No.655, No.654, No.653, No.652, No.651, No.650, No.6497件]

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こんなにあいたいと思うの、おかしいかなぁ……

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.02

#お題 #両想い #未来設定

「じゃあな手塚、今日はありがとよ」 そう言って、恋人が助手席から降りていくのを眺める。ああ、とまるで…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

こんなにあいたいと思うの、おかしいかなぁ……

「じゃあな手塚、今日はありがとよ」
 そう言って、恋人が助手席から降りていくのを眺める。ああ、とまるでなんでもないようにいつもの声音で呟かれるが、特にそれを気にしたことはない。
「跡部、気をつけて帰れ」
 その後こんなふうに、ちゃんと気遣ってくれることを知っているからだ。
「ああ。おやすみ。愛してるぜ」
 いつものようにそう返して、引き結ばれた唇からは何も返ってこない、そのいつものやり取りに苦笑して、アクセルをゆっくりと踏み込む。バックミラーで、見送ってくれているのを知る。呆れもするが、嬉しさと照れくささの方が勝った。
 テールランプで五回、愛してるのサインでも送ってやろうかと思ったが、やめておいた。ウィンカーで左折の合図を出し、曲がる。もう、手塚の姿を見ていることはできなくなった。
 そのまま車を走らせて、今日の逢瀬を思い起こす。
 手塚国光と恋人関係を続けて、そろそろ十年に差しかかろうかというところだ。よくもまあこんなに続いているものだぜと跡部は思う。
 別に、戯れで手塚の想いを受け入れたわけではないし、向こうだってそのはずだ。未熟な青少年だったのは否めないが、真剣に、恋をしていた。今もまだ、恋をしている。
 どこがそんなに好きなのかと問われたら、うまく答えられないような気がする。何しろ手塚国光を創り上げるすべてのものが愛しくてしょうがないのだから。
 あの顔も、あの腕も、あの脚も、背中も、指先さえも跡部景吾の視線を奪っていく。一度聞いたら忘れられない声は耳をとろかし、まっすぐな瞳には射貫かれたいと思わせる。
 そして何より、あの強引で傲慢で、貪欲なプレイ。
 手塚国光のテニスを見れば、惹かれない方がおかしいとさえ思う。頭に思い描くだけでぞくぞくと悪寒に似た快感が背筋を走り抜ける。運転中だというのに、ラケットを握りたくてそわそわとしてくる。
 それでも十年も傍にいれば飽きてこないかと言われそうだが、さっぱりだ。いつも、いつでも、あの男の魂は跡部景吾を魅了して止まない。
 お前に惹かれている、と何も隠さず告げてきた中三の秋。
 お前に触れてみたい、と何も隠さず告げたのは中三の冬。
 共に春を迎える前に物理的な距離が生まれたけれど、夏の前には飛行機の手配をしていた。
 距離も、環境も、自分たちの間ではなんの障害もなかったのだ。仲間たちに心配もされたけれど、それを撥ねのける勢いで、急激に、急速に惹かれ合って、いくつもの夜を重ねてきた。
 愛しているという言葉も、どれだけ口にしてきたことか。心からのそれを中学生の分際で音にすることになるとは思っていなかったがな、と跡部は一人で苦笑する。手塚を前にすると、言わずにはいられないのだ。あふれてくる想いが、ただ音になったというだけに過ぎない。
 愛しているという言葉を返してもらったことは少ないが、それに不満を感じているわけではない。あの視線を見れば手塚の気持ちは痛いほどに分かるし、触れてくる手の優しさや強さで、充分想いは伝わってくる。あふれんばかりの想いを、彼の方は抱きしめる腕で示してくれている。
 言葉にすると陳腐になるかも知れないが、生涯のパートナーとして、手塚国光以外は考えられない。他の誰であっても、違うと感じてしまう。
 たとえそれが絶世の美女でも、グラマラスな美女でもだ。
 跡部景吾の視線が、指先が、魂が、手塚国光を求めている。
 現に、別れたばかりだというのにもう逢いたくなってきている。
 さすがにこらえ性がなさすぎだろと自分を戒めて、チッと舌を打つ。
 久しぶりの逢瀬だったのは事実だが、十代の頃に比べたらだいぶ落ち着いたと思っている。毎日でも逢いたくて、毎晩でも触れたくて、電話越しに声を聞きながら擬似的な繋がりを楽しんだことだってある。
 若かったなとは思う。今だって充分に若いつもりだけれども、後先を考えずに触れ合っていた頃とは違う。
 十年だ。十年、経つのに。
 緩やかに、穏やかになってもいい頃だというのに、どうしていまだにこんなにも、焦がれてしまうのだろう。
 逢いたい、なんて思ってしまう。
 つい先ほど見送ったのに、もう声が聞きたい。頬に触れたい。唇にキスをしたい。
 跡部は車の流れを見て、路肩に停車させる。手塚のことを考えすぎて、注意力が散漫になっている。このままでは事故を起こしかねない。
 ふう、とため息をついてシートに体を預ける。
 数時間前、手塚に愛された体だ。隅々まで触れられて、暴かれて、熱を受け止めたこの体。
 自身の肉体を、こんなにも愛しいと思うことは今までなかった。プロとしてテニスをする身であり、また、跡部家の事業を展開していかなければならない身としては、自分の体を大切にするのは当然のことなのだが、それと、愛しいと思うのは別なのだと、ここ最近で知った。
 手塚が触れる体だ。手塚を抱きしめる腕だ。手塚の隣を歩く足だ。
 手塚を見つめ、手塚を呼び、吐息を聞く。
 全身で手塚を愛せるということが、こんなに幸福だなんて知らなかった。傍にいない時でさえそう感じる。いや、傍にいないからこそ考えることができるのかもしれない。
 どうしようもなく、あの男が愛しい。あの男を全身全霊で想う自分が愛しい。
 こらえきれず、跡部は携帯端末を取り出す。分かれて三十分も経っていないが、今何をしているだろうかと気に掛かる。深夜帯だし、もう寝る準備をしているかもしれない。さっと汗を流すためにバスルームに移動したかもしれない。
 迷って、悩んで、結局諦めて、先ほどまで彼が乗っていた助手席に端末を放った、直後。
 ♪♪♪♪
 聞き慣れた着信音が鳴る。ぎょっとして振り向くと、画面には手塚国光の名前が表示されていた。
 慌てて手を伸ばして応答すると、「跡部」と名を呼ばれて背筋が震えた。
「手塚、どうした?」
『すまない、運転中ではないのか?』
「……車、駐めてる。平気だ」
 聞きたかった声だ。嬉しさが、応答する声に現れてしまう。恋人相手なのだ、気づかれたって構いやしないが。
『まだ近くにいるなら、こっちに来ないかと。困ったものだな、別れたばかりだというのに……こんなに逢いたいと思うのはおかしいのか?』
 跡部はぱちぱちと目を瞬いた。それはまさに先ほど自分が迷って、悩んで、結局諦めたことだ。まさか手塚の方も同じことを思っていたとは。
「いや、おかしかねえよ……俺も、逢いたい」
『そうか。正直、さっきお前に愛していると言われた時、別れるのが寂しくてしょうがなかったんだ。素直に引き留めていればよかった』
 そういえば、あの時一瞬だけ手塚が強張った表情をしていたなと思い起こす。そういう理由だったのかと気づいて、おかしさがこみ上げてきた。手塚も、同じほどの熱量で想ってくれていることを失念していた。
「今から戻る。部屋、何番だったっけか」
『1004。覚えやすくて助かる』
「ん? ……ああ、なるほどね、確かにな」
 手塚が口にした数字の羅列は、確かに見慣れたものだ。それは跡部景吾の誕生日。絶対に忘れないだろう数字。
 跡部は口の端を上げて、シートベルトを締め直す。Uターンして、手塚の待つホテルへと向かおう。
 十年経っても変わらず魅了する、愛しい恋人の許へと急いだ。



お題:リライト様 /「こんなにあいたいと思うの、おかしいかなぁ……」
#お題 #両想い #未来設定

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殴り倒したいくらい好きですよ

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.01

#お題 #両片想い

 少し、困っていることがある。 恋人が男前過ぎて、どうしたらいいのか分からない。 いや、向こうも男な…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

殴り倒したいくらい好きですよ


 少し、困っていることがある。
 恋人が男前過ぎて、どうしたらいいのか分からない。
 いや、向こうも男なのだから、男前であることになんら不思議はないのだが。
 綺麗な顔をしていると思う。だがそれは女性的な美しさではなく、人としての美しさだと思っている。とても口には出せないが、本当にそう思うんだ。
 何においても全力で、一生懸命で、前に突き進むあの行動力は称賛に値する。凜とした表情やピンと伸びた背筋は見ていて身持ちが良くて、彼を慕うヤツらが多いのも納得だ。
 彼に――跡部景吾に惹かれている者は多くいるだろう。もちろん恋という意味でなくともだ。
 そんな男に恋を告白して、まさか受け入れられるとは思わない。夢ではないかと疑って、彼の額をはじいてしまったくらいだ。
 なんで俺の方をはじくんだよと怒った跡部の額にキスをしても、怒られることはなかった。驚いてはいたようだがな。
 その後、「どっちがしたいんだ」と訊ねられて、最初は意味が分からなかった。「抱くのか抱かれたいのかだ」と付け足されて、がくりと項垂れたのは、先週のはじめ。
 待て。待ってくれ。そこまでは考えていなかった。いや考えていなかったわけではない。跡部に受け入れられることを考えていなかっただけだ。
 許されるのならば触れてみたいし、抱きたいとも思っていたのは事実だ。今さら隠すつもりはなかった。
 だけどまさか、気持ちを受け入れてもらった直後に、そんなことを訊かれるとは思わないだろう。
 まあ抱かせてくれるというなら、遠慮なくそうさせてもらうが、跡部の方はどうなのだろう。
 抱く側なのか、抱かれる側なのか。そこに跡部自身の意志は存在しているのかどうか。
 まさか、好きだと言われたら誰にでもそうなのではないだろうな? と悩んだ。だってあまりにも展開が早すぎるだろう。都合が良すぎる。俺に。
 だからさっき、お前はどうしたいんだと訊ねたら、彼は少し驚いたような顔をした。訊かれるとは思わなかったのかもしれない。
 まるで俺が自分勝手に決めるとでも思われていたようで心外だ。
「俺はどっちでも構わねえんだよ」
「どっちでもというのはどういうことだ……」
「そのまんまの意味だろ。俺はお前に求められたい。お前がどっちを望むかによって、俺のこの先が決まるんだよ」
 ……待て。何と言ったんだ跡部。求められたい? 俺にか。それは都合良く解釈しても構わないものなのか?
「俺は前からお前に惚れてんだ。抱く覚悟も、抱かれる覚悟もしてんだよ。テメーもさっさと腹をくくりやがれ」
 ま え か ら ?
 耳を疑った。いや疑いたくない。跡部は確かに惚れてると言った。考えもしなかったが、どうも両想いというヤツだったらしい。
「待て、跡部……初耳なんだが」
「アーン? 手塚、お前思った以上に鈍いじゃねーの。俺の気持ちなんざ、周り中みんな気づいてるぜ」
 なんで当事者が気づかねーんだと、きょとんとした顔をされる。気づくわけがないだろう。
「仕方ねーな、聞き逃すんじゃねーぞ手塚ぁ。誰よりも愛してるぜ、お前をな」
 楽しそうに、本当に愉快そうに耳元にそう囁いてくる。
 ああくそ、殴り倒したいくらいお前が好きだ。


お題:リライト様 /殴り倒したいくらい好きですよ
#お題 #両片想い

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体温高いよお前

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.31

#お題 #両想い

 なぜこんな体勢なのか、甚だ疑問だった。「なあ手塚」 跡部はその疑問をついには口に出す。「なんだ」「…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

体温高いよお前


 なぜこんな体勢なのか、甚だ疑問だった。
「なあ手塚」
 跡部はその疑問をついには口に出す。
「なんだ」
「これ、楽しいか?」
「俺は楽しいが」
 そうかよ、とため息と共に返してやる。
 何しろ、小一時間ほどずっと、足の間に座らせた跡部を背中から抱きしめているだけなのだ。ソファは広いし、二人で並んで腰をかけても、いっそ寝転がってもまだ余るというのに、なぜ。
 さらに分からないのが、お互いその体勢でそれぞれ文庫本を読んでいる。跡部は右手に持って左手でめくる。手塚は左手で持って右手でめくる。正直、邪魔だ。読んだことのある本だといってもちゃんと文字を追いたいのだが、集中できやしない。
 だが、無理に離れようとは思わなかった。手塚がこうしたスキンシップを望んでくるのは珍しいからだ。
 恋人同士という間柄ではあるが、いつも積極的なのは跡部の方。キスをするのも、ベッドに誘うのも。
 だから今日、広げた脚の間をぽんぽんと叩いて呼ばれたことには驚いたのだ。
 くっつきたがってくれているのかと思うと、やはり、嬉しい。
 本を読むのはもう諦めて、手塚の胸に背中を預けてしまう。シャツ二枚越しに感じる体温は心地良くて、こんな穏やかな時間も悪くないと思う。
「あったけぇー……体温高いな、お前」
「そうか? 今日は少し肌寒いからな、余計にそう感じるんだろう」
「あ、まさかお前、俺を毛布代わりにしてんじゃねえだろうな」
「………………そんなことはない」
「おい今の間は」
 不機嫌な声で抗議すると、手塚は本にしおりを挟んで閉じ、両腕でぐっと抱いてきた。
「確かに毛布は暖かくて好きだが、毛布に欲情する趣味は持ち合わせていないのでな」
「お前のそういうスイッチどこにあんだよ? こら待て、ステイ、脱がしにかかるな」
「跡部は着たまましたいのか」
「んなこと言ってねえ!」
 広いソファにどさりと押し倒されて、跡部は予想外の展開に頬を染める。
「お前が可愛らしくくっついてきたりするからだぞ。俺のせいじゃない」
 言いながら、手塚は器用にボタンを外していく。
 最初に可愛らしくくっついてきたのはお前の方だろと、跡部は言いかけたけれど、やめておいた。どうやったってこのソファはこの後ベッド代わりになってしまうのだろうから。


お題:リライト様 /「体温高いよお前」
#お題 #両想い  

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……誓うか?

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.30

#お題 #両想い

 好き合っている恋人同士ではあるが、おおっぴらにくっついて歩ける環境ではない。それが少しだけ、ほんの…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

……誓うか?

 好き合っている恋人同士ではあるが、おおっぴらにくっついて歩ける環境ではない。それが少しだけ、ほんの少しだけ、不満だ。手を繋いで歩きたい。ビルの陰でキスをしたい。一緒に部屋のカーテンを選んで、ベッドを選んで、揃いの食器をカゴに入れたい。
 同性だというのは、今の日本ではまだまだ難しい。
 恋人の部屋でくらいしか、体をくっつけていられない。寄りかかってくる髪にそっと口づけて、無意識に香りを吸い込む。染み渡っていくその芳香がいくらか落ち着かせたけれど、こうなると帰りたくなくなるのが困る。
「なんだよ、手塚ぁ。ずいぶんと甘いことしてくれるじゃねーの」
 恋人である跡部が、それはもう楽しそうに、嬉しそうに振り向いてくる。まっすぐな青の瞳は大好きなもののうちのひとつで、答えることも忘れて見入ってしまいそうだ。
「たまにはそういう気分の時もある。俺はお前のことが好きなのだからな」
「そうかい、ありがとよ」
 そう言って、跡部は頬へとキスをくれる。彼はこの環境に満足しているだろうかと訊いてみたいが、呆れられそうでなかなか音にできない。
「俺がキスしてやってんのに、なんだその顔は。頬じゃ不満だってか? ほらこっち向きな」
 それが顔に出てしまったのか、キスが足りないのだと思われて頬を包まれる。顔の向きを変えさせられたと思ったそのすぐ後に、唇に跡部の唇が触れた。別に足りないとは思っていなかったが、くれるものならもらいたい。逃さないように背を抱いて唇を押しつけると、しまったというように肩が揺れた。
「そういうつもりじゃなかったんだが」
「お前が悪い」
「……このスケベ」
 そう言いつつも、跡部はろくに抵抗せずに押し倒されてくれる。今日こそゆっくり彼を堪能しようと思う。
 ――思う、だけだったが。



 随分と余裕がなかったなと、気怠そうに髪をかき上げる跡部に、すまないとだけ返す。もっとゆっくり、いつもよりずっと優しくしようと思っていたのだが、やはり失敗したようだ。幸いにも、不機嫌な様子は見られずホッとする。
「まあ、俺様だってお前に欲しがられんのは悪くない気分だぜ。外じゃあ、俺が一方的にお前を好いてるように見えるらしいからな」
「俺まであからさまにしたらいけないだろう。世間の目というものがある」
「フン、そんなものが気になるかよ?」
 なる、とシャツのボタンを留めながら跡部に背を向けた。男同士である上に、跡部は財閥の跡取り息子だ。とんでもない男に惚れてしまったのは自覚しているが、彼を巻き込んでしまって良かったのかどうか、いまだに答がでない。いや、今さら駄目だったと言われても手放せないのだが、後ろめたさは残る。
「世間の反応なんかで、お前と変にこじれたくない。俺らしくないとは思うが、お前とのことに関しては、できるだけリスクを回避したい。……まあそもそも俺は表に出すのは不得手のようだが」
「本当に、テニスだとあれだけ強引で傲慢なのにな。あと、ベッドの中でも」
「………………すまないとは言っておく。だが優しくしたいと思っていることだけは知っておいてほしい」
 くっくっと楽しそうな笑い声が背中に刺さる。
「これから一緒に過ごしていく中で、ちゃんとできるようにする。まだ、お前を手に入れたということで浮かれている段階なのだと思う。来月……いや、無理だな、来年くらいまではこんなふうかもしれない」
「いや、別に構わねーよ。俺を優しく抱くってのが最終目標なら、ずっと満足しねーでいい」
「それではいつまで経っても、………………いいのか?」
 いつまでも優しく抱けないというのは問題があるのではないかと思い振り向いたが、その言葉の裏にある、未来を望む心が見えてしまった。来月も、来年も、その先も、優しく抱くことを追求している限りは傍にいられる。優しく抱けたと思っても、「まだだ」と思えば次につながる。満足しなくていいというのは、つまりそういうことなのだろう。
「強引でも、傲慢でもいい。お前はずっと、俺をベッドに引っ張り込んで抱いときゃいいんだよ」
「ずっとか」
「ああ、ずっとだ」
「分かった。ではそうしよう」
 シーツを伝って寄ってきた手に、そっと手を重ね合わせる。そのまま持ち上げて、手の甲にキスを降らせた。それはまるで、結婚の誓いのようだ。
「なあ、……誓うか? どっか恋人の聖地にでも行って」
「聖地……そんなところがあるのか」
「法的な証しをもらえるわけじゃねえが、いいだろ。俺とお前の気持ちがあれば充分だぜ」
 跡部が体を起こして座り込み、手塚が誓いを降らせた手の指を絡めてきた。まっすぐに見つめてくる瞳を逸らすつもりはさらさらなくて、手塚も絡んだ指を握り返す。
「婚姻届は出せないからな。だがお前が俺を望んでくれるなら、そこでお前に誓うか」
「ああ、お前は俺に。俺はお前に」
 どちらが先に動いたということもなく、お互いの真ん中で、唇が重ねられる。触れて、離れて、触れて、離れる。
 満ち足りた気分で口の端が上がったけれど、跡部の指先はぐっと衿を掴んでくる。
「ところでよ、手塚。テメェなんでシャツなんか着てんだ。帰すわけねえだろ」
「え? うわ、おい……っ」
 そのまま引き寄せられて、跡部ごとベッドに逆戻り。楽しそうに笑う跡部の髪がシーツの上に散らばった。手塚のことを強引で傲慢だと言う彼だって、割と本気で強引で傲慢だ。
 だが誘われたのならば仕方ないと、跡部の熱を堪能するためにシャツのボタンに指をかけた。
 今回も優しくはできそうにないなと思いながら。



お題:リライト様 /「……誓うか?」
#お題 #両想い

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あと……5分だけ

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.29

#お題 #両想い #未来設定

 キッチンで朝食を準備していると、奥の寝室から聞き慣れたアラームの音が聞こえてくる。 手塚はふと顔を…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

あと……5分だけ

 キッチンで朝食を準備していると、奥の寝室から聞き慣れたアラームの音が聞こえてくる。
 手塚はふと顔を上げてその音が止まるのを待ってみた。十秒ほどしてそれは不自然に止まり、起きたかとコンロに向き直る。
 だが、それ以降一向に物音がしない。アラームを止めた人物がいるはずなのだが、物音一つしないということは、二度寝を決め込んでいるのだろう。
 仕方がないなと手塚はコンロの火を止めて、寝室へと向かった。
 案の定、アラームをかけたスマートフォンを握りしめたまま、ベッドですやすやと眠る男の姿が目に入る。ため息を吐いて声をかけてみる。
「おい、跡部」
 返事はない。覚醒はしているのだろうが、身動きひとつしない。ゆっくりとベッドへ歩みを進めて、肩を揺さぶってみた。
「跡部、いい加減に起きろ」
「んん……」
 ようやく応答が返ってくるけれど、それは了承の合図ではなさそうだ。
 綺麗な金の髪が、白いシーツに散らばる様には胸がざわつくが、おかしな気分に浸るわけにはいかなかった。
「起きろと言っているんだ。お前ともあろうものが二度寝だなんて、情けないぞ」
「…………起き、てる」
「そうか、じゃあ起き上がれと言い直そう」
 眠そうな声で抗議されるが、さらに追い立てる。今日は休日ではないのだ、これ以上寝ていたら、準備の時間がなくなってしまう。
「誰かさんのせいで腰が痛ぇんだよ」
「俺以外が原因なら破局の危機だが」
「てめぇ以外に誰がいんだよ、俺をこんなにしちまうヤツが」
 少しずつ、声がハッキリとしてくる。速度もいつものものに近くなって、よしと手塚は頷いた。
 彼は昨夜のことを責めたつもりなのだろうが、その手には乗らない。
 この男を――跡部景吾を抱けるのは自分しかいないと、優越感を味わう結果にしかならないのに、どうして攻撃できると思うのだろうか。
 分が悪いと思ってか、無駄だと悟ってか、跡部はゆっくりと起き上がる。その素肌には確かに昨夜散らせた花びらが舞っており、朝っぱらから目に毒だ。
 あんなに付けただろうかと記憶が定かではないのは、夢中だったからに違いない。となると、彼がダウンしてしまうのも仕方のないことだったのだろうか。
「…………無茶をさせたようだな」
「フン、今さらだぜ。モーニン、ダーリン」
「ああ、おはよう跡部」
 だが怒ってはいないようで、いつものように頬にキスをくれる。最近ようやっと慣れてきたお返しのキスを跡部の頬に贈って、差し出された手を引いて彼の体を引き上げた。
「もうすぐ朝食ができる。卵は目玉焼きか?」
「だし巻き卵がいい」
「分かった、用意しておく」
「サンキュ」
 言って、跡部はバスルームへと向かっていった。わずかに危なっかしい足取りは、跡部景吾らしくないと思うのと同時に、情事の名残だと思うと無責任にも嬉しく思ったりもする。絶対に口にはできないけれど。
 そうして手塚はキッチンへと戻り、だし巻き卵の作成にとりかかった。
 バスルームの方から、シャワーの水音が聞こえてくる。そんな何気ない他人の生活音が、手塚の心を満たしていく。
 跡部と同居生活を始めて半年以上、一年未満。
 広いマンションは一フロアに二世帯しかない。セキュリティ面を考えて、一フロア全部借りきるかと言った跡部を止めるのには苦労した。
 けれども、めったに顔を合わせない隣人とも現在までトラブルなど一切起きていない。おおむね幸福な生活だ。
 一緒に暮らすようになって驚いたのが、朝が弱いこと。弱いというか、絶対的に睡眠時間が少ないのだ。
 あの睡眠時間でよく今まで体を壊さなかったものだと、心配でならなかった。それが体に合っているというのなら良いが、疲労は知らないうちにたまっていく。
 だから「一緒に寝たい」と言って跡部をベッドに引きずり込んでしまうのだ。
 そのまま抱きしめて本当に眠るだけの日も、色っぽい展開になる時もあるが、以前よりは眠る時間が増えたように思う。
 たまに先にベッドに入っていることもあって、良い傾向だと思っている。
 お互い忙しい身で、一緒に過ごす時間は昔に比べて格段に減った。
 だからこそくっついている時間を増やしたいという思いもあったのだが、きっと跡部はそれを理解してくれているのだ。
 相手をすべて理解できなくとも、尊重して受け入れることを苦としない彼だからこそ、世辞にも気の利く人間とは言えない自分がうまくやってこれているのだと思う。
 朝が弱い彼にせめて朝食くらいはと、習慣になってしまった作業を一通り終える頃には、跡部がシャワーから上がってくる。
 寝汗を流した彼は、とても先ほどまでベッドでぐずついていた男とは思えない。まるで別人だ。このギャップがたまらなく愛しくて、知れず口の端が上がった。
「ん、旨そうだ。いつもありがとうな手塚」
「いや、構わない」
 並べられた和食に跡部は穏やかな表情を見せる。
 元々海外で育った彼は洋食が多かったが、一緒に過ごすようになって随分と和食に慣れてきて、リクエストさえしてくる。加えて、さらりとなんでもないように礼を告げてくるのは、さすが跡部景吾だと思った。
 与えられるのが当然のような暮らしをしていたにもかかわらず、礼儀を忘れないというのは、そう簡単にできるものでもない。
「今日の予定は?」
「会議が二件と施設の視察が……三件だな。ウチのブランド扱ってるとこと……そうだ、この間お前も一緒に行った養護施設な、テニスが大ブームらしいぜ」
 今日も見てくる、と歌うように口にする跡部は、ひどく機嫌がいい。テニスが絡むとこの男は本当に幸福そうだなと、手塚の口許も緩んだ。
「テニスを楽しんでもらえるのは嬉しいな。やはりボールとラケットを寄付したのは良かった」
「そうだろ。もしかしたら、あそこからプロの選手が出てくるかもしれねえぜ。お前もうかうかしてられねえんじゃねーの」
 手塚は今、プロのテニスプレイヤーとして様々な大会に出場している。
 優勝という栄冠を手にするのもそう遅いことではないと言われているようだが、まだまだ鍛錬が足りないと自身では思っている。
 そして跡部はというと、家の事業を少しずつ引き継いで業績を伸ばしている。
 中でも力を入れているのがスポーツ事業で、自社ブランドを立ち上げたり選手のスポンサーになったりと、何かと名前を耳にすることが多くなってきた。
 彼がプレイヤーだったことを知っている選手たちからは、跡部とプレイがしてみたいから渡りをてけてくれないかと頼まれることだってあるが、手塚はそれをすべて断っている。
 彼がプレイヤーに復帰するならば、いちばんに試合をするのは自分でなければ。
「手塚は? 今日も練習漬けかよ」
「ああ、一件雑誌のインタビューが入っているが」
「ハ、せいぜいイイ男に撮ってもらいな」
「……顔は関係ないだろ」
「お前がそういうことに頓着しねえのは知ってるがな。フフッ、裏から手ぇ回して写真手に入れて、引き延ばして部屋に飾ってやろうか」
「やめろ」
 跡部なら本当にやりかねない。ちゃんとクギを刺しておかないと、返ってきたらドンと写真が待ち構えていそうで恐ろしい。
「お前は実物の俺だけ見ていればいいだろう」
 そう告げてやれば、だし巻き卵を切り分ける箸が止まった。
 見る見るうちに跡部の頬が染まり、隠すように手の甲に項垂れる恋人の姿を見て、ひどく気分がいい。
「て……めぇは、予告なしにそういうこと言ってくるからタチが悪いんだよ……朝っぱらから浮かれさせんな」
「それはすまない」
 少しも悪いなどとは思っていないが、そこは口にしないでおく。
「八時には帰ってこられると思う。メシ用意しといてやるよ」
 朝食を終えて、身支度を調えた跡部が帰宅の予定を告げてくる。
「俺もそれくらいには帰れると思う。一緒に作ろう」
「そうか。そうだな、楽しみにしとくぜ」
 跡部の方が家を出るのが早い。玄関まで見送って、自分も練習に向かおうとした手塚だが、それは跡部によって阻まれる。
 腕を引かれ、唇同士がぶつかった。
「今日……まだちゃんとキスしてねえ」
 離れた唇のすぐ傍で吐息のように囁く跡部に、そういえばそうだったと応じて抱き寄せる。あまり一緒の時間は過ごせない。今日はとてもゆっくりできた方だ。触れられる時には貪欲に求めたい。求めてももらいたい。
 ゆっくりと唇を堪能して、慣れた匂いを吸い込んで、離れがたいけれど腕の力を緩める。
「もう行かなければいけないのではないのか」
「まだ平気だ。あと……五分だけ……」
 ねだられて、それならばと唇を覆う。朝にしては濃密なキスで五分間、共に過ごす。心音と体温とマイナスイオンを感じて、たっぷりと恋人を味わった。
「ん、じゃあ、もう行くぜ。また夜にな」
「ああ、気をつけて行くといい、跡部」
 濡れた唇を指先で色っぽく拭って、跡部は玄関のドアを開ける。出ていく直前に見た「跡部景吾」の顔つきは、まるで別人のようだった。


お題:リライト様 /「あと……五分だけ」
#お題 #両想い #未来設定

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別に好きなんて言った覚えないけどね

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.28

#お題 #両想い

「二人って、付き合ってるの?」 何かと一緒にいるよねと続けるのは、不二だ。合宿所の食堂で、いきなり何…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

別に好きなんて言った覚えないけどね

「二人って、付き合ってるの?」
 何かと一緒にいるよねと続けるのは、不二だ。合宿所の食堂で、いきなり何を言い出すかと思えば。
 訊ねられた手塚と跡部は、互いに顔を見合わせた。そうして同時に、不二に向き直る。
「まあ世間じゃそういうことになるのかもしれねえな」
「そうだな、恋人といっていい間柄だとは思う」
 頷き、答えてやる。
「え」とそこかしこから驚嘆の声が聞こえてきた。あれだけ騒がしかったのに、聞き耳を立てていた連中が多いのだろう。
「へえ、あっさり認めるんだね。英二、やっぱりボクの勝ちだよ」
「なんだと」
 満足げに振り向く先に、菊丸の姿。勝ちとはどういうことだと、跡部が眉間に皺を寄せる
「え~、俺絶対否定すると思ったのににゃ~。もー、手塚め~。ほい不二、約束の」
「おい菊丸」
 まさか賭けをしていたのではないだろうなと、手塚も眉を顰めた。
 だが、菊丸が不二に手渡したのは「本日のデザート」である焼きプリン。
 賭けてはいたのだろうが、なんとも平和的なものだ。しかもここはビュッフェ形式で、デザートコーナーに目を向ければまだまだ本日のデザートは大量にあった。賭けの代償にしてはかなり、弱い。
「何がしてぇんだテメェらは……」
「最近はそういうのが流行っているのか? この程度なら構わないが、絶対に金銭を絡めるんじゃないぞ」
 困ったヤツらだぜと、跡部は紅茶を口に含む。手塚も、味噌汁の椀を持ち上げた。
「ねえ、君たちって食の好みも合ってないけど、大丈夫なの? そもそもどっちから告白したのかな」
「あ、それ気になる~。俺はね~跡べーからかなって思ってんだけど」
「いや、手塚からってのも有りだと思うよ、英二。割と強引だしね」
 不二も菊丸も、食事のトレーを手塚たちと同じテーブルに置いてしまう。相席を断るつもりはないが、話題は妙な方向に行ってしまってありがたくない。
 男子中学生ともなれば、誰と誰が付き合った、別れた、なんて話は興味津々なのだろう。それは分かるが、自分たちをやり玉に挙げられるとは思っていなかった。
「俺は別に手塚に好きだなんて言った覚えはねえ」
 跡部は腕を組んで椅子の背にもたれ、ふんと鼻を鳴らす。それには、「ええーっ」と菊丸が不満そうな声を上げた。また予想が外れたのが悔しいようだ。隣で、不二が満足げに笑っている。だがしかし、
「それは俺もだな。跡部に好きだとは一度も言っていない」
 それを崩したのは、手塚の言葉だった。うっかり驚きで開眼してしまった不二が、手塚を見て、跡部を見る。どういうことなのかと、次に菊丸と顔を見合わせた。
「えっと……? つまりお互い、告白はしてないってこと?」
「そうなるな」
「なんでそれで成り立つの」
 信じられないというような菊丸の声に、手塚はなんのためらいもなく肯定を返す。跡部もさして気にしたふうもなく、それは事実なのだと不二を驚かせた。
「そんなもん、言わなくても分かるだろ。手塚が俺様にベタ惚れだってのは」
「跡部の方が分かりやすいと思うが。どう見ても俺のことが好き過ぎだろう」
「フッ……まあそれには違いねえがな」
 視線をひとつ、交わす。それでお互いが満足した。
 言葉が必要ないという関係も世界にはたくさんあるだろうが、まさかここでそんなロマンスを繰り広げられるとは思っていなかった。
 不二たちは、自分たちから首を突っ込んだにもかかわらず、がっくりと脱力して、もう何も訊く気にならなかった。
「なんだ、もういいのか?」
「モウイイデス……」
「からかうつもりじゃなかったんだけどね……なんだか返り討ちに遭った気分だよ」
 二人して、ため息を吐く。根性ねえなと笑う跡部と、煽るなとたしなめる手塚と。
「それにしたって手塚、たまには言葉で愛を囁いたっていいんだぜ」
「そっくりそのまま返してやる。お前が望むのならば努力はするが、あまり期待はしないでほしい」
「ん、じゃあ練習するかよ。今夜、二人でな」
「そうだな、慣れないことをするのだから、練習というのは有効だろう」
 そんなことを言い合う間中ずっと、二人は見つめ合ったままだった。これでは確かに言葉など必要ないだろうと、周りは全員顔を背けてやる。
 今夜いったいどんな状況でどんな練習をするのだと、心の中で叫びながらも。



お題:リライト様 /別に好きなんて言った覚えないけどね
#お題 #両想い

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……もし、今、……すぐ会いたいって言ったら

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.27

#お題 #両想い

 同じ都内に住んでいるとはいえ、恋人とは学校が違う。同じ中学に通っていれば平日には毎日逢うことができ…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

……もし、今、……すぐ会いたいって言ったら


 同じ都内に住んでいるとはいえ、恋人とは学校が違う。同じ中学に通っていれば平日には毎日逢うことができるのに、寂しい。もっとも、違う学校に通っているからこそ好敵手として対峙し、全力でぶつかり合って互いを高めあっていけるというのもあるのだが。
「その日は俺が空いてねえな。校内の企画が大詰めなんだ」
『そうか、残念だ……』
 電話の向こうで、わずかに沈んだ声が聞こえる。その声にまた切なくなって、胸が締め付けられた。恋人である手塚は、あまり感情を表に出さない。顔にさえ出なくて、周りの連中はそろって「手塚は分かりづらい」と言っている。跡部も最初はそうだったが、最近は分かるようになってきた。嬉しいらしい時の瞬きの仕方、楽しそうな時の指先の行方、安堵した時の吐息の動向。眉間のしわの深さは不満度の表れで、声の浮き沈みもそのまま浮かれ具合と沈み具合だ。
 しばらく逢えないのを本当に残念に思っているようで、胸をかきむしりたいほどの愛しさに駆られる。
 好きだと言ったのは跡部が先だが、間を置かずに「俺もだ」と返してきた手塚とは、どうやら同じタイミングで恋に落ちたらしい。
 どちらがどれだけ気持ちが大きいかなんて野暮なことを言うつもりはさらさらない。自分の方が大きいと思っても、こうして同じにされてしまう。
「手塚、お前氷帝に転入しろ。そうすりゃ逢うのもたやすいぜ」
『そんなことできるわけがないだろう、この時期に。それを言うならお前が青学に来い』
 時期がおかしくなければしていたのかと突っ込みたくなる。しかし跡部の方も3年生のこんな時期に転校などできやしない。
「じゃあ、家を出たら向こうで一緒に暮らすかよ? 行くんだろ、ドイツ」
 手塚が息を呑んだらしいのが伝わってくる。互いにあまり話題に出さないようにしているが、手塚は中学を卒業したらドイツに行く。テニスをしにだ。もちろん遊びで行くわけではない。プロになるためだ。
 それは実に喜ばしいことで、無二のライバルとしては背中を押してやりたい。恋人としては……寂しいが、笑って送り出してやりたい。
 しかし、送り出してそのままでいるわけにはいかなかった。手塚がプロになるのを静かに応援しているような男ではない。
『一緒に、というのは……』
「お互いプロになってからの方が楽かもな。互いの拠点に家買って、シーズン中にはそこで過ごすってのもアリだぜ」
『…………そうか、……楽しみだ』
 お互いがプロになってからという言葉を、手塚は理解してくれたようだ。静かで抑揚がないように思える声音にも、安堵が混じっている。深く頷くような速度は嬉しさを纏っていて、跡部の方こそ安堵した。
 テニスというスポーツで出逢って恋をした自分たちの間に、それは死ぬまで在り続ける。ずっと先に現役を引退したとしても、白髪の老人になった後にも、手塚国光と跡部景吾の間には、黄色いボールが飛ぶのだ。
『ベッドは一つで構わないだろうか』
「ケンカした時どーすんだよ」
『ベッドに入るまでに仲直りすれば問題ない』
 あまりに当然のことのように言われて、跡部は思わず噴き出した。ケンカをしなければいいと言うのではなく、ケンカをしても仲直りする期限を設けるとは。
 その発想には至らず、改めて相手が自分とは違う思考を持った人間なのだと実感させられる。そして、よく理解してくれていると嬉しくもなる。
 手塚とケンカはしたくないが、それこそ別々の人間だ。意見が合わないことだって多々あるだろう。
 その際不満を持たずにいられるかと訊かれたら、悩む。いくら惚れた相手だからといって、すべてを肯定するわけではないのだ。
 それでもいいと手塚は言ってくれている。自分もそうなのだからと。別々の魂だからこそ惹かれるし、別々の体だから触れ合うことだってできる。
 そういった考えを持つ手塚を、本当に好ましく思う。
「なあ手塚」
『なんだ』
「好きだぜ、……っていうより、愛している。俺が生涯をかけるに値するのは、この世界でお前しかいねえ」
 この歳で、愛しているなんてそんな大それた言葉を吐くことになるとは、思わなかった。言わせたのは、手塚だ。本当に憎たらしくて、愛おしい。
『……お前はどうしてそう……予告なしにたまらないことを言うんだ』
「しかたねえだろ、言いたくなったんだから」
『こらえ性がないな』
「うるせえな、悪いのかよ」
 言った傍からケンカに発展してしまいそうだ。今はまだ、一緒に眠るためのベッドはないというのに。この電話を終える前までには、仲直りとやらをしなければならない。
『いや、嬉しい。それに、言いたくなったから言ったというのならば、俺も堪えずに言いたいことがある』
 ひどく真面目くさった声が聞こえてくる。きっと電話の向こうでは、ひどく真面目くさった顔をしているのだろう。
 見たかったなという気持ちを今度は抑えて、「なんだよ」と促してみた。
『……もし、今、……すぐに逢いたいって言ったら、どうする』
 慎重に言葉を選んでいるようなゆっくりとしたスピードで、手塚は「言いたいこと」を告げてくる。すぐ、とその言葉をなぞって、跡部は部屋の時計を振り向いた。時刻はまもなく0時を指す。公共機関は終わりに向かっていて、今からではとてもじゃないが間に合わない。
 だが、逢いたいと言ってくれたのだ。しばらくまともに逢えないことが分かっている今、手塚が逢いたいと望んでくれた。跡部は開いていた文書ファイルを保存して閉じ、チェアから腰を上げる。
「そっち行く。待ってろ」
『来てくれるのか』
「俺だってお前に逢いてえんだよ」
 こんなことなら、もっと早く素直になっておけばよかったと思う。端末をスピーカーに切り替え、跡部はローブを脱ぎ捨てる。使用人にこれから出掛ける旨を伝え、車を用意してもらった。
「プロになったら、忙しさは今の比じゃねえかもな、手塚。いい予行演習だ」
「車を出させられるそちらの使用人にしてみたら、迷惑なことこの上ないだろうな』
「今度丁寧にねぎらってやるぜ。俺は今、お前のわがまま聞くのが最重要事項だからな」
『わがままか。そうだな、せいぜい甘やかしてくれ、跡部』
 着替えて、髪を梳かし、部屋を出る。通話は保ったまま、跡部は車のリアシートに体を預けた。跡部のわがままを嬉しそうに受け入れる執事に見送られるままに、運転手に行き先を告げるのだった。



お題:リライト様 /「……もし、今、……すぐ会いたいって言ったら」
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