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キスを贈る

NOVEL,テニプリ,塚跡 2022.10.08

18歳以上ですか? yes/no

NOVEL,テニプリ,塚跡

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ただの好意かそれとも恋か2
ただの好意かそれとも恋か2

ただの好意かそれとも恋か2

OFFLINE 2022.10.08

#片想い #両想い #誕生日 #R18 #塚跡 #新刊サンプル #シリーズ物

(画像省略)ただの好意かそれとも恋か2いつかみた永遠のあと2ndにて発行『ただの好意かそれとも恋か』…

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ただの好意かそれとも恋か2


ただの好意かそれとも恋か2
ただの好意かそれとも恋か2


いつかみた永遠のあと2ndにて発行
『ただの好意かそれとも恋か』続編。一応これで完結、旧テニの世界線です。

【装丁】文庫サイズ/206P/R18/1000円(対面イベント価格)
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/items/422502...)匿名性なし
書店:フロマージュブックス様(https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/de...
【あらすじ】まっすぐすぎる手塚の想いに触れて、跡部は恋人としてつきあうことを承諾した。そうなった以上は手塚を好きになってやりたいが、どうすればいいのか分からない。卒業まであまり時間もなく、離れる前に恋人らしくなりたいけれど、気持ちが追いついてこない。それでも手塚からの想いは嬉しくて、
心が傾きかける。そんな中、もうすぐ互いの誕生日で──?




 他人の体温が、こんなに落ち着くものだとは思っていなかった。
 そう表現するとあらぬ誤解を受けそうではあるが、あながち誤解というわけでもないような気はする。
 跡部は手塚の背を抱いて撫でながら、はあーとゆっくり息を吐いた。
 まさか、手塚国光と恋人として交際をすることになるとは思っておらず、受け入れておきながら若干展開についていけない。
 勢いだったと言うつもりはさらさらないけれど、この状況をどうしたらいいのだろう。
 自分を抱いてくる手塚の腕は先ほどよりさらに強くなっているし、小さく「跡部」と呟く声は、震えているようにも感じられる。それほどに歓喜しているのかと思うと、胸が締めつけられた。
「……手塚。なあ、いったん離れろ……少し、苦しい」
 なだめるように背中をぽんぽんと叩けば、手塚はハッと我に返ったように体を強張らせ、慌てて距離を置く。跡部はそれがおかしくて、口の端を上げた。
「す、すまない。夢ではないかと思って」
「アーン? 夢じゃねえだろ。今さら撤回するつもりはねぇぜ、俺様は」
 手塚に好きだと言われて、応えてやれないことが苦しいと思うくらいには、手塚に好意を持っている。それならば受け入れた方がいっそ楽だと思ったのだ。
 間違いなく恋ではないが、手塚はそれでも構わないと言ったはず。相変わらず自信満々に「恋に変えてやれば問題ない」などとのたまいながら。
 二人でソファに座り直し、同時に息を吐く。示し合わせたわけでもないのにタイミングが重なってしまったことに、どこかむずがゆさを感じた。
「真似すんなよ」
「してないだろう」
「……ふん。なあ、ところで手塚よ」
「なんだ」
「つきあうってのはいいんだが、お前は具体的に何をしたいんだ」
 ソファの背にもたれふんぞり返ってそう呟けば、手塚は珍しく表情を崩す。「何を言っているんだこの男は」とでも言いたげなその顔は珍しくて、後から写真でも撮っておけばよかったと思ったことだろう。
「なんだ、その顔は」
「いや、跡部お前……交際というものの意味くらい分かるだろう」
 言いながら手塚はポケットから携帯端末を取り出し、何かを打ち込み始める。
 そうして、跡部にも見やすいようにと端末を互いの真ん中辺りに移動させてくる。跡部は反射的にそれを覗き込んだ。
「親密な関係を前提とした、互いの適合性を確認することを目的としたつきあいの段階……フン、なるほどね。って、そうじゃねーよバーカ。さすがに意味は分かる」
 どういう解釈をしたら、交際そのものの意味が分からないと思うのだろうか。跡部は自身が世間一般の常識から若干外れているだろうことは自覚しているものの、そこまで世間知らずではない。
「俺が言ってんのはそこじゃねえ。つきあうってなったらいろいろ、その、あんだろーがよ」
「いろいろか。俺とお前では、一緒に登下校というのは無理だな……休日にどこかへ出掛ける……今までもそうしていた気がするが。……跡部、もしかして俺たちはとっくにつきあっていたのではないのか?」
「んなわけあるか! こういうのは双方の合意が必要だろうが。俺が頷いてやったのはついさっきだぜ。……そういうとこでもねえんだよ手塚、テメーは幼稚園児か」
 会話が成り立っているような成り立っていないような。跡部は呆れたように項垂れて、額を押さえる。手塚がそこまで考えていないということはないはずだ。頭の中でどうこうしようが構わないと言った言葉に、すまないと返してきたことがあるのだから。
「どういうことだ、跡部」
「察しの悪いヤツだな。恋人同士ってことは、肉体的なつきあいもあるのがほとんどだ。俺がお前を抱くか、お前が俺を抱くかとか、いろいろあんだろ!」
 何を言わせるんだと眉をつり上げ、声を張り上げる。
 恋人になることを承諾した以上、そこは重要な部分ではないだろうか。きちんと役割が決まっている男女とは違って、自分たちは男同士だ。どちらがどちらになるかというのは、あらかじめ話し合っておかないと、認識のズレで大変なことになる。
「そうか、分かった。では俺がお前を抱こう」
 至極真面目な顔で頷きながら、手塚はさも当然のことのように返してくる。跡部は今度こそ本当に呆れてしまった。最大限譲歩したような口ぶりで、少しも譲る気のない言葉は、手塚らしいとも思ったけれど。
「テメェ俺様を抱く気でいんのか」
「そうだが」
「こっちだって抱く側の性別なんだよ」
「知っている。……待て跡部、お前も俺を抱きたいのか?」
「そういうことを言ってんじゃねーよ! さも当然のように俺を女役にすんなっつってんだ!」
 そもそもたった今恋人同士になったばかりなのに、抱きたいかどうかなどと分かるはずもない。
 話題にしておいてあれだが、考えたことがなかった。
 もし抱けと言われたら抱く努力をしてみようとは思うが、努力をしなければならない段階ではそんな行為はしたくない。何をするにもお互いの合意が必要だ。
「交際を承諾されたばかりでこんなことを言うのもどうかと思うが、俺は跡部を抱きたい。お前は俺を抱きたいわけではないと言う。それならば、抱きたいという明確な思いを持っている俺がお前を抱くべきだろう」
 テニス馬鹿だとばかり思っていたこの男にも、人並みの欲望があったのだな――なんてことを言うつもりはないが、ここまで押しが強いとは思っていなかった。
 プレイスタイルを考えればそう不思議なことではないのかもしれないが、手塚国光という男に抱いていたイメージというものが、ガラガラと音を立てて崩れつつある。
「なるほどね。……いや違う、納得すんな。くそ、もっともらしいこと言いやがって……。じゃあ訊くが、もしこの先俺がお前を抱きたいって言ったらどうするつもりなんだよ。大人しく抱かれんのか、テメーは?」
「……お前がそう望むのなら、……努力は、する。お前とは、対等でありたい」
 眉間にしわを寄せて険しい顔をし、めいっぱい躊躇いながらも、手塚は頷く。
 どうせ突っぱねるのだろうと思っていただけに、跡部は「努力する」と言われたことに驚いた。自分の願望を何が何でも押し通したいわけではないようで、毒気を抜かれた気分になる。
「だから跡部、お前はまず俺を好きになってくれないか。順番で言ったらそこからだろう」
「あー……そこは前向きに考えておいてやるぜ。言っておくが、つきあうのを承諾したのは、テメーがめんどくせぇからだ」
「考える余地があるという時点で、俺の勝ちが決まったようなものだな。覚悟をしておけ」
「アーン? 早々に勝利宣言とは、いい度胸してんじゃねえか手塚ぁ! 俺様が負けるわけねえだろうが!」
「いや、俺は必ず勝つ」
 ソファの上でお互いに向き合いながら、不毛な争いが始まる。勝ちだの負けだのの言葉に過敏に反応してしまうのは、プレイヤーとしての性だろうか。
「上等だ、コート行くぜ手塚!」
「勝負か、受けて立とう」
 ザッと跡部が腰を上げれば、手塚も同じ勢いで立ち上がる。視線はお互い相手を捉えたままで、一触即発と言っても過言ではない雰囲気だ。ことの発端がベッドの中での役割の話だったなどと、この状況で誰が思うだろう。
 それでも二人は、意気揚々と部屋を出て跡部家のテニスコートへと向かっていった。


 汗が飛び散る。荒い呼吸が空気を揺らす。握りしめる手に力がこもる。荒い吐息の中で相手の名を呼んで、足を大きく――踏み出す。
「まだだ、跡部……っ」
「……くっそ……!」
 頭より先に体が反応して、受け止める。もちろん、小さな黄色いボールを、だ。
 長いラリーになった。お互い負けるわけにはいかないと、意地でつながっていくボール。恐らく二人ともが、どこからこんなことになったのかもはや覚えていないのだろう。
 ただネットを挟んだそこに相手がいる。ラケットがある。ボールがある。
 それだけで、この瞬間すべてを懸けるに値した。
 この広い世界の中で、そう思えるものに――そう思える相手に巡り会えたのは僥(ぎよう)倖(こう)だ。
 なくしたくない。繋がりを断ちたくない。好意を向けられているのなら、受け止めてでも。
 そう頭の隅で考えた瞬間、ボールが足元を撃ち抜いた。跡部はハッとして、転がったボールを振り向いた。
「油断しているお前が悪い」
「…………してねーよ」
 チッと舌を打ち、ボールを拾い上げる。まったく厄介な相手だと思いながら、ぐいと汗を拭った。なんとも思っていない相手ならば、突き放すことなんて簡単なのに。手塚国光だというだけで、それが難しくなる。
 ぽんとボールを放ってよこすと、手塚はぱしりと受け止めただけでサーブ位置に向かうことはしなかった。不思議に思って首を傾げたら、責めるような眼差しで突き刺された。
「勝負の最中に考え事とは、随分余裕だな、跡部」
「アーン?」
「打球が軽くなった。言い直すぞ。今お前の足元を抜けたのは、お前の油断じゃない。慢心だ」
 わずかに怒りが混じる声に眉が寄る。頭ごなしに言われるのは不愉快だ。心当たりがあるとしても、だ。
「何を考えていた? 本調子ではないお前に勝っても、嬉しくないな」
「てめーが勝つこと前提かよ。…………いや、悪い、まだ少し……受け止め切れていねえんだろうな」
 挑発するように笑ってみたものの、すっきりしなくて跡部は視線を逸らす。ひとつ深呼吸をして、非を認めた。
 せっかく手塚と打ち合っているのだ、集中したい気持ちはもちろんある。勝ちたい気持ちも、叩きのめしたい気持ちも大きい。
 だけど、心のどこかで引っかかっている。
「受け止めきれないというのは、俺がお前を好きだということをか?」
 ネット際まで歩んできた手塚を見やり、小さく首を振った。手塚の気持ちを疑うことはない。何しろ視線も気持ちも、痛いほど自分に向かってくるのだから。
「受け止めきれねえってのは、俺の……自分の狡さだ」
 そんなまっすぐな気持ちに応えられないことを、ずっと心苦しく思っていた。ただ種類が違うだけでこちらもちゃんと好意を持っているというのに。
 だからもういっそ受け入れてやれと思ったのは、勢いだけではない。手塚ならばいい、本当にそう思っている。
 後悔はしていないのに、引っかかる。
「俺はお前に恋してねえ。お前とテニスがしたい、お前をつなぎ止めておきたい、この糸を断ち切りたくねえ。そんな自己欲を満たすために、お前の気持ちを利用している。……お前じゃなけりゃあ、もっと簡単だったろうにな」
 自嘲気味に笑い、己の矮小さに初めて気づく。跡部景吾ともあろうものが、そんな形のないものに縋るだなんて滑稽だ。
 らしくないと呆れられるだろうか。
 真剣な想いを利用するなと怒るだろうか。
 手塚に応えたいと思う傍ら、応えられなかった時のことを思うと怖い。きっとこの糸は切れてしまう。切りたくないから、応えたい。だけど――と無限ループに陥ってしまいそうだった。
「お前のそれがずるいということならば、俺はもっとずるくて卑怯な男ということになるが」
 ややあって、呆れも怒りもまじっていない声が耳に届いた。跡部は反射的に俯けていた顔を上げ、正面に手塚国光を見た。
「アーン……? 卑怯って、てめぇがか」
「そうだ。俺はお前が俺とのテニスを望んでくれていることを知っている。純粋に嬉しいと思う横で、テニスを引き合いに出せばお前が断らないと分かっていて、ラケットを握る。テニスにそんな感情を持ち込みたくはないが、お前の瞳が俺の動きを追う様を見るのは気分が高揚する。恐らく、快感と言っていいものだろう」
「かっ……」
 思いも寄らない言葉が返ってきて、ボッと頬が染まるのを実感する。当の手塚は恥ずかしげもなくまっすぐに見つめてきているから、余計に羞恥が増大した。
「跡部、俺はお前を好きになってからずっと、己の中の相反する心と戦っている。テニスを利用することへの怒りや不甲斐なさや、純粋に楽しみたいのにできないもどかしさが、常にあるんだ」
 跡部の瞳が、ゆっくりと見開かれていく。テニス馬鹿だとばかり思っていた手塚が恋をしていることもそうだが、そんなふうに考えていたなんて。
 ぐっとボールを握りしめるその拳の強さは、そのまま彼の中の葛藤を表しているのだろう。手塚の中でいちばん大切なものと、大切にしたい相手、そしてその相手が大切にしているものが、複雑に絡み合っているに違いない。
「相手がお前でなければもっと簡単だっただろう。もっと上に行きたい――それだけだったのに、テニスをする理由が増えてしまった」
「理由……?」
 跡部がひとつ瞬いて再度手塚に目をやれば、互いの真ん中で視線がぶつかる。絡んで、結ばれて、引き剥がせないところにまできてしまった。
「お前に負けたくない。お前と同じだけの熱量でこの世界にいたい。俺はこの先一人で歩いていくものだと思っていたが、できればお前とずっと共に歩めたらと、そう思っている」
 すうっと、乾いていた土に水が染み込むようにその言葉が体の中に入ってくる。緩やかに体を潤していくそれは、指先にまで到達した。
 テニスにかける熱量はお互い同じ。そこに恋愛感情を混じらせたくないという思いも、利用してしまうことへの葛藤も、同じなのか。ずるくて卑怯だと言いつつも、手塚はどこか満足げで、楽しそうですらある。
 跡部は顔を下向けてはあーと息を吐いた。
 同じだというのならば、もういいかと。
 テニスをお互いの不埒な想いに巻き込みたくはなかったが、手塚はそんな自身さえ受け入れている。手塚にできて、自分にできないわけがないと、跡部は顔を上げてキッと手塚を睨みつけた。
「中学生の分際でプロポーズとは、大した度胸だなあ、手塚ァ!」
「プロポ…………そういうつもりで言ったわけではない」
「んだよ、そこまで考えてねえってか?」
「違う、お前にプロポーズするなら、もう少しちゃんと言いたいというだけだ。今のをプロポーズなどと思ってもらっては困る」
 揶揄ったつもりが、撃墜された気分だった。頬が火照るのを自覚したが、悔しくて顔を背けられない。負けたような気分になってしまう。
「……ハ、口下手なテメェがどんなプロポーズするつもりなんだか。いいか手塚よ、俺は跡部の後継者なんだぜ。それなりの覚悟で――」
「分かった。では予約だけしておこう。お前にいちばん初めにプロポーズするのは俺だ、覚えておいてくれ」
 二の句が継げない。交際を承諾したその日のうちに、プロポーズの予約とは。
 その単語を出してしまったのは跡部だが、後悔した。手塚は本気でそうするつもりでいる。
 まっすぐに、強く、強く、見つめてくる瞳に、ぞわぞわと肌があわ立った。毎度のことながら、すさまじい自信だ。断られることなど微塵も考えていないようなオーラが腹立たしくて、恥ずかしくて、悔しい。
「……テメェの相手すんのは、疲れるな」
「それはこちらの台詞だ。お前相手だと、いつも気を張っていなければならない。ひとつの油断がお前に嫌われることにならないかと……そんなことばかり考えている」
 跡部がため息を吐けば、手塚がその倍ほどの量を吐き出す。
 跡部は目を見開いた。あの自信満々の声の底で、そんなことを考えているというのか。まったく、内側が少しも読み取れない男だ。
 間抜けにもぽかんとしていた己に気がついて、我に返り跡部は肩を竦めて小さくハッと笑う。そうしてネット際まで歩み、手塚の額を指先ではじいた。
「……っ、何を、するんだ」
「ばぁーか。テメェを嫌いになんかなりやしねえよ。安心しな」
 それなりに痛かったのか、額を押さえる手塚に自信たっぷりに言ってみせる。
 この男に恋をできるかどうかは分からない。だけど、嫌いになることだけはないと、胸を張って言ってやれる。
「たとえ何らかの罪を犯しても、張り倒してやるだけで、嫌いにはならねえ」
「……俺はそんなことしない」
「たとえっつってんだろ。だが、そうだな……俺が手塚国光を嫌いになることがあるとしたら――ひとつだけだな」
 手塚がひとつ瞬き、先を促してくる。
 跡部もひとつだけ瞬き、言葉を舌に載せた。
「お前が、テニスを嫌いになったら、俺はお前を好きではいられねえ」
 ぐっとラケットを握る。
 この先テニスを続けていく中で、ずっと同じテンションでプレイできるとは限らない。体に限界が来て、辞めざるを得ない時もくるだろう。
 だが、だからといってそれを責めるようなことはしない。責めたいとも思わない。それが手塚の選ぶものならば、納得ができる。
「テニスができなくなってもいい。テニスを好きじゃなくなってもいい。だがテニスを憎むような男にはなるな。そうすりゃ俺は、死ぬまでテメェを嫌いになることはねえ」
「テニスを……嫌いになるという発想がなかった。あり得ない話だ。安心しろ、俺にはテニスとお前しかないからな」
「……っちゃっかりさらっと口説き文句入れてくんじゃねーよ」
 無意識だったと、眉を寄せた手塚の困ったような顔に、胸の辺りがくすぐったくなった。ついうっかり口に出てしまうほど、自然に想ってくれていることが、嬉しいと思ってしまった。
「手塚、今日はこれくらいにしておこうぜ。叩きのめしてやりてぇっつー気持ちが萎えちまったからな」
「お前こそ、ちゃっかり自分の勝ちで終えようとしているが」
「そうだったか?」
 そもそもどうしてこんなことになったのだったか、忘れてしまった。確かに跡部の方が多くポイントを取っていて、勝敗をつけるのならば跡部の勝ちだ。
 それを面白くなさそうにする手塚を、どう受け止めたらいいのだろう。
 頑固だと言えばいいのか、融通が利かないと言えばいいのか、大人げないと言えばいいのか。それとも、可愛らしいと思ってしまってもいいのか。
「次に取っときゃいいだろ」
「次だって、お前は負けるつもりがないんだろう」
「当然だ。まあ、そうむくれんなよ。今日はテメェにとっちゃ最高に幸せな日だろ? 何しろこの俺様を手に入れられたんだからよ」
「俺に恋をしていないというお前をな」
 言いながらも、続けるつもりはないらしい手塚は、タオルを取りにベンチへと向かいかける。恋に変えさせるなどと強気なことを言っていても、そこは気にしているようだ。
「手塚」
 跡部は、体を翻しかけた手塚の腕をつかんでぐいと引き、振り向かせる。少しだけ踵を上げて伸び上がり、汗の浮かぶ額に唇を寄せた。先ほど指先ではじいた場所に。
 こんなことで痛みは消えないだろうし、らしくないことをしているということも分かっている。
 触れて、二秒。離した唇の端を上げた。
「せいぜい頑張って落としてみせな。今はこれで我慢しておけ」
 至近距離で見た手塚の表情は茫然としており、一秒後にはカッと頬が染まって見えた。
「…………跡、部っ……!」
「そんな反射神経で、よく俺様のライバルなんてやってられるよなあ。ほらもう戻るぜ」
 掴んでいた腕を放せば、らしくなく手塚がよろめく。ネットを掴んで支えにしつつ、手塚は項垂れていた。
 まったく愉快な光景だと、跡部は気分が良い。あの手塚国光が、額へのキスひとつでこうまで動揺するなんて。
 邸内へ戻ろうと踵を返す跡部の後ろで、手塚の大きなため息が聞こえてくる。ちらりと視線だけで振り向けば、口許を押さえて頬を赤らめた手塚が見える。
 あんな手塚を、他に誰か知っているのだろうか。青学の連中は、家族は。
 胸が小気味よいリズムを刻む。じんわりと熱を持ったような唇に、そっと指先で触れる。
 そこは、わずかに汗で濡れていた。

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#片想い #両想い #誕生日 #R18 #塚跡 #新刊サンプル #シリーズ物

贈る側のはずなのに(10/07)

NOVEL,テニプリ,塚跡 2022.10.07

18歳以上ですか? yes/no

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贈る側のはずなのに(10/07)

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贈る側のはずなのに(10/04)

NOVEL,テニプリ,塚跡 2022.10.04

#両片想い #誕生日

 テニスをしないか。 悩みに悩んで俺がそう言った時の跡部の顔は、いつになく嬉しそうだった。「珍しいこ…

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贈る側のはずなのに(10/04)



 テニスをしないか。
 悩みに悩んで俺がそう言った時の跡部の顔は、いつになく嬉しそうだった。


「珍しいこともあるもんだなぁ、手塚。お前の方から俺を誘ってくるなんてよ」
 ひとしきり打ち合って楽しんだ後、ベンチで水分補給をしながら跡部が笑う。そうだろうかと考えかけて、まあそうだなとすぐに肯定した。声をかけるのは、いつも跡部の方からだったからだ。断る理由もないどころか、渡りに船とばかりに俺は一も二もなく頷いていたんだが、今日ばかりは俺の方から誘いたかった。
 今日は跡部にとって大切な日だ。この世に生を受けた日。いわゆる誕生日というヤツだな。
 額を、頬を伝う汗がきらきらと輝いているこの男が、生まれた日。
「迷惑だったか?」
 しかし予定が空いているとは思わなかった。何しろこいつは跡部景吾だ。パーティーだとかなんだとか、絶対にあるだろう。そんなに忙しい日になんで俺の誘いを受けてくれたんだ。テニス馬鹿としか言い様がない。
「んなわけあるか。パーティーの開始時間も少しずらせたしな。……ハ、今日という日にテニス、ね。お前らしいが」
 ああ、やはりパーティーがあるのか。これは気づかれているのだな。今日誘った理由に。
「これ、誕生日プレゼントのつもりなんだろ? テニス馬鹿のお前らしい発想じゃねーの」
「……テニス馬鹿というのは、お前には言われたくないが」
「フ……じゃあ、傲慢だとでも言ってやればいいか? お前とのテニスを俺が喜ぶと思ってんだろうが」
 ぐっと言葉に詰まった。何をプレゼントすればいいか分からなかったというのは、言い訳でしかないのだろうな。だって仕方がないだろう。跡部景吾だぞ。欲しいものは何でも手に入るだろうし、自分の力で手にするという男だ。そんな相手に、何を贈れと言うんだ。しかも、跡部の印象に強く残るようなものなんて、そうそうない。
「まあ、その判断は正しいぜ。お前の思ってる通り、俺はお前とするテニス、好きだしな」
 悔しいことに、と言いながらも、跡部の顔は嬉しそうだ。そんな顔をするのはやめてほしい。おかしな期待をしてしまうだろう。
 跡部は俺のことを、ただのライバルとしてしか見ていないのだろうに。
 俺だけが恋情を抱いている。それは分かっているんだ。だからこそ、他の誰にもできない贈り物を選んだつもりだ。俺自身も楽しんでしまったが、テニスなのだから仕方がない。
「誘ってくれて嬉しかったぜ。お前の誕生日には、俺の方から誘ってやるよ」
「それはいつもと変わらない気がするが」
「嫌なら……控える」
「そんなことは言っていない。俺はお前とテニスがしたいと思っている」
 ベンチから腰を上げて帰り支度を始めてしまった跡部に、俺は慌ててそう返した。「やめる」ではなく「控える」というあたりはなんだか嬉しい。跡部は本当に俺とのテニスを楽しみにしてくれているらしい。
「ん、なら予定空けておけよ。七日、青学に迎えに行ってやるから」
 いつもと変わりなくても、跡部と一緒にいる時間が増えるならそれは幸せなことだ。しかも、俺の誕生……日……、待て。なんで俺の誕生日を跡部が知っているんだ。思わず跡部の腕を掴んでしまった。汗で湿る素肌の感触に、うっかり胸が鳴る。
「な、んだよ」
「どうして俺の誕生日を」
「……………………は?」
 跡部が不思議そうな……というより、不審そうな顔をする。俺はそんなにおかしなことを言っただろうか。
「いや、お前……普通知ってんだろ、好きなヤツの誕生日くらい……」
 呆れた様子で跡部は呟く。耳を疑った。どういうことなんだ。好きなヤツというのは、つまり、俺のことか。跡部が、俺を……? まさか、そんな都合のいいことがあるわけがない。
「おい手塚、なんで今さら驚いてんだ。まさかとは思うが、俺の気持ちに気づいてなかったのか?」
「ま、待て跡部、お前の気持ちというのは」
「…………俺がお前を好きなこと、とっくに気づかれてると思っていたんだが。その上で誘ってくれたんなら、脈があんのかと浮かれてたが……どうやら見当違いだったようだな。鈍いにも程があんだろーが」
 そんな都合のいいことが――あった。跡部が俺に好感を持ってくれているのは分かっていたが、それがこんな意味だなんて思わないだろう、普通。
 項垂れて、顔を覆った。どんな顔をすればいいか分からない。嬉しくて仕方がないのに、先を越されたようで面白くない。
「こんなふうに言うつもりじゃなかったんだが、手塚、俺はお前が好――」
 ハッとして顔を上げ、とっさに跡部の口を手のひらで覆う。声を遮られて跡部は目を瞠り、次いで不愉快そうに眉間にしわを寄せた。もっとも、そうしたところでこの男の美しさが損なわれることはないんだが。
「すまないが先に言わせてもらうぞ、跡部。俺はお前が好きだ。恋という意味で、跡部景吾に惹かれている」
 よかった、これで俺の勝ちだ。
 跡部の目が先ほどより大きく見開かれて、は、と訝しむ吐息が手のひらに当たる。信じられないのだろうか。そうだろうな、俺だってすぐには受け止められない。
 だけど、驚いてなのか力をなくした跡部が膝から崩れそうになるのは受け止めてやれた。かすかに震えているように思うのは、どう捉えたらいいのか。怒りなのか、歓喜なのか分からない。
「お……れさまの告白を遮ってまで言うとはいい度胸じゃねーの、手塚ぁ……!」
 低い声が耳に届く。これは怒っているのか。まあ口を塞がれたのではいい気はしないだろうな。すまないとは思うが、負けたくなかっただけなんだ。嫌われてしまっただろうか。
「跡――」
 衿をぐいと引かれる。きらきらと光る髪が視界を襲ったかと思った次の瞬間には、唇が触れていた。柔らかく食まれて、驚愕に目を見開く。
「これで一勝一敗だろ、アーーン?」
 なるほど先を越されたくないと思ったわけだな。そんな状況でファーストキスはどうかと思うが、俺と跡部である以上は勝負になってしまうのも仕方がない。頬が赤くなっている跡部も可愛いし、ここは負けておいてやるとしよう。
「……では、これで俺とお前は恋人同士ということで良いんだな」
「お前のが冗談じゃねーならな」
「俺は冗談など言わない」
 そうかよ、と俯きながら呟く跡部は、耳まで赤くなっている。思わず抱き寄せてしまったが、恋人なのだから問題ないだろう。現実なのだと認識したくて、俺は跡部を強く抱きしめる。
「跡部、……誕生日おめでとう」
「ああ、ありがとよ。最高のプレゼントじゃねーの、手塚ァ!」
「贈る側のはずなんだが、俺の方がプレゼントをもらってしまったように思う」
「バーカ、お前へのプレゼントはこんなもんじゃねーからな。覚悟しとけ」
 跡部が嬉しそうに強く抱き返してくれて、胸が鳴る。もっと早く告げていれば良かったとも思ったが、跡部が喜んでくれたのだから、まあ、よしとしておこう。


 その後、引っ張り込まれたパーティーで、氷帝メンバー相手に恋人宣言された時には、どうしてくれようかと思ったが。

 

#両片想い #誕生日

カクテルキッス再録集
カクテルキッス再録集

カクテルキッス―Re;Collection―

OFFLINE 2022.07.24

#R18 #シリーズ物 #再録 #カクテルキッス #千至

(画像省略)カクテルキッス再録集【装丁】A5サイズ/298P/1800円(イベント価格)/R18【書…

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カクテルキッス―Re;Collection―

カクテルキッス再録集
カクテルキッス再録集


【装丁】A5サイズ/298P/1800円(イベント価格)/R18
【書店】フロマージュブックス様
書き下ろしはありません。

シリーズの再録集です。文章や台詞を少し整えたのみ、書き下ろしは別途新刊として発行。

【収録物】
①2.22のガチャ事情
②ONE NIGHT IN HEAVEN
③愛のひとつも囁けない
④たった一度のI love you
⑤ふたりの約束

すべてWEB再録済みなので、紙で読みたいという方向けの物です。ご了承ください。

#R18 #シリーズ物 #再録 #カクテルキッス #千至

千秒の愛に至る音
千秒の愛に至る音

カクテルキッス―千秒の愛に至る音―

OFFLINE 2022.07.24

#両想い #ラブラブ #カクテルキッス #シリーズ物 #新刊サンプル #R18

(画像省略)千秒の愛に至る音【装丁】A5サイズ/68P/700円(イベント価格)/R18【書店】フロ…

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カクテルキッス―千秒の愛に至る音―

千秒の愛に至る音
千秒の愛に至る音

【装丁】A5サイズ/68P/700円(イベント価格)/R18
【書店】フロマージュブックス様
【あらすじ】千景に、もらった指輪のお返しを贈りたい至。二人で選びたいと提案し、街へと誘い出す。危険なことになるのは回避しなければと気負う至に、千景は新たな一歩を踏み出そうとしていた。
※作中にほんのり十座×左京の描写がありますので、苦手な方はご注意ください。


「それで? なんでお前こんなとこにいるんだ」
「いやそれこっちの台詞なんですけど。本気でビックリした」
 この店にいることを千景に言っていたわけではないのに、どうしているのだろう。スマホにもなんの連絡も来ていない。仕事が終わって「これから帰る」とでも入っていれば、この店の名を返していたかもしれないけれど。
「実はここ、俺が使ってる情報屋だからな。彼に連絡をもらったんだ」
 言いながら、千景は先ほどのバーテンダーを指さす。どこまで本当か分からないが、千景なら有り寄りの有りだ。
「――なんてのはどう?」
「信じかけたじゃないですか」
「ハハ、ここは愛の力とでも言いたいとこだけど、まあ偶然かな。一杯だけ飲んで、仕事の名残を消して帰ろうと思っただけだよ。別にお前にGPSなんて仕掛けてないし」
「先輩が言うとコワ。まあ、でも、助かりましたよ。ありがとうございます」
「何もされてないか? 大丈夫?」
 本当に心配そうに髪を撫でてくれる千景に「はい」と返し、ハッとする。千景の方こそ大丈夫なのかと。一仕事終えてきた状態だ、怪我なんてしていないだろうか。
「あの、先輩は……っ」
「ん?」
「……いえ、なんでもないです。……おかえりなさい、千景さん」
「うん、ただいま茅ヶ崎」
 何も言わないということは、何もなかったということだ。至の役目は受け入れて受け止めて、迎えるだけ。おかえりというと五割増しの優しい顔でただいまと返してくる千景の傍にいることだ。
「そうだ先輩、明日空いてます? 土曜日だし」
「なに、デートのお誘いかな」
「……そうですね、そういえば」
「そういえばってなんだ」
「だっていつも一緒にいるから、デートっていう単語に慣れてなくて」
「まあそれは俺もだけど。いいよ、空いてる」
 部署は違えど会社でも一緒、劇団の組も一緒、もっと言えば寮の部屋も一緒。一緒にいない時間の方が少なそうで笑ってしまう。
 こんな状態で、お互い片想いをしていた時期があるというのだから、始末に負えない。
 こんなに愛しそうな顔を向けられて、気づかないはずがなかったのに。
 そしてまた、こちらも同じだったのだから気づいてくれてもよかったはずなのに。
 あり得ないと思う先入観が、フィルターをかけていたとしか思えない。
「何か欲しいものでもあるのか? ゲーセンじゃないだろうな」
「その手があったか」
「おい茅ヶ崎」
「ハハッ、冗談ですよ。半分。あのですね、これのお返し、買いたくて」
 言って、千景に左の手の甲を向けてみせる。そうして右手の人差し指で、指輪を示した。千景はぱちぱちと目を瞬き、驚きを隠せない様子だった。
「……指輪の? お返しってどういう」
「俺は先輩と……千景さんと対等でいたいんですよ。まあ無理ですけど。この指輪だって、千景さんがお金出したでしょ、でも俺だって大事な人に課金したい」
「課金とは」
「そこは言葉のあやで」
 いつものくせでつい、と視線を逸らす。だが言ったことは本音だ。千景に与えてもらうだけの状態ではいたくない。行動力も包容力も、資産だって千景には敵わない。
 せめて気持ちの大きさだけは示しておかないと、情けないことになる。ちらりと千景を見やると、項垂れて手の甲で額を支えていた。
「え、あの……千景さん、そういうの、嫌、ですか……」
 これは盛大に外したということだろうか。千景のプライドを傷つけたのかもしれない。
 余計なことだったか? と思うと同時に、こちらにだってプライドと恋情と愛情があるのだと、面白くない気持ちもわき上がってくる。
「そうじゃなくて……ごめん、なんて言ったらいいのか分からない」
 千景はゆっくりと息を吐きながら、顔を上げて口許を覆い、眉を寄せた。至はぱちりと目を瞬く。気に食わないわけではないらしい。それどころか、これは、と思っているうちに、千景の額が寄ってくる。こつ、と頭がぶつかって、音を立てた。
「――……うれしい。茅ヶ崎、ありがとう」
 こめかみに振ってくる唇と、耳に囁かれた声に、ぶわっと体温が急激に上昇する。
 千景がこんな声を出すなんて、本当に嬉しく思ってくれているのだと、途端に恥ずかしくなってきた。まだ予算も決めていないのに、はちゃめちゃに課金をしてしまいそうで恐ろしい。
 だけどこんなに喜んでくれるなら、それもいいかなんて思ってしまった。
「そ、んなに……うれしい、ですか?」
「うん。俺はそういうつもりで指輪買ったわけじゃなかったからな……そんなふうに返してくれるなんて、思ってなかった」
「千景さんて、いつでも与える側ですよね……」
「いや、俺はいつももらう側かな」
「何言ってんだかこのペテン師が」
 至は乾いた笑いを漏らし、なだめるようなキスを千景の額に与えた。
 こんな小さなキスしかあげられないけれど、受け取ってくれるだろうか。頬にお返しのようなキスをされて、幸福そうな顔をした千景に満足した。
「あの、時計がいいかなって思ってたんですけど。プレゼントでは定番みたいだし」
「ここ最近、時計の雑誌とか読んでたのはそのせい?」
 めざとい、と少し気恥ずかしげに目を瞬いて、至はこくりと頷く。
「今日もちょっとリサーチ行ってたんですけど、一人じゃ選ぶの難しいんですよ。ブランドにはこだわりないって言ってましたけど、何か欲しいものあります? カタログももらってきたので」
「あるよ。今すごく欲しくて、ちょっとやそっとじゃ手に入らないものなんだけど」
「え、それは俺の経済力では無理なのでは」
 千景がこんなふうに明確に示すことは少ない。至は超高級な時計のブランドを思い描きながら、引きつった笑みを浮かべた。
 テーブルに置いていた手に、千景の手が重なってきたことに気がついたのは、耳元で「茅ヶ崎至」と囁かれた時。
「そっ……う、いうのじゃ……っ」
「他の男に口説かせたままで、一日を終わらせてやると思ってるのか?」
「あ、んなの、口説かれたうちにも入らないっていうか、今まさに千景さんが口説いてる状態なのでは」
「こんなの口説いてるうちにも入らないだろ」
 ねえ、と指先で指の間をすいと撫でられる。
「う……」
 至だって、ワンナイトのつもりで言い寄ってくる男の絡みを、一日の最後になんかしたくない。
 それに自分たちは恋人同士なのだし、抱き合いたくなってもおかしくない、おかしくない、絶対だ、と自分に言い聞かせて、諦念を混じらせてこくんと頷く。
「じゃあ、あそこ……行こうか、茅ヶ崎」
「え、あ、はい、……あそこですよね」
 チェックを済ませ、店を出る。
 向かうのは、初めて肌を重ねたあの夜の、はじまりの場所だった――。



 仕事を終えたあとの千景は、好戦的になる。ベッドへ行く数秒の間すら惜しいとばかりに、ドアを閉めた途端に唇を奪われた。
 器用な指先はジャケットのボタンを外して、シャツを引き出したかと思えばすぐに素肌を昇ってくる。
「んっ……ん、ふっ……ぁ、んんッ」
 ぐっと割り込んできた太腿で股間を擦られて、びくりと腰が揺れた。まさかここで、と千景の体を押しやり、吐息の合間に誘導してみる。
「ちか、げさ……ベッド……っ」
「遠い」
「あっ……! ん、んんっ、んぅ」
 そんなわけあるかと抗議したいのに、再び塞がれた口では何も言えない。
 いつだかもこんなことがあった気がする。だけどあの時よりはずっと千景の存在が近くにあって、心音はずっと速くて大きい。
 食われてしまいそうなほど舌が絡み、吸い上げられ、頭がくらくらとしてくる。吐息と衣擦れと、唾液の音しか聞こえない。
 乳首をつままれこね回されて、吐息の温度が上がる。それに気を良くしたのか、執拗にいじり倒してくる千景の指先を、憎らしく思った。
「千景さん、それ、やだ……いっ……あぁ……」
「こうして爪の先で引っ掻かれるの、好きだろ。じれったそうな顔してる。もっとしてほしいって……舐めて、吸って、噛んでほしいって」
「言って……ないぃ……っんん、あ、あ、駄目、だめ……っ」
 口に含まれて、ぞくぞくと快感がせり上がってくる。千景の言う通りなのだが、言葉にされると素直にうんとは言いづらい。どちらにしろされるのだから、否定するより千景を待っていた方が楽でもあった。
 軽く歯で挟まれて、さらに舌先でいじめられて、気持ちよくて仕方がない。
 ガクガクと膝が揺れて、顎が上向く。声を抑えるという概念さえ消え去って、ただ体が望むままに千景の愛撫を受けた。
 チリチリとファスナーを下ろされた向こう側に、形を変えたものがある。下着越しにそっと撫でたかと思えば、次の瞬間にはぐいと引きずり下ろし直接触れられた。
「あっ、あ、あ……だめ、待ってやだ、千景さんっ……」
「やじゃない」
「ベッド、で……っ、だから、駄目、ですってば、ぁ……ん、んッ」
 にちゅ、にちゅ、と淫猥な音が耳に届く。恥ずかしい以前に、立っていられない。もう体全部を投げ出してしまいたいくらいなのに、立っていなければならないのはつらい。何より、千景の与えてくる快感に集中できないのが嫌だった。
「ちゃんと、感じたい……千景さん、お願い……これじゃ、集中、できな……っ」
 千景の手が、ピタリと止まる。それはそれでじれったいけれど、聞き届けてもらえるのだろうかと安堵もした。
「なるほど。抱いてる最中に気を逸らされるのは、俺も本意じゃないな」
 千景はそう言って、いったん体を離す。ずるずると壁を伝い崩れ落ちそうになる至の膝裏に腕を差し入れ、ぐっと腰を上げた。至は思わず「ひえっ」と声を上げ、慣れない視界に慌てる。
「おっ、下ろしてください!」
「下ろすよ。ベッドでね」
 歩くのもままならないお前を待つ余裕があると思うなと言われて、ゆでだこのような顔を隠したくて、千景の首にしがみついた。
 そうしてベッドに下ろされれば、仕切り直しとでもいわんばかりのキスから始まる。
「茅ヶ崎は俺が与えるばかりの側って言うけど、やっぱり俺はもらう側だなって思うよ」
「今のやりとりの、具体的にどこが」
「ぜんぶ」
「えええ?」
 ハテナマークしか浮かんでこない。そのマークも早々のうちに千景の愛撫に吹き飛ばされる。そこかしこに散らされるキスマークの方が多くなって、至は体を震わせた。



畳む


#両想い #ラブラブ #カクテルキッス #シリーズ物 #新刊サンプル #R18

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GOOD MORNING :Atobe

NOVEL,テニプリ,塚跡 2022.05.09

#両想い #ラブラブ #未来設定 #BOOST #永遠のブルー #情熱のブルー

発行物「永遠のブルー」・「情熱のブルー」の1エピソード ベッドの上で目を覚ますと、見慣れない光景が広…

NOVEL,テニプリ,塚跡

GOOD MORNING :Atobe

発行物「永遠のブルー」「情熱のブルー」の1エピソード

 ベッドの上で目を覚ますと、見慣れない光景が広がっていた。
 自分のものではない肌の色。ぼんやりとした意識がはっきりとするにつれて、自分の体に巻きつく誰かの腕があるのに気がついた。
 ――――いや、誰かの、なんて……。
 恋人のものに決まっているのに。決まってはいるが、こうして一緒に朝を迎えるのは初めてなんだ。驚きと歓喜に打ち震えてもしょうがない。
 ――――大事そうに抱きしめてくれやがって。
 正直、こんなことになるなんて思わなかった。ずっと片想いだったし、そろそろ自分の気持ちにケリをつけなきゃならねえと思ってはいたんだ。コイツが――手塚が大事な相談があるなんて言うから、てっきりどこぞの女との結婚だろうと踏んで、ひとり涙を呑んでたってのに。
 ――――好きだ、ってよ……愛してるって、言ってくれた……コイツが。
 まだ実感が湧かないか? なんて手塚に訊ねた俺の方こそ、実感がなかった。だってよりにもよって手塚国光だぜ? テニスしか興味のなさそうな顔したカタブツ相手じゃ、俺の恋はおろか誰の恋だって叶いそうになかったのに。
 こんなに大事そうに抱きしめながら眠るような男だったなんて。
「跡部……起きたのか?」
「……っ起き、て、たのかよ。人が悪いな」
「先ほどまで寝顔を眺めていたが、無防備なお前は可愛らしいのだな」
「なっ……!」
 読み切れなかった。コイツはこういうことを言うのかよ……。くそ、悔しい……跡部景吾ともあろう者が、こんな手に落ちるだなんて。
「フン……俺の無防備なとこなんて、散々見ただろうがよ」
「ゆっくり堪能できる余裕があったと思うなよ」
「…………お前、割とガツガツしてんのな、こっち方面」
「すまない……お前があまりに色っぽいので」
 心なしかしょんぼりとした声音に笑って、あちこち痛む体を起こす。痛みさえ嬉しいなんて、俺も相当重症じゃねーの。まあ十年こじらせてたあたり重症で当然なんだが。
「メシ、どうする? ルームサービス取るか。さすがに今夜のパーティーまでベッドでゴロゴロってわけにもいかねえだろ」
「そうだな。そういえば腹が減っている気がする」
「あれだけ動けばな」
 手塚も起き上がって眼鏡をかける。今日も腹立たしいほどいい男だな。
 こんな男が俺の恋人かって思うと、胸の辺りがくすぐったい。見える世界が色彩さえ変えちまったように感じる。
 俺はそっと手塚に唇を寄せてキスをした。
「モーニン、ダーリン。今日も愛してるぜ」
「ああ、おはよう跡部。俺もお前をとても愛している」
 ハニーと返ってこないところはさすがだが、そんなことはどうでもいいさ。俺が手塚を愛してて、手塚も俺を愛している。
「今日はさすがにテニスはできそうにないな。次からは加減をしたい」
 それと、テニス。
「ああ、よろしく頼むぜ」
 俺の世界には、それだけで充分だ。


 

#両想い #ラブラブ #未来設定 #BOOST🩵 #永遠のブルー #情熱のブルー