No.478

(対象画像がありません)

恋をしている-001-

塚跡WEB再録 2021.10.02

#塚跡 #両想い #ラブラブ #ウェブ再録

恋に落ちる音「俺はお前にしっかりと愛情表現できているだろうか、跡部」 携帯端末を耳に当て、ゆっくりと…

塚跡WEB再録

恋をしている-001-

恋に落ちる音



「俺はお前にしっかりと愛情表現できているだろうか、跡部」
 携帯端末を耳に当て、ゆっくりと歩いていた手塚はついにその足を止めた。
 電話の向こうから、『アーン?』と聞き慣れた声が返ってくる。高圧的なその音階に、どこか安堵してしまう自分がいることに、少し眉を寄せた。
『たまにテメェの方から電話してきたと思えば、何を言ってやがる、手塚ァ』
 ため息交じりに返されて、視線が下を向いた。
 たまに、というのは自覚している。
 電話番号もメールアドレスも知っているし、トークアプリのIDだって知っている――というか教えられた状態だが、自分から連絡をすることは少ない。
 相手は恋人であるというのに。
 跡部景吾は、他校の生徒だ。しかしながら、クラスメイトより彼のことの方をよく知っている。
 一年生の頃からあの氷帝学園テニス部を率いるているということで、もちろん名前は知っていた。オールラウンダーであることも、派手なコールを好むらしいことも。
 だがただ派手なだけではないことだって分かっていた。持久戦を得意とするのは、元々の資質に加えて並々ならぬ努力を重ねているだろうと推察できたからだ。
 幸か不幸か、彼と公式な対戦をすることはなかったけれど、対峙すれば接戦になるだろうことも予想できた。
 ただ、これは誰も予想しなかっただろう。その跡部景吾と恋人同士になるなんて。
 手塚は眉根を寄せて、目を伏せる。
 いつだろう。跡部をそういう対象として意識するようになったのは。
 彼を深く知るようになったきっかけは、間違いなく関東大会だと思っている。青春学園が全国大会に進出するためには、絶対に負けられない相手だった。結果的に個人では負けてしまったものの、信じられない気持ちがわき上がってきたことをまだ覚えている。
 ――嬉しい――
 負けて、そんな気分になるなんて思わなかった。悔しさがわき上がってくるのならば理解ができる。
 だけど、違う。
 育てた後輩が自分を超えてくれたくれたという嬉しさでも、理解はできる。
 だけど、彼は後輩でもなければ味方でもない。
 それでも、嬉しかった。
 肩の激痛を我慢してでも試合をやり通したのは、全国に行きたいからというのももちろんあったが、あんな試合はこの先できないと思ったからだ。
 強いプレイヤーはたくさんいる。同い年はもちろん、年下にさえ。接戦になるという意味では、いくらでも相手はいたはずだ。
 だがその誰もが、あの時の彼のようにプレイしてくれただろうか。
 互いに部を率いる部長同士、負けられない試合、肩を壊してでも――限界を超えてでも、勝たなければいけない。
 彼はそれに全力で応えてくれた。懸けた思いを、一球一球、真剣に返してくれた。どちらもチームを勝たせるために、魂を込めてボールを打ち合った。
 思い返しても、やはりあの時、あの試合は、跡部景吾とでないとできないと断言できる。
 圧倒されそうな[[rb:眼力 > インサイト]]を受け止めて返せば、彼は楽しそうに笑った。結果として勝ったのは彼の方だったのに、握手をした手を、称えるように掲げてくれた。
 伝え聞いていた跡部景吾の印象とは、少し違う。テニスに懸ける全力の思いに、全力で応えてくれる――そんな男なのだと気づかされた。
 跡部景吾は、純粋に尊敬できるプレイヤーだ。それは間違いなかった。
 それから跡部はよく連絡をくれるようになって、リハビリを終えてからはよく青学に押しかけ……もとい顔を出すようになった。
 敵情視察だと言いつつも、勝ち負けに関係なく、彼とただ打ち合うようになったのはそれからだ。
 ……いや、勝ち負けにはこだわることが多かった。何しろお互いが負けず嫌いだ。そろそろ帰らないと家族に心配をかけるという時刻、引き分けたこともある。
 不満そうな跡部が、舌打ちしながら「テメェの家族ごと俺の家に引っ越せ」と吐いた時には、思わず笑ってしまいそうだった。
 ああそうかと思い当たって、手塚は目蓋を上げた。
 それとほぼ同時に、耳に声が届く。
『手塚テメェ、電話してきておいてだんまりとはいい度胸じゃねーの』
 怪訝そうな跡部の声に、手塚は再び足を踏み出した。
「すまない、……なぜお前なのだろうと考えていた」
『ふん? なんで俺様に惚れてるかってことか。当然だろ手塚ァ、俺は跡部景吾だぜ?』
 勝ち気な声が耳に心地良い。
 その絶対的な自信はどこから来るのだろう。訊いたところで、彼はこう返してくるだろう。「跡部景吾だからだ」と。少しも理論的ではないのに、納得できてしまうあたりが愉快だ。
「――待て跡部。お前には、その……ちゃんと伝わっているのか? 俺の、気持ち、というか、その」
 上手く言葉を操れずに口ごもる。手塚は自分が口下手だということを理解はしていたが、せめてもうほんの少しだけでも改善されないかと悔やむ。
 跡部景吾が好きだと気づいて、時折出かかる言葉を飲み込むことができたのは幸運だったが、いざ恋人同士になってもこれでは、彼をつなぎ止めていられない。
 特に跡部は明け透けに言葉を告げてくる。こちらにも、そういった言葉でのやり取りを望んでいるかもしれないのに。
『テメェの気持ちだぁ? あぁ、俺様が好きで好きで仕方ねえってとこか。ベタ惚れじゃねーの』
「……若干語弊があるような気も」
『しねぇだろうが』
 電話の向こうで、くっくっと楽しそうな笑い声が聞こえる。
 跡部の言うことは確かに間違いではないのだが、それが伝わるような態度だっただろうか。手塚は眼鏡のブリッジを押し上げ、唇を引き結んだ。
『なんでそんなこと言い出したのか分からねーが、また余計なこと考えてやがんのか。アーン?』
「余計なこと? ……お前への気持ちを自覚して、悩んだ時のことを言っているのか。無駄な時間だったと?」
『そうは言ってねえ。あれはあれで、テメェには必要だったんだろう』
 ため息が混じった物言いに、手塚は押し黙る。跡部が言っている「余計なこと」というのは、心当たりがあった。
 跡部への気持ちを自覚したあの瞬間からの、恋情を否定したがる葛藤だ。
 意識するようになったのは――恐らくあの時だ。



#塚跡 #両想い #ラブラブ #ウェブ再録