華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.133
ミハアルウェブ再録 2011.10.23
#ミハアル #片想い #ウェブ再録
「ル、ルールって……?」「終わりの合図」 ミハエルの答えはひどく簡潔なもので、アルトは首を傾げる。「…
ミハアルウェブ再録
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「ル、ルールって……?」
「終わりの合図」
ミハエルの答えはひどく簡潔なもので、アルトは首を傾げる。
「その日のメールをやめる合図ってことか?」
「そういうこと。その合図以降は本当に緊急のものじゃなきゃ返信はしない。つーかそういうのは電話しろ。返信待って悶々してんのがイヤなんだろ?」
すべてお見通しかと、アルトは気まずそうに視線を逸らした。
メールの返信が来ないな、何か気に障ること書いてしまったかな、届いてないのかな、もしかして何かあったのかな、……なんて、考え出したらキリがない。
だけどそうやってルールを作ることによってそれはなくなるだろう。
「でも、合図って何を」
「んー……どうしようか」
「考えてないのかよ」
「今思いついたんだから、しょうがないだろ。お前が泣きそうになってるから言ってやったんだぞ、感謝くらいしろよ」
泣きそうになんてなってない、と否定を返すことは忘れずに、アルトは考える。
メールの終わりの合図というのだから、何かの記号か文章になる。しかし、お互い絵文字など使わないし、わざわざ記号を打つのも面倒だ。かといって、もうやめにしようなどという文章では少しきつい感じがするし、なんだか別れ話のようにも思えてしまう。
「じゃあ、おやすみ、かな」
「おやすみ?」
ミハエルが呟いた単語に、アルトは瞬いた。
「そう、おやすみってメールして、それに返信するのが最後。たとえばアルトがおやすみって俺にメールしたら、俺もおやすみって返信して、それで終わり。あとは翌日学校でってことになるな」
そこまで状況を説明してくれなくても、把握はできる。
だがこんな風にかみ砕いて説明してくれるところも、女性に人気のある理由のひとつか。きっと、少しでも声を聞きたいからと、分かっていても説明を求める可愛らしい女性もいるのだろう。
「お前がメールしてくると結構時間かかるしさあ、ちょうど寝るくらいの時間になるだろ」
「……悪い、だってお前の分かりやすいからつい……いろんなこと訊いちまって」
そんなに遅くまでメールの応酬をしているわけではないと思っているが、バイト中だったり、……デート中だったりしたら悪いなと、感じてはいるのだ。
しかしミハエルは、責めているんじゃないと笑ってくれる。
「まあどうせなら、もうちょっと砕けた内容の方が楽しいかな。フライト関係だけだと、まだ学校にいるような気になっちまう」
「え、それって、どういう」
ミハエルがおかしそうに携帯電話のメールボックスを確認している様に、アルトは不思議そうに声を上げる。
「少しくらいプライベートなこと入れられないのか? お前まさか女の子とのやりとりもこんななんじゃないだろうな」
ただのチームメイトに、自分のプライベートを話す義務はない。いや、話してもいいのだとは思わなかった。そして逆に考えれば、プライベートに踏み込んでいいものだとは考えていなかったのだ。
「プライベートとかそんなん……そもそも女とメールなんかしねえし。お前と一緒にすんな」
「えっ、マジで言ってんのアルト! うわあ……お前マジで天然記念物か何かじゃねえだろうな」
まるで本当の珍獣でも眺めるように、ミハエルは顎に手を当てて考え込む。
自分自身の交友関係が幅広く、褒められた物でないというのは自覚しているが、年頃の男子高校生が異性との交流に興味がないというのはどうしたものか。
「分かった、お前やっぱり俺が好きなんだろ。俺にしか興味がないとか」
「……絶対に違う!」
アルトは、まさかそんな風に返されるとは思っていなくて反応が遅れる。少し間が空いてしまったのは、驚いただけだ。そうに決まっている。
「まあ、それはおいといてもさ、アドレス交換とかしてないのか? お前のアドレス知りたがってる子、結構いたと思うんだけどなあ」
「そんなヤツいねえだろ、なにが楽しいんだ。今アドレス入れてんのって航宙科のメンバーだけだぞ」
以前連れて行かれた店のクーポンだかなんだかは届いているけれど、見てもいない。話題らしい話題もないのに登録してどうするんだと、アルトは首を傾げた。
なるほど、とミハエルは短く息を吐いた。これだから空にしか興味のない男は、と。
だがしかし、少し考えてみれば女生徒たちの気持ちも分からないではないのだ。アドレスは知りたいけれどおいそれと話しかけられるような風貌ではないのだ、このお姫様は。
ミハエルのように、アドレスを知っているだけで女性が自慢できるような振る舞いはいっさいしていない。根本的にライフスタイルが違うなあと、改めて感じた。
「ま、もし女の子とのやりとりで困ったことがあれば、それは相談してこいよ。からかったりしないでちゃんと聞いてやるからさ」
「はぁ?」
アルトの表情はますます怪訝なものになる。女性からのそういったアプローチはない(とアルトは思っている)し、ミハエルに相談しなければならないほど深刻な状態にはなりそうもない。
「そんな相談、しないと思うけどな。だったらお前も聞かせてくれるのかよ。そういう……プライベートとか」
「俺のって。お前には刺激が強いぞ」
「女関係じゃなくって! そんなん聞きたくもねえ。そうじゃなくて、お前のことだよ」
ミハエルは笑いながらかわすけれど、アルトにはそんなもの通用しなかった。
「お前のことを知りたいんだ」
まっすぐに見据えてくる視線に、ミハエルはぱちくりと目を見開く。
「俺のこと……?」
ああ、とアルトは頷いた。
どうしてあんなにも綺麗に空を飛べるんだろう。普段なにをしていたら、あんな風にシミュレーションがクリアできるのだろう。どう交流していたら、行く先々で知り合いができたりするのだろう。
「俺が自分のこと話したら、お前も教えてくれるのか? どこまで訊いてもいいものなんだ? 今までお前みたいに家のこと関係なく接してくれるヤツっていなかったから、正直言ってどうしたらいいか分からないんだ」
変なことを言っていたら悪いと付け加えて、視線を下に向ける。メールのやめどころが分からないのもそのせいだろうなと自己完結して、ミハエルからの返答を待った。
「今、口説かれてんのかと思った、俺」
だけど、待ったはずのミハエルの返答は、的をはずしたもの。
「……は?」
「いやあ、だってさ。俺のこと知りたいとか言われたら、ドキッとするだろ? ずーっとメール待ってたりさ」
男はそういうのに弱いんだぜと付け加えられて、ボッと顔から火を噴く。
「な、認めたらどうだよアルト。お前は俺のこと好きなんだって」
「なんなんだよお前、さっきからずっとそんなんばっかり言って! メールがイヤならイヤってはっきり言ったらどうなんだ!」
「あれ、否定しない?」
「お前なんか好きじゃねーから!」
言われてからハッとして、アルトは慌てて否定を返した。
なにを考えているのだろうこの男は。なにをどうしたら、惚れただの好きだのという発想になるのか。
そう思って、アルトは自分の言動を思い起こしてみる。そうして血の気が引いていった。
確かに、ずっとメールを待っていただとか、他の女と一緒にいるのが腹立たしいだとか、もっと知りたいだとか、そんなことを思って、あまつさえ本人にそれを言ってしまうというのは失態だ。
意識して考えてみれば、恋するオトメと捉えられても仕方がない。
「あのなミハエル、俺は男なんだ。いくら今は女に興味ねえって言っても、そういう意味でお前のこと知りたいって思ったわけじゃねえ」
落ち着いて考えてくれ、と呆れながらミハエルをいさめる。
そう、これは純粋にライバルとしてだ。もっと深く知れば、技術を盗めるかもしれないという、空への憧憬の副産物だ。まあ、おまけだ。
そうだ、きっとそうに違いない。
「……ふぅん、まあいいけどさ。アルトは俺と、今の仲間っていう以上の関係になりたいってことだろ? 別にいいよそれは。友人としての範囲でプライベート話し合うのは、俺だって歓迎だ」
納得したのかしていないのか曖昧な言葉を残しつつも、まるで何でもないことのように笑ってくれる。友人としての範囲なら、おかしなことではないだと、アルトはホッとした。
距離を縮めたいと思うのは、なんら不思議なことではないのだと。
「じゃあ、今日からよろしくアルト姫。まったく、授業の前にひとっ飛びしようと思ってたのに、お前のせいで丸つぶれだよ」
「俺のせいかよ。元はと言えばお前がメール返さないからだろ」
「絶対に俺のせいじゃない。この貸しは今日放課後のメシだな。どっかでオゴれ」
「なんで俺が! ……え、あ、ってことは今日バイトないのか?」
朝早くからロッカーに行った意味を二人で意味のないものにし合って、登校した時のまま教室へと向かう。廊下でかけられる声に、ミハエルはいちいちにこやかに返していて、アルトの気に障った。
「ああ、今日はデートの予定もないしね。特別に今日はアルトとデートしてやるよ」
女生徒に向けていた笑顔をそのまま向けてくれて、アルトの心臓が鳴る。ミハエルの周りの女性たちはいつもこんな笑顔を見ているのかと思うと、昨夜の胸の痛みが蘇ってきた。
「お前はまたそういうこと言う! せっかくメシ作ってやろうと思ったのに、やめたやめた」
そうだ、この胸の痛みも、ミハエルなら分かるだろうか。いつか訊いたら、彼ならきっといつものように明快な答えをくれるはず。
「えっ、作ってくれんの? この間もらった弁当上手かったし、また食いたい」
「おい間違えんなよ、あの弁当はお前が勝手に食ったんだ」
そうだっけ、と笑うミハエルの横顔を眺め、胸の痛みを我慢した。
#ミハアル #片想い #ウェブ再録