華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
No.278
NOVEL,その他ジャンル 2017.08.05
#DC #服部平次 #江戸川コナン #平コ
「工藤?」「え、あ、ああ……いいけど、おめーのオゴリな」「なんでやねん。て、まあええけどな。この間の…
NOVEL,その他ジャンル
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「工藤?」
「え、あ、ああ……いいけど、おめーのオゴリな」
「なんでやねん。て、まあええけどな。この間の詫びせなあかんし」
決定的な言葉を吐かれ、コナンは内臓が飛び出してきそうな口を押さえて顔を背けた。
やはり目的の大半は、それだったのかと。確かに待たされた時間は長いけれど、その詫びのためだけに、大阪―東京間を行き来してしまう高校生がどこにいるのだ。それを言うなら行く先々で事件に巻き込まれる小学生もどうかと思うが、それは不可抗力である。
「あ……のさ服部、オレ別に、あの時のことそんなに怒ってるわけじゃねーんだけど」
「そうなん? せやけど普通、あんなに待たされたらもっと電話とかメールとかしてきよるやろ。それがなかったし、怒ってんのやろなって思て、直接謝ったろとこうしてはるばる逢いに来たっちゅーに、つれないしなぁ」
「バッ……バーロー、なに言ってんだ。お前が連絡もなくオレを待たせるなんて、事件に巻き込まれてるくらいしか思いつかなかったからな。連絡できる状況じゃねぇんだなって思って、控えたんだけど……違ったか?」
寂しそうにそう呟いた平次を、コナンは不思議そうに見上げる。約束を忘れていたという可能性を考えなかったのは、そういえばどうしてだろうと、今さらながらに気がついた。そして実際平次は、携帯端末を取り上げられ連絡しようにもできない状況ではあったのだ。
「や、その通りなんやけど、……さよか……そやったんや……」
「まあ、事件に巻き込まれっと連絡忘れるくらい没頭しちまうってのはあるけどな、お互いに」
ホッとして嬉しそうな顔をした平次には気づかないで、コナンは苦笑する。コナン自身、事件にのめり込み過ぎて蘭たちに連絡を入れ忘れたことは何度もある。だから、たとえ誰かに同じことをされても、怒れる立場にないのだ。
さらに相手が服部平次なら、事件を放って約束を優先させようものならキック力増強シューズで蹴りつけてやるところだ。助太刀を望んで連絡してくるならまだしも、未解決のまま約束のことなんて優先してほしくない。
――――そういうヤツだから、信頼してんだよ。
「オレが怒るとしたら、まあ、……怪我したとかそういうのは、別にいいか」
「そこは怪我すんなって怒るとこちゃうんかい」
「和葉ちゃんに任せる」
「ほんなら、お前が怒るんはどないな時なん」
「そうだな……オレを呼べよってとこ、だろうな」
ニ、と口の端を上げてみる。
平次は目を瞠り、頭を抱えた。
――――ホンマに、どないな小学生やねん。
呼べというのは不謹慎ながらも八割方好奇心に違いなくて、あとの二割がプライドだろう。体は小学生ながらも、工藤新一がいるのになぜ頼らないのかと。
間違っても心配をして怒ってのことではないと知っている。
だけどそれが、信頼なのだということも知っている。
そう長い時間を過ごしたわけではない。ただその短い期間を濃密に過ごした。
――――他におらんわ、こんなヤツ。
濃密、と言ってしまうと語弊があるようにも聞こえるが、実際濃く深く、密度のあるつきあいだ。間違ってはいない。親友と言っていい間柄、だろう。
――――けどピンとこんなぁ。なんやろ、オレと工藤のカンケイって。
事件のことを考えなければならないのに、平次の頭の中は今、隣を歩く相手が占めてしまっている。歩調を合わせているのがいけないのか、同じ方向に歩いているのがいけないのか。
そもそも、逢いたいと思ってしまったのがいけないのか。
――――ちょお待て、逢いたいってなんや。
平次はふと頭をよぎった言葉にハッとして、足を止めた。
今回東京に来ることを、報せはしなかった。というのも、気がついたら新幹線に乗っていたからだ。
改札を通って、東京行きの新幹線に乗って、空いていた自由席に座って、缶コーヒーの蓋を開けて、そこでようやく「何しに行くんや」と思ったことを思い出す。
用があったわけではない。ついでに顔を出したわけではない。先日の詫びをしたいという思いはあったものの、それならば事前に連絡を入れて相手の都合を確認するべきだ。
どうして、東京につくまでの間にそれをしなかったのか。
安くはない新幹線代を払って、もしいなかったらどうしていただろう。
――――確認、したくなかったんや。おらんて分かったら、その時点で引き返してた。……逢えたらいいなくらいの気持ちで事務所向こうて、ソワソワすんのとドキドキすんの、楽しみたかったんかな。
平次の思考はそこまで行き着いて、なぜその対象がコナンであるのか、首を傾げながら掘り下げる。
「おい、服部?」
その対象本人に声をかけられて、ハッと顔を上げた。上げたと言っても視線は下の方なのだけれども。
立ち止まった平次の十数歩先に、不審そうな顔をしたコナンがいる。
「なんか分かったのか?」
「……や、逆に謎が増えたっちゅうか」
「謎? なんだよ」
平次は再び足を踏み出し、コナンに数歩で追いつく。口にした「謎」という言葉に食らいついてくるコナンだが、残念ながら事件の謎ではない。
「暗号のことやないて。なんかなー、こう、なんで今日来たんやろて思て」
「お前なぁ……真面目に考えろよ。そりゃあこっち来て暗号解くハメになったのはご愁傷様だが、早く解決しねーと、……って、つめて」
呆れて息を吐くコナンの頬に、ぽつりと降ってくるしずく。
「お、雨か?」
平次の額にも、ぽつりぽつり。雨かと気がついた時にはもう、いくつものしずくが服や髪を濡らしていた。
「雨の予報なんてあったっけ」
「あれやろほら、ゲリラ豪雨ってヤツ」
平次が口にしたその言葉に二人は顔を見合わせ、口許を引きつらせた。
ゲリラ的な集中豪雨は、ここ数年必ず日本のどこかで起こっている。時には災害レベルにまで達するが、そこまでの予報は聞いていない。
だがなんにしろ、雨は雨だ。歩いているうちにも雨足は早まり、更には粒が大きくなってきている。
「まずいで工藤、どっか屋根のあるとこ探さな……!」
「ああ、走るぞ!」
この雨は強くなる。そう確信した二人は、同時に駆け出した。パシャパシャと足を踏み出すたびに水が跳ねる。二人分だった足音は、やがてひとつだけになった。
「っ、おい服部! 何しやが……っ」
「この方が早いわ、ちびっ子」
というのも、どうしても歩幅が違ってしまうコナンを、平次が脇に抱え上げたせいだ。確かにコナンに速度を合わせるよりも多少重くても抱えた方が早いような気がして、さらに言えばこの雨の中、見た目だけとはいえ小学生を置き去りにして走ることなどできやしない。今できる最善の策だ。コナンが暴れなければ。
「下ろせ、馬鹿! 人をボストンバッグか何かみたいに抱えんじゃねー!」
「バッグの方がまだマシや、暴れんからな! 暴れると余計に濡れんで」
ぐ、とコナンは言葉に詰まる。確かに足をバタつかせたらその分だけ雨に垂直になり、濡れる回数が増える。大人しくしていても濡れるのには変わりがないが、自力で降りられそうにもない。下ろしてくれそうもない。諦めて体の力を抜いた。
――――新一の体だったら、こんなこともねぇんだろうけど。くそっ、服部のヤツ! てめーのせいでなんか心臓おかしいじゃねーかよ!
冷たい雨で体は冷えるはずなのに、顔だけが熱い。否応なしに感じてしまう平次の体温と、自身の体温とが混じり合っているかのような感覚に、言いようのない気恥ずかしさを胸に刻み込んだ。
#DCコナン #服部平次 #江戸川コナン #平コ