No.90, No.89, No.88, No.87, No.86, No.85, No.847件]

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ミハアルウェブ再録 2011.08.13

#ミハアル #片想い #PrivateArmy #ウェブ再録

 早乙女くんが空ばかり見ている、と噂されるようになって、三日目。今日もアルトは教室の窓から空を眺め、…

ミハアルウェブ再録

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 早乙女くんが空ばかり見ている、と噂されるようになって、三日目。今日もアルトは教室の窓から空を眺め、ため息をついた。カンが良い者なら、恋わずらいだとでも言ってしまえるだろう。
 そしてそれは、実際に間違いがなかった。
 ――――顔、見たいな……。
 早乙女アルトの心の中は、ミハエル・ブランでいっぱいだ。
 あれから、さりげなく彼について探りを入れてみた。彼の評判はかなり良いようで、なんだかくすぐったいような気分になる。
 しかし、だからこそ彼を好きになる女生徒はたくさんいるだろう。同年代とつきあいはないようなのだが、それでもめげずにアタックする女もいるのだとか。
 早乙女アルトは美星学園芸能科の生徒だった。
 しかし家が歌舞伎をやっているからといってもその道に進む気はなく、成績は上の中、人並み程度にできるだけ。そろそろ将来のことを考えなければなあとは思うが、何をしたいのかはいまだに見えてこない。
 そんな自分が、彼の目に止まるわけもないとデスクに突っ伏して、本日何度目かのため息。
 ――――空……飛んでんのかあ……どんなことしてんだろうな、難しいのかな。でもあいつならきっと上手いんだろうな。
 ずっと演劇だけで過ごしていたアルトには、他のコースに親しい友人などいるはずもなく、かといってそれを相談できるような友人を、同じコースに持っているわけでもなかった。
 ――――せめて友達くらいになれねーかな? 航宙科ってどこで練習してんだっけ……。
 アルトは携帯電話を取り出し、自分のスケジュールを確認する。卒業公演はまだ先、役をもらうかも分からないし、自分が今やらなければいけないことは何もない。
 ――――見に……行ってみようかな。こっそり見学するくらい、怒られないよな?
 心臓がドキドキと波打つ。あの日から一週間、一度も直接見ていない。個人権限の端末で見られるものなど、名前や学籍番号、所属コースくらいだ。小さな顔写真はアルトの恋心を増幅させるのに充分だったが、直接のビジョンに勝るものなどない。
 ――――よしっ、決めた。見たい逢いたいもう仕方ない、今日航宙科見に行ってみよう!
 一度決めてしまったら、その後は幸せでいっぱいだ。退屈な授業だって難なくこなせるし、望みのない恋に憂鬱だった心だって浮き上がってくるし、直接顔が見られるかもしれないなんて考えるだけで、スキップしたいくらいだった。




 授業が終わって、アルトは帰り支度を整え唾を呑む。まるでこれから戦いにでも行くかのような様相で、航宙科の活動場所へと向かった。
 更衣室を通り過ぎて、半分物置と化した格納庫を通り抜ければ、数人の話し声が聞こえる。
 なにやら重そうな機械をつけて、飛行デッキで今日の練習予定を話し合っているらしい。アルトは柱の陰に隠れ、こっそりとそれを覗いた。
 ――――あ、いた……!
 フェンスにもたれて、つまらなそうに空を見上げる生徒がひとり。ミハエル・ブランだ。
 一週間ぶりに目にするその人に、アルトはほうっと息を吐く。そして、改めて自覚するのだ。やっぱり彼が好きなんだと。
 彼がもたれたフェンスになりたい。
 つまらなそうでも、彼が見つめるのなら空になりたい。
 彼の金髪が風に揺れるたび、風になりたくなってしまう。
 ――――あ、飛ぶのかな……?
 空を飛ぶための道具らしい機械  EXギアを着けた生徒が、フライトコースに入る。あんなオモチャみたいなもので本当に飛べるのだろうかと、アルトは興味深く身を乗り出した。
 その時、後ろからたったったっと足音が聞こえ、思わず柱にへばりつく。きっと遅れてきた航宙科のメンバーなのだろう。許可もなく覗き見なんてして怒られないかと思ったが、
「あ」
 栗毛の少年と、ばっちり目が合ってしまった。
 ――――どうしよう、見つかっちまった……!
 あの日、彼の隣にいた少年だと気づく。バツが悪いなと視線を逸らすが、少年はにこりと笑って会釈をしてきただけ。
 そのままタタタと駆けていってしまい、とりあえずは怒られなかったことにホッとし、またこっそりと飛行デッキを覗くのだ。



「ミシェル先輩、あの人と仲良くなれたんですか?」
「は? 何言ってんのお前、来た早々」
 今日はあんまりいい風じゃないなとミハエルは前髪をかき上げる。クラスの用事で遅れてきたルカ・アンジェローニの問いかけに、怪訝そうに眉を上げた。
 ルカが言っているあの人とは、十中八九、早乙女アルトのことだ。
 一週間前のあの日、不覚にも一目惚れしてしまった、叶うはずのない恋の相手。
 まったく、気づかれるような行動を取ってしまった自分が恨めしいとそっぽを向く。
 この一週間、持てるすべてのネットワークを使い、彼のことを調べてきたのだ。
 だが航宙科と芸能科では、彼との間に接点など見つかるはずもなく、偶然を装って教室を覗くくらいしかできなくて、話しかけることもない。
 誰にも言うなよと口止めはしているものの、気を抜いたらどこかからバレてしまいそうである。
「あいつ、ホントに家と学校の往復らしくて、行きつけの店とかも分かんなかったんだぜ」
「でも……いるんですけど、あそこに」
 おかしいな、と首を傾げるルカに、ミハエルは耳を疑った。ルカが指をさす方向に、急いで隠れたつもりらしい陰が見える。それでもあの特徴的なポニーテールが隠れておらず、一目で分かってしまう。
「え……、……なんで!?」
「知りませんよ」
 ミハエルはその光景が信じられずに、パッと向き直る。わずかに頬が染まっているのは、きっとルカにしか分からないだろう。
「もしかして先輩のこと見に来たんじゃないですか?」
「そんなわけねーだろ! あの日から何もコンタクト取れてねえのに!」
 ああ、でももしそうなのだとしたら。
 ミハエルの中に火がつく。もしそうでも、そうでなくても、練習を見に来たことを考えればチャンスはある。格好良いところを見せてみたいと思うのは、恋するオトコの通常心理。
 ミハエルは、陰で見ている見物人なんか気にしていないといった振りをしてフライトコースに入る。
 いつもはメンバーのフライトを見てフォームやら何やらを指摘するのがほとんどなのに、率先してコースに入るチームリーダーに、やっぱり物珍しそうな視線が注がれた。
 そして物陰のアルトからは、めいっぱいの期待を注がれる。
「誰かスターゲイトやるヤツいない?」
「えー、だってあれ難しいじゃん」
「あ、俺行きたい行きたい」
 これも練習のうちだと、ミハエルは悪びれもせずに恋のために空を飛ぶのだ。何人かのメンバーを引き連れて、的確な指示を与えていった。
「よし、トチんなよお前ら」
 チャンスはきっと一度きり。逃したくない初恋を、ミハエルは必死でつなぎ止める。
 タイミングを見計らって、ミハエルはデッキから離陸した。



 わあ……とアルトの口唇から感嘆が漏れる。間近で見たのは初めてだと、瞬きさえしないでミハエルのフライトをじいっと追った。
 EXギアことエクステンドギアシステムは、もともと軍用機器だ。主な用途は戦闘機の操縦だが、パイロットの機外活動用装備としても有効とされている。
 飛行、歩行、走行エトセトラ。航空メーカーの主導によって開発が進められたからか、飛行機動性や着用者にかかるGの負荷を軽減することにおいては他に類を見ない。
 新統合軍だけではなく特殊部隊でも利用されるほどのものだが、近年は民間仕様としても開発され、こうして中学校にさえ使用が許可されている。
 中等部・高等部・大学部それぞれに専門コースを置くここ私立美星学園では、それを活用した訓練が日々行われている。
 アルトが自分で調べて分かったのは、それくらいだった。
 きっと難しいのだろう操縦を、視線の先のあの人は、軽々とやってのけている。
 どんな気分なのだろう、空を飛ぶというのは。専用のスーツとEXギアを着けているとはいえ、ほとんど生身の状態だ。それで何も支えがない空を飛ぶというのは、いったいどんな。
 ミハエルがクライムロールを難なくこなすのを、技名も知らないアルトは一生懸命視線で追いかける。
 ――――すげえ、すげえ……! あんな風にして目え回ったりしないのかな。
 心臓がざわめいて踊る。初めて触れる文化に、心が沸き立つように。
 ――――あれ、やってみたいな……でも航宙科じゃないとダメだしな……。
 どきどきとそわそわとおろおろが重なって、視線があっちこっちに泳いだ。
 そんな中、ふとデッキ視線を移すと、飛行を終えたらしいミハエルが戻って来たところだった。ヘッドギアを外し、首を振る。少し乱れた髪に、アルトの胸はやっぱり高鳴った。
 そして、ふと視線が重なる。
 見つかってしまったという思いより、見つけてくれたという幸せの方が大きい。
 こんにちは、とでも言うように微笑まれて、一気に顔の熱が上がった。
 叫び出したいのを必死でこらえて、アルトもできる精一杯で微笑み返す。
 そんな些細なやりとりだけれど、アルトに躊躇いを捨てさせるには充分だった。
 ――――入りたい、航宙科……! 飛んでみたい、あいつの隣に行ってみたい!
 好奇心と感動と恋心が入り交じった、純粋ではないとも思える動機だが、家がそうだからとなんとなく演劇のコースに居座っているよりは、ずいぶんまともな物にも感じられた。
 アルトは拳を握りしめ、キッと前を見据える。そのまま踵を返して、内緒の見学を終わらせる。やることはきっといっぱいあるのだろうと、少しだけ眉を寄せながらも、走る足取りは浮かれていた。



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ミハアルウェブ再録 2011.08.13

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◇Boy meets Boy ―出逢い― それは、変わらない日常だったように思う。 早乙女アルトもミ…

ミハアルウェブ再録

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◇Boy meets Boy ―出逢い―


 それは、変わらない日常だったように思う。
 早乙女アルトもミハエル・ブランも、放課後の練習に出向こうとそれぞれの場所へ行くだけだった。
 廊下ですれ違う、ただそれだけの、いつでも起こりそうな偶然だったのだ。
「あ、ごめん」
「いや、こっちこそ」
 すれ違う瞬間に肩がぶつかり、とっさに口を突いた謝罪。  相手を振り向いて、そこで時間が止まったように思った。


 視線が絡み合って、息が止まる。その瞬間、世界にふたりだけしかいないのではないだろうかという錯覚にさえ陥った。
 相手以外のすべてがモノクロームのように映る。絶対にそんなことはないのに、そう見えてしまった。
 後から思えば、それが恋をした瞬間だったに違いない。


「早乙女くん、今日ミーティングだよ、早く行かないと」
「ミシェル先輩、どうしたんですか?」
 知った声が聞こえて、ハッと我に返る。
「え、あ、ああ今行く」
「どうもしないさルカ、行こうぜ」
 アルトはごまかすようにクラスメイトを振り向き、ミハエルもまた、ごまかすように後輩を振り向いた。
 そうして、何もなかったようにそれぞれの活動場所へと足を向けるのだ。
 しかし何でもないわけもない。
 すれ違う、たったそれだけなのに心臓が跳ねた。互いを通り過ぎて、そうして苦笑する。
 まさか初めての恋が、男相手だなんて。
 こんな気持ちになるのは初めてだ。今までどの女性にも感じたことのない気持ち。初めて知る気持ちなのに、すんなりと受け入れることができる。
 これは、恋だと確信した。



「なあルカ、俺が今ぶつかった子、誰か知ってる?」
 歩き出してから、ミハエルは訊ねる。これが女性であれば自分の記憶力に頼るが、男をチェックする趣味などないのだ。
「え? ああ、早乙女先輩ですか」
「早乙女?」
「歌舞伎で有名でしょ、早乙女蘭蔵って。そこのご子息ですよ。お兄さんが跡継ぎらしいですけど」
 ああ、とミハエルは頷く。その名前には心当たりがあった。去年つきあった女性がそんな話をしていたような、していなかったような、そんな程度の認識だが、今すれ違った彼がそこに関係しているというのであれば話は別。一気に興味津々だ。
「じゃあ、あの子演劇コース? やっぱそっちの道に進むのかな」
「そうなんじゃないですか? 卒業公演とか、楽しみですよね。席とか争奪戦が激しいって聞きますけど、やっぱりファンが多いんだと思いますよ」
 ルカが、くすくすと笑う。なにがそんなに面白いのかと訊ねたら、
「だって、ミシェル先輩が女の人以外に興味を示すとは思いませんでしたから」
「あのなあ」
 諫めるようにため息をついてみたが、ルカの言っていることを否定はできない。美しい女性には目がないし、幾人か深くおつきあいをしたこともある。が、男としては当然の範囲だと思っていた。
「早乙女……アルト、か……」
 ミハエルは思わず後ろを振り向いて、初恋の相手をもう一度見てみようと、した、ら。
 ――――あ……。
 きゅ、と心臓が締まる。
 背中しか見られないだろうなと思ったその彼と、ばっちり目が合ってしまった。向こうもそれに気づいたようで、恥ずかしそうにすぐ背中を向けてしまったけれど。
 ――――一目惚れなんて、そんなのあるわけないと思ってたのに。
 目が合った次の瞬間、それだと確信した。世界中でたったひとりの人に出逢ってしまったなんて、夢見がちなことを考えてしまっていた。
 まさかその相手が、親衛隊でもいそうなサラブレッドだなんて。どれだけの敵を蹴倒したら、あのお姫様みたいな男の傍に行けるのだろう。
 ミハエルは、ひとつ大きなため息を吐いた。



「なあ、あれ誰? 金髪の方」
 アルトは、同じ演劇コースの女生徒に訊ねる。もともと顔の広くない自分では、他のコースに知り合いなどいないのだ。彼女が知っていてくれることを祈った。
「え、金髪のって……ミシェルくんのこと?」
「ミシェル……」
「ミハエル・ブランね。航宙科のホープだよ。見たことない? 彼のフライト」
 本当に格好イイんだから、とわずかに頬を染めながら呟く女生徒に、アルトは目を細めた。
 もしかしてライバルとなり得る人はたくさんいるのかと。
 ――――そりゃ、あんだけ格好良ければ惚れるよな……。
 ちらりと、彼の方を振り向く。友人らしき栗毛の男子生徒と楽しそうに話していて、自分もあんな風に接せないかなあと少しばかり羨ましく思った。
「フライトってことは、パイロット養成コースか……あんまり興味なかったな、そっちは……」
 アルトは廊下の窓から、空を眺める。
 この移民船団においてその空はもちろん作り物なのだが、晴れた空は心を洗っていってくれる。
 そこを飛ぶというのは、いったいどんな気分なのだろうか。
「将来は軍に入るのかな。ミシェルくんなら、もうスカウトがきてるかも」
「……あいつのこと好きなのか? ずいぶん知ってんだな」
「えっ、私はそういうんじゃないって。ただのファンみたいなものかなあ? だってミシェルくんモテるし、相手にされないもん」
 アルトは目を瞬いて、俯いた。それでも彼女は自分よりどれだけかは望みがあるだろう。
 こんなことは誰にも言えない。
 たった一度すれ違っただけの男に、恋をしてしまったなんて。
 誰にも、言えるわけがなかった。



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NOVEL,マクロスF,ミハアル,ミハアルウェブ再録 2011.08.13

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ミハアルの出逢い、おつきあい、スタント・俳優として「マクロスF」に出演するという設定での世界観1◇B…

NOVEL,マクロスF,ミハアル,ミハアルウェブ再録

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ミハアルの出逢い、おつきあい、スタント・俳優として「マクロスF」に出演するという設定での世界観


1◇Boy meets Boy ―出逢い―
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◇Scar ―傷跡―

3◇Oasis ―憩いの場―
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4◇Visiter ―訪問者―
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5◇Anniversary ―記念日―
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6◇Completion ―小説完結―
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◇February 22 ―にゃんにゃんにゃん―

◇Cosmic power ―ラブソング―

9◇Dress up ―オープンアルト―
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10◇Frontier ―もう一度、あなたに―
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Please marry me!-013-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

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 アルトはふと目を覚ました。そう広くはないベッドの上で目覚めるのにも、もう慣れてきた。 そして、隣に…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-013-

 アルトはふと目を覚ました。そう広くはないベッドの上で目覚めるのにも、もう慣れてきた。
 そして、隣に当然のようにこの男がいることにも。
 彼―ミハエル・ブランとこうしてともに朝を迎えるようになって、二年が経つ。
 たかが寝顔を見られたこんな時にまで心臓が鳴ることくらい、そろそろなくなってもいいのではないかと思うほど、過ごした時は濃密だった。
 シーツに流れるハニーブラウンに、そっと手を伸ばしてみる。ミハエルが起きる気配はなくて、気を許してくれていることがありありと分かる。
 困ってしまうくらい嬉しさがこみ上げて、愛しさが満杯になって、思わずぎゅうっと抱きしめた。
「わ」
 案の定目を覚ましてしまったミハエルから、声が上がる。
「アルト? もうおはようの時間か?」
「んー、そうでもないけど」
 起こされて不機嫌な様子はなく、ミハエルは目覚めの口づけをくれた。素肌のままでお互い触れ合って、おはようの挨拶。
「夢、見たんだよ」
「夢って、どんな?」
「式挙げた時の」
 苦笑混じりのアルトの答えに、ああ、とミハエルは笑った。きっと昨夜、婚約記念日を祝ったせいだろうと。
 いろんなことがあったねと、ベッドで交わしたストロベリィトークの中に、確かに結婚式のことも含まれていたはず。
 神父もいない結婚式、美星学園の講堂を飾り付けて、ままごとの延長みたいに誓いあった。
 真っ白なウェディングドレスとグレーのテールコート、お色直しの打ち掛けと袴、パーティには深紅のドレスと軍服タイプで遊んで、似合うねと笑いあったことは、今でも覚えている。
 そういえばあの時トスしたブーケは、ボビー・マルゴが受け取ったのだっけと思い出して笑って、こてんとベッドに頭を預けた。
 天井に手のひらをかざせば、いつもと同じように薬指の指輪が目に入る。
 幸せだなあと口許を緩めたら、その手にそっと絡められる手があった。
「ひとりで幸せそうな顔しないでよ」
「……ばぁか、幸せくれたのお前だろ」
 揺れる指を絡めて、ベッドに落ちる。鼻先をすりあわせたら髪の毛が触れ合って、混ざるかと思うほど近くにお互いの瞳があった。
 朝にしては深いキスが、二人を包む。撫で合う素肌から体温を感じ取って、変わらない日常を愛おしむ。
 今日はふたりでアルバムでも見てみようかと、そうしてやっとベッドを降りるのだ。
「ミシェル」
「んー?」
 リビングに向かいかけた恋人の腕を引っ張って、アルトは笑う。振り向いたミハエルにつつくようなキスをして、
「今日も愛してるぞ」
 甘えて頬をすり寄せる。愛の言葉を囁く、それだけで胸がいっぱいになった。
 そんなアルトに応え、
「俺も、愛してるよアルト」
 ミハエルも肩を抱いて頬にキスをした。
 入り込む陽差しは、朝の祝福―。


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Please marry me!-012-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

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「ミシェルこれ、味付けなに? すげえさっぱりしてて美味しい」「秘密。まあ、隠し味は愛情ってとこかな」…

ミハアルウェブ再録

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「ミシェルこれ、味付けなに? すげえさっぱりしてて美味しい」
「秘密。まあ、隠し味は愛情ってとこかな」
「阿呆か」
 冷めないうちにと、テーブルに並べられた料理に手を伸ばす。食事はもっぱらアルトの仕事だったが、ミハエルも人並みにはできる。
 ミハエルが一生懸命作っている姿を想像して、今日は無理にでも休みを取ればよかったかなと、アルトは思った。
「次の記念日には、一緒に作ろうなアルト」
「えっ……」
「あれ、ヤダ?」
「そっ、そんなことない、一緒に作りたい」
 思ったことは口に出していないはずなのに、ミハエルはそれを読み取ったかのように囁いてくる。知らないうちに口にしてしまったのか、それとも彼の方も同じことを思っていたのか。
「でも、次ってなんだ? 今日が……婚約記念? になるのか?」
「うーん……恋人になったのと婚約が同じ日だしなあ」
 考え込むミハエルだが、やがて思い当たったように顔を上げる。
「分かった、姫と初めてエッ……もご」
「それ以上言うな、バカかお前!」
 察して、アルトはすかさずミハエルの口を手で覆った。初めて肉体的なつながりを持った日なんて、そんなのを記念日になんてできるわけがないと、顔を真っ赤にしながら。
「お前にはデリカシーってもんがないのか」
「えーだって、アルトすっごく可愛かったんだもん。あの日は確か、初めて家につれてったんだよな」
 ミハエルもそれ以上記念日どうこう言うつもりはないらしく、懐かしそうに目を細めた。
 懐かしむほど年月が経ったわけではないが、いろんなことがありすぎて、他人の一生分を謳歌したような気にもなってしまう。
「……翌朝お前の顔が締まりなかったのは覚えてる」
「え、それだけ?」
 アルトはそれに答えないままふいとそっぽを向いた。恥ずかしくてドキドキして、痛かったのと気持ちよかったのは覚えているけれど、そんなこと言ってやらない。
 もっともミハエルも、それだけを覚えているというわけではないことなど、とうに理解していた。
「そのあとバジュラが来ちゃったんだよね」
「ああ、住む世界が違うってお前に指輪外された時は、ホントに苦しかったな」
「ご、ごめん……」
 多少の嫌味を含めて苦笑すると、ミハエルの眉がしょぼんと下がる。いつもは自信満々に振る舞っている彼が、この話題を出すと途端に困った顔をするのだ。
 所在なげにふらつく手はやがて膝の上に降り、まっすぐだった視線が落ちた。
「ミシェル」
 そんなときは決まって、アルトはミハエルの名を呼んでやる。その顔を見たがった自分の後ろめたさを詫びるように、優しい声音で。
「俺のこと愛してる?」
 アルトは椅子から腰を上げ、ミハエルの元へと一歩で近づく。首に腕を回しそっと抱きしめると、みどりの瞳が見上げてきた。
「愛してるよ」
「お前の気持ちが変わらないなら、いいよ」
 二年前と同じ言葉でアルトは囁いて笑う。三度目の求婚以降、薬指にはまるリングが外されたことはない。もう外すなよと釘をさしたアルトの要望を、ミハエルは忠実に守ってくれていた。
「俺がお前を愛してて、お前が俺を愛してるんなら、これからも記念日祝おう」
 記念日なんて、何が口実でもよい。明日だって何かの記念日かもしれない。明後日だって、その次だって。
「うん、アルト。ずっとふたりで祝おうな」
 ミハエルは幸福そうに目を細めて笑い、アルトの体に腕を回す。降りてきた口唇を指で撫でて、ついと舌でなぞって入り込んだ。
 顔にかかる前髪と、口唇から伝わる熱と、心地よい独占欲と愛情に酔う。寄り添いながら、長い長いキスをする。離れた隙に吐き出す息も、全部ひとつになれたらいいのにと思いながら。
「ミシェル、こら……」
 鼻先が、首筋をくすぐる。その意図は理解していて、アルトは呆れながらミハエルの髪を梳いた。
「ベッドまで我慢しろよ」
「やーだ」
「やーだって、あのな……子供かお前は」
 腰を抱く腕の力が強まって、アルトはそれを軽くつねってみせる。イテテテテと、少しも痛くなさそうな声が返ってきて、笑ってしまった。
「こんなところじゃなくて、ベッドで……ゆっくり抱いてくれよ、ミシェル」
 わざと掠れさせた声で、耳元に囁いてみる。ぴく、と腕が一瞬強張ったように思うのは、きっと気のせいではないだろう。
「な、ミシェル……?」
 とどめに頬に口づけてやれば、計画通り、ため息混じりに陥落されてくれた。
「アルトは、ホント俺の扱い方うまくなったよな」
 二年以上をともに過ごしてきたのだ、それは扱い方を心得ていて当然の年月のように思う。アルトはイタズラっぽく口の端を上げ、愛しい恋人にキスを贈る。
 それのお返しなのか、ミハエルはよっとアルトを抱き上げた。なぜこうも軽々と抱き上げてしまえるのだろう。アルトが軽いのか、ミハエルの筋力が強いのか。
「まあ、全部……愛の力ってヤツだろ」
 抱き上げてくれたミハエルの首に腕を回して、不敵に笑う。
 今こうして素直に笑っていられるのも、これから先にも幸せが待っていると胸を張って言えるのも、愛の力だ、ぜんぶ。きっと、そうだ。
「ああ、そうだなアルト」
 前髪にキスを落とし、ミハエルは寝室へと足を向ける。通り過ぎる壁際のチェストの上には、ままごとみたいだった結婚式の写真が、いつもと変わらず飾られていた。



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ミハアルウェブ再録 2011.03.20

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 タンタンと階段を上がる。 こんな日に限ってエレベーターが故障しているなんてと、アルトは舌を打った。…

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 タンタンと階段を上がる。
 こんな日に限ってエレベーターが故障しているなんてと、アルトは舌を打った。
 早くたどり着きたいのに。
 早く顔が見たいのに。
「た、ただいま!」
 勢いよくドアを開けて滑り込む。
「おーおかえりアルト」
 キッチンの方から顔を覗かせてくる愛しい人に、アルトは極上のスマイルを返した。もちろんそれは意図したものでなく、自然にこぼれてしまった笑みだ。
「走ってきたのか? そんなに息切らして」
 エプロン姿に菜箸を持って、アルトを出迎えるミハエル。らしくなく上がった息に、首を傾げながら。
「早く……逢いたかったから」
 隠すこともしないアルトのストレートな愛情に、ミハエルの頬がさっと染まる。
「もーホント可愛い」
 撃ち抜かれたのはこれで何度目だろうと、壁に額を当てた。そんなミハエルのシャツを、すん、と鼻を鳴らしてアルトは引っ張る。
「いいにおいがする」
「ん? あ、ああ、ご飯作っといた。久々の休日だったから」
 ここは、ミハエルの両親が遺してくれたところではなかった。
 バジュラとの戦闘でフロンティアは壊滅状態、たくさんの人が命を落とした。ミハエルも一度はなくしかけた命をどうにかとどめ、今に至る。そんな中でもお互いが傍にいることを幸福に思った。
「今日はねー掃除して洗濯して買い物行って、2ブロック先の公園で散歩中のわんこと遊んで、ためてたTV見て、ちょっと昼寝って感じかな」
 充実してたよと笑うミハエルに、それはおめでとうとトゲトゲしく返してやる。こっちは仕事だったのにとすねてみると、
「アールート、そんな怒んないでよ」
 背中から伸びてくる腕に閉じこめられて、わ、と声を上げる。もっともそんな行動はお互いが予測していて、驚くことはない。
「疲れて帰ってきたアルトのために、美味しいご飯用意して待ってたんだからさー」
「胃薬も用意してあんのか?」
「……ひどいな」
 嘘くさい泣き真似なんかするミハエルを少しだけ振り向いて、アルトはそっと目を閉じる。そのあとすぐ顎に添えられる手と、重なってくる陰を感じた。
 触れる口唇は、昔からずっと変わらない。
 出逢って恋をして、つきあう前に求婚して、指輪を買って、式だドレスだと騒がれて、初めて恋人同士のつながりを持ったあの頃から、少しも変わっていない。
 思えばあの頃からそう時間が流れたわけでもないのかと、離した口唇を愛おしそうに眺める。
「おかえり、アルト」
「……ただいま、ミシェル」
 この腕の中がいちばん安心するなと、アルトはすうっと力を抜いた。そんなことは言ってやらないと思っているが、きっと気づかれているに違いない。
 バジュラとの戦争中は結局式を挙げる余裕なんかなくて、戦争が終結しフロンティアの復興が落ち着いてきた先々月に、ふたりはやっと式を挙げた。
 仲の良い者たちだけ集めて、神父もいないままごとみたいな式とパーティ、どんちゃん騒ぎ。正式なものではなかったが、ふたりにはそれで充分だった。
「今日シェリルがさ、ライブやるからって連絡してきたんだ」
 皮肉にもあの戦闘で交流をもつようになった、銀河の妖精シェリル・ノームも、多忙なスケジュールの合間を縫って駆けつけてくれた。
「あ、俺にもメール来てたなそういえば。観客として行けるのか、それともアクロバットで依頼がくるのかは分かんないけど」
 楽しみだなと、ミハエルはアルトの肩を抱いてリビングへと誘導する。そこに広がった光景に、アルトは目をしばたかせた。
「……ミシェル?」
「ほら、今日記念日だし」
 リビングのテーブルには、いつもは置かれていない花瓶とグラス、ミハエルが一生懸命作ったらしい料理とキャンドル。
「あとはパスタの盛りつけだけなんだ。ちょっと待ってて」
 そう言うミハエルはとても嬉しそうだ。まさかこれを準備するためにわざわざ休みを取ったのだろうか。
「……そっか、お前が忘れるわけねえもんな、このマヌケロマンチストが」
「マヌケはいらない」
 アルトは笑いながらテーブルについた。
 今日は、特に結婚記念日というわけではない。同居を始めた記念日でもない。戦争が終結した記念日でもない。
 ―覚えてる、今でも……思い出せるよ。
 アルトは並べられた料理と、花瓶に生けられたバラの花を眺めて幸せそうに微笑んだ。
 おつきあいを前提に結婚してください。
 顔を真っ赤にしたミハエルが、ドアを開けるなり突き出してきた、あの日と同じ赤いバラ。
 そうかあの日から二年経ったのかと、ミハエルと過ごしてきたこれまでを思い起こす。
 安物でもいいとふたりで買いに行った指輪は、今もお互いの左薬指にはまっている。
 ナナセの依頼により、被服コースのメンバーに作ってもらったアルトのウェディングドレスは、デザインサンプルとして美星学園の新校舎に飾られている。
 この戦争をともに過ごしてきたバルキリーは、S.M.Sの格納庫で今日もしっかり整備されている。
 他の船団の力を借りつつも復興を続けるマクロス・フロンティアは、今日も平和だった。
「お待たせアルト」
「ああ、サンキュ」
 盛りつけた皿を並べ終わって、ミハエルもアルトの正面に座る。一年前よりもっと男が上がった恋人を、アルトは眩しそうに眺めた。
「どうしたの姫、見惚れちゃって」
「いや、やっぱお前のこと好きだなあって思ってただけ」
 シャンパンを注ぐミハエルの手が止まる。そんなに素直に返されると、どう答えていいのか分からない。
 アルトとつきあって長いように思うけど、こんな時は心を全部持っていかれる。昔から変わっていないところだ。
「アルトはずるい」
「なにが」
「俺がどうすれば喜ぶかって、ちゃんと知ってんだからな」
 ぶつくさと、文句にもなっていないような文句を呟くミハエルに、アルトは笑いながらシャンパンを注いでいく。
 チン、とグラスが合わさって、わずかに色の付いた液体はふたりの口唇の中に吸い込まれていく。
「じゃあ、喜びついでに」
 面白くなさそうな、それでも嬉しそうな顔をしたミハエルに、アルトはとんと差し出した。綺麗にラッピングした、ひとつの小箱。
「え?」
「記念日だから」
 一目で贈り物と分かるそれが、テーブルの端を陣取る。ミハエルは目を瞠って、小箱を見下ろして、ついでアルトを振り仰いだ。
「これ、もらっていいの?」
「お前に買ってきたんだから、そうしてもらわないと困る」
「ありがとうアルト、嬉しい」
 ミハエルはその小箱を持ち上げ、幸せそうに笑う。それを見て、アルトの方こそ幸せになってしまった。
「ねえこれさ、駅の百貨店に入ってる店で買っただろ?」
「え? なんで知っ……」
「俺も同じとこで買ったから」
 そう言って、ミハエルも同じラッピングの箱をアルトに差し出した。中身を見ないと取り違えるだろうと、容易に想像できるほど、何から何まで同じ形、だった。
 今度はミハエルの方がしたり顔。出し抜いたつもりが、アルトの方も驚かされてしまう。
「……ありがとう、ミシェル」
「まさか同じ店で買うとはな」
「さすがに香りまではかぶらなかったな」
 ハハハと笑いながら、開けた小箱を覗く。ちょこんと大人しく収まっているのは、香水の瓶。シンプルな作りをしているが、興味を引く香りだった。
「いいな、この香り」
「それすごく悩んだんだぞ、もうちょっと上品な方がいいのか、さわやかな方がいいのかって」
 気に入ってくれてホッとした、とミハエルは息を吐く。
「俺もこれ気に入った。今度からこれにするよ」
「そうか? よかった……こういうの選ぶの初めてだったから」
 いつもミハエルが使っている銘柄は知っていたけれど、それでは面白味がないと、何日も悩んで購入したもの。喜んでくれてよかったと、アルトもホッと息を吐いた。


#ミハアル #両想い #ウェブ再録

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Please marry me!-010-

ミハアルウェブ再録 2011.03.20

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 慰霊式典に合わせて、ギリアムの密葬を行った。 こんな風に死んでいい人間ではなかったと思うけれど、兵…

ミハアルウェブ再録

Please marry me!-010-


 慰霊式典に合わせて、ギリアムの密葬を行った。
 こんな風に死んでいい人間ではなかったと思うけれど、兵士に死は付き物だ。こんな風にしか死ねなかったかもしれないと、ミハエルはそれを見送って目を閉じる。
 かけ声によって行われる全員の敬礼は、心の底からのものだった。
「ルカ、ミシェル、お前らも立ち会え。あいつの答えを聞かなきゃならん」
「隊長、でも……アルトは」
 躊躇うミハエルを、オズマ・リーは振り返る。その瞳は、確信に満ちていた。
「お前ももう、分かってんだろ。あいつなんじゃないのか? お前の相棒になるべき人間てのは」
「隊長」
 オズマはそれ以上何も言わずに歩みを進める。オズマが言うのは戦場でのパートナーだということが分かるが、ミハエルは俯いて目を伏せた。
 ―そう、なれるんなら……。
 なるべき人がいるのなら、アルトでしかあり得ない。
 オズマの向かう先に、その人がいる。いつもと違ってネクタイをきっちり絞めているのは、ギリアムへの敬意だろうか。
「国のために命を賭しても、国を挙げての葬儀は行われん。事故死扱いされ、報奨金さえ支払われない」
 オズマはアルトに向かって、民間軍事会社S.M.Sのあるべき姿を説いていく。一言一句聞き漏らすまいと、アルトの視線は突き刺すようにオズマを追っていた。
「それでも構わない。死ぬ時は、……誰だって一人だ」
「ふん、……ヒヨッコが、一人前に言いやがって。いいだろう、入隊を許可する。早乙女アルト、明朝〇八〇〇時、宿舎に入れ!」
「イエッサー!」
 それは明日からだ、とオズマに小突かれてアルトは首を引っ込める。ミハエルは、それをどこか他人事のように眺めていた。
「お前ら、こいつのことは任せるぞ」
「はーい」
 ルカが嬉しそうに笑って、オズマを見送る。気が抜けたのか、アルトからも大きなため息が聞こえてきた。
「アルト先輩、これからは職場でも一緒ですね! よろしくお願いします!」
「ああ、ルカ」
 素直に喜んでくれる後輩に、アルトは笑って返す。少なくともルカは、歓迎してくれている。
 問題はもう一人だと、アルトは視線を移した。
「ミシェル」
 呼ぶ声に、ミハエルはハッとして顔を上げる。そこには、友人の顔をした早乙女アルトがいた。
「あ、ああアルト、こうなったら……とことんしごいてやるからな」
「そりゃどーも」
 言って、アルトはポケットから指輪を取り出し手の上で放って見せる。ふたつのそれはカチャリと音を立てて、三度ほどアルトの手のひらを舞った。
「歯ぁ食いしばれよ」
 そうしてそのふたつを強く握りしめ、ミハエルの頬へと迷いもなく拳を繰り出した。
 あ、とルカが声を上げるのと、ゴッと響く鈍い音が重なり、その一瞬あとに、ミハエルが踏ん張った靴の音が聞こえた。
「……っつ……」
「あ、アルト先輩!」
 いきなり何をとルカはアルトを振り向くが、当の本人は開いた拳の中に転がる指輪を眺めていた。
「スッキリした」
 清々しく呟くアルトを、ミハエルは頬を押さえながら振り向いた。
「気が済んだなら、そりゃおめでとう」
 弁解も抗議もせずに、口の中にわずかに広がった血を飲み込む。これでもう、アルトの中の想いはケリがついたのだろうと、身勝手にも寂しさに眉を寄せた。
「ミシェル、俺の用はまだ終わってないぜ」
「アルト?」
「今日ここに来たのは、入隊の意思を伝えるのと、お前とのことにケリ着けるためだ」
 それはよく分かるよ、とミハエルは呟く。誓い合った指輪を握りしめた拳で殴るなんて、決別以外のなにものでもないだろう。
「ルカ、ちょっと立ち会ってくれないか」
「え? あ? は、はい?」
 アルトから急に話を振られて、ルカは応答を躊躇った。込み入ったことになりそうだしそろそろこっそり退散しようと思っていたのに、とわずかばかり眉を寄せながら。
「ミシェル」
「え?」
 アルトはすっとミハエルに向かって手を差し出した。ミハエルは目を見開かずにはいられなくて、瞬きが止まる。
「もう一度、はめてくれ」
 アルトの手のひらには、指輪がふたつ。昨日まで、確かにアルトとミハエルの薬指にはまっていた、それ。
「入隊した理由に、お前が関わっていないって言ったら多分嘘になるけど……死ぬ時にはひとりでも、後悔はしたくない。だから俺は」
 戦場というものを、本当の意味では知らない。先日触れたものなんて、ほんの一角に過ぎないだろうことは、アルトにだって分かっている。
 それでも。
「お前と生きるためにここにきたんだ」
 アルトの視線はまっすぐにミハエルを指し、その想いを告げる。
 バジュラが攻めてきたということは、どこにいても危険なことには変わりない。だったら、大切な人を守るために大切な人と一緒に戦いたい。
「アルト……」
「ミシェル、答えを」
 差し出した右手が、わずかに震える。
 そこを陣取るふたつの指輪を、ミハエルはじっと眺めた。少しだけ重なるリングは、自分たちの未来だろうかと考えて苦笑した。
「こんな臆病なヤツで、お前はいいのか?」
「お前が臆病なんてこと、前から知ってる」
 そうだったな、と口角を上げて、ミハエルは手を伸ばした。指でつまみ上げたのは、アルトがはめていた指輪。
「三度目の正直かな」
 アルトの左手をすと持ち上げる。求婚をするのは、これで三度目だった。
「ありがとう、アルト」
 選んでほしくなかったけど選んでほしかったと、複雑な想いを声に乗せて、ミハエルはもう一度アルトの薬指に指輪をはめた。その上から落とす口づけは、最後の誓い。
「ミシェルにも」
 右の手のひらにひとつ残った指輪を、アルトは指でつまむ。恥ずかしそうに、だけど幸福そうに左手を持ち上げて、アルトもミハエルの薬指に指輪をはめた。
「もう、外すなよな」
 固定する接着剤でもつけるようにキスをして、アルトは顔を上げる。
「よかった、仲直りされて」
 ほうっと大きな息を吐きながら、ルカは大仰に安堵してみせた。関係のもつれた二人の間でなんか、いつも通り過ごせるはずがないと感じていたから、本当に元に戻ってよかったと。
「悪かったなルカ、心配かけて」
「あとはお式ですねっ! 盛大に祝わないと!」
「はっ!?」
「へっ!?」
 万歳をしたあとにぐっと拳を握りしめて、ルカは嬉しそうに口ずさむ。アルトも、さすがにミハエルも素っ頓狂な声を上げてしまった。
「……って、え? お式挙げるでしょう?」
「ホントに挙げんの……?」
 バジュラが攻めてきてしまった今、そんな心のゆとりはない。誓いのリングがまたお互いの指にはまっただけで充分だと思っていたのに。
「なに言ってるんですかもったいない! 一生に一度なんですよ?」
 先走るルカをどうにか止めようとするけれど、彼の中ではもう式を挙げることが決定してしまっている。
「そうだ、この間話してたドレス! ナナセさんに、明日ちょっと相談してみます!」
「あ、おいルカっ……」
「あ、ミシェル先輩はアルト先輩に宿舎案内してあげてくださいね」
 僕これから忙しいんでと否応なしに押しつけて、ルカはたかたかと駆けていく。呆気にとられて、あまりにも突然の展開に開いた口がふさがらなかった。
「し、式だってさ……」
「あの様子だと冗談ってわけでもないんだろうなあ……」
 ルカの走り去った方向をふたりで眺めて、少しの沈黙を楽しむ。いつの間にかつながれた手に気がついたけれど、離そうとは思わなかった。
「だけどルカのあれは、八割ほどナナセと話す口実だぞ」
「ああ、……そっかそういえば」
 ルカはナナセに想いを寄せていたんだっけとアルトは苦笑した。他人の色恋を心配するより、自分の恋を成就させればいいのにと。
「でも、いいよ別に。みんながお前とのこと祝福してくれるんならもう、なんだって」
「うん、俺はお前のプロポーズ受けたし、アルトも俺のプロポーズ受けてくれたし、こんな幸せなことないよね」
 戦いの世界に足を踏み入れながら、同時に生涯の幸福を手に入れる。
 引かれあっていく口唇を重ねて、もう離れることのないようにと強く指を絡めた。
「明日学校行ったら、ナナセに話してみようか」
「話す前にあっちから来そうだけど」
「ははは、確かに。とりあえず、宿舎案内する。引っ越しは追々ってことでいいか?」
「ああ、頼む」
 これからずっと、同じ世界で生きていける。違う世界で生まれたふたりが、誰にはばかることなく同じ世界で。
 ふたりは宿舎に向かって歩きだして、改めて互いの気持ちを確かめ合った。


   病めるときも 健やかなるときも
   命の限り 愛し抜くことを
         誓います


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