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背中にキス

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.05

18歳以上ですか? yes/no

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

背中にキス

18歳以上ですか? yes/no

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結論としては……好き……なんだと思う

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.04

#お題 #両片想い

「お前が好きだ、跡部」 青い瞳が、大きく見開かれる。海のような、空のようなその深い青を、もっと近くで…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

結論としては……好き……なんだと思う


「お前が好きだ、跡部」
 青い瞳が、大きく見開かれる。海のような、空のようなその深い青を、もっと近くで見たいと思ったのが、最初のきっかけ。
 右に、左に、ゆらゆらとゆれる。波のような、風のようなその流れは、いったいどういう意味なのだろうと、手塚国光はじっと見つめ続けた。
「あ、……の、よ……」
「なんだ」
 ややあって、跡部の唇が開かれる。そこにも触れてみたいと思うあたり、もう後戻りができないところまで来てしまっているのだと思う。これは、恋だ。劣情さえ含む厄介な感情だ。それを自覚して、理解して、せめて跡部に誠実であろうと隠さずに告げた。
「好きって、そういう意味でか?」
「お前の言うそういう意味というのは分からないが、恋をしていると意味で言った。迷惑だろうか」
 困惑した瞳がじっと見つめてくるのに、手塚の胸はそわつくばかりだ。跡部が自分を見ているというだけでこんな風になってしまって、いったいどうすればいいのだろう。望むのはただひとつだけだが、それも口にするべきなのだろうか。何しろ恋というものをするのが初めてで、勝手が分からない。世の中の恋人同士たちは、どうやってこの山を乗り越えたのか。
「いや、迷惑ではねえんだが……ちょっと、混乱している」
「珍しいな。だが、そうさせているのが俺だというのは、気分がいい」
「悪趣味なヤローだな」
 跡部の眉間にしわが寄る。それさえも美しく見えてしまうのだから、跡部景吾というのは罪な男だ。
 跡部は、整った容姿をしている。一度見たら忘れられないほど、強烈な印象を与える。だがそれは、魂からにじみ出る誇りと自信がそうさせるのだろうことも、分かっている。財閥の跡取り息子であり、氷帝学園の生徒会長を務めているどころか、二百人からいるテニス部員を率いれるのは、ただ強いというだけでは為しえない。跡部の確かな努力が積み上げてきたものだ。それを、テニスというスポーツを通して知ることができたのは僥倖だと手塚は想う。テニスを通さなければ、一生道が交わることなどなかっただろう。跡部という男と対峙させてくれたあの関東大会に、心から感謝をしていた。
「一応訊くが、男しか駄目ってわけじゃねえんだろ?」
「……考えたことはなかったが、そうだとは思う。お前以外に、こんなことを感じた記憶はない」
 困ったように、跡部の片眉が上がった。手塚は今まで、誰かと交際をしたことがない。恋も、恐らくこれが初めてだ。だから、同性愛者なのかと問われてすぐにノーを返せなかった。しかし、他の同性を見ても胸がざわついたりはしない。何かしらの理由を作って逢いたいとは思わない。逢えたら逢えたで、帰り際がものすごく寂しくて切ない。
「お前の声が聞きたい。お前の顔を見たい。できれば触れたいんだ。だが拒まれることを考えると、何もできない。俺がだ」
「割と強引で自分勝手っていう自覚はあるみてーだな。分析できてるとこは褒めてやる」
「そうか、ありがとう」
 礼を言う場面じゃねーんだがなと、跡部がほんの少し顔を背ける。迷惑ではないと言ってくれたが、同性にこんなことを言われて嬉しいはずもないだろうなと、その顔を見つめる。
「見てんじゃねーよ」
「無理だ。俺はどうしてもお前を追ってしまう」
 即答した手塚に、跡部はかくりと項垂れて額を押さえる。呆れているように見えたが、指の間に見え隠れする頬が、わずかに赤いように思えた。他人からの告白など慣れているだろうに、そんな風になる理由が分からない。もっとも、その理由を探るよりめったに見られない跡部の頬が赤らむ様を眺めるコトの方が大事だったけれど。
「迷惑ではないと言ってくれたな。想うことは許容してくれるのか?」
 たとえ駄目だと言われても、すぐに想いを止めることなどできやしないが、できれば好いた相手には嫌われたくない。プレイヤーとしてこの先もコート場で出逢うだろうし、気まずくなるのはお互いに避けたいのだ。
「…………迷惑ではねえんだよ、迷惑では」
 少しの沈黙を経て、跡部は小さく呟く。明瞭な言葉で返してこないのは珍しくて、手塚は首を傾げた。迷惑ではないと強調するのは、その他の困りごとがあるということなのだろうか。
「お前のことはすげえプレイヤーだと思ってるし、テニスに誘われりゃ何をおいても乗る。そもそもテメェからの誘いなんざ次にいつあるか分からねえって薄情さがあるからな、逃せねえんだよ。最近はやけに多いなと思ってたが……まさかそういうことだとは思ってなかった」
「情に厚いお前に比べたら、そうかもしれないな」
「お前とテニスしたがってるヤツがどれだけいると思ってんだ? 自覚しやがれ。そんなお前が俺を誘ってくるんだ、嬉しいったらありゃしねえ。……本当に、嬉しかったんだぜ」
 少しずつ俯いていく顔を、無理やり上げさせたい。できやしなかったが、これは跡部の機嫌を損ねたということだろうなと手塚は眉間にしわを寄せた。純粋にテニスを楽しんでいると思っていた相手の目的が、違うところにあったのだ。裏切られたとでも思っているかもしれない。
 手塚とて、跡部とのテニスは楽しい。この想いに気づくまでは、確かに純粋だった。触れたいなんて不純な気持ちが混ざってしまった時点で、辞めておけばよかったのかもしれない。薄情だと思われるのと、裏切られたと思わせるのはどちらがマシだろうか。だが時間は元には戻せない。
「跡部。構わないから、迷惑なら迷惑と言ってくれ。その方が楽だ」
「迷惑じゃねえっつってんだろ、聞けよ!」
 跡部が顔を上げて声を荒らげる。その勢いにびくりと体を強張らせたら、ハッとしたように跡部は顔を背けた。
 迷惑ではない、テニスは楽しい、誘ってもらえて嬉しかった――なんて言われてしまうと、期待をしてしまう。いったいどういうつもりで、迷惑ではないと繰り返すのだろう。望みがないのならいっそ切り捨ててくれた方がいいと今し方言ったばかりだ。
「お前の、その……テニスにかける情熱は見ていて心地がいい。俺もまだ高みを目指していけると思わせてくれる。テメェがいるから、まだここにいたいと思っちまう。テニスを通してお前を知って、こうやって打ち合うようになって違うお前も知った。読み取りづれぇ表情も少しわかるようになってきてて」
「そうか」
「他愛ねえ話すんのも割といいなって思ってる。レギュラー陣とか、他の後輩たちの話とか、ああそうだ、生徒会のことも。俺はな、手塚。スマホの通知を気にするほど暇じゃなかった。端末だって使い分けてるし、経済ニュース見る方が多かったりすんだよ」
「経済ニュースか、さすが跡部だな」
「その俺が! なんでテメェからの連絡を待ってるみてえなことしなきゃなんねえんだよ、ふざけんな!」
 頬を真っ赤に染めて指を指してくる。何を言われたのか分からず、手塚は目をぱちぱちと瞬く。人を指さすのは良くないなと途中で気がついて手を引っ込める跡部が可愛らしくて、お前こそふざけるなと張り倒してやりたい気分にもなった。
「なんなんだ、くそ……逢うたびにキラキラしてやがるし、そわそわするし、帰りたくねえって思うし」
「キラキラしているのはお前の方だろう、跡部。全部俺の台詞だ、取るんじゃない」
「お前が先に俺の台詞取ったんだろうが。……いや、これがなんなのか理解したのはついさっきだから、どうしようもねえが」
「待て跡部、いったいどういうことだ」
 ますます分からないと困惑した手塚に、跡部は長いため息を吐いた。そうして両手を腰に当て、不遜な口調で言い放つ。
「結論としては……好き……なんだと思う。いや、好きだぜ手塚。テメェが自覚してんのに、俺が自覚できねえってことはない」
 およそ恋の告白をしているとは思えない態度だ。手塚にできて自分にできないはずがないとは、なんとも色気のないことだが、そういう手でくるならばこちらも受けて立つだけだと、手塚は腕を組む。
「両想いだったということか。それは嬉しいが、絶対に俺の方がお前を好きだ」
「ふざけてんじゃねーぞ手塚ぁ。俺様の方がテメェを好きに決まってんだろうが」
「いや、俺は負けない」
「上等じゃねーの、勝負だ手塚ぁ! コート入りやがれ!」
 望むところだと、いつもの二人に戻ってしまう。恋人同士としてもう少し甘い雰囲気になれるのは、まだ先のようだった。


お題:リライト様 /「結論としては……好き……なんだと思う」
#お題 #両片想い

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例えば、俺の横で無防備に寝てくれることとか

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.03

#お題 #両想い

 自分にとっての幸福というものを、しっかりと認識している人がこの世にどれだけいるだろう。 たとえば世…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

例えば、俺の横で無防備に寝てくれることとか



 自分にとっての幸福というものを、しっかりと認識している人がこの世にどれだけいるだろう。
 たとえば世界平和だと、諍いのない世界だとか、すべてが平等であることとか、そんなに壮大な話ではない。
 俺にとって、テニスがすべてだった。
 そのスポーツに魅了されてからというもの、それしか目に入っていなかった。その他のことは、どうでもいいとまではいかないが、優先順位が非常に低かった気がする。
 始めた頃は、ただ球を打つだけで、返せるだけで、楽しくてしょうがなかった。日が暮れるまで、日が暮れてもあの黄色いボールを追って走った。技術がついてくるにつれ、貪欲になった。
 もっと上手くなりたい。
 もっと強くなりたい。
 もっと強い相手と試合をしたい。
 先のことなんて知らない、今、このボールを打てればそれでいい。たとえ体が悲鳴を上げても。
 俺はそれをおろかだったとは思わないが、周りはどうだっただろうか。
 怪我さえいとわずにコートに立つ俺を、憎らしく思ったかもしれない。哀れに感じたかもしれない。どうしてそこまでするのだと、理解できなかったかもしれない。
 理屈ではないんだ、といつも試合が終わってから思う。
 ただひたすらに球を追う俺を、異様に思った連中もいるかもしれない。
 そんな中で、限界まで俺の力を引き出させた相手がいる。跡部景吾という男だ。およそこの世で手に入らぬものなどないだろうという男が、あの時欲した物は、恐らく勝利ではなかった。
 手塚国光との真剣勝負。ただ、それだけだ。
 肩の負傷をおしてコートに立つ俺に、手加減してくるだろうかとほんの一瞬思った。
 だけどそれは跡部に対する侮辱だったと気がつく。
 跡部は容赦なく球を打ってきた。その時の歓喜は、誰にも分からない。
 手加減などしてくれるなと、音にせずとも伝わっているのだと、全身が吼えたような気がした。
 球を交わせば、分かる。視線を交わせば、分かる。
 俺はどうも言葉にするのが不得手なようで、そのせいか冷静で寡黙と捉えられているのは、どことなく分かっていたけれど、実際の俺は違う。
 それを最初に全身で感じ取ったのは、跡部景吾だろう。俺の全力に、全力で応えてくれる。渾身の一撃を、全力で迎撃してくれる。
 それがどれほど嬉しいか、いつか伝えてみたい。
「ため息」
 隣から、寝起きのかすれた声が聞こえた。その声を振り向けば、眠そうに目を細める跡部の姿。俺は眼鏡をかけて振り向き直し、口を開いた。
「すまない、起こしたか」
「いや、別に……ちょうど目が覚めたとこだ」
 跡部が朝に少し弱いというのは、こういう関係になってから知ったことだ。起きられないわけではないが、眠さはある、といった程度なのだが。
「で? テメーはなんで朝からため息なんかついて幸せ逃してんだよ?」
 跡部の指先が鼻先に伸びてくる。つんと軽く押されて、眉間が夜のを自覚した。ため息なんて、吐いたつもりはなかったんだ。それを読み取ったのか、跡部は「無自覚か」と笑う。朝から楽しそうで何よりだ。
「別に、何か心配ごとがあるわけではない」
「へえ? 今日は天気が悪いからな、外で打てねえなんて残念がってんのかと思ったぜ」
「天気……ああ、確かに」
 昨夜閉め忘れたカーテンからは光が差し込んでいるけれど、空はどんよりとしている。天気予報は、確か雨。大降りになるとかなんとか言っていたような気がする。
 そんな天気では、確かに屋外でテニスはできないな。言われてみると残念でしょうがない。せっかく跡部と一緒にいるのだから、思い切り打ち合うのもいいと思っていたのだが。
 ……待て、跡部の体のことを考えるとそうも言ってられないな。昨夜は、一度じゃ済まなかった。いや昨夜も、か……。
「天気のことじゃねえなら、何が不満だ? 手塚。お前の望みなら、大抵のことは叶えてやれんだぜ?」
 言いながら、跡部が体を起こす。喉や肩、胸に散らばるいくつもの情事の名残が、やけに目についた。俺が付けたにもかかわらずだ。そんなに付けた覚えはないが、無自覚に、だったのだろう。
「結構だ」
 だが、俺の望みを叶えてやるなんてのは聞いてやれない。
 確かに跡部は財閥の跡継ぎで、資金的にも人脈的にも困っていないのだろうが、俺が跡部にそんなことを望んでいると思われるのは心外だ。
「だろうな」
 ふっと笑って、跡部は肩を竦める。
 叶えてやるというのは善意だろうし、案外に面倒見がいいことは知っている。それを受けようとしない俺にふてくされるわけでもなく、彼は笑うのだ。
「テメーは誰かに与えられるものじゃなく、欲しい物は自分で手に入れるっていう、厄介な頑固者だからな」
「厄介だろうか」
「手に入れた後の顔がたまんねえんだよ。んなこと思うのは俺だけだろうが」
「…………お前だけでいいな」
 どんな顔だろうか。あまり表情にも感情が出ないと言われるのだが、跡部には分かるらしい。考えているよりもずっとニヤついたものだったらどうしようか。呆れてはいないようだから、跡部になら見られてもいいとは思う。
 跡部景吾は、俺のすべてを赦してくれる。
 そう思うのは傲慢だろうか。だがどれだけ考えても、俺を否定し拒絶する跡部が浮かんでこない。
 こんな関係になったのだって、俺が跡部に告白したからだ。俺の気持ちを否定することも、拒絶することもなかった。「付き合ってやった方がいいのか」なんて不遜な答が返ってきたけれど、それを逃さずに引き寄せたのは俺だ。
 初めてのキスさえ、拒まれなかった。
 だけど、好かれていないわけではないと分かる。
 あの時の試合でお互いを理解したと感じたのは偶然でも、俺と跡部の間に好意が生まれるのは当然で、触れ合う未来は必然だった。
 跡部はけして憐れみや同情で俺を拒まなかったわけではない。それくらいは俺でも分かる。
「またそんな小難しい顔しやがって。何考えてんだよ」
 たしん、と軽く頭を叩かれる。
 理解をしているつもりでも、分からないことがたくさんある。
「なぜお前は……俺のことが分かるんだ。家族でさえ、俺の表情は読み取りづらいと言うんだぞ」
「アーン? そりゃ俺がお前に惚れてるからだろ?」
 二の句が継げなかった。跡部は時々、ひどく明け透けだ。いや、俺が言葉を操るのに慣れていないだけだろうか。
 思えば、よくこうも正反対の俺たちが、こうして惹かれあったものだ。俺は跡部のように言葉にはできないし、派手なのも好まない。
「ずっと見てたんだ。分かるぜ」
「初耳だが」
「言ってねえからな」
 なんだと。まさかとは思うが、俺が告白した時点ですでに跡部は俺を好きでいてくれたのだろうか。
 それなら、すんなり受け入れられてしまったことにも納得がいくが……。
 跡部が、ぽすんと再度ベッドに体を横たえる。綺麗な金の髪が、白いシーツに散らばった。
「お前とは、テニスできりゃいいと思ってたんだ。あの日、あの時、試合を通して俺たちは互いを理解し合った。お前を目で追っちまう理由にも気づいたし、構いてえ気持ちにも納得がいってた。それでもテニスがあるから、お前とつながっていられるなんて思ってたこともあるんだぜ。健気だろう」
「自分で言うことではないと思うが、それならお前の方から告白してくれたって良かっただろう。理解し合ったというのなら、俺の気持ちだって分かってたはずだ」
「ばぁか、そりゃテニスにかける想いをってだけだ。まさかテメェも俺を好きだなんて、思っちゃいなかったぜ」
 そうなのか。割と分かりやすくアプローチできていたのではないかと思っていたが、そうでもなかったようだな。
「だからな……お前とこうしてベッドの中にいるってのもまだ信じられねえんだぜ。お前がこっちもあんなに情熱的だなんて知らなかった」
「……無茶をさせてすまない」
 今回こそは加減をしようと毎回思うのだが、跡部を前にするとどうしても欲が湧き上がってくる。抑えきれない。だが跡部はそれすら赦してしまうからな。
「フフ」
 ほら、こうして今も、綺麗に笑って俺を見つめてきたりする。何がそんなに嬉しいのだろう。
「手塚、お前気づいてねえんだろ、自分で」
「なんのことだ」
「夜を共にした後、俺が目を覚ますとな、お前はすごく幸せそうな顔で俺を見つめてきやがる。何がそんなに嬉しいのか知らねーが、俺はその瞬間がすごく好きなんだよ。だからどんなに啼かされても赦しちまう。お前の無茶ぶりも……すげえ愛しい。気にすんな」
 言いながら、跡部が俺の髪をなでてくる。幸せそうだと言う跡部の方こそが、幸福そうに笑う。
 それが嬉しくて、胸がじわりと温かくなっていくのが分かった。
 そうか、これが愛しいという感覚なのか。
「で、そろそろ教えろよ手塚。お前のため息の原因はなんだ? 俺様がこうして隣で眠ってんだから、幸せ逃がすより俺を抱き寄せとけよ」
「いや、逃したつもりはない。幸福とはなんだろうと考えていて、いちばんはじめにお前が浮かんできたから、相当重症だと思っただけだ」
「……ふん?」
「テニスで真剣に打ち合えることはもちろんなんだが、たとえば、俺の横でこうして無防備に寝てくれることとか。コートに立っている時はお前を打ち負かしたいと気持ちが昂ぶるのに、こうして隣でゆっくり過ごしている時は、ひどく穏やかだ」
 ライバルで、戦友で、恋人だなんて、なんて贅沢なことだろうか。
 たった一人で様々な関係を築いてくれる跡部景吾という男に、出逢えて良かった。恋ができて良かった。
「先ほどのため息で幸福が逃げたと言うのなら、お前を抱いていれば問題ないな。跡部が、俺の幸福だ」
「ふは。……いいぜ、俺がお前を幸せにしてやるよ、手塚ぁ」
 伸ばした腕でお互いを抱きしめあって、広いベッドの真ん中で長いキスを交わした。


お題:リライト様 /例えば、俺の横で無防備に寝てくれることとか
#お題 #両想い

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こんなにあいたいと思うの、おかしいかなぁ……

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.02

#お題 #両想い #未来設定

「じゃあな手塚、今日はありがとよ」 そう言って、恋人が助手席から降りていくのを眺める。ああ、とまるで…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

こんなにあいたいと思うの、おかしいかなぁ……

「じゃあな手塚、今日はありがとよ」
 そう言って、恋人が助手席から降りていくのを眺める。ああ、とまるでなんでもないようにいつもの声音で呟かれるが、特にそれを気にしたことはない。
「跡部、気をつけて帰れ」
 その後こんなふうに、ちゃんと気遣ってくれることを知っているからだ。
「ああ。おやすみ。愛してるぜ」
 いつものようにそう返して、引き結ばれた唇からは何も返ってこない、そのいつものやり取りに苦笑して、アクセルをゆっくりと踏み込む。バックミラーで、見送ってくれているのを知る。呆れもするが、嬉しさと照れくささの方が勝った。
 テールランプで五回、愛してるのサインでも送ってやろうかと思ったが、やめておいた。ウィンカーで左折の合図を出し、曲がる。もう、手塚の姿を見ていることはできなくなった。
 そのまま車を走らせて、今日の逢瀬を思い起こす。
 手塚国光と恋人関係を続けて、そろそろ十年に差しかかろうかというところだ。よくもまあこんなに続いているものだぜと跡部は思う。
 別に、戯れで手塚の想いを受け入れたわけではないし、向こうだってそのはずだ。未熟な青少年だったのは否めないが、真剣に、恋をしていた。今もまだ、恋をしている。
 どこがそんなに好きなのかと問われたら、うまく答えられないような気がする。何しろ手塚国光を創り上げるすべてのものが愛しくてしょうがないのだから。
 あの顔も、あの腕も、あの脚も、背中も、指先さえも跡部景吾の視線を奪っていく。一度聞いたら忘れられない声は耳をとろかし、まっすぐな瞳には射貫かれたいと思わせる。
 そして何より、あの強引で傲慢で、貪欲なプレイ。
 手塚国光のテニスを見れば、惹かれない方がおかしいとさえ思う。頭に思い描くだけでぞくぞくと悪寒に似た快感が背筋を走り抜ける。運転中だというのに、ラケットを握りたくてそわそわとしてくる。
 それでも十年も傍にいれば飽きてこないかと言われそうだが、さっぱりだ。いつも、いつでも、あの男の魂は跡部景吾を魅了して止まない。
 お前に惹かれている、と何も隠さず告げてきた中三の秋。
 お前に触れてみたい、と何も隠さず告げたのは中三の冬。
 共に春を迎える前に物理的な距離が生まれたけれど、夏の前には飛行機の手配をしていた。
 距離も、環境も、自分たちの間ではなんの障害もなかったのだ。仲間たちに心配もされたけれど、それを撥ねのける勢いで、急激に、急速に惹かれ合って、いくつもの夜を重ねてきた。
 愛しているという言葉も、どれだけ口にしてきたことか。心からのそれを中学生の分際で音にすることになるとは思っていなかったがな、と跡部は一人で苦笑する。手塚を前にすると、言わずにはいられないのだ。あふれてくる想いが、ただ音になったというだけに過ぎない。
 愛しているという言葉を返してもらったことは少ないが、それに不満を感じているわけではない。あの視線を見れば手塚の気持ちは痛いほどに分かるし、触れてくる手の優しさや強さで、充分想いは伝わってくる。あふれんばかりの想いを、彼の方は抱きしめる腕で示してくれている。
 言葉にすると陳腐になるかも知れないが、生涯のパートナーとして、手塚国光以外は考えられない。他の誰であっても、違うと感じてしまう。
 たとえそれが絶世の美女でも、グラマラスな美女でもだ。
 跡部景吾の視線が、指先が、魂が、手塚国光を求めている。
 現に、別れたばかりだというのにもう逢いたくなってきている。
 さすがにこらえ性がなさすぎだろと自分を戒めて、チッと舌を打つ。
 久しぶりの逢瀬だったのは事実だが、十代の頃に比べたらだいぶ落ち着いたと思っている。毎日でも逢いたくて、毎晩でも触れたくて、電話越しに声を聞きながら擬似的な繋がりを楽しんだことだってある。
 若かったなとは思う。今だって充分に若いつもりだけれども、後先を考えずに触れ合っていた頃とは違う。
 十年だ。十年、経つのに。
 緩やかに、穏やかになってもいい頃だというのに、どうしていまだにこんなにも、焦がれてしまうのだろう。
 逢いたい、なんて思ってしまう。
 つい先ほど見送ったのに、もう声が聞きたい。頬に触れたい。唇にキスをしたい。
 跡部は車の流れを見て、路肩に停車させる。手塚のことを考えすぎて、注意力が散漫になっている。このままでは事故を起こしかねない。
 ふう、とため息をついてシートに体を預ける。
 数時間前、手塚に愛された体だ。隅々まで触れられて、暴かれて、熱を受け止めたこの体。
 自身の肉体を、こんなにも愛しいと思うことは今までなかった。プロとしてテニスをする身であり、また、跡部家の事業を展開していかなければならない身としては、自分の体を大切にするのは当然のことなのだが、それと、愛しいと思うのは別なのだと、ここ最近で知った。
 手塚が触れる体だ。手塚を抱きしめる腕だ。手塚の隣を歩く足だ。
 手塚を見つめ、手塚を呼び、吐息を聞く。
 全身で手塚を愛せるということが、こんなに幸福だなんて知らなかった。傍にいない時でさえそう感じる。いや、傍にいないからこそ考えることができるのかもしれない。
 どうしようもなく、あの男が愛しい。あの男を全身全霊で想う自分が愛しい。
 こらえきれず、跡部は携帯端末を取り出す。分かれて三十分も経っていないが、今何をしているだろうかと気に掛かる。深夜帯だし、もう寝る準備をしているかもしれない。さっと汗を流すためにバスルームに移動したかもしれない。
 迷って、悩んで、結局諦めて、先ほどまで彼が乗っていた助手席に端末を放った、直後。
 ♪♪♪♪
 聞き慣れた着信音が鳴る。ぎょっとして振り向くと、画面には手塚国光の名前が表示されていた。
 慌てて手を伸ばして応答すると、「跡部」と名を呼ばれて背筋が震えた。
「手塚、どうした?」
『すまない、運転中ではないのか?』
「……車、駐めてる。平気だ」
 聞きたかった声だ。嬉しさが、応答する声に現れてしまう。恋人相手なのだ、気づかれたって構いやしないが。
『まだ近くにいるなら、こっちに来ないかと。困ったものだな、別れたばかりだというのに……こんなに逢いたいと思うのはおかしいのか?』
 跡部はぱちぱちと目を瞬いた。それはまさに先ほど自分が迷って、悩んで、結局諦めたことだ。まさか手塚の方も同じことを思っていたとは。
「いや、おかしかねえよ……俺も、逢いたい」
『そうか。正直、さっきお前に愛していると言われた時、別れるのが寂しくてしょうがなかったんだ。素直に引き留めていればよかった』
 そういえば、あの時一瞬だけ手塚が強張った表情をしていたなと思い起こす。そういう理由だったのかと気づいて、おかしさがこみ上げてきた。手塚も、同じほどの熱量で想ってくれていることを失念していた。
「今から戻る。部屋、何番だったっけか」
『1004。覚えやすくて助かる』
「ん? ……ああ、なるほどね、確かにな」
 手塚が口にした数字の羅列は、確かに見慣れたものだ。それは跡部景吾の誕生日。絶対に忘れないだろう数字。
 跡部は口の端を上げて、シートベルトを締め直す。Uターンして、手塚の待つホテルへと向かおう。
 十年経っても変わらず魅了する、愛しい恋人の許へと急いだ。



お題:リライト様 /「こんなにあいたいと思うの、おかしいかなぁ……」
#お題 #両想い #未来設定

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殴り倒したいくらい好きですよ

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.01

#お題 #両片想い

 少し、困っていることがある。 恋人が男前過ぎて、どうしたらいいのか分からない。 いや、向こうも男な…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

殴り倒したいくらい好きですよ


 少し、困っていることがある。
 恋人が男前過ぎて、どうしたらいいのか分からない。
 いや、向こうも男なのだから、男前であることになんら不思議はないのだが。
 綺麗な顔をしていると思う。だがそれは女性的な美しさではなく、人としての美しさだと思っている。とても口には出せないが、本当にそう思うんだ。
 何においても全力で、一生懸命で、前に突き進むあの行動力は称賛に値する。凜とした表情やピンと伸びた背筋は見ていて身持ちが良くて、彼を慕うヤツらが多いのも納得だ。
 彼に――跡部景吾に惹かれている者は多くいるだろう。もちろん恋という意味でなくともだ。
 そんな男に恋を告白して、まさか受け入れられるとは思わない。夢ではないかと疑って、彼の額をはじいてしまったくらいだ。
 なんで俺の方をはじくんだよと怒った跡部の額にキスをしても、怒られることはなかった。驚いてはいたようだがな。
 その後、「どっちがしたいんだ」と訊ねられて、最初は意味が分からなかった。「抱くのか抱かれたいのかだ」と付け足されて、がくりと項垂れたのは、先週のはじめ。
 待て。待ってくれ。そこまでは考えていなかった。いや考えていなかったわけではない。跡部に受け入れられることを考えていなかっただけだ。
 許されるのならば触れてみたいし、抱きたいとも思っていたのは事実だ。今さら隠すつもりはなかった。
 だけどまさか、気持ちを受け入れてもらった直後に、そんなことを訊かれるとは思わないだろう。
 まあ抱かせてくれるというなら、遠慮なくそうさせてもらうが、跡部の方はどうなのだろう。
 抱く側なのか、抱かれる側なのか。そこに跡部自身の意志は存在しているのかどうか。
 まさか、好きだと言われたら誰にでもそうなのではないだろうな? と悩んだ。だってあまりにも展開が早すぎるだろう。都合が良すぎる。俺に。
 だからさっき、お前はどうしたいんだと訊ねたら、彼は少し驚いたような顔をした。訊かれるとは思わなかったのかもしれない。
 まるで俺が自分勝手に決めるとでも思われていたようで心外だ。
「俺はどっちでも構わねえんだよ」
「どっちでもというのはどういうことだ……」
「そのまんまの意味だろ。俺はお前に求められたい。お前がどっちを望むかによって、俺のこの先が決まるんだよ」
 ……待て。何と言ったんだ跡部。求められたい? 俺にか。それは都合良く解釈しても構わないものなのか?
「俺は前からお前に惚れてんだ。抱く覚悟も、抱かれる覚悟もしてんだよ。テメーもさっさと腹をくくりやがれ」
 ま え か ら ?
 耳を疑った。いや疑いたくない。跡部は確かに惚れてると言った。考えもしなかったが、どうも両想いというヤツだったらしい。
「待て、跡部……初耳なんだが」
「アーン? 手塚、お前思った以上に鈍いじゃねーの。俺の気持ちなんざ、周り中みんな気づいてるぜ」
 なんで当事者が気づかねーんだと、きょとんとした顔をされる。気づくわけがないだろう。
「仕方ねーな、聞き逃すんじゃねーぞ手塚ぁ。誰よりも愛してるぜ、お前をな」
 楽しそうに、本当に愉快そうに耳元にそう囁いてくる。
 ああくそ、殴り倒したいくらいお前が好きだ。


お題:リライト様 /殴り倒したいくらい好きですよ
#お題 #両片想い

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体温高いよお前

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.31

#お題 #両想い

 なぜこんな体勢なのか、甚だ疑問だった。「なあ手塚」 跡部はその疑問をついには口に出す。「なんだ」「…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

体温高いよお前


 なぜこんな体勢なのか、甚だ疑問だった。
「なあ手塚」
 跡部はその疑問をついには口に出す。
「なんだ」
「これ、楽しいか?」
「俺は楽しいが」
 そうかよ、とため息と共に返してやる。
 何しろ、小一時間ほどずっと、足の間に座らせた跡部を背中から抱きしめているだけなのだ。ソファは広いし、二人で並んで腰をかけても、いっそ寝転がってもまだ余るというのに、なぜ。
 さらに分からないのが、お互いその体勢でそれぞれ文庫本を読んでいる。跡部は右手に持って左手でめくる。手塚は左手で持って右手でめくる。正直、邪魔だ。読んだことのある本だといってもちゃんと文字を追いたいのだが、集中できやしない。
 だが、無理に離れようとは思わなかった。手塚がこうしたスキンシップを望んでくるのは珍しいからだ。
 恋人同士という間柄ではあるが、いつも積極的なのは跡部の方。キスをするのも、ベッドに誘うのも。
 だから今日、広げた脚の間をぽんぽんと叩いて呼ばれたことには驚いたのだ。
 くっつきたがってくれているのかと思うと、やはり、嬉しい。
 本を読むのはもう諦めて、手塚の胸に背中を預けてしまう。シャツ二枚越しに感じる体温は心地良くて、こんな穏やかな時間も悪くないと思う。
「あったけぇー……体温高いな、お前」
「そうか? 今日は少し肌寒いからな、余計にそう感じるんだろう」
「あ、まさかお前、俺を毛布代わりにしてんじゃねえだろうな」
「………………そんなことはない」
「おい今の間は」
 不機嫌な声で抗議すると、手塚は本にしおりを挟んで閉じ、両腕でぐっと抱いてきた。
「確かに毛布は暖かくて好きだが、毛布に欲情する趣味は持ち合わせていないのでな」
「お前のそういうスイッチどこにあんだよ? こら待て、ステイ、脱がしにかかるな」
「跡部は着たまましたいのか」
「んなこと言ってねえ!」
 広いソファにどさりと押し倒されて、跡部は予想外の展開に頬を染める。
「お前が可愛らしくくっついてきたりするからだぞ。俺のせいじゃない」
 言いながら、手塚は器用にボタンを外していく。
 最初に可愛らしくくっついてきたのはお前の方だろと、跡部は言いかけたけれど、やめておいた。どうやったってこのソファはこの後ベッド代わりになってしまうのだろうから。


お題:リライト様 /「体温高いよお前」
#お題 #両想い  

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……誓うか?

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.30

#お題 #両想い

 好き合っている恋人同士ではあるが、おおっぴらにくっついて歩ける環境ではない。それが少しだけ、ほんの…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

……誓うか?

 好き合っている恋人同士ではあるが、おおっぴらにくっついて歩ける環境ではない。それが少しだけ、ほんの少しだけ、不満だ。手を繋いで歩きたい。ビルの陰でキスをしたい。一緒に部屋のカーテンを選んで、ベッドを選んで、揃いの食器をカゴに入れたい。
 同性だというのは、今の日本ではまだまだ難しい。
 恋人の部屋でくらいしか、体をくっつけていられない。寄りかかってくる髪にそっと口づけて、無意識に香りを吸い込む。染み渡っていくその芳香がいくらか落ち着かせたけれど、こうなると帰りたくなくなるのが困る。
「なんだよ、手塚ぁ。ずいぶんと甘いことしてくれるじゃねーの」
 恋人である跡部が、それはもう楽しそうに、嬉しそうに振り向いてくる。まっすぐな青の瞳は大好きなもののうちのひとつで、答えることも忘れて見入ってしまいそうだ。
「たまにはそういう気分の時もある。俺はお前のことが好きなのだからな」
「そうかい、ありがとよ」
 そう言って、跡部は頬へとキスをくれる。彼はこの環境に満足しているだろうかと訊いてみたいが、呆れられそうでなかなか音にできない。
「俺がキスしてやってんのに、なんだその顔は。頬じゃ不満だってか? ほらこっち向きな」
 それが顔に出てしまったのか、キスが足りないのだと思われて頬を包まれる。顔の向きを変えさせられたと思ったそのすぐ後に、唇に跡部の唇が触れた。別に足りないとは思っていなかったが、くれるものならもらいたい。逃さないように背を抱いて唇を押しつけると、しまったというように肩が揺れた。
「そういうつもりじゃなかったんだが」
「お前が悪い」
「……このスケベ」
 そう言いつつも、跡部はろくに抵抗せずに押し倒されてくれる。今日こそゆっくり彼を堪能しようと思う。
 ――思う、だけだったが。



 随分と余裕がなかったなと、気怠そうに髪をかき上げる跡部に、すまないとだけ返す。もっとゆっくり、いつもよりずっと優しくしようと思っていたのだが、やはり失敗したようだ。幸いにも、不機嫌な様子は見られずホッとする。
「まあ、俺様だってお前に欲しがられんのは悪くない気分だぜ。外じゃあ、俺が一方的にお前を好いてるように見えるらしいからな」
「俺まであからさまにしたらいけないだろう。世間の目というものがある」
「フン、そんなものが気になるかよ?」
 なる、とシャツのボタンを留めながら跡部に背を向けた。男同士である上に、跡部は財閥の跡取り息子だ。とんでもない男に惚れてしまったのは自覚しているが、彼を巻き込んでしまって良かったのかどうか、いまだに答がでない。いや、今さら駄目だったと言われても手放せないのだが、後ろめたさは残る。
「世間の反応なんかで、お前と変にこじれたくない。俺らしくないとは思うが、お前とのことに関しては、できるだけリスクを回避したい。……まあそもそも俺は表に出すのは不得手のようだが」
「本当に、テニスだとあれだけ強引で傲慢なのにな。あと、ベッドの中でも」
「………………すまないとは言っておく。だが優しくしたいと思っていることだけは知っておいてほしい」
 くっくっと楽しそうな笑い声が背中に刺さる。
「これから一緒に過ごしていく中で、ちゃんとできるようにする。まだ、お前を手に入れたということで浮かれている段階なのだと思う。来月……いや、無理だな、来年くらいまではこんなふうかもしれない」
「いや、別に構わねーよ。俺を優しく抱くってのが最終目標なら、ずっと満足しねーでいい」
「それではいつまで経っても、………………いいのか?」
 いつまでも優しく抱けないというのは問題があるのではないかと思い振り向いたが、その言葉の裏にある、未来を望む心が見えてしまった。来月も、来年も、その先も、優しく抱くことを追求している限りは傍にいられる。優しく抱けたと思っても、「まだだ」と思えば次につながる。満足しなくていいというのは、つまりそういうことなのだろう。
「強引でも、傲慢でもいい。お前はずっと、俺をベッドに引っ張り込んで抱いときゃいいんだよ」
「ずっとか」
「ああ、ずっとだ」
「分かった。ではそうしよう」
 シーツを伝って寄ってきた手に、そっと手を重ね合わせる。そのまま持ち上げて、手の甲にキスを降らせた。それはまるで、結婚の誓いのようだ。
「なあ、……誓うか? どっか恋人の聖地にでも行って」
「聖地……そんなところがあるのか」
「法的な証しをもらえるわけじゃねえが、いいだろ。俺とお前の気持ちがあれば充分だぜ」
 跡部が体を起こして座り込み、手塚が誓いを降らせた手の指を絡めてきた。まっすぐに見つめてくる瞳を逸らすつもりはさらさらなくて、手塚も絡んだ指を握り返す。
「婚姻届は出せないからな。だがお前が俺を望んでくれるなら、そこでお前に誓うか」
「ああ、お前は俺に。俺はお前に」
 どちらが先に動いたということもなく、お互いの真ん中で、唇が重ねられる。触れて、離れて、触れて、離れる。
 満ち足りた気分で口の端が上がったけれど、跡部の指先はぐっと衿を掴んでくる。
「ところでよ、手塚。テメェなんでシャツなんか着てんだ。帰すわけねえだろ」
「え? うわ、おい……っ」
 そのまま引き寄せられて、跡部ごとベッドに逆戻り。楽しそうに笑う跡部の髪がシーツの上に散らばった。手塚のことを強引で傲慢だと言う彼だって、割と本気で強引で傲慢だ。
 だが誘われたのならば仕方ないと、跡部の熱を堪能するためにシャツのボタンに指をかけた。
 今回も優しくはできそうにないなと思いながら。



お題:リライト様 /「……誓うか?」
#お題 #両想い