今日はいつもより早いな。土日は遅くまで寝てるだろ」
「あー、今日あれなんすよ。一成と天馬が珍しく空いてるってーから、遊びに行こうって」
 臣が、万里の分の朝食を用意してくれる。特に席が決まっているわけでもないここの食卓で、万里は紬の斜め前に座っていた。
 そこしか空いていないわけではないのに、そういえば昨日もそこにいたような、と思い起こして、あれ? と首を傾げた。今のやり取りも、やっぱり昨日聞いた気がすると。
 隣の丞をちらりと見やると、項垂れて額を押さえていた。
 きっと丞も今、紬と同じことを考えたのだろう。
(やっぱり、同じなんだ……)
 万里にとっても、今日は昨日らしい。団員たちも、テレビも、今日は昨日。
 そろって自分たちを騙しているわりには、ひどく大がかりに思えて、紬は「みんなの中では明日」である今日を、どうにか噛み砕こうとしていた。


#シリーズ物 #ウェブ再録