No.196

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Ich liebe dich-001-

その他ウェブ再録 2014.02.09

#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い

 愛している。 あの男が最後にそう囁いたのは、いつのことだっただろうか。「な……んだって!?」 冗談…

その他ウェブ再録

Ich liebe dich-001-

 愛している。
 あの男が最後にそう囁いたのは、いつのことだっただろうか。




「な……んだって!?」
 冗談で言っているなら承知しないぞと、アードライは見開いた目でクーフィアを振り向く。
「冗談で言うと思う? 僕だって驚いたんだけどな~、イクスアインから聞いた時」
 二度、驚いた。クーフィアが言った事実も信じがたいが、それをよりによってイクスアインが告げたというのが。
「……イクスアインはどうしてる?」
「部屋じゃないかなー。さすがにショックも大きいんじゃない? イクス、普通に怒ってる時より怖かったもん」
 そう言って頭の後ろで手を組むクーフィアにそうかと返し、アードライは未だに信じられない気持ちで体を翻した。向かうのは当然、イクスアインの部屋だ。
 ―そんな馬鹿な話があってたまるか……!
 ハーノインが死んだなんて。
 しかも、ドルシア軍内においての王党派だったなんて。
 いや、この際裏切りなどどうでもいい、些末なことだ。重要なのは、ハーノインが死んだということ。イクスアインが、それを自ら同僚に告げたということ。
 アードライは自身の怪我の痛みも気に留めずイクスアインの部屋へと急いだ。
 信頼していた友に裏切られる痛みは、憎しみは、アードライにも分かるつもりだ。誰よりも信頼し、共に革命する仲間だと思っていた男にまさかの裏切りを味わわされたアードライには。
 だが、恋人を亡くしたイクスアインの痛みは、絶望は、分からない。
 ただの戦友を亡くしたのとはわけが違う。生涯を共にすると決めた相手を亡くしたのだ。
「くそっ……」
 どんな気持ちでいるだろう。どんな気持ちでクーフィアにそれを告げたのだろう。自分に何かができるだろうか。願わくは、絶望にはまりこんで自棄になっていてくれるな。
 勢いでイクスアインの部屋まで来てしまったが、ドアの前でためらう。かける言葉をまだ探せていない。力づける単語がなにも出てこない。
 あの二人は確かに好き合っていた。見ているこちらの方が照れてしまうくらい、相手を想い合っていた。その分身を亡くした彼に、どう言葉を投げかければいいのか。
 しかしここにこうしていても始まらない。せめて様子を見るだけでもしようと、声をかけてみた。極力、深刻にならないような声音で。
「イクスアイン、いるか?」
 中から人の気配は感じられる。が、返答はなかった。アードライはもう一度声をかけた。今度は、入室するということも付け加えて。
「イクスアイン、入るぞ」
 ベッドで泣き伏しているだろうかと思ったそれは外れ、アードライは目を瞠った。
「アードライ、帰還したのか。怪我をしたと聞いたが、大事ないようで安堵した」
 イクスアインはデスクで自分の端末に向かっていた。アードライの身さえ案じてくる。
「……イクスアイン……?」
 どういうことだ、とアードライは思考を巡らせる。
 ハーノインが、恋人が死んだというのに、どうしてそうも平然としていられるのだろうか。いつもと変わらぬ様子でいる。
 もしかしたら死の事実を受け入れ切れておらず、拒絶しているのではないかとも考えたが、クーフィアにハーノインのことを告げたのはイクスアイン自身だ。死を認識してないとは思えない。
「イクスアイン、お前……大丈夫なのか……?」
 そのちぐはぐさを怪訝に思って声を震わせたアードライを、デスクから振り返るイクスアイン。その表情さえ、いつもと変わらなかった。
「……ハーノインのこと、聞いたようだな」
 少しだけずれた眼鏡を押し上げて、イクスアインは口にする。アードライはためらい、遠慮がちにああと頷いた。
「それで、私を気遣って来てくれたのか」
 ふっと笑うように息を吐き、イクスアインは目蓋を伏せる。そこでようやっと、翳りを見せたような気さえした。
「イクスアイン、本当なのか、その……ハーノインが」
 最後まで口にすることはできなかったアードライに、イクスアインは沈黙で肯定する。アードライも振り切るように目蓋を伏せ、顔を背けた。
「王党派と通じていたとされ、殺されたらしい。私が大佐の護衛で向かったあの洋館では、ドルシアの主要幹部が集まっていたと聞く。状況を見るに、銃撃戦があったのだろうとは思うが……私が行った時には血塗れの床があるだけだった」
 イクスアインは静かに、状況をとつとつと説いていく。アードライは、その様子がいたたまれない。ハーノインとのことは知っているのに、あくまでただの同僚の死として扱っているようなイクスアインが、痛々しかった。
「大佐の護衛にイクスアインがかり出されるなんて、よほど重要な会合だったんだな」
「そうだろうな。私にも何か話しがあると仰っていたが、それどころではなくなったようで……私に気を遣ってくださったのだろうとは思うが」
 苦笑するイクスアインに、アードライもまた苦笑で返すしかない。
 上官であるカイン・ドレッセルも、ハーノインとイクスアインが同期という以上に仲が良かったことくらい知っているだろう。二人の間の恋に気づいていたかどうかは分からないが、共に歩んできた戦友だということは理解していたはずだ。
「イクスアイン、大丈夫なのか」
 アードライは、先ほどの言葉をもう一度繰り返す。カインでさえがイクスアインの消沈は予測したのに、目の前の彼にはそんな様子もない。涙を流すどころか、冷静に受け止めているように見える。
「私は大丈夫だ、この先の作戦等に支障はない」
 そういって笑いさえするイクスアインに、アードライは腹が立ってしょうがなかった。思わずガッと腕をつかみ、正面から覗き込む。
「イクスアイン、私の前でまで無理をしなくていい! あんなに想っていた相手が、……いなくなって! 平気な顔をするな……!」
 その仕草に、イクスアインは驚いたように目を見開いた。当人より悲痛そうな表情をしたアードライに、イクスアインはほんの少し肩の力を落とし、落ち着いてくれと小さく呟く。
「イクスアインッ……どうしてお前はそんな……」
「すまない、心配してくれているのは分かる。だが……本当に大丈夫なんだ……薄情なものだな、私も」
 アードライは責め立てようとした言葉を寸前で飲み込んだ。イクスアインはしっかりとハーノインの死を認識している。自身が動じていないことも認識している。その上で笑ってみせているのだ。
「カイン大佐が……血の付いたハーノの銃を見せてくださった。残念だったと言ってくださった……通信機も作動してない……状況は分かっている。だけどどうしてだろうな、泣けないんだ、アードライ」
「イクスアイン……」
 イクスアインがあそこで見たのは、おびただしい量の血と、ハーノインの銃を握りしめたカイン、倒れた椅子、それだけだ。何があってそうなったのかは分からなかったが、状況から見て……姿の見えない彼が無事でないことだけは理解できた。
「もうアイツの名を呼んでも声が返ってくることはないのに……泣いてやれない。ハーノも、とんだ男に惚れたものだ」
 きっと逆の立場だったらハーノは泣いてくれるだろうに、とイクスアインは自嘲して笑う。目に浮かぶな、とアードライも同意を返すが、泣けないイクスアインに何をしてやったらいいのか分からなかった。
「今はただ、怒りしか湧いてこない」
 そう言って口唇を噛むイクスアインに、アードライは言葉をなくす。裏切りへの燃え盛るような怒りの炎には、身に覚えがあるからだ。それを消すことが容易でないことも知っている。
「そうか……だが、あまり先走ったことはするなよイクスアイン。戦いはこれから激化していく、……エルエルフやハーノインに引き続いてお前まで欠くわけにはいかないんだ」
 お前の痛みは多少理解してやれる、とアードライは続け、ややあってああと頷くイクスアインに背中を向けて部屋を出た。
 立ち直るまでに時間はかかるだろうなと思い、しばらく注意して見守っていようと心に決めて。


#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い