No.271

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俺のCandy Star!-034-

俺のCandy Star! 2017.07.17

#シリーズ物 #ウェブ再録

 案の定、紬の姿を中庭に見つける。自身が世話をしている花たちに、今日の報告をしていたのだろうか。「つ…

俺のCandy Star!

俺のCandy Star!-034-



 案の定、紬の姿を中庭に見つける。自身が世話をしている花たちに、今日の報告をしていたのだろうか。
「つーむーぎーさん」
「あっ、万里くん」
「なにやってんすか、今日の主役がこんなとこで」
 声をかけると、紬は振り向いて笑ってくれる。
 控えめな印象は抜けないが、入団当初の自信喪失していた紬とは、まるで別人のようだった。
「んー、熱気にあてられちゃって。みんなすごいんだもん」
「あーそうだな、大人組なんか、あれぜってー朝までコースだぜ」
 紬が世話をしている花壇の前で、万里は隣に並ぶ。
 少しの沈黙のあと、先に口を開いたのは紬の方だった。
「今日、どうだった?」
「愚問じゃね? 結果が物語ってんじゃん。前楽みたいな演技だったら、あんなに票はもらえねーよ」
「うん、それは分かる。……万里くんが、どう思ったかなって」
「俺? やっぱすげーなって思ったよ。アンタ自信なさげな顔して、ああいうときクソ度胸があんだな。ミカエルが彼女を好きだっていうのが、すっげぇ伝わってきたし。身内っていうひいき目抜いても、結末知ってても、ミカエルの恋が叶うといいなって、マジで思ってた」
 あの広い劇場で、客席全部を巻き込んでいった紬たちの世界。
 そこに居合わせられたことが幸福だった。
 恋を知る前には、ラブストーリーなんて、しかも悲恋なんてつまらない、退屈だとさえ思っていたのに、紬はそれを根本から変えてしまったのだ。
「同時に俺は、ミカエルみたいな恋はできねーなと思ったよ。見てるだけなんて、マジで無理。相手が幸福ならいいとは思うけど、俺がミカエルだったら、議会も何もねじ伏せて人間界に降りて、規則なんざ知るかって彼女と出逢う道を選ぶ。触れたい、好きになってもらいたい、恋人になりたい。そう思うのは、俺が今人間だからかもしれねーけどさ」
 清らかなイメージの天使なんて、万里にはできない。そっと目蓋を伏せ、持ち上げて、紬に向き直る。
「俺は真剣に、アンタが幸せならいいと思う。でもできれば、俺が幸せにしたいんだ。紬さん、今好きな人がいねーなら、俺、アンタのカレシに立候補してもいいっすか」
 初めて恋を告白したあの日、紬は真剣に捉えてくれなかった。
 今、同じ言葉で紬に告げる。
 顔だけで振り向いて、紬は困ったように笑った。
 無理か、と思った万里に、追い打ち。
「好き、まではいかないけど……気になってるひとがいるんだ」
「……俺、全然望みねーの? どんな人?」
「優しい子だよ。趣味っていうか、好みも全然合わないんだけどさ、一緒にいると楽しいっていうか」
「…………そっか」
「それでね、俺が落ち込んでる時とか、連れ出してくれるんだ。こういうとこ好きかと思ってって」
「…………え?」
(それって)
 花壇の花を見下ろしたまま、紬が続ける。万里は、言葉を詰まらせた。それは万里がよくやっていることではないのか。
「俺はその子と美味しいコーヒー飲むのが、今とても好きなんだよね」
「つ、むぎ、さん……?」
 紬が体の向きを変えて、正面から万里を見つめてくれる。紬が言わんとしていることに気がついて、万里は顔を幸福そうに歪ませた。
「昨日きみが俺を見つけてくれたときは、本当に嬉しかったよ、万里くん」
 言い終わるか終わらないかのタイミングで、思わず両腕を伸ばして紬を抱き締める。
「紬さん……!」
 昨日は片腕でしか触れられなかった。今日はきちんと両腕で。
「紬さん、嬉しい、俺今すっげぇ嬉しい……!」
「あっ、あの、あのね万里くん、ここ中庭っ……」
 中庭なんかで告白を受け止めておいて、紬は今さら慌て出す。
 だけど万里も今紬を放す気はなくて、両腕にぎゅうっと力を込めた。
「大好きだ、紬さん」
 もう何度目になるのか分からない。
 紬は万里の気持ちを受け止めてくれた。「好き」まではまだいってないらしいが、そんなものすぐにオトしてみせる。
「あの、あのね万里くん……俺あの、あんまりこういうの慣れてなくて……万里くんに任せるしかなくなってくるんだけど、いいのかな」
 万里の腕の中で少し身じろぎながら、紬が気まずそうに口にする。万里はようやく腕の力を緩めて、じっと紬を眺めた。
「俺に任せたら、しょっぱなからすっげーことになるけど?」
「ゆっくり! ゆっくりでお願いします……」
「あはは、ジョーダンだっての。俺だって、無理強いしてぇわけじゃねーし。ならひとまず、――キスから?」
「場所! 中庭っ……!」
「みんな打ち上げだって。な?」
 万里は顔を真っ赤に染める紬に笑って、両の頬をそっと包む。
 視線が左に泳ぎ、右に泳ぎ、仕方ないなあというため息のあとに、紬はそっと目蓋を落としてくれた。
 その仕草にさえ胸をときめかせて、紬が混乱しないように、ゆっくりと口唇を触れ合わせる。
 夢に見た。
 だけど、感触までは追えていなかったのだと気づいて、押し当てる力をさらに強くして、紬を味わった。
「紬さん……もう一回……」
「……ん……」
 押し当てて、離れて、口の端に、反対側に、真ん中に、触れていく。
 紬の腕が万里の背を抱いてくれて、緊張がほぐれたことを知った。
「ふぁ……っ」
 調子に乗って口唇を開けさせてみるけれど、紬からは小さな抵抗さえ返ってこない。
「んっ……」
 口唇を舐めたそのまま舌を差し入れれば、戸惑いながらも受け入れてくれる。
 マジか、と思いつつ、ここぞとばかりに入り込んで、紬の舌と絡め合って、吸い上げた。
「ん、ふぁ……」
 ちゅ、ちゅ……と音を立ててついばめば、紬は恥ずかしそうに身をよじる。
 クン、とジャケットを引っ張られて、万里はようやく紬を解放した。
 くてんと万里の肩にこめかみを預け、紬は熱っぽい吐息を聞かせてくれた。
「もう、万里くんの馬鹿……手が早すぎだよ……」
「ははっ、悪い悪い。でも、慣れるには回数こなすのがいちばんだろ?」
 抗議する紬にも、万里は悪びれさえしない。幸福さで、今はどんな抗議も罵声も、劇場の拍手に聞こえてしまうのだ。
「なあ紬さん。さっきも言ったけど、俺はアンタに無理強いしたいわけじゃない。少しずつ慣れていってくれたらいい。だから、キスいっぱいしようぜ。キャンディみたいなヤツ」
 そう言って紬の顔を覗き込む万里。紬は、その形容に不思議そうに首を傾げた。
「キャンディ……? 甘いってこと?」
「あー、それもあるけど。キャンディって、甘いのだけじゃねーじゃん。ミントのヤツとか、酸っぱいヤツとか、果物のヤツも。いろんなの」
「えっと…………いろんなキス、っていう意味かな……」
「そゆこと。飽きがこねーだろ?」
「飽きるほどするつもりだったんだ……万里くんて俺より年下だよね」
「経験の差ってやーつ……なに紬さん。妬いてくれてんの?」
「別に妬いてない」
「妬いてる」
 笑う万里に、紬はむくれてそっぽを向く。
「かわいい」
「わっ……」
 その頬に、油断も隙もない万里の口唇がそっと当てられた。
「ねぇ、予告してくれないかな。びっくりする……」
 これも、キャンディみたいなキスのうちに入るのかななんて、紬は万里の口唇が触れた頬を指先でなぞる。
「キスに予告って。ん~……ま、覚えてたらな。ほら、もう中に戻ろうぜ。怪しまれる。っつーかメシ食いっぱぐれる」
「そう言いながら、手をつなごうとしてこないの。言葉と行動がめちゃくちゃだよ、万里くん」
 そんなことを言い合いながら、万里と紬は寮の中に戻る。
 談話室では、すでに大人組ができあがってしまっており、呆れ果てる臣たちや、あんな大人にはならないと反面教師にするつもりの学生組、あんな調子で飲んで大丈夫なのかと、左京を心配そうに眺める十座がいた。
「あーあ、仕方ないな……」
「どんだけ飲んでんだよ……」
「明日大丈夫かな……二日酔いとか」
「あ、なあ紬さん、明日カフェ行こう。どこでもいーから」
「うん、たまには行きずりで入ってみようか?」
「行きずりとかウケる」
 残り物の料理をつまんで食べながら、万里と紬は、初めてのデートの約束をした。
 冬の夜、熱気にあてられたカンパニーの寮で、恋の花が今まさに、満開に咲いている――。


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