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No.659
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.06
執着というには純粋で、恋というには熱すぎる。 手塚国光というプレイヤーに惹かれ始めたのは、いつだっ…
No.659
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.06
執着というには純粋で、恋というには熱すぎる。 手塚国光というプレイヤーに惹かれ始めたのは、いつだっ…
執着というには純粋で、恋というには熱すぎる。
手塚国光というプレイヤーに惹かれ始めたのは、いつだっただろうか。
ライバル視しているだけだと言い切ってしまうには、無理があった。
何しろ毎日でも逢いたい。
テニスができれば最高だけれども、顔が見たい。声が聞きたい。跡部と呼ぶ音を耳に残せたら、どんなに幸福なことだろうか。
そんなことまで思うのが、ただのライバルというわけはない。
手塚のプレイスタイルは、跡部には真似できない。手塚にも跡部のプレイは真似できないだろうが、自分にないものを持っている選手だからというだけで、ここまで惹かれたりしない。
そんなことがあり得るのならば、跡部の世界はおかしな片恋だらけになってしまう。
手塚国光が好きだ。
彼だから、好きなのだ。
だけど、悲しいことに彼とは親しい間柄にない。
ただ一度対峙した相手、大会で対戦した学校の部長というだけの認識に違いない。
せめて知人の少し上あたりにいたいのだが、どうしたらいいのだろう? 今まで、向こうから寄ってくる相手ばかりだったから、こういう場合はどうしたらいいのか分からない。あまりしつこく追い回すのもよくないだろう。下手をしたらストーカーにされかねない。
貢ぎ物でもしたらいいだろうか。しかしなんの理由もなくプレゼントなんてしても、絶対に受け取ってくれない。そもそも何を欲しがるかも分からない。テニス関係のものなら喜んでくれるだろうか。
しかしそれでも、「もらう理由がない」などとあの仏頂面で突き返してくるのだろう。それが容易に想像できてしまうから、悔しい。
ここのところ、ずっと手塚のことを考えてばかりいる。
逢いたい。言葉を交わせなくてもいいから、せめて顔が見たい。
このまま青学へ向かってしまうのもアリかと思ったが、向こうもすでに練習を終えているだろう。もう帰っている可能性の方が高い。
考え過ぎて頭が痛くなってくる。スカッとしたい、なんてらしくないことを思った。だがそれもひとつの手だ。
どこかで軽く打っていこうと、ラケットバッグを担ぎ直す。近くにコートはあるだろうかと検索して、歩いていける場所に見つけた。家に帰れば好きなだけ打てるが、慣れない場所でというのもいい。
その屋外コートに向かうと、心地良いインパクト音が聞こえてきた。先客かと思うが、確かコートは一面ではなかったはず。もし埋まっていたら、他の場所に行くか待っているかしよう。
そう思ってその区画に足を踏み入れ、目を瞠った。
壁打ちをしているのは、ずっと跡部の胸中を支配している手塚国光その人だったからだ。
最初は幻かと思った。重症も重症だなと目を細めて消そうとしたのに、それは本物だったらしい。
「……手塚……」
思わず名を呟いたら、気づいた手塚がラケットを下ろして振り向いてくる。
「跡部か。お前も打ちにきたのか?」
「あ、ああ……。隣、借りていいか」
テニスコートにラケットを持ってきたのだから、打ちに来たのは間違いない。別に、手塚を追いかけてきたわけではないのだから、なんら後ろめたいことはないはずなのに、心がそわつく。
「隣、……か。もし迷惑でなければ、ラリーをしたいが」
「いいのか?」
食い気味に即答してしまって、ハッとして口を押さえる。気まずいことこの上ないなと、視線を逸らした。
「相手がいた方がいい。それがお前ならば、不足はない」
「そ、そうかよ。じゃあ、まあ、……軽く」
嬉しい。とてつもなく幸福だ。
そんな思いを必死で隠して、ジャージの上着を脱いだ。まさか手塚とテニスができるなんて思っていなかった。この日この時このコートを選んで本当に良かった。
そうして、軽くとは言いつつ「手塚国光」と「跡部景吾」が一緒にいてそんなもので終わるわけもない。真剣勝負にも近い打ち合いが繰り広げられる。
荒い呼吸と、射貫いてくるまっすぐな瞳。顎を伝う汗と、グリップを握り直す力強い手。
それらすべてに、ぞくぞくするほど気分が高揚する。それは単純にプレイヤーとして感じていたかったが、恋情がそうさせてくれない。
もっと、もっと近くに行きたい。
コート上ではライバルで、コートを出たら友人に――いや、恋人になりたい。
そんな感情を交じらせてラケットを振った。
「跡部、少し打ち方が変わったか?」
「……そうか? 変えてるつもりはねえが」
きりの良いところで、日が暮れてしまうからとどちらからともなく腕を下ろす。気持ちのいい汗をかいたと満足げな手塚から、小さな疑問が吐き出される。
「俺の思い違いかもしれないが、試合の時より返球が丁寧というか、深いというか……すまない、上手く説明できない」
そわり、と背筋が震えた。言った通り、変えているつもりはいっさいなかったのに、手塚には僅かな変化が感じ取られてしまったのだろうか。
手塚とテニスをするのだから、一球一球に想いを込めたいと思っていたのが、プレイにあらわれてしまったのかもしれない。
「悪い変化ではないと思う。やはり、お前と打つのは気分が高揚するな。付き合ってくれて感謝する」
「いや、こっちの台詞だぜ。試合じゃねーのはつまらねえと思っていたが、そんなことはねえ。お前はいつだって俺の闘争心を引き出してくれる」
汗の処理をして、ラケットをバッグにしまう。充分に打ち合ったと思うのに、この瞬間は寂しくて仕方がない。
「……なあ、手塚。明日の放課後、空いてるかよ?」
「特に予定はないが」
「それなら、――それならまた明日、ここで……会って、くれるか?」
チャンスは逃したくない。断られるかもしれないが、言わないままで後悔はしたくない。跡部は祈るように顔を上げて、視線の先に「ああ」と頷く手塚を見た。
「お前さえ良ければ、またここで会おう」
たった一言で、手塚は跡部の恋情を膨らませてしまう。泣きたくなるほど幸福だ、と唇が震えそうになるのを必死で我慢して、何でもないようにひらりと手を上げる。
「じゃあ、また明日な、手塚」
「ああ、跡部。気をつけて」
お前もな、と返して、跡部は踵を返す。
また明日、なんて言葉を、あの男に投げられる日が来るなんて思わなかった。
その夜、どうか明日も晴れますようにと、初めて祈りながら眠りに就いた。
#お題 #片想い