- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.65, No.64, No.63, No.62, No.61, No.60, No.59[7件]
Shooting Star-006-
「どうした、タクト」
家の前で声をかけられて、タクトは顔を上げた。
くせになってしまっているのか、週末はスガタの家に行くようになった足が、その道のりをいつの間にかたどっていた。
「さっきからずっと、僕の話を聞いていない」
「えっ、……あ、ごめん、何だった?」
学校からここまで、何も耳に入らなかったのだ。隣にスガタがいることさえ、認識できていたかどうか。
大事な話だったらどうしよう、とタクトは焦りながらも、家の中へ招き入れてくれるスガタに続いた。
「いや、別に……明日はどうするのかと思って。恋人同士のデートとやらを楽しむのか、友人として剣の稽古に励むのか」
つまらなそうな声音は、いつもより冷たい空気をまとっている。
「まあもっとも、今のお前じゃ稽古つけてやる気にもならないけどな」
ぴりぴりとした空気が、タクトを不安にさせる。今のスガタは、演じている【恋人】だろうか、それとも本当の【親友】だろうか。
「スガタ、僕って君のなに?」
廊下に声が響く。
こんなことを訊くべきじゃない。スガタの答えは分かりきっていて、
「恋人だろう?」
そう言わせているのは自分だと知っていて、胸が痛む。
悔しくて胃がぐるぐると回る。スガタは悪くない、ただ頼まれた役を演じているに過ぎないのだ。タクトに責める資格はないのに、
「だったらもっとそれらしくしてよ!!」
吐き出したあとはもう、止まらなかった。
「タクト?」
「そんな当たり前みたいに恋人だっていうなら、ミズノちゃんとのキスシーンに平然とするな馬鹿スガタ!」
学校で、それと分かる振る舞いはしないというルールはあったはずだ。
だから、スガタが眉をぴくりとも動かさなかったことを、責めることなんてできないのに。
「イヤならすることないとか、ワコみたいにシーン変えられないかとか、言ってくれてもいいじゃないか!」
「僕にどこまで求めるんだタクト。部長だってあのシーンは削れないって言っていたし、お前は演技でキスなんてぜんぜん平気だろう?」
振り向いてもくれない背中に、涙がこぼれる。
本当の恋人同士だったら、きっと何か言ってくれた。演じている状態だったとしても、完璧を求めるならそうしてくれただろう。
「僕とだって、平気でキスしているじゃないか」
「だって、スガタとはっ……!」
次の言葉は紡ぐことができなかった。
「んっ……」
振り向いたスガタに腕を引かれ、肩が壁にぶつかる。それでも痛みより前に、彼の口唇を認識した。
強引に入り込んでくる舌先から逃れたいのに、心だけが全部スガタに向かっていく。隙間なく埋め尽くされた口唇を、受け入れる以外に何ができただろう。
「ん……ふっ」
スガタの髪が頬を流れていく。指先が喉を撫でて、手のひらが肩を包む。
まるで恋人同士のキス、だ。
「……ほら、抵抗もせずに」
スガタは離したあとの口唇を親指でぐいと拭い、目を細める。
あからさまに軽蔑したような視線に、タクトの心臓がズキンと痛んだ。
「ス、スガタだってこれ、演技だろ? 平気なんだよね、こんなこと!」
「僕は今……お前の恋人だからな」
役の上ならなんとでもなるさと、背を向けかけるスガタに、タクトは思わず叫ぶ。
「だったら抱いてみせろよ!」
スガタが、目を見開いて振り返る。ためた涙を、タクトはどうにか我慢した。
「な……にを、言ってる?」
「恋人っていうなら、演技ならどうとでもなるっていうなら、僕を抱くことだってできるんだろ!?」
完全に勢い、だった。
演技ということを強調するスガタが憎らしくて、そんな風にしか触れられない自分が憎らしくて、悲しくて悔しかった。
もっと別の方法があったかもしれない。
もっと違う出逢い方があったかもしれない。
「できないっていうなら、僕だけ責めるなよ!」
こんな方法でしか、スガタをつなぎ止めていられない自分が、愚かしくて浅ましくて、だけど他にどうしようもなかった。
「タクト、お前自分が何を言っているのか、理解しているのか?」
バカらしい、と止めてくれるのはスガタしかいない。
言葉ででも、打ち付けてでも止めてほしかった。
だけど、
「抱かないの? それとも、抱けないの?」
スガタに触れたいのも、本当だった。
安い挑発に乗るような男ではないと思っている。今だって、責めるような鋭い瞳が目の前にあるだけだ。それさえも心地良いと思ってしまうあたり、本当におぼれているのだと思うけれど。
「スガタっ?」
手首を取られて、強く引かれる。体が引っ張られて、歩きだした彼の後をついていくしかなかった。
「スガタ」
「来いよタクト。抱いてやる」
苛立つスガタの声に、ビクリと肩を震わせて、ついで頬を赤らめた。そんな台詞が似合う男も、そうそういないだろうなと。
スガタの部屋が近づいてきて、タクトは今さらながらにハッとする。
本当に、するのか。
言い出したのは確かにタクトの方だが、そうなった後のことはまるで考えていなかった。
「わっ」
部屋についたと思ったら乱暴にベッドに放られて、思わず声が上がる。軋んだベッドのスプリングに、顔の熱が上がった。
「スガタ、ちょ、ちょっと待って」
「今さら待ったはなしだ、タクト」
お前が言い出したことだろう、と付け加えられてぐっと言葉に詰まる。それは確かにそうなのだが、どうすればいいのか分からない。
スガタに任せていればいいのか、自分からも何かした方がいいのか。
「ねえ、僕たち今、恋人同士なんだよね」
「そうだな」
言いながらしゅっとネクタイを引き抜くスガタを、タクトはもっと見たいと思ったか、それとも恐れたか。
ベッドの上に片腕で状態を支え、できるだけ挑発するような口調で、告げてやった。
「恋人同士の初めてくらい、優しくしてくれよ」
そう言って、自分もネクタイの結び目に指をかけてみせる。
自分でほどこうとしたタクトの手を止めて、スガタはゆっくりと引き抜いていく。布がこすれる音が耳に響いて、トクトクと心臓が鳴った。
指が震えていたのには気づかれなかっただろうか。視線はちゃんと、挑発的になっていただろうか。
「タクト、目。閉じろ」
「……うん」
タイを抜いて、用はないと興味をなくされたそれは、ベッドのどこかに放られる。だけど、スガタの口唇が眼前に迫るタクトには、そんなこと気にしていられなかった。
そうして触れる口唇は、今までのどのキスよりも優しくて…激しかった。
「んっ……、スガ……」
顎を掴まれて、ぐいと奥まで入り込んでくるスガタの舌。口唇が離れた隙にせめて名を呼ぼうとするのに、そんな暇もない。
いつの間にか背中に感じるシーツの感触も、熱いキスに意識を持っていかれて、あやふやなものに変わる。
「んん……っふぁ」
舌の表と裏を合わせるような濃密なキスが、タクトの思考を邪魔していく。
本当はもっと、スガタのことを考えていたいのに。
本当はもっと、スガタに触れていたいのに。
呼吸さえ奪っていきそうなキスが、それを阻む。舐られ、吸い上げられ、押しつけられて意識が朦朧としてくる。
酸欠のためか、それ以上の快楽からか、鼻から抜けていくタクトの喘ぎはくぐもる。
スガタの手が両頬を包み、被さるように落とされる口づけに、タクトの胸は跳ね上がるばかり。
「はぁっ……あ」
口の端からこぼれた唾液を舌先で舐めとって、スガタの口唇はようやく移動していく。喉を舐め上げられて、タクトは思わず声を立てた。
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Shooting Star-005-
メールと電話という手段を得てからは、校内での接触が少なくなったように思う。
おはようと、お昼食べようと、部活行こうと、バイバイじゃあまた明日。
友人同士の当たり前の日常が、そこにある。
だけど休み時間になると、携帯電話が気になってしまう。
同じ教室で授業を受けているのだから、メールの送受信なんてしていないと分かっているのに、気持ちがそわそわして仕方がなかった。
おはよう。授業中に居眠りするなよ。さっきまで道場で稽古してたよ。お前は? ああ、おやすみ。
メールの受信ボックスが、スガタで埋まっていく。フォルダに分けて保護設定しようかと思うが、全部の保護をしたくて追いつかない。
「スガタ、スガタ。あのさ、この間言ってたCD持って来たんだけど」
「借りてっていいのか? 早めに返すよ」
「あっ、ねえタクトくん、次私にも貸してよ」
「うんいいよ」
いつものように三人で、演劇部の部室に向かう。変わりない、日常だ。
相変わらず綺羅星十字団も戦いを仕掛けてくるし、学生の本分であるここではテストなんかもあるし、まさに青春だ、とタクトは思う。
恋人と言い切れはしないけれど、大事な人も傍にいてくれる。
これ以上を望んだら、きっとバチが当たってしまうだろう。
「ねえワコは南方神起の全部持ってるんだっけ?」
「あっ、うん、貸そうか?」
「セカンドアルバム聴いたことないんだ。今度貸してよ」
うんいいよーなどと快く笑うワコと、ワコは購入特典とか全部持ってるほどだからねと笑うスガタ。いいじゃない、と頬を膨らませる可愛らしい少女と、三人で部室へと入った、途端。
「あっ、タクトくんタクトくん! あのね聞いて!」
最近入部した、二組のヨウ・ミズノが綺麗な青い瞳をきらきらと輝かせて走り寄ってきた。
「ミ、ミズノちゃん今日も元気そ……」
「今度の劇でね、私とタクトくんのちゅーがあるんだよー!」
「―え?」
言われた言葉の意味がすぐには理解できずに、タクトの目が瞬かれる。
「ちょっ……ちゅーって、キスシーンてこと!?」
最初に声を上げたのはワコだった。
「うんっ、そーなのワコちゃん! ほら脚本ー」
ミズノが差し出してきた脚本とやらをひったくり、ワコは中身を確認していく。ピタリと手が止まったその箇所に、書かれてあるのだろうか。
タクトと、ミズノのキスシーン。
息を止めたままのワコを眺め、タクトはようやく事態を把握した。
―本当にあるんだ。
「ね、ねえ部長、これっ……本当にするの?」
「そーだよ。配役も決まってる」
しれっと何でもないように言い放つ、エンドウ・サリナ。ふふーと嬉しそうに笑うミズノ。興味津々で目を輝かせるジャガーとタイガー。
タクトは、ちらりとスガタを見やる。
見なければよかったと、あとになって悔やんだ。
―スガタには、何でもないことなんだ。
それこそ何でもないように、ワコが放り出した脚本をぱらぱらとめくっている。その指先には迷いも何もなく、視線も揺らいでない。
演技とはいえ恋人のキスシーンを聞いても、スガタは何とも思わない。
ズキンズキンと心臓が痛んだ。
泣き出したいのを必死で抑えて、無理に笑ってみせた。
「ミズノちゃんは、いいの? 僕なんかと」
「私はヘーキッ! だってタクトくん好きだもん」
「へ? そ、そう? ありがとう」
どさくさ紛れの告白に、はははと笑うタクト。それを面白くなさそうに眺めるワコの眉間に、しわが寄った。
「ねえ部長、このシーンて変えられないの?」
「無ー理。そこがヤマなんだもん、そこ抜かしたら全部書き直しだよ」
練習もしなきゃならないんだから、あまり時間はないと続けるサリナに、ワコは俯く。
「自分が相手役じゃないからって、ひがまなーい」
「……はぁっ? ちょ、違う違うそういう意味じゃなくて!」
どう誤解したのか、ため息混じりに呟いたサリナにワコは慌てる。顔が真っ赤なのは、きっと条件反射というものだろう。
「モテモテですね、タクトくん」
ジャガーが笑いながら話しかけてくるけれど、どう返していいか分からずに、タクトははははと笑うしかできなかった。
普通の男子高校生であれば、こんなシチュエーションは心躍るだろう。可愛らしい少女たちが、自分に好意を寄せてくれているかもしれないなんて。
だけどタクトには、好きな人がいる。叶いそうもない恋は、現実逃避もできないほどに苦しくて、気分が沈んだ。
明日の休み、一緒に街へ行こう?と打ったメールは、送信されないままタクトの携帯電話に残っていた。
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Shooting Star-004-
「スガタっ……待った……!」
「待たないし、加減もしない。お前が言い出したことだろう」
「くっ……」
タクトの眉が寄る。スガタの責めは容赦なくて、息が上がった。
「あ……っ!」
ガッと音がしたかと思うと次の瞬間に木刀は宙を舞って、やがてガランガランと大仰な音を立てて床に転がった。
「注意力が散漫だ、タクト」
鋭い視線が射抜いてくる。タクトはぐっとつまり、両手をあげてホールドアップ。スガタはこんな時、本当に容赦がない。
「剣術、誰に習った? まさか自己流ってわけでもないだろ」
少し休憩するか、とスガタは木刀を下ろし、肩の力を抜く。いつ見ても格好いいなあと、タクトは袴姿の彼を眺めて思う。
「僕は家族に。どこの流派とか、分かんないけどね……じいちゃんは、ものすごく強かったよ」
遠く離れた家族を脳裏に浮かべる。結局一度も勝てなかったなあと思い出して、ふふふと笑った。
「でも、強くならなきゃいけないもんな。敵だってこのままでいるはずがないんだ」
綺羅星のサイバディは、すべて破壊すると決めた。ワコのために、スガタのために、ひいては自分のために。
「ヤツらがなんのためにサイバディを動かしてるのか……僕には分からない。でもお金のためだとは、どうしても思えないんだよね」
スガタはどう?と見上げられて、スガタは少し困った顔をした。それが分かれば、やっかいなことになりかねないからだ。
「お前が知る必要はないよ。もしヤツらの理由に共感したら、お前はそのあとのことを考えているのか?」
「……考えて、ないけど」
「ほら。僕たちにとって奴らが敵なのと同時に、ヤツらには僕らが敵なんだ」
いっそ、すべてのスタードライバーが金や世界征服のために動いてくれていたらどんなに楽だろうか。スガタはそっと目を伏せる。
ひとり、スタードライバーを知っている。以前剣を合わせたことのある、シナダ・ベニオ。
先日タクトと戦ったページェントのドライバーは、彼女でしかあり得ない。あの太刀筋は彼女にしか繰り出せないだろう。
彼女が、金や世界征服……つまりは私利私欲のために動いているとは思えないのだ。いや、思いたくないのだ。
だからこそタクトには、彼女たちの動く理由を知ってほしくないと思う。
それは、スガタの勝手な思いだったとしても。
「タクト、休憩は終わりだ。構えろ」
「厳しいなあ」
「文句を言うなら、一度でも僕から一本取ってからにしてくれ」
ちぇ、とタクトは舌を打って、構える。
剣を持つ者の習性なのか、持って生まれたものなのか、構えた瞬間に空気が張りつめる。
タクトはスガタの視線を浴びながら、その視線を逃さないように捉えた。
―僕には、僕の理由がある……譲れないよ。
ひとりひとり、それぞれの理由がある。
演技でも偽りでもない、本当の願いだ。
タクトは、木刀を振りかぶった。
「最近、泊まっていかないんだなタクト」
「だって……届け、出してないし」
玄関先で、厭味でなく振ってきたスガタの言葉に、タクトは苦笑した。事前に届けを出せば外泊だって可能だ。
だけどタクトは、あえてそれを出していない。
「シナダ寮長に、何か言われた?」
「別に、そういうんじゃないって。……僕が泊まっていかないと、寂しい?」
家の中の灯りの逆光で、スガタの表情はよく見えない。イジワルするつもりで言ってみたけど、
「ここは、そうだなって返しておいたほうがいいのかな?」
逆に訊き返されて苦笑した。恋人なら、そう言ってしまった方がいいのだろう。
だけど自分たちは、本当の恋人同士ではない。
「じゃあ僕は、毎日最後に聞く声はきみのがいい、とでも言っておくよ。おやすみ、スガタ」
本心でそう思うのに、本心にしてはいけない。この気持ちは、心の奥底にしまっておかなければならないんだ。
だって本当は親友でしかないのだから。
「可愛いこと言うなタクトは。明日から、電話してあげるよ」
苦笑混じりに呟かれた言葉に驚いて、振り向く。
「……スガタは、きっと女の子とつきあってもうまくいくんだろうな」
男であるタクトでさえ、そんなことを言われたら嬉しいのだ。女の子だったらきっと、一瞬で昇天してしまう。
「どういう意味だ?」
「言葉の通り、そのまんま。僕なんかにさえそうやって言えるんだからさ、女の子の扱いは上手いだろ」
「僕には今そういうつもりはない。タクト、お前が誰かとつきあいたいのか?」
スガタの瞳が鋭くなる。負けてしまわないようにと、タクトも睨み返そうとしたが、結局できずに逸らした。
「なるほどね、そういうことか。タクトがどうして、僕に恋人役を頼んできたか分かったよ」
大仰なため息が聞こえる。気づかれたのかと思わずスガタを振り向いて、弁解しようとしたが。
「つきあいたい誰かとの予行演習ってとこか。それならそうと、言ってくれれば良かったのに。すまないが、僕はお前の思ってるほど女の子の扱いに慣れちゃいないよ」
「……スガタ!? ちが……っ違うよ! 僕はそういうつもりで頼んだんじゃ……!」
タクトは言葉を飲み込む。
じゃあどうしてと訊かれたときに、きっとなにも言えない。いっそこのまま誤解されていた方がいいのか。
「友人として……演技とはいえ恋人として接してきて、少しはお前を理解したつもりだったが、また分からなくなった」
「僕だって分からないよ! なんで恋人役なんか受けたのスガタ!」
「お前が言い出したんだろう!」
「ス、スガタ……っ」
怒鳴る声のあとに、スガタは顔ごと視線を逸らす。ざあっと血の気が引いていく音を聞いたような、気がした。
「違うんだ……ごめんこんなこと言いたかったわけじゃなくてっ……」
ぎゅっと制服のズボンを握る。泣いてしまいそうで、でも俯いてしまったらこの先ずっとスガタを見られなくなりそうで、必死で我慢した。
「スガタが……あんまり上手く切り替えしてくるから……怖くて寂しくなったんだ。ごめん……僕の知らないスガタがまだいるんだって思ったら……もっと早く」
逢いたかった、と言いたかった声は、喉の奥に吸い込まれていく。体に巻き付く温もりに、タクトは目を瞠った。
スガタの腕の温もりが、信じられなくて。
「え、あ、わっ…あ、あの、スガタ?」
抱きしめられていることを認識したタクトが、慌てて上げた声に、スガタの体がビクリと強張る。
そそくさと離れていったスガタの温もりを、タクトは少し残念に思った。
「お前は、少し自分の言動に気をつけるんだな」
そのまま何もなかったみたいに背中を向けてしまうスガタを、タクトは言葉だけで引き留める。
「ごめんまだ怒ってる?」
視線だけが、振り向いてくれる。それだけで、まだ嫌われてはいないと認識できた。
「怒ってない、呆れてるんだ。おやすみタクト」
スガタ、と呼び終わる前にもう、扉は閉まっていた。
怒っていないと彼は言ったけれど、どこまでが本当か分からない。あれも演技なのか、そうでないのか。
抱きしめてくれた温もりはまだ覚えていられるのに、心だけがとても遠い。
「スガタ……」
タクトは玄関の段を降り、いちばん下に座り込む。冷たくて硬い感触は、心臓を痛ませた。
「言わなきゃ良かった」
いっそ好きだと言ってしまえば良かった。
演じてなんて頼んだせいで、よけいにつらい。こんなスガタを知らないままだったら、片想いだけで満足していられたかもしれない。
欲求が頭をもたげる。
スガタに言ってしまいたい。スガタに好きになってもらいたい。本当の恋人同士になりたい。
できるわけない、と抱えた膝に顔を埋める。
スガタの傍にいる手段が、他になかったわけでもないだろう。どうしてよりによって、恋人役を演じてくれなんて言ってしまったんだろう。
どうして、スガタは受けてしまったんだろう。
「…八つ当たりだよ、これじゃ……」
タクトは携帯電話を取り出して、スガタのナンバーをダイヤルしようとして、やめた。
耳元で声なんて聞いてしまったらまた、抑えきれなくなる。
【さっきはごめん、おやすみ。】
たったそれだけ、メールで送信した。
「わっ」
すぐに着信音が響いて、危うく取り落とすところだった。
【分かってる、また明日な。】
それだけの、スガタからの初めてのメール。
―うわ……うわぁ……!
タクトの頬が真っ赤に染まる。目をぎゅっとつむって幸せを噛みしめ、軽い足取りで寮へと帰っていった。
#STARDRIVER-輝きのタクト- #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク #ウェブ再録
Shooting Star-003-
「タクト、帰るぞ」
「あ、うん」
授業が終わって放課後。
今日は演劇部の活動もないし、帰り支度を整えてタクトは立ち上がる。
「あれ? スガタくん、タクトくんとどっか行くの?」
「ちょっとね。男同士の話しだよ」
約束してたんだと、いつものようにワコに優しく笑いかけるスガタに、タクトの心臓が少しだけ痛んだ。
「ワコ、悪いけど今日はタクト借りるよ」
「なんで私の了解がいるかな? 男同士、楽しんでおいでよ」
だってワコはタクトを気に入っているみたいだからと、スガタは口にはしなかった。さすがに教室だし、とは思うが、そんな事実は教室中が知っている。
「明日は一緒に帰ろうね」
「ああ。ワコ、気をつけて」
手を振って友人と教室を出ていくワコに、スガタは笑って返し、タクトも同じように手を振った。
バスに乗って街に出た。学校の近くでは正直何もないし、ただ座って話すというのもオツなもんだが、とりあえずは初心者コースだ。
「あれ、新しい店ができてる」
「え、どこどこ?」
スガタの視線を追って、タクトはよく見えるようにと手をかざす。ピンクを基調にした、可愛らしい店だった。
「クレープ?」
「食べるか? 基本だろ、デートの」
見れば家族連れや会社帰りの女性、中等部らしき制服がちらほら見える。
「そっ、そうだな!」
デート、とささやいたスガタに少しだけ頬を赤らめ、タクトはその店へ足を向けた。くすくすと笑いながら、スガタも後を追う。
「どっちにしよう……」
ウインドウに飾られた商品サンプルをしげしげと眺め、タクトはうなる。どうやら決めかねているようで、スガタはまた笑った。
「そんなに悩むことか?」
「悩むよ! だってイチゴチョコカスタードスペシャルだって美味しそうだし、みかん銀河ホイップだって美味しそうだし!」
真剣に悩んでいる様を見て、今いちどこが悩みどころか分からない。
「どっちかに決めろよ。また今度食べればいい」
「んー……えっ!?」
「なに?」
僕はもう決めたけど、とカウンターへ向かおうとするスガタに、タクトは驚いてウインドウから顔を上げた。
「あ、い、いや、何でもない!」
決めたとスガタを追って、カウンターへと向かう。
気づいているだろうか、とタクトはその背中を見つめながら思う。
―今度また、一緒に来てくれるってことかな……。
ドキドキが止まらない。スガタの一挙一動に、こんなに動揺してしまうなんて、思ってもみなかった。
いつまで、この気持ちを隠していられるだろう。
もしかしたらもう、気づかれているかも知れない。
タクトは結局、イチゴチョコカスタードスペシャルを頼み、スガタの方はハムとチーズのホットクレープを注文したようだ。
イートインもできるらしかったが、もう店内は満席で、ふたりは少し離れた場所のベンチに腰をかける。
「すごく甘い匂いがする」
「美味いよ。スガタは甘いもの苦手?」
苦手というわけではないけれど、とスガタは前置きをして呟く。
「そういうのはワコで慣れてるからな。ただ、お前とってのが想定外だったから……」
「あー女の子は甘いの好きだよなあ。俺ね今度さ、パフェ食べてみたい」
あれはまだ食べたことないんだ、とタクトは広い空を見上げた。
そよいでいく風が、頬をくすぐっていく。
「ああいうのって一人じゃ食べる勇気ないしさ。だから、今度さ、一緒に行こう」
「……タクトと一緒にいると、あんまり経験できなかったことが体験できそうだ」
「へ?」
肩を揺らしながら、スガタは笑う。口の端にカスタードクリームを付けたタクトが振り向いて、首を傾げる。
「クレープなんて食べたの、どれくらいぶりだろうな。しかも学校帰りになんて」
ワコにつきあってカフェに入ったりしても、大抵は飲み物だけ。誰かと一緒に外のベンチでなんて、もしかしたら初めての経験じゃないだろうか。
「……そうなの?」
「僕は稽古もあるからな。今度また稽古つけてやるよ」
「お手柔らかに頼むぜぇ~?」
タクトは何でもないように返しながらも、内心嬉しい気持ちでいっぱいだった。
【恋人同士】になってから、知らなかったスガタをたくさん見られる。それはもちろん演技であるのだろうけど、スガタの本質は損なわれていないはずだ。
「へへ」
もふ、と甘いクレープにかじりつく。一人で食べてもきっと美味しいだろうが、今日は内緒だけれど大好きな人と一緒。美味さも数倍。
「タクト、それそんなに美味しいのか?」
「ん? 食べる?」
ずいぶん美味しそうに食べるんだなと訊ねるスガタに、タクトは冗談混じりに差し出した。
「ん」
「え」
思わず目を見開く。
スガタは体を屈めて、タクトの甘いクレープにかじりついた。タクトの頬が真っ赤に染まり、危うくクレープを取り落とすところだった。
「……甘い」
「そっ、そう? 僕はこれくらいがいいけど!」
絶対に全部は食べられないとわずかに眉を寄せるスガタに、タクトは慌ててクレープを戻す。
―何だこれ、恋人っぽい……! っていうか、間接キッ……!
恥ずかしい、と俯く。今日は初めてキスだってしたのに、たかが間接キスくらいで慌ててどうするんだ、とタクトは自分に言い聞かせる。
だけどどんなことだって、スガタ相手なら嬉しいに決まっているのだ。それを否定することはできない。
「こっちも食べてみるか? 少し冷めてるけど」
お返しに、とばかりにスガタが自分のクレープを差し出してくる。タクトは振り向いて、スガタを窺うように眺めて、小さくうんと頷いた。
―やばい、すげえドキドキする。
体をスガタの方へと傾けて、はふ、と柔らかなクレープを口に含んだ。熱で溶けたチーズと、温かなハムの塩味が、口の中に広がった。
「美味し……」
今までずっと甘いクレープばかりだったけど、ホッとクレープもいいなあと、タクトは笑いかけた。
「タクトは、ころころ表情が変わるな。見ていて面白い」
「ねえそれって褒め言葉じゃなくない?」
クレープの包み紙を、スガタはきちんと折り曲げて、タクトはくしゃりと丸める。あースガタらしいなと思って、小さく抗議してみた。
「褒めてるよ、素直ってことじゃないか。僕はそんなの、とうの昔に消えちゃったからね」
タクトは、失言だったかなと考える。
スガタは自分の境遇を知って、いろんなことを諦めてきたらしい。夢だってあったかもしれない。いや今だってあるかもしれない。
ワコも、いろんな何かを諦めて、この島に縛られている。
タクトは、放り出されたようなスガタの手をぎゅっと握った。スガタはその行動を予期していなかったらしく、目を瞠って振り向いた。
「タクト?」
「言っただろスガタ。敵のサイバディは、僕が全部破壊する。そうすればワコも、スガタも自由になれるよ」
この島に来た本当の目的は、言えなかった。だけど今、心の底からそう思う。
スガタの笑顔が見たい。
諦めたようなものじゃなく、演技でもなく、本当に心からの笑い顔が、見たい。
「ワコとスガタが傍にいてくれたら、僕は頑張れる」
サイバディの構造も、遺跡のことも、詳しいことは何も知らない。それどころか、自分の操るタウバーンのことも、スガタのザメクのことだって分からない。
サイバディを全部破壊したところで、ワコやスガタの呪縛が解けるのかさえ。
破壊した跡に、なにが見えてくるのか、タクトは何も知らなかった。
「……いるよ」
スガタはふっと笑い、ぎゅうと握ってくるタクトの手に指を絡め、握り返す。
「いるよタクト。お前の隣に」
約束、ではない。
それは約束ではなく望みにしかならないけれど、充分だった。
「うん……」
タクトも絡めた指に力を込めて、ふたり、沈黙を過ごした。
「わざわざ送ってくれなくても良かったのに」
「どうして。基本じゃないのか?」
学園の寮まであと少し。今さら言ってもどうにもならないが、タクトはチラリとスガタを見やる。
「僕は今お前の恋人なんだ。少しでも長くいたいと思うもんじゃないのかな」
「えっ、あ、ああ……そうか、そういう……もんか」
―そりゃ僕だって少しでも長い時間、一緒にいたいけど。
ここまででいいよと、タクトは笑う。これ以上長く一緒にいたら、引き留めたくなってしまう。
演技とはいえ、想いが叶ってしまうと、こんなにもわがままになってしまうんだなと、タクトは初めて知った。
「じゃあ、また明日」
「うん、明日な!」
ひらりと手を振って、スガタは自分の家へと足を向ける。スガタの背を見送って、火照る頬を隠しながら、タクトは寮へと向かっていった。
今日はご飯なんて入らない。
恋心は、いつだって純情可憐、幸せいっぱい。タクトは部屋に戻るなりベッドに突っ伏して、スガタを想った。
#STARDRIVER-輝きのタクト- #スタドラ #シンドウ・スガタ #ツナシ・タクト #スガタク #ウェブ再録
Shooting Star-002-
「おはようスガタ」
「ああおはようタクト」
翌朝教室で逢っても、スガタの応答はいつもと変わらない。いや、少しだけ笑みが混ざっているあたり、昨日の約束が嘘ではないのだと物語っている。
―いっそ、夢だったらよかったかも。
タクトは自分の席に座りながら、頬杖をついてはあーと大きくため息を吐いた。
スガタに、恋人役を演じてくれと頼んでみた。予想に反してそれは引き受けられてしまって、今になって悔やんでいる。
これで、何が変わるのだろう。
タクトはちらりとスガタを見やる。やっぱりいつもと変わらず、すました顔で本なんか読んでいた。
ナナメ45度から見るスガタの顔は、タクトがいちばん好きなものだ。もちろん、正面からでも横からでも、後ろからでも好きなのだけれど、この角度が、いちばん好きだった。
―重症、かな、僕。
こんなはずではなかった。この島に来た目的は別にあったけど、青春という名の学園生活を楽しみたかったのも本当だ。
高校生らしく恋人を作って青春を謳歌してみたかった。できれば可愛らしい女の子と。
それがどうだ、現実はこんなものだ。
初めて好きになったのは、素っ気ない同性。学園でも人気を誇る、シンドウ家のお坊ちゃま。
アゲマキ・ワコという可愛らしい許嫁までいる男を、なんで好きになっちゃったかなあと、タクトはもう一度ため息をついた。
スガタの態度は変わっていない。いつもと同じ、友人同士だ。
―スガタは……僕のことなんてなんとも思ってないんだろうな。まるっきり対象外だよ。
少しだけ寂しい気もした。
持ちかけたのは自分だし、後悔はしたけど受けてくれて驚いたし、きっとスガタならどんな役でもこなしてしまうんだろうと思う。
優しく笑いかけてくれたりするのだろうか。
手をつないでくれたりするのだろうか。
電話したりメールしたり、世間の恋人同士が普通にするようなことを、スガタがしてくれるのだろうか。
ふるふると首を振った。
シナリオなんてできていない。この先どうなるのか、少しも読み切れないのだ。
だけどスガタが受けてくれた以上、タクトもそれに応えていかなければならない。たとえ彼が、どんな【恋人】役を演じるのだとしても。
「タクト、ちょっといいか?」
昼休みに、ようやくスガタが声をかけてくる。
今日一日、何もアクションがなかったらどうしようかと思っていたところだ、タクトはホッと息を吐いた。
「いいよ、何?」
「ここじゃ話せない」
「移動しよっか」
あくまで友人同士、の風情でタクトは立ち上がった。教室の外へと顎で指し示すスガタをさえ、格好いいなあと思いながら。
そんな小さな仕種にまでときめいてしまうのだ。本当にハマりこんでしまっているなと、タクトは歩くスガタの隣で苦笑した。
特別教室へ向かう途中の廊下、この時間は人通りもなく、逢い引きをするには絶好の場所。壁を背にふたりでもたれて、少しの沈黙が流れる。
「タクト、昨日のこと覚えているんだろうな」
「え、なんで今さらそこなんだ?」
少し前から感じていた、スガタの不機嫌そうなオーラ。タクトは思わず振り向いて、彼の横顔を眺めた。
「覚えているならいい。お前からなんのアクションもなかったからな……無効なのかと思っただけだ」
「えっ、僕から……?」
驚いて息を飲む。タクトが思っていたそのままが、なぜスガタの口からも発せられるのだろう。
つまりはふたりともが、お互いからのアクションを待っていたらしい。
「ぼ、僕はその……よく分からないしさ。スガタは慣れてそうだったし、任せようかなって思ってたんだけど」
「なぜ僕が慣れていると思うんだ」
「スガタだから」
それ以外に理由なんてないよ、とタクトは続ける。スガタはその答えに不満なのか、眉を寄せた。
きっと理由を探せば、学園でもモテるからとか、許嫁までいるんだしとか、いろいろ出てきそうではあったが、タクトにはそこまで頭が回らなかった。
「分かった。タクトがは具体的にどうしたいのか訊きたかったんだが、無駄だろうな」
「具体的にって」
「今シンドウ・スガタを作り上げているのはお前だ。タクトは何を望んでる? 僕はその通りに演じてやる」
タクトは答えにつまる。
具体的なことなんて、あの時は考えていなかった。そもそも受けてくれるなんて思わなかったし、スガタとどうしたい、なんて訊かれても困ってしまう。
「普通って、どうすんのかな……? デートしたり、電話したり……メールしたりさ、たぶん……そういうの」
俯いて、タクトは頬を染めながら呟いた。
スガタとそんな関係になるなんて考えつかないのに、口唇は動いてしまう。
「デート、……ねえ……。じゃあ手始めに今日の放課後、だな」
「えっ!?」
いいのかと口には出さず、勢いよく上げた顔と、振り向く視線で訴える。その仕種には、スガタの方こそ驚いてしまった。
「予定が入っているのか? 明日でもいいけど」
「なっ、なななな、ないけどっ、でも、あの」
「じゃあ問題ないな」
「えっと……」
タクトは、ややあってうん、と頷く。予定は入っていないけど、スガタにデートと言葉にされると気恥ずかしくて、困ったように笑った。
「あと、確認事項がいくつか」
「な、なに?」
「ワコには言ってない。それでいいか?」
言うなよと暗に告げる鋭い視線が、タクトを突き刺す。ズキ、と心臓が痛んだ。
それでいいよと返す端で、やっぱりワコが好きなのかなあと拳を握る。
特に正式な約束を交わしているわけではないと聞いているが、あのふたりがお互いを大事にしているのは目に見えて分かる。
演技とはいえ男の恋人役なんて、それを裏切るようで後ろめたいのだろうか。
「恋人としては、優しい方がいいのか? それとも、イジめられたいタイプ?」
「いつものスガタでいいよ。変に優しくされても気味が悪い」
「ハハ、そうだろうな」
笑うスガタに、タクトの胸が跳ねる。あれも演技だろうか、それとも本当に笑ってくれているのだろうか。
「そして、あとひとつ」
伏せられた目蓋が、すっと持ち上がる。まっすぐに射抜いてくる瞳からは、視線を逸らせなかった。
「タクト、どこまでする?」
「どこまでって?」
「たとえば」
ぐいと腕を引かれる。
「キスとか」
呼吸が触れるくらいの位置で、スガタの呟き。
タクトは意味を理解して、頬を真っ赤に上気させた。
「スッ、スガタ!」
思わず、彼の胸を押しやる。シャツ越しに触れた体温に、また胸が跳ね上がった。
「……こういうのはナシってことでいいのか? 子供だましだな」
「あっ、あの、今のはちょっとビックリしただけで! だって、スガタがまさかそんなの……」
してくれるなんて思わなくて。
口にできない。今自分の身に起きていることが、理解しきれなかった。恋人役を演じてくれと頼んだのは自分だが、
「こ、恋人なんだし、そういうのはアリだよな」
どこか他人事のように思っていた。
それなのにスガタは、演じてくれている。嬉しくて泣きたいのか、悲しくて泣きたいのか分からないまま、タクトは自嘲気味に笑った。
「イくとこまで、イッちゃおうか」
それならこちらも、合わせて演じるだけだ。
シンドウ・スガタに恋する、少年を。
「段階は踏むぞ、タクト」
「徐々にってことで」
「ああ」
視線が離せない。タクトはスガタの金の瞳を見つめながら、本当に綺麗だなあと心で思った。
「タクト、目」
「……うん」
閉じろ、と最後まで言わないスガタに、閉じたくないと言えばよかったと、タクトは目蓋を下ろしながら考える。そうしたら、ずっと見つめていられたのに。
スガタの両手が頬を包んで、引き寄せてくれる。早鐘を打つ心臓を押さえようかとも思ったけれど、その前に重なった口唇に、意識を全部もっていかれる。
思っていたより少し硬い、スガタの口唇。
―うわ、あ……っ。
押しつけるようなスガタのキスに、ドキドキとソワソワが重なる。
腕を背中に回そうか、それとも首にしがみつこうか。
考えているうちに口唇は離れていき、少しだけ不満に思う。
「……ふぅん……」
「な、なに」
「いや、緊張してるあたりが…面白いなと」
カッと頬の熱が上がる。口唇が触れたのだ、タクトの緊張など容易に知れたことだろう。
―スガタばっかり余裕でズルイ!
もっともそれはスガタのせいではないけれど、多少の八つ当たりくらい、心の中でなら許されるだろう。
「タクト、あの時の答え……聞いてなかったな」
「え? なんかあったっけ?」
「人工呼吸はキスのうちに入るか」
出逢った日、スガタはタクトにそう訊いた。
「……どうだろ、入るのかな…。でも意識がない状態ならそれは……僕の知らないキスだから、……ナシ? かな?」
スガタの意味心な言葉に首を傾げつつも、タクトは真剣に考え込んだ。初めてのキスくらい、好きな人としてみたい。
「じゃあ、お前にとっての初めては、僕か。よかったのか?」
「えっ……」
タクトのその願いは、ついさっき叶えられた。もちろんスガタはそんなこと、気がついていないだろうけれど。
「ス、スガタならいいよ」
肩を竦めて、おどけてみせる。
ツナシ・タクトの初めては、シンドウ・スガタにもっていかれた。その事実だけで充分だ。
「そう。面白いことを教えておいてやるよタクト」
そろそろ昼休みが終わる。教室へ戻ろうと、スガタは踵を返す。タクトもそれに続こうとして、途中で足を止められた。
「僕が知る限りじゃ、キスをしたのはお前が初めてだ」
「え」
それだけ言って、スガタは何もなかったようにスタスタと歩いていく。
タクトは頭の中でその言葉を繰り返して、意味を探って、理解してボッと頬を染めた。
―ファ、ファーストキス!? ファーストキス、くれたの!? なにあいつ、ほんとどうしよう、やられた…!
力が抜けて、思わずガクリと膝を折って床に手をつく。
キスができただけで死にそうなくらい幸せなのに、シンドウ・スガタはとんでもない爆弾を落としていった。
ぎゅっと目を閉じて、幸せをかみしめる。
演技でいい、傍にいさせてほしい。
嘘でもいい、傍にいてほしい。
―ちくしょう、好きだよスガタ……!
チャイムが鳴っても動くことができずに、タクトは結局五時限目をサボることになる。
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