華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.200
その他ウェブ再録 2014.02.09
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い
イクスアインは、アードライの頭に銃口を突きつける。敵機のパイロットである流木野サキを、なんの条件も…
その他ウェブ再録
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イクスアインは、アードライの頭に銃口を突きつける。敵機のパイロットである流木野サキを、なんの条件も出さずに解放してしまったのだ。おかげでドルシア全軍を挙げての戦いになりそうだ。
アードライのしたことは明らかに背任行為であり、およそ見過ごせるものではない。
「何をしたのか理解しているのか? アードライ」
流木野サキは、どう好意的に見ても普通の人間ではなかった。彼女を詳しく調べれば何かつかめたかもしれないのに。
「特定危険生物七号……彼らのせいですべては狂ってしまった」
ドルシアを勝利に導く鍵がみつかったかもしれないのに、彼はそれを逃してしまった。しかしアードライは自己を弁護するどころか、罪だと言った。信じきることができなかった自分自身への罪だと、死さえ覚悟していたかもしれない。
イクスアインは、俯き加減のアードライに向かって、静かに口を開いた。
「ドルシアを革命する計画もか?」
「な……っ!?」
一瞬の間を置いて、アードライは勢いよく顔を上げた。なぜ、と視線だけで問いかける。革命を目論んでいたのは、あの男にしか……エルエルフにしか話していない。
「かつてカイン大佐に言われて、旧王族であるきみを内偵したことがある。報告しなかったことを後ろめたいとは思ったが、今になって思えば正しい選択だったようだ」
報告しなかった? とアードライは眉を寄せた。カインの命令に誰よりも忠実だったイクスアインが、命令に背いていたというのか。いや、それよりもその選択が正しかったとはどういうことだ。
瞬きさえ忘れたようなアードライの眼前に、すっと手を差し出す。イクスアインはハーノインの遺したピアスを作動させ、彼の最期の様子をアードライに聞かせた。
イクスアインの肉体を同胞のものに、と笑うカインと、腹の底から怒りを吐き出すハーノインと、祝砲。そこでイクスアインは装置を止める。
「これは、まさか……!!」
アードライの目が、これ以上ないというくらいに見開かれた。押し殺した声は、にわかには信じられない思いを表している。
疑ったこともなかったようだ。まさか、まさかハーノインを殺した相手が、
「そうだ。ハーノインを殺したのは、カイン大佐だ」
イクスアインはアードライの飲み込んだ言葉を引き継いで、確かな意志とする。疑ったこともなかったのはイクスアインも同じだ。
イクスアインとアードライの視線が交錯する。いつだか、上官と恋人どちらを選ぶかという言葉を交わしたことを互いに思い起こして。
その時彼には、分からないと返したイクスアインは、ハーノインのつけていたそれで自身の耳を挟み込んだ。突起が皮膚を傷つけ、血が流れても構わずに。
「私はハーノインの……友の仇を討ちたい」
ハーノインには、カインを選ぶかも知れないと告げた。だが、ハーノイン以上に愛しく想う者などいないとも告げた。
「愚かだと思うかもしれない。だが私は、それしかアイツに謝る方法を見つけ出せないんだ」
アードライが目を瞠る。
力を貸してほしいと続けるイクスアインに、よく考えもしないで頷いた。
普段冷静ぶっているが、イクスアインは案外激情家だった。ハーノインが、そんな彼を穏やかに包み込んでいたおかげで、冷静でいられたのだろうか。
ようやく、本当の姿を見たような気さえした。
「イクスアイン、先日も言った。私の前でそう気負うな――仲間だろう。敵を同じくする、仲間だ」
改めてよろしく頼むと、アードライは手を差し出す。
イクスアインの敵はカイン・ドレッセル。アードライの敵は、狂ってしまったドルシア。
「自身と、国の革命を―」
それを行うためなら力を貸すし、力を貸してももらう。
まっすぐに見つめてきたアードライの手を、イクスアインは強く握り返した。
そうして、たった二人での革命に身を投じようとした時、仲間がもうひとり増える。
負傷兵になりすましてドルシア軍内に侵入してきた、エルエルフだ。アードライが、信頼を裏切られたと思っていた、戦友。
「同じ作戦を使うのはあまりお勧めしないな、エルエルフ」
「それに気づくのは、お前たちと、……カインくらいなものだ」
久しぶりにドルシアの軍服に身を包んだエルエルフは、そう言って苦笑した。彼もまた、カインを敵とする者だ。
「しかし、ハーノインが死んだとはどういうことだ?」
「エルエルフ、少し口を慎め。イクスアインのことも考えろ」
「アードライ、構わない。アイツがいないのは事実なんだ」
もう少し言い方というものがあるだろうとエルエルフを諫めたアードライを、イクスアイン自身が宥める。言い方をどうしようと、ハーノインが今ここにいない事実は変わりがない。
イクスアインは、エルエルフにもハーノインの最期の音声を聞かせた。なにが起こったのかは、彼なら分かるだろう。
「―ハーノインは、お前を守りたかったのか」
ドキリと心臓が鳴った。
この生物たちは肉体を替えながら今までを生き延びてきたようで、つまり入れ物となる体が必要だったのだ。イクスアインがその犠牲になるところだったのを―ハーノインが止めてくれた。まさに命を賭して。
「そう……だな、ハーノは、私を私のままでいさせるために命を落とした」
あの時逃げ出していれば、命は助かったかもしれないのにだ。激情に任せて命を落とすなんて、お互い軍人には向いていなかったのかもしれないなと、イクスアインは目蓋を伏せる。
「ハーノのあの時の怒りは、私の今の怒りだ。カインは、私がこの手で葬る」
邪魔はさせないとイクスアインは目を開け、睨むようにもエルエルフを見つめ返した。
「…………止めはしない。俺たちはそれぞれの願いのために動く。それだけだ」
エルエルフも、愛したひとを亡くした。エルエルフたちを守るために、光と共に散っていった。
彼女の意志を継ぐのは自分だと、ただそれだけで剣を手に取るエルエルフに、イクスアインを止めることなどできるはずもない。
「ただ、命を無駄にはするな。俺の愛したひとは、それをなによりも嫌った」
「―ああ、分かった」
イクスアインは薄く笑い、ほんの少し嘘をついた。
「俺は総統たちがマギウスだと世界に知らしめる。それで人心は離れるだろう。混乱は避けられないぞ」
「エルエルフ、お前が……リーゼロッテ姫が望んだ世界は、人とマギウスの共存なのだな」
そうだ、とエルエルフはアードライに答える。人をエサにして生きるマギウスを、食われる側の人間が受け入れられるとは思わない。だが、犠牲を出さずに両方が生きられる方法があるはずだ。彼女はそれを望んでいた。
なんとしてでも、世界を革命しなければ。
「百一人評議会の考えでは、彼女の意志に反する。世界を暴いたあとは、世界を作り上げていくんだ」
三人はいたるところに武器となるナイフを仕込み、全世界に向けてジオールへの一斉攻撃を説くドルシア総統の元へ向かう。
革命は、ここから始まるのだ。
―ハーノ、お前はやっぱり怒るだろうか。
イクスアインは首にかけたネックレスの石に、軍服の上から触れる。ハーノインの髪色をしたものだ。
ハーノインがイクスアインの髪色をしたピアスを身につけていたように、自分も彼の色をしたものをと思い、一緒に買いに行ったもの。
イクスの肌に触れるのは、これと俺だけな、なんて言って口づけてくれたことを思い出す。
ハーノインが望んだのは、世界を暴くことでも、世界を革命することでもなかった。イクスアインがこの世界に生きていることをただ望んだだけ。今から行うことは、彼のその願いに反することかもしれない。
―だけどやはり許せないんだ、ハーノ。
ハーノインが愛する相手を守り抜いて散ったように、エルエルフが愛するひとのために世界を革命しようとしているように、自分も愛のために生きて、死にたい。
人生の半分以上を戦いの中に身を置いてきたが、今ほど気分が高揚しているのは初めてだ。死へと向かうかもしれない身で、不思議な気分に陥る。
イクスアインは、人知れず口の端を上げた。
ああ自分はこのまま死ぬのだと、機体に入り込んできた水に埋もれながらイクスアインはぼんやりと思った。
せめて刺し違えてでも仇を討ちたかったが、叶わぬままで散っていく。力が足りない自分が悔しくてたまらなかった。
―向こうに行ったら、逢えるだろうか……それでお前に怒られて、罵られて、きっと最後に仕方のないヤツだなんて笑われる。
それでもいい、それがいい。
仇が取れないなら、ハーノインがいないなら、革命したあとの世界なんてどうでもいい気さえした。
「ハーノ……」
最後に小さく呟いたつもりだった。
なんの拍子か、その声でハーノインのピアスが作動してしまう。
は、は、という激しい息づかいと、苦しそうなうめき声が、耳元で聞こえた。
イクス、と名を呼ばれる。彼の声を最期に聞けるなら、それほど悪い人生でもなかったと、イクスアインは目を閉じた。
次の瞬間、
『―生きろよイクス、愛してる』
笑う吐息と共に、囁かれた。
目を瞠る。あの銃声のあとにまだ生きていた―まだ声が続いていたのかと、今になって初めて聞いた本当の最期。
イクスアインは笑う。勝手な男だと。
勝手にカインを不審に思い勝手に行動し、そして勝手に一人で逝った。
「まったくお前というヤツは、こんな時にまで……―」
それでも生きろと言うのかと、グリップから手を離して上げる。
それが愛した男の望みなら。
#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い