No.254

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俺のCandy Star!-017-

俺のCandy Star! 2017.07.17

#シリーズ物 #ウェブ再録

 まだ混乱している。ガクガクと膝が揺れて、紬は思わずそこにしゃがみこんだ。(えっ……と、えっと、待っ…

俺のCandy Star!

俺のCandy Star!-017-


 まだ混乱している。ガクガクと膝が揺れて、紬は思わずそこにしゃがみこんだ。
(えっ……と、えっと、待って、なに……言われた? 万里くん、なに言ってるの……!?)
 目の前が、チカチカと光っているような錯覚に陥る。くらくらと目眩さえするようで、上手く思考が働いてくれない。無意識に触れた頬は熱くて、きっと赤くなっているんだろうと紬は思う。
 聞き間違いでなければ、今し方、恋を告白された。同じ劇団に所属する、年下の男の子に。
「む、無理だよね、普通に考えて……」
 はははと笑いが漏れる。きっと気の迷いに違いなくて、応えることはできない。
 そもそも女の子に告白されたって、今はそれどころではないのに、男の子からでは、どうしたって性別という壁が立ちはだかる。そういったことは、まったく考えたことがなかった。
「じ、冗談に決まってるよ……俺が落ち込んでるからって、笑わせようとしてくれたんだ……万里くん優しいからな……」
(万里くんてきっと女の子に人気あるよね……慣れてそうだし、試してみたかったんでしょ、そうだよね……、手近なとこで、カフェ友の俺って、ことで……)
 紬はそこにへたりこんだまま、先ほどの万里の表情を思い浮かべていく。
 呆れた顔、優しく笑う顔、嬉しそうに好きだと告げる顔。
 それがどんどん思い出されていって、顔の熱が上昇した。
 冗談に決まっている。そうでなくても気の迷いに違いない。
 だけど、万里の声が頭の中でぐるぐると回る。
 紬さんのことが好き、笑ってるところが見たい、本気の恋してんだよ、エトセトラ。
 どれもが、本当の万里の言葉に思えて仕方がない。
(でも、ダメ、そんなふうに考えられない。友達なら歓迎なんだけど、恋人とか。男同士なのに……)
 ふるふると首を振る。
 もし万里の言葉が、本当に、真実、本気の恋だとしても、受け入れることはできない。
 同性愛というものに、生理的な嫌悪はないと思っているが、それが自分の身に降りかかるとなれば話は別だ。
(そもそも、今はそんな、恋とか……考えてる余裕なんかないのに……! 万里くんも分かってて言ってる……ひどいな、余計に混乱増えただけだよ……)
 万里とつきあうことはできない。
 リーダーとして、主演として、GOD座の勝負を受けることはできない。
 その気持ちは、もうどうしようもない。
 好きなことは変わらないから諦めて、と彼は言っていたけれど、そっちこそ諦めてほしい、と紬は珍しく眉を寄せた。
 明日にでももう一度、ちゃんと断ろうと大きく息を吐いて、紬はようやく立ち上がる。
 頭は冷えたような、さらに悪化したような。
 寮の玄関に向かって歩き出し、ふと思い出した。
 昨日万里と歩いたストリート。

『俺、アンタのカレシに立候補していいすか』

 瞬間、理解する。
「あっ……」
 昨日のあれも、万里にとっては告白だったのだと。
 カフェの帰り、いつもと変わらぬストリート、というシチュエーションで、てっきり唐突なストリートACTをしかけてきたのだと思い込んでいたが、どうやら違っていたらしい。
(あ、だから万里くん……今日、ちゃんと、言おうって、思ったのかな……)
 ストリートACTだと思った紬は「そんなふうに見られない」と、今日と同じように返してしまったのだが、そのあと万里の台詞が続かなかった。
 そういえば悲しそうな顔をしていたなと、今さらに思い出し、ずき、と心臓が痛んだ。
 万里は二度、恋を告白してくれた。
 紬は二度、彼の気持ちを拒絶した。
 気持ちというものは、自分の意思でどうにかなるものではない。
 だから紬が万里の気持ちを受け入れられないのも、仕方ないとは思う。
 だが、真剣に受け止めていただろうかといえば、否定するしかない。
 一度目はACTだと思い、二度目は混乱が先立って、真剣に考えていなかった。突然過ぎたのもあるが、もっと真面目に考えてから、応えてやるべきだったのではないか。
 高校生なんて、まだ子供で、難しい年頃だ。
 紬の知っている高校生たちと比べると、万里はひどく大人びた表情をするせいか、忘れていた。真剣に想いを告げてくれたのなら、こちらも大人として、しっかりと真面目に考えて、答えを出したい。
(それでも、無理な理由を探すしかないけど……。どうして俺なんか、好きになってくれたんだろ? だって、逢ってまだちょっとしか経ってないよね……)
 万里とは、この劇団に入ってからの交流しかない。お互い存在さえ知らなかったはずだ。
 恋に時間は関係ないということを、万里は紬に知らしめる。
(万里くんよりずっと一緒にいた丞とは、ケンカしたままだっていうのにな……)
 はあ、と深く息を吐く。
 そんな無責任なヤツと舞台に立ちたくない、と幼馴染みに拒絶された。
 そのあとで、別の他人に好きだと言われた。
(本当に、どうしてこうなっちゃうのかな……。俺はただ、あの頃みたいに、丞と一緒に芝居がしたいのに。きっと楽しいよね。万里くんにも、どうせならそうやって楽しんでる俺を見てほしいし……)
 劇団の借金もGOD座との確執も、何も考えずに、ただ芝居がしたい。それを見てほしい。
 そしてできれば、見た人に何かを植え付けたい。土に根を張る植物のように、深く、その人の心の中に住み着いてみたい。
(やっぱり、俺に芝居は向いてないのかな)
 苦笑して、とぼとぼと中へと戻る途中、腕に抱いたぬいぐるみがパアッと光った。
「うわっ……」
 それはほんの数瞬で、声を上げた頃にはもう、光った事実さえなかったかのように、静まり返っていた。
「な、なんだろう、今の……。っていうかこのぬいぐるみ、誰のかな? 万里くんじゃないってことは、他の……俺と丞は省くとして、密くんとこ何もなかったけど、増えたのかな。マシュマロみたいな手触りだし……あ、でも誉さんかな。詩興がわくのかも……東さんは、昔のお客さんからこういうのもらってたり……」
 この可愛らしいぬいぐるみの持ち主を想像すると、紬の心がほんの少し浮き上がる。
 明日の朝食の時にでも訊いてみようと、部屋に戻る。
 トレーニングに行ったのか、丞はおらず、どこかホッとしながら入浴を済ませ、その日は眠りに落ちていった。


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