華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.253
俺のCandy Star! 2017.07.17
#シリーズ物 #ウェブ再録
「え、……っと……?」「演技も、もちろん好きだけどな。それだけじゃねーの。月岡紬さん――俺は今、アン…
俺のCandy Star!
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「え、……っと……?」
「演技も、もちろん好きだけどな。それだけじゃねーの。月岡紬さん――俺は今、アンタに本気の恋をしてんだよ」
好きという単語だけでは、きっと伝わらないだろう。
十座が左京を好きだと言ったことに、演技に惚れているという意味では? とフォローした男がいるように、芝居の話をした今の流れでは、そう捉えられてしまうはず。
そもそも男から「好き」と言われて、すぐに恋と結びつけられるわけもない。
だからあえて、恋という音にしてみた。
そうして、五秒。
「……――え!?」
紬がようやくその意味に気がついて、慌て出す。腕の中にいたブサイクなぬいぐるみが落ちて転がるけれど、もちろんそんなものに構っている余裕などない。
「ま、待って万里くん、それは、そのっ……万里くんが、俺を、……す、好きって、こと、なの、かな?」
「だぁからそう言ってんじゃん」
「俺、男だよ……?」
「あー、知ってっし」
紬の反応は当然といえば当然で、想定の範囲内だ。まず性別の壁がいちばん初めに立ちはだかる。
「きみより年上……」
「それにしちゃ頼りねーけど、問題なし」
もともと年上好みだしとつけ加え、紬の顔を覗き込む。怯えさせないように距離は取ったつもりだったが、紬の肩がびくりと跳ねたのに気がついた。
「……んな心配しねーでも、力尽くでとか無理やりとか、しねーから。でも、知っておいてほしかった。紬さんは、自分に自信ねーのかもだけど、俺はアンタのそういうとこ全部ひっくるめて、好き。すっげぇ好き。俺の好きなもん、否定しねーでくんねぇかな」
紬に触れてみたい思いはある。キスだってしたいしその先だって。
だけどまずいちばん初めに、紬からの想いが欲しい。
それを手に入れるまで、手を出すつもりはかけらもない。
こんなに好きになってしまった月岡紬を、本人であろうと否定してほしくはなかった。
「待って……ほんとに、ごめん、待って、混乱して、うまく考えがまとまらない」
紬はくしゃりと髪をかき混ぜ、視線を下に向ける。そうすれば、万里の視線と出逢うことはなくなるからだろう。
途切れる言葉が、紬の焦りと混乱を伝えてきて、ほんの少し、悪いことをしたかなと思う。さらに混乱させるようなこと、何もこんな時に言わなくてもいいだろうにと、万里が外野であったら思ったことだろう。
だけど、今だからこそ言わなければいけないと思ったのだ。自分自身を否定する紬を、大好きになってしまった男もここにいるのだと。
「……無理? 俺のこと気持ち悪い? 紬さん」
静かにそう呟くと、ハッと紬が顔を上げる。自分の態度が、万里を傷つけたと思ったのだろう。一瞬だけかちあった視線は、やっぱり紬の方から逸らされた。
「き、気持ちわるい、とは……思わないっていうか、思いたく、ないけど、ちょっと待って……本気で言ってるの?」
「本気っすよ。ヤロー相手にこんな冗談言うほど、女に不自由してねーし」
「本気なら余計に分からないよ、どうして俺なの? 万里くんなら、他にたくさん……いるでしょ、男の俺に、そんな」
「いても、紬さんがいい」
ふるふると小刻みに首を振りながら、紬は数歩後ずさる。
それを追おうとはせずに、万里はその場で即答した。
「生理的に無理ってんでなきゃ、ちょい真面目に考えてみて、俺のこと。いちばんはGOD座との勝負考えて。前向きな感じで。その次は紬さん、アンタ自身のことを。こっちも前向きな感じな。三番目はまぁ……丞さんのこと? また何かあったんだろ。仲直りできますよーに。そんでその次くらいでいいから、俺のこと。もちろん前向きな感じで頼むわ」
今必要なことを指折り数えて、並べてみせる。
いちばん初めに考えてほしいなんて、贅沢は言わない。頭の片隅にでも置いておいてくれたら、それでいい。
「だけど俺、無理だよ、万里くんのこと、そんなふうに見られない。今は芝居のことで頭一杯なのに」
「まあ、こんな時に何言ってんだって話だよな。でも、ダメでも言っとくのと、ダメだからって溜め込んだままなのとじゃ、意識が違うじゃん? 悩んでよ紬さん。俺がどれっくらいアンタのこと好きか、説明しろってんならつきあうし」
「い、いいそんなの、聞かなくて!」
万里の方は準備万端なのに、紬は顔を真っ赤にして拒絶してくる。
ちぇ、と舌を打つが、こんなものは想定内だ。
「万里くん、本当にダメだよ……お願い、いくらその……好きって言ってくれても、受け入れられるわけがない。男同士なんて……無理……俺だって、つきあうのは女の子がいいんだよ」
紬は、混乱をどうにか収めようと額を押さえ、万里の気持ちを押し返す。
必死で言葉を選んでいるのが見て取れて、万里は口唇を引き結んだ。
断られるのは分かっていたけれど、実際にそうされてしまうと、考えていたよりずっと、胃がずしりと重い。
紬を困らせてしまっている事実と、受け入れてもらえない大切な気持ち。
「万里くんのことは、一緒にカフェでおしゃべりできるっていう風にしか、見てない。これからも……変わらないから、諦めてくれると有り難い、です」
目蓋を伏せて、万里の視線に捕まってしまわないように、ゆっくりと優しく拒絶してくる。
口をきいてくれるだけまだマシかなと、最悪のラストまで想像していた万里としては、上々の反応だ。
ふう、と短く息を吐いて、万里は一度だけ、ごめんと呟いた。
「簡単に諦められるくれーなら、最初っから言ったりしねーよ」
そのお願いは聞けない、というごめん。それにしか謝れない。紬を好きになったことが、悪いことだとは思っていない。
今困らせていることも、時期が早いか遅いかの差だけで、いずれは困らせることになっただろうと思うと、悪いという気持ちはない。
「俺は紬さんのことが好きだ。これからも変わらないから、そこは諦めて。あと、そういうの抜いても、GOD座との勝負、受けてもらいてーなって思う。紬さんの芝居、まだエチュードレベルのしか見たことねーからさ。舞台に立ってる紬さんが見たい。綴のシナリオ絶対いいのできあがってくっから、楽しみに待っときゃいいよ」
恋というものが、こんなに自分勝手なものだなんて思わなかった。紬の都合も、劇団の都合も、構っていられないほど、身勝手な望みだ。
「ま、まだテーマも決まってないのに、そもそも俺は主演を降りて――」
「あーダイジョブ、ダイジョブ。俺ん中でスターは紬さんだから。どんな役でも惚れるぜ?」
「えぇ……っ?」
主演だろうが何だろうが構わないと、ひらひら手を振ってみせれば、絶句して固まった様子の紬。だけど心からの言葉だ。紬が演じる役ならば、何だって惚れてしまう自信がある。
例えば悪魔だろうが犯罪者だろうが、女形だろうが天使だろうが、紬の繰り出す仕草のひとつひとつに、目を奪われるに違いない。
「本当に、楽しみにしてっから。じゃーおやすみ紬さん。頭冷やしすぎて風邪引かねーようにな」
そう言って、転がっていたぬいぐるみを拾い上げ、紬の手に渡してやる。真っ赤な頬は、悪くない反応だ。
ちょっとしたイタズラ心で、その頬を指先でつついてみた。
「紬さん、覚悟しとけよ。絶対オトしてやっからな」
紬の頬が、さらに赤くなったのを確認して満足し、万里は踵を返す。無事に恋を告白し終え、寮の中へと戻っていった。
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