- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.648, No.647, No.646, No.645, No.644, No.643, No.642[7件]
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.26
「今、何してんだ?」『ドイツ語の勉強を』 電話の向こうから真面目くさった声が聞こえてきて、跡部はぱち…
膝枕をする
「重くないか?」
「いや、別に」
訊ねられて、跡部は小さく首を振りながらそう答えた。乗っかるのは確かに大の男だが、膝に頭を乗せているだけだ。体のそんな一部分を、重いとは思わない。
「位置、このあたりでいいのかよ。というか、硬くねえか……」
「確かに柔らかくはないが」
だろうなと目を細めるが、手塚の眉間からは皺が消えている。
「だが、心地いい。跡部、少し、このままで……」
「ああ、いいぜ。好きなだけ眠りな」
言いながら、手塚の髪をそっと撫でる。広いソファの上で、跡部の膝を枕に寝そべる手塚など、この先何度拝めることだろう。
少し疲れたなと言う恋人に、ベッドを(ベッド本来の目的で)促してみたが、「そこまでじゃない」とわけの分からないことを言った後に、膝を貸してくれとのたまったのだ。
断る理由もなく、跡部はソファに腰を下ろしてぽんぽんと太腿を叩いて、今に至る。
いわゆる膝枕というヤツか、と手塚の髪を撫でながら状況を把握する。手塚がこんなふうに甘えてくるのは珍しくて、じわじわと照れくささと嬉しさがこみ上げてきた。
あ、と気づく。手塚が眼鏡をしたままでいることに。仰向けの体勢とはいえ、それではリラックスができないだろうと、小さく声をかけた。
「手塚、眼鏡。……外すぞ」
「ん……」
了承のような声が聞こえて、跡部はそっと眼鏡のフレームを掴む。ゆっくりと外して、つるを畳んだ。手を伸ばしてキャスター付きのテーブルを引き寄せ、そこに置く。
ちょうど携帯端末もそこに置いていて、持ち上げた。突然の着信や受信の音で手塚が起きてしまわないようにと、サイレントマナーのモードに変える。
すうすうと規則正しい寝息が聞こえる。呼吸に合わせて腹の辺りが上下するのが見える。相当疲れていたのだろうなと、何度も髪を撫でた。穏やかな眠りでありますようにと祈りながら。
皺のない眉間と下がる目尻を見れば、良質な眠りのようだがと安堵して、口許が緩む。
「……ったく、可愛い寝顔しやがって」
そういえば、手塚の寝顔はあまり見たことがないなと思い出して、視線を泳がせる。二人きりの部屋なのに、周りに誰もいないことを確認するようにキョロキョロと見回した。
そして、こくりと唾を飲み、両手で端末を構える。作動させたのは、カメラ機能。手塚の寝顔をフォーカスして、撮影ボタンをタップした。
二度、三度。
小さくカシャリカシャリとシャッター音が鳴ってしまったが、手塚が起きる気配はなくて安堵した。
何だか重要なミッションを終えたかのように、心臓が大きく波打っている。
写真とはいえ、これでいつでも手塚の寝顔が見られる。
恋人なのだからおかしな行動ではないだろうと、自分に言い訳をした。
それに、跡部はちゃんと知っている。
手塚の端末に、跡部の寝顔を撮った写真が保存されていることを。
お題:リライト様 /膝枕をする
#お題 #両想い
スーパーで買い物
一緒に暮らし始めて、とにかく困ったのは金銭感覚の違いだった。
庶民と財閥の御曹司ではそうなるのも仕方がないが、どこでどう折り合いをつけていけばいいのか、最初は本当に手探り状態で、言い合いも何度だってしてきた。
食費にいくらかけられるかというのは、家庭を持つ上で重要かつ重大なファクターだ。特に、体を資本とするスポーツ選手ならば尚更そこは妥協ができない。
しかし、高い食材であればいいのかといえばそうでもなく、新鮮さと調理のしやすさも大切だと、恋人に何度も説いた。
きちんと話せば理解してくれると分かってから、口下手なりに言葉を選んだつもりだ。
どうして駄目なのか、どちらがより良いのか、どうやって使うか。
元々頭もいいし順応性の高い恋人は、一度理解すると吸収するのは早く、最近では「ポイントカードを使う」というのも覚えたらしい。
「手塚、鶏にするか? それとも魚の方がいいか」
カゴを乗せたカートをカラコロと押しながら、跡部が振り向いてくる。そういえば今日は鍋にするのだったか。メインの肉は何にするか、決めていなかったな。
「そうだな……今日は時間もあるし、つみれを作ってみるか? ネギや生姜を入れて」
「つみれ? 家で作れるもんなのか?」
「簡単だぞ。鰯のつみれにしよう。開きが安い」
コーナーで足を止めて鰯を指すと、跡部は瞬時に新鮮なものを選び抜いてカゴに入れる。
「生姜はまだ冷蔵庫にあったな。あ、ネギがねえ。一昨日使いきっちまった」
跡部が、冷蔵庫の中身まで把握しているというのは正直ありがたいな。俺はそっちの方はあんまり得意じゃないんだ。
ネギと、白菜と、にんじんと、椎茸をカゴに入れる。「手塚ぁ、シメにうどん食べようぜ」
「うどんか。いいな」
いそいそと、うどんのコーナーへ足を向ける跡部。だいぶ染まってきたなと口の端が上がってしまう。そもそも、跡部が低価格のスーパーで食材を買い込むこと自体が、以前からしてみたら考えられないことだが。
必要な食材をカゴに入れて、セルフのレジへと向かう。
時間が時間だからか、少し列ができていたが、さほど待ちはしないだろう。
「あ、忘れてた」
「なんだ?」
「すぐ戻る。並んでろ」
買い忘れがあったようで、跡部が俺に財布を預けて列を抜けていく。
他人に財布を預ける跡部というのがいまだに慣れないが、信頼の証しだと思うとそれは嬉しい。
順番が回ってきてレジにカゴを下ろしたあたりで、跡部が戻ってきた。その手に、小さいくせに値段が高いアイスクリームを二つ手にして。
「おい、跡部」
「たまにはいいだろ。ほら、抹茶のがあったんだぜ」
何もその高いアイスでなくとも、と言い掛けたが、わざわざ俺の好きそうなものまで持ってこられては、どうしようもない。
「しょうがないな。今回だけだぞ」
「ああ、楽しみだぜ」
跡部はそう言って、エコバッグを広げている。そういう姿が可愛いと思ってしまうあたり、俺は生涯コイツに勝てることなどないのだろうとため息を吐いた。
お題:リライト様 /スーパーで買い物
#お題 #両想い #未来設定
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.22
広いバスタブにもかかわらず、跡部はくっついて入りたがる。ついさっきまで、ベッドの中で散々くっついて…
あー……愛されてるって感じ
広いバスタブにもかかわらず、跡部はくっついて入りたがる。ついさっきまで、ベッドの中で散々くっついていたのにだ。
もちろんそれが嫌なわけではない。むしろ跡部に甘えられているようで、気分がいい。
どうにも跡部は、俺を構うというか、甘やかすのが好きらしく、いろいろと面倒を見られてしまっているんだ。
食事のことだったり、テニス関係のことだったり、スケジュールの組み方だったり。それは様々、本当に多岐にわたる。
俺はコイツがいないと生きていけないのではないかと、たまに真剣に考える。いろいろな意味でだ。
幸か不幸か、俺たちは割と早い段階で、パートナーとして最高の相手を見つけてしまった。
テニスに惹かれ、人となりに惹かれ、恋人同士になれて、肌の味も感触も知った。
それなりに長い付き合いになったが、決して飽きることのないこの関係に、俺は感謝している。
だから、跡部が望むのなら好きにさせてやりたい。
一緒に風呂に入りたいという跡部を可愛くも思うし、我が儘にもならないお願い事を、断る気にはならない。
ボディタオルで体を洗ってやるのも、最近は慣れてきた。柔らかな泡で包み、優しく撫でる。
おかしな気分にもなりそうだが、そういう時は大抵気づかれて、何ゲーム目かに突入してしまうのだが。
足の指を洗う時は跡部がひどくくすぐったそうにするのが可愛くて、つい執拗に撫でてしまう。
髪を洗う時はことさら優しく。
俺は自分で思うよりも跡部の髪が好きらしく、傷まないようにと常に思っている。
特に汗をかくことが多いから、手入れは入念にやってほしい。この美しい金糸がシーツに踊る様は、本当にぞくぞくするんだ。そんなことを知っているのは俺だけで充分だが。
シャンプーを流すとき、目を閉じてろと言うと、跡部は素直に上向いて目を閉じる。
それはキスを待っている時の仕種とまるで同じで、俺はついキスをしてしまったことが、何度もある。跡部は、流すんじゃないのかと怒るが、可愛いんだからしょうがないだろう。
それはトリートメントの際も同じだった。
そうして跡部の身を清めてバスタブへと促し、次は自分の体を洗う。
満足げに湯に浸かる跡部を眺めながら、というのは案外に楽しくて、俺もこんな時間は好きだ。
跡部を洗ったものと同じボディソープ、シャンプー、トリートメント。当然跡部と俺は同じ香りに包まれることになって、独占欲も満たされる。
もっとも、自分の中に独占したいなどという感情があったのを知ったのは、跡部と付き合うようになってからだったが。
跡部景吾を実際に独占できるとは思っていないし、跡部の方も、俺を物理的に独占したいなどとは思っていないだろう。
だけどふとした時に、この男は俺のものなのだと感じることがある。独占欲と、優越感が混じった思いがあることを告げた時、気を悪くするかと思ったが、少しもそんなことはなかった。
それで誰かを傷つけるようなことがなければ構わないと、ひどく寛容な心で受け入れられた。不思議に思ったら、俺も同じだからと返されてまた驚いたのを覚えている。
独り占めしたい時は素直に俺だけに言えと、愉快なことも言われた。
「てーづかぁ、早く来いよ。お前を独り占めさせろ」
バスタブの方から、跡部が呼ぶ声がする。
跡部はこうやって、俺だけに独り占めしたいと言ってくる。同じ気持ちだったのだと安堵もして、「少し待て」と答えてやる。
泡を流して、手のひらで申し訳程度に髪の水分を絞る。
跡部に手招かれ、俺も湯船に体を沈めた。温かな湯が、身も心も癒やしてくれる。
そして何より、くっつきたがる恋人の存在が、身も心も満たしていくのだ。
「ん。やっぱ好(い)い男だな」
髪を上げた額に、跡部の唇が押し当てられる。跡部はとても楽しそうで、俺も悪い気はしない。お返しを跡部の頬に贈って、湯船の中で彼の体を抱きしめた。
「今日は薔薇浮かべなくていいのか」
「ああ、このままでいい。お前あれあんまり好きじゃねえだろ」
「まあそうだが、楽しそうなお前を見ているのは好きだ。跡部の好きなようにしたらいい」
肩を撫でれば、跡部が寄りかかってきてキスをねだられる。ちゅっと形のいい唇にキスをして、さらに強く抱きしめた。
「甘やかすなよ」
「俺がいつも言う台詞だな」
「ハハ。でも、今日はこのままでいい。こうやってお前だけ感じていたい」
「可愛いことを言うんじゃない」
すり……と鼻先をすり寄せられて、困る。散々堪能したはずの跡部を、また抱きたくなるだろう。さすがに跡部の体が保たない。無茶はさせられないと、ため息ひとつで情欲の火を消した。
「俺は構わねーが、そうやって気を遣ってくれるのもいいな。あー……愛されてるって感じがするぜ……」
嬉しそうにそう言葉にされて、やっぱり手を出すわけにもいかなくなった。
ひとまず、この大好きな髪にキスをするだけにしておこう。
お題:リライト様 /「あー……、愛されてるって感じ」
#お題 #両想い #未来設定
視線の絡む瞬間に
先に言ったら負けよの続き
そろそろ観念してほしい。
そう思いながらも口には出さずに、意中の相手の隣を歩いた。若干俯きがちなのは、気まずさからだろうか。それとも、あれこれ悩んでいるせいで前を向けないのだろうか。
手塚は、隣を歩く跡部のことが好きだった。
跡部も、隣を歩く手塚のことが好きだった。
ただ、こうして二人で歩いていても、正式に交際をしているわけではない。同じ気持ちを抱えているのは、態度から見ても明らかなのに、どちらも意地のようなもので口にできていない。
〝そっちが先に言え〟
とお互いが思っているせいで、何も進展しないのだ。
とはいえ、一緒に過ごせるのは嬉しい。今日の合同練習の間もずっと傍にいられて、想いはまた募った。
「跡部」
「な、んだよ」
「今日、どうするんだ」
「ど、……う、する? テニス……するか?」
氷帝学園を出てから、あてもなく歩いてしまっている。どこかに寄り道しようと約束はしたものの、どこに寄るのか決めていない。
いつもならテニスコートでラリーを楽しむけれど、それではいつも通りすぎて、また何も変化が起こらないのではないだろうか。
この分かりやすく曖昧な関係に、何かしらの変化が欲しい。
好きな相手を、ちゃんと恋人と呼びたい。
となると、いつも通りでは駄目だ。テニスコート以外に寄り道をしたい。
「少し、喉が渇いている」
「そうだな、水分補給はしたが、今日も暑い。ひとまず、街に行ってみるか?」
手塚の要望を察して、跡部は前方を指さす。街に出れば、ファミレスなりなんなり、中学生のデートでも無理のない店があるだろう。
そこまで思って、〝デート〟という単語に顔が赤らんだ。
二人で出掛ける行為にそういう名前をつけられる関係になりたいのではなかったのか。単語だけで浮かれていてどうするんだと自分を戒めて、跡部は小さく首を振った。
「さっき大石から、割引券をもらったんだが……良ければ」
手塚が、ポケットから小さな紙切れを取り出す。端が少し折れ曲がってしまっているが、それは新規開店のフルーツジュース店らしかった。客寄せのためにクーポンを配っているのだろう。
「一枚で二名様まで……ふぅん? いいんじゃねーの。行ってみるか」
「ああ」
ようやく、ぎこちなさが薄れてきた。今日の合同練習のことを話しながら、件の店へと向かう。
「今日、珍しいメンツでラリーやってたな。乾と桃城、宍戸と向日とは」
「そうだな、いつもと違うプレイができていたのではないだろうか。それぞれ個性的だ」
見ていてうずうずした、とじっと手を見つめる手塚。跡部がそれに笑ったせいで、手塚の心臓はトントンと速いリズムを刻んだ。
やはり、心地がいい。気負うこともなく、そのままの自分でいても受け止めてくれる相手だと思う。
先に惚れたのは自分の方だから、立場が弱くなるなと思っていたが、このままではいたくない。
物は考えようではないだろうか。この状況ならば、先に告げた方がいいかもしれない。関係を発展させたのは自分だと胸を張ってやれる。
もちろん、それで何か脅しをかけるようなことはしないが、ほんの少しの我が儘くらいは聞いてもらえるかもしれない。
言ってしまおうか、お前が好きだと。
歩調を緩めると、相手も同じタイミングで緩める。
あれ、と思った。首を右へ傾げ、戻して、街路樹の傍で立ち止まる。
意を決して振り向いたら、全く同じタイミングでそうした彼と視線が重なった。
あ、これは。
そう思った瞬間、同時に口が開かれた。
「お前が好きだ」
やっぱり声が合わさって、一瞬置いた後に二人で項垂れて顔を覆う。
「な、……んなんだよテメェはぁ〰〰、今まで全ッ然言わなかったくせに」
「お前の方こそ、どうしてこのタイミングなんだ。もう仕方がないから俺が先に言おうと思ったのに」
「俺の台詞だってんだよ!」
無事に最初の一歩を踏み出せたはずなのに、納得がいかない。どうして、同じタイミングなのだろう。先に告げてやって、ほんの少しの我が儘を聞いてもらう計画が水の泡だ。
はあーとまた二人同じタイミングでため息を吐いて、瞬きひとつ。視線が重なって、照れくさそうに逸らされる。
「その、跡部。これで、いいだろうか、お前を恋人と呼んでも」
「あ、ああ、嬉しい……じゃあこれ、デートってことで、いいん、だよな……」
「恋人ならば、そういうことになるだろう」
こくんと二人で頷く。ほんのりと染まる頬は、夕陽のせいではない。
「……手塚、これ、リンゴのヤツ飲んでみてぇ」
「美味そうだな。俺は何にしようか」
「着くまでに決めておけよ」
「ああ、ではゆっくり行こう」
さすがに手を繋ぐことはできないけれど、そろう足並みが嬉しい。
「なあ、好きだぜ手塚」
「俺も、跡部が好きだ」
あんなに頑なに相手に言わせたがった言葉が、すんなりと唇をついて出る。何を意地を張っていたのかと、馬鹿馬鹿しくなってしまった。
「一応、秘密の恋人というところだろうか」
「そうなるだろうな。言いたければ言ってもいいが」
「……いや、ひとまず俺とお前の秘密ということにしておこう」
「フフ、内緒話は嫌いじゃねーぜ」
耳元に唇を寄せ合ってそんなことを囁きあう二人は、知らなかった。
テニス部の親しいメンバーには、とっくにバレていることなんて。
お題:リライト様 /視線の絡む瞬間に
#お題 #両片想い
先に言ったら負けよ
「なあ手塚よ」
「なんだ、跡部」
青学と氷帝の合同練習中、手塚と跡部は同じベンチに二人で腰をかけていた。
部長同士で一緒にいることから、近寄りづらいと思っているのか、他の者たちは思い思いにラリー中のコートを眺めている。
跡部はベンチの背に片腕を預け、足を組み直す。夏の暑さが汗を生み出し、つ……と首筋を滑り落ちていった。
「俺は別にいいんだぜ」
手塚はいつものように腕を組んで、まっすぐに背筋を伸ばしている。
「そうか。それは俺も同じだが」
短いやり取りで、沈黙がやってくる。跡部は不満そうに目を細め、手塚も不満そうに眉間にしわを寄せた。
なにが〝いい〟のか、お互い分かっているはずだった。ここまで急激に、急速に距離が縮まってしまったのは予定外だったけれども、〝そう〟なるのはやぶさかではない。
そう、お互いが思っている。
だが、決定的な言葉が出てこない。
〝好きだ〟の〝す〟の字も、〝付き合おう〟の〝つ〟の字もだ。
分かってるだろ、と跡部が手塚を睨みつける。
手塚が、分からないわけはないな? と跡部を睨む。
だけど絡んだその視線はすぐに背けられる。それぞれの仲間がラリーを行っているコートへと。
ギャラリーたちの声援や監督の指導が聞こえる。自分の糧にもなるのだから、しっかり観ていなければいけないのに、隣の男がさせてくれない。
腹が立つ、とお互いが思った。
分かりきっているのだから、さっさと言えばいいものをと。
玉砕必至の恋ならば、告げる勇気もでてこないだろうが、明らかにお互いの気持ちがお互いに向かってきている。何をためらうことがあるのだろう。
好きだと言われれば、頷いてやれる。
付き合ってくれと言われれば、今日からよろしくと言ってやる心の準備も万端だ。
その後テニスに誘われれば、テニスデートだなと笑ってもやれる。
次の休みに、待ち合わせて二人でどこかへ出掛けないかと言われる可能性だって、何度かシミュレーションした。どこへ? というのは答えが出ていないが、二人で楽しめるところを探すつもりでいるのに。
肝心の、そういう言葉が発されない。
もしかして自分の勘違いなのでは? と思うには、距離が近すぎる。相手の近くにいたい、とこんな練習中でさえ隣にいるのだ。
部長同士であることから、打ち合わせがあるのだと言い訳はできるけれど、そんなものを真面目にしたためしがない。
大抵は跡部が意見を出して、手塚がそれに頷いて終わり、だ。
たまに手塚が改善提案をしてくることもあるが、どちらもいちばん合理的なものを理解しているせいで、意見がぶつかり合うことはなかった。
ぶつかり合うのは、テニスだけ。
それが心地良くて、嬉しくて、いつの間にか特別な存在になってしまった。
球をかわせば分かる。同じ気持ちを抱えているのだと。
ではもう言葉は要らないのではないかと思うが、万が一を考えると、欲しい。
だけど自分から言うのはなんだか悔しい。
先に惚れてしまった手前、分が悪いというかこの先優位に立てないのが分かっているから、最初の一歩くらい〝相手からのアクション〟であってほしいのだ。
お互いにそう思っている。自分の方が先に好きになったのだと。それが悔しい。
だから言いやすいように、こうしていつでも傍にいてやっているのに、その配慮が今のところ全部無駄になってしまっている。
〝先に惚れた負けは認めるから、先に言ってもらったっていいだろう〟
他の者が聞いたら、呆れ返りそうな意地の張り合いだ。
ちゃんと恋人として付き合いたいのに、先に言うべきは向こうの方だと譲らない。惚れた方の負けということを認識していながらもだ。
「同じだって言うなら、そろそろ観念したらどうだよ、手塚」
「そっくりそのまま返そう。ちゃんと聞いてやる」
「アーン? 聞いてやるたぁ随分と偉そうだな」
「よく動く口だが、肝心なことは言えないのか? お前ともあろう者が」
沈黙と、ため息。
腹を探る余地もないほど分かりきった答えなのに、どうしてそうも意地を張るのか、とお互いがそっぽを向く。
そっぽを向いた先に、レギュラーのメンバーたちがいて、やっと冷静さを取り戻す。
先に言えと常々思ってはいるが、何もこんな、他の連中がいる中でとは思っていない。聞かれてしまう可能性の方が高いし、からかわれる未来だって見える。下手をしたらスキャンダラスな事件としてそれぞれの校内に噂が広まってしまう。
それは避けたいし、何よりその〝告白〟は自分だけが聞いていたい。
初めて受ける恋の告白だ。ロマンチックなシチュエーションでとまでは思わないが、自分だけの宝物にしたいのだ。
できれば二人きりの時に聞きたいと、視線を泳がせて、小さなため息を吐いた。
「今日」
切り出した声が重なる。
手塚は驚いて跡部を振り向き、跡部もびっくりして手塚を振り向いた。
「なんだ」
「そっちこそ」
「あ、いや、……練習が終わった後、時間が空いていればと思って」
「俺もそれを訊こうと思っていたところだぜ。……一緒に、どこか、その、寄り道、とかな」
いよいよ今日、聞けるのかもしれない。そう思うと、胸が速い鼓動を生み出す。
「よ、寄り道、か。いいな。ぜひそうしよう」
どこへとは決めていない。もしかしたらいつものようにテニスになってしまうかもしれない。それでもいい。二人きりの世界で、待ちわびたその言葉を聞けるのなら。
やっと観念したのか、とお互いが思う。楽しみだと思って、跡部と手塚はそれぞれ口の端を上げた。
「ねえ、あの二人まだ付き合ってないって、ガセじゃないんスか」
そんな二人の様子を眺めていた越前は、誰に訊くともなしに呟いた。
「ハハ……まだ正式に付き合ってるわけではないみたいだね」
「なんかさ~、お互いにお前が先に告白しろって思ってるみたいなんだよにゃ~」
それに応えたのは河村と菊丸で、せっかく二人きりにしてあげてんのにと不満そうに口を尖らせる菊丸を、大石が宥めている。
「どうやら、向こうさんも同じようにやきもきしているようだな」
「氷帝も氷帝で、跡部の恋を後押ししてるみたいだね」
氷帝のレギュラーメンバーがそろって頭を抱えているのを見て、肩を竦める乾や不二。
「く〰〰、じれってぇなあ、じれってぇよ」
「手塚部長って、テニス以外だと不器用、なんだな……」
地団駄を踏みかねない桃城と、僅かに頬を染めながら控えめに悪態を吐く海堂。
面倒くさいから早いところっくっついてほしいと、その場にいる全員が思っていた。
お題:リライト様 /先に言ったら負けよ
#お題 #両片想い
/ /

「今、何してんだ?」
『ドイツ語の勉強を』
電話の向こうから真面目くさった声が聞こえてきて、跡部はぱちぱちと目を瞬いた。
「ドイツ語ったって、お前マスターしただろ? この俺様が教えてやったんだぜ」
手塚は今、ドイツにいる。プロになるために、単身渡独したのだ。中学生の身で、専属のコーチやトレーナーがついているわけでもないのに、その覚悟と度胸は大したものである。
合宿前に、ドイツ語を勉強していると聞いた時はもしやと思ったが、やっぱりプロチームから声がかかっていたのだ。それを一言も言わなかったのは気に食わないが、もう今さらだ。
『そうなんだが、どうしてもスラングというものがな。あと、速いとまだ聞き取りづらくて。お前のドイツ語は分かりやすかったからな』
「あぁ……なるほどね。悪い、そこまで頭が回らなかったぜ。渡独するって知ってたら、もっと本格的に教えてやったのによ」
それでも多少のいやみを言ってもいい程度の立場ではある。なにしろ、手塚とは恋人同士なのだ。
どこでどう間違ってこうなってしまったのか分からないが、分からないというのはそれが自然だからだろう。手塚とは、こうなるのが必然だったに違いない。
電話の向こうで、気まずそうに言葉を詰まらせる気配が伝わってきて、跡部は肩を震わせた。
「冗談だ、ばーか」
『いや、言わなかった俺が全面的に悪い。お前が怒るのも無理はないと思う』
「分かってんだったら、ちったぁマメに連絡してこいよ。……忙しいのか? どんなことやってんだ」
正直、怒ってはいない。
手塚が中学性選抜を率いたかったのは分かるし、傲慢なほど責任感の強い男だ、途中で放り出すことはできなかったのだろう。
ドイツに行くにしても、合宿やW杯が終わってからと考えていたに違いない。一応学校だってあるのだし、普通は卒業してから留学なりなんなりするだろう。その時までに言えばいいと思っていた手塚を、頭ごなしに責めるつもりはなかった。
何しろ、ドイツへ行けと背中を押したのは跡部自身だ。
『基礎体力や体幹の強化だな。特にゾーンを使う時には大切だ』
「ああ、そりゃまた随分と地味なことしてんな。だが、いちばん大事なとこだ。目ぇかけてくれてる人がいんのか」
『そうだな、ありがたいことだ。俺は生意気にもその人に宣戦布告したというのに。敵視するのではなく、俺を育てようとしてくれているのはあると思う。もちろん、それだけではないんだろうが』
宣戦布告という言葉に、その時の光景が目に浮かぶようだと口許が緩む。
日本では上位のプレイヤーである手塚国光も、国が変われば子ども扱いも同然だ。上には上がいるという環境は、常に上を目指す手塚にとって良い環境だろう。
体格の違いや言葉の壁も乗り越えて高みへと向かっていく彼が、本当に眩しい。目の前にいなくても、容易に想像できてしまう。
「テニス、楽しいかよ、手塚ぁ」
『――ああ、とても』
満足そうな声に、跡部こそが満足だ。手塚は日本で留まっている男ではない。世界へ羽ばたいて、世界を震撼させて、世界から賛辞をもらうべき男だ。
誇らしく、憎たらしい。そして、愛おしい。
『それでも、苦しくないわけではない。自分の体が思い通りに動かなくて、悔しくなる時もある』
「手塚、肩は? 肘、平気なのかよ」
わずかに沈んだ声に、さっと血の気が引いた。怪我というものは、後に引くものがある。特に手塚は、関東大会、全国大会と、かなり無茶な戦いをしてきた。
その一因にもなっている跡部にしてみれば、手塚の体が思うように動かないというのは、自身が動けないよりもずっとずっとつらいことだ。慌てて訊ねてみれば、「大丈夫だ」と返ってくる。
それをどこまで信用していいものかどうか分からないが、跡部は手塚にちゃんと「心配している」と伝えている。その気持ちを踏みにじるようなことはしないはずだと信じている。
『跡部。俺はそういう時、お前を思い浮かべている。すぐに追いかけるとお前が言ってくれたからな。同じプロの世界で逢った時、お前に呆れられないようにと……』
跡部は目を見開いた。
確かに彼を送り出す際、「俺もすぐに追いかける」と言ってやった。
手塚がプロとして生きていくのなら、無二のライバルとして後れをとるわけにはいかない。
プロの世界――ネットを挟んで邂逅することもあるかもしれない。いや、必ずしてみせると、決意のようなものだった。
手塚はそれを、跡部が考えているよりもずっと心強く思ってくれたらしい。
『お前が追うにふさわしいプレイヤーでなくてはならない。それは重圧でなく、幸福だ』
「……手塚、お前……そっちに行って少しばかり饒舌になったんじゃねーのか……最高の口説き文句じゃねーの」
『そうかもしれないな。言葉で伝えることの難しさを知って、伝えられるものならば伝えなければと思うようにはなったかもしれない』
電話では、表情が見えない。
ビデオ通話にすれば良かったと思うが、顔なんか見たら逢いたくなってしまう。
もしかしたら寂しそうにしているところを見られてしまうかもしれない。
それは、駄目だ。
手塚は向こうで精一杯頑張っているのだから、こんなことで煩わせたくない。
『そっちの合宿は、今何を? 入れ替え戦はどうなっているんだ』
「ん、まあ、ぼちぼちな。一軍の連中が海外遠征から帰ってきて、さらにすげえコトになってやがるぜ。お前がまだこっちにいたら、どうなってただろうな。あ、あと入江さんにはバレた、俺たちのこと」
『……………………大丈夫か?』
入れ替え戦で対戦した入江は、あの後すぐ「手塚くんの出立が決まったら外出申請するといい、彼氏の見送りくらい行ってあげてもバチは当たらないよ」などと言ってきた。
いろんな意味で油断のならない男だと思っている。特に言いふらしたりするつもりはないようだが、時折絡んでくるのをあしらうのが少しばかり面倒だ。
「なんでバレたかってな、俺たちの纏う空気、だとよ。分かるか馬鹿」
『……そういう意味では、不二あたりにも気づかれてそうだな。俺は別に構わないが……お前は嫌か?』
「別に嫌じゃねえよ。いずれは家族にも話さなきゃならねえしな。そういう時、真実味を持たせるという意味では、噂レベルでも馬鹿にできねえんだぜ」
同性と付き合っているということを、跡部は家族に隠すつもりはない。時期を見て、話さなければならない。跡部の後継を産む女性との婚姻は結べないことを。
『跡部』
「悪いな手塚、腹括ってくれ。俺はお前を手放すつもりはさらさらねえんだ」
『それは俺の台詞だ。だがたぶん、俺は大事なことを言っていないな。分かってくれていると思った』
「アーン?」
『俺ほどお前を愛している人間はいない。ご家族には、二人で逢いに行くぞ』
絶句した。
確かに、手塚から愛を囁かれたことなどない。それでも、流れる空気で伝わってきていて、跡部はそれで充分だったのだ。
すでに決定事項であるかのように、当然のこととして口にしてくる手塚に、腰が砕けそうだった。
「合宿中じゃなきゃ、今すぐ逢いに飛んでってるぜ。耳元で聞けたのは嬉しいが」
『電話なんかじゃ足りないな。では次に逢えた時には直接言わせてもらおう』
「……楽しみだ」
なんとか踏ん張って、マイク部分に唇を寄せる。
「愛してるぜ手塚。またな」
『ああ、また』
ちゅ、と小さくリップ音をたてて通話を打ち切る。
踏ん張りきれなくて壁を伝いずるずると崩れ落ちた。火照る顔をたてた膝に埋めて、「あっつ……」と呟く。吐く息は、いつもよりずっとずっと熱かった。
「廊下であんなことしといて、なんでバレないと思っているのかな、跡部くんたちは」
「バレてないと思ってるのは、本人たちだけですからね……」
その陰で、入江と不二がやれやれと腕を組んで呆れていたのを、跡部は知るよしもなかった。
#お題 #両想い