No.483

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恋をしている-006-

塚跡WEB再録 2021.10.02

#塚跡 #両想い #ラブラブ #ウェブ再録

「手塚、メシ食ってねえんだろ。用意させたぜ」 俺の部屋でいいだろと有無を言わさず招き入れられる。まあ…

塚跡WEB再録

恋をしている-006-



「手塚、メシ食ってねえんだろ。用意させたぜ」
 俺の部屋でいいだろと有無を言わさず招き入れられる。まあ確かに空腹ではあると、ありがたくいただくことにした。
 跡部はデスクで何か書類に目を通している。生徒会の仕事を持ち帰っていたのか、それとも部活の方の関係か。
「練習メニューの相談受けたヤツと、うちのスポーツ事業部の業績だ。目を通しておけと言われてるんでな」
 手塚は目を瞠り、思わずスープをすくう手が止まった。
 テニス部の練習メニューというのは理解できるが、うちのということは、跡部家が展開している企業関連ということだろう。
 跡部の事業を継ぐ身であると自覚していて、彼は常に学び高みを目指している。
 誇らしいのと同時に、手の届かない存在になってしまいそうで恐ろしい。
 せめて彼と対等でありたい。テニスも、この関係も。
「で、さっき電話で言ってたことはいったい何だ?」
 書類をピンと爪の先ではじきながら、跡部が口の端を上げる。手塚は跡部を振り向き、ひとつ瞬いた。
「俺様に愛情表現できているか、……だったか?」
「……不二に、言われたんだ。俺は顔にも出ないから、伝わっていないのではないかと」
 気まずい思いをごまかそうと顔を背ける直前、手塚の目にはぽかんとした表情の跡部が映った。
「跡部は、言葉にしてくれるだろう。何度も俺に好きだと言ってくれた。もうお前の気持ちを疑うことはないというのに、それでも」
 スープを飲み干して、彼の好きだというノンアルコールのシャンパンとやらを流し込む。これで酔えてしまえたらいいとも思ったが、酔った状態で告げる言葉ほど不誠実なものはないなと思い直した。
「お前を想う気持ちは嘘じゃない。言葉にしたいとも思っている。だけど、お前を前にすると上手く言葉が出てこない。目に映すだけで、抱きしめるだけで俺自身が満足してしまって、伝え損ねる」
 俯くと、跡部が椅子から腰を上げる気配がした。また叱咤されるのだろうと思って、拳を握りしめた。
 つかつかと歩み寄ってきた跡部が、呆れ気味に腰に手を当てるのが分かる。
「顔上げな、手塚。そして俺様を見ろ」
 見ろと言われれば、見たい。後ろめたさがないわけではなかったが、恋情は正直だ。顔を上げて彼を振り仰げば、遠慮のない唇が降ってきた。
 二度ほど瞬く間に離れていった薄い唇は、楽しそうに笑う。
「跡部……?」
「不二も面白いこと言うじゃねーか。これだけ俺様への気持ちがだだ漏れな男を相手に」
 え、と言葉を止めた。今度は手塚の方がぽかんとする番だった。
 固まって二秒、ハッとして眼鏡のブリッジを押し上げ、眉を寄せる。
「だ、だだ漏れとはどういう意味だ」
「アーン? そのままの意味だぜ」
 十人に聞けば十人ともが、だだ漏れなのは跡部だけだと言うだろう。そう信じて疑わなかったし、自覚もしている。
 それなのに、彼の目には違って見えるらしい。
「まぁ自分じゃ気づかねーかもな。いや……不二のヤローがそんなふうに言うってことは、お前のそれは本当に俺様と二人きりの時だけらしいな」
「え?」
「お前が俺を見つめる目がな、もう言い訳しようがねえくらい俺を好きだって言ってんだよ」
 跡部の言葉を頭の中で反芻して、把握して、珍しくカッと顔の熱を上げた。そんな馬鹿なと言ってしまいそうで、手塚は思わず口許を手で覆い隠す。確かに跡部といると、気がつけば彼を見つめてしまっているが、いったいどんな目をしていたというのか。
「おい手塚。まさかとは思うがお前、本当に気づいてなかったのか?」
「い、いや……そこまで言われるほどとは思っていなかった」
「甘ぇな。俺はお前の告白聞く前に気づいてたんだぜ。むしろテメーが自分の気持ちを自覚する前からかもしれねえが」
「は?」
 驚くのは二度目だ。彼はいったいあとどれだけの隠し球を持っているのか。
 そういえば、と思い起こす。初めて自分の気持ちを告げた時、跡部は軽蔑するどころか驚くこともしていなかった。やればできるじゃないかとまで言っていたのだ。
「き、気づいて、いたのか……?」
 手塚自身が散々目を背け、押し込めようとしていた頃、跡部にはすでに何もかも分かっていたというのか。それでも変わらず接しようとする手塚に、同じく普段通りに接してくれた。
 離れようとしたあの時、怒っていると感じたのは、不埒な想いに対してではない。真実を告げようとしないことに対してだったのかと、今になって気がつく。
「まあそういう視線には慣れてたからな。瞳の力で俺様に勝てると思うなよ、手塚ァ」
 跡部は顔を手で覆い、カッと目を見開く。
 彼の[[rb:眼力 > インサイト]]の鋭さは身をもって知っていた。そんなことで勝負をしようとは思わないが、自身よりも早く恋情に気づいていたなんて言われてしまうと、どうにも悔しい。
 それと同時に、不安になる。
「お前の[[rb:眼力 > インサイト]]は確かにすごいが、それはつまり、[[rb:眼力 > インサイト]]を使わないと俺の感情は読み取れないということではないのか」
「なんだよ、今日はやけにつまらねーことにこだわるじゃねーの。不二に言われたこと、そんなに気になるのか?」
「つまらないことなどではないだろう。跡部はちゃんと言葉にしてくれる。そうされるのは嬉しいのに、お前に何も返せない」
 胸の中にある恋情を理解してくれているからといって、それに甘んじていてはいけない。言葉というものがどれだけ嬉しいかを知っているのだから。
「手塚。俺がテメーに何度も好きだって言ってんのはな、何も義務とかお前を喜ばせるためじゃねえ。あふれてくるだけだ。俺は言いたい時に言う、それだけだぜ」
 あふれてくる、と跡部の言葉を小さく呟き返し、手塚はふと思い当たることがあった。
 跡部を前にすると、触れたくなる。髪に、頬に。抱きしめたくなって、腕に収めて、それで満足できてしまう。
 その瞬間は、どうしようもなく想いがあふれた状態だ。
「心当たりあるだろ、手塚。俺もお前も、あふれたもんをそれぞれのやり方で伝えてるだけなんだよ」
 ああそうかと、素直に受け止めることができる。同じ方法である必要はなくて、自分のできることで示していたにすぎないのだと。
 跡部は言葉で。
 手塚は行動で。
 これまでも、これからも。
「テメーの気持ちはちゃんと分かってるぜ、手塚。それともお前は、周りにもそれを認識してほしいか?」
「……俺がもっと表に出すことで周りを牽制できるのであれば、それも一つの手かもしれないとは思う。だがお前を欲しがるヤツはたくさんいるだろう。キリがない」
 いろんな意味で、と付け加えると、跡部は肩を震わせて笑った。
「跡部が今のままでいいと言うなら、俺なりのやり方で示していこう」
「ああ、余計なこと気にせずに、テメーは俺様のことだけ考えておきな」
 勝ち気そうに眉をつり上げて、跡部は言う。
 毎回思うけれど、この余裕はいったいどこからくるのだろう。この男らしさがとても楽で、好ましい。
「跡部。ひとつ頼みがある」
「アーン? 珍しいじゃねーの。俺様に叶えられないことなんてないぜ」
「今夜俺に抱かれてほしい」
 ためらうことなく口にすれば、彼はひとつ瞬いて、色っぽく自身の唇を撫でた。
「ああ、愛してるぜ手塚。存分に堪能しな」
 あふれたものが、それぞれの形で示される。これが自分たちの表現なのだと、手塚は腰を上げて跡部の体を抱きしめた。



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