- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.608, No.607, No.606, No.605, No.604, No.603, No.602[7件]
″永遠″に封をする
右手でそっと指輪を持ち上げると、跡部がすっと左手を差し出す。
よく手入れされた綺麗な指だ。だけど、手のひらにはラケットを握ることでできるマメの跡があることを知っている。
誇らしいなと、知らず口許が緩んだ。
手塚は跡部の左手を支えるように己の左手を添え、指輪を通していく。やりやすいように力を抜いてくれているのが、まさに手に取るように伝わってきた。
第二関節まではめ終え、跡部にもよく見えるように己の手を下側に移動させる。ゆっくりと薬指の付け根まで指輪を運び、位置を整えた。
嬉しそうに口角が上がるのが、手塚の位置からよく見える。
ひとつ瞬いた後に、幸福そうに見つめてこられて胸が跳ねたのは、気づかれただろうか。
次は、手塚の番だ。
跡部が、リングドッグを務めてくれた愛犬の背から指輪を持ち上げる。
「ありがとうな、マルガレーテ」
優しく声をかけると、彼の愛犬はふすんと鼻先を上げて応え、おとなしく二人の足下に寝そべった。そこかしこから可愛いという声が聞こえて、跡部も嬉しそうだ。
手塚は左手を腹の辺りまで持ち上げ、跡部がその手を取る。手塚がやったのと同じようにゆっくりとはめてくれて、手塚の薬指も揃いの指輪で飾られた。
すでに身も心もつながっているのに、また新たな繋がりが生まれたような感覚に陥る。
そしてそれは、跡部も同じように感じているらしい。自身の薬指と相手の薬指を見つめる瞳は、焼けるように熱かった。
「それでは、誓いのキスを」
牧師の声に、どこかそわつく指先。手塚はひとつ瞬いて、跡部も一度瞬く。
どうすると決めていたわけではないのに、お互い同じタイミングで利き手を持ち上げた。手塚は左手を、跡部は右手を。その手のひらを胸のあたりで重ね合わせてゆっくりと指を絡める。それと同時に顔を寄せ、鼻先を擦り合わせてから唇を触れ合わせた。
参列者がシャッターチャンスを逃さないようにと、キスは長めに。
誓いのキスは指輪で約束した〝永遠〟に封をするという意味もあるようで、ここは念入りにしておこうと唇を押し当てていたら、「長ぇ」と襟をつんつん引っ張られる。
照れくさそうな表情をした跡部を目にして、手塚は満足げに小さく頷いた。
そうしてふたりで牧師に向き直り、式が進行していく。
生涯のパートナーであることを認めるという宣誓が行われ、サインをして、ふたりでバージンロードを歩む。家族に目で挨拶をし、互いを見つめ、参列してくれた友人たちの拍手に包まれて、式場を出た。
「なあ、ブーケトスも普通にやっていいのか? 参列者ほぼ男だが」
主役がふたりとも男性で、歩んできた世界も同じとなると、そこで出逢った仲間が大半だ。女性がいても既婚者だったりする。
「……いいんじゃないか。そろそろ結婚話が出てくるヤツらもいるだろう」
「まあ確かにな。突然招待状が届いても驚かねーぜ」
「俺たち以上に驚かれることはないと思うが」
「ハハッ、違えねえ!」
跡部は楽しそうにブーケを振る。これは幸村が育てた花だ。どの花にしようか、滝も真剣に考えてくれたらしい。不二はカメラマンは僕に任せてと張り切っていたし、披露宴や二次会にはかわむらすしにも世話になっている。余興は四天宝寺のメンツがものすごい乗り気らしい。
今日の衣装は跡部のブランドで作った一点物で、一生の思い出になる。
「言いそびれていたが、似合うぜ手塚。惚れ直すの何度目だろうな」
「こういう格好は慣れないが……お前がそう言ってくれるのは嬉しい。お前も本当によく似合っている。綺麗だと思うし、格好良いとも思う」
「おいおい今日はやけにデレるじゃねーの。浮かれてんのか? アーン?」
「浮かれもするだろう、初恋の相手との結婚式だぞ」
きゅっと手を握ると、跡部はわずかに目を瞠って嬉しそうに笑った。
「ああ、そうだな。ライバル同士、初恋同士。そんな相手と生涯一度の結婚式だ。俺も大概浮かれている」
「式で失敗したらどうしようかと思っていたが」
「俺がいくらでもフォローしてやるぜ」
「惚れ直すのは何度目だろうか」
跡部を真似て告げた言葉に、声を立てて笑う。大切な人の笑い声は、なんとも心地良いものだ。
「さあ行くぜ手塚、招待客のお見送りだ」
「ああ、油断せずに行こう」
手を繋いで指を絡め、ふたりの新郎は式場から出てくる参列者に礼を述べるべく踵を返した。
#両想い #ラブラブ #結婚 #未来設定 #イベント無配
手塚と跡部の恋の話

【装丁】文庫サイズ/190P/R18/900円
【書店通販】フロマージュブックス様予定
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/)
WEBで公開しているSS、通販時のBOOSTお礼に書いたものなど集めました。書き下ろしはありません。
◆収録作品◆
それはまるで最初から
永遠の情熱に
恋を羽織る
おそろい (クリスマスには早いけど:その後/BOOSTお礼)
エイプリルフール
不意打ちのアイラブユー
贈る側のはずなのに1004
贈る側のはずなのに1007
その瞳に映るもの
唇が奏でる音は (BOOSTお礼)
指を絡めた後に (BOOSTお礼)
脱がせてやろうか?
共犯者たちのランデブー
始まりの合図
ここで重なり合うもの
次に逢うときは
キスを贈る
勝負はこれから
そのすべてを覚えたら
さくら、ひらひら
23182
五分間
五分間―その後―
恋の話をしよう (情熱のブルー:その後/BOOSTお礼)
GOOD NIGHT :Tezuka(永遠のブルー:その後/BOOSTお礼)
GOOD NIGHT :Atobe(永遠のブルー:その後/BOOSTお礼)
#R18 #未来設定 #再録 #新刊サンプル #塚跡
夜明けのキャロル

【装丁】文庫サイズ/48P/R18/300円
【書店通販】フロマージュブックス様予定
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/)
【あらすじ】「左手をつかんだあとに永遠のキス」で書き切れなかったエピソード。翌朝のえっちと招待客への打診
腹の筋を指先で撫でると、力んで震える。それが面白くて……というのが正しい表現かは分からないが、跡部の反応をもっと見たくてやわやわと腹を撫でた。
「手塚っ……エロい触り方……してんじゃ……ねえっ……」
跡部が手を添えて止めようとしてくるが、少しも力が入っていない。期待の方が大きいんだろう。
「仕方がないだろう。俺はお前のいやらしいところが見たい」
「なんっ……」
跡部は目を大きく見開いて、絶句しているようだ。
そんなにおかしな感情ではないだろう。好きな相手が自分の手で乱れていくのを見たいというのは。
「おま、え、普通にそういう、こと……言うんだよな……」
「言っておくが、俺の欲を目覚めさせたのはお前だからな、跡部」
「やっ……ん、ん」
太腿を撫で上げれば、背をしならせて声を上げる。まさか俺には性欲がないなどと思っていたのだろうか。まあ俺自身、こんなに強い方だとは思ってもいなかったから、しょうがないのかもしれないが。
「……だっ、て、よ……まだ、夢……見てるみてぇで……落ち着かねえ……」
「夢?」
「ずっと好きだったんだ、片想いだって思ってたっ……それなのに、いきなりプロポーズされるわ、キスどころかセックスまでしちまうわ、挙げ句てめぇがそんな、こと、言うから……」
跡部がふいと顔を逸らす。この男にしては珍しくて、心臓が少し嫌な音を立てた。
「お前が俺に欲情してんの、まだ、受け止めきれねえ……」
……それは、そうなんだろうな。関係が一気に進んでしまって、跡部にしてみたら世界が百八十度変わってしまったようなものだ。
今まで何も言わなかったくせに、跡部を知りたいと強引に関係を進めたのは俺だ。混乱につけ込んで「抱きたい」と言ったのも。跡部なら断らないと思っていたのは事実で、引くふりをしたのも卑怯なことだった。
俺は跡部の気持ちもずっと知っていたし、跡部に好意を持っている自分にも気がついていたから、こうなることは自然だったんだが、もう少し跡部の気持ちを考えるべきだったな。
「跡部、俺にもさすがに性欲はある。慣れてもらうしかないんだが…………お前は、俺が性的なことを口にするのは嫌だろうか」
「想像してなかったから落ち着かねえだけだっつってんだろ! 少しくらいこっちの事情も考えやがれ!」
顔を真っ赤にして抗議してくる。言うこと自体は問題ないのか。あまり明け透けに言うものではないと思っているが、跡部が嫌でないなら構わないだろう。反応が見たい。
「お前に……その、欲情されんのは……嬉しいんだよ……求められるとは思ってなかったから、嬉しくて、興奮する……」
こんな時にそんなに可愛いことを言うんじゃない。たまらなくなって、跡部の口をキスで塞いだ。これ以上何かを言わせていたら、本当にしゃれにならない。
「んっ……ぁ、っふ」
舌を掬い上げるように舐ると、絡めてきてくれる。かわいい……。もっと触れたい。中へ、もっと奥へ。
キスをしたまま脚を撫で、性器を……通り越して、窄まるそこを指先で撫でる。唇が離れた隙に、湿った吐息が漏れる。反応をみるに、嫌ではなさそうだ。
昨夜のなごりとでも言うのか、まだ柔らかいそこに指を押し入れる。跡部の膝が揺れて、俺を誘うように脚が開いていく。それをいいことに、俺は指を増やして跡部の中をかき回した。
「んっ、んぁっ、や、や……ぁ、手塚、手塚っ……ゆび、あ……」
「痛みは?」
「ねえ、わけじゃ、ねえけど、平気だ……から、もっと」
やはり受け身は負担がキツそうだが、回数をこなせば大丈夫だろうか。ゆっくり、ゆっくり、跡部をほぐしていく。潤んだ瞳と上気した頬がなんともいえず劣情を煽ってくれた。
じれったい、と小さく首を振る跡部だが、こっちだって我慢しているんだ。少し大人しくしていてほしい。
いや、大人しくしていてほしいというのは噓だ。跡部の手が自身のものに伸びて、いやらしく扱き出す。後ろを俺にいじられながら、それを自分で慰めるのが、どれほどいやらしい光景か、お前は分かっているんだろうか。
「あ、あ、っあ……てづ、かっ、てづかぁ……っ」
あまつさえその舌っ足らずな口調で俺を呼ぶことが、どれだけ俺を刺激しているのか。
早くここに入れたい。打ち込んで、かき回して、注ぎ込んでやりたい。
「やっ、なんで、ん、手塚、ゆび、はげし……いっ」
「お前が煽るからだろう。そんなに脚を広げて誘われたら、抑えられない。ここをもっと広げて、かき回して、奥までぐちゃぐちゃにしてやりたくなる」
「ばっ……! てめ、だから、そういうこと、言うなら、予告、しやがれっ」
「言う言葉を予告とは、どうすればいいのだろうな。早く慣れろ。こんなことを言うのはお前にだけ、ベッドの中だけだからな」
「昨夜ベッドの中じゃなかっただろうが! も、い……いから好きにしろよ……!」
ああ、そういえば最初はバスルームだったな。あれも色っぽかった。思い出して、また我慢が利かなくなる。ここに、俺のが入り込んで……中の熱さに信じられないくらい気持ちよくなって、さらに跡部が欲しくなったんだったな。
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#両想い #ラブラブ #R18 #未来設定 #結婚 #新刊サンプル #塚跡
左手をつかんだあとに永遠(とわ)のキス

跡】
【装丁】文庫サイズ/104P/R18/600円
【書店通販】フロマージュブックス様予定
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/)
【あらすじ】手塚の試合を観にきた跡部だが、優勝を手にした手塚に「話がしたい」と誘われて――?
せっかく6月の塚跡オンリーなので、プロポーズネタを。
これからやることを指折り数えながら、どこへいくともなしに歩く。気がつけば、街並みを見下ろせる穴場のスポットにまで来てしまっていた。
「あぁ、すげえなこれは」
「こんなところがあったのか」
「お前も来たことなかったのか」
「練習ばかりで、なかなかこういう場所はな」
隣で手塚が頷く。眼下に、優しい光を放つ街並みが広がる。大聖堂や橋のライトアップは特に美しく、目の保養をさせてもらった。
「式とかどうする? やるなら、アイツら呼びてえな。氷帝の連中。お前も青学のヤツら招待しろよ」
「ああ、そうできればいいな。あとは、選抜で世話になった人たちか……」
「広いとこ探さねえとな。新居どこにするかも……」
「一緒に住めるのか? それは嬉しい」
「別居婚じゃつまんねえだろ」
お互い多忙な身だ、結婚して同居したからといっていつでも一緒にいられるということにはならないが、帰る場所が同じというのは嬉しい。山積みの問題を早いところ片付けて、新婚生活と行きたいものだ。
「ひとまずウィンブルドン終わったら家族に話しておく。そっちのご家族の都合がつけば、いつでも挨拶に行くぜ」
「分かった。そうなると、俺も少し大会のペースを考えないといけないな。やることがたくさんある」
手塚も、できることをひとつひとつ考えているようで、指を折って数えている。試合をセーブさせてしまうのは申し訳ないが、自分たちだけで決めてしまっていいことではない。
面倒だなと手塚の気が変わってしまわないか心配ではあったが、今のところその懸念は杞憂だったようだ。
「結婚、か……まだ現実味がねえな……」
「明日、指輪でも買うか?」
無計画なプロポーズのおかげで、心構えも準備も何もできていない。分かりやすい約束の証しをと提案してくる手塚に、跡部はああと気がついて左手を持ち上げ、空っぽの薬指をじっと眺めた。
「ん? ああ、ここに合うヤツな。ひとまず婚約指輪か。形式張ったものでなくても、揃いで買おう」
「分かった」
こくりと頷く手塚。もうすぐここが輝きで彩られるのかと思うと、嬉しくて仕方がない。幸福な気持ちで、跡部はその薬指に口づけた。
「そういや、なあ手塚、俺たちキスもして、…………ね、え」
交際どころか告白さえすっ飛ばしてのプロポーズだった。するべきものを何もしていないなと改めて認識したら、手塚に手首をつかまれた。ぐっと引き寄せられ、さきほど自身で口づけた薬指に手塚の唇が当てられる。
は、と息を吐いて、現実だということを認識する。
顔を上げた手塚と視線が重なって、目蓋がゆっくり落ちていくのと同じ速度で距離が近づいていく。ややもせず触れた唇は、想像よりもずっと柔らかかった。
「…………外ですんなよ……」
「ああ、すまない」
初めてのキスだ。
優しいひかりを放つ夜の光景に包まれながらというのは非常にロマンチックだが、誰かに見られていたらどうするのだろう。どうもしないとでも返してきそうな手塚の満足そうな表情に跡部はむっと口を尖らせて、手塚がやったように今度は手塚の左手首を取って持ち上げた。
空っぽの薬指に唇を寄せて、誓いのようなキスをする。
「目を閉じてろ」
小さくそう言い放ち、手塚が素直に目を閉じてくれたのに若干驚きながらも跡部も目を伏せ、唇同士を出逢わせた。
どこで誰が見ていようと、お互いが何も見ていなければどうでもいい。世界にたった二人きりのような感覚を味わいながら、初めての唇の感触を楽しんだ。
「跡部、結婚しよう」
「ああ、手塚」
指を絡め合って、もう一度キスをする。
問題は山積みだが、本当にこの男と結婚するのか。
まだ、少しも実感が湧かない。ふうーと息を吐きながら肩に顔を埋めてもだ。
思えばこの左肩が壊れたことがきっかけだったなと思い出す。もう二度と壊れないようにと祈るように頬をすり寄せたら、腰を抱く手塚の腕が力強くなったように感じた。
「跡部、先ほども言ったように俺はお前と共に過ごすことをさほど重要には思っていなかった。今までがそうだったからな」
「ん? ……まあそりゃ俺もそうだが。お前が世界のどこで何をしていようと、テニスでつながっていられると思ってた」
「だがそれは、知らなかったからなのだと思う。俺は今、お前の唇の感触を知ってしまった。もっと知りたいと思うのは、おかしなことではないだろう」
「……は…………?」
跡部はゆっくりと体を起こし、その言葉が持つ意味を把握して、カッと頬を紅潮させてぐっと手塚の体を押しやった――つもりだったが、腰の腕はさらに力を強め、離れることができなかった。
「ちょっ、ま、待てお前っ、いきなりそれはっ……ていうかどっちがどっち……っ」
唇以外の感触も知りたい――体の隙間をなくすように抱き寄せられれば、手塚が望むことはすぐに分かる。分かるが、思考がついていかない。男女のように、役割が明確に分かれているわけではないのが、跡部の混乱に拍車をかけていた。
「おま、え、俺のこと、どう、したいん、だよ」
「抱いてみたい。もっと言うなら、手で、指で、唇で、舌で、俺のすべてで乱れていくお前を見たい」
「なっ……ん、てめっ……てめーが俺に抱かれるって選択肢は!」
「あるわけないだろう」
指先が腰を撫でて、手塚がどちら側でいたいのか分かったが、素直にはいそうですかと受け入れてやるのは悔しい。逆というものも考えてみろと言ってみたが、無駄だった。キングを自負する跡部よりも傲岸不遜で頑固なこの男は、テニス以外でも変わらない。
「跡部、駄目か?」
「……っ」
駄目か? などと下手に出て訊ねているようでも、腰はがっちりと抱え込んでいる。駄目だなどと返せるわけもない。まだ口約束だけとは言え結婚の約束をしたのだし、肉体的な繫がりをもつのはおかしなことではない。そもそも恋い焦がれた男から誘われて断れるわけもなかった。
「駄目なら諦め――」
跡部が答えを出す前に、予防線を張ったのか手塚が引こうとする。跡部は指先で唇に触れて、その言葉を止めた。
「手塚、お前の口から諦めるなんて言葉聞きたくねえ」
いつだって手塚は諦めなかった。
肩が壊れても肘がおかしな色になっても、勝利に執着してきたはずだ。その男の口から、諦めるなどという音がこぼれていいはずがない。
「お前の望むような反応できねーかもしれねーぞ。何しろ男に抱かれた経験はねえ」
「構わない。こちらも男を抱いた経験などないからな。初心者同士でいいだろう」
まあそうだろうなとは思うが、真面目な顔をして言うものだから思わず笑いがこみ上げてくる。心の準備も、体の準備もできていない。だがもし失敗しても初心者同士なのだからという免罪符ができた。
「分かった。いいぜ手塚、俺がお前に抱かれてやるよ」
そう言ってニッと口の端を上げてやれば、手塚が僅かにホッとしたような顔を見せる。
きゅっと心臓が締めつけられるような感覚を味わい、交際0日の婚約者たちは夜のドイツを歩いた。
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#片想い #両想い #未来設定 #R18 #結婚 #新刊サンプル #塚跡
塚跡お題100本マラソン1~10

2022年8月に出した47冊塚跡、早くに完売してしまったのと、ご要望いただいたため再発行しました。
中身は誤字脱字等修正したのみ
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm)匿名性なし
書店:フロマージュブックス様
(https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/ci...)
①ラブラブな二人へセット1 SS11本/40P/500円 2022/10/08発行済み
髪にキス(塚→跡。眠ってしまった跡部の髪に)/間接キス(塚←跡。狙ってやったわけじゃない)/額にキス(塚→←跡。おそろいのパジャマを買った)/眼鏡をかける(塚→←跡。同棲中?)/スーパーで買い物(塚→←跡。未来設定:同棲中)/膝枕をする(塚→←跡。跡部の膝枕)/一緒に寝る(塚→←跡。同棲中の夜のひととき)/後ろから抱きしめる(塚→←跡。同棲中、朝食を用意していたはずなのに)/おそろい(塚→←跡。未来設定:同棲中、おそろいが嬉しい)/散歩をする(塚→←跡。未来設定:同棲中、コンビニへアイスを買いに)/最高の愛情表現(塚→←跡。ハッピーサマーバレンタイン!CD発売されました)
②恋する台詞セット1 SS10本/40P/500円 2022/10/08発行済み
勝手に自己完結してんじゃねえよ(塚→跡。片想いと思っていたのに)/うーんと……じゃあキス10回分で(塚→←跡。お店で待ち合わせ)/何か、お前といると落ち着かねえなあ(お互い無自覚)/お前の笑顔、好きかも(塚→跡。無自覚だけど……?)/なんでこんなにいい匂いがするんだろ(塚→跡。巻き込まれる乾と大石)/俺を惚れさせたんだ、覚悟しろ(塚→跡。気づいてしまった)/電話なんかじゃ足りない(塚→←跡。ドイツ―日本間の電話)/……もし、今、……すぐ会いたいって言ったら(塚→←跡。旧テニ世界)/結論としては…好き…なんだと思う(塚→跡。混乱してプンスコする跡部……?)/また明日、この場所で…会って、くれますか(塚←跡。テニスがしたい)
③ラブラブな二人へセット2 SS10本/40P/500円 2022/12/18発行済み
腕を組む(塚←跡。無自覚)/ストレッチ(塚←跡。もう少しマシなきかっけはないのか)/相合い傘(塚←跡。この状況で相合い傘は)/服の裾を引っ張る(塚→←跡。未来設定:ある夜のできごと)/手を繋ぐ(塚→←跡。少しでも一緒にいたいので)/猫を拾う(塚←跡。ねこちゃんを拾う。「まどろむ仔猫」とは別物)/映画を見る(塚→←跡。未来設定:普通のデートがしたい)/動物と遊ぶ(塚←跡。「猫を拾う」の続き)/贈り物をする(塚←跡。これなら受け取ってくれるだろうか)/雨に濡れる(塚→←跡。突然の雨に降られてしまった)/花火を見る(塚→←跡。未来設定:同棲中、一緒に花火を見上げる)
④恋する台詞セット2 SS10本/40P/500円 2022/12/18発行済み
あと……五分だけ(塚→←跡。同棲中の朝)/体温高いよお前(塚→←跡。ソファでしちゃイチャ)/それだけで充分だったんだよ(塚→←跡。好きになったきっかけは)/……いや?きれいだなと思って(塚←跡。一緒に花火大会行きました)/たまにはこうやって我が儘言え(塚→←跡。未来設定:甘えられたい)/……誓うか?(塚→←跡。ずっと一緒にいることを)/別に好きなんて言った覚えないけどね(塚→←跡。返り討ちに遭う不二と菊丸)/こんなに会いたいと思うの、おかしいかなあ(塚→←跡。未来設定:見送ったばっかりなのに)/例えば、俺の横で無防備に寝てくれることとか(塚→←跡。手塚にとっての幸福とは)/殴り倒したいくらい好きですよ(塚→←跡。困っていることがある)
⑤イマジネーションセット SS10本/40P/500円
カレンダー(塚←跡。約束の日が待ち遠しい)/とけかかったアイス(塚→←跡。まだ恋人同士じゃない)/止め処ない蒼(塚→←跡。面白そうに笑うのは)/チョコレートを一粒(塚→←跡。バレンタイン)/手を繋いで、指を絡めて(塚→←跡。ハッピーサマーバレンタイン)/夢をみた(塚→跡。無自覚)/うたかたのまどろみ(塚→←跡。プールサイドから愛を込めて)/満月夜(塚→跡。ついうっかり告白)/うさぎのりんご(塚→←跡。未来設定:風邪を引いてしまった)/まどろむ仔猫(塚→跡。拾ったねこちゃん)
⑥バラエティセット1 SS11本/40P/500円
冷たい雨(塚←跡。告げてしまった、駄目なのに)/熱いコーヒーを一杯(塚→←跡。夜明けのコーヒー)/流れ星に願いを(塚→←跡。流れ星に願いを)/思いがけないプレゼント(塚→←跡。薔薇3本の意味)/つかの間の休息(塚→跡。無自覚)/少しばかり優しすぎる(塚←跡。つかの間の休息続き)/夢で逢えたら(塚→跡。未来設定。いつでもあの試合を思い出す)/甘い蜜のよう(塚→←跡。初めて触れた唇)/友達は恋人未満か否か(塚→跡、塚←跡。両片想い)/甘酸っぱいセンチメンタル(塚→跡。二人で「リョーマ!」を観る。ほんのりリョ桜?)/恋愛対象というものは(塚→←跡。まさか両想いだったなんて)
⑦バラエティセット2 SS10本/40P/500円
空いた座席(塚→跡。未来設定:この試合に勝ったら)/いつかの話(塚→←跡。プロポーズしました)/ゲーム・オーバー(塚→←跡。どっちが先に閉じる?)/月明かりの下で(塚→←跡。肌寒くても一緒にいれば)/いい夢をみるために(塚→←跡。ドイツと日本、時差はあるけども)/この手を取れるかい(塚→←跡。言ったら最後)/視線だけの密会(塚→←跡。視線で会話するのもお手のもの)/じれったい奴等め(塚→←跡。不二・大石・滝・忍足が奮闘(?))/常に前を見据える、強靱な瞳(塚←跡。未来設定:もう一度戦いたい)/盲目な程に、一途に(塚→跡。分かりやすいほどアレなのに)
⑧バラエティセット3 SS11本/40P/500円
あ、目が合った(塚←跡。この気持ちはなんだろう)/あ、メールが来た(塚→跡。この気持ちはなんだろう)/本当はうれしいけど(塚→←跡。お前にそういう欲があったのか)/小さな意思表示(塚→←跡。伝わるだろうか?)/…分かれよ、ばか塚→←跡。自分にもこんな欲があったのか)/色付いた桃色の頬(塚→←跡。友人たちに報告する跡部)/…あんまり見んなよ(塚→←跡。情事の名残と、思いがけない告白)/優しく、強く美しい恋人(塚→←跡。未来設定:好きなタイプ)/甘えるのが怖いのは(塚→←跡。未来設定:同棲中、甘えられるのは嬉しい)/君を見つけてしまったあの日(塚→跡。知らなかった君のこと)/ただ、君と居たいと(塚←跡。ライバルでいいから)
⑨バラエティセット4 SS9本/32P/400円
スパイ組織(塚→跡。ちょっとバイオレンス)/何かが変わった気がした日(塚→跡。何げない日常だったのに)/気持ちを言葉に変えた日(塚→跡。正直に、直球で)/君に居留の恋をした日(塚→跡。二度目どころか)/飽きないか、そんなに俺のことばっかり見てて(塚→←跡。絶対にこっちの方が負けている)/勘違いするな、遊びだよ(塚→←跡。そのつたないキスが)/おいで(塚→←跡。疲れているなら、この腕の中で)/先に言ったら負けよ(塚→←跡。お互い意地っ張り)/視線の絡む瞬間に(塚→←跡。そろって告白)
⑩ちょっとエッチなセット(R18) SS7本/26P/300円
長いキス(塚→←跡。キスのルーティン)/ディープキス(塚→←跡。舌の色を見る)/背中にキス(塚→←跡。不安にさせていたなんて)/何度も言わせるな、ばか!塚→←跡。足りてるわけ、ないよな?)/あー…愛されてるって感じ(塚→←跡。未来設定:一緒にお風呂)/苦しい位が丁度いい(塚→←跡。隠れてキスを)/余裕なんて、ない(塚→←跡。未来設定:玄関先で)
#両想い #ラブラブ #未来設定 #両片想い #片想い #新刊サンプル
いちばんではないけれど
泡のついたスポンジが腕をなぞっていく。ゆっくりと優しく通り過ぎていくそれはくすぐったくもあり、またじれったくもあり、手塚は唇を引き結んだ。目の前の男の首筋にかぶりつきたくなるからだ。
つい先ほどまで充分に堪能していたはずなのに、もう触れたくなるのを、どうしたらいいのだろうか。
「なんだよ?」
視線に気づいたのか、恋人が――跡部が訊ねかけてくる。さすがに人の視線に慣れている男だ。手塚はそっと口を開き、「いや……」と濁してみた。それに機嫌を損ねたふうもなく、跡部は口の端を上げてくる。
「お前に見つめられると、まーだドキドキすんなぁ」
手塚は目を瞠って、瞬いた。
周りの……主に女性の視線をほしいままにする跡部景吾が、たった一人の男の視線に心臓を高鳴らせているというのか。恋人関係になってしばらく経つし、体だってつなげているのに、視線ひとつで? と不思議な気分だった。
「今まで見ているばかりだったからな。お前の視線が俺に向いてんのかと思うと、……照れくさくて、嬉しい」
頭を抱えたくなる。
跡部景吾という男は、自身の言動がどれだけ他人に影響を与えるかを分かっていない。いや、違う。分かってはいるはずなのだ。しかしながら手塚国光が相手となるとどうも勝手が違うようなのだ。
手塚だけが特別。そう考えると、胸のあたりがむずがゆい。
「確かにお前からの視線はものすごかったな。まさかそれに恋情が含まれているとは思わなかったが」
「なんでだよ、普通気づくだろう」
恋人でありながら、まだ跡部景吾という男のことがさっぱり分からない。同性への恋情を、そんな明日の天気でも話すように言わないでほしい。
「はなから選択肢のうちに入っていないんだ。そんなことを言うならお前だってそうだろう。俺が好きだと言ったのに最初は疑っていたじゃないか」
「なっ……」
テニスを通して知り合い、好敵手として過ごしてきたが、世間では跡部の方がより手塚に執着しているように見て取れただろう。
言ったように、跡部からの視線はあからさまで、ないと落ち着かないまであった。
しかしそれはあくまでライバルとしてだと思っていたし、実際は手塚の方こそ深刻に跡部のことが好きだった。
「……はなから選択肢に入ってなかったんだよ、そんなの」
ほら見ろ、と目を細めてやると、気まずそうに視線が逸らされる。
お互いが、「まさか」と思ったに違いない。
好きになったからには潔く告げて散ろうと思っていた手塚が、違和感を覚えたのは恋を告げた後の跡部の表情。
怒るか、なんでもないように受け流すかすると思っていたのに、跡部は一瞬泣きそうな顔をした。悲しませたのかと胸が痛んだのをまだ覚えている。
「最初は……俺の気持ち知っててからかってんだと思った。わりとあからさまに接してたつもりだからな、俺様は」
「いや、分からなかったが」
「鈍いにも程があんだろ。アーン?」
「それは否定しないが、からかうなどという思いはなかった」
誰かをからかうなどという芸当ができるとは思わないでもらいたいと、気分が沈んでいく。そういう男だと思われているなら心外だ。
「そんな顔すんなよ手塚。そう感じたのは一瞬だった」
少し濡れた髪をひと筋、つんと引っ張られる。こんな時、跡部がどれだけ見てくれているかを実感する。
手塚は表情が読み取りづらい。自覚しているし、それで誤解を受けることだって多々あった。だけど、跡部には分かるらしい。ささいな変化でも読み取って、的確にすくい上げてくれる。
「それでもまさかって思うだろうが。男同士だし、てめぇはテニスにしか興味ねえと思ってたのに、割と手が早かったしな」
「それは謝らない」
「謝んねーのかよ」
跡部が声を立てて笑う。両想いだと分かって恋人関係になり、しばらく経ったと言っても、今三か月が過ぎたあたり。
だけど初めてのキスをするまで十日もかからなかった。手が早いと言われても仕方がない気もする。
驚いた顔も、その後真っ赤になる顔も可愛かったなと思い出して目を細める。
それが今ではこんなふうに一緒に風呂にまで入っているのだから、世の中何が起こるか分からない。
無論、跡部が本当に嫌ならば手を出したりしなかった。嫌われたいわけではないのだから、欲を我慢するくらいはできたのだ。
「くそ真面目に訊いてくるんだもんな、お前。抱きたいと思っているがいいか、なんてよ……。ほらそっちの腕よこせ」
言われるがままに左腕を差し出す。右腕と同じようにスポンジが優しく触れてくる。
「恋人とはいえ合意が必要なことだろう」
「あの時嫌だって言ってたらどうした?」
「我慢した」
当然のことを訊ねてくる跡部の真意が手塚にはよく分からない。自分のものにしたいと思うのと同じくらい、大切にしたい相手だ。強引にコトを進めた後にわだかまりが残るのは目に見えていた。
「たとえ俺が強引にお前を押し倒して抱いても、お前は俺を赦してしまうのだろうなと今なら思うが、あまり俺を甘やかすな」
「だったら簡単に甘やかされてんじゃねーよ」
トントンと指先で腕をつつかれる。確かにこうして体を洗われるというのは最上級の甘やかされだが、仕方がない。
「お前が楽しそうなのが悪い」
こちらのせいではないと口を尖らせると、跡部は一瞬きょとんとした表情をして、それから肩を震わせて笑った。
「ああ、楽しいな、確かに。俺は家だと世話されることが多いから、自分のテリトリーで誰かの世話をするってのは新鮮なんだ。それが愛しい恋人ってなりゃあ楽しいに決まってる」
「世話好きなのだろうとは思っていたが……まさか洗われるとはな……。もう慣れたが」
慣れるほど回数をこなしてきたということにもなって、照れくさいと同時にやはり嬉しい。ベッドの中では手塚の方が好き勝手しているのだから、ベッドを出たら跡部の好きにさせてやりたいという思いもあった。
「世話が好きってのもあるが、お前に触りたいってのがでけぇんだよ。ベッドん中じゃそんなこと考えてる余裕がなくてな、誰かさんのせいで」
「……なるほど」
余裕がないという部分には非常に心当たりがあるだけに、気まずい。そううさせているのは手塚だからだ。
跡部が楽しそうに笑う。そうしながら指先で腕を撫で、泡をすくい取っていく。ふ、と息を吹きかけて、手塚の方へと泡を飛ばしてきた。
「おい」
「ハハッ、泡まみれでもいい男じゃねーの」
すこぶるご機嫌な恋人が可愛くないわけではないしむしろ可愛すぎてどうしたらいいか分からない。しかしこのまま遊ばれているのは視覚的にもよろしくないだろう。
「もういいだろう跡部、自分で洗う」
「いやだね。俺の楽しみ取るんじゃねーよ」
スポンジを取り上げようとするが、ひょいと逃げていく。触っていたいなどと言うなら何をどうされても文句は言えないのだぞと言ってやりたい。手塚はほんの少し考え込んで、ひとまずこの戯れを先に進めなければと言葉を選んだ。
「………………湯船でお前とふたり、ゆっくりしたいんだが」
跡部がぱちぱちと目を瞬く。少し後ろめたい気もしたが、本音であることは間違いない。跡部の表情がパァッと華やぎ、油断していた手塚は頬を赤らめた。
「ん、そうだな。けど背中と髪は俺が洗ってやりたい。いいだろ手塚」
手塚はこくりと頷いた。跡部の機嫌がいい状態は都合がいいし、何より背後にいられる分には理性がどうにかなる可能性も低くなる。
跡部が手塚の背中に周り、そっと触れてくる。
唇で、うなじに。
「……っ跡部!」
「ハハッ、お前ここ弱いよな。怒るなって。もうしねえよ」
「本当に勘弁してくれ……お前は俺の理性を過大評価しているのか、欲を過小評価しているのか」
「そりゃこっちの台詞だ。絶対に俺の方がお前のこと好きだしな」
ゴシ、と強すぎず弱すぎず背中をたどっていくスポンジと泡の感触に、手塚は眉を寄せた。
「それは聞き捨てならないな。俺の方がお前を好きなんだが」
どうも跡部は想いの大きさを誤認している気がする。告白したのは手塚の方からだというのに、なぜそうも自信たっぷりに自分の方がなどと言えるのだろう。
「……………………そうなのか?」
不思議そうな声で訊ねかけてくる。本当に思いも寄らないといったふうにだ。
手塚は小さくため息をついた。確かに感情を表に出すことは不得手だが、ここまで伝わっていないとは思わなかった。
「お前は普段あれだけ自信で包まれているのに、なぜ俺のことになるとそうなんだ」
「だ、だって……手塚のいちばんにはならねえだろ、どうやったって……。お前の中の最上位はテニスだ」
「否定しないが、だったらお前はどうなんだ。俺がいちばんなどとは言わせんぞ」
「……………………まあそうだけどよ」
面白くなさそうに返してくる。背後にいるおかげで見えないが、きっと口を尖らせてでもいるのだろう。見たかったなと、愉快な気分にもなった。
跡部の口数が、急激に少なくなる。
洗い終えた背中の泡を流してくれるが、手つきが危なっかしい。
いちばんにはなり得ないということを、気にしてしまったのだろうか。お互い様なのになと、手塚は少し後ろを振り向いた。
「跡部、お前の中の最上位にテニスがあることが俺は嬉しい」
「え?」
首をぐいと伸ばして、唇に吸いつく。柔らかな感触は、手塚が気に入っているもののひとつだ。
「何しろお前とは、テニスをしていなければ知り合えなかった」
お互い生徒会長をしていたとはいえ、特に学校同士で交流会があるわけではなかった。
親しくなってからは合同での行事などを提案し執り行ってもきたが、それがなければ道が交わることはなかった相手だ。
跡部は財閥の跡取りで、手塚は一般的な家庭の暮らし。住む世界がまるで違う。
「俺の中での最上位がテニスだというのはもともとだし、それはこれからも揺るぎないものだ。だからこそ同じ世界にいて、同じ目線でいられるお前と出逢えたのが嬉しい」
「ああ……それは俺も同じだ。お前のことがいちばんなんて言ってやれねえが、同じ世界にいられるのはすげえ嬉しい。テニスをしてて良かった」
ホッとしたような表情をしたあと、幸福そうに笑ってくれる。
手放しでいちばん大事などとは言えないが、大切な人であることはお互い変わらない。それが分かっただけで充分だと。
「あー……テニスしてえ」
「今からは無理だろう。明日、相手をしてくれないか」
「こっちからお願いしたいところだ。ふ、やっぱりてめぇといるのは心地いいな。呆れもせずつきあってくれんだからよ」
「お互い様な気がするが……」
「確かに。ほら、シャンプーするぞ」
シャワーで髪が濡らされていく。シャンプーを泡立てて髪を洗ってくれる跡部は、やっと気分が上昇したようで、鼻歌まで聞こえる。
「なあ。俺のどこがそんなに好きなんだ? 俺がお前を想うよりもってんだから、それなりにあんだろ?」
「どこ……と言われてもな……、お前を形作るすべてと言うしかないんだが」
「お前時々大胆なこと言うよな……ベタ惚れじゃねーの」
「だからそう言っているだろう」
跡部の指先が頭皮を刺激していく。それが心地良くて、手塚は目蓋を伏せた。そうすると鼻歌がよりいっそう楽しそうに聞こえて、思わず口許が緩んでしまう。
「その指先も、好きだと思う」
「ん? ふふ、気持ちいいかよ?」
「ああ」
素直に返すと、小さく「かわいい……」などと聞こえてくる。それには同意しかねるが、髪を洗う仕草が本当に心地良くてどうでも良くなってしまった。
わしゃわしゃとかき混ぜられ、ゆっくりとなでつけられ、ややあって流される。丁寧な指先で、本当に大事にされているのだと実感させられた。
「ん、トリートメントも完了。先に入ってろ」
髪と体に湯をかけられ、泡がついていないことを確認した跡部は、湯船の方を顎で示す。お返しに洗ってやろうと思っていたのだが、跡部はそれを望んでいないようだ。
「俺には洗わせてくれないのか」
「んなことして我慢できると思うのかよ? 俺が」
「お前か。いや……うん、そうだな、無理だ、俺が」
跡部が何を言いたいのか分かって、みなまで言うなと手のひらで制してみる。そうして手塚は先に拾い湯船を堪能させてもらうことにした。
そこから、跡部が体を洗う様子を眺める。整った顔立ち以外にも、無駄のない筋肉や骨格を観察するには絶好の場所だ。
「なに見てんだよ、すけべ」
「いや、綺麗だと思って」
「……ありがとよ」
呆れと照れとを混ぜ合わせたような表情を、跡部はふいと背ける。
そわそわと足の指が浮いているのを見て、思わず口の端が上がった。
「つーかお前、眼鏡ねえのに見えんのかよ」
「そこまで悪くはない。あった方がよく見えるのは事実だが」
「……油断してたぜ」
ため息とともに泡を流し、髪をかき上げる。その仕種さえ様になっていて、さすが跡部景吾だななどと妙な感心さえしてしまった。
「まだ知らないことがたくさんあるな、俺たちは」
「そうだな」
洗い終えた跡部がバスタブに入ってくる。それはいいが、場所がおかしい。手塚はそうとは悟られないようにこっそり慌てた。
「おい、跡部」
「あ~……落ち着く」
ちゃぷりと湯船に体を浸からせ、背中を手塚の胸に預けてくる。これは、まずいのではないだろうか。
「俺は落ち着かない」
「慣れろ」
くっくっと笑いながら、脚の間でくつろいでしまった跡部を、退かすこともできない。
触れ合う時間を嬉しいと思っているのは手塚も同じだからだ。
恋人関係になって、初めて分かったことがある。跡部がこうしてわずかな時間でも身を寄せてくるほど、甘えるのが好きなようであること。
正直意外だった。甘えるのは弱さだなどと言いそうな彼が、こうして腕の中で「落ち着く」とリラックスしてくれているのは、本当に嬉しい。
「体は平気か、跡部」
「ん、そこそこな」
「……そこそこか」
「意外だよな、手塚がこっち方面にそこまでガツガツしてるイメージはなかったが」
初めて知ったことがあるのは跡部も同じようで、どこかで安堵する。
「嫌か? というか、それは俺自身も驚いている」
「嫌じゃねえよ、全然。嬉しい。……お前は? 俺がこうやってなんか……甘えてるみてーなとこ、嫌か」
「少しも嫌ではない。俺だけにそうなのであれば、可愛くてたまらないな」
「そうか」
振り向いて頬に鼻先をすり寄せてくる。くすぐったくて、仕返しのようにこめかみと首筋に唇を落とした。
「くすぐってえじゃねーの」
「お前が先にやったんだろう」
戯れるたびに、湯船に波が生まれる。押し寄せてくる小さなそれは、恋情と同化して胸をざわつかせる。
「お前と一緒に風呂入んの、落ち着くけど、落ち着かねえ……」
「慣れろ」
跡部の言葉を真似て返すと、彼はむくれるどころか楽しそうに片方の口角を上げる。
「俺が慣れるまで一緒に入るってか?」
「…………慣れても一緒に入りたいが」
ほんの少し考え込んで、手塚は答える。それは跡部にとって驚きだったようで、目をぱちくりと丸くさせた。
「……かわいいヤツ」
跡部の腕が首に回されて、唇に触れてくる。しっとりと濡れた唇は心地良くて、もっと長く触れていたい衝動で腰を抱く。
胸と胸が合わさって、長いキスになった。
「ん、……ふふ、これはどっちのせいだろうなあ?」
「お互いの責任だろう」
「加減しろよ、手塚。明日テニスすんだろ」
「分かった、努力しよう」
抑えていた互いの理性は湯に溶けて消え、結局はのぼせる寸前まで触れ合うことになってしまった。
それでも翌日はけろりとした顔でテニスを楽しむのだろうから、さすがという他にない。恋人と湯船でふたり、ゆっくりなどできなかったけれど、心身ともに満たされて、幸福な気分だった。
#両想い #ラブラブ #イベント無配 #リクエスト
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手塚が玄関のドアを開けると、いつもとは違う光景が目に入った。見慣れない靴が四足。リビングの方から、談笑している声が聞こえて、ああそういえば来客予定だったと思い出した。そのまま靴を脱いで整え、洗面所で手を洗う。そうしてからようやくリビングへと向かった。
「よう、お帰り手塚」
「ああ」
ソファで出迎えてくれるのは、恋人である跡部景吾。もう慣れたと思ったが、いまだに胸が鳴る状況をどうしたらいいのだろう。
手塚はソファへと歩み寄り、いつものように跡部へと手を伸ばす。顎を持ち上げれば跡部はそっと目を閉じてくれた。ふに、と優しく唇に触れて、すぐに離れる。心地良いいつも通りの感触にホッとした。
「へぇ……手塚って人前でそういうことするタイプだったんだ」
「いや俺ちょっとビックリしたんだけど……」
「俺らがおるん目に入っとらんだけとちゃうんか」
「別にボクらに牽制することないのに」
ニヤついた滝の声音と、気まずそうな大石の視線。呆れた表情の忍足と不二。しまったと手塚は思った。彼らがいるのは玄関で認識したというのに、忍足の言うとおり目に入っていなかった。
「すまない、ついクセで」
跡部に触れた口許を押さえ、客人の前ではしたないことだったと素直に謝罪する。
「クセになるほどしてるんだ?」
「まあつきおうとんのやから当然なんやろうけど、心の準備くらいさせてほしいわ……」
「悪いなてめーら。クセっていうか、約束みてーなもんなんだよ。帰ってきたらキスしようって」
肩を竦める滝たちに、跡部がフォローを入れてくれる。それは確かに事実だった。ほぼ十年、お互いに長いこと片想いをしていた自分たちは、当然長いこと触れ合ってこなかった。想いが通じ合ってしまえばこんなにも自然なことのように思えるのに、相手と自分の世界を壊さないように、告げることを諦めてきたのだ。
だから、触れたい思いとちゃんと伝え合おうという思いが、暗黙のルールみたいになってしまった。
「そ、そうなんだ……でもまあ、二人が幸せそうで安心したよ。俺、聞いた時に本当に驚いたんだ」
「フフッ、大石はあの時英二のお守りで大変だったものね」
「お守りって。観光は楽しかったぞ。その途中で不二から連絡きたからさぁ~」
ウィンブルドン決勝戦。見事手塚が優勝を収めたあの日、滝と忍足は手塚の想いに気がつき、不二は跡部の想いに気がついた。まさか二人は両想いなのかと、お互いに情報交換をし合ったのだが、「十年も何をしているんだこの二人は」と呆れる気持ちの方が多かったようだ。手塚の気持ちを知っていた大石にも報告したら、絶句していたのを思い出す。
「越前もビックリしていたけどね」
「そうそう、パーティー参加できるの彼くらいだったから、手塚と跡部のこと見ておいてって頼んだんだよね」
「なにしてんだよてめーらは」
仕方ないヤツらだなと肩を竦める跡部の隣に、手塚が腰を下ろす。仕方ないヤツらだと言いたいのは向こうではないのかと手塚は思うが、口には出さないでおいた。
「公表はしないのかい、二人とも」
大石の言葉に、手塚は跡部と視線を交わす。考えていないわけではない。週刊誌にスッパ抜かれてあることないこと書かれるよりは、自分たちから公表しようと。
「いずれ、すると思う。俺たちだけの問題ではないので難しいんだ」
「時期を見ねえといけねえ。もしかしたら、引退する時になるかもな」
なるほどねと四人が頷く中で、手塚はじっと跡部を見つめる。その視線に気がついた跡部が「なんだ」というように見つめ返してきた。
「そうなると一生公表できないかもしれないと思って。俺たちは生涯現役でいそうじゃないか」
「ハッハ! ジジィになっても現役か。いいなそれ、楽しそうじゃねーの!」
高笑いをした跡部の指先が、手塚の顎を持ち上げる。客人たちが、あ、と言う間もなく、約束のようなキスが交わされた。
「いやホンマこっちにも気ぃ遣ってほしいわ……」
「親友のラブシーン見るとき程気まずいものってないよな……」
「写真撮って皆に送ってあげようかな……」
「景吾くん幸せそう……」
それぞれが顔を明後日の方向へ向け、視線をそらしてやったのは、優しさなのか、それとも呆れだっただろうか。
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