華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.261
俺のCandy Star! 2017.07.17
#シリーズ物 #ウェブ再録
「丞」 電車を降りると、改札の近くで丞が待っていてくれた。 さすがに目立つなあと苦笑する。身長がある…
俺のCandy Star!
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「丞」
電車を降りると、改札の近くで丞が待っていてくれた。
さすがに目立つなあと苦笑する。身長があることもそうだが、堂々とした佇まいは、道行く人の視線を引きつける。役者として、羨ましい力だ。
「どうしたの? 丞が俺だけにLIMEしてくるなんて、初めてだね」
「……ちょっと、歩くぞ」
「うん?」
どこへ、と言いかける紬を放って、丞は歩き出してしまう。
紬の予定も訊かずに呼び出したところや、こうやって放っていってしまうところは、まだ昔みたいにはなってくれないなと、紬は丞の背中を追って歩き出した。
「ここらへんでいいか……」
「丞?」
丞がぴたりと立ち止まって、くるりと振り返る。また何か怒らせてしまったのかと肩を竦めたら、丞の表情が一瞬で変わった。
『いい加減にしろ! 今度という今度は、腹に据えかねた!』
よく通る声で、怒られる。今の状況からして、丞が紬自身を怒鳴りつけているようにも思えた。
だけど、紬には分かる。
昔は本当に毎日のように接してきた相手だ。分からないわけがない。
『どういうこと? なんのことだか分からない』
目の前の男は、丞ではない。紬も紬ではない。眉をつり上げて、目の前の男を睨みつけた。
『よく胸に手を当てて考えてみることだな。親父が亡くなった今、長男である俺が当主。お前はもう勘当だ』
『だったら言わせてもらうけど、アニキのそういう威圧的なところ、俺も嫌いだった――』
ケンカかと、事の成り行きを怖々見守っていた通行人も、ストリートACTであることに気づく。
このストリートでは珍しいことでもない。面白ければ観ていくし、つまらなければ素通りだ。
だがしかし、少し詳しい人間ならば、気づくはず。元GOD座のトップスターが、見たこともない男相手にストリートACTをしていると。
「ね、あれ丞さんじゃない?」
「ほんとだ、GOD座やめたって聞いて超ショックだったけど、こんなとこで観られるなんてラッキー!」
「相手の子、誰だよ? 見たことねーよな」
「俺も知らないな。でも……スター相手に負けてないんじゃね?」
「だよな、なんか……どっちも目で追っちまう」
兄弟がお家騒動を繰り広げていく中、通行人は芝居を邪魔しない程度にそんなことを囁き合う。もちろん、没頭している紬たちには届かなかったけれど。
『ここで話していても埒があかないよ、アニキ。裁判で決着をつけよう』
『いいだろう、望むところだ』
最後まで睨み合って、そのお家騒動はいったん幕が下りる。
はあ、と紬が息を吐いたあと、丞からも同じように息が吐かれた。
途端、わき上がる歓声。
「えっ?」
紬は思わず視線を周りに向ける。いつのまにかできていた人だかり。
「いつのまにこんな……」
「あっ、あの、投げ銭は結構です、そういうのじゃないんで」
丞も驚いて辺りを見回しているうちに、ギャラリーたちが財布を取り出して、観覧料としてのチップを渡そうとしてくる。紬はそれをやんわり断った。
お金のなかった学生時代は、よくそういうことをやっていたが、今は他に収入源もあるし、何よりそれが目的で来たわけではない。
丞もそうだろうと横目で見やると、ここに来るまでの表情が嘘のように、柔らかな「幼馴染み」がいた。
「丞……?」
「……行くぞ、紬」
「えっ、あ、うん」
丞はそう言って駅の方へ向かって歩き出してしまい、紬はギャラリーたちに観てくれたお礼を告げ、丞の背中を追う。
#シリーズ物 #ウェブ再録