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これはまるで永遠に

NOVEL,テニプリ,塚跡 2023.09.09

#両想い #ラブラブ #新テニ #未来設定

 手のひらを翳して、改めて薬指の指輪を認識した。 婚約したのか、とどこか他人事のように思う。あまり実…

NOVEL,テニプリ,塚跡

これはまるで永遠に


 手のひらを翳して、改めて薬指の指輪を認識した。
 婚約したのか、とどこか他人事のように思う。あまり実感が湧いていない、というのが本当のところだった。
 何しろ、婚約者である手塚とは、月に一度逢えれば良い方だ。手塚国光はプロのテニスプレイヤーとして、トレーニングや試合で多忙な日々を送っている。一方、跡部景吾も事業を展開する傍らプレイヤーとして日本テニス界を背負う立場。
 ドイツと日本では、遠距離恋愛もいいところだ。同じ国に住んでいてさえ、多忙を極める自分たちが逢瀬を重ねるのは非常に難しいのに、国を超えてまでというのは、さらに難題になってくる。
 恋人らしい過ごし方など、あったかどうか。
 いやさすがにまったくないというわけではない。もっぱら跡部からではあるが、電話だってしていたし、近況を報告しあって、甘い言葉を囁いた日もある。
 初めて夜を一緒に過ごしたのは、二ヶ月前。手塚が親善試合のために日本に来た時のことだ。
 かつてのチームメイトたちに囲まれて、嬉しそうな顔をしていたのは見えた。対戦者同士であることからあまりなれ合うのはな、と思っていた跡部を「借りるぞ」と氷帝メンツの中から引っ張り出した手塚に、周りが驚いてたのも覚えている。
 後が大変そうだと眉を寄せたが、一緒に過ごせるのは嬉しかった。手塚の方からのアクションは珍しかったし、強引なところも変わっていなくて安堵したくらいだ。
 まさかその夜、というのは、考えていなかった――わけでもないような。
 期待はあった。体を繋げるまではいかずとも、もう少し恋人らしいことをできたらいいと。もう少し一緒にいたいと言ったのは跡部の方で、手を引いて部屋に引っ張り込んだのは手塚の方。
 翌日に試合が控えていたおかげで、お互いハメを外しすぎることはなかったが、うまくできたとは思う。
 
「そっから二か月で婚約って……早すぎんだろ……」
 
 顔が火照る。ベッドに寝転がったまま、左手の甲で目元を押さえた。
 
「何を言っている跡部。口約束とはいえプロポーズしてから三年ほど経っているが」
 
 グラスにシャンパンを注いでくれた手塚が、ため息交じりにそう呟いてくる。日本の法律上、十八歳では飲酒はまだできず、当然ながらシャンパンはノンアルコールだ。
 跡部はベッドの上で体を起こし、グラスを受け取って喉を潤す。風呂上がりのシャンパンが最高なのは変わりないが、傍に恋人――もとい婚約者がいるということに、幸福さが上乗せされた。
 
「いやあれがプロポーズとは思ってねえ」
「お前はそうかもしれんが、俺の中ではそうなんだ。お前の都合など知らん」
「おい相変わらず身勝手だなテメェはよ。あの時は本当に突然だったじゃねーの」
 
 むっとした表情の手塚に空のグラスを押しつけて、口の端を上げる。そもそもの始まりは、手塚の突拍子もない言葉だった。
 
『俺がプロになったら、結婚しないか』
 
 今思い返しても突然で、強引である。何しろその時、お互いの間にそういった関係性はなかったのだから。ライバルで、友人で、当時は日本選抜中学生チームの仲間というだけだった。それなのに、渡独のチャンスが巡ってきていた手塚の背中を押してやったその日、電話越しに言われた言葉がそれだった。
 呆れ返ったが、恋情に気づいた当日に結婚の打診をしてくる愉快さと強引さと、断られるとは思っていない傲慢さに、納得してしまう部分があったのも確かだ。
 
『跡部とは、そうなるのが自然で、当然のことのように思う』
 
 と言われたが、それは今も思う。そんなだから、あのプロポーズもどきを受け入れられたし、手塚への想いにも気づくことができたのだ。
 
「後悔しているのか」
「そんなわけねーだろ。あんまり実感がねえってだけで。恋人として過ごした時間がないってこともあるんだろうが。……嬉しかったぜ? 大事な話があるって言われて来てみりゃあ、夜景の綺麗なレストランで正式なプロポーズときたもんだ」
 
 プロポーズをされたのは、小一時間ほど前だ。このホテルの売りである展望レストランで、指輪を差し出された。またベタなシチュエーションだなと思ったものだが、同時に手塚らしくないとも思った。
 
「誰の入れ知恵だ? 怒らねーから言ってみろよ」
「入れ知恵とは人聞きが悪いな。大石たちに少しアドバイスをもらっただけだ。というか、青学と氷帝のメンツだな……」
「……………………なるほどね? ということは俺たちの関係がアイツらに知れ渡ってるってことだな?」
「隠す意味が分からん」
 
 手塚は腕を組んで、心の底から分からないと目を細める。別に隠していたわけじゃないと跡部は訂正を入れた。聞かれないから言わなかっただけだ。もっとも、何人かは気づいていて聞いてこないのだろうとは思っていたが。
 
「式にはアイツらも呼ぶし、まあ問題ねえよ。からかわれんのはいただけねーがな」
「お前たちは本当に仲が良いな」
 
 そっちもだろうと言い掛けて、確かに手塚を『からかう』のは難しいかもしれないと思い直した。このクソ真面目な朴念仁をからかったりできるヤツなどそうそういない。不二や、もしかしたら幸村あたりなら可能だろうか。
 そして、跡部景吾。
 
「妬けるか?」
 
 ニヤニヤと楽しそうに手塚を見やれば、
 
「なぜだ? お前が氷帝のヤツらを大事に思うのは当然だし、逆も然りだ。嫉妬する理由がない」
 
 予想通りの答えが返ってきた。跡部はそれに満足して、両腕を広げて手塚を呼び寄せる。
 
「自信満々だなあ、手塚よ」
 
 歩んできた手塚の首に腕を回して、そのまま二人でベッドに倒れ込む。この男が嫉妬しないというのは、跡部からの愛情をきっちりと認識しているせいだ。
 
「お前だってそうだろう」
「まあな」
 
 そしてそれは、跡部にも当てはまることである。手塚がこの世界のどこで何をしていても構わない。いっそ忘れていたっていいのだ。こちらは勝手に全力で愛するだけだから。
 
「ほら手塚、いくら夜は長くても、これ以上俺様を焦らすんじゃねえよ。存分に愛されとけ」
「こちらの台詞なんだが。全力で愛されていろ」
「言うじゃねーの手塚ァ、俺様は負けねえぜ?」
「……勝つのは、俺だ」
 
 むずがゆい若干の違和感を、キスで拭い去る。
 きっとこんなやり取りが永遠に続いていくのだろうと、二人は長くて濃密な夜を過ごすことになった。


#両想い #ラブラブ #新テニ #未来設定

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ともに在るひとへ

NOVEL,テニプリ,塚跡 2023.09.04

#両想い #ラブラブ #新テニ #本誌ネタバレ

スペイン戦 勝敗についてネタバレあり続きを読む 物足りないと思いつつ、触れるだけで、離れた。わずかに…

NOVEL,テニプリ,塚跡

ともに在るひとへ


スペイン戦 勝敗についてネタバレあり




 物足りないと思いつつ、触れるだけで、離れた。わずかに下にずれる視線の先には、満足そうに笑う跡部景吾の顔があった。

「機嫌がいいな、跡部」
「そりゃあな」

 U-17W杯決勝戦、跡部は見事に勝利を収めた。手塚はいてもたってもいられず、チームの皆に声をかけてから日本チームのベンチ傍までやってきていた。試合を終えた跡部がそれに気がつき、勝者を称えるメンバーをやんわりと押しやって、こっそり抜け出してきてくれたのだ。
 もっとも、事情を知る者たちにはバレていたようだが。そこはそれで、「シィ」と指先を唇に当てて口止めをしていたようだが、きっと後でからかわれるのだろうなと手塚は思う。

「また強くなったな」
「そうだろ。俺様は常に進化し続けてんだよ」
「恐らくプロのスカウトが来るだろう。受けるのか?」

 気が早ぇよと跡部が笑う。しかしそうおかしな話でもないように思った。あんなにすさまじい試合をしたのだ、会場に来ているプロチームのコーチたちの目にも止まるだろう。技術はもちろんのこと、観客を沸かせるパファーマンスとオーラだって、申し分ないはず。
 オーラはともかく、パフォーマンスにおいてはこの男に勝てないだろうと思う。観客を沸かせるというのは、プロの試合において時折必要とされるものだ。熱狂がどれだけ周りを巻き込み、かき回すのか、手塚はよく知っている。特に、財閥の御曹司として事業に携わっている跡部ならその重要性も理解できるはずだ。

「でもまあ、条件とタイミングだな。すぐに追いかけるって言っただろ」
「ああ、楽しみだ」

 数日前、ネット越しとはいえ目の前で膝をついていた男とはても思えない。自信に満ち満ちて、さらに王者の貫禄を身につけたのではないだろうか。

 誇らしいとともに、末恐ろしい。
 この男はいったいどれだけ自分の人生に食い込んでくるのだろう。

 同じほどの熱量で、同じほどの技量で、この世界で共に在る男。プレッシャーを何度も何度も乗り越えて、今ここに在る。
 その男の青い瞳に、自分だけが映っているという事実の、なんと滾ることか。
 体が疼く。胸が逸る。本当なら自分が彼と対峙したかったとさえ思うが、先程の跡部景吾はロミフェルにしか引き出せなかっただろう。
 だが、そうして強くなった王とまたいずれ戦えるだろう未来が楽しみでしょうがない。

「なんだ手塚ァ。お前こそご機嫌じゃねーの」

 顔には出ていないと思ったのだが、跡部には分かってしまうようだ。共に過ごした時間は実のところそれほど長くないのに、きっと魂が似ているせいなのだろう。

「……久しぶりだしな」
「アーン? なに言ってんだ、ヘリでのランデブー忘れたかよ?」
「そうじゃない。キスをするのがだ」

 確かに焼肉バトルの際にヘリで一緒に過ごしたが、二人きりというわけではなかったし、トラブルもあってゆっくりとした逢瀬ではなかった。とはいえこれがゆっくりとした逢瀬かと言うとそうでもないが、唇に触れられたのは久しぶりだった。
 跡部はぱちぱちと目を瞬いて、ふっと口の端を上げる。

「こんなところで隠れて俺様とキスなんて、イケナイ部長だな?」
「……元、だろう。お互いに」

 跡部の指先が、顎をついと撫でる。分かりやすい煽り方だと思いつつ、それには乗ってやることにした。
 顔を寄せて、先程よりもしっかりと唇に触れる。覚えてしまっていた感触を久しぶりに味わって、下唇を挟むように食んだ。背中に回された腕に強く抱き寄せられて、唇がさらに押しつけられる。

「ん……、……手塚」

 コートの中ではあんなにも格好良いのに、この腕の中ではとてつもなく可愛らしくなる。どうしてくれようこの男、と半ば八つ当たりのようにも背を抱き、汗で濡れたユニフォームに皺を作ってやった。

「っふ……」

 あとべ、と名を呼ぶように唇を動かせば、やんわりと開く。舌先を滑り込ませて押し込んで、捕らえた。くすぐったそうな呼吸が鼻から抜けていくのを聞いて、口の中で舌を絡め合う。吸い上げて、唾液を飲み込んで、髪を梳く。背を撫で、腰を抱き寄せては舌を軽く噛み合う。
 キスの仕方は変わっていないなと、お互いが思っていることだろう。そんなに長い期間離ればなれになっていたわけでもなし、変わる理由もないのだが。
 キスの温度も、キスの意味も、言葉にする必要もないくらい今までと同じ。違うのは、着ているユニフォームくらいだろうか。
 頬を撫でて、唇を離し、また覆う。
 何度そうしただろう。さすがにこれ以上はまずいと、コツリと額をぶつけ合わせる。

「そろそろ、戻るぜ」
「ああ。皆によろしく」
「アイツらには逢っていかねえのかよ。薄情な男だな」
「日本が優勝したら、また祝いを言いにこよう。今はただ、お前に」

 激闘を繰り広げた跡部の右手首に、キスを贈る。「どこで覚えた」などと照れくさそうな声が向かってきたが、教えたのはお前だと思うが――などと野暮なことは言わず、観客席へ戻ろうと手塚は跡部に背を向けた。
 ポケットで震えたスマートフォンに、「帰国前の自由時間、よこせ」とメッセージが入ってくる。顔だけで振り向けば、そこには〝キング〟としてベンチへと向かっていく恋人の背中。手塚は頷き、「分かった」と返信した。

 果たしてテニスになるかそれとも恋人同士の夜の逢瀬になるのか。
 どちらでも楽しみだとこっそり口の端を上げながら、手塚もチームメイトの元へと向かった。


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#両想い #ラブラブ #新テニ #本誌ネタバレ

ff-フォルティッシモ-
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ff-フォルティッシモ-

OFFLINE 2023.07.23

#塚跡 #片想い #新刊サンプル #シリーズ物

(画像省略)ff-フォルティッシモ-【装丁】文庫サイズ/128P/全年齢/700円【書店通販】フロマ…

OFFLINE

ff-フォルティッシモ-

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ff-フォルティッシモ-


【装丁】文庫サイズ/128P/全年齢/700円
【書店通販】フロマージュブックス様予定
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/
【あらすじ】跡部に恋を告白されたが、当然受け入れるつもりはない手塚。「どうしろと言うんだ」と訊ねれば「どうもしないでいい」と返され、ならばいいかとドイツ語を教えてもらうことになる。そんな中で、跡部のために良かれと思って取った行動が彼を傷つけてしまった――。
【ご注意】続き物の1冊目/うちの青学メンバーは氷帝メンバーと仲良し/※※描写はしてませんが、忍→岳の設定がありますので、苦手な方はご遠慮ください※※







 跡部が訪ねてきたのは、まだ暑い九月のことだった。
 元テニス部の三年生たちで図書館に行こうという話になった日。部を次世代に託し、一応の引退をした手塚たちは、勉学に励んでいた。
 さしあたって月末のテストに向けて勉強をしないかという意見と意欲には賛成だ。学校の図書室は他の生徒もたくさんいて机が足りず、町立の図書館へと連れ立って学校を出ようとした時、いつもと違うざわつきがあるのに気がついた。
「校門がやけに騒がしいね」
「そうだね、何かあったのかな?」
「俺ちょっと見てくる!」
 ざわざわというよりはそわそわと落ち着かない女生徒たちが多い。まるで縁遠い芸能人にでも遭遇したような様子だ。その原因を確かめるべく、菊丸が駆け出していく。慌ててその後を追う大石の姿も、もう見慣れた光景だった。
 フットワークが軽いと言えばいいのか、好奇心が旺盛と言えばいいのか。もう少し落ち着かないものだろうかと、手塚もその様子を眺める。「あー!」と菊丸が声を上げた後、大石が驚いたような顔をして、次いで笑顔になった。
「知り合いだった確率百パーセント」
「誰だろう? 他校のテニス部とかかな」
 乾が眼鏡のブリッジを押し上げる。河村がその隣で首を傾げた。
 それならば自分たちも顔見知りである可能性が高い。挨拶程度はした方がいいだろうと、手塚は足を踏み出した。
「あ、来た来た手塚。お客さん」
 歩み寄る手塚に気づいた大石が、校門の外側にいる人物を指さして振り向いてくる。「俺に?」と手塚は不思議そうに声を上げた。まるで心当たりがないが、自分に用なら聞かなくてはと外へ身を乗り出す。
「――よう、手塚」
「…………跡部」
 そこには、顔見知りどころではない相手が佇んでいた。
 氷帝学園テニス部部長、跡部景吾その人である。
 なるほどそれでこの騒ぎかと納得もした。その整った容姿だけでなく、財閥の御曹司という肩書きまで持っているのだから、女生徒たちが色めき立つのは分かる。
「あまり騒ぎを起こすな」
「俺のせいじゃ、…………まあ俺様のせいか」
 むっとして眉間にしわを寄せる跡部だが、周りの状況を把握して呆れと諦めとで笑い、人差し指に口づけて投げてやる。周りにいた女生徒たちは悲鳴を上げて、腰を抜かす者までいた。
「跡べーすご……」
「大丈夫かなあ、保健室運んであげたほうがいいかもしれないね」
「大丈夫だよタカさん、余韻に浸らせてあげよう」
 その様を、若干引き気味に眺める元レギュラー陣たち。手塚は腕を組んで、じっと跡部を見やった。
「騒ぎを起こすなと言ったはずだが」
「あー悪い、氷帝じゃこれくらい日常茶飯事だからよ……」
 素直に非を認める跡部に、いささか驚く。自分本位なのは相変わらずだが、引き際というものはわきまえているのかと気まずそうな顔を眺めた。しかし、いったい何の用だろうか。わざわざ青学にまで来るのだから、よほど重要な案件なのかもしれない。
「それで、何の用だ」
「……ちょっと、いいか、手塚」
「この後皆で勉強をすることになっている」
「そんなに時間取らせねえよ。十分……いや、五分でいい。空けろ」
 下手に出ていたかと思えば、強引に時間を空けろと言ってくる。まるで叶わないことなどないというような風情だ。財閥の御曹司であることから、あながち間違いでもないのだろうが、そんなになんでもかんでも簡単にいくとは思わないでほしい。なぜかこの男を前にすると体の中にメラリと炎が揺らめく。
 きっと、あの試合のせいだろう。
 関東大会初戦、シングルス1。それまで跡部に抱いていたイメージはことごとく壊され、印象深いものになっていた。
 もう一度対戦したらどうなるだろうか。そんなことを考えているせいか、素直に聞いてやりたくない思いがわき上がってくる。
「今日でなければいけないのか。俺の都合も考えろ」
 約束も何もなしに突然訪ねてきておいて、有無を言わさずというのはいただけない。大石たちとの勉強会の方が先約だ。
 それでも強引に腕を引くのだろうと思っていたが、跡部の視線が下を向いたのに気がつく。そういえば約束もなにも、個人的な連絡先を交換しているわけではなかったと思い出し、やりようがないのだと悟った。
「悪い、出直す。明日なら――」
「手塚、俺たち先に行ってるから。聞いてやれよ」
 背後から、大石がぽんと肩を叩いてくる。すでに図書館の方向へと足を向けている者もいて、大石もそれを追うようだった。
「わざわざ青学まで来たんだから、大事な用なんでしょ、跡部。手塚はそういうところ本当にアレだよね」
「融通が利かないっていうか、真面目っていうか。じゃあ、後で」
 ふふっと笑って不二が、肩を竦めながら大石が、先に向かった乾たちを追いかけていく。あの物言いは気にかかるが、分かったと頷く他にない。
 確かにわざわざ出向いてきたのを突っぱねるには「対戦校の部長だから」という言い訳がもう通用しない。跡部も引退して次代に引き継いだのだ、公式試合で当たることはなくなった。
「……お前いつもこんななのか?」
「こんな、とは?」
「他人を寄せ付けねえよな。俺だけってわけじゃねえみたいだが」
 手塚とは反対方向に歩いていく楽しそうな背中を眺め、跡部が静かに口にする。寄せ付けないという言葉が重くのしかかってくるようだった。
 確かに他人に興味を持つ性質(たち)ではないが、今の態度がそう思わせたのならば仕方がない。優先したい順番の問題なのだが、改善しなければいけないだろうかと跡部を見やる。
 友人とまではいかないにしろ、単なる顔見知り程度ではないのは確かだ。テニスの腕はすごいし、そういう意味では注目している相手でもある。
 今夏の大会で、全体を通していちばん印象に残っている相手だというのに、先ほどの態度は良くなかったなと心の内で反省した。
「すまない。どうも他人との付き合いが上手くないようでな」
「別にいいさ。テメェはテニスに一直線てだけだろう。それで、手塚。話なんだが、……ここじゃちょっと言いづらい」
 別にいいと軽く受け流してしまう跡部は、器が大きいのかそれとも気に留めるほど関心がないのか。それはどちらでもいいが、周りに目を向けると確かに煩わしいほどの視線を感じる。ちらちらともったいぶった視線は跡部に向かっており、雑談程度でも難しそうだ。
「車待たせてんだ。中で話せるか」
「分かった」
 ホッとしたような跡部について行くと、想像していたような大仰な車ではなかった。高級車ではあるものの、人気の高い国産車。目立つのが好き――というよりはどうしても目立ってしまう跡部にしてみたら、随分と大人しい訪問だ。
 何か深刻な相談でもあるのだろうかと、少しばかり緊張した。
 運転手に後部座席のドアを開けられ、跡部に促されて車内に入る。
 ゆったりとした空間は、しかし落ち着かなくさせた。反対側から跡部が乗り込んできて、ふうーと息を吐く。このままどこかへ移動するのかと思ったが、運転手はドアの外で待機したままだ。
 不思議に思って跡部を振り向くと、険しい顔をしている。
「他人に聞かれたくねえ」
「……そんなに深刻なことなのか? なぜ俺に」
 テニスに関わることなのだろうかと、心臓が嫌な音を立て始める。
 もしかしたらどこかに故障を抱えてしまい、今後プレイができなくなるとかだとしたら。
 ――――跡部がプレイできなくなる?
 そう考えた瞬間、冷水を浴びせられたような気分に陥った。あの強気でがむしゃらなプレイが見られなくなるのか? ボールを受けることが、打球を返すことができなくなるのか。
 それは、いやだ。
 そもそもなぜそれを自分に告げようとしてくるのか。肩を痛めた経験があるから、何かアドバイスを聞きにきたのかもしれない。手塚は、視線だけで自身の左肩を見やり、あの日の試合を思い起こした。
 チリ、と焼けるような熱さを指先に感じる。ラケットを握りたい。隣にいるこの男とは、今度いつ試合ができるだろうかと考えてみたりした。
 だが跡部は、何も言おうとしない。重苦しい空気が流れる。じれったい緊張が、手塚に拳を握らせた。
「跡部、五分だ」
 静かに言い放つ。校門のところで逢って「五分」と言われた時から、すでに時間が経過している。正確に計っているわけではないが、それくらいは経っているだろう。まだ用件を何も聞いていないが、五分と言ったのは跡部の方だ。このまま無為に過ごすような暇も義理もない。
 ドアを開けようと手を伸ばした手塚を遮るように、跡部が口を開いた。
「お前が好きだ、手塚」
 振り向きもせず前を見据えたまま、険しい顔で唐突に告げられる、好意。手塚はノブに伸ばしかけた手を引っ込めて、跡部を振り向いた。
「……それは、どういう種類の好意だ」
「恋愛感情だよ。わざわざ言うんだから分かるだろうが」
 告げたことで開き直ったのか、跡部の肩から力が抜けたように思う。手塚はひとつ瞬く。恋愛感情、と頭の中で反芻して、理解をした。
 理解はしたが、それと跡部の気持ちに応えることは別だ。
「そうか」
 ただそう頷く。誤解をされるだろうかと一瞬ひやりとしたが、跡部はそんな手塚の様子にふっと笑った。
「へぇ……そういう反応すんのか。てっきり意味が分からないとあしらうもんだと思ってたが」
「意味は分かるが理由が分からない。だが説明も要らない。どう言ったところでお前のそれは変わらないんだろう。聞いても無駄だ」
「そうだな。俺の中の事実は変わらねえ」
 片方の口角だけが上がる。だいぶいつもの調子に戻ったように見えて、重苦しかった空気の理由を知った。どう告げようか迷っていたのだろう。その割にはなんともシンプルなものだったが。
「それで、お前は俺にどうしろと言うんだ、跡部」
 面倒なことだと思う。
 まさか跡部にそんな感情を抱かれるなんて、思いも寄らない。これは確かに他人には聞かれたくない話だ。跡部が運転手さえ遠ざけた理由が分かった。
 これまで好意を告白されたことがないわけではない。それはもちろん女性からだったが、判を押したように交際したいと望んでくる。それは自然な願望であり、仕方ないとも思うのだが、断るのが面倒くさい。
 では断らずに交際をすればいいというわけでもなくて、テニスに打ち込みたい今、そういったものは煩わしい以外の何者でもないのだ。
 この男も、好きだから交際してほしいなどと言ってくるのだろうか。できるわけがないと思っていることは、態度で察してほしい。
「……別に、何もしねえでいいが」
 それを明確に察したのか、本音なのか、跡部はそう返してきた。手塚はわずかに目を見開く。何もということは、交際も、傷つけないようにと気を揉むこともしないでいいというのだろうか。
 望まないでほしいと思いながら、望んでこないとなると肩透かしを食らった気分だった。

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#塚跡 #片想い #新刊サンプル #シリーズ物

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少し未来の話だけれど

NOVEL,テニプリ,塚跡 2023.07.04

#両想い #ラブラブ #未来設定 #本誌ネタバレ

本誌ネタ:瑛子様ご登場続きを読む いつものように相づちを打ちながら隣を歩く。 別に聞いていないわけで…

NOVEL,テニプリ,塚跡

少し未来の話だけれど


本誌ネタ:瑛子様ご登場


 いつものように相づちを打ちながら隣を歩く。
 別に聞いていないわけではないし、興味がないわけでもない。ただ単に、手塚が跡部の声を聞いていたいというだけだ。適当な相づちに不機嫌になるわけでもなく楽しそうにいろいろなことを話す跡部の声を聞くのが好きだ。そこに自分の声は必要ないと、手塚は思っていた。
「今日ウチ来るだろ?」
「……ああ」
「フ、こういう時だけきっちり返事しやがる。すけべ」
「脈絡がないな。なぜそうなる」
「期待、してんだろ?」
 んー? と綺麗な指先で顎を持ち上げられる。手塚は視線を逸らすことなく、むしろまっすぐに見つめて瞳で肯定してみせた。恋人から家に来るだろと言われて、期待をしないわけがないだろうと。
「お前が嫌ならしないが」
「ばぁか、だったら誘わねーよ」
 そう言って笑う跡部を、今日はどうやって隅々まで堪能してやろうかと思っていた矢先、すっと静かな音で車が停まった。詳しくない手塚でさえ、高級車と分かる物がだ。
「……あれ」
 跡部がそれを振り向き、目を瞬く。車の窓が開き、中から黒髪の美女が顔を出した。
「景吾」
 跡部景吾を呼び捨てにする者は少ない。親しげな様子から、知り合いかと認識しかけて、手塚は目を瞠る。跡部に似た顔立ちの美女……いや、この場合は美女に似た顔立ちの跡部、になるのだろうかと思考を巡らせた。
「母さん」
 跡部は美女に向かってそう声をかけ、手塚はああやはりそうだったかとわずかに体を強張らせた。
「どうしたんですか。イギリス(こっち)にいらっしゃるとは思いませんでした」
「仕事で、少しね。あなたも今こちらにいると聞いたのよ」
「電話してくれれば俺が行きましたが」
「いいのよ。おかげで楽しそうなあなたが見られた」
 美女――跡部の母親の視線が、チラリと向かってきたのに気づき、手塚は軽く会釈をした。美女は優雅な仕種で車を降り、跡部の横に並んだ。
 そうやって隣で並ぶ姿を見ると、容姿以上に圧倒的なオーラがそっくりだなと感じる。
「手塚、俺の母だ」
「景吾の母の瑛子です。初めまして。――手塚国光くんね」
 名乗る前に名を言い当てられて、手塚は驚く。え、と跡部が小さく声を上げたところを見るに、彼も想定外だったらしい。
「手塚です、初めまして」
「写真で見るよりずっといい男ね。景吾と仲良くしてくれて嬉しいわ。彩菜さんはお元気かしら」
 写真? と首を傾げたかったが、それよりももっと気に掛かることがある。
「俺の母をご存じなんですか」
「ええ、知っていてよ。よく、ね。……ああ、ごめんなさい、今日は少し時間がないの。また今度ゆっくりお話ししたいわ」
 車から、秘書らしき女性がそわそわと見つめてきているのに気がつき、瑛子は時計を確認する。息子と同様、母親も多忙そうだ。手塚ははいと頷き、息子を軽く抱きしめ挨拶をし、車に乗り込んでいく瑛子を見送った。
「相変わらず忙しそうだな。悪い手塚、突然で驚いただろう」
 肩を竦めて跡部が振り向く。やはり顔立ちがよく似ているなと思うと、改めて跡部の容姿の整い具合を認識できた。
「いや、構わないが……写真というのはなんだ。お前、まさか」
「写真なんて見せた覚えはねえ。テメェ自分が世界に名をとどろかせるプレイヤーだってこと忘れてんじゃねえだろうな。さっきだって空港で囲まれただろ」
「あれは半分以上お前のファンだろう」
「半々くらいじゃねーの。いや、まあ……母さんがああ言うってことは、プレイヤーとしての手塚国光じゃねえんだろうが……どっからオフショ手に入れたんだか……。クソ、俺も欲しい」
 普段であれば曖昧に相づちを返すところだが、手塚は手のひらを向けて跡部を制してみる。色々と不可解なことが多すぎだ。
「待て、どういうことなんだ」
「あの人は探るの得意だからな。何せ元スパイだ」
「……………………聞かなかったことにした方が良さそうだな」
 突拍子もない発言だ。だがしかしこの男が跡部であることを考えると、真実だっておかしくないと思わせる。となると、もしや家族の情報さえ手にされてしまっているのだろうか。好意的な態度ではあったのが幸いだ。
「手塚、彩菜さんとウチの母、たぶん同い年だ。どっかで逢ったことあんのかもな。フフッ、ロマンじゃねーの」
「なるほど。後で母に聞いてみよう。しかし、綺麗な女性だな。お前に良く似ていた」
「ん? そりゃ俺様が綺麗だって言ってんのと同じだぜ?」
「否定はしないが」
「……そうかい、ありがとよ……」
 跡部がふいと顔を背ける。五年も付き合っておいて、今さら何が恥ずかしいのだろうかと思うほど、跡部の顔が赤い。見ていて飽きないなと、手塚は目を瞬いた。
「前もって分かってりゃ、もっとちゃんと紹介したのに……」
「お前の行動が唐突なのはご家族譲りなんじゃないのか。俺も少し心の準備をする時間は欲しかった。緊張するものだな」
「緊張? って、なんでだよ。普通の人だぜ?」
 先程元スパイだと言った女性を捕まえて「普通の人」はないのではないだろうか。やはり跡部景吾の普通は普通ではない。手塚は短くため息を吐いた。
「緊張するだろう。将来俺の義母(はは)になる人だしな」
「アーン? なんでテメェの、………………っ手塚ァ!! テメェは毎度毎度、脈絡がねえんだよ!!」
「お前に言われたくない」
 頬の赤みをさらに増した跡部を放って歩き出すと、ややあって追いつき隣に並んでくる。シャツの裾を軽く掴んでくる恋人を見て、今夜はとびきり情熱的な時間を過ごすことになるのだろうなと手塚はひっそりと口の端を上げた。
 思わぬ出逢いと再認識した愛しさに。
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#両想い #ラブラブ #未来設定 #本誌ネタバレ

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ただいま

NOVEL,テニプリ,塚跡 2023.07.01

#両想い #ラブラブ #未来設定 #BOOST #永遠のブルー #情熱のブルー

発行物「永遠のブルー」・「情熱のブルー」の1エピソード 手塚が玄関のドアを開けると、いつもとは違う光…

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ただいま


発行物「永遠のブルー」「情熱のブルー」の1エピソード


 手塚が玄関のドアを開けると、いつもとは違う光景が目に入った。見慣れない靴が四足。リビングの方から、談笑している声が聞こえて、ああそういえば来客予定だったと思い出した。そのまま靴を脱いで整え、洗面所で手を洗う。そうしてからようやくリビングへと向かった。
「よう、お帰り手塚」
「ああ」
 ソファで出迎えてくれるのは、恋人である跡部景吾。もう慣れたと思ったが、いまだに胸が鳴る状況をどうしたらいいのだろう。
 手塚はソファへと歩み寄り、いつものように跡部へと手を伸ばす。顎を持ち上げれば跡部はそっと目を閉じてくれた。ふに、と優しく唇に触れて、すぐに離れる。心地良いいつも通りの感触にホッとした。
「へぇ……手塚って人前でそういうことするタイプだったんだ」
「いや俺ちょっとビックリしたんだけど……」
「俺らがおるん目に入っとらんだけとちゃうんか」
「別にボクらに牽制することないのに」
 ニヤついた滝の声音と、気まずそうな大石の視線。呆れた表情の忍足と不二。しまったと手塚は思った。彼らがいるのは玄関で認識したというのに、忍足の言うとおり目に入っていなかった。
「すまない、ついクセで」
 跡部に触れた口許を押さえ、客人の前ではしたないことだったと素直に謝罪する。
「クセになるほどしてるんだ?」
「まあつきおうとんのやから当然なんやろうけど、心の準備くらいさせてほしいわ……」
「悪いなてめーら。クセっていうか、約束みてーなもんなんだよ。帰ってきたらキスしようって」
 肩を竦める滝たちに、跡部がフォローを入れてくれる。それは確かに事実だった。ほぼ十年、お互いに長いこと片想いをしていた自分たちは、当然長いこと触れ合ってこなかった。想いが通じ合ってしまえばこんなにも自然なことのように思えるのに、相手と自分の世界を壊さないように、告げることを諦めてきたのだ。
 だから、触れたい思いとちゃんと伝え合おうという思いが、暗黙のルールみたいになってしまった。
「そ、そうなんだ……でもまあ、二人が幸せそうで安心したよ。俺、聞いた時に本当に驚いたんだ」
「フフッ、大石はあの時英二のお守りで大変だったものね」
「お守りって。観光は楽しかったぞ。その途中で不二から連絡きたからさぁ~」
 ウィンブルドン決勝戦。見事手塚が優勝を収めたあの日、滝と忍足は手塚の想いに気がつき、不二は跡部の想いに気がついた。まさか二人は両想いなのかと、お互いに情報交換をし合ったのだが、「十年も何をしているんだこの二人は」と呆れる気持ちの方が多かったようだ。手塚の気持ちを知っていた大石にも報告したら、絶句していたのを思い出す。
「越前もビックリしていたけどね」
「そうそう、パーティー参加できるの彼くらいだったから、手塚と跡部のこと見ておいてって頼んだんだよね」
「なにしてんだよてめーらは」
 仕方ないヤツらだなと肩を竦める跡部の隣に、手塚が腰を下ろす。仕方ないヤツらだと言いたいのは向こうではないのかと手塚は思うが、口には出さないでおいた。
「公表はしないのかい、二人とも」
 大石の言葉に、手塚は跡部と視線を交わす。考えていないわけではない。週刊誌にスッパ抜かれてあることないこと書かれるよりは、自分たちから公表しようと。
「いずれ、すると思う。俺たちだけの問題ではないので難しいんだ」
「時期を見ねえといけねえ。もしかしたら、引退する時になるかもな」
 なるほどねと四人が頷く中で、手塚はじっと跡部を見つめる。その視線に気がついた跡部が「なんだ」というように見つめ返してきた。
「そうなると一生公表できないかもしれないと思って。俺たちは生涯現役でいそうじゃないか」
「ハッハ! ジジィになっても現役か。いいなそれ、楽しそうじゃねーの!」
 高笑いをした跡部の指先が、手塚の顎を持ち上げる。客人たちが、あ、と言う間もなく、約束のようなキスが交わされた。
「いやホンマこっちにも気ぃ遣ってほしいわ……」
「親友のラブシーン見るとき程気まずいものってないよな……」
「写真撮って皆に送ってあげようかな……」
「景吾くん幸せそう……」
 それぞれが顔を明後日の方向へ向け、視線をそらしてやったのは、優しさなのか、それとも呆れだっただろうか。


#両想い #ラブラブ #未来設定 #BOOST #永遠のブルー #情熱のブルー

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″永遠″に封をする

NOVEL,テニプリ,塚跡 2023.06.25

#両想い #ラブラブ #結婚 #未来設定 #イベント無配

 右手でそっと指輪を持ち上げると、跡部がすっと左手を差し出す。 よく手入れされた綺麗な指だ。だけど、…

NOVEL,テニプリ,塚跡

″永遠″に封をする


 右手でそっと指輪を持ち上げると、跡部がすっと左手を差し出す。
 よく手入れされた綺麗な指だ。だけど、手のひらにはラケットを握ることでできるマメの跡があることを知っている。
 誇らしいなと、知らず口許が緩んだ。
 手塚は跡部の左手を支えるように己の左手を添え、指輪を通していく。やりやすいように力を抜いてくれているのが、まさに手に取るように伝わってきた。
 第二関節まではめ終え、跡部にもよく見えるように己の手を下側に移動させる。ゆっくりと薬指の付け根まで指輪を運び、位置を整えた。
 嬉しそうに口角が上がるのが、手塚の位置からよく見える。
 ひとつ瞬いた後に、幸福そうに見つめてこられて胸が跳ねたのは、気づかれただろうか。

 次は、手塚の番だ。
 跡部が、リングドッグを務めてくれた愛犬の背から指輪を持ち上げる。

「ありがとうな、マルガレーテ」

 優しく声をかけると、彼の愛犬はふすんと鼻先を上げて応え、おとなしく二人の足下に寝そべった。そこかしこから可愛いという声が聞こえて、跡部も嬉しそうだ。
 手塚は左手を腹の辺りまで持ち上げ、跡部がその手を取る。手塚がやったのと同じようにゆっくりとはめてくれて、手塚の薬指も揃いの指輪で飾られた。
 すでに身も心もつながっているのに、また新たな繋がりが生まれたような感覚に陥る。
 そしてそれは、跡部も同じように感じているらしい。自身の薬指と相手の薬指を見つめる瞳は、焼けるように熱かった。

「それでは、誓いのキスを」

 牧師の声に、どこかそわつく指先。手塚はひとつ瞬いて、跡部も一度瞬く。
 どうすると決めていたわけではないのに、お互い同じタイミングで利き手を持ち上げた。手塚は左手を、跡部は右手を。その手のひらを胸のあたりで重ね合わせてゆっくりと指を絡める。それと同時に顔を寄せ、鼻先を擦り合わせてから唇を触れ合わせた。
 参列者がシャッターチャンスを逃さないようにと、キスは長めに。
 誓いのキスは指輪で約束した〝永遠〟に封をするという意味もあるようで、ここは念入りにしておこうと唇を押し当てていたら、「長ぇ」と襟をつんつん引っ張られる。
 照れくさそうな表情をした跡部を目にして、手塚は満足げに小さく頷いた。

 そうしてふたりで牧師に向き直り、式が進行していく。
 生涯のパートナーであることを認めるという宣誓が行われ、サインをして、ふたりでバージンロードを歩む。家族に目で挨拶をし、互いを見つめ、参列してくれた友人たちの拍手に包まれて、式場を出た。

「なあ、ブーケトスも普通にやっていいのか? 参列者ほぼ男だが」

 主役がふたりとも男性で、歩んできた世界も同じとなると、そこで出逢った仲間が大半だ。女性がいても既婚者だったりする。

「……いいんじゃないか。そろそろ結婚話が出てくるヤツらもいるだろう」
「まあ確かにな。突然招待状が届いても驚かねーぜ」
「俺たち以上に驚かれることはないと思うが」
「ハハッ、違えねえ!」

 跡部は楽しそうにブーケを振る。これは幸村が育てた花だ。どの花にしようか、滝も真剣に考えてくれたらしい。不二はカメラマンは僕に任せてと張り切っていたし、披露宴や二次会にはかわむらすしにも世話になっている。余興は四天宝寺のメンツがものすごい乗り気らしい。
 今日の衣装は跡部のブランドで作った一点物で、一生の思い出になる。

「言いそびれていたが、似合うぜ手塚。惚れ直すの何度目だろうな」
「こういう格好は慣れないが……お前がそう言ってくれるのは嬉しい。お前も本当によく似合っている。綺麗だと思うし、格好良いとも思う」
「おいおい今日はやけにデレるじゃねーの。浮かれてんのか? アーン?」
「浮かれもするだろう、初恋の相手との結婚式だぞ」

 きゅっと手を握ると、跡部はわずかに目を瞠って嬉しそうに笑った。
「ああ、そうだな。ライバル同士、初恋同士。そんな相手と生涯一度の結婚式だ。俺も大概浮かれている」
「式で失敗したらどうしようかと思っていたが」
「俺がいくらでもフォローしてやるぜ」
「惚れ直すのは何度目だろうか」

 跡部を真似て告げた言葉に、声を立てて笑う。大切な人の笑い声は、なんとも心地良いものだ。

「さあ行くぜ手塚、招待客(ゲスト)のお見送りだ」
「ああ、油断せずに行こう」
 手を繋いで指を絡め、ふたりの新郎は式場から出てくる参列者に礼を述べるべく踵を返した。


#両想い #ラブラブ #結婚 #未来設定 #イベント無配

手塚と跡部の恋の話
手塚と跡部の恋の話

手塚と跡部の恋の話

OFFLINE 2023.06.25

#R18 #未来設定 #再録 #新刊サンプル #塚跡

(画像省略)手塚と跡部の恋の話【装丁】文庫サイズ/190P/R18/900円【書店通販】フロマージュ…

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手塚と跡部の恋の話

手塚と跡部の恋の話
手塚と跡部の恋の話



【装丁】文庫サイズ/190P/R18/900円
【書店通販】フロマージュブックス様予定
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/
WEBで公開しているSS、通販時のBOOSTお礼に書いたものなど集めました。書き下ろしはありません。

◆収録作品◆
それはまるで最初から
永遠の情熱に
恋を羽織る
おそろい (クリスマスには早いけど:その後/BOOSTお礼)
エイプリルフール
不意打ちのアイラブユー
贈る側のはずなのに1004
贈る側のはずなのに1007
その瞳に映るもの
唇が奏でる音は (BOOSTお礼)
指を絡めた後に (BOOSTお礼)
脱がせてやろうか?
共犯者たちのランデブー
始まりの合図
ここで重なり合うもの
次に逢うときは
キスを贈る
勝負はこれから
そのすべてを覚えたら
さくら、ひらひら
23182
五分間
五分間―その後―
恋の話をしよう (情熱のブルー:その後/BOOSTお礼)
GOOD NIGHT :Tezuka(永遠のブルー:その後/BOOSTお礼)
GOOD NIGHT :Atobe(永遠のブルー:その後/BOOSTお礼)

#R18 #未来設定 #再録 #新刊サンプル #塚跡