- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.68, No.67, No.66, No.65, No.64, No.63, No.62[7件]
Shooting Star-010-
「もー、スガタくんってば最近つきあい悪いんだからなぁー」
街のショッピングモールで、ワコはそう言ってぷぅと頬を膨らませた。
「前はよく一緒に来てたんだ?」
「そう、服見立ててくれたりしたんだけど。最近は用事があるって、つきあってくれないし」
いっそそこらの恋人よりも恋人らしい。本当につきあっていないのかと、タクトは訊ねてみたくもなるが、ふるふると首を振った。
演技で自分とつきあっている間、ワコとスガタがそんな素振りを見せたことは一度もないし、メールだってやりとりしている風には見えなかった。
目に見えて、大事にしているのが分かるのに。
「はは、勉強とか」
「スガタくんが?」
「…………ない、よね」
授業を聞いているだけで充分だ、なんて言っている彼が、休日にまで自主的な勉強をするとは思えない。
「一緒にくればよかったのにね」
「そうだね、こんなに美味しいフランクフルト逃すなんて、スガタもバカだなぁー」
フードコートにあったカリッカリのフランクフルトにかじりつき、タクトは久しぶりに緊張のないデートというものを楽しんだ。
「今日ね、フードコートにさ、フランクフルト売ってるとこがあってね」
『ワコが三本くらい食べたんだろう?』
「すげえ、なんで分かんの?」
携帯電話越しに聞こえるスガタの声に、タクトは目を閉じて聞き入る。
最初こそ緊張したものの、電話をするという恋人同士としてのごく普通のやりとりは、タクトにとっていまや重要なものとなっていた。
『ワコの食欲は、普通の倍くらいだからね』
花より団子だよねと、悪意でなく同意を返す。
機械を通したスガタの声の、なんと心地よいことか。特に用があってかけるわけではないのに、話したいことはあとからあとから降ってわいてくる。
『タクト、ワコが好きなら、僕に遠慮することないんだぞ』
そして時たま出てくる、この話題。どうやらスガタは、タクトがワコを好きだと思っているらしく、折に触れては持ちかけてくるのだ。
「……ねえスガタ、僕は今きみの恋人なんだよ。それ分かってて、そういうこと言うかなあ、意地悪」
楽しい?と責めてみると、向こうからは笑い声が返ってくる。タクトにしてみれば笑い事じゃないだろうが、スガタにはおかしかった。以前ワコにも同じようなことを言われたからだ。
『ごめんもう言わないよ』
「それ言うのこれで三回目だよ。スガタのもう言わないは信用できない」
『……どうすれば機嫌直る? 僕もこういうことは慣れてないって言っただろ』
「べっ、別にそんなに本気で怒ってるわけじゃ……ないから…!」
どうすれば、なんて訊かれてもタクトだって困ってしまう。そんなつもりで言ったわけじゃない。そう返してから、しまったと思った。
―言ってもらえばよかったな。好きって……演技でいいから。
そうすれば機嫌なんて一発でよくなってしまうだろう。そのあとどんなに悔やむことになっても。
「あっ、あのさスガタ!」
『うん?』
芝居なんだからいいじゃないか、と何度も何度も自分に言い訳をして、タクトは椅子の上に正座した。
「あの、さ…………す、……」
『……す?』
言ってくれと願えばきっと彼は言ってくれるはずだ。恋人として。
「す…………」
たとえばタクト自身が言ってしまっても、きっと同じように好きだと返してくれるだろう。それが恋人同士のやりとりであるのだから。
「―っ…す」
好き、と言おうとしたその瞬間、ポーンと寮内放送が鳴って心が折れる。
「…………ごめん何でもない、もう消灯時間だ」
『…ああ、もうそんな時間か…。また長いこと話し込んだもんだな』
「明日も早いの? ごめんこんな時間まで」
時計を見れば二十三時。
素直に消灯して眠りにつく生徒がどれだけいるのだろうとは思うが、一応の規則である。スガタの声を聞いたあとなら、安眠できるだろう。
『いつもと変わらないよ。今日はつきあってやれなかったからな、こっちこそすまない』
「また明日、メールとかしてもいい?」
『ああ。おやすみタクト』
「……おやすみ、スガタ」
ゆっくりと、名残惜しく思いながらも通話を打ち切る。
タクトはデスクに突っ伏して、逸る心臓をどうにか押さえ込んだ。
普通に話せた、と息を吐く。
あんなことのあったあとに、いつもと変わらない素振りができるなんて自分も相当神経が図太いなと、思わないでもない。
「好きって……言えばよかった……」
はあーと大きなため息をついて、それでも今日もいちばん最後にスガタの声が聞けたと、口元が緩んでしまう。
この幸福な気持ちのままで眠ってしまおうと、昨夜はベッドの上で絡んだ指をぎゅうっと握りしめて、寝転んだ。
―好きって……言うのかと思った。
通話の切れた携帯電話を見下ろして、スガタはひとつ瞬きをする。だけどそう思っておいて、ふるふると首を振った。
タクトがそれを言う必要性がどこにもない。
興味本位の延長にあるゲームで、そこまで徹底して恋人を演じる必要なんかない。
ムードを盛り上げる為ならまだしも、電話でなんて。ましてそんな言葉を言ったって自分たちには何の関係もないのだ。
雰囲気に流されただけだとしても、そんな流れはなかったはず。
―そろそろ潮時なのかな。
いつまでもこんな遊びを続けていられるはずもない。過ちを犯したあとというのが何とも示しがつかないが、
「続けるつもりがあるなら謝るな、……か。よく言ったものだな」
スガタは苦笑して、定位置のクレードルに据えた。
愛しているとか好きだとか、そんなもの自分たちには必要ないと思いつつ、昨夜タクトを抱いたベッドで、今夜はひとり、眠った。
#STARDRIVER-輝きのタクト- #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク #ウェブ再録
Shooting Star-009-
「タクトくん、昨日も泊まったんだ? ほんと毎週だよね」
こちらも毎週のように朝食を食べにくるワコが、カリカリのウインナーをほおばりながらタクトに声をかけた。
「ワコこそ、また来てたのか。スガタ、お風呂ありがと」
「先に食べてるけど、いいよな」
「ん」
まだ少し濡れた髪を構いもせずに、タクトは定位置になってしまった椅子に座った。正面にはワコ、右角にはスガタが位置している。
タクトはホッとする。ワコがいてくれるおかげで、スガタもいつもと変わらず話しかけてくれる。スガタを変に意識しないですむ。
スガタとふたりきりにならずにすむ。
タクトはそう思って、目を見開いた。
ジャガーとタイガーがタクトの分の朝食を用意してくれて、ハッとしてありがとうと告げた。
「んん、美味いー」
いつも通りふんわり卵のオムレツ。
だけど心臓が震えて手が震えて、本当は味わってなんかいられなかった。
―おかしい。
スガタとふたりでいたくないなんて、先日までは考えたこともなかったのに。
―なんで……僕……。
いつだってふたりっきりになりたかった。学校でだって、恋人同士のように過ごしたかった。
スガタを嫌いになったわけではない。そんなことができるなら、いっそその方が楽だっただろうに。
スガタが怖いわけでもない。昨夜の彼は激しくても優しかった。
タクトはそんなことばかりを考えて、瞬きもできなくなる。
「タクトくん、どうしたの? 食欲なさげ?」
「えっ、あ、大丈夫だいじょうぶ……ってワコ、僕のご飯!」
手が止まってしまったタクトを不思議に思って、ワコは首を傾げる。食べないんならもらってあげる、とくるみ入りのパンをひょいぱくりと口へと運んでく。
「え、たへふ?」
「いや、いーけどさ」
「タクトくん、ワコ様、おかわりありますから。今持ってきますね」
そんな様子を見かねて、ジャガーは笑いながら食卓を出ていく。タイガーはスガタに紅茶を入れながら、本当に週末がにぎやかになりましたねと笑う。スガタはそれに、そうだねと返し、お決まりになってしまったタクトとワコのやりとりを眺めていた。
また、ツナシ・タクトという人間がわからなくなった。
あの日あの丘で、ゼロ時間の中で拳をぶつけ合って、少しは分かり合えたと想っていた。少なくとも、自分が親友と呼んでいい立場に立ったことは理解できた。
だからこそ、ワコを気に入っているような彼との関係を崩したくなかったのに、それは彼の方から崩された。恋人を演じてみてくれと言った彼を、どうすればよかったのかいまだに分からない。
興味本位と答えて、始まったのはままごとみたいなつきあいだったのに。
きっかけは何だったのだろう。
ああ、そうだ、劇団夜間飛行の演目だ。
演技でさえキスできるじゃないかと最初になじったのは、スガタだったように思う。それに対抗するように答えてきたのはタクトで、スガタはそこで自嘲気味に笑った。
―挑発したのは僕の方か。
「今度はスガタくんが元気ない。どーしたのふたりそろってもー」
「そんなことないよワコ。少し寝不足なだけで」
沈みかけた思考を遮ってくれるワコの声に、スガタは顔を上げて笑ってみせる。タクトが、逆に目を瞠った。
「本当に~?」
疑わしげな視線を向けるワコに、スガタは形無しだ。本当だよとホールドアップの真似までして、寝不足以外いつもと変わりないと主張した。
「本当だよワコ、昨日僕さあ、スガタの部屋で話しこんじゃって、お互い寝たの遅かったんだよね」
申し訳なさそうにハハハと笑いながら、タクトなりのフォローを入れる。
「ああ、だからタクトくんも眠そうなのか。いいなあ男同士って。楽しそう」
「ワコだってルリちゃんいるでしょ」
まあねとワコは笑う。親友同士でやりとりする事柄など、彼女の方こそよく分かっているだろう。
タクトは女の子ってどんな話しするのと訊ねながらも、心はずっとスガタの方に向いていた。胸がズキズキと痛む。
―スガタ……。
正直言って落ち込んだ。スガタにあんな顔をさせているなんて、ワコが声をかけるまで気づいていなかった。
いちばん初めに気づいていたいのに、自分のことで精一杯だった自分をなじりたい。
きっと後悔しているのは向こうだって同じだろう。演技で男なんか抱いてしまって、格好も付かない。
「へえ、女の子ってそんなことばっかなんだ」
「普通だよ、好きな男の子の話なんて。特にルリはそういうチェック早いから」
「ワコは、好きな人いるの?」
「えっ」
ため息混じりに呟くワコに、スガタは意地の悪そうな笑顔で横ヤリを入れた。
途端に真っ赤に染まるワコの頬。そういうこと聞くかなあとワコの声に、タクトの心の声も重なる。
ワコはスガタの許嫁で、スガタはワコの許嫁。しきたりとはいえ、ふたりがお互いを想っていることなんてすぐにわかるのに。
「ワコ、恋愛は自由だよ。ワコが僕との結婚イヤじゃないならそりゃ、光栄だけど」
「よく言うわねー」
責めるようなワコの視線が、スガタに突き刺さる。もっとはっきりしてほしいという意思表示なのか、心にもないことをという責めなのか。
スガタは肩を竦めただけで、それ以上は何も答えなかった。
「ごちそうさま。ねえ今日三人で街の方行こうよ」
それを別段気にする風でもなく、ワコは空になった皿の前で手を合わせた。いつもながら見事な食いっぷりだ。
「いや、僕はいいよ、やることあるし。二人で行ってくるといい」
「え、そうなの?」
なんだぁ…とワコは残念そうに眉を下げる。そして、タクトも。
顔を合わせづらいのは分かるけれど、そんなにまであからさまにしなくてもいいじゃないかと、少しばかりスガタを責めてみた。
「じゃあタクトくん、今日はデートね」
「―喜んで」
ぱっと表情を変えるワコに、それでもタクトは笑い返す。可愛いなあと、素直に思う瞬間だった。
食堂を出たところで、ようやくスガタと視線が重なって、タクトは極力気にしていない素振りを装った。
「ねえスガタ、昨日は……」
「言うな、タクト」
だけど、ごめんと言いかけた言葉はスガタに止められる。
やっぱり怒ってるんだと俯くと、
「まだ続けるつもりがあるなら、謝る方がおかしいだろ。僕たちはあの時、恋人だったんだ」
思っていたこととは違う言葉が飛んできて、思わず顔を上げた。
「ス、スガタ……?」
まだ続けてくれるつもりでいたのか、と頭の中が整理しきれない。謝るなと言う彼は、あの時の自分たちの行為が間違っていたことだと位置づけてはいないようだ。
謝る、それはすなわち、恋人同士の合意の行為ではなかったということになってしまう。
「……うん、分かった」
イコール、終わりになってしまう。
身勝手でもひどくても、スガタの傍にいたかった。
「今度また、デートしようなスガタ」
「……そうだな、楽しみにしておくよ」
何でもないようにタクトは笑顔で告げて、ワコのあとを追う。スガタも、恋人の顔でそれを見送ってやった。
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Shooting Star-006-
「どうした、タクト」
家の前で声をかけられて、タクトは顔を上げた。
くせになってしまっているのか、週末はスガタの家に行くようになった足が、その道のりをいつの間にかたどっていた。
「さっきからずっと、僕の話を聞いていない」
「えっ、……あ、ごめん、何だった?」
学校からここまで、何も耳に入らなかったのだ。隣にスガタがいることさえ、認識できていたかどうか。
大事な話だったらどうしよう、とタクトは焦りながらも、家の中へ招き入れてくれるスガタに続いた。
「いや、別に……明日はどうするのかと思って。恋人同士のデートとやらを楽しむのか、友人として剣の稽古に励むのか」
つまらなそうな声音は、いつもより冷たい空気をまとっている。
「まあもっとも、今のお前じゃ稽古つけてやる気にもならないけどな」
ぴりぴりとした空気が、タクトを不安にさせる。今のスガタは、演じている【恋人】だろうか、それとも本当の【親友】だろうか。
「スガタ、僕って君のなに?」
廊下に声が響く。
こんなことを訊くべきじゃない。スガタの答えは分かりきっていて、
「恋人だろう?」
そう言わせているのは自分だと知っていて、胸が痛む。
悔しくて胃がぐるぐると回る。スガタは悪くない、ただ頼まれた役を演じているに過ぎないのだ。タクトに責める資格はないのに、
「だったらもっとそれらしくしてよ!!」
吐き出したあとはもう、止まらなかった。
「タクト?」
「そんな当たり前みたいに恋人だっていうなら、ミズノちゃんとのキスシーンに平然とするな馬鹿スガタ!」
学校で、それと分かる振る舞いはしないというルールはあったはずだ。
だから、スガタが眉をぴくりとも動かさなかったことを、責めることなんてできないのに。
「イヤならすることないとか、ワコみたいにシーン変えられないかとか、言ってくれてもいいじゃないか!」
「僕にどこまで求めるんだタクト。部長だってあのシーンは削れないって言っていたし、お前は演技でキスなんてぜんぜん平気だろう?」
振り向いてもくれない背中に、涙がこぼれる。
本当の恋人同士だったら、きっと何か言ってくれた。演じている状態だったとしても、完璧を求めるならそうしてくれただろう。
「僕とだって、平気でキスしているじゃないか」
「だって、スガタとはっ……!」
次の言葉は紡ぐことができなかった。
「んっ……」
振り向いたスガタに腕を引かれ、肩が壁にぶつかる。それでも痛みより前に、彼の口唇を認識した。
強引に入り込んでくる舌先から逃れたいのに、心だけが全部スガタに向かっていく。隙間なく埋め尽くされた口唇を、受け入れる以外に何ができただろう。
「ん……ふっ」
スガタの髪が頬を流れていく。指先が喉を撫でて、手のひらが肩を包む。
まるで恋人同士のキス、だ。
「……ほら、抵抗もせずに」
スガタは離したあとの口唇を親指でぐいと拭い、目を細める。
あからさまに軽蔑したような視線に、タクトの心臓がズキンと痛んだ。
「ス、スガタだってこれ、演技だろ? 平気なんだよね、こんなこと!」
「僕は今……お前の恋人だからな」
役の上ならなんとでもなるさと、背を向けかけるスガタに、タクトは思わず叫ぶ。
「だったら抱いてみせろよ!」
スガタが、目を見開いて振り返る。ためた涙を、タクトはどうにか我慢した。
「な……にを、言ってる?」
「恋人っていうなら、演技ならどうとでもなるっていうなら、僕を抱くことだってできるんだろ!?」
完全に勢い、だった。
演技ということを強調するスガタが憎らしくて、そんな風にしか触れられない自分が憎らしくて、悲しくて悔しかった。
もっと別の方法があったかもしれない。
もっと違う出逢い方があったかもしれない。
「できないっていうなら、僕だけ責めるなよ!」
こんな方法でしか、スガタをつなぎ止めていられない自分が、愚かしくて浅ましくて、だけど他にどうしようもなかった。
「タクト、お前自分が何を言っているのか、理解しているのか?」
バカらしい、と止めてくれるのはスガタしかいない。
言葉ででも、打ち付けてでも止めてほしかった。
だけど、
「抱かないの? それとも、抱けないの?」
スガタに触れたいのも、本当だった。
安い挑発に乗るような男ではないと思っている。今だって、責めるような鋭い瞳が目の前にあるだけだ。それさえも心地良いと思ってしまうあたり、本当におぼれているのだと思うけれど。
「スガタっ?」
手首を取られて、強く引かれる。体が引っ張られて、歩きだした彼の後をついていくしかなかった。
「スガタ」
「来いよタクト。抱いてやる」
苛立つスガタの声に、ビクリと肩を震わせて、ついで頬を赤らめた。そんな台詞が似合う男も、そうそういないだろうなと。
スガタの部屋が近づいてきて、タクトは今さらながらにハッとする。
本当に、するのか。
言い出したのは確かにタクトの方だが、そうなった後のことはまるで考えていなかった。
「わっ」
部屋についたと思ったら乱暴にベッドに放られて、思わず声が上がる。軋んだベッドのスプリングに、顔の熱が上がった。
「スガタ、ちょ、ちょっと待って」
「今さら待ったはなしだ、タクト」
お前が言い出したことだろう、と付け加えられてぐっと言葉に詰まる。それは確かにそうなのだが、どうすればいいのか分からない。
スガタに任せていればいいのか、自分からも何かした方がいいのか。
「ねえ、僕たち今、恋人同士なんだよね」
「そうだな」
言いながらしゅっとネクタイを引き抜くスガタを、タクトはもっと見たいと思ったか、それとも恐れたか。
ベッドの上に片腕で状態を支え、できるだけ挑発するような口調で、告げてやった。
「恋人同士の初めてくらい、優しくしてくれよ」
そう言って、自分もネクタイの結び目に指をかけてみせる。
自分でほどこうとしたタクトの手を止めて、スガタはゆっくりと引き抜いていく。布がこすれる音が耳に響いて、トクトクと心臓が鳴った。
指が震えていたのには気づかれなかっただろうか。視線はちゃんと、挑発的になっていただろうか。
「タクト、目。閉じろ」
「……うん」
タイを抜いて、用はないと興味をなくされたそれは、ベッドのどこかに放られる。だけど、スガタの口唇が眼前に迫るタクトには、そんなこと気にしていられなかった。
そうして触れる口唇は、今までのどのキスよりも優しくて…激しかった。
「んっ……、スガ……」
顎を掴まれて、ぐいと奥まで入り込んでくるスガタの舌。口唇が離れた隙にせめて名を呼ぼうとするのに、そんな暇もない。
いつの間にか背中に感じるシーツの感触も、熱いキスに意識を持っていかれて、あやふやなものに変わる。
「んん……っふぁ」
舌の表と裏を合わせるような濃密なキスが、タクトの思考を邪魔していく。
本当はもっと、スガタのことを考えていたいのに。
本当はもっと、スガタに触れていたいのに。
呼吸さえ奪っていきそうなキスが、それを阻む。舐られ、吸い上げられ、押しつけられて意識が朦朧としてくる。
酸欠のためか、それ以上の快楽からか、鼻から抜けていくタクトの喘ぎはくぐもる。
スガタの手が両頬を包み、被さるように落とされる口づけに、タクトの胸は跳ね上がるばかり。
「はぁっ……あ」
口の端からこぼれた唾液を舌先で舐めとって、スガタの口唇はようやく移動していく。喉を舐め上げられて、タクトは思わず声を立てた。
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Shooting Star-005-
メールと電話という手段を得てからは、校内での接触が少なくなったように思う。
おはようと、お昼食べようと、部活行こうと、バイバイじゃあまた明日。
友人同士の当たり前の日常が、そこにある。
だけど休み時間になると、携帯電話が気になってしまう。
同じ教室で授業を受けているのだから、メールの送受信なんてしていないと分かっているのに、気持ちがそわそわして仕方がなかった。
おはよう。授業中に居眠りするなよ。さっきまで道場で稽古してたよ。お前は? ああ、おやすみ。
メールの受信ボックスが、スガタで埋まっていく。フォルダに分けて保護設定しようかと思うが、全部の保護をしたくて追いつかない。
「スガタ、スガタ。あのさ、この間言ってたCD持って来たんだけど」
「借りてっていいのか? 早めに返すよ」
「あっ、ねえタクトくん、次私にも貸してよ」
「うんいいよ」
いつものように三人で、演劇部の部室に向かう。変わりない、日常だ。
相変わらず綺羅星十字団も戦いを仕掛けてくるし、学生の本分であるここではテストなんかもあるし、まさに青春だ、とタクトは思う。
恋人と言い切れはしないけれど、大事な人も傍にいてくれる。
これ以上を望んだら、きっとバチが当たってしまうだろう。
「ねえワコは南方神起の全部持ってるんだっけ?」
「あっ、うん、貸そうか?」
「セカンドアルバム聴いたことないんだ。今度貸してよ」
うんいいよーなどと快く笑うワコと、ワコは購入特典とか全部持ってるほどだからねと笑うスガタ。いいじゃない、と頬を膨らませる可愛らしい少女と、三人で部室へと入った、途端。
「あっ、タクトくんタクトくん! あのね聞いて!」
最近入部した、二組のヨウ・ミズノが綺麗な青い瞳をきらきらと輝かせて走り寄ってきた。
「ミ、ミズノちゃん今日も元気そ……」
「今度の劇でね、私とタクトくんのちゅーがあるんだよー!」
「―え?」
言われた言葉の意味がすぐには理解できずに、タクトの目が瞬かれる。
「ちょっ……ちゅーって、キスシーンてこと!?」
最初に声を上げたのはワコだった。
「うんっ、そーなのワコちゃん! ほら脚本ー」
ミズノが差し出してきた脚本とやらをひったくり、ワコは中身を確認していく。ピタリと手が止まったその箇所に、書かれてあるのだろうか。
タクトと、ミズノのキスシーン。
息を止めたままのワコを眺め、タクトはようやく事態を把握した。
―本当にあるんだ。
「ね、ねえ部長、これっ……本当にするの?」
「そーだよ。配役も決まってる」
しれっと何でもないように言い放つ、エンドウ・サリナ。ふふーと嬉しそうに笑うミズノ。興味津々で目を輝かせるジャガーとタイガー。
タクトは、ちらりとスガタを見やる。
見なければよかったと、あとになって悔やんだ。
―スガタには、何でもないことなんだ。
それこそ何でもないように、ワコが放り出した脚本をぱらぱらとめくっている。その指先には迷いも何もなく、視線も揺らいでない。
演技とはいえ恋人のキスシーンを聞いても、スガタは何とも思わない。
ズキンズキンと心臓が痛んだ。
泣き出したいのを必死で抑えて、無理に笑ってみせた。
「ミズノちゃんは、いいの? 僕なんかと」
「私はヘーキッ! だってタクトくん好きだもん」
「へ? そ、そう? ありがとう」
どさくさ紛れの告白に、はははと笑うタクト。それを面白くなさそうに眺めるワコの眉間に、しわが寄った。
「ねえ部長、このシーンて変えられないの?」
「無ー理。そこがヤマなんだもん、そこ抜かしたら全部書き直しだよ」
練習もしなきゃならないんだから、あまり時間はないと続けるサリナに、ワコは俯く。
「自分が相手役じゃないからって、ひがまなーい」
「……はぁっ? ちょ、違う違うそういう意味じゃなくて!」
どう誤解したのか、ため息混じりに呟いたサリナにワコは慌てる。顔が真っ赤なのは、きっと条件反射というものだろう。
「モテモテですね、タクトくん」
ジャガーが笑いながら話しかけてくるけれど、どう返していいか分からずに、タクトははははと笑うしかできなかった。
普通の男子高校生であれば、こんなシチュエーションは心躍るだろう。可愛らしい少女たちが、自分に好意を寄せてくれているかもしれないなんて。
だけどタクトには、好きな人がいる。叶いそうもない恋は、現実逃避もできないほどに苦しくて、気分が沈んだ。
明日の休み、一緒に街へ行こう?と打ったメールは、送信されないままタクトの携帯電話に残っていた。
#STARDRIVER-輝きのタクト- #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク #ウェブ再録
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タクトくんがおかしい。
そう呟いたワコの声は、同じ球体に入っているスガタにも聞こえたはずだ。
だが彼は、同意を返すでもフォローを返すでもなく、ただじっとその光景を見下ろしていた。
ここ、ゼロ時間が発動した空間の中では、まさに時間など関係ない。外界とはいっさいを切り離し、特殊な時の流れを作り出している。
現在はこの中でしかサイバディは活動できず、外界への被害はない。
しかし封印が解かれてしまえば、外の世界でもここと同様の活動ができる。だが、そんなことになったら人類の混乱は想像に易い。
敵のサイバディは僕が全部破壊する。
そう言いきったタクトの潔さが、スガタには眩しかった。
自分の好きなように戦って、ワコを守り、解放する。
それができる、タクトのサイバディ・タウバーン。他のサイバディとは違う種類のものだ。
エムロードとサフィールの二本を、いつもならほれぼれするほど綺麗に捌くのに、今日はどうしたことだろう。
「切っ先に迷いがあるな」
「あのサイバディ、イヤな予感しかしないの、どうしようスガタくんっ…」
「何を考えている、タクト……!!」
スガタは目を細める。特徴的な、大きな瞳らしきものを持つサイバディは、その覚醒と同時にコントロールを失い無作為に攻撃を仕掛けてきている。先ほどは味方であるはずの綺羅星十字団にまで飛び火したほどだ。
あの不可解な動きは、乗り込んでいるドライバーにさえ制御できていない証拠。以前、ページェントのドライバーを抑えこんだスガタのリビドーなどとは全く違う。
「あっ…!」
ワコが息を飲んで声を上げる。タクトの乗るタウバーンが、敵のサイバディ・アインゴットに掴みかかられて倒された。
スガタは衝動を抑えきれず、天に手をかざす。
ワコがスガタを振り向くのと同時に、王の柱が発動される。青白い光の矢が、二体のサイバディをめがけて放たれた。それこそ敵も味方も巻き込みかねない、スガタの横ヤリ。
タクトは、タウの球体の中でハッとする。衝撃で吹き飛ばされたアインゴットを見やり、スガタを降り仰いで俯いた。
―…また…スガタに……っ!
口唇を噛んだその瞬間、声が聞こえる。
タスケテ
「……!?」
頭に直接響くような声だった。ワコの声ではない。戦いを見物している綺羅星の誰かでもない。
タスケテ……!
「まさか……中のドライバー…!?」
外界と切り離されている今、考えられる可能性はその一つのみだった。
「た、助けなきゃ」
タクトは立ち上がり、スターソードを構え直す。敵とはいえ、助けを求めている人を見過ごすわけにはいかない。弱きものを守るのが、ツナシ家の家訓だ。
王からの横ヤリを入れられてもいまだに暴走を続けるアインゴットを、タクトは哀れむように睨みつける。
振りかざしたスターソードは、倒すためでなく助けるためだった。
「豪快、銀河十文字斬り!!」
タウバーンのスターソードが、暴走するアインゴットを斬りつける。動きを止めて崩れていくそれに、スガタもワコもホッと息を吐いた。
そうして、ゼロ時間は終わりを告げる。外界とのリンクが始まって、それぞれ自分のいた場所へ戻っていくのだ。
すっと、モノクロの世界が色づく。タクトの正面にはスガタがいて、スガタの正面にはタクトがいた。
ゼロ時間になる前の状態に戻ったふたりは、まず最初に息を吐いた。
「ごめん、スガタ……」
「なにが」
「僕、今日ちょっと……怖かったんだ」
スガタには見抜かれていただろうなと、タクトは泣きそうになって俯く。得体の知れないサイバディの絡みつくようなオーラが、言いようもないほど恐ろしかったのだ。
「また、スガタに助けられた……っ」
「迷惑か? 言っておくが僕は、お前のためを思ってでなくやることなんて…ひとつもない」
「分かってる、悔しいだけだよ」
王の柱の力を借りないとサイバディのひとつさえ破壊できないのかと、自分の不甲斐なさと劣等感に襲われるだけ。
「スガタ、僕まだ弱い…」
それが悔しい、と俯くタクトを、スガタはそっと抱き寄せる。肩に乗るタクトの頭をゆっくりと撫でて、強張る体を預けさせた。
「そんなこと、知ってる」
「こんなことスガタには言いたくないのに、スガタにしか言いたくない……!」
タクトはあふれそうになる嗚咽をこらえて、ぎゅうっと拳を握る。大事な親友には、大好きな人には、こんなところ見られたくない。だけどその人にしか見せたくない。
「分かってる、タクト。そのままのお前でいいんだ。弱くていい、ワコを裏切りさえしなければ、…たとえば僕を裏切っても」
「はは、何それ」
冗談めかして言い合うけれど、本気を含む声にお互いが気づいている。
「だけど、敵はサイバディの復元技術を手に入れている。今までのようにはいかないぞ」
緊張の解けた体を離したら、スガタの厳しい声が耳に入る。タクトも、眉を寄せてうんと頷いた。
「今日のあのサイバディ……ドライバーの女の子がさ、タスケテって言ってたんだ」
「それが聞こえたのか?」
「うん、だから何がなんでも助けなきゃって、やっと絡みつくオーラから抜け出せたっていうか」
あの子大丈夫かなあと、誰とも分からないドライバーを思う。死ぬようなことはないにしろ、か弱い女の子があんな得体の知れないサイバディに乗って、大丈夫なのだろうか。
「タクト、あんまりワコを心配させるなよ。今日すごくハラハラしてたんだぞ」
「……うん、あとでメールしとく…」
明日また剣の稽古頼むな、と言いかけて、顔にかかる陰に瞬きを忘れた。
「僕も、心配だった」
言うのとほぼ同じ速度で、重なりかける口唇。
だけど、実際には触れ合えなかった。
「ごっ、ごめんスガタ!」
タクトが、反射的にスガタの体を押しやったせいで。タクトはそうしてからハッとして、慌てて弁解した。
「あの、今のはちょっとびっくりして、体が勝手に!」
真っ赤になったあと、タクトは眉を寄せたスガタを目にして青ざめる。
拒むべきじゃなかったのに、時間は戻ってきてくれない。
「ス、スガタ」
「僕も悪かった、驚かせたな」
だけど何でもないようにいつものすました顔で返してくるスガタ。それが逆に不安だった。
「ごめん、怒って……る?」
「別に怒ってない。そんなに気にするなよ」
うん、とタクトは頷くけれど、どこまで信じていいか分からない。
「今日はもう、帰るか?」
「うん、そうする…今日はちょっとキツかったし」
だけどスガタがそう演じるならば、タクトも合わせるほかにない。気まずい空気を打ち破る技術なんて、タクトにはないのだから。
「また…明日な」
「ん、おやすみ」
ひらひらと手を振って、背を向ける。走って寮に向かう途中でも、思うのはやっぱりスガタのことだった。
キスが嫌で拒んだわけではない。あの夜のことを思い出してしまって、心臓が大変なことになるのだ。スガタには気づかれたくない。
自分たちは恋人ごっこで始まって、恋人ごっこで終わらなければいけないのに、こんな気持ち知られたら友人でもいられなくなる。
―苦しい……スガタが全部欲しくて、苦しいよ…!
こんなはずじゃなかった、と口唇を噛んで寮へと一目散に駆けた。
空で星が流れたことにも気がつかないで。
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