- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.657
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.04
「お前が好きだ、跡部」 青い瞳が、大きく見開かれる。海のような、空のようなその深い青を、もっと近くで…
No.657
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.04
「お前が好きだ、跡部」 青い瞳が、大きく見開かれる。海のような、空のようなその深い青を、もっと近くで…
「お前が好きだ、跡部」
青い瞳が、大きく見開かれる。海のような、空のようなその深い青を、もっと近くで見たいと思ったのが、最初のきっかけ。
右に、左に、ゆらゆらとゆれる。波のような、風のようなその流れは、いったいどういう意味なのだろうと、手塚国光はじっと見つめ続けた。
「あ、……の、よ……」
「なんだ」
ややあって、跡部の唇が開かれる。そこにも触れてみたいと思うあたり、もう後戻りができないところまで来てしまっているのだと思う。これは、恋だ。劣情さえ含む厄介な感情だ。それを自覚して、理解して、せめて跡部に誠実であろうと隠さずに告げた。
「好きって、そういう意味でか?」
「お前の言うそういう意味というのは分からないが、恋をしていると意味で言った。迷惑だろうか」
困惑した瞳がじっと見つめてくるのに、手塚の胸はそわつくばかりだ。跡部が自分を見ているというだけでこんな風になってしまって、いったいどうすればいいのだろう。望むのはただひとつだけだが、それも口にするべきなのだろうか。何しろ恋というものをするのが初めてで、勝手が分からない。世の中の恋人同士たちは、どうやってこの山を乗り越えたのか。
「いや、迷惑ではねえんだが……ちょっと、混乱している」
「珍しいな。だが、そうさせているのが俺だというのは、気分がいい」
「悪趣味なヤローだな」
跡部の眉間にしわが寄る。それさえも美しく見えてしまうのだから、跡部景吾というのは罪な男だ。
跡部は、整った容姿をしている。一度見たら忘れられないほど、強烈な印象を与える。だがそれは、魂からにじみ出る誇りと自信がそうさせるのだろうことも、分かっている。財閥の跡取り息子であり、氷帝学園の生徒会長を務めているどころか、二百人からいるテニス部員を率いれるのは、ただ強いというだけでは為しえない。跡部の確かな努力が積み上げてきたものだ。それを、テニスというスポーツを通して知ることができたのは僥倖だと手塚は想う。テニスを通さなければ、一生道が交わることなどなかっただろう。跡部という男と対峙させてくれたあの関東大会に、心から感謝をしていた。
「一応訊くが、男しか駄目ってわけじゃねえんだろ?」
「……考えたことはなかったが、そうだとは思う。お前以外に、こんなことを感じた記憶はない」
困ったように、跡部の片眉が上がった。手塚は今まで、誰かと交際をしたことがない。恋も、恐らくこれが初めてだ。だから、同性愛者なのかと問われてすぐにノーを返せなかった。しかし、他の同性を見ても胸がざわついたりはしない。何かしらの理由を作って逢いたいとは思わない。逢えたら逢えたで、帰り際がものすごく寂しくて切ない。
「お前の声が聞きたい。お前の顔を見たい。できれば触れたいんだ。だが拒まれることを考えると、何もできない。俺がだ」
「割と強引で自分勝手っていう自覚はあるみてーだな。分析できてるとこは褒めてやる」
「そうか、ありがとう」
礼を言う場面じゃねーんだがなと、跡部がほんの少し顔を背ける。迷惑ではないと言ってくれたが、同性にこんなことを言われて嬉しいはずもないだろうなと、その顔を見つめる。
「見てんじゃねーよ」
「無理だ。俺はどうしてもお前を追ってしまう」
即答した手塚に、跡部はかくりと項垂れて額を押さえる。呆れているように見えたが、指の間に見え隠れする頬が、わずかに赤いように思えた。他人からの告白など慣れているだろうに、そんな風になる理由が分からない。もっとも、その理由を探るよりめったに見られない跡部の頬が赤らむ様を眺めるコトの方が大事だったけれど。
「迷惑ではないと言ってくれたな。想うことは許容してくれるのか?」
たとえ駄目だと言われても、すぐに想いを止めることなどできやしないが、できれば好いた相手には嫌われたくない。プレイヤーとしてこの先もコート場で出逢うだろうし、気まずくなるのはお互いに避けたいのだ。
「…………迷惑ではねえんだよ、迷惑では」
少しの沈黙を経て、跡部は小さく呟く。明瞭な言葉で返してこないのは珍しくて、手塚は首を傾げた。迷惑ではないと強調するのは、その他の困りごとがあるということなのだろうか。
「お前のことはすげえプレイヤーだと思ってるし、テニスに誘われりゃ何をおいても乗る。そもそもテメェからの誘いなんざ次にいつあるか分からねえって薄情さがあるからな、逃せねえんだよ。最近はやけに多いなと思ってたが……まさかそういうことだとは思ってなかった」
「情に厚いお前に比べたら、そうかもしれないな」
「お前とテニスしたがってるヤツがどれだけいると思ってんだ? 自覚しやがれ。そんなお前が俺を誘ってくるんだ、嬉しいったらありゃしねえ。……本当に、嬉しかったんだぜ」
少しずつ俯いていく顔を、無理やり上げさせたい。できやしなかったが、これは跡部の機嫌を損ねたということだろうなと手塚は眉間にしわを寄せた。純粋にテニスを楽しんでいると思っていた相手の目的が、違うところにあったのだ。裏切られたとでも思っているかもしれない。
手塚とて、跡部とのテニスは楽しい。この想いに気づくまでは、確かに純粋だった。触れたいなんて不純な気持ちが混ざってしまった時点で、辞めておけばよかったのかもしれない。薄情だと思われるのと、裏切られたと思わせるのはどちらがマシだろうか。だが時間は元には戻せない。
「跡部。構わないから、迷惑なら迷惑と言ってくれ。その方が楽だ」
「迷惑じゃねえっつってんだろ、聞けよ!」
跡部が顔を上げて声を荒らげる。その勢いにびくりと体を強張らせたら、ハッとしたように跡部は顔を背けた。
迷惑ではない、テニスは楽しい、誘ってもらえて嬉しかった――なんて言われてしまうと、期待をしてしまう。いったいどういうつもりで、迷惑ではないと繰り返すのだろう。望みがないのならいっそ切り捨ててくれた方がいいと今し方言ったばかりだ。
「お前の、その……テニスにかける情熱は見ていて心地がいい。俺もまだ高みを目指していけると思わせてくれる。テメェがいるから、まだここにいたいと思っちまう。テニスを通してお前を知って、こうやって打ち合うようになって違うお前も知った。読み取りづれぇ表情も少しわかるようになってきてて」
「そうか」
「他愛ねえ話すんのも割といいなって思ってる。レギュラー陣とか、他の後輩たちの話とか、ああそうだ、生徒会のことも。俺はな、手塚。スマホの通知を気にするほど暇じゃなかった。端末だって使い分けてるし、経済ニュース見る方が多かったりすんだよ」
「経済ニュースか、さすが跡部だな」
「その俺が! なんでテメェからの連絡を待ってるみてえなことしなきゃなんねえんだよ、ふざけんな!」
頬を真っ赤に染めて指を指してくる。何を言われたのか分からず、手塚は目をぱちぱちと瞬く。人を指さすのは良くないなと途中で気がついて手を引っ込める跡部が可愛らしくて、お前こそふざけるなと張り倒してやりたい気分にもなった。
「なんなんだ、くそ……逢うたびにキラキラしてやがるし、そわそわするし、帰りたくねえって思うし」
「キラキラしているのはお前の方だろう、跡部。全部俺の台詞だ、取るんじゃない」
「お前が先に俺の台詞取ったんだろうが。……いや、これがなんなのか理解したのはついさっきだから、どうしようもねえが」
「待て跡部、いったいどういうことだ」
ますます分からないと困惑した手塚に、跡部は長いため息を吐いた。そうして両手を腰に当て、不遜な口調で言い放つ。
「結論としては……好き……なんだと思う。いや、好きだぜ手塚。テメェが自覚してんのに、俺が自覚できねえってことはない」
およそ恋の告白をしているとは思えない態度だ。手塚にできて自分にできないはずがないとは、なんとも色気のないことだが、そういう手でくるならばこちらも受けて立つだけだと、手塚は腕を組む。
「両想いだったということか。それは嬉しいが、絶対に俺の方がお前を好きだ」
「ふざけてんじゃねーぞ手塚ぁ。俺様の方がテメェを好きに決まってんだろうが」
「いや、俺は負けない」
「上等じゃねーの、勝負だ手塚ぁ! コート入りやがれ!」
望むところだと、いつもの二人に戻ってしまう。恋人同士としてもう少し甘い雰囲気になれるのは、まだ先のようだった。
#お題 #両片想い