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No.640
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.18
跡部の部屋の大きなテレビで、映画を観た。 越前リョーマを主人公とした、歌とダンスとテニスという、驚…
No.640
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.18
跡部の部屋の大きなテレビで、映画を観た。 越前リョーマを主人公とした、歌とダンスとテニスという、驚…
跡部の部屋の大きなテレビで、映画を観た。
越前リョーマを主人公とした、歌とダンスとテニスという、驚きの要素たっぷりのものを。
「ただの同級生、ねえ……」
肘掛けに頬杖をついて、跡部はなんだか楽しそうに笑っている。画面には、越前がマフィアのたまり場に乗り込んだ場面が映っていた。
「竜崎とは付き合ってんじゃねーのかよ、あの王子様」
「ただの同級生だというんだから、特別な交際はしていないんじゃないのか?」
「いや、ただの同級生のためにマフィアんとこに乗り込んでいくのかよ。命知らずにもほどがあんだろ」
まあ危険極まりない行動ではあるな、と手塚も腕を組んで頷いた。間違って攫われた同級生と自分とを交換しろというのは潔い取引のような気もするが、無謀すぎる。
「竜崎の方はどうなんだ? 越前に惚れてたりすんのか」
「どうだろうか。仲良くテニスをしているところは、何度か見かけたことがあるが……そういう好意があるかどうかまでは分からない」
「役に立たねえな」
チッと舌を打たれて、手塚は眉を寄せた。確かに、色恋沙汰にはとんと疎い手塚だ。そういう話題の役になど立たないだろうが、貶されるのは嬉しくない。
しかも、好きな相手には。
手塚は跡部のことが好きだった。もちろん、恋愛としての意味で。
テニスを通して知り合って、連絡先を交換して、放課後や休日には何度か打ち合うくらいの間柄になれたのはいいが、その先の関係には発展できるのかどうか。
難しそうではあるが、絶対に無理だとは言い切れないような気もする。
少なくとも、友人と思ってくれてはいるのだろう。こんなふうに家に招いて鑑賞会などするのだから。最初は確か、昔の世界大会を観ていたのだが、それが終わったあとのこれだ。
これもテニスに関していなくはないし、自分たちもまったく関わりがないとは言えない映画だ。二人で観るのに、なんら異論はない。
こちらとしては、むしろ一緒にいられる時間が延びてとても嬉しい。
好意は、持たれていると思う。
だがこの関係を訊かれたら、先ほどの越前と同じように、「ただのテニス仲間」と答えられそうだ。それならまだいい。「倒すべき好敵手」の方が合っているかもしれないと、指先で額を押さえる。
どうにか進展しないものだろうかと、跡部の横顔を盗み見る。相変わらず綺麗な顔をしているなと、頬が染まるのを感じた。
「なんだよ、手塚」
振り向かないままで名を呼ばれ、ぎくりと心臓が嫌な音を立てた。なぜ気づかれたのか分からないと、何も答えられないでいたら、ふっと笑いながら跡部が振り向いてくる。
「お前の視線に気づかないわけねーだろ。アーン?」
今度こそ頭を抱えたくなった。人の気も知らないで、期待するようなことを言わないでほしい。
それはつまり、手塚が跡部を見過ぎているということではないのか。いや、それとも本当に、跡部が自分を気にかけてくれているということだろうか。
「…………もしお前が人質に取られたら、俺はどうするだろうなと考えていた」
じっと見ていたことに、何かそれらしい理由をつけなければと、一切考えたこともなかった仮定を呟いた。呟いてみてから、なんて馬鹿なことをと自分に呆れもする。
「なんだよ、助けに来てくれんのか?」
「それは行くだろう。だが、助ける前にお前は自分でどうにかするに違いないと思った。テニスの勝負は喜んで受けるだろうし、その上で何か交渉するしたたかさがある」
想像をしてみて、大人しく捕まっている跡部景吾というのがまったく頭に浮かんでこなかった。むしろ嬉々としてラケットを構える方が彼らしい。
そう、思ったことを素直に返してみれば、跡部は肩を震わせて笑い、やがてそれを高笑いへと変えた。機嫌は損ねていないようで安堵する。
「いいな、手塚。最高じゃねーの」
「そうか」
「俺のことちゃんと分かってくれてるって思うぜ。けど、お前も大人しく捕まるようなタマじゃねーよなあ。どう考えても。助けに行き甲斐がねえ」
ぽん、と肩を叩かれる。急に距離を詰められて、心臓が鳴った。キラキラとした金の髪が眩しくて、手塚は思わず目を細める。
「助けに来てくれるのか」
「まあお前が困ってりゃな。何を置いても助けに行ってやる。でもな、やっぱり俺も、ヤクザだろうがマフィアだろうがテニスで打ち負かしてるお前しか想像できねぇ」
楽しそうに笑う跡部が、やはり好きだと手塚は思う。理解してくれていると彼も言ったように、彼も手塚国光という男を理解してくれている。それが嬉しくて、思わず口許が緩んだ。
「てづ……」
どうしてか、跡部が声を飲んで目を瞠る。何か言いたげで、だけど何を言ったらいいか分からないような表情をしていた。
「跡部? どうした」
「い、いや、なんでも」
ふいと跡部が顔を背けた頃、画面は越前と竜崎が教会に入ったところだった。ナイフで切られてしまった髪を留めるといい、とリボンを投げてよこす越前の行動に、「キザだな」と跡部が呟く。
「竜崎が越前に好意を持っていたら、これは……嬉しいのだろうな」
「そりゃそうだろ。惚れた男が髪を気にしてくれてんだぜ」
そうして、三つ編みを直すのではなく解いてポニーテールへと変えた竜崎の姿に、越前はなんとも言えない表情をする。普段とは違った髪型に、心臓がおかしな音を立てたらしい。
「いやこれ越前のヤツ絶対竜崎に惚れてんだろ。なあ」
「ただの同級生、ではなくなったかもしれないな」
「甘酸っぱいじゃねーの。こいつらはうまくいってほしいもんだぜ」
苦笑する跡部に、手塚の中で何かが引っかかる。越前と竜崎にうまくいってほしいという気持ちはよく分かる。後輩のピュアな恋は応援も見守りもしてやりたい。
「……こいつらは、というのは……どういう意味だ? 跡部、お前もしかして……好きな相手がいるのか」
引っかかったのは、そこだ。彼らは、というのなら、うまくいきそうにない恋が身近にあるのだ。もしかしたら、自分自身の。
「え、あ、いや、えっと……」
珍しく不明瞭な答えに、確信した。跡部自身の恋なのだと。
ということは、自分の恋もうまくいかないということになるなと、手塚は痛む胸に手を当てる。
「……ただのテニス仲間に言われてもあれだろうが、……うまくいくことを祈っている」
めいっぱい気持ちを押し殺して、そう告げてやると、跡部の顔が寂しそうに沈んでいく。そんなに絶望的な恋ならば、いっそ俺を好きになってくれと言ってやりたい。
「…………ありがとよ、鈍感テニス馬鹿」
ふいとそっぽを向かれて、ハテナマークが押し寄せてくる。
いったいどういうことだと訊ねかけた手塚の手の甲に、そっぽを向いたままの跡部の手が重なってくる。
「……嫌なら撥ねのけな」
それが意味するところをにわかには信じられなくて、手塚は目を見開いたまま、間抜けにもぽかんと口を開ける。
テレビ画面の向こうで、何匹もの黒いにゃんこが越前の手から飛び出していった。
#お題 #両片想い #映画ネタ