No.414

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幸福を握りしめた日

NOVEL,A3!,千至 2018.12.03

#両想い #ラブラブ #千至

 降り始めた雪が、横顔にちらつく。 綺麗だな、なんて言ったら、笑われてしまうだろうか。至は苦笑して肩…

NOVEL,A3!,千至

幸福を握りしめた日


 降り始めた雪が、横顔にちらつく。
 綺麗だな、なんて言ったら、笑われてしまうだろうか。至は苦笑して肩を竦める。
「茅ヶ崎、寒い?」
 それを誤解してか、彼が――千景が声をかけてきた。
「寒くないわけないでしょ。雪ですよ、雪。本場の」
 至は素直に本音を口にする。寒いかと訊かれて、余計に寒さを実感してしまったではないか。
 ふる、と身を震わせる。北の大地ということから、防寒対策はしてきたつもりだったが、本当に〝つもりだけ〟だったらしい。甘く見ていた。
「じゃあ、俺の上着のポケットに手を入れてみる? 少しは暖かいだろ」
「監督さんにフラレたからって俺に振らないでくださいよ。再利用禁止」
「ひどいな」
 つんとそっぽを向いてやるのは、ちょっとした意地悪だ。曲がりなりにも自分という恋人がいるのに、その傍で他の女性に気を持たせるような言動をするなんて。
 せっかく綺麗なイルミネーションと、狙ったかのように綺麗な雪が見られたのに、心がささくれ立つ。至は眉を寄せて俯いた。
 自分にこんな感情があったなんて。
 これはまぎれもないヤキモチで、綺麗な気持ちではない。
 聡い千景は絶対に気づいているはずで、居たたまれなかった。至はごまかすように、イルミネーションを他の角度からも見ようと足を踏み出す。
 はずだった。
「えっ……」
 手を取られ、ぐいと引き寄せられる。絡め取られた手はそのまま千景の上着のポケットに突っ込まれてしまった。
「せ、せんぱ……」
 こんなところで、と至は慌てて引き抜こうとするが、ポケットの中でがっちりと指を絡め、縫い止められている。今回の弾丸旅行は、自分たちだけでなく、他のメンバーもいるというのに。
「茅ヶ崎が寒がるからって言い訳は、成り立つ。最近忙しくてご無沙汰なんだから、これくらいさせろ」
 ボッと、顔の熱だけ上がったような気がする。
 確かにここ最近は職場の方が忙しくて、恋人らしい触れ合いができていない。今回無理に有給休暇を取ったのは、千景とこういったイルミネーションを見てみたかったからだなんて知られたら、恥ずかしくて死ねる自身があった。職場のみんなには、申し訳ない気持ちもある。
 だけど、触れたかった。
 千景はそういう気持ちを汲んでくれる。
 至はそれでも、仕方なくといったふうに、ポケットの中で千景の手を握り返した。
「ん?」
「なに」
「先輩、これ俺のカイロ……」
 ポケットの中、やけに温かい物がある。気がつけば、自身のポケットに入っていたカイロがどこかへ行っていた。
「待っていつの間に抜き取ったんですか」
「人を泥棒みたいに。まあ盗ったんだけどね。ついさっきだよ。茅ヶ崎がイルミネーションに見惚れてるとき。可愛かったな」
「からかってます?」
「バレた?」
「先輩この野郎」
「冗談。可愛いなって思ったのは本当だよ。カイロがなくなれば、寒くて俺のとこきてくれるかなって思ったのに……全然きてくれないから、ついに焦れただけ」
 きゅ、と手を握る指に力が込められる。千景の言葉を頭から反芻して、把握して、至は頬を赤らめた。
 彼はときどき、恋に溺れていることを隠しもしない。噓をつくのが得意なくせに、これは噓で覆わないようで。
「茅ヶ崎、寒くない?」
「……もう、寒くないです。先輩が、隣にいてくれるんで」
「そう、良かった」
 寒くない、だけでは離れていってしまう。至は、千景が傍にいて手を握ってくれているからなのだと強調して、こつりと肩に額を当てる。
「来年、どこかにイルミネーション見に行こうか。二人きりで」
「旅費、先輩持ちですよね」
「いいけど、夜は覚悟してもらうことになるかな」
「やっぱりワリカンで」
 残念、と千景の笑う声が聞こえる。
 目の前に広がるイルミネーションが、涙でぼやけて見えた――。


#両想い #ラブラブ #千至