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服の裾を引っ張る

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.11

#お題 #両想い #未来設定

 いつでも一緒にいられるような、そんな恵まれた環境ではない。しようと思えばそういう環境にもできるけれ…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

服の裾を引っ張る

 いつでも一緒にいられるような、そんな恵まれた環境ではない。しようと思えばそういう環境にもできるけれど、いつかどこかで、ほころびができるだろう。
 お互いに、一箇所のところに留まっていられるような人間ではないのだ。
 手塚国光(オレ)は、プロのテニスプレイヤーとして世界中の大会に出場しているし、跡部景吾は、実業家としてこちらもまた世界中を飛び回っている。
 スケジュールを調整して、どうにか年に何回か逢瀬を持つのがやっとだ。それだって、月に一度あるかないか。土壇場で、約束がキャンセルになってしまったことだってある。それは主に、跡部の方の事情でだ。
 埋め合わせは必ずすると、電話越しに何度『愛してる』と聞いたことか。
 もう少し、一緒にいる努力をするべきだろうかと、俺はそんな時毎回思う。
 大会や練習のペースを抑えれば、今よりは時間もできる。この世界で、唯一恋人と呼ぶ男を抱いて眠る夜も増やせる。
 何度、そうしようとしたことか。
 だけどその度に、それは跡部が許さないだろうなと踏みとどまるのだ。
 手塚国光(オマエ)のテニスに誰よりも惚れているのは俺だ、と彼は豪語する。
 中学三年の夏、初めて対戦したあの大会。その時からずっと最高のプレイヤーなんだと、悔しそうに、幸福そうに呟く跡部を見て、愛しさに駆られた。
 彼との時間を増やすためにテニスを放棄することは、彼を手放すのと同義にも等しい。
 俺自身も、テニスというスポーツを全身全霊で愛している。恋に溺れてプレイを制御するなんてこと、絶対に許せなくなる。
 だから、そんなことは絶対にできない。
 たとえ、今隣で腕に寄りかかってすうすうと眠る男と過ごせる時間が、あと僅かに迫っていたとしても。
 逢って、抱き合う時間があったのは僥倖(ぎょうこう)だ。食事をして、深夜映画を観る時間があったのも。
 ドライブにでも出掛けるか? と提案したものの、家でゆっくりしたいとふるふる首を振った彼と、こうしてソファに座っているだけでもいい。
 疲れている跡部を起こしたいとは思わないし、俺の隣でリラックスできるのならば、こんなに嬉しいことはない。
 ベッドの中では、無茶をさせてしまったしな……。
「ん……」
 それでも、俺の僅かな身じろぎで跡部が覚醒してしまった。しまった……。
「すまない、起こしたな」
「いや、悪い……寝ちまってたのか。おい、ていうか映画終わっちまってんじゃねーか。犯人誰だったんだ?」
 眠そうな目を擦りながら、跡部が音を消したテレビ画面に気づく。
 観ていたのはミステリー映画だったのだが、跡部は三人目の犠牲者が出るあたりで眠ってしまった。核心に触れない部分しか観ていないのでは、気になるところだろう。
「ああ、犯人はあの――」
「待て待て、当ててやるぜ。ちょっと考えさせろよ」
 教えてやろうとした俺を手のひらで制して、観れた部分を必死で思い起こしているようだ。
 俺はその可愛らしい様子を横目に、テーブルの上を片付ける。もうほとんど残っていないワインボトルの中身を、瓶のまま飲み干した。
 こんなことをしていると、やっぱりもっと長い間一緒にいたいなと思うんだがな。
 朝には、跡部が向こうに戻らなければいけない。
 ソファなんかでなく、ちゃんとベッドで眠った方が疲れも取れるだろう。抱きしめながら眠るくらいはできるはずだ。
「分かった、最初に出てきた叔母ってヤツだろ。絶対そうだ」
「残念だが、ハズレだ。彼女は三番目に殺された」
「なんだと。びっくりじゃねーの」
 跡部はまた考え込んで、うんうん唸っている。たかが映画の結末にさえ一生懸命なこの男が、どうしようもないほど愛しい。
「ほら跡部、ちゃんとベッドで眠るぞ。犯人は今度ちゃんと教えてやるから」
 皿やカップを食洗機に入れて、跡部の腕を引っ張る。後の片付けは、朝彼を見送ってからでいいだろう。
「あ、悪い、片付け全部させちまって」
「構わないさ、お前は客なんだから」
「……客、ねえ。そんな他人行儀な間柄じゃねえつもりなんだが」
 苦笑を浮かべる跡部の背中を抱いて、寝室へと促す。それは確かにそうだが、疲れている跡部に片付けを手伝わせろというのか? 無理だ、そんなの危なっかしくて見ていられないだろう。
「なあ、お前のここって賃貸だったか?」
「ああ、どこかに購入しようかと思ったこともあるんだが、結局面倒で。ずっとここでいいかとも思っている」
「買うか、家」
「……なに?」
 まるで何でもないように跡部が口にする。確かに、資金的にはお互い余裕があるが、家を買ったからって一緒にいる時間が長くなるわけではないのに。
「共同名義で、こっちと、俺の拠点の方に。一個ずつな」
「どうしてそんな」
「鈍いヤツだな。俺はここに来た時、いらっしゃいじゃなくておかえりって言われたいんだよ」
 跡部はそう言って、不満そうに口を尖らせる。俺が先ほど「客」と言ったことも原因なんだろう。客ではなく、その家の住人になりたいということか。
「お前の部屋を出ていく時、行ってきますと言いたい。なあ手塚、駄目か?」
 つん、と服の裾を引っ張られる。そんなおねだりをされて、駄目だなんて言えるわけがない。嬉しくて、ベッドの手前で跡部を抱きしめる。
「俺と、お前が、帰る家か。俺も向こうで大会があった時は、そこに帰るんだな」
「ああもちろんだ。なあ、そうしよう。だいぶ遅くなったが、一緒に暮らそうぜ」
 一緒にいる時間は長くならない。
 だけど、ここがお前の帰る場所なのだと、胸を張って言えるのだ。
「物件探すか。手塚、タブレット持ってこい」
「いやお前、寝るんじゃないのか」
「善は急げだ!」
 言い出したら聞かないな。まあ俺も嬉しいが、きりのいいところで絶対に寝かそう。
 朝は、予行演習で「行ってらっしゃい」と言ってやるから。


お題:リライト様 /服の裾を引っ張る
#お題 #両想い #未来設定

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手を繋ぐ

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.10

#お題 #両想い

 膝の上に置かれた手が、なんだか寂しそうに見えた。 実際にはそんなことはないのだろうが、本のページを…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

手を繋ぐ

 膝の上に置かれた手が、なんだか寂しそうに見えた。
 実際にはそんなことはないのだろうが、本のページをめくるためにしか持ち上げられないそれが、もっと使われたがっているように思えたのだ。
 跡部は手塚の隣でそれをじっと眺め、骨張った男らしい手の甲を指先でそっと撫でた。
「跡部? どうした」
「ん? いや、なんでも」
「そうか」
 跡部のその行動に疑問は示したものの、不快そうではない。ホッとして、また眺めるだけにしておく。本を読む時間を邪魔したいわけではない。それでなくてもここ最近忙しそうにしていたのだから、たまにはゆっくり本くらい読ませてやりたい。
 手塚が気を遣わないようにと――もともとそんなものを遣うような男ではないにしてもだ――使用人たちには休暇を与えている。
 そのため、身の回りのことはすべて自分たちでしなければならない。
 だが、二人きりで過ごせるのはとても嬉しかった。
 冷めてしまっているなと、手塚に入れてやった紅茶も寂しそうにしているのに気がつく。入れ直すか、それとも緑茶かほうじ茶にしてやろうか。冷たい飲み物の方がいいかもしれない。
 何が飲みたいか訊こうと思っても、邪魔をしたらいけないという気持ちが、跡部を押し黙らせる。
 そわ、そわ、と視線があちこちを泳いで落ち着かない。
 そんな跡部に気がついたのか、手塚が顔を上げて振り向いてきた。
「どうしたんだ跡部、さっきから。落ち着かない様子だが」
 本を読んでいたはずではないのか、と跡部は言葉に詰まった。気配で悟らせていたのか、結局気を散らせてしまったことを申し訳なく思った。
「ん、いや、あの。何か、飲み物をと思ったんだが。好みを訊こうとして」
 邪魔をしてすまないと小さく続けたら、手塚は目をぱちぱちと瞬いて、思い出したように紅茶のカップに視線を移した。
「そういえば、入れてもらっていたな。すまない、すっかり忘れていた」
 言いながら、冷め切った紅茶のカップを持ち上げ、何も気にすることなく口に含んだ。
「おい、冷めてんだろ」
「確かに冷めているが、美味いぞ」
 世辞なら結構だと返しかけたが、手塚が世辞など言うガラか、と思いとどまる。本当に、温度など関係ないのだろう。あまり頓着しない男だというのは知っていて、こちらが気にしすぎなのかと、跡部は深くため息を吐いた。
「お前、集中するとあんまり周りに目を向けねえよな。そういうヤツだよ」
「そんなことはない」
 む、と口を一文字に結んで眉を寄せる。無自覚なのかと、跡部は肩を竦めた。
 褒めているつもりはもちろんないが、心の底から不満だというわけでもない。
 そもそも今日は、手塚をゆっくりさせてやりたかったのだから、ほんの少しの寂しさなど心の奥にしまい込むべきだ。
「お前はゆっくりしてろよ、手塚。そろそろ昼食の準備しなきゃいけねえから、俺は席を外すぜ」
 話題を逸らそうと、時計を覗き込む。ちょうどいい頃合いで、少し頭を冷やすにもこのタイミングは最適だった。
「昼食?」
「もうすぐ昼だろ。腹減ってねえか?」
「いや、そういう意味ではなく、お前が準備するのか、跡部」
 手塚はパタンと本を閉じ、驚いた表情で訊ねてくる。言わなかっただろうか? 今日は使用人を置いていないと。それとも、聞いていなかったのだろうか。
「準備ったって、盛り付けたりちょっと火を通したりするだけだぜ。作り置いてもらったヤツだから、味の保証はする」
 いつかは一から作った手料理をごちそうしてみたいが、跡部自身も忙しい身だ、いつになることやら。
「そうか……今日はやけに静かだと思ったら、ここには俺とお前だけだったのか」
「言ったと思うんだが」
「お前に久しぶりに逢えて、浮かれていたせいかもしれない。覚えていないな」
 不遜に腕を組む手塚。
 それが浮かれている男の態度か、と思わなくもないが、彼がそう言うのなら信じてやろう。
「じゃあ、この紅茶も、お前が?」
「ああ。それは俺の得意分野でもあるがな」
 そうか……と手塚はどうしてか沈んだ声を出す。わずかに俯いて、心なしか元気が無くなったように見えた。
「もっと味わって飲むべきだった。跡部、良ければまた後で入れてくれないか」
「……別に怒ってねえから、しょげんな、ばか」
 なるほどそれで気落ちしてしまったのかと気づいて、跡部はため息とともにそう返してやる。そうしたら、目に見えて手塚がホッとした表情に変わる。こんな時ばかりは分かりやすい。
「昼食の準備、手伝わせてくれないか。二人でやれば早くできるだろう」
「ん? いいのかよ、本読んでなくて。好きなんだろ、それ」
 詫びのつもりなのか、手塚が提案してくる。確かに二人で準備すれば早いだろうが、それでは手塚がゆっくりできない。
「いや、俺はこの本を読みたかったというより、お前と一緒の空間で過ごしたかっただけだ。お前がキッチンへ行くというのなら、一緒にいたい」
 しごく真面目くさった顔で、手塚はとんでもないことを言ってくる。跡部の頬が、二秒遅れてカアッと赤く染まった。
「おま、え、な……」
 不意打ち過ぎて、心の準備ができていない。どうしてこの男はこう、脈絡なく愛の言葉を吐いてくるのだろうか。予告くらいしてほしい。
「跡部、駄目だろうか?」
「駄目じゃねえ。俺は今幸せ噛みしめてんだ、ちょっと待ってろ」
「そうか、分かった」
 そうは返してくるが、手塚は何をどこまでちゃんと理解しているのか。
 恋人に、一緒にいたいと言われて嬉しくないわけがない。本に夢中だと思っていただけに、感動はひとしおだ。そこで気がついた。
 本を読んでいる手塚の手に触れてしまった、先ほどのあの行動は、自分が寂しがっていたせいなのだと。手塚の手が寂しそうだったのではなく、跡部の指先が寂しかっただけなのだと。
「あのよ、手塚……」
「なんだ」
「メシ食ったら……その、嫌でなければでいいんだが、く、くっついて過ごしたい……ベッドでなくていいから」
 改めてこんなことを言うのは、思ったよりも恥ずかしい。
 ベッドでも構わないが、真っ昼間からというのも、それはそれで照れくさい。
「ベッドでなくてもいいのか」
「…………そっちは気分次第で」
 残念そうな手塚の声に折れてしまうのが、悔しい。
 手塚の好きにさせてやりたいと思うほどには、惚れ込んでしまっっているのだから、仕方のないことかもしれないが。
「分かった。ではまず食事だな。キッチンへ行こう、跡部」
 すっと手を差し出される。跡部はその手に自分の手のひらを重ね、指を絡めた。
 こうして手を繋ぐだけでも、手塚の体温が伝わってきて安心できる。些細な触れ合いで構わないのだと寄りかかって、頬にひとつキスを贈った。
「ああ、行こうぜ手塚。放すんじゃねーぞ」
「無論だ」
 手塚からお返しのキスを頬にもらって、手を繋いだままキッチンへと向かっていく。
 昼食を済ませたら、恐らくベッドになだれ込むことになるのだろうなという予感と、期待に胸を膨らませながら。




お題:リライト様 /手を繋ぐ
#お題 #両想い

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相合い傘

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.09

#お題 #片想い

 突然の雨だった。 天気予報はときどき当てにならない。ざあざあと大きな音を立てて降ってくる雨は、粒や…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

相合い傘

 突然の雨だった。
 天気予報はときどき当てにならない。ざあざあと大きな音を立てて降ってくる雨は、粒や雫なんて言えるほど可愛らしいものではなかった。
 ゲリラ的な降雨だろう。すぐに通り過ぎていくとは思うが、時間をロスするのは痛いと、跡部は空を見上げた。
 今から迎えの車を呼ぶのもアレだし、着く頃には止んでしまっているかもしれない。
「跡部? 帰らないのか」
 かけられた声に振り向くと、手塚の姿。正直今はいちばん見たくない顔だった。
 合同練習のあと、コーチたちとの反省会に出ていた跡部と手塚は、他の部員たちより上がるのが遅くなった。それは別に問題ない、部長の役割としては、よくあることだ。
 ただ、タイミングの悪いことに、跡部は手塚への恋情に気づいてしまった直後なのだ。
 跡部自身、まだ納得できていない感情を抱いたまま、手塚の顔は見たくないし、声も聞きたくない。
「雨」
 言いながら、雨の降りしきる外を顎で指す。傘がない状態でこの雨足の中歩いて行くのは得策ではない。
「ああ、酷い降りになったな。傘ならあるが、一緒に使うか? 家まで送ろう」
「は?」
 跡部は素っ頓狂な声を上げた。なぜ傘を持ってきているのだろう。つい先ほどまで晴天だったのに。備えにも程がある。
「祖父が、持っていけと言ってくれたのでな」
「なるほど。でもこれ、すぐ止むだろ」
「止むまで待つのか? 二時間は止まないようだぞ」
「う……」
 雨雲レーダーとやらのアプリ画面を見せてくる手塚に、跡部は言葉に詰まった。さすがにそんなに時間がかかるのならば、帰りたい。
「………………それなら、お前の言葉に甘える。心配しなくても、もてなしくらいはしてやる」
「そんなものは別にいいが、律儀な男だな」
 手塚の口許が、ほんの僅かに緩む。珍しいものを見たと、うっかり跡部の胸が鳴った。
 そうして一本の傘を二人で差して、雨の中を歩く。さすがに距離が近くて、跡部ばかりが落ち着かない。
「今日の練習は有意義だったな」
「そうだな……お前はちょっと柔軟に力入れろ」
「なかなかお前のようにはいかないが」
「フン、俺様と比べようなんて百年早ぇんだよ」
 気づいたばかりの恋情は、絶対に言いたくないものだ。
 だけどこうして手塚と話すうち、認めてやってもいいかもしれないとは思い始めた。この近すぎる距離が、心地良くなってきている。
 傘にぶつかってくる雨が激しい分だけ、胸の中が逆に落ち着いた。速い心音を、雨が攫っていってくれたのだろうか。
「お前は派手な見た目とは裏腹に、ものすごく努力しているようだな。そういうところは、好感が持てる」
「そ、…………う、かい、ありがとよ」
 普段ならなんでもないような賛辞が、胸を撃ち抜いてきた。人の気も知らないで、と責めたくもなったが、言ってないどころか自身さえ先ほど自覚したのだから仕方がない。
 この男が好きなのか、と、じんわり実感してくる。
 手塚国光ほどの男なら、まあ惹かれてしまっても仕方がないなと思わず口の端を上げた。
「なあ手塚、この後暇なら俺んとこでゆっくりしていけよ。昔の全英オープンとか、でかい画面で観ねえか」
「ああ、それは観たいな。お前さえ良ければ、是非」
「決まりだ」
 やはり、穏やかに恋情を感じることができる。くさくさとした気分は、雨が持っていってくれたに違いない。
 それでも、この気持ちを告げようとは欠片も思わなかったけれど。


お題:リライト様 /相合い傘
#お題 #片想い

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ストレッチ

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.08

#お題 #片想い

 コイツの体は、もっと柔らかいと思っていた。 二人一組でと指示されたストレッチ。手塚と組むことになっ…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

ストレッチ

 コイツの体は、もっと柔らかいと思っていた。
 二人一組でと指示されたストレッチ。手塚と組むことになったのだが、驚いた。思ったより柔軟性がない。
「もう少し曲がんだろ」
「……もう少しだけなら、恐らく」
 前屈で背中を押してやっているんだが、硬い。まあ標準よりは柔らかいんだろうが、スポーツ選手としてはどうなんだ。
「いっ……」
 手塚がうめく。コイツこんな声出すのかよ。知らなかったな。だが俺は容赦なく手塚の背中を押した。背中というか、脇腹の筋肉が震えているのが伝わってくる。
「手塚、息止めんな。吐いて、吸え。もう一回、……もう一度だ。そう、上手いぜ」
 息を止めれば、それだけ力が入ってしまう。入れるべきではないところにだ。呼吸は基本中の基本だってのに、コイツは今まで何をしてきたんだよ。
 一度、真面目にメニュー組んでやった方がいいのか? なんならトレーナー探すか。
 交代を指示され、あちこちで嘆きと開放感にまみれた声が聞こえた。俺も手塚と入れ替わり、前で足を開く。
「……柔らかいな、お前は」
「これくらい当然だろ。もっと来てもいいんだぜ」
「そうか」
 手塚の動きに合わせて、息を吐く。息を吸う。肉を縮め、肉を伸ばす。
「……っん」
 それでも、他人の力がかかるというのは予想外の負荷を味わう時がある。思わず漏れた声に、手塚の手が止まってしまった。
「すまない、強くしすぎただろうか」
「いや、平気だぜ。悪い、ちょっと油断した」
「お前が油断するとはな」
「うるせえ」
 手塚の手のひらが、先ほどよりゆっくり、それでもより強く俺の背中を押してくる。熱を帯びたそれは、なんだか俺を妙な気分にさせた。
 手塚の手って、こんなに熱いのかよ。あと、思ってたよりでけェんだな……。
 やべえ、なんでこんなにドキドキするんだ。呼吸は正しくやってたはずだろ。
 ストレッチなんだぜ。間違う要素がどこにあるんだ。
「お前、どこまで柔らかいんだ、跡部。しかしそのしなやかさがあるからこそ、あの技なのか」
 起こした体の耳元で、手塚の声が聞こえる。ぞわりと背筋を悪寒みたいなものが走り抜けてった。ちょっと待て、熱いのに、悪寒てなんだ。おかしいだろ。
「跡部、もう少し足を開けるか? お前ならできるだろう」
 手塚の指先が、太腿に触れてくる。
 カアッと顔の熱が上がって、自覚した。
 不埒な感覚だったのだと。俺は頭を抱えたくなった。
 くそ、なんでだ。
 言葉を聞いているだけじゃ、おかしな思考にもなろうってもんだが、今やっているのはストレッチだ。実際に自分の体を使っているんだ。おかしな勘違いをするんじゃねえ。
 手塚が俺の体に触れているからって、そういう色っぽいことをしているわけじゃない。手のひらが熱いからって、そういう情欲があるわけじゃない。
 これは純粋にストレッチなんだ。
「跡部、脚はここが限界か? もう少し開け」
 妙な言い回しすんじゃねえ手塚ァ! テメェができねえのに俺にやらせんじゃねえよ!
 って叫んでやりたいのに、無理だ。口を開いたらおかしな言葉しか飛び出してきそうにねえ。
 俺は仕方なく、脚をめいっぱい広げてみせた。手塚が後ろで助かったぜ……。
「なるほど、綺麗なものだな。体のラインというか、筋肉の伸縮というか……この辺りの」
 手塚の指先が、俺の脇腹に触れる。思わず息を飲んで、飛び出してきそうな変な声を抑えて、口を覆った。余計なことしやがって、この馬鹿。
 俺も、こんなもんで反応すんじゃねえ! 思春期のガキか! まあ紛うことなきガキなんだが……。
 おいちょっと待て、衝撃がデカすぎて認識できてなかったが、俺まさか……手塚のこと好きなのか? 他のヤツだったら、こんなに反応しねえだろ。
 え、いや、本当に待て。そんな馬鹿なことがあるか。相手は手塚だぞ、冷静になれ。
 だがよく考えれば、俺が手塚相手に冷静だったことなんてない。いつだって傍にいたかったし、目で追ってしまっていた。
「……あー……〰〰」
 なるほどね、と前に伏せながら納得する。気づいてしまえば簡単で単純なものだ。
「なんだ跡部、どうした」
「いいや、ちょっと自分の愚かさに辟易していただけだぜ……」
「それは大変だな」
 ああ、なんでよりによってテメェなんだ。どうして寄りによってこんな時に気づくんだ。もう少しロマンチックなきっかけでもいいじゃねーの……。
 なんだってこんな、大変だなと言いつつ力を貸そうとはしない、気の利かねえ男を。
 ちくしょう悔しい。ぜってぇ言わねえからな、手塚。
 俺はお前が好きなんだなんて、ぜってぇに。


お題:リライト様 /ストレッチ
#お題 #片想い

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腕を組む

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.07

#お題 #片想い

 手塚はよく腕を組んでいる。 そうやって、部員たちの動向を見守っているようなのだ。部長として当然だな…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

腕を組む


 手塚はよく腕を組んでいる。
 そうやって、部員たちの動向を見守っているようなのだ。部長として当然だなと鼻を鳴らした。
 今日は青学と氷帝の合同練習だ。ひょんなことがきっかけで実現してしまったが、そのきっかけがなんだったのか、もう思い出せない。
「氷帝は基礎的な筋力トレーニングが多いのか? スクワットの種類を日によって変えているようだが」
 手塚は組んでいた腕を外し、練習メニューを覗き込んで指を指してくる。
「ああ、そうだな。特に足と……腰周りの強化に。体幹鍛えてねえと重い打球は受け止められねえし。パワープレイヤーがいる相手校だと、もう最初に打ち負けちまう」
「マシンも充実していて、羨ましいことだ」
 他校の練習メニューを実際に見て一緒にやってみる、というのは悪くない趣向だ。部員たちも新鮮なのか、楽しそうにやってやがる。
「青学は随分と走り込みが多いな。呼吸法に力を入れてるのか」
「持久戦に持ち込まれた時に、呼吸の仕方で変わってくるだろう」
「なるほどね」
 手塚の言い分に、俺も頷く。持久戦は俺が得意としている戦法で、終盤に息が荒れているかどうかは大事な判断材料にもなる。
「他校のメニューは、やはりためになるな」
 ふむ、と感心したようにまた腕を組む。手塚にはその格好が楽なのだろうか。真似をして組んでみた。
 そうしてみて気づくが、あまり違和感がない。どうやら俺も、手塚ほどとはいかなくとも、腕を組む格好は多いらしい。
 手塚と同じ格好をしているというのが、どうしてか気恥ずかしくて、早々に腕を外す。
 どうして、手塚が隣にいるとこんなにも落ち着かない気分になるのだろう。テニスをしたいからか? いや、そういうそわそわとは違う気がする。
「手持ち無沙汰なようだな、跡部」
「アーン? アイツらが慣れねえメニューで変な怪我しねえように見てんのも、部長(オレ)の役目だろうが」
「そういうのは監督やコーチの役割だと思うが……真面目なのは結構だ」
 テメーに言われたかねえ。そっちだって、他のヤツら見守ってるばっかりじゃねえか。
 けどまあ、手持ち無沙汰ってのは事実だな。手塚の言うように、監督たちに任せて俺も何かメニューやって――。
「跡部、良ければラリーしないか。向こうのコートが空いている」
 目を瞠った。まさか手塚の方から誘ってくるとは思わなかったぜ。
 今の今まで組んでいた手に、ラケットが握られている。俺が断るなんて、微塵も思っていないようだ。
 確かに断るつもりはねえし、コイツのこんな強引さは心地いいんだよな。
「いいぜ、相手してやろうじゃねーの!」
「ああ、油断せずに行こう」
 いつもの台詞を聞いて、俺は笑いながら空いたコートに向かった。



お題:リライト様 /腕を組む
#お題 #片想い

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……また明日、この場所で……会って、くれますか

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.06

#お題 #片想い

 執着というには純粋で、恋というには熱すぎる。 手塚国光というプレイヤーに惹かれ始めたのは、いつだっ…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

……また明日、この場所で……会って、くれますか


 執着というには純粋で、恋というには熱すぎる。
 手塚国光というプレイヤーに惹かれ始めたのは、いつだっただろうか。
 ライバル視しているだけだと言い切ってしまうには、無理があった。
 何しろ毎日でも逢いたい。
 テニスができれば最高だけれども、顔が見たい。声が聞きたい。跡部と呼ぶ音を耳に残せたら、どんなに幸福なことだろうか。
 そんなことまで思うのが、ただのライバルというわけはない。
 手塚のプレイスタイルは、跡部には真似できない。手塚にも跡部のプレイは真似できないだろうが、自分にないものを持っている選手だからというだけで、ここまで惹かれたりしない。
 そんなことがあり得るのならば、跡部の世界はおかしな片恋だらけになってしまう。
 手塚国光が好きだ。
 彼だから、好きなのだ。
 だけど、悲しいことに彼とは親しい間柄にない。
 ただ一度対峙した相手、大会で対戦した学校の部長というだけの認識に違いない。
 せめて知人の少し上あたりにいたいのだが、どうしたらいいのだろう? 今まで、向こうから寄ってくる相手ばかりだったから、こういう場合はどうしたらいいのか分からない。あまりしつこく追い回すのもよくないだろう。下手をしたらストーカーにされかねない。
 貢ぎ物でもしたらいいだろうか。しかしなんの理由もなくプレゼントなんてしても、絶対に受け取ってくれない。そもそも何を欲しがるかも分からない。テニス関係のものなら喜んでくれるだろうか。
 しかしそれでも、「もらう理由がない」などとあの仏頂面で突き返してくるのだろう。それが容易に想像できてしまうから、悔しい。
 ここのところ、ずっと手塚のことを考えてばかりいる。
 逢いたい。言葉を交わせなくてもいいから、せめて顔が見たい。
 このまま青学へ向かってしまうのもアリかと思ったが、向こうもすでに練習を終えているだろう。もう帰っている可能性の方が高い。
 考え過ぎて頭が痛くなってくる。スカッとしたい、なんてらしくないことを思った。だがそれもひとつの手だ。
 どこかで軽く打っていこうと、ラケットバッグを担ぎ直す。近くにコートはあるだろうかと検索して、歩いていける場所に見つけた。家に帰れば好きなだけ打てるが、慣れない場所でというのもいい。
 その屋外コートに向かうと、心地良いインパクト音が聞こえてきた。先客かと思うが、確かコートは一面ではなかったはず。もし埋まっていたら、他の場所に行くか待っているかしよう。
 そう思ってその区画に足を踏み入れ、目を瞠った。
 壁打ちをしているのは、ずっと跡部の胸中を支配している手塚国光その人だったからだ。
 最初は幻かと思った。重症も重症だなと目を細めて消そうとしたのに、それは本物だったらしい。
「……手塚……」
 思わず名を呟いたら、気づいた手塚がラケットを下ろして振り向いてくる。
「跡部か。お前も打ちにきたのか?」
「あ、ああ……。隣、借りていいか」
 テニスコートにラケットを持ってきたのだから、打ちに来たのは間違いない。別に、手塚を追いかけてきたわけではないのだから、なんら後ろめたいことはないはずなのに、心がそわつく。
「隣、……か。もし迷惑でなければ、ラリーをしたいが」
「いいのか?」
 食い気味に即答してしまって、ハッとして口を押さえる。気まずいことこの上ないなと、視線を逸らした。
「相手がいた方がいい。それがお前ならば、不足はない」
「そ、そうかよ。じゃあ、まあ、……軽く」
 嬉しい。とてつもなく幸福だ。
 そんな思いを必死で隠して、ジャージの上着を脱いだ。まさか手塚とテニスができるなんて思っていなかった。この日この時このコートを選んで本当に良かった。
 そうして、軽くとは言いつつ「手塚国光」と「跡部景吾」が一緒にいてそんなもので終わるわけもない。真剣勝負にも近い打ち合いが繰り広げられる。
 荒い呼吸と、射貫いてくるまっすぐな瞳。顎を伝う汗と、グリップを握り直す力強い手。
 それらすべてに、ぞくぞくするほど気分が高揚する。それは単純にプレイヤーとして感じていたかったが、恋情がそうさせてくれない。
 もっと、もっと近くに行きたい。
 コート上ではライバルで、コートを出たら友人に――いや、恋人になりたい。
 そんな感情を交じらせてラケットを振った。
「跡部、少し打ち方が変わったか?」
「……そうか? 変えてるつもりはねえが」
 きりの良いところで、日が暮れてしまうからとどちらからともなく腕を下ろす。気持ちのいい汗をかいたと満足げな手塚から、小さな疑問が吐き出される。
「俺の思い違いかもしれないが、試合の時より返球が丁寧というか、深いというか……すまない、上手く説明できない」
 そわり、と背筋が震えた。言った通り、変えているつもりはいっさいなかったのに、手塚には僅かな変化が感じ取られてしまったのだろうか。
 手塚とテニスをするのだから、一球一球に想いを込めたいと思っていたのが、プレイにあらわれてしまったのかもしれない。
「悪い変化ではないと思う。やはり、お前と打つのは気分が高揚するな。付き合ってくれて感謝する」
「いや、こっちの台詞だぜ。試合じゃねーのはつまらねえと思っていたが、そんなことはねえ。お前はいつだって俺の闘争心を引き出してくれる」
 汗の処理をして、ラケットをバッグにしまう。充分に打ち合ったと思うのに、この瞬間は寂しくて仕方がない。
「……なあ、手塚。明日の放課後、空いてるかよ?」
「特に予定はないが」
「それなら、――それならまた明日、ここで……会って、くれるか?」
 チャンスは逃したくない。断られるかもしれないが、言わないままで後悔はしたくない。跡部は祈るように顔を上げて、視線の先に「ああ」と頷く手塚を見た。
「お前さえ良ければ、またここで会おう」
 たった一言で、手塚は跡部の恋情を膨らませてしまう。泣きたくなるほど幸福だ、と唇が震えそうになるのを必死で我慢して、何でもないようにひらりと手を上げる。
「じゃあ、また明日な、手塚」
「ああ、跡部。気をつけて」
 お前もな、と返して、跡部は踵を返す。
 また明日、なんて言葉を、あの男に投げられる日が来るなんて思わなかった。
 その夜、どうか明日も晴れますようにと、初めて祈りながら眠りに就いた。


お題:リライト様 /「……また明日、この場所で……会って、くれますか」
#お題 #片想い

背中にキス

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.05

18歳以上ですか? yes/no

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