- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.709, No.708, No.707, No.706, No.705, No.704, No.703[7件]
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.28
恋人の顔越しに、もう見慣れてしまった天井を眺める。胸の上の重みが心地良くて、機嫌の良さそうな可愛い…
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.27
どういう状況だ、と体が硬直する。 跡部が俺の右肩に寄りかかって、すうすうと眠ってしまった。 相当疲…
君に二度目の恋をした日
どういう状況だ、と体が硬直する。
跡部が俺の右肩に寄りかかって、すうすうと眠ってしまった。
相当疲れているのだろうなというのは分かる。合宿の練習に加えて自主トレ、家の仕事までこなしているのだから。
それでも跡部は、他人がいるところでは何でもないように振る舞っている。
特に、氷帝学園のメンバーの前では。
疲れているところを見せたくないのだろうか。心配をかけたくないのならば、少しセーブすればいいものを。とは思うが、ことテニスに関して無茶をしがちなのは、俺も跡部も変わらない。俺が忠告したところで、聞きやしないんだろう。
だから、疲れているなら寝かせてやりたい。
俺の傍では気負わずに、意地を捨ててゆっくりしてほしい。起きないようにじっとしているから。
首筋の髪がくすぐったいだとか、温もりが心地良くておかしな気分になりそうだとか、そんなことは頭の片隅に追いやっておこう。
長く付き合っている氷帝メンバーには見せないらしいこんな姿を晒してくれるのは嬉しい。できればちゃんとベッドで眠ってほしいが、もしかしたら合宿所のベッドでは跡部には合わないのかもしれない。
こればかりは、どうしてやることもできない。
せめて少しでも休めるようにと祈るが、他人の肩に寄りかかって寝るというのは、逆に体が痛くなったりしないだろうか。
「……っ」
心配になって、少し覗き込んだのがいけなかったのかもしれない。僅かな振動で跡部が起きてしまった。
「悪い手塚、寝ちまってたか」
「ほんの少しだ。起こしてすまない」
「ん、いや……昨夜寝たの遅くて……お前の体温に、何か安心しちまって」
まだ眠そうな目を擦る跡部の手を取って、あまり擦るなと諫めてやった。なんだか理性を試されている気もしたが、手を出すわけにはいかなかった。
「膝で良ければ貸すが。少し横になるといい。十分だけでも、だいぶ違うだろう」
「ひざまくら……フフッ、いいな、貸せよ」
跡部は腰をずらして、素直にベンチの上で横たわる。頭を俺の膝に乗せて、眠る体勢になってしまった。
無防備に身を預けてくれる跡部に、やっぱり胸が高鳴った。
「手塚、髪……撫でてくれ。その方が良く寝られそうだ」
「……ああ、ゆっくり眠るといい」
さらさらとした髪を撫でて、穏やかな眠りが訪れるようにと祈る。
その奥で、もっともっと触れたい想いが募っていく。唇を引き結んで、また想いが膨らんだのだと知る。
二度目どころか、二桁目くらいの恋を自覚して、小さく小さく、好きだと呟く。
恋人への子守歌にはなりやしないだろうけど。
お題:リライト様 /君に二度目の恋をした日
#お題 #両想い
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.26
恋をしていると気がついて、悩んだのは恐らく三日ほどだった。 どこが好きなのか――全部だ。 思い違い…
気持ちを言葉に変えた日
恋をしていると気がついて、悩んだのは恐らく三日ほどだった。
どこが好きなのか――全部だ。
思い違いではないのか――考えたが違わない。
具体的にどうなりたいのか――恋人に。
考えれば考えるほど、恋の相手が彼であるのが自然なことでしかなかった。
テニスを通して、魂の熱さを知った。がむしゃらさを知った。誠実さを知って、球を打つ楽しさを思い出した。
全力で応えて、ぶつかってきてくれる跡部を、好きにならないわけがない。
もっと近くに行きたい。もっと親しくなりたい。跡部の中で、もっと大きな存在になりたい。
今日こそ言おうと思う。恋をしていると。恋人関係になりたいと。
友人でなく、好敵手でなく、いや、そのどちらもを保ったままで、恋人になりたいと。
だってそうだろう。跡部との間にはテニスがある。そこには恋愛感情でなく、好敵手としての好意しかない。
跡部の球を全力で打ち返したいという思う気持ちと、跡部の体を全力で抱きしめたいと思う気持ちは、まるで別のものなのだから。
友人でもありたいし、好敵手でもありたいし、恋人でもありたい。
自分がこんなに欲張りな人間だったなんて、知らなかったな。
「……――塚、手塚!」
跡部が俺を呼ぶ声でハッとした。しまった、物思いにふけりすぎたか。
「聞いてなかったなテメェ……」
「すまない。なんだ、跡部」
「明日は用事があって来られねえっつってんだよ」
だから今日はたっぷりとな、なんて言って跡部はジャージを脱ぎ捨てる。止めろ、目に毒だし、耳に毒だ。
だが、そうか……明日は逢えないのか。
となると、やはり今日言っておいた方がいいだろう。テニスを始めて〝好敵手〟になってしまう前に。
「跡部、少し話がある」
「んだよ? せっかくの楽しい気分に水差すたあどういう了見だ」
「お前に恋をしている」
黄色いボールが、驚いたらしい跡部の手から逃げていく。トトンと音を立てて地面に落ち、コロコロと転がってくる。それを拾い上げて、跡部へと差し出す。けれども、呆然としたように佇む跡部がそれを受け取ってくれることはなかった。
「なん、……だって?」
「聞こえなかったふりをするのは卑怯だと思わないか、跡部」
「お前がふざけたこと言うからだろ!」
「ふざけてなどいない。本気で言っている。お前が好きだと」
跡部の頬が赤く染まる。待ってくれ、お前でも恥ずかしがったりするのか。テニスをする前にと思って言ってしまったが、この後こんな跡部とテニスをする自信なんてないぞ。失敗した。
だが、また違う一面が見られて嬉しい気持ちもある。
あの日の頂上決戦をしただけのままの関係では、絶対に知ることのできなかった一面だ。
跡部景吾を表す形容詞に、〝可愛い〟が書き加えられたことは、……今言うべきではないんだろうな。
「……俺は男なんだが」
「知っているが」
「……………………お前、別にそっちしか駄目なわけじゃねえんだよな?」
そっち、というのは、同性しか好きになれないのではないかと言っているのだろう。あまり深く考えたことはないが、俺は跡部景吾という人間が好きなだけで、同性が好きなわけではない。
頷いて、再度好きだと告げた。
「お前との関係に、恋人というものを付け加えたい。友人でも、好敵手でも、それだけでは物足りないんだ」
「欲張り過ぎんだろ。この俺が相手してやってんのに、物足りないって」
「それは自覚している。だが、お前が相手だからこそだとも思う。跡部なら、そのすべてに応えられる技量があるだろう」
一対一だからといって、関係性が一つに限定されるなんてルールはない。二つでも、三つでもいいはずだ。
跡部ならたとえ十個でもこなしてしまうのではないだろうか。
「そりゃ、ある。あるが、そんなもっともらしいこと言って丸め込もうとすんじゃねえ」
「丸め込みたいのではなく、好きになってほしいんだが」
跡部はがくりと項垂れて、大きなため息を吐いて、右を向き、左を向き、空を仰いで、うめくように声を上げた。
「ああくそ、俺が手塚の頼みを断れるわけねえじゃねーの」
ふる、ふる、とゆっくり首を振り、呆れたように、諦めたように息を吐き、まっすぐに見つめてきてくれた。
「いいぜ手塚、なってやるよ。恋人関係とやらに。その代わり、俺をちゃんと惚れさせてみせな」
ニッと口の端を上げる跡部に、ぱちぱちと目を瞬く。これはチャンスをくれたということだろう。
俺の頼みを断れないというのがどういう感情からくるのかは分からないが、少なくとも好意はもってくれているようだ。
可能性は、ゼロではない。
この先ちゃんとした恋人になれるまで、跡部を口説けばいいんだろう。どうやればいいのかは分からないが、きっとなんとかなる。
「分かった、油断せずに行こう」
やはり、跡部との勝負は楽しいな。負けるわけにはいかない。
必ず口説き落としてやろうと決めて、俺は跡部に再度ボールを差し出した。
「さあ跡部、テニスをするぞ」
「お前、この状況でテニスかよ……」
呆れつつも、跡部はボールを受け取ってくれる。言っただろう跡部、俺はお前と友人で好敵手で恋人でありたいのだと。
「ほら、構えな手塚、ちゃんと受け止めろよ」
俺のサービスからにするべきだった。受け止めるのは俺じゃない。まあ、打ち返せば問題ないな。
ちゃんと受け止めてもらえるんだろうな、跡部。この気持ち、全部を。
お題:リライト様 /気持ちを言葉に変えた日
#お題 #片想い #両片想い
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.25
何げない日常だったと思う。 いつものように放課後落ち合って、近くのコートで打ち合って、物足りなさを…
何かが変わった気がした日
何げない日常だったと思う。
いつものように放課後落ち合って、近くのコートで打ち合って、物足りなさを払拭する。
それが、跡部との過ごし方だった。
テニス部を次世代に託して、生徒会も徐々に引き継ぎをしている今、どうしても物足りないと体が嘆く。
そんな自分に応えてくれる男がいると気づいたのは、跡部から連絡が来た時。跡部も物足りなさを感じていたらしく、『時間が空いてればテニスしねえか』と誘ってくれたのが、いちばん始め。
それまで、跡部は対戦校の部長という認識しかなかった。もちろん強いプレイヤーだし、初めて対戦したあの試合は印象に深い。ただそれでも、それ以下でもそれ以上でもなかったんだ。どれだけ薄情だと言われようと。
だが、テニスをするのなら跡部がよかった。
他に相手がいないわけではなかった。進級試験や外部受験の準備があるとはいえ、今まで共にテニスに打ち込んできた仲間だっている。それこそ友人と呼んでいい存在だって。
だけど、このくすぶる熱をさらに燃えたぎらせてくれるのは、跡部景吾しかいなかった。
〝友人〟では駄目だ。〝仲間〟ではなく、気兼ねなく、打ち負かしてやりたいと思う相手。
いっそ小気味良いほどの闘志をぶつけてきてくれる、この男でなければ駄目だと思った。
「スピードが落ちたんじゃないのか、跡部!」
「抜かせ! テメェこそライン取りが甘ぇってんだよ!」
分かりやすく攻撃的なボールを打ってきてくれる。それを打ち返すのが、楽しくてしょうがない。足が軽い。腕が軽い。
公式戦ではないからかもしれないが、次にどんな球が飛んでくるのか、想像するのが楽しい。
まさかそんなラインでくるなんて。一瞬でも反応が遅れたら、横を抜かれる。
神経を研ぎ澄まし、張り詰めているのに、心地良い。それは恐らく、ネットを挟んだ向こうの相手も同じだからだろう。
跡部が、トン、トン、とボールをついてラインを確かめる。なかなか打ってこないことに焦れかけたその時、跡部が顔を上げた。その口許は高く上がっている。
「いいな、この感覚だ。楽しいじゃねーの、手塚ァ!」
ひゅっと上げられたトス。速いスピードでラケットが振られた。
見えなかったわけじゃない。反応できなかった。
楽しい、と高らかに笑う跡部の顔に、視線が釘付けになっていて。
瞬きをすることさえ惜しいと思った。
コートの外灯に光る汗の粒が、揺れる金の髪が、まっすぐに射貫いてくる青の瞳が、あんなに。
あんなに綺麗だったなんて、初めて知った。
ここ最近でようやく、〝友人〟らしく過ごせるようになったと思っていたのに、また物足りなくなる。
その日、俺の中で何かが変わってしまった。
お題:リライト様 /何かが変わった気がした日
#お題 #片想い
この手を取れるかい
「絶対に言うな。分かっているはずだ」
「考えていることは同じだということだな」
手塚の言葉に、跡部が頷く。
全国大会の組み合わせ抽選会で、九州でのリハビリから戻ってきた手塚と、久しぶりに対峙した。
だが話題は肩のことでなく、肘のことでもない。抽選会だったのに、全国大会で当たるということでもなかった。
「お前が話の分かるヤツで良かったぜ」
「こちらの台詞だ。わざわざ呼び止めなくとも良かったものを」
眼鏡の位置を直しつつそっぽを向く手塚に、まあそうだが念のためだ、と跡部は鼻を鳴らした。
ずっと、ずっと、気づかないふりをしていた。
手塚は跡部の気持ちに。
跡部は手塚の気持ちに。
言葉にしなくても、視線ひとつで理解できる。視線が合わなくても、球をかわせば分かる。
あの夏の暑い日射しの下で、交錯した互いの魂。
他の誰にも分からない機微だとしても、あの時あのコートに立っていたお互いだけには、しっかりとそれだと分かるものがあった。
恋をしている。熱烈に、強烈に。
だが相手が悪い。タイミングも悪い。
よりにもよって相手は他校のテニス部部長で、当然、男だ。さらに言えば大会のまっただ中で、対戦校だ。
どれかひとつだけならば、大人しく潔く、この気持ちを告げていたかもしれない。
同性だというだけならば、まだ、言えた。
他校の部長というだけならば、練習メニューの合間にでも、言えた。
大会のまっただ中というだけなら――いや、これは言えない。
お互いに気持ちが自分へと向かってきているのが分かる状態で、告白なんてしようものなら、一気に燃え上がってしまう。あんな試合をした相手だ、その可能性は充分にあった。
まだ若いのだから、恋に燃え上がるのも悪くはない。
だが恐ろしいのは、そのせいでテニスが疎かになってしまうことだ。
可能性はゼロではない。
初めての恋らしきもので、どうコントロールしたらいいのかも分からない。どこまで相手に求めて、何を我慢したらいいのか。
テニスが好きだ。それは間違いないし、優先順位は第一位。
それが変わってしまうのが怖い。自分に失望して、相手に軽蔑されるのが恐ろしい。
テニスが一番で、恋なんて二の次、三の次。それが崩れてしまうのが怖い。
テニスをしている時は、絶対にそんなことはあり得ないと強気でいられるのに、ラケットを放すとそれがどこかへ行ってしまうような感覚を味わう。
自分の中に、一番がふたつある。何を置いてもテニスを優先したい。それを恥じることなんて今まで一度もなかったのに、どこか後ろめたい。
テニスが大切なのは絶対だが、お前のことが大切でないわけではないと、言い訳がしたくなる。
そんな自分が嫌で、嫌で、仕方がない。優先順位が決められないということ自体が、ストレスにさえなっていた。
恋とはもっと、キラキラとふわふわとしているものではないのか。聞いていた話と違う。
こんな矛盾の中で、お前はこの手を取れるのか。
取ってみてほしい。その反面、絶対に取らないでほしいとも思う。
向こうがこの手を取れば、自分は振り払ってしまう。
自分がその手を取れば、向こうは振り払ってくるだろう。
手を取り合って逃避行、なんてことできるわけもないし、後ろに、横に控える仲間たちを裏切りたくもない。
どうしてそんなヤツと、と引かれるのは分かりきっていて、それに上手く説明できない未来が見える。
だから自分たちは、気づかないふりをするべきなのだ。
手塚は手塚の気持ちに。
跡部は跡部の気持ちに。
こんな恋はしていないと自分自身を丸め込んで、抑え込んで、いつでもテニスが一番だと言える環境にいるべきだ。
そう視線で訴えかけたのは跡部の方だったと思う。瞬いて小さく頷いたのは手塚だ。了承したと捉えたのに、どうして。
どうして、すれ違いざまに指先が触れ合ってしまったのか。
ほんの一瞬だった。どちらが先に触れたということはない。どちらもが本当は触れたがっていただけだ。
触れてしまった指先を見下ろし、次に顔を上げて相手を見やる。レンズ越しに重なる視線をもう離せなくて、気がつけば唇同士が触れていた。
絡んだ指先を解きたいのに、そう思えば思うほど強く握り締めてしまう。唇に噛み付いてやりたいのに、今開いたら違うものが入り込んできそうでできやしない。
互いに相手を責めるように細められた視線の奥で、呆れと諦めと、恋情が折り重なっていく。
気づかないふりをしていた。言わないようにしていたのに、その努力がすべて水の泡だ。
だけどもう、触れたこの手を放せない。引き結ばれた唇をどうにか離して、互いの右肩に額を当てた。
「言うなって言ったじゃねーの……」
「……言ってはいないから、まだセーフではないだろうか」
「アウトに決まってんだろ……ああ、くそ、どうすんだこれ。止まらねーぞ」
確かに音にはしていない。だけど、視線だけで、交わす球だけで理解しあってしまった自分たちに、言葉そのものはそれほど重要ではなかった。
「皆に知られなければ、構わないのではないか」
「そりゃあ隠すに決まってるが……問題は山積みだな」
まさか対戦校の部長と恋仲になりましたなんて、そんなスキャンダラスなことは誰にも言えない。もし言わなければならないとしても、大会が終わってからだ。
「試合、手加減なんかしねえぜ」
「それは当然のことだろう。テニスはいつでも真剣勝負だ。そこが揺るがなければ、いろいろなことを優先できなくても……不誠実ではないと思う」
そうか、と跡部の唇から諦めが逃げていく。
こうなってしまった以上、潔く受け入れた方がいいのだろう。
優先順位が揺らいでも、たった一つの真実さえあれば、少なくとも失望も軽蔑もないのだと気づかせてくれた。
手塚国光という男が、本当に愛しい。
ぐっと、跡部の腕が背を抱いてくれる。手塚はすべての矛盾を赦されたような気分を味わって、この男で間違いないと改めて実感した。
跡部景吾という男が、心から愛しい。
そうして二人は、どちらからともなく体を離した。危惧していたほど暴走せずに済んで、やはりホッとした。この程度なら、テニスもお前も一番と言ってしまっていい気がしてきた。
「ところで、今さらなんだが」
「連絡先の交換をしないか」
不便だ、それだよ、と言い合って、携帯端末を取り出す。もしかしたら、容易に連絡を取り合える状態ではなかったから、おかしな心配をしてしまったのではないだろうか。
これからはいつでも連絡が取れる。恋人として。
登録されたIDやアイコンを見て、やっぱり少しばかり浮かれているなと、ふたりそろって息を吐く。
そして拳をぶつけ合うように、端末同士を軽くぶつけ合った。
「全力でいくぜ、手塚」
「ああ、油断せずに行こう」
これからよろしく、愛しい人よ。
お題:リライト様 /この手を取れるかい
#お題 #両想い
視線だけの密会
「今日はよろしくお願いします」
手塚は、部員を代表し部長として榊に挨拶をした。本来なら竜崎スミレが行うべきところだが、外せない用事で遅れてしまうらしい。
「ああ、こちらこそよろしく頼む。他校との練習は、部内とはまた違ったメニューができるだろう。互いに切磋琢磨して、強くなってほしい」
はい、と軽く頭を下げた。
今日は、氷帝学園との合同練習だ。
榊が言ったように、いつもと違う練習メニューが組まれれば、心身ともに刺激になり、より良いプレイへとつながっていくだろう。
特に氷帝学園はトレーニングのマシンやコートも充実している。部員数の桁が青学とはまるで違って、手塚は改めて〝彼〟の統率力のすごさを知った。
「よう手塚、来たのか」
「跡部か。今日はよろしく頼む」
視線が真ん中で重なって、二人で頷き合った。
彼とは、この氷帝学園テニス部の部長である跡部景吾のことだ。絶対的なカリスマ性で、三桁いる部員たちを率いているというのだから恐ろしい。
「やあ跡部、よろしく。すごい設備だね」
「ああ。全員元気そうでなによりだぜ」
「おい跡部、後で試合やるよな? 黄金(ゴールデン)ペアとやらせてくれよ」
「おっと……ご指名入っちゃったぞ、英二」
「にゃはは~、楽しみだにゃ~!」
「慌てんじゃねーよ。まずは走り込みからだ、行くぞテメーら!」
グループに分かれて、ストレッチからの、ダッシュ、筋トレ、その他諸々が始まった。その頃には竜崎スミレも合流し、榊たちとメニューの組み方などについて意見を交換し合っている。
「青学とはやっぱりメニューの組み方が違うね、手塚。特に筋トレが全然違う」
「そうだな。ウチにも取り入れたいものがたくさんある。マシンを使うものは無理だが、腕の強化ならダンベルでもできるだろう」
どういうやり方が効率的なのか、自身の鍛錬をしながらだと難しい。他校のやり方というものは、違う目線から見ることができてありがたかった。
「おい手塚、次は試合形式でゲームやるから、そっちからもメンバー出せ。ダブルスは一個指名入ってるみてえだが」
「ああ。どうせならメンバーをシャッフルして、ダブルスのゲームをやるか?」
「面白そうじゃねーの」
青学のメンバー同士、氷帝メンバーとのダブルスというのも面白そうだ。こういうところも、他校との練習が有意義である理由のひとつだ。同じ部内だけでやっていると、どうしてもパターン化してしまう。
手塚は跡部と頭を突き合わせ、ダブルスのメンバーについて意見を交わし合った。
そんな中、時折、視線が重なって、二秒ほどで離れていく。
それはダブルスのメンバーについての言及でなく、まったく別の意味を持っていた。
というのも、跡部とは秘密の恋人関係にあるからだ。
目は口ほどにものを言うと言うが、まさにそれだった。
逢えて嬉しい。
今日もいい男だな。
終わったらどうしようか。
そんなやり取りを、視線だけで交わす。絶対に誰にも気づかれないように、会話の合間に織り交ぜて。
同性同士ということに加えて、何かと試合で当たってしまう対戦校の部長と恋仲だなんて、大っぴらに言えることではない。反対される要素がたくさんあるし、単純に、恥ずかしくてもったいない。
この恋を知っているのは、自分たちだけでいいのだと、おかしな独占欲みたいなものが働いた。
だから一切誰にも言わず、密やかに、内緒で愛を育んでいる。
自分たちの間に、テニスというスポーツが在るのはありがたかった。連日逢っていても、テニス関連だと言えばおかしくもない。釣りでも、読書でも、テニスを通して共通の趣味があることを知ったと言い訳もできる。
そんな共犯者じみた背徳感とスリルも手伝って、少しも飽きの来ない関係が築けていると思う。
「じゃあ、このメンバーでひとまずやってみるか」
「終わったら、反省会だな」
「……ああ、分かった」
視線で会話するのにも慣れてきて、終わった後「反省会」と称して二人で逢おうと約束を取り付けるのも、この通り朝飯前だ。
そこで密会は打ち切って、練習へと戻る。その顔つきはお互い、部を率いる部長のそれでしかない。
絶対誰にも気づかれないように、太腿の横で指先だけを触れ合わせていたとしても。
お題:リライト様 /視線だけの密会
#お題 #両想い
いい夢をみるために
スマホから、ピー、ピー、ピーという電子レンジの音が聞こえた。ややあって、足音と、コトンと硬い音。
『すまない跡部、ミルクを温めていた』
「ホットミルクか。はちみつ入れると美味いぜ」
どうやら向こうもスピーカー通話にしているようで、時折生活音が挟まる。それは不快なものでなく、むしろ耳を癒やし、心を満たしてくれた。
『そうなのか。今度買っておこう』
「なんなら送ってやるぜ」
『お前がよこすものは高級そうだから、結構だ』
行動を把握されてしまっていて、跡部は肩を揺らして笑った。はちみつだけではあれだからと、なんやかんや高価な物もついでに送ってしまうだろうことも。
『そんなことに使う金があるなら、こっちに来る旅費にしろ』
のけぞって、危うく窓ガラスに後頭部をぶつけるところだった。
どうしてこの男はこう、脈絡なく愛の言葉を吐いてくるのだろう。
それはつまり、「逢いたいから来い」ということではないのか。時間に都合さえつけば、今すぐにでも飛んで行きたい。しかし日本からドイツは遠いなと、なんとか踏みとどまった。
「フン、リボンでもかけて行ってやろうか、手塚ぁ」
『どうせすぐ解くのだから、要らないと思うが』
「おいおい、言うじゃねーの」
我慢した理性が、ブチ切れてしまいそうだ。逢ったらすぐに解かれるという愉快なことも体験したいものだが、ひとまずそれは機会があればだ。
「まったく、昼間からサカッてんじゃねーぞ」
『俺は事実を言っただけだ。そっちは、夜か?』
ドイツとの時差は七時間ほど。こちらが二十三時ならば、向こうは十六時頃だろう。今日は休息日らしく、珍しく長く通話していられる。
「ああ、今日は割と早めに寝られると思う」
『いいのか、電話なんてしていて。疲れているのならもう切るが』
「待て待て、切るんじゃねーよ」
手塚も連日の練習で忙しいだろうが、それは跡部だって負けていない。加えて家の仕事を手伝っているのだから、睡眠時間は平均より若干少ない。
手塚はそれを心配してくれているようだが、睡眠よりも大事なことがあると気づいてほしい。
いや、睡眠の大切さを軽んじているわけではないのだが、たまにゆっくりと恋人と通話できるのだから、こちらを優先したいと思ってもバチは当たらないはずだ。
「お前の声、落ち着くんだよ。疲れなんか吹っ飛ぶくらいにな」
『そうか? まあ、俺もお前の声が聞けて嬉しい』
「…………お前、そっち行ってちょっと変わったな? 前はそんなこと言わなかっただろ。どっちかっていうと、俺がそういうこと言うのに呆れてた気がする」
ぐっと言葉に詰まったような音が聞こえた。恋人関係ではあるものの、手塚からのアクションはあまりない。とはいえ気持ちはつながっていると思っているから、跡部の方になんら不満はないのだけれど。
『…………愛想を尽かされても知らないぞとは、言われた。日本に恋人がいるということが、なぜかバレていて』
「アーン? いや俺がテメェに愛想尽かすことはねえんだが……いったいなんだってバレてんだ。言ったわけではないんだろ?」
『彼らが言うには、電話をしている時だけ嬉しそうにしていると。自分では分からないが、そうなのだろうか』
気まずそうにしながらも、素直に説明してくる手塚が、愛しくてしょうがない。あの仏頂面の手塚に周りがそう感じてしまうほど、自分との電話を嬉しく思ってくれているのだろう。無自覚だとしてもだ。
「ビデオ通話にするか? 確認してやるよ」
『……駄目だ』
「なんでだよ。そんなににやけた顔してんのか? 余計に見てぇだろ、そんなの」
くっくっと喉を震わせて笑う。想像したらおかしくて、冗談と揶揄と本音を混じらせてそう呟いたら、
『顔を見たら逢いたくなる。声だけだから、まだ我慢できているんだ』
返ってきた言葉にボッと頬が染まった。もしかしたら、自分が思っているよりもっとずっと、手塚に愛されているのかもしれない。
「そ、そうかよ……」
『だから跡部、時間が合えばまたこうして電話をしたい』
「そりゃもちろん。一日の最後にお前の声聞けたしな、今日はいい夢が見られそうだぜ」
この幸せな気持ちのままベッドに入れば、夢に出てきてくれるかもしれない。
『明日も早いのではないのか? もう寝るといい、跡部』
「ああ、そうするぜ。起きたらまた電話する。そしたら、お前も一日の最後に俺の声が聞けるだろう」
跡部は端末のスピーカーモードを解除して、耳元に当てる。
「楽しみにしている。跡部、おやすみ。いい夢を」
「おやすみ手塚。次は、俺が起きてお前が寝る時に」
ああ、という吐息のような声を聞いて、通話を打ち切った。
体温も、心音も、心地良い。
さあベッドに入ろう。このままいい夢を見るために。
お題:リライト様 /いい夢を見るために
#お題 #両想い
/ /

恋人の顔越しに、もう見慣れてしまった天井を眺める。胸の上の重みが心地良くて、機嫌の良さそうな可愛い恋人の頬に指先を伸ばしてみた。
「少し重いんだが、跡部」
「アーン? 知るかよ」
心地良くはありつつも、重くないわけではないと、暗に降りてくれと伝える。ほどよく筋肉のついた肉体は、見た目よりもずしりとくるのだ。
だが跡部は楽しそうに、嬉しそうに口の端を上げるだけで、退いてくれる気配は少しもない。手塚はふうと短い息を吐いて、したいようにさせておいた。
何しろ昨夜は、手塚の方がしたいようにしてしまったのだから。
パジャマの隙間に、昨夜の名残であるキスマークが見え隠れする。柔らかなベッド上でそんなものを見てしまえば、また新たな欲望が頭をもたげそうだが、朝っぱらからそんなことをするわけには、と視線を背けた。
「ほら、眼鏡」
サイドテーブルに置いていた眼鏡をそっと持ち上げ、跡部が丁寧にかけてくれる。視界は先ほどまでよりクリアになって、恋人の顔をより鮮明に感じることができた。
「クク、今日もいい男だぜ、手塚」
「それは礼を言うべきだろうか」
面を食らったように驚き、そうして「どちらでも」とふるふる肩を震わせる。何かおかしなことを言ったのだろうか。
「人の上で笑わないでもらいたい」
「いーいじゃねーかよ。こんな時でなきゃ、お前にマウント取れねえんだから」
「取れてないと言うならお前はすぐに意識を改めろ」
乗っかられている状態では、確かにマウントポジションを取られている形だが、何を言っているのだこの男はと、呆れたように脱力してわずかにのけぞった。
跡部景吾のどこに、手塚国光に対して優位でない時があるのだろう。頭から足の爪の先まで、「跡部景吾」というだけで、ずっとマウントを取られっぱなしのような気さえするのに。
恋を告白してくれたのは、確かに跡部の方が先だった。跡部はどうも、それを不覚だと思っているらしい。
告白されることはあっても、告白することなんて生まれてこの方なかったのだろう。〝惚れた方の負け〟なんて言葉を気にもしているようで、いつも、いつでも、「俺の方が分が悪い」と口を尖らせている。
そんな尖った唇に、いつも、いつでも、キスをしたいと思っている男がいるとは思わずに。
初めての恋を一生懸命に告げてくれた跡部が、愛しくてしょうがない。この男の〝初めて〟をもらえたのだと思うと嬉しいが、手塚とて〝初めて〟だったのだ。先を越されたことを悔しく思っているのは、言わないでおこうと思っている。
「ところで昨夜は随分と情熱的だったな、手塚。何かあったか?」
胸の上に乗っかって、嬉しそうに笑いながらつんと鼻先をつついてくる跡部に、また優位に立たれる。
余裕があったことなんて一度もないし、夜を過ごして朝を迎えれば、こんなふうに跡部の方に余裕があるようにすら思う。
何を基準にして、「マウントを取れていない」というのか、心の底から疑問だった。
「特に何もないが。しいて挙げれば、昼間のテニスでより多くポイントを取れたことだろうか」
「腹立つなテメェ」
跡部の眉間にしわが寄ってしまうが、そんな顔も綺麗だなと思ってしまうあたり、やはり分が悪いのは自分の方だと手塚は思った。
テニスをした時に、いつもより多く跡部からポイントを取れた。それは素直に嬉しかったし、言ったことは噓ではない。
ただ、夜が激しくなってしまった理由は、少しだけ違う。
ポイントを取った際、悔しそうに顔を歪めた後に「やるじゃねーのよ、手塚ァ」とそれはそれは楽しそうに笑った跡部に、ポイントを取った以上に嬉しくなってしまっただけだ。
永遠にライバルであり続けるこの関係を、嬉しく思ってくれている跡部を、いつもより愛しく思っただけだ。
そんな気持ちが、行為に現れてしまったのだと思う。
恋人という関係に甘んじず、手加減はしない。それはお互いにだ。
手塚もその事実を嬉しく思っており、やはりこの男を好きになって良かったと心の底から思った。
「こんなことを言うのもなんだが、体は大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえ。股関節が痛い」
ぐに、と頬をつままれて、痛みを感じる。不機嫌そうに目を細める跡部だが、染まった頬が、不機嫌なのではなく照れくさいのだと悟らせる。
「すまない。お前が可愛かったのでつい」
「か、…………わいいとか言うんじゃねーよ」
「事実だろう。だがそういうのは俺の前だけでいい」
その形容詞に慣れていないらしい跡部が、さらに頬を赤くする。可愛さが上乗せされて、やっぱり朝っぱらからおかしな気分になりそうだった。
「やっぱりテメェには勝てる気がしねえ……」
「俺の台詞なんだが」
「噓つくなよ、悪い口だな」
そんなことを言いながら、跡部はずいと胸の上を這い上がってくる。そうして唇同士を触れ合わせ、押しつけてきた。
噓など言っていないと手塚は抗議したかったが、そうするよりも触れていたい。朝にしては濃密なキスが、体温を上げた。
「……ああ、くそ、悔しい。こんな時でも涼しい顔しやがって」
ふいに唇を離したと思ったら、悪態を吐きながら頬に触れてくる指先。
いったいどんな顔をしているのかと、手塚は苛立ちに似た思いで濡れた唇を尖らせた。
「いったいどんな顔をしているか知らんが、胸の内も涼しいなどと思うなよ、跡部」
「アーン? どう、い……う、…………分かった。分かったから落ち着け。つーかテメェはちょっと顔に出す訓練くらいしやがれ」
手塚の状態を認識して、跡部は体を離そうとする。けれども、それより速く、手塚の腕がその体を引き留めて放さない。
「その訓練に、お前が付き合ってくれるというのなら」
「…………それって、お前の顔眺めてていいってことか? それなら一日中でも付き合ってやるぜ」
「飽きないか、そんなに俺のことばっかり見ていて」
「ちっとも」
冗談のつもりだったんだがとは言えないで、楽しそうに笑う恋人にまた負けたような気分に陥る。
一日中顔を眺められるのは、落ち着かないことこの上ないだろうなと思いつつ、長く一緒に居られるのは願ってもないことだ。
「ほら手塚、手始めに、にっこり笑って愛してる、言ってみな?」
人の胸の上でくすくすと楽しそうに頬杖をつきながら、小悪魔みたいに笑う恋人が相手だとしても。
それならばこちらは、その期待に応えてやろう。
手塚は口の端を上げて呟いた。
「愛してるぞ、跡部」
胸の上で、跡部が息を飲む。反撃されるとは思っていなかったのか、見開かれた瞳は気分が良かった。
「……手塚、それは〝にっこり〟じゃなくて〝ニヤリ〟ってヤツだろうが……」
「そうか。ではやはり練習が必要だな」
ねだっておいて恥ずかしそうに視線を背ける恋人を抱いて、くるりと体の位置を反転させる。もっと真っ赤になった頬を見て、手塚の口の端はさらに上がることになった。
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