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永遠のブルー-037-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

 なぜだ、と跡部は頭を抱えた。「跡部、まあ一応おめでとうっつっとくぜ。二重の意味でな」「跡部さん………

永遠のブルー,塚跡WEB再録

永遠のブルー-037-

 なぜだ、と跡部は頭を抱えた。
「跡部、まあ一応おめでとうっつっとくぜ。二重の意味でな」
「跡部さん……よかった、です、本当に……」
「やあ跡部、ついにくっついたんだって? 長かったよね。動きが鈍いのは言及するべきかな?」
 なぜ、誰も彼もにバレているのだと。
 今日は跡部主催のパーティーで、親しい友人や後輩たちを招いていた。
 ウィンブルドン上位を祝うもののはずだが、参加者の誰もが別の意味での祝いを告げてくる。
 跡部が長いこと手塚を想っていたのを知っているのは、忍足と滝だけだった。当人である手塚でさえ、知ったのは昨夜だというのに、なぜ宍戸や樺地や、果ては幸村までもが知っているのか。
「……滝! 忍足ィ!」
「あ、言っておくけど俺たちのせいじゃないからね」
 どこから漏れたのかと考えれば答えはひとつで、両手いっぱいの花束を抱えながらも、跡部は滝と忍足を勢いよく振り向いて睨みつける。だが彼らは悪びれることもせず、しれっと押し返してきた。
「ここにおるヤツらほとんどが、跡部か手塚の片想いを知っとったっちゅうだけの話や。手塚の方かて、青学の連中にはバレバレやったみたいやないか」
「あぁ!?」
 忍足の言葉に、今度は手塚を睨みつける。手塚は眼鏡を押し上げ、気まずそうに視線を背けた。
「確かに不二と……大石と……なぜか越前にもバレていたのは、薄々感じていた」
「な……っ」
 会場を見渡すと、視線に気づいた不二はひらひらと手を振ってくるし、大石はハハハというように頬を掻いているし、越前に至っては「まだまだだね」とでも言いたげに笑ってくる始末だ。
「そんでもまあ、俺らがひそひそ話しとったんを菊丸に聞かれたことが原因やろな。一気に広まったわ」
「やっぱりテメェのせいじゃねえか!」
 力一杯忍足の頭を叩いて、跡部は大きくため息を吐いた。
 そんなに分かりやすかったのだろうかと思い返して、自分の不甲斐なさを嘆く。隠せていると思った手塚への想いは、実は少しも隠せてなどいなかったらしい。
「手塚クン、よかったなあ。長いこと跡部クンのこと大っ好きやったんやろ?」
「アナタ、また面倒な相手に惚れたものですねえ。まあお祝いくらいは言っておいてあげますよ」
「手塚、やっぱり跡べーのこと好きだったんだね~。にゃはは~」
「こ、こら英二っ。あ、手塚ホントにおめでとう。なんだか感慨深いな」
 わらわらと集まってきては手塚に祝いだか揶揄だかを投げかけていく友人たちを見るに、隠せていなかったのは手塚も同様のようだ。もはや呆れる他にない。
「……これは想定外だが、ここのメンバーになら構わないだろう。そんなに嫌か?」
 手塚が、少し寂しげに声をかけてくる。経緯はどうあれ祝福してくれているのを、こんなにも怒ることはないだろうと言いたいらしい。
「そういうわけじゃねえよ。元々、滝と忍足には報告するつもりだったしな。ただ、箝口令は敷かせてもらうぜ」
 跡部は手を高く掲げてパチーンと指を鳴らす。あの頃の氷帝コールよろしく、ざわついていた会場が静まり返った。
「テメェら、祝福ありがとよ。だがこのことを外部に漏らすんじゃねーぞ、いいな!」
 彼らからの祝福を受け取りつつも、命じ……もとい、頼み込む。ナイーブな問題だ、わざわざ世間に喧伝することでもない。
 そうして跡部は、手塚に向き直った。
「手塚、俺はお前とのことをスキャンダルにするつもりはねえんだ。俺にもお前にも、立場ってものがあるからな。下手をしたらスポンサーへの賠償なんて話にもなりかねねえ。公表してもいいが、慎重に時期を見る。いいな?」
「分かっている。俺とお前の真剣な想いを、スキャンダルなどとは言わせはしない」
 力強く頷いてくれた手塚に、跡部は優しく笑う。その表情は、氷帝のメンバーをしても珍しいものを見たと思わせ、恋の成就を実感させた。
「そういうわけだ、皆よろしく頼む」
 手塚も会場の全員に向かってそう言い放ち、ここだけに留めておいてくれるよう頼んだ。それには全員が頷いてくれる。
 そこら辺が分からない連中ではないからこそ、長く付き合ってもこられたのだ。跡部は手塚の隣で、満足そうに口の端を上げた。
「つーかよ、氷帝と青学は理解ができるが、なんで立海や四天宝寺にまでバレてんだよ」
「俺は割と早くから跡部の気持ちには気づいていたかな。だって君、手塚にもらったぬいぐるみ、W杯にまで持ってきてただろう? 可愛いったらないよね」
「なっ……」
「……ほう。詳しく聞かせてもらおう」
「聞かなくていい!」
 幸村が愉快そうに笑う。確かにU―17のW杯では部屋割りが幸村と一緒だった。寝室は別だったのに、枕元に置いていたユキヒョウに気づかれていたなんて。興味深そうに食らいつく手塚の脇腹を小突いて、頬を染めた。
「W杯っていえば跡部、覚えているかな。手塚が、ボクに借りたCD返しておいてほしいって頼んだの」
「ああ、この俺様を使いっぱしりさせたヤツかよ。後にも先にも、お前らくらいだぜ」
「不二」
 幸村に続いて楽しそうに笑う不二が、跡部の肩を叩いてくる。なぜか手塚がわずかに慌てた様子を見せ、跡部は首を傾げた。
「ボクはね、手塚にCDなんか借りてなかったんだよ。あれは空のCDだった。少しでも君との会話を増やしたかったんじゃないかな」
「……は……?」
「不二」
「手塚が元気そうだったって聞いて、安心したよ」
「不二、それくらいで勘弁してくれ……」
 手塚が珍しく項垂れる。
 確かにあの時、CDの件を出した際不二はほんの数瞬だけ不思議そうにしていた。「手塚には何も……」と言いかけて、気がついたように口許を覆っていたのを思い出す。
 ほんのわずかな時間だ。他愛もない会話だ。それでも、手塚が跡部との時間を増やしたかったのだろうと悟らせるくらい、分かりやすく想われていたのか。
「景吾くん、顔が真っ赤だよ」
「跡部にそんな顔させられるんは、やっぱり手塚しかおらんなぁ……。せやけどな、泣かせたら承知せんで、手塚」
「おいテメーらな……」
「跡部の泣くところは可愛いと思うが、傷つけるなという意味なら、心配無用だ」
「――手塚ぁ!」
 何を言い出すんだとさらに顔を真っ赤にして叫ぶ跡部だが、「やっとれんわ」と忍足たちが肩を竦めてパーティーの料理の方へ向かっていってしまうのは、誰にも責められない。
 そうしてそこかしこで、昔話に花が咲く。厳しかった練習。涙を呑んだゲーム。それでも楽しかった合宿。
 テニスの道を離れた者、まだ続けている者、進んだ道は様々だったけれど、あの頃必死に黄色いボールを追いかけていた事実は変わらない。酒の飲める年齢になっても、話題はあの頃の輝かしい青春だった。
「そういえばさ、二人ともお互いのどこがそんなに好きなんスか。テニスの腕はすごいけど、恋愛的な意味で惹かれるとこあんのか分かんないんスよね」
 越前の何げない一言に、周りにいたメンバーたちも興味津々だ。若干失礼な物言いだが、そこは全員が気になって仕方ないところらしい。
「アーン? そんなもん、決まってんじゃねーか。なぁ手塚」
「ああ、訊かれる意味が分からないな」
 仕方ねえなと呆れ気味に肩を竦める跡部に、手塚も強く頷く。
「全部だ」
 二人揃ってそう口にするのに、全員が「仕方ないのはそっちだ」と肩を竦めるのは、やはり仕方のないことだった。


#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

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永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

18歳以上ですか? yes/no

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永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

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 キィとドアを開けて入ってきた青年に気がついて、不二周助は軽く手を挙げて招いた。「越前、こっち。思っ…

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 キィとドアを開けて入ってきた青年に気がついて、不二周助は軽く手を挙げて招いた。
「越前、こっち。思ったより早かったね」
「ちーッス、不二先輩。忍足さんと滝さんも、お疲れッス」
 バーカウンターで越前リョーマは不二の隣に腰をかけ、忍足と滝にも軽く会釈をする。普段着の不二たちとパーティー帰りの越前では少しアンバランスな雰囲気があるが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
 バーテンダーにカルアミルクを頼み、三人とグラスを合わせる。大会の成績を祝い、今回の労をねぎらってくれた。
「ほぼ確っすね。あの二人、パーティー終わるや否や揃って部屋に向かったみたいッス」
 越前の報告に、不二たちは一様に「あ~……」と声を上げる。
 今大会の祝勝会には当然上位者の越前も参加していた。優勝以外じゃ意味がないねと言いつつも越前が参加したのは、ある人物たちの動向を見守るためだった。言わずもがな、手塚と跡部の二人である。
「もー……なんやねんあの二人……ホンマに長いこと両想いやったっちゅーことかいな」
「そうみたいだね。手塚は間違いなく告白するつもりだったから、忍足たちの言うことが本当なら、今頃はお互いの気持ちを伝え合っているんじゃないかな」
 忍足は嘆くように両手で顔を覆い、滝はやれやれといったふうに小さく首を振る。
「まさか手塚が景吾くんを好きだったなんてね。優勝キメた後に手を掲げてたでしょう? あれ、やっぱり景吾くんに向けてだったんだ……」
「俺は跡部さんが手塚部長を好きだったってことの方が驚いたんスよね。テニスに関しては執着してるなって思ってたけど」
「いやいや、跡部のは分かりやすいやろ。そっち方面にはニブそうな宍戸まで気づいてたんやで? 知られたないなら気ぃつけろ言うたのになぁ」
「ボクらは普段の跡部を知らないからね。手塚の方が分かりやすかったよ。だいたい、怪我の一因になった相手と連日テニスしにいくってとこで、もうおかしいじゃない」
 不二の言葉に、三人ともが「それな」と指をさす。呆れて物が言えないと、それぞれのカクテルを飲み干す。
 気づいても良かったはずなのに、間にテニスがあったことでややこしくなってしまったのか。それでも、間にテニスがなければ惹かれ合ってもいなかっただろうと思うと、世の中上手くいかないものだ。
「こっちはこっちで気ぃ揉んどったんやけどなぁ。U―17の合宿でも大変やったのに」
「お互いに、言っちゃいけない気持ちだと思っていただろうしね」
「親しくなりたいけれど、なったらなったで余計に好きな気持ちが大きくなる。ふふっ、青春だなあ」
「手塚部長、そういう状態でドイツ行っちゃいましたしね。急すぎじゃないッスか?」
「あれなぁ……。跡部が健気すぎて泣けたっちゅーねん」
 せっかく同じチームでテニスができていたのに、プロになるという手塚を送り出し、中学生選抜の長を引き継いだ跡部。
 惚れた男の成功を祈って自分の恋心を押し込めるキングに、何をしてやればいいか分からなかったことを思い出し、忍足はわざとらしく泣き真似をした。
「健気ってのは、分かる気がするッスけど。いつだったかのインタビューでずっと片想いしてるって聞いて、頭を抱えたんスよね、俺。余計なことしたかもって」
「ボクもその雑誌読んだよ。一途なんだなって思ったけど、手塚にしてみれば、キツかっただろうね」
 不二の言葉に、越前は頷く。
 恋人や婚約者がいないのならば、踏み込んでみるのも手ではないかと思った援護射撃が、裏目に出てしまった形だ。
 手塚はその日、ウィンブルドンで優勝カップを手にすると宣言してきた。あの時にもう、決めていたのだろう。
「だから今日の試合終わってから滝たちに話を聞いた時は、本当に安心したんだ。もちろん、何やってんだろうあの二人って思いの方が大きかったけどね」
「俺、正直今夜はパーティーどころじゃなかったッスよ……本気でびっくりした」
「せやろなあ。まあ、文句は明日言ったろか。散々心配させよってからに」
「今頃はイチャイチャしてるのかな。手塚もやるねー。まあ、今夜は素直に二人のことを祝おうか」
 賛成、と四人は新しくカクテルをオーダーする。あの二人に似合いのモッキンバード(『似た者同士』)が四つ、重なり合ってカチンと音を立てた。


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永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

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「……あァ……?」 今、手塚は。 手塚は、好きだと言ったのだろうか。跡部に対して、好きだ、と。「なん…

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「……あァ……?」
 今、手塚は。
 手塚は、好きだと言ったのだろうか。跡部に対して、好きだ、と。
「なんて、言った」
「好きだと。恋愛対象としてだ。ずっとお前に惹かれていた。今もだ」
 訊ねた跡部に何の躊躇いもなく返してくる。思わず落としそうだったグラスを置き、テーブルに片手をついた。
 ――――待て。待ちやがれ。幻聴じゃねえらしいが。
 目を閉じる。
 空いた手を腰に当て、考えた。
 ――――どういうことだ。夢でも見ているのか。そうでなければ何かの間違いか、酒の勢いだ。冗談にしてはタチが悪い。こっちはせっかく断ち切る覚悟をしたってのに、なんだ、それは。
 跡部は下向いていた顔をゆっくりと上げ、手塚を振り向く。腹立たしいほどいつも通りの男がそこにいた。
「お前が、俺を、だぁ?」
「そうだ。混乱するのも無理はないと思うが、すまない、事実だ。だが勘違いをしないでほしい」
「あん?」
「告白をしたからといってお前に何かを望んでいるわけではない。お前にはずっと……ずっと想っている相手がいるのは知っている。それを踏みにじってまでどうこうしようとは思っていない」
 跡部はついていた手を上げて体を起こす。
 いつも通りの手塚だと思っていたが、とんでもない思い違いだった。
 彼らしくなく、饒舌だ。焦りと、どうにもしようがない想いにもがいているように見て取れた。
 手塚に向き直った跡部は、手のひらで顔を覆い、じっと手塚を眺める。
 嘘を言っているようには見えない。酔っているわけでもないように見える。手塚とは何度も一緒に酒を飲んできた。ほんの少し酔った様だって、見たことがある。
「……本気で言っているのか」
「否定はしないでほしいと言ったはずだが」
「否定じゃねえ、確認だ」
「俺はいつでも本気だっただろう。特にお前にはそうしてきた」
 まっすぐ向かってくる視線を、跡部は受け止める。もとより、不器用なこの男が冗談やその場限りの思いを吐露するはずもないと、分かってはいた。
「手塚、お前……それ、いつからだ」 
「中学の頃からだが」
 返された言葉に、跡部は思わず項垂れて額を押さえた。
 なんてことだ。――なんてことだ。そんなにも長い間、自分たちは。
 ならばあの時交わした言葉も、視線も、触れた指先も。
「跡部、だが先ほども言ったように、お前に好きな人がいるのは分かっている。ただ俺の気持ちを知っていてほしかった。優勝をしたら好きだと告げて、踏ん切りをつけようと思っていたんだ。できれば今まで通り友人として接してくれるとありがたいが、無理ならそう言ってくれ」
 項垂れたことを悪い方に解釈したのか、手塚はそう続けた。
 今は考えないようにしている――そう言った時の手塚の気持ちを思うと、胸が締め付けられるようだった。
 跡部に好きな相手がいると分かった一年前、もういい加減に自分の気持ちにケリをつけようと思っていたのか。そのためにずっと、勝つことだけを考えてきたのか。絶望するのではなく、告げるための努力をしてきたのだと思うと、苦しさとは別の痛みが胸を襲う。
 告げずに断ち切ろうとした跡部と、告げて決着をつけようとした手塚。
 この男には、生涯敵うことはないのだろうと思う。そしてその諦念を覆い尽くさんばかりの、愛しさがこみ上げてきた。
「手塚、お前……俺の相手が自分だとは、微塵も思わなかったかよ?」
 跡部は顔を覆っていた手をゆっくりと下ろし、じっと手塚を眺めた。
 彼は何を言われたのか分からないといったような顔をしている。まるで先ほどの自分を見ているようでおかしかった。
「……どういうことだ」
「どうもこうもねえ。俺が十年片想いしてたのはお前ってことだ、手塚ァ」
 手塚がひとつ目を瞬く。突然の告白についていけないようだが、それは跡部も同じだったのだ。同じ困惑を味わいやがれと口の端を上げて、跡部はさらに追い打ちをかけた。
「好きだぜ、手塚。ずっとお前が好きだった」
 惚けたような手塚の口許が、左の手のひらで覆われる。それはゆっくりと下を向き、口を覆っていた手のひらは額を押さえるために使われる。恐らく跡部と同じように「なんてことだ」とでも思っているのだろう。
 ややあって、手塚は顔を上げた。
「それは本気で言っているのか?」
「俺はいつだって本気だったぜ。特にお前に対しては」
 同じ問いかけに同じ答えで返す。もちろん言葉で遊んだだけのつもりはなく、事実としてだ。
「十年と言っていただろう。俺がお前と親しくなる前だと思ったんだ」
「ほぼ十年つったんだよ」
「昨年の時点ではまだ八年だが」
「二年なんざ誤差の範疇じゃねえか! 言っとくけどな、先に惚れたのは俺の方だぜ」
「……聞き捨てならない。俺がお前を好きになったのが先だ」
「張り合うのかよ、そこ」
 お互いに負けず嫌いな性分なのは分かるが、それがこんなところでも発揮されるなんて。さらに世間一般では「惚れた方が負け」などという言葉もあるのにだ。
「俺は、あの試合の時からずっとお前を意識していた。九州でリハビリをしている最中にさえ、お前のことで頭がいっぱいになることがあったんだ」
「そりゃあ奇遇なことだ。俺もきっかけはあの日の試合だぜ。お前が戻ってきた時は、本当に嬉しかった」
 思い起こされる、あの日々。
 手塚の怪我の状態が分からず苦悶し、無事に戻ってきたと思ったら厄介な感情に気がついてしまい、劣情にさえ悩まされた。怪我のことで恨まれるかと思ったのにそれもなく、むしろ距離が近づいてしまって困惑したこともある。手塚をドイツへと送り出して、U―17のW杯を通して新たな決意をし、プロの世界に進んだ。
 そんな日々の中でも、生涯――生涯秘めておこうと思った恋心。
 それが、こんな形でつながってしまうなんて、思ってもみなかった。
「……」
「……」
 言葉が出てこない。どれだけこの心を押し殺してきたと思うのかと、責めたい気持ちにさえなる。それは手塚の方もそうだろう。
 何かを言いかけて、音にならずに口を噤む。手塚が何かを言いかけるのが見えて目を瞬いたのに、何も投げかけてこないのがもどかしい。
「跡部……、ひとつ訊くが」
「……なんだよ」
 やっと次の音が奏でられ、跡部はようやく息をしたかのように感じた。
「俺は、お前を……だ、抱きしめてもいいのだろうか」
 太腿の横でぐっと握られる拳を見て、跡部は目を瞠る。お互いの気持ちが発覚したというのに、今さらそこを訊ねてくるのかと、肩透かしを食らった気分だ。
 相変わらず不器用な男だと、お手上げ感がにじむ。
 そして同時に、どうしようもない愛しさに駆られた。
 跡部は何も言わずにすっと右手を差し出す。『来い』と促すように。
 手塚はその手のひらと跡部とを順に見やって、ゆっくりと足を踏み出しながら、左手を上げる。
 ゆっくりと、ゆっくりと、距離が縮まっていく。
「……っ」
 あと少し埋まらない距離がもどかしくて、じれったくて、跡部は手塚に取られそうだった手で逆に手塚の手を取り、ぐいと強く引いた。
 そうしてそのまま、左腕を首に回して抱き寄せる。
「手塚……、手塚っ……」
 ずっと触れたかった男の名を呼んで、強く抱きしめる。
 抱きしめてもいいのだと思ったら、もう抑えてなどいられなかった。手触りの良いスーツに手を這わせて、背中の広さを味わう。
「…………っ……跡部……!」
 詰まったようなリズムで跡部を呼び、手塚もまた両腕で跡部の体を抱きしめてくれた。
 薄くはない胸板が合わさる。仕立てのよいスーツが互いの体で擦れて音を立てる。
 吐息のように相手の名を呼んで、醒めない現実を噛みしめた。
「てづか……」
「跡部」
 こんなに強い力で抱きしめ合うほどに想い合っていたのに、どうして気がつかなかったのだろう。
 恐らく二人の間にテニスというスポーツがあったからだ。交わす言葉も、見つめる熱っぽい視線も、すべてがテニスのためだと思うのに充分なほど、打ち込むものがあったからだ。
 気がつかなかった。こんなに想われていたなんて。
 跡部は手塚の首元で小さく「手塚」と呼ぶ。
 手塚は跡部の肩に顔を埋め何度も「跡部」と呼ぶ。
 よくこんなにも想う心を抑えていられたものだと、ゆっくり息を吐いた。
 髪を撫で、頬のラインをなぞる。どちらからともなく、唇を合わせた。
 触れて、離れて、押しつけて、舐める。唇で食はんで、軽く歯を立てて、舌先を触れ合わせる。それがスイッチだったかのように、二人は濃密に舌を絡め合った。
「……っん、んんっ……っ」
「っは、……はぁっ、……ん、う」
 湿った音が聞こえる。表と表を合わせ、厚みを確かめるように撫で、吸い上げる。
 指先に絡みつく互いの髪の感触。離している数秒さえもったいないと唇に食らいつき、混ざり合った唾液を飲み込む。
 跡部は両腕で手塚の背中をかき抱いて、隙間を埋め尽くす。手塚は左腕で跡部の腰をがっちりと抱え込み、右手で柔らかな髪を梳いた。角度を変えて触れ合う唇の間で、ちゅ、ちゅ、と濡れた音が奏でられる。
 合わさった胸の鼓動が心地よい反面、ひどく恥ずかしい。
 自分だけではないと確かめたくて、跡部は手のひらで手塚の胸を探った。同じ気持ちなのか、手塚の指先は跡部の首筋をなぞり、もどかしげにタイを緩ませている。
「は……っう、ん……んっ」
 深いキスを交わしながら、跡部は手塚のベストのボタンに指をかけた。手塚の指先が素のままの鎖骨に触れているのが嬉しくて、秘めていた欲が急激にせり上がってくる。
 跡部が手塚のベストをくつろげて背中のシャツを撫でる頃には、手塚は濡れた唇を鎖骨に這わせ、吐息とともに何度も跡部の名を呼ぶようになっていた。
「手塚、待て、……なぁ」
「待つ理由がない……」
 恋を告げる前の殊勝な態度はどこへいったのやら。言葉通り待つ気がない唇で首筋をくすぐる男を、跡部はやはり諦念と愛情を混じらせた思いで撫でる。
「んなのはこっちだって同じなんだよ。……手塚、……ベッド、行こうぜ?」
 その誘いにようやく顔を上げた手塚の頬を指の背で撫で、鼻先にキスをした。


#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

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永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

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 程なく祝勝会はお開きとなり、跡部は手塚を連れてエレベーターに乗り込む。どうしても気分が沈んで、顔が…

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 程なく祝勝会はお開きとなり、跡部は手塚を連れてエレベーターに乗り込む。どうしても気分が沈んで、顔が下を向いてしまった。
「疲れているところに、すまないな」
「あ? あぁ、違ぇよ、さっきちょっと嫌な感じのジジィ相手にしてたからな。疲労っていえばそうだが、あんなことは慣れっこだぜ」
 嘘ではないが、気分が沈んでいる理由ではない。大仰にため息をつけば、「嫌な感じ」をどう解釈したのか、手塚の眉間にしわが寄った。
「……傍にいれば良かったな」
「慣れてるって言ったろ。お前が傍にいても、ああいうのは変わらねえよ」
「だが、助けることはできるだろう。お前がそうしてくれたように」
 恐らく正しく解釈をしていて、その上でことを大きくするべきではないという跡部の思いも理解し、手を差し伸べようとしてくれる。そんな手塚の気遣いが嬉しくて、跡部は肩に入っていた力を抜いた。
「ありがとよ。次があったらお前を呼ぶぜ」
「ああ、そうしてくれ」
 恋人にはなれずとも、手塚の中に跡部景吾という人間はきちんと存在している。それをこうして示してくれるだけで、幸福だった。
 跡部の部屋がある高層階について、靴音も吸収しそうな絨毯の上を歩く。部屋のロックを解除し、手塚を招き入れた。
「まあ、入れよ」
 セミスイートのゆったりとした居室には、白を基調としたテーブルセットやソファが置かれている。正面の大きな窓からは夜景が一望できた。
「手塚の優勝を祝うには最高の景色じゃねーの」
 両腕を広げてそれを堪能し、跡部は用意させていたシャンパンをクーラーから持ち上げ、ついた雫を拭う。
「跡部」
「大事な話ってんだから、酒は入れたくねえかもしれねえが、祝いの杯くらいは受けてもらうぜ」
 そう言ってグラスにシャンパンを注ぐ。冷えた液体の中で踊る小さな泡粒が、表面ではじけた。手塚は素直にグラスを受け取ってくれて、跡部は正面からじっと見つめて唇を開く。
「改めて、優勝おめでとう、手塚」
「ああ。跡部、お前もベスト8おめでとう」
 ともすれば厭みにもなりかねない言葉だが、跡部もそれは素直に受け取った。
 チン、とグラスがぶつかり合って高い音を立てる。夜景をバックにこんなふうに手塚を祝えるとは思っていなくて、それだけでもう充分だと跡部は目を伏せる。
 手塚がどんな言葉でそれを告げてこようと、いつものように笑って受け入れようと。
「で、相談ってのはなんだ」
 シャンパンで喉を潤して、跡部は何でもないことかのように窓にもたれる。グラスを持ったままの手塚は、やはり緊張しているように見えた。
「……なんだよ、そんなに深刻なことなのか?」
「深刻だな。俺にとってはもちろん、お前にとっても、そうだと思う」
「俺にも? なんでだよ。……もしかして、肩の怪我じゃねえだろうな……?」
 跡部は不思議そうに首を傾げてから、ハッとして体を起こす。
 交際宣言や結婚関連ならば、手塚個人の問題だ。跡部にも関わってくるとなると、それしか考えられなかった。この大会で栄冠を手にするために、また無茶なことをしたんじゃないだろうなと距離を詰める。
「いや、そうではない。肩は大丈夫だ。肘も」
「そ、そうか……悪い、どうしても心配はしちまうんだよ」
 怪我のことで跡部が気を揉むのが、手塚の本意でないことは理解している。だがそれでも気にかけないではいられないのだ。
「お前は、昔から変わらないな。だが、そうやって気にかけてくれるのは、……嬉しいとも思う」
 手塚は持っていたグラスをコトリとテーブルに置く。言いあぐねているような表情に、跡部の心臓が嫌な音を立てた。覚悟はしても、つらい。
「跡部、今から言うことでお前を混乱させると思う。拒絶してくれていい。軽蔑されても構わない。だが、茶化したり……否定したりはしないでもらえないか」
 だが受け止めると決めたのだ。
 跡部は「分かった」と頷き、手塚のまっすぐな視線を見つめ返す。
「俺はお前のことが好きだ、跡部」
 その音に、跡部は耳を疑う。
 何を言われたのか分からず、眉間にしわを寄せてわずかに目を細めた。


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永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

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 淡いグレーのスーツに身を包み、跡部はパーティー会場に足を踏み入れる。わずかにブルーがかった生地が、…

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永遠のブルー-031-


 淡いグレーのスーツに身を包み、跡部はパーティー会場に足を踏み入れる。わずかにブルーがかった生地が、カメラのフラッシュを受けて優美に輝いた。
 メディアにはそれ用の笑顔を向けるのも慣れたが、今日ばかりは作り物でなく心の底からの笑みになりそうだ。
「跡部選手、おめでとうございます。準々決勝では手塚選手と対戦されましたが、今のお気持ちは」
「ありがとうございます。自分の戦績はやはり悔しいですけど、手塚選手には心からの祝福を贈りたいですよ。ああ、ついにやりやがったなと、こみ上げてくるものがありますね」
 軽いインタビューを受ける時も、自分のことより手塚が優勝したことの方が跡部にとっては重要で、悔しがる表情を作るのが難しくて苦笑した。ライバルの成功は本当に嬉しいものだ。
「だが――次に勝つのは、俺だ」
 そうして『跡部景吾』らしく強気にそう言って、記者たちをやり過ごす。
 立食形式のパーティーは、主催者やスポンサーたちの挨拶から始まる。跡部家もスポンサーではあるのだが、ここは社の者に任せておいた。
 乾杯とそこかしこで鳴るグラスの音に耳を傾け、跡部は祝いを告げにやってくるスポンサーたちに対応する。
 ――――あっちも大変そうだな。
 選手の周りには、自然と人だかりができる。それは、栄光を手にした手塚国光も同じことで、まるで磁石のように人を集めていた。
 その様子を横目で見やり、苦笑する。
 相変わらず仏頂面をしているが、いまだにあしらい方に慣れていない不器用なあの男が、とても愛しい。
 試合が終わってから、まだ声をかけられていない。いのいちばんにおめでとうを言いたかったけれども、そんなことは現実的に無理だ。
 同じプレイヤーであることから、彼の傍にいくのは容易だけれども、コーチやトレーナーもいるのだ。
 手塚にとって、跡部は友人であり対戦者になり得るというだけの存在なのだから。それだけでいいのに、贅沢は言っていられない。
 挨拶廻りが終わったら声をかけてみるかと、タイミングを計る。
 だが、さすがに優勝者ともなると次から次へとひっきりなしに人が来るようで、なかなか途切れない。跡部の方は落ち着いて、他の選手とグラスを合わせたりもできているのだが――と何杯目かのワインに口を付けながら、ちらりと横目で見やる。
 ――――あ。
 空中で視線が出逢ってしまった。
 手塚は気まずそうに、今話している男へと視線を移して、再び跡部に目を向けてくる。話を切り上げてこちらへ来たいのだろうなと察せて、口許が緩んでしまう。
 来いよ、とこっそり指先で招いてやるけれど、どうも切りが悪いようだ。跡部はわずかにむっと口を尖らせ、グラスをウェイターに返す。そうして、優雅でいながら速い足取りでつかつかと手塚に歩み寄った。
「失礼、ミスター。彼、あんまり酒に強くないんですよ。少し休ませてやってもよろしいでしょうか?」
 ひょいと手塚のグラスを取り上げながら、相手に非礼を詫びる。唐突な乱入にもかかわらず、跡部の微笑みに気圧されたのか見惚れたのか、男はぱちぱちと目を瞬きながら「こちらこそすまないね」とにこやかに引き下がってくれた。
「跡部」
「ったくお前は、本当にしょうがねえヤツだな」
 取り上げたグラスに残っていたワインを、行儀が悪いかなと思いつつも飲み干してやってから、空のグラスをウエイターに返却する。そのまま人混みを抜けて、隅の方へと移動した。
「すまない、助かった」
「いいけどよ、別に。……優勝、おめでとう」
「ああ、ありがとう。今回は絶対に……勝ちたかったんだ」
 パーティーのざわめきが聞こえる。跡部はようやく祝いを伝えられたことにホッとして、肩の力を抜いた。そうして、改めて手塚を間近で見つめる。――と、ふと気がついた。
「手塚、お前、このスーツ」
 すっと、指先で手塚の左腕をなぞる。するりと滑るような感触と、見覚えのあるダークブルー。
「ああ、着る機会もないからいいと言ったのにな。だが、機会ができた」
「ほら見ろ、俺の言った通りだったろうが」
 小さく頷く手塚の身を包んでいるスリーピースのフォーマルスーツは、以前跡部が無理やり連れていった紳士服店で作らせたものだ。
 成績が上がれば、表彰式やパーティーに呼ばれることも多くなる。国によってはロイヤルと言葉を交わす機会だってあるのだ。昨年まではそういった夜会の類いを断っていたようだが、今回はそうもいかなかったはず。テニス以外頭にないからと店に引っ張っていってよかったと、心の底から思った。
「……似合うぜ、手塚」
 目を細めて、口の端を上げる。世辞でなく、本当によく似合っていた。
 彼に似合う色で、際立たせるデザインを選んだ自分の目に狂いはないと、優越感に浸る。
 惚れた男が、自分の選んだスーツを着ているということがどうにも恥ずかしくて嬉しくて、自分が今どんな顔をしているか分からず、跡部はそっと口許を覆って顔を背けた。
 未だに胸が高鳴るこの事象に、呆れてしまう。そろそろ慣れてもいいだろうに、まだ新鮮なほどに手塚への想いは胸に降り積もっていった。
「跡部、パーティーが終わったらでいい、時間をくれ。話がしたい」
 静かでいて、力強い声が耳に入って、跡部は手塚に向き直る。
 できれば今は直視したくないのだが、傍で見ていたいという矛盾する思いが、彼のまっすぐな視線を受け止めさせた。
「ああ、そうだったな。あんまり遅くまではやらねえはずだから、どこか飲みに行くか?」
 相談事があると言われていたのを思い出し、話がしやすい場所を頭の中でピックアップする。軽く何か食べられる店の方がいいだろうかと考えるけれど、手塚は首を横に振った。
「いや、大事な話なんだ。できれば……」
「……他人には聞かれたくねえってことだな? あー……、じゃあ、俺の部屋来るかよ?」
 指先で上を指す。パーティー会場の上はホテルだ。跡部はここに部屋を取っていた。そこでなら、落ち着いて話すこともできるだろう。
「部屋を取っているのか」
「まあな。というか、年間契約してんだよ。テニスでも仕事でも、こっちに来ることが多いからな」
「…………お前が跡部だということを忘れていた」
「テメェは毎度毎度……。ったく、この俺を捕まえてそんなことのたまうヤツはテメェくらいなもんだぜ」
 いつだかも聞いた台詞だ。だけどそれは不愉快なものではなかった。手塚にとって跡部のバックグラウンドはなんら重要なものではなく、ただ『跡部景吾』という人間として見てくれているのが分かるからだ。
「じゃあ、終わったら部屋で飲み直そうぜ。俺はまだ、お前とグラスを合わせてねえ」
「……ああ、分かった」
 後でな、と手塚の右肩を叩き、跡部はホールへと戻る。
 手塚の相談事というのは、何だろう。他人に聞かれたくない話となれば、ごくプライベートなことである可能性が高い。
 まさかひとつの大会を制しただけで引退など考えていないだろう。拠点を移すにしても、跡部に相談する必要はない。スポンサー関連の打診をしたいというのなら、酒が入った状態ではしないだろう。
 ――――プライベート、……っつったら、…………結婚、か?
 考えられない話ではなかった。手塚ももう二十三だ、すぐに結婚とまではいかなくとも、そういう相手がいたっておかしくない。優勝という栄冠を土産に、その女性にプロポーズでもしたいのだろうか。
 ――――『今は考えないようにしてる』ってのは、そう意識しないと考えちまう相手がいるってこった。……覚悟はしてた。してたが…………きついな。
 あのインタビューを受けた時、跡部はその可能性に気がついていた。
 テニスに集中したいという手塚の気持ち。宣言された、『優勝カップを手にする』という決意。そして、不二が言っていた『そうまでしないと踏ん切りがつかない』という言葉。
 総合して、惚れた相手に大事なことを打ち明けたいのだろうことが分かる。
 さしずめ跡部には、今のうちに式への招待を打診したいというところだろうか。
 跡部は、俯く。
 ――――手塚。
 この恋が叶わないことは最初から分かっていた。生涯秘めておくと決めたこの想いが、消えていきそうにないことも。
 自分が男で、手塚も男である以上、いつかは訪れることだと目を伏せる。だけれど想像よりずっと早かったなとゆっくり息を吐いて、せめて友人として彼の幸福のために尽力してやろうと、俯けていた顔を上げた。
 それでも目を細めてしまったのは、上から降ってくる光が眩しかったせいだ。決して、泣きたかったせいではない。
 泣きたかったせいでは、ない。
 跡部はウエイターにもらったグラスを傾けて、透き通る雫を飲み込んだ。


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