No.246

(対象画像がありません)

俺のCandy Star!-009-

俺のCandy Star! 2017.07.17

#シリーズ物 #ウェブ再録

「紬さん、悪い遅れて」「ううん、俺も今準備できたとこだから」 万里は稽古のあと、軽くシャワーを浴びて…

俺のCandy Star!

俺のCandy Star!-009-


「紬さん、悪い遅れて」
「ううん、俺も今準備できたとこだから」
 万里は稽古のあと、軽くシャワーを浴びて玄関へと駆けた。そこにはもう約束していた相手が待っていて、心臓が跳ねる。
 しかし稽古は、同じような時間に終わるはずだ。万里がそこからシャワーをしていた時間を考えると、どうやっても十分は待たせている。
 嘘が下手だよなあと思うくらいに、分かりやすかった。
「あ、シャワーしてきたんだ? この時期にシャワーだけって、寒くない?」
「へーきっすよ。つか稽古でトばしすぎてあっつかった」
「あはは……秋組の稽古大変そう」
 二人で約束のカフェに向かって歩き出しながら、先ほどまでの稽古のことを呟き合う。
 冬と言われる季節だ、ほんの少し肌寒くはあるけれど、稽古のあとは不思議とそんなことを感じない。気持ちいいくらいに熱に浮かされて、他のメンバーに引っ張られながらも、新たな発見につながるのが面白い。
「この間紬さんに教えてもらったパントマイム? やってみたんすけど……難しいすね。何やってんだって左京さんには不審がられたし」
「そんなに簡単にやられたら怖いな……。でも、万里くんにはすぐ追いつかれそう」
「俺、正直小さい動きとか仕草って苦手なんだよな。できるけど、キレイかっつーとそうでもないだろうし。そこらへん紬さんには勝てないっすよ。前も言ったかもだけど、紬さんの、仕草だけで伝える技術っつーのかな、すげぇと思うぜ。アンタの演技、好きだし」
 ひょいと顔を覗き込んで、口許に笑みを浮かべる。びっくりして大きく見開かれた瞳と出逢って、そこに自分が映り込んでいることに幸福を感じた。
(アンタのこと、好きだし)
 そう、言えたらいい。
 この気持ちに気がついてからというもの、万里の世界は一変した。
 一八〇度とまでは言わないが、一五〇度くらいはくるりと変わってしまったように思う。
 紬のことを考えるだけで胸がくすぐったい。憂鬱だった朝さえ、紬の顔を見られると思うと嬉しい。芝居が面白いと思うのと同時に、紬に追いつきたいと思うようにさえなった。
 落とそうか、落とすまいか、未だに悩んでいるけれど、多分スイッチひとつで、転がり落ちてしまうだろう。
「そ、そうストレートに言われると恥ずかしいな……でも、ありがとう万里くん」
 気まずそうに視線を逸らして、恥ずかしそうに頬をかく紬。彼らしい反応に笑い、万里は正面に向き直る。
(へーきへーき、これっくらい想定内っしょ。……想定内、想定内)
 想定内ではあるが、予想以上に可愛らしかった。
 紬を好きだという気持ちは、もうごまかしようもなくて、否定するつもりもない。
 だけど、それと落としにかかるかどうかは別物だ。彼が女であれば、遠慮なく口説かせてもらうし、落とす自信もある。
 だけど、紬は男だ。
 万里とて男もイケるなんて今回初めて知ったし、普通は恋愛対象外だ。いや、男もイケるというよりは、紬だからだ。
 例えば中性的な東にも欲情なんてしないし、女装が好きな幸にも、年齢がどうこうでなく欲情しない。咲也の一生懸命なところは可愛いと思うが、だからって性的対象にはならない。ゲーム仲間の至にだって、いつか認めてもらいたいと思っている左京にだって、多少胃袋を掴まれた感のある臣にだって、欲情はしない。十座なんてもってのほかだし、もっと言えばいづみにだってそういう目を向けたことはない。
 紬だから、触れてみたい。
 紬のような丁寧な仕草で、紬に触れたい。抱き締めたい。キスをしたい。
 だが一方的な想いでどうにかできるのは、想像の中だけ。
 こんな劣情を目一杯含んだ感情を、紬が受け入れてくれるかどうか――無理に決まっている。
 よくて普通に振られるか、避けられる。悪くすれば軽蔑のまなざしを向けられて、ジ・エンドだ。
 どう考えてもうまくいかない。
 それに、紬の性格からすると、気にして引きずってしまうだろう。せっかく告白してくれたのに、せっかく好きになってくれたのに、傷つけてしまったと。
 下手をすればそこからさらに自身を卑下して、自信をなくしてしまうかもしれない。
 それが、万里が恋を打ち明けるのをためらう理由。
 紬にこの想いを告げて、自分が傷つくのは構わない。自分自身が選択したからだ。だけど、振ってしまった方の紬は、選択できない。落ち込みやすいんだろうなというのは、ここ数日接してきただけでも分かる。
 言いたいことを言えずに、欲しいものを欲しいと言えずに、我慢して溜め込んで、自分一人で抱え込もうとするひとだ、と見ていて分かる。
 そんな紬に、この感情を押しつけることなんかできるはずもない。
 ただでさえ、今劇団が大変なことになっているのにだ。
「なあ紬さん。そういやアレどーなったの」
「アレ?」
 お気に入りのカフェに着いて、お互いそれぞれ好きな物をオーダーする。緑の豊かな静かな店内は、紬の心を落ち着けてくれるだろうか。万里は頼んだキリマンジャロを口に含みながら訊ねる。
 紬は首を傾げたけれど、すぐに万里の言いたいことに気がついて、視線を落とした。
「うん、大変なことになっちゃったよね……ただでさえできあがってない俺たちの組が、まさかGOD座とタイマンACTだなんて」
 紬の声が沈んでいく。一緒に頼んだシフォンケーキを取り分けるフォークも、心なしか力がないように見えた。


#シリーズ物 #ウェブ再録