No.712, No.711, No.710, No.709, No.708, No.707, No.7067件]

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空いた座席

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.31

#お題 #片想い

 観客席に、ぽつんと空いた座席が見える。ゲーム前の大事な時間なのに、それが残念で仕方がなかった。(来…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

空いた座席

 観客席に、ぽつんと空いた座席が見える。ゲーム前の大事な時間なのに、それが残念で仕方がなかった。
(来られなかったか)
 忙しい男だとは分かっている。それこそ世界中を飛び回っていて、ひとつのところに留まっていない。一昨日は日本にいたかと思うと今日はパリ、三日後にはイタリアにいる予定、ということだって珍しくないのだとか。
 そんな男に、たかがテニスの観戦チケットを贈っても、来やしないだろう。
 分かってはいたのだ。
 向こうの都合も訊かずに贈ったのはこちらの勝手で、落ち込む道理はない。
 それに、彼が来られないからといってプレイに支障を来していい立場でもないのだ。
 プロとして、背負うものがある。応援してくれている人たちの、国の期待を全身に背負っているのだ。無様な試合はできない。集中しなければ。
 大事な友人(・・)が、来られないからといって。
 手塚は集中するために膝の上で手を組み、目を閉じる。
 プロとして、恥じないプレイをしたい。彼に誇れるプレイをしたい。せめて呆れられないように、球のひとつひとつに力を込めよう。
 今は、集中だ。ただ勝つためだけに、このラケットを握れば良い。
 何度か深呼吸をして、目蓋を持ち上げる。
 頭の中から彼を――跡部景吾の存在を消してみたかったけれど、無駄だった。
 どうしても消えていかない。
 あの中三の暑い夏から、ずっとずっと消えてくれない。
 これはもうどうしようもないのだなと、消すことを諦めた。
 テニスと、跡部景吾への想いは、すでに手塚国光の一部になってしまっている。そこに在ることが当然で、失えないものだ。
 もうすぐ試合が始まる。
 この試合が終わったら――いや、勝利を収めたら、やってみようか。ずっとお前を愛していると、重めの愛の告白を。
 審判に礼をして、コートに入る。相手の選手と軽く拳をぶつけ合って、「いい試合をしよう」と視線だけで交わしてみる。
 ああ、そうだ、いい試合がしたい。そしていい気分であの男に電話をかけるのだ。
 ボールを打つ前から、楽しくなってきてしまった。
(待っていろ、跡部。俺は絶対にお前を捕まえる)
 試合開始のコール。相手のサービスゲーム。手塚はそれを、強く打ち返した。


 そうして無事に勝利を収め、観客たちからの声援を受け止める。勝つつもりで挑んだ試合だが、こんな時はやはり安堵する。
 手塚はぐるりと客席を見回して、目を瞠った。
 跡部に贈った、誰もいない座席。
 そこに、花束が置かれている。試合前まではなかったのに、いったいどうして。誰が置いていったのだろう。
 期待に高鳴る胸を押さえて、トレーナーにその花束を取ってもらった。
「キミにだろう、クニミツ。金髪の男性が置いていったらしいよ。知り合いかい?」
 それを受け取って、彼の好きな薔薇をふんだんに使った花束だと気づく。金髪というのはこの国では珍しくもないが、添えられたカードを開いて目を見開いた。
『あの夏からの無二のライバルへ』
 綺麗な文字で、そう書いてある。見慣れた筆跡だ。
 ホテルの名前と部屋番号が書いてあるということは、少しは時間があるのだろう。
 手塚はそっと目を閉じて、口許を緩める。
 さあ、勝つつもりで彼との試合をしにいこう。もちろん――油断などせずに。


お題:リライト様 /空いた座席
#お題 #片想い

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いつかの話

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.30

#お題 #両想い #プロポーズ

「結婚しないか」 手塚がそんなことを言い出したのは、カーテンの隙間から朝日が差し込み出したベッドの上…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

いつかの話

「結婚しないか」
 手塚がそんなことを言い出したのは、カーテンの隙間から朝日が差し込み出したベッドの上だった。
「……は?」
 跡部は何を言われたのか分からず、ただひたすらに首を傾げて手塚を見やった。
 ひどく真面目な顔で、じっと見つめてくる恋人は、今日もいい男だなと胸が高鳴るけれど、いったいどうしてしまったのだろうと心配にもなってくる。
 何しろ、恋人関係にもかかわらず、手塚からはめったにそういった愛情表現がされないのだ。
「寝ぼけてんのか? 昨夜はちゃんと寝……てはねえか」
 就寝時間は遅かったような気がする、とベッドサイドの時計を振り向く。最後に見た時刻は二時過ぎで、今は六時三十分。成長期の男子に必要な平均睡眠よりは、随分と短い。
 こんなおかしなことを言い出すのなら、昨夜は抱き合わずにゆっくり眠るべきだったかと、今さら後悔をした。
「別に寝ぼけているわけではない」
 この期に及んでそんなふうにのたまう手塚の額に、すっと手のひらを当ててみる。
「熱などない。やめろ」
「いや、やめろはこっちの台詞だろ。どうしたよ手塚? 何かあったのか」
 普段にない様子は、嬉しさよりも不安を生んだ。告白をしたのも跡部なら、強引に関係を結んだのも跡部の方だ。案外にあっさりと受け入れられてしまって、さらにはこんなに長く続いているのが、奇跡みたいなものだった。
「手塚、今の日本じゃ同性婚はできねえ」
「そうだな」
「まだ結婚できる年齢でもねえ」
「そうか」
「そもそもお前、俺のこと好きだったのかよ」
「それはそうなる」
 ベッドの上で隣り合って座り、上半身だけを相手に向ける。跡部は立てた片膝に頬杖をつき、今イチ現実味のない返答に眉を寄せた。
「好きなら、なんで言わねえんだ」
 そこは正直、小さな不満だ。自分が好きで手塚にぽんぽんと好きだ好きだ言っているのだが、だからと言って手塚からのアクションが欲しくないとは絶対に言えない。
 体の関係は持ってくれているけれど、愛されている実感があるかと言ったら、ないに等しい。快楽だけと言われても、頷いてしまえるくらいだ。
 好きだと言うなら、言葉にしてほしい。
 強引に抱かせてきた経緯を思うと、言葉を望むのも我が儘な気がするけれど、何もかもをすっ飛ばしてプロポーズだなんて納得できやしない。
 何かあったのだと思う方が自然だ。
 腕の不調か、それともどこか他に故障でも生まれたのか。それを考えないようにして、おかしな思考に走ったのだろうか。それならそれで、すぐ必要な処置をしなければならない。
 手塚が、テニスをできなくなるなんてことがあってはいけない。
「手塚、正直に言え。何があったんだ」
 隠し事をされるのは好きではない。彼は常に強くあろうとする。それは跡部自身にも覚えがあることで、手塚を好ましく思う理由の一つ。
 だけど自分は恋人のはずで、弱みを見せられない青学のメンバーたちとは違うのだ。
 ――と思いたい。不調があるのなら、早い段階で話してほしい。
 そう思って、おそろいのパジャマの袖をきゅっと握って訴えた。
「……特に何もない」
 手塚が小さく首を振るのに、跡部はすぐに否定を返した。
「噓をつくな。何もなくて、お前がそんなにおかしなこと言い出すもんかよ」
 頑なに否定して、問題点を引き出そうとする跡部に、手塚は困ったような顔をする。だけどひとつ瞬いて、気がついたように「ああ」と息を吐いた。
「そうだな、何もないというのは噓になる」
 噓をつくなと言った自分に対して、そうやって認めてくれたことにホッとした。少なくとも、話してくれる気はあるようだ。
「何もなかったわけではない。ただ俺が、朝日にキラキラと輝くお前の髪を、綺麗だと思っただけだが」
「……………………アーン?」
 思っていたのとは違う答えが返ってきて、跡部は思わず不機嫌そうに片眉を上げた。
「毎朝見たいと思った。だが婚姻も結んでないのに、そんなことは難しいだろうと」
「待て、手塚。そうじゃない」
「そうじゃない、とは?」
 いろいろおかしなところがありすぎる。しかも、自覚をしていない辺りタチが悪い。
「結婚がどうとかじゃなくて、根本的なとこから片付けていこうじゃねーの」
「異論はない」
 こくんと頷く手塚に脱力しかけ、跡部は大きく息を吐き、手塚の目をじっと見つめ直した。
「お前は俺に惚れてんのかよ」
「そうだが」
「言えよ! そういうことは!」
「俺は言っているつもりだ。お前が聞いていないだけだろう」
「ふざけんな、俺がお前の声を聞き逃すわけねえだろ!」
 いったいいつどこで愛の告白などしてくれたというのか。そんな嬉しいことがあれば、絶対に忘れるはずがない。
「昨夜も、何度も言った。お前も好きだと返してくれたが、あれは数に入らないのか」
「はァ? 昨夜なん、て……、…………っ」
 そんな覚えはないと言い掛け、ひとつ思い当たることがあって、頬がボッと赤らんだ。
「〰〰お……れの理性が、残ってる時に言いやがれよ……!」
 コトの最中に言われても、夢中になっていて少しも余裕がない。事実、跡部は一切覚えていない。
 覚えているのは、手塚の熱と愛撫と、何度も好きだと呟いたことくらいだ。
「それはすまない。では、今言おう」
 悔しくて俯いた顔が、手塚の手のひらで上向かされる。
「今なら聞いていないなどとは言わせない。俺はお前が好きだ、跡部」
 まっすぐな手塚の瞳と深くて力強い声に、ぞくぞくと、背筋を歓喜が走り抜ける。一方的だと思っていたこの恋情を、同じほどの熱で返してくれた。
「ああ、ちゃんと、聞いたぜ……!」
 嬉しい、と思わず顔がほころぶ。それのどこが手塚の琴線に触れたのか分からないが、唐突に唇が触れてきた。
「そうか、ちゃんと意識のある時に好きだと言うと、お前はそんなに可愛い顔をするのだな」
「かわ……いくねえだろ! やっぱりお前おかしいぞ、今日!」
「俺はおかしくない」
 そう言いつつも、ベッドに押し倒してくる手塚に跡部の思考が追いつかない。こんな風に積極的な手塚を見るのは初めてだった。
「それで、どうなんだ跡部。結婚はしてくれるのか?」
「こ……んなとこで、なんの計画性もねえまま言ったプロポーズなんか、受けるわけねえだろ! 出直してきやがれ!」
「分かった、では予約だけしておく。いつか、もう一度お前に言うからな。――忘れるなよ跡部」
 そう言いながら、手塚はゆっくりと眼鏡を外してしまう。
 跡部は、いつかの話とこれからすぐの愛の囁きに期待して胸を高鳴らせながら瞳を閉じた。


お題:リライト様 /いつかの話
#お題 #両想い #プロポーズ

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ゲーム・オーバー

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.29

#お題 #両想い

「目くらい閉じたらどうだ」「テメェが閉じたらな」「先に閉じて構わないぞ」「俺は後でいい」 正面で向き…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

ゲーム・オーバー

「目くらい閉じたらどうだ」
「テメェが閉じたらな」
「先に閉じて構わないぞ」
「俺は後でいい」
 正面で向き合って、かれこれ三十分ほど、こんなやり取りが続いている。
 どちらも、頑なに譲ろうとしない。難しいことではないのだ。
 ただ単に、瞳を閉じるというだけの行為が、難しいわけもない。
 それなのに、どうして手塚と跡部は、自分が先に閉じることをよしとしないのだろうか。
「……キスをしたいと言ったのはお前だろう」
「だからって、先に目を閉じなきゃいけねえルールはねえだろ」
 沈黙が流れる。つまりはキスをするような間柄ではあるのだが、その際に目を閉じる閉じないで揉めているようだ。犬も食わないとは、まさにこのことだろう。
「目を閉じない理由を話せ」
 手塚は、キスをしたいのなら目を閉じろと言うが、跡部はそれを聞かない。最後の通告だとでも言わんばかりの強い口調で、促してみた。納得のいく理由ならば、考えてやってもいいと。
「お前の顔を見ていたい。ただそれだけだぜ」
 跡部は、なんのためらいもなくそう返してくる。諫めたつもりが、追撃を受けて撃沈したような感覚を味わった。
「………………そんなことを言うなら、俺だってお前の顔を見ていたいんだが」
「なんだよ手塚、俺のこと好き過ぎだろ」
「それはお前もだろう、跡部」
 違いない、と笑う跡部に、手塚は唇を寄せていく。キスの時は瞳を閉じなければならない――なんて、そんなルールが決められているわけではないのだなと、ようやく二人はキスをした。
 どちらが負けて、どちらが勝ったのかは分からないが、これでゲーム・オーバー。そして、リスタートだ。


お題:リライト様 /ゲーム・オーバー
#お題 #両想い

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飽きないか、そんなに俺のことばっかり見てて

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.28

#お題 #両想い

 恋人の顔越しに、もう見慣れてしまった天井を眺める。胸の上の重みが心地良くて、機嫌の良さそうな可愛い…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

飽きないか、そんなに俺のことばっかり見てて

 恋人の顔越しに、もう見慣れてしまった天井を眺める。胸の上の重みが心地良くて、機嫌の良さそうな可愛い恋人の頬に指先を伸ばしてみた。
「少し重いんだが、跡部」
「アーン? 知るかよ」
 心地良くはありつつも、重くないわけではないと、暗に降りてくれと伝える。ほどよく筋肉のついた肉体は、見た目よりもずしりとくるのだ。
 だが跡部は楽しそうに、嬉しそうに口の端を上げるだけで、退いてくれる気配は少しもない。手塚はふうと短い息を吐いて、したいようにさせておいた。
 何しろ昨夜は、手塚の方がしたいようにしてしまったのだから。
 パジャマの隙間に、昨夜の名残であるキスマークが見え隠れする。柔らかなベッド上でそんなものを見てしまえば、また新たな欲望が頭をもたげそうだが、朝っぱらからそんなことをするわけには、と視線を背けた。
「ほら、眼鏡」
 サイドテーブルに置いていた眼鏡をそっと持ち上げ、跡部が丁寧にかけてくれる。視界は先ほどまでよりクリアになって、恋人の顔をより鮮明に感じることができた。
「クク、今日もいい男だぜ、手塚」
「それは礼を言うべきだろうか」
 面を食らったように驚き、そうして「どちらでも」とふるふる肩を震わせる。何かおかしなことを言ったのだろうか。
「人の上で笑わないでもらいたい」
「いーいじゃねーかよ。こんな時でなきゃ、お前にマウント取れねえんだから」
「取れてないと言うならお前はすぐに意識を改めろ」
 乗っかられている状態では、確かにマウントポジションを取られている形だが、何を言っているのだこの男はと、呆れたように脱力してわずかにのけぞった。
 跡部景吾のどこに、手塚国光に対して優位でない時があるのだろう。頭から足の爪の先まで、「跡部景吾」というだけで、ずっとマウントを取られっぱなしのような気さえするのに。
 恋を告白してくれたのは、確かに跡部の方が先だった。跡部はどうも、それを不覚だと思っているらしい。
 告白されることはあっても、告白することなんて生まれてこの方なかったのだろう。〝惚れた方の負け〟なんて言葉を気にもしているようで、いつも、いつでも、「俺の方が分が悪い」と口を尖らせている。
 そんな尖った唇に、いつも、いつでも、キスをしたいと思っている男がいるとは思わずに。
 初めての恋を一生懸命に告げてくれた跡部が、愛しくてしょうがない。この男の〝初めて〟をもらえたのだと思うと嬉しいが、手塚とて〝初めて〟だったのだ。先を越されたことを悔しく思っているのは、言わないでおこうと思っている。
「ところで昨夜は随分と情熱的だったな、手塚。何かあったか?」
 胸の上に乗っかって、嬉しそうに笑いながらつんと鼻先をつついてくる跡部に、また優位に立たれる。
 余裕があったことなんて一度もないし、夜を過ごして朝を迎えれば、こんなふうに跡部の方に余裕があるようにすら思う。
 何を基準にして、「マウントを取れていない」というのか、心の底から疑問だった。
「特に何もないが。しいて挙げれば、昼間のテニスでより多くポイントを取れたことだろうか」
「腹立つなテメェ」
 跡部の眉間にしわが寄ってしまうが、そんな顔も綺麗だなと思ってしまうあたり、やはり分が悪いのは自分の方だと手塚は思った。
 テニスをした時に、いつもより多く跡部からポイントを取れた。それは素直に嬉しかったし、言ったことは噓ではない。
 ただ、夜が激しくなってしまった理由は、少しだけ違う。
 ポイントを取った際、悔しそうに顔を歪めた後に「やるじゃねーのよ、手塚ァ」とそれはそれは楽しそうに笑った跡部に、ポイントを取った以上に嬉しくなってしまっただけだ。
 永遠にライバルであり続けるこの関係を、嬉しく思ってくれている跡部を、いつもより愛しく思っただけだ。
 そんな気持ちが、行為に現れてしまったのだと思う。
 恋人という関係に甘んじず、手加減はしない。それはお互いにだ。
 手塚もその事実を嬉しく思っており、やはりこの男を好きになって良かったと心の底から思った。
「こんなことを言うのもなんだが、体は大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえ。股関節が痛い」
 ぐに、と頬をつままれて、痛みを感じる。不機嫌そうに目を細める跡部だが、染まった頬が、不機嫌なのではなく照れくさいのだと悟らせる。
「すまない。お前が可愛かったのでつい」
「か、…………わいいとか言うんじゃねーよ」
「事実だろう。だがそういうのは俺の前だけでいい」
 その形容詞に慣れていないらしい跡部が、さらに頬を赤くする。可愛さが上乗せされて、やっぱり朝っぱらからおかしな気分になりそうだった。
「やっぱりテメェには勝てる気がしねえ……」
「俺の台詞なんだが」
「噓つくなよ、悪い口だな」
 そんなことを言いながら、跡部はずいと胸の上を這い上がってくる。そうして唇同士を触れ合わせ、押しつけてきた。
 噓など言っていないと手塚は抗議したかったが、そうするよりも触れていたい。朝にしては濃密なキスが、体温を上げた。
「……ああ、くそ、悔しい。こんな時でも涼しい顔しやがって」
 ふいに唇を離したと思ったら、悪態を吐きながら頬に触れてくる指先。
 いったいどんな顔をしているのかと、手塚は苛立ちに似た思いで濡れた唇を尖らせた。
「いったいどんな顔をしているか知らんが、胸の内も涼しいなどと思うなよ、跡部」
「アーン? どう、い……う、…………分かった。分かったから落ち着け。つーかテメェはちょっと顔に出す訓練くらいしやがれ」
 手塚の状態を認識して、跡部は体を離そうとする。けれども、それより速く、手塚の腕がその体を引き留めて放さない。
「その訓練に、お前が付き合ってくれるというのなら」
「…………それって、お前の顔眺めてていいってことか? それなら一日中でも付き合ってやるぜ」
「飽きないか、そんなに俺のことばっかり見ていて」
「ちっとも」
 冗談のつもりだったんだがとは言えないで、楽しそうに笑う恋人にまた負けたような気分に陥る。
 一日中顔を眺められるのは、落ち着かないことこの上ないだろうなと思いつつ、長く一緒に居られるのは願ってもないことだ。
「ほら手塚、手始めに、にっこり笑って愛してる、言ってみな?」
 人の胸の上でくすくすと楽しそうに頬杖をつきながら、小悪魔みたいに笑う恋人が相手だとしても。
 それならばこちらは、その期待に応えてやろう。
 手塚は口の端を上げて呟いた。
「愛してるぞ、跡部」
 胸の上で、跡部が息を飲む。反撃されるとは思っていなかったのか、見開かれた瞳は気分が良かった。
「……手塚、それは〝にっこり〟じゃなくて〝ニヤリ〟ってヤツだろうが……」
「そうか。ではやはり練習が必要だな」
 ねだっておいて恥ずかしそうに視線を背ける恋人を抱いて、くるりと体の位置を反転させる。もっと真っ赤になった頬を見て、手塚の口の端はさらに上がることになった。



お題:リライト様 /「飽きないか、そんなに俺のことばっかり見てて」
#お題 #両想い

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君に二度目の恋をした日

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.27

#お題 #両想い

 どういう状況だ、と体が硬直する。 跡部が俺の右肩に寄りかかって、すうすうと眠ってしまった。 相当疲…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

君に二度目の恋をした日

 どういう状況だ、と体が硬直する。
 跡部が俺の右肩に寄りかかって、すうすうと眠ってしまった。
 相当疲れているのだろうなというのは分かる。合宿の練習に加えて自主トレ、家の仕事までこなしているのだから。
 それでも跡部は、他人がいるところでは何でもないように振る舞っている。
 特に、氷帝学園のメンバーの前では。
 疲れているところを見せたくないのだろうか。心配をかけたくないのならば、少しセーブすればいいものを。とは思うが、ことテニスに関して無茶をしがちなのは、俺も跡部も変わらない。俺が忠告したところで、聞きやしないんだろう。
 だから、疲れているなら寝かせてやりたい。
 俺の傍では気負わずに、意地を捨ててゆっくりしてほしい。起きないようにじっとしているから。
 首筋の髪がくすぐったいだとか、温もりが心地良くておかしな気分になりそうだとか、そんなことは頭の片隅に追いやっておこう。
 長く付き合っている氷帝メンバーには見せないらしいこんな姿を晒してくれるのは嬉しい。できればちゃんとベッドで眠ってほしいが、もしかしたら合宿所のベッドでは跡部には合わないのかもしれない。
 こればかりは、どうしてやることもできない。
 せめて少しでも休めるようにと祈るが、他人の肩に寄りかかって寝るというのは、逆に体が痛くなったりしないだろうか。
「……っ」
 心配になって、少し覗き込んだのがいけなかったのかもしれない。僅かな振動で跡部が起きてしまった。
「悪い手塚、寝ちまってたか」
「ほんの少しだ。起こしてすまない」
「ん、いや……昨夜寝たの遅くて……お前の体温に、何か安心しちまって」
 まだ眠そうな目を擦る跡部の手を取って、あまり擦るなと諫めてやった。なんだか理性を試されている気もしたが、手を出すわけにはいかなかった。
「膝で良ければ貸すが。少し横になるといい。十分だけでも、だいぶ違うだろう」
「ひざまくら……フフッ、いいな、貸せよ」
 跡部は腰をずらして、素直にベンチの上で横たわる。頭を俺の膝に乗せて、眠る体勢になってしまった。
 無防備に身を預けてくれる跡部に、やっぱり胸が高鳴った。
「手塚、髪……撫でてくれ。その方が良く寝られそうだ」
「……ああ、ゆっくり眠るといい」
 さらさらとした髪を撫でて、穏やかな眠りが訪れるようにと祈る。
 その奥で、もっともっと触れたい想いが募っていく。唇を引き結んで、また想いが膨らんだのだと知る。
 二度目どころか、二桁目くらいの恋を自覚して、小さく小さく、好きだと呟く。
 恋人への子守歌にはなりやしないだろうけど。



お題:リライト様 /君に二度目の恋をした日
#お題 #両想い

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気持ちを言葉に変えた日

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.26

#お題 #片想い #両片想い

 恋をしていると気がついて、悩んだのは恐らく三日ほどだった。 どこが好きなのか――全部だ。 思い違い…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

気持ちを言葉に変えた日

 恋をしていると気がついて、悩んだのは恐らく三日ほどだった。
 どこが好きなのか――全部だ。
 思い違いではないのか――考えたが違わない。
 具体的にどうなりたいのか――恋人に。
 考えれば考えるほど、恋の相手が彼であるのが自然なことでしかなかった。
 テニスを通して、魂の熱さを知った。がむしゃらさを知った。誠実さを知って、球を打つ楽しさを思い出した。
 全力で応えて、ぶつかってきてくれる跡部を、好きにならないわけがない。
 もっと近くに行きたい。もっと親しくなりたい。跡部の中で、もっと大きな存在になりたい。
 今日こそ言おうと思う。恋をしていると。恋人関係になりたいと。
 友人でなく、好敵手でなく、いや、そのどちらもを保ったままで、恋人になりたいと。
 だってそうだろう。跡部との間にはテニスがある。そこには恋愛感情でなく、好敵手としての好意しかない。
 跡部の球を全力で打ち返したいという思う気持ちと、跡部の体を全力で抱きしめたいと思う気持ちは、まるで別のものなのだから。
 友人でもありたいし、好敵手でもありたいし、恋人でもありたい。
 自分がこんなに欲張りな人間だったなんて、知らなかったな。
「……――塚、手塚!」
 跡部が俺を呼ぶ声でハッとした。しまった、物思いにふけりすぎたか。
「聞いてなかったなテメェ……」
「すまない。なんだ、跡部」
「明日は用事があって来られねえっつってんだよ」
 だから今日はたっぷりとな、なんて言って跡部はジャージを脱ぎ捨てる。止めろ、目に毒だし、耳に毒だ。
 だが、そうか……明日は逢えないのか。
 となると、やはり今日言っておいた方がいいだろう。テニスを始めて〝好敵手〟になってしまう前に。
「跡部、少し話がある」
「んだよ? せっかくの楽しい気分に水差すたあどういう了見だ」
「お前に恋をしている」
 黄色いボールが、驚いたらしい跡部の手から逃げていく。トトンと音を立てて地面に落ち、コロコロと転がってくる。それを拾い上げて、跡部へと差し出す。けれども、呆然としたように佇む跡部がそれを受け取ってくれることはなかった。
「なん、……だって?」
「聞こえなかったふりをするのは卑怯だと思わないか、跡部」
「お前がふざけたこと言うからだろ!」
「ふざけてなどいない。本気で言っている。お前が好きだと」
 跡部の頬が赤く染まる。待ってくれ、お前でも恥ずかしがったりするのか。テニスをする前にと思って言ってしまったが、この後こんな跡部とテニスをする自信なんてないぞ。失敗した。
 だが、また違う一面が見られて嬉しい気持ちもある。
 あの日の頂上決戦をしただけのままの関係では、絶対に知ることのできなかった一面だ。
 跡部景吾を表す形容詞に、〝可愛い〟が書き加えられたことは、……今言うべきではないんだろうな。
「……俺は男なんだが」
「知っているが」
「……………………お前、別にそっちしか駄目なわけじゃねえんだよな?」
 そっち、というのは、同性しか好きになれないのではないかと言っているのだろう。あまり深く考えたことはないが、俺は跡部景吾という人間が好きなだけで、同性が好きなわけではない。
 頷いて、再度好きだと告げた。
「お前との関係に、恋人というものを付け加えたい。友人でも、好敵手でも、それだけでは物足りないんだ」
「欲張り過ぎんだろ。この俺が相手してやってんのに、物足りないって」
「それは自覚している。だが、お前が相手だからこそだとも思う。跡部なら、そのすべてに応えられる技量があるだろう」
 一対一だからといって、関係性が一つに限定されるなんてルールはない。二つでも、三つでもいいはずだ。
 跡部ならたとえ十個でもこなしてしまうのではないだろうか。
「そりゃ、ある。あるが、そんなもっともらしいこと言って丸め込もうとすんじゃねえ」
「丸め込みたいのではなく、好きになってほしいんだが」
 跡部はがくりと項垂れて、大きなため息を吐いて、右を向き、左を向き、空を仰いで、うめくように声を上げた。
「ああくそ、俺が手塚の頼みを断れるわけねえじゃねーの」
 ふる、ふる、とゆっくり首を振り、呆れたように、諦めたように息を吐き、まっすぐに見つめてきてくれた。
「いいぜ手塚、なってやるよ。恋人関係とやらに。その代わり、俺をちゃんと惚れさせてみせな」
 ニッと口の端を上げる跡部に、ぱちぱちと目を瞬く。これはチャンスをくれたということだろう。
 俺の頼みを断れないというのがどういう感情からくるのかは分からないが、少なくとも好意はもってくれているようだ。
 可能性は、ゼロではない。
 この先ちゃんとした恋人になれるまで、跡部を口説けばいいんだろう。どうやればいいのかは分からないが、きっとなんとかなる。
「分かった、油断せずに行こう」
 やはり、跡部との勝負は楽しいな。負けるわけにはいかない。
 必ず口説き落としてやろうと決めて、俺は跡部に再度ボールを差し出した。
「さあ跡部、テニスをするぞ」
「お前、この状況でテニスかよ……」
 呆れつつも、跡部はボールを受け取ってくれる。言っただろう跡部、俺はお前と友人で好敵手で恋人でありたいのだと。
「ほら、構えな手塚、ちゃんと受け止めろよ」
 俺のサービスからにするべきだった。受け止めるのは俺じゃない。まあ、打ち返せば問題ないな。
 ちゃんと受け止めてもらえるんだろうな、跡部。この気持ち、全部を。


お題:リライト様 /気持ちを言葉に変えた日
#お題 #片想い #両片想い

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何かが変わった気がした日

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.25

#お題 #片想い

 何げない日常だったと思う。 いつものように放課後落ち合って、近くのコートで打ち合って、物足りなさを…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

何かが変わった気がした日


 何げない日常だったと思う。
 いつものように放課後落ち合って、近くのコートで打ち合って、物足りなさを払拭する。
 それが、跡部との過ごし方だった。
 テニス部を次世代に託して、生徒会も徐々に引き継ぎをしている今、どうしても物足りないと体が嘆く。
 そんな自分に応えてくれる男がいると気づいたのは、跡部から連絡が来た時。跡部も物足りなさを感じていたらしく、『時間が空いてればテニスしねえか』と誘ってくれたのが、いちばん始め。
 それまで、跡部は対戦校の部長という認識しかなかった。もちろん強いプレイヤーだし、初めて対戦したあの試合は印象に深い。ただそれでも、それ以下でもそれ以上でもなかったんだ。どれだけ薄情だと言われようと。
 だが、テニスをするのなら跡部がよかった。
 他に相手がいないわけではなかった。進級試験や外部受験の準備があるとはいえ、今まで共にテニスに打ち込んできた仲間だっている。それこそ友人と呼んでいい存在だって。
 だけど、このくすぶる熱をさらに燃えたぎらせてくれるのは、跡部景吾しかいなかった。
〝友人〟では駄目だ。〝仲間〟ではなく、気兼ねなく、打ち負かしてやりたいと思う相手。
 いっそ小気味良いほどの闘志をぶつけてきてくれる、この男でなければ駄目だと思った。
「スピードが落ちたんじゃないのか、跡部!」
「抜かせ! テメェこそライン取りが甘ぇってんだよ!」
 分かりやすく攻撃的なボールを打ってきてくれる。それを打ち返すのが、楽しくてしょうがない。足が軽い。腕が軽い。
 公式戦ではないからかもしれないが、次にどんな球が飛んでくるのか、想像するのが楽しい。
 まさかそんなラインでくるなんて。一瞬でも反応が遅れたら、横を抜かれる。
 神経を研ぎ澄まし、張り詰めているのに、心地良い。それは恐らく、ネットを挟んだ向こうの相手も同じだからだろう。
 跡部が、トン、トン、とボールをついてラインを確かめる。なかなか打ってこないことに焦れかけたその時、跡部が顔を上げた。その口許は高く上がっている。
「いいな、この感覚だ。楽しいじゃねーの、手塚ァ!」
 ひゅっと上げられたトス。速いスピードでラケットが振られた。
 見えなかったわけじゃない。反応できなかった。
 楽しい、と高らかに笑う跡部の顔に、視線が釘付けになっていて。
 瞬きをすることさえ惜しいと思った。
 コートの外灯に光る汗の粒が、揺れる金の髪が、まっすぐに射貫いてくる青の瞳が、あんなに。
 あんなに綺麗だったなんて、初めて知った。
 ここ最近でようやく、〝友人〟らしく過ごせるようになったと思っていたのに、また物足りなくなる。
 その日、俺の中で何かが変わってしまった。


お題:リライト様 /何かが変わった気がした日
#お題 #片想い