華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.260
俺のCandy Star! 2017.07.17
#シリーズ物 #ウェブ再録
しかし次の日も、二人して朝から脱力する羽目になる。「また十二日……」「これで何度目だ、くそっ……」…
俺のCandy Star!
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しかし次の日も、二人して朝から脱力する羽目になる。
「また十二日……」
「これで何度目だ、くそっ……」
携帯端末の表示も、朝のニュースのアナウンスも、昨日と同じ十二日。
劇団のメンバーの行動も変わりなくて、昨日あんなことまでしたのにと、本当にうんざりとした陰鬱な気分だ。
「たすく、つむぎ~、またさんかく消えちゃった~! はやく仲直りして!」
談話室に、昨日の昨日と同じように三角が飛び込んでくる。彼がループしているのも変わっていないようだった。
「ご、ごめん三角くん。でも、仲直りってどうしたら」
「証明できるもんでもないだろう。しかも、ぬいぐるみ相手に」
「カンタンだよ~仲直りなんて! 本当に思ってること、相手にちゃんと伝えれば大丈夫! 今日はちゃんと仲直りしてね!」
そう言って、三角はまたさんかくを探しに行ってしまった。
「本当に思ってること、か……」
「丞、いったんみんなのところに戻ろう。いつまでも稽古中断にはできないよ」
「ああ……そうだな」
丞の声が、昨日までのどの時点よりも静かになる。
じ、と見つめられたような気がして、丞を振り向いたけれど、紬がそうする頃にはもう、丞がレッスン室へと足を向けてしまっていた。
(丞……?)
昨日までの昨日と違う、と紬は感じ取る。何がどう、という具体的なものを言葉にはできないが、丞から感じる拒絶にしか思えないオーラが、和らいでいるような気がした。
(気のせいかな……また自分に都合のいいように考えちゃってるのかも)
そうして、昨日と同じ今日の朝練を繰り返し、朝食にありつく。
臣の作ってくれたオムレツは美味しくて大好きだが、丞は少しうんざりしているように見えて、紬はまあ仕方ないよねと口の端を上げた。
「あ、万里くんドレッシング、使うでしょ?」
「え? あ、あー、どもっす。……なんで分かったの紬さん。こえーなー」
万里が、いつものようにドレッシングを頼んでくる前に、紬はつい手渡してしまう。まだ何も言ってないのに、と万里はサラダの器を前に目を丸くしていた。紬はハッとして、頬を赤らめた。
「あっ、あの、うん、なんとなく……?」
「へー……やっぱ紬さんに隠し事とかできねーよな」
万里はドレッシングの瓶を受け取って、困ったような、嬉しそうな顔をした。
紬はその真意を探ろうとして、首を傾げる。万里の心の中なんて分からないけれど、もしかしたら。
(もしかしたら、俺が万里くんのことを見てるって思ったのかな……。変な期待させちゃったかも……)
好きな相手に、気を遣ってもらえたら嬉しい。言わなくても分かってくれるのは嬉しい。
だけどこの時点の万里は、まだちゃんとした告白をしていないことになっている。悟られているのかと、困ってもいるのだろう。
(今日も……俺は万里くんの告白、聞くのかな……正直、もうどう反応していいのか分からないんだけど……)
昨日と同じ今日、何度目なのだろう。
繰り返しても気持ちが変わることはないのに、万里は何度も好きだと言ってくれる。
いや、万里にとっては一度なのだが、紬は複数回、告白されている。慣れというものは怖いもので、初日にあれだけ混乱していた頭の中も、今ではちゃんと整理されていた。
万里は本当に一生懸命、好きでいてくれる。
日ごと日ごとに言葉を換えて、伝えてくれる。
今日はどんな言葉で、明日はどんな言葉で、その先はいったい……?
憂鬱だった今日が、ほんの少し楽しみになってきてしまっている。十中八九、万里のせいだ。
そうして紬は、今日も同じことを教えるためにバイトに出掛けようとする。それを、万里が玄関先で呼び止めてきた。
「紬さん、大丈夫すか?」
「え、な、何が?」
「……いや、朝メシん時、ちょっとおかしかったから……」
おかしかったかな、と紬は苦笑する。
そういえば一昨日も、体調が悪いのではないかと心配された。
今日はそんなつもりなかったけど、と万里を見やれば、気まずそうな顔をして髪をかき混ぜていた。
「もしかして、昨日のストリートACTのこと真面目に……取ってるわけねーよな、悪い、今のナシ。ちゃんと言いたいし、気づかないでいーよ」
「……なんのこと?」
紬は、万里が何を言いたいのか気づいていて、あえて気づかない振りをした。
このカフェラテ色の髪をした年下の男の子を、困らせたくない。彼にとっては今日の夜が本番で、紬はまだ気づいてはいけないのだ。事実、万里は気づかれていないことにホッとしたようだった。
「でも、今日はなんか昨日より元気そうで安心したわ。昨日ほんとブルーだったもんな」
「そ、そうかな……うん、昨日よりは大分楽かも。またあのカフェ行こうね万里くん」
何度も繰り返した今日を、紬は少しずつ昇華していっている。昨日よりは元気に見えるというのは、そのせいだろう。それを聞いて、万里はものすごく嬉しそうな顔をしてくれた。
(……かわいい……)
万里は本当に、そこら辺の高校生よりも大人びた表情をするけれど、ときどきこんなふうに、年相応の笑顔を見せることがある。
それは紬にとって嫌なことではなく、むしろ嬉しいと感じてしまう。
(あ、かわいいって、褒め言葉だけど、万里くんに言ったら怒られるかな……。俺もまさか、年下の男の子をかわいいって思う日がくるとは、思わなかったけど)
こっそりふふと笑って、紬は万里に見送られながら寮をあとにした。
その日の夕方、いつもの昨日と違うことがあった。
【バイト終わったら連絡してくれ】
丞から、そうLIMEが送信されてきていた。
今までグループLIMEを送ってきたことはあったけれど、個人的なものなんて一切なかったのに。
どうしたんだろうと、紬は不安になって、まだ慣れないLIMEを一生懸命操作して、返信した。
【今終わったけど、どうしたの?】
【天鵞絨駅で待ってる。気をつけてこいよ】
すぐに既読がついて返信されてくる。メンバーや丞の身に何かあったわけではないようだと、紬はホッとした。どうせ天鵞絨駅で降りるのだ、今日はカフェでの休憩を断念して、紬は電車に飛び乗った。
#シリーズ物 #ウェブ再録