No.529, No.528, No.527, No.526, No.525, No.524, No.5237件]

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永遠のブルー-033-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

「……あァ……?」 今、手塚は。 手塚は、好きだと言ったのだろうか。跡部に対して、好きだ、と。「なん…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

永遠のブルー-033-


「……あァ……?」
 今、手塚は。
 手塚は、好きだと言ったのだろうか。跡部に対して、好きだ、と。
「なんて、言った」
「好きだと。恋愛対象としてだ。ずっとお前に惹かれていた。今もだ」
 訊ねた跡部に何の躊躇いもなく返してくる。思わず落としそうだったグラスを置き、テーブルに片手をついた。
 ――――待て。待ちやがれ。幻聴じゃねえらしいが。
 目を閉じる。
 空いた手を腰に当て、考えた。
 ――――どういうことだ。夢でも見ているのか。そうでなければ何かの間違いか、酒の勢いだ。冗談にしてはタチが悪い。こっちはせっかく断ち切る覚悟をしたってのに、なんだ、それは。
 跡部は下向いていた顔をゆっくりと上げ、手塚を振り向く。腹立たしいほどいつも通りの男がそこにいた。
「お前が、俺を、だぁ?」
「そうだ。混乱するのも無理はないと思うが、すまない、事実だ。だが勘違いをしないでほしい」
「あん?」
「告白をしたからといってお前に何かを望んでいるわけではない。お前にはずっと……ずっと想っている相手がいるのは知っている。それを踏みにじってまでどうこうしようとは思っていない」
 跡部はついていた手を上げて体を起こす。
 いつも通りの手塚だと思っていたが、とんでもない思い違いだった。
 彼らしくなく、饒舌だ。焦りと、どうにもしようがない想いにもがいているように見て取れた。
 手塚に向き直った跡部は、手のひらで顔を覆い、じっと手塚を眺める。
 嘘を言っているようには見えない。酔っているわけでもないように見える。手塚とは何度も一緒に酒を飲んできた。ほんの少し酔った様だって、見たことがある。
「……本気で言っているのか」
「否定はしないでほしいと言ったはずだが」
「否定じゃねえ、確認だ」
「俺はいつでも本気だっただろう。特にお前にはそうしてきた」
 まっすぐ向かってくる視線を、跡部は受け止める。もとより、不器用なこの男が冗談やその場限りの思いを吐露するはずもないと、分かってはいた。
「手塚、お前……それ、いつからだ」 
「中学の頃からだが」
 返された言葉に、跡部は思わず項垂れて額を押さえた。
 なんてことだ。――なんてことだ。そんなにも長い間、自分たちは。
 ならばあの時交わした言葉も、視線も、触れた指先も。
「跡部、だが先ほども言ったように、お前に好きな人がいるのは分かっている。ただ俺の気持ちを知っていてほしかった。優勝をしたら好きだと告げて、踏ん切りをつけようと思っていたんだ。できれば今まで通り友人として接してくれるとありがたいが、無理ならそう言ってくれ」
 項垂れたことを悪い方に解釈したのか、手塚はそう続けた。
 今は考えないようにしている――そう言った時の手塚の気持ちを思うと、胸が締め付けられるようだった。
 跡部に好きな相手がいると分かった一年前、もういい加減に自分の気持ちにケリをつけようと思っていたのか。そのためにずっと、勝つことだけを考えてきたのか。絶望するのではなく、告げるための努力をしてきたのだと思うと、苦しさとは別の痛みが胸を襲う。
 告げずに断ち切ろうとした跡部と、告げて決着をつけようとした手塚。
 この男には、生涯敵うことはないのだろうと思う。そしてその諦念を覆い尽くさんばかりの、愛しさがこみ上げてきた。
「手塚、お前……俺の相手が自分だとは、微塵も思わなかったかよ?」
 跡部は顔を覆っていた手をゆっくりと下ろし、じっと手塚を眺めた。
 彼は何を言われたのか分からないといったような顔をしている。まるで先ほどの自分を見ているようでおかしかった。
「……どういうことだ」
「どうもこうもねえ。俺が十年片想いしてたのはお前ってことだ、手塚ァ」
 手塚がひとつ目を瞬く。突然の告白についていけないようだが、それは跡部も同じだったのだ。同じ困惑を味わいやがれと口の端を上げて、跡部はさらに追い打ちをかけた。
「好きだぜ、手塚。ずっとお前が好きだった」
 惚けたような手塚の口許が、左の手のひらで覆われる。それはゆっくりと下を向き、口を覆っていた手のひらは額を押さえるために使われる。恐らく跡部と同じように「なんてことだ」とでも思っているのだろう。
 ややあって、手塚は顔を上げた。
「それは本気で言っているのか?」
「俺はいつだって本気だったぜ。特にお前に対しては」
 同じ問いかけに同じ答えで返す。もちろん言葉で遊んだだけのつもりはなく、事実としてだ。
「十年と言っていただろう。俺がお前と親しくなる前だと思ったんだ」
「ほぼ十年つったんだよ」
「昨年の時点ではまだ八年だが」
「二年なんざ誤差の範疇じゃねえか! 言っとくけどな、先に惚れたのは俺の方だぜ」
「……聞き捨てならない。俺がお前を好きになったのが先だ」
「張り合うのかよ、そこ」
 お互いに負けず嫌いな性分なのは分かるが、それがこんなところでも発揮されるなんて。さらに世間一般では「惚れた方が負け」などという言葉もあるのにだ。
「俺は、あの試合の時からずっとお前を意識していた。九州でリハビリをしている最中にさえ、お前のことで頭がいっぱいになることがあったんだ」
「そりゃあ奇遇なことだ。俺もきっかけはあの日の試合だぜ。お前が戻ってきた時は、本当に嬉しかった」
 思い起こされる、あの日々。
 手塚の怪我の状態が分からず苦悶し、無事に戻ってきたと思ったら厄介な感情に気がついてしまい、劣情にさえ悩まされた。怪我のことで恨まれるかと思ったのにそれもなく、むしろ距離が近づいてしまって困惑したこともある。手塚をドイツへと送り出して、U―17のW杯を通して新たな決意をし、プロの世界に進んだ。
 そんな日々の中でも、生涯――生涯秘めておこうと思った恋心。
 それが、こんな形でつながってしまうなんて、思ってもみなかった。
「……」
「……」
 言葉が出てこない。どれだけこの心を押し殺してきたと思うのかと、責めたい気持ちにさえなる。それは手塚の方もそうだろう。
 何かを言いかけて、音にならずに口を噤む。手塚が何かを言いかけるのが見えて目を瞬いたのに、何も投げかけてこないのがもどかしい。
「跡部……、ひとつ訊くが」
「……なんだよ」
 やっと次の音が奏でられ、跡部はようやく息をしたかのように感じた。
「俺は、お前を……だ、抱きしめてもいいのだろうか」
 太腿の横でぐっと握られる拳を見て、跡部は目を瞠る。お互いの気持ちが発覚したというのに、今さらそこを訊ねてくるのかと、肩透かしを食らった気分だ。
 相変わらず不器用な男だと、お手上げ感がにじむ。
 そして同時に、どうしようもない愛しさに駆られた。
 跡部は何も言わずにすっと右手を差し出す。『来い』と促すように。
 手塚はその手のひらと跡部とを順に見やって、ゆっくりと足を踏み出しながら、左手を上げる。
 ゆっくりと、ゆっくりと、距離が縮まっていく。
「……っ」
 あと少し埋まらない距離がもどかしくて、じれったくて、跡部は手塚に取られそうだった手で逆に手塚の手を取り、ぐいと強く引いた。
 そうしてそのまま、左腕を首に回して抱き寄せる。
「手塚……、手塚っ……」
 ずっと触れたかった男の名を呼んで、強く抱きしめる。
 抱きしめてもいいのだと思ったら、もう抑えてなどいられなかった。手触りの良いスーツに手を這わせて、背中の広さを味わう。
「…………っ……跡部……!」
 詰まったようなリズムで跡部を呼び、手塚もまた両腕で跡部の体を抱きしめてくれた。
 薄くはない胸板が合わさる。仕立てのよいスーツが互いの体で擦れて音を立てる。
 吐息のように相手の名を呼んで、醒めない現実を噛みしめた。
「てづか……」
「跡部」
 こんなに強い力で抱きしめ合うほどに想い合っていたのに、どうして気がつかなかったのだろう。
 恐らく二人の間にテニスというスポーツがあったからだ。交わす言葉も、見つめる熱っぽい視線も、すべてがテニスのためだと思うのに充分なほど、打ち込むものがあったからだ。
 気がつかなかった。こんなに想われていたなんて。
 跡部は手塚の首元で小さく「手塚」と呼ぶ。
 手塚は跡部の肩に顔を埋め何度も「跡部」と呼ぶ。
 よくこんなにも想う心を抑えていられたものだと、ゆっくり息を吐いた。
 髪を撫で、頬のラインをなぞる。どちらからともなく、唇を合わせた。
 触れて、離れて、押しつけて、舐める。唇で食はんで、軽く歯を立てて、舌先を触れ合わせる。それがスイッチだったかのように、二人は濃密に舌を絡め合った。
「……っん、んんっ……っ」
「っは、……はぁっ、……ん、う」
 湿った音が聞こえる。表と表を合わせ、厚みを確かめるように撫で、吸い上げる。
 指先に絡みつく互いの髪の感触。離している数秒さえもったいないと唇に食らいつき、混ざり合った唾液を飲み込む。
 跡部は両腕で手塚の背中をかき抱いて、隙間を埋め尽くす。手塚は左腕で跡部の腰をがっちりと抱え込み、右手で柔らかな髪を梳いた。角度を変えて触れ合う唇の間で、ちゅ、ちゅ、と濡れた音が奏でられる。
 合わさった胸の鼓動が心地よい反面、ひどく恥ずかしい。
 自分だけではないと確かめたくて、跡部は手のひらで手塚の胸を探った。同じ気持ちなのか、手塚の指先は跡部の首筋をなぞり、もどかしげにタイを緩ませている。
「は……っう、ん……んっ」
 深いキスを交わしながら、跡部は手塚のベストのボタンに指をかけた。手塚の指先が素のままの鎖骨に触れているのが嬉しくて、秘めていた欲が急激にせり上がってくる。
 跡部が手塚のベストをくつろげて背中のシャツを撫でる頃には、手塚は濡れた唇を鎖骨に這わせ、吐息とともに何度も跡部の名を呼ぶようになっていた。
「手塚、待て、……なぁ」
「待つ理由がない……」
 恋を告げる前の殊勝な態度はどこへいったのやら。言葉通り待つ気がない唇で首筋をくすぐる男を、跡部はやはり諦念と愛情を混じらせた思いで撫でる。
「んなのはこっちだって同じなんだよ。……手塚、……ベッド、行こうぜ?」
 その誘いにようやく顔を上げた手塚の頬を指の背で撫で、鼻先にキスをした。


#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

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永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

 程なく祝勝会はお開きとなり、跡部は手塚を連れてエレベーターに乗り込む。どうしても気分が沈んで、顔が…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

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 程なく祝勝会はお開きとなり、跡部は手塚を連れてエレベーターに乗り込む。どうしても気分が沈んで、顔が下を向いてしまった。
「疲れているところに、すまないな」
「あ? あぁ、違ぇよ、さっきちょっと嫌な感じのジジィ相手にしてたからな。疲労っていえばそうだが、あんなことは慣れっこだぜ」
 嘘ではないが、気分が沈んでいる理由ではない。大仰にため息をつけば、「嫌な感じ」をどう解釈したのか、手塚の眉間にしわが寄った。
「……傍にいれば良かったな」
「慣れてるって言ったろ。お前が傍にいても、ああいうのは変わらねえよ」
「だが、助けることはできるだろう。お前がそうしてくれたように」
 恐らく正しく解釈をしていて、その上でことを大きくするべきではないという跡部の思いも理解し、手を差し伸べようとしてくれる。そんな手塚の気遣いが嬉しくて、跡部は肩に入っていた力を抜いた。
「ありがとよ。次があったらお前を呼ぶぜ」
「ああ、そうしてくれ」
 恋人にはなれずとも、手塚の中に跡部景吾という人間はきちんと存在している。それをこうして示してくれるだけで、幸福だった。
 跡部の部屋がある高層階について、靴音も吸収しそうな絨毯の上を歩く。部屋のロックを解除し、手塚を招き入れた。
「まあ、入れよ」
 セミスイートのゆったりとした居室には、白を基調としたテーブルセットやソファが置かれている。正面の大きな窓からは夜景が一望できた。
「手塚の優勝を祝うには最高の景色じゃねーの」
 両腕を広げてそれを堪能し、跡部は用意させていたシャンパンをクーラーから持ち上げ、ついた雫を拭う。
「跡部」
「大事な話ってんだから、酒は入れたくねえかもしれねえが、祝いの杯くらいは受けてもらうぜ」
 そう言ってグラスにシャンパンを注ぐ。冷えた液体の中で踊る小さな泡粒が、表面ではじけた。手塚は素直にグラスを受け取ってくれて、跡部は正面からじっと見つめて唇を開く。
「改めて、優勝おめでとう、手塚」
「ああ。跡部、お前もベスト8おめでとう」
 ともすれば厭みにもなりかねない言葉だが、跡部もそれは素直に受け取った。
 チン、とグラスがぶつかり合って高い音を立てる。夜景をバックにこんなふうに手塚を祝えるとは思っていなくて、それだけでもう充分だと跡部は目を伏せる。
 手塚がどんな言葉でそれを告げてこようと、いつものように笑って受け入れようと。
「で、相談ってのはなんだ」
 シャンパンで喉を潤して、跡部は何でもないことかのように窓にもたれる。グラスを持ったままの手塚は、やはり緊張しているように見えた。
「……なんだよ、そんなに深刻なことなのか?」
「深刻だな。俺にとってはもちろん、お前にとっても、そうだと思う」
「俺にも? なんでだよ。……もしかして、肩の怪我じゃねえだろうな……?」
 跡部は不思議そうに首を傾げてから、ハッとして体を起こす。
 交際宣言や結婚関連ならば、手塚個人の問題だ。跡部にも関わってくるとなると、それしか考えられなかった。この大会で栄冠を手にするために、また無茶なことをしたんじゃないだろうなと距離を詰める。
「いや、そうではない。肩は大丈夫だ。肘も」
「そ、そうか……悪い、どうしても心配はしちまうんだよ」
 怪我のことで跡部が気を揉むのが、手塚の本意でないことは理解している。だがそれでも気にかけないではいられないのだ。
「お前は、昔から変わらないな。だが、そうやって気にかけてくれるのは、……嬉しいとも思う」
 手塚は持っていたグラスをコトリとテーブルに置く。言いあぐねているような表情に、跡部の心臓が嫌な音を立てた。覚悟はしても、つらい。
「跡部、今から言うことでお前を混乱させると思う。拒絶してくれていい。軽蔑されても構わない。だが、茶化したり……否定したりはしないでもらえないか」
 だが受け止めると決めたのだ。
 跡部は「分かった」と頷き、手塚のまっすぐな視線を見つめ返す。
「俺はお前のことが好きだ、跡部」
 その音に、跡部は耳を疑う。
 何を言われたのか分からず、眉間にしわを寄せてわずかに目を細めた。


#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

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永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

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 淡いグレーのスーツに身を包み、跡部はパーティー会場に足を踏み入れる。わずかにブルーがかった生地が、…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

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 淡いグレーのスーツに身を包み、跡部はパーティー会場に足を踏み入れる。わずかにブルーがかった生地が、カメラのフラッシュを受けて優美に輝いた。
 メディアにはそれ用の笑顔を向けるのも慣れたが、今日ばかりは作り物でなく心の底からの笑みになりそうだ。
「跡部選手、おめでとうございます。準々決勝では手塚選手と対戦されましたが、今のお気持ちは」
「ありがとうございます。自分の戦績はやはり悔しいですけど、手塚選手には心からの祝福を贈りたいですよ。ああ、ついにやりやがったなと、こみ上げてくるものがありますね」
 軽いインタビューを受ける時も、自分のことより手塚が優勝したことの方が跡部にとっては重要で、悔しがる表情を作るのが難しくて苦笑した。ライバルの成功は本当に嬉しいものだ。
「だが――次に勝つのは、俺だ」
 そうして『跡部景吾』らしく強気にそう言って、記者たちをやり過ごす。
 立食形式のパーティーは、主催者やスポンサーたちの挨拶から始まる。跡部家もスポンサーではあるのだが、ここは社の者に任せておいた。
 乾杯とそこかしこで鳴るグラスの音に耳を傾け、跡部は祝いを告げにやってくるスポンサーたちに対応する。
 ――――あっちも大変そうだな。
 選手の周りには、自然と人だかりができる。それは、栄光を手にした手塚国光も同じことで、まるで磁石のように人を集めていた。
 その様子を横目で見やり、苦笑する。
 相変わらず仏頂面をしているが、いまだにあしらい方に慣れていない不器用なあの男が、とても愛しい。
 試合が終わってから、まだ声をかけられていない。いのいちばんにおめでとうを言いたかったけれども、そんなことは現実的に無理だ。
 同じプレイヤーであることから、彼の傍にいくのは容易だけれども、コーチやトレーナーもいるのだ。
 手塚にとって、跡部は友人であり対戦者になり得るというだけの存在なのだから。それだけでいいのに、贅沢は言っていられない。
 挨拶廻りが終わったら声をかけてみるかと、タイミングを計る。
 だが、さすがに優勝者ともなると次から次へとひっきりなしに人が来るようで、なかなか途切れない。跡部の方は落ち着いて、他の選手とグラスを合わせたりもできているのだが――と何杯目かのワインに口を付けながら、ちらりと横目で見やる。
 ――――あ。
 空中で視線が出逢ってしまった。
 手塚は気まずそうに、今話している男へと視線を移して、再び跡部に目を向けてくる。話を切り上げてこちらへ来たいのだろうなと察せて、口許が緩んでしまう。
 来いよ、とこっそり指先で招いてやるけれど、どうも切りが悪いようだ。跡部はわずかにむっと口を尖らせ、グラスをウェイターに返す。そうして、優雅でいながら速い足取りでつかつかと手塚に歩み寄った。
「失礼、ミスター。彼、あんまり酒に強くないんですよ。少し休ませてやってもよろしいでしょうか?」
 ひょいと手塚のグラスを取り上げながら、相手に非礼を詫びる。唐突な乱入にもかかわらず、跡部の微笑みに気圧されたのか見惚れたのか、男はぱちぱちと目を瞬きながら「こちらこそすまないね」とにこやかに引き下がってくれた。
「跡部」
「ったくお前は、本当にしょうがねえヤツだな」
 取り上げたグラスに残っていたワインを、行儀が悪いかなと思いつつも飲み干してやってから、空のグラスをウエイターに返却する。そのまま人混みを抜けて、隅の方へと移動した。
「すまない、助かった」
「いいけどよ、別に。……優勝、おめでとう」
「ああ、ありがとう。今回は絶対に……勝ちたかったんだ」
 パーティーのざわめきが聞こえる。跡部はようやく祝いを伝えられたことにホッとして、肩の力を抜いた。そうして、改めて手塚を間近で見つめる。――と、ふと気がついた。
「手塚、お前、このスーツ」
 すっと、指先で手塚の左腕をなぞる。するりと滑るような感触と、見覚えのあるダークブルー。
「ああ、着る機会もないからいいと言ったのにな。だが、機会ができた」
「ほら見ろ、俺の言った通りだったろうが」
 小さく頷く手塚の身を包んでいるスリーピースのフォーマルスーツは、以前跡部が無理やり連れていった紳士服店で作らせたものだ。
 成績が上がれば、表彰式やパーティーに呼ばれることも多くなる。国によってはロイヤルと言葉を交わす機会だってあるのだ。昨年まではそういった夜会の類いを断っていたようだが、今回はそうもいかなかったはず。テニス以外頭にないからと店に引っ張っていってよかったと、心の底から思った。
「……似合うぜ、手塚」
 目を細めて、口の端を上げる。世辞でなく、本当によく似合っていた。
 彼に似合う色で、際立たせるデザインを選んだ自分の目に狂いはないと、優越感に浸る。
 惚れた男が、自分の選んだスーツを着ているということがどうにも恥ずかしくて嬉しくて、自分が今どんな顔をしているか分からず、跡部はそっと口許を覆って顔を背けた。
 未だに胸が高鳴るこの事象に、呆れてしまう。そろそろ慣れてもいいだろうに、まだ新鮮なほどに手塚への想いは胸に降り積もっていった。
「跡部、パーティーが終わったらでいい、時間をくれ。話がしたい」
 静かでいて、力強い声が耳に入って、跡部は手塚に向き直る。
 できれば今は直視したくないのだが、傍で見ていたいという矛盾する思いが、彼のまっすぐな視線を受け止めさせた。
「ああ、そうだったな。あんまり遅くまではやらねえはずだから、どこか飲みに行くか?」
 相談事があると言われていたのを思い出し、話がしやすい場所を頭の中でピックアップする。軽く何か食べられる店の方がいいだろうかと考えるけれど、手塚は首を横に振った。
「いや、大事な話なんだ。できれば……」
「……他人には聞かれたくねえってことだな? あー……、じゃあ、俺の部屋来るかよ?」
 指先で上を指す。パーティー会場の上はホテルだ。跡部はここに部屋を取っていた。そこでなら、落ち着いて話すこともできるだろう。
「部屋を取っているのか」
「まあな。というか、年間契約してんだよ。テニスでも仕事でも、こっちに来ることが多いからな」
「…………お前が跡部だということを忘れていた」
「テメェは毎度毎度……。ったく、この俺を捕まえてそんなことのたまうヤツはテメェくらいなもんだぜ」
 いつだかも聞いた台詞だ。だけどそれは不愉快なものではなかった。手塚にとって跡部のバックグラウンドはなんら重要なものではなく、ただ『跡部景吾』という人間として見てくれているのが分かるからだ。
「じゃあ、終わったら部屋で飲み直そうぜ。俺はまだ、お前とグラスを合わせてねえ」
「……ああ、分かった」
 後でな、と手塚の右肩を叩き、跡部はホールへと戻る。
 手塚の相談事というのは、何だろう。他人に聞かれたくない話となれば、ごくプライベートなことである可能性が高い。
 まさかひとつの大会を制しただけで引退など考えていないだろう。拠点を移すにしても、跡部に相談する必要はない。スポンサー関連の打診をしたいというのなら、酒が入った状態ではしないだろう。
 ――――プライベート、……っつったら、…………結婚、か?
 考えられない話ではなかった。手塚ももう二十三だ、すぐに結婚とまではいかなくとも、そういう相手がいたっておかしくない。優勝という栄冠を土産に、その女性にプロポーズでもしたいのだろうか。
 ――――『今は考えないようにしてる』ってのは、そう意識しないと考えちまう相手がいるってこった。……覚悟はしてた。してたが…………きついな。
 あのインタビューを受けた時、跡部はその可能性に気がついていた。
 テニスに集中したいという手塚の気持ち。宣言された、『優勝カップを手にする』という決意。そして、不二が言っていた『そうまでしないと踏ん切りがつかない』という言葉。
 総合して、惚れた相手に大事なことを打ち明けたいのだろうことが分かる。
 さしずめ跡部には、今のうちに式への招待を打診したいというところだろうか。
 跡部は、俯く。
 ――――手塚。
 この恋が叶わないことは最初から分かっていた。生涯秘めておくと決めたこの想いが、消えていきそうにないことも。
 自分が男で、手塚も男である以上、いつかは訪れることだと目を伏せる。だけれど想像よりずっと早かったなとゆっくり息を吐いて、せめて友人として彼の幸福のために尽力してやろうと、俯けていた顔を上げた。
 それでも目を細めてしまったのは、上から降ってくる光が眩しかったせいだ。決して、泣きたかったせいではない。
 泣きたかったせいでは、ない。
 跡部はウエイターにもらったグラスを傾けて、透き通る雫を飲み込んだ。


#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

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永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

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 観客席で、跡部は祈るように両手を組んでいた。 ウィンブルドン、センターコート。今日はついに決勝戦だ…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

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 観客席で、跡部は祈るように両手を組んでいた。
 ウィンブルドン、センターコート。今日はついに決勝戦だ。優勝経験もあるアメリカの選手と、対するのはもちろん手塚国光。
 手塚のプレイヤーとしての素質や評価は高いものの、まだ優勝には届かないのでは、というのが世論だった。
 手塚がどれだけ努力してきたか知っている身としては、そんなものはね除けてみせてほしい。手塚にはまだ早いなんて言われているけれど、勝つのに早いも遅いもあるかと拳を握りしめた。
 自身の試合よりよほど緊張する。勝利への執着が強い気がする。
 ――――見てぇんだよ。アイツが優勝カップ持ってるところ。
 それはどれほど美しく、誇らしいことだろう。
「手塚……」
 跡部は大きく息を吸い込んで、ベンチでグリップの具合を確認する手塚を見つめた。
 気のせいだろうか。
 手塚が一瞬、こちらを見たように思えた。
 観戦に来るということは伝えているし、応援するということも。だけど座席の位置など教えていない。
 単なる偶然だろうと、こんな時にも高鳴ってしまう胸を押さえる。
「景吾くん」
 声をかけられて、ハッと振り向く。そこには、滝がひらひらと手を振りながら立っていた。緊張で固まっていた体から、ドッと力が抜けていくようだった。
「よう、萩之介。忍足と不二もか、珍しい組み合わせだな」
 滝の後ろに、見知った顔も覗く。こうして顔を見て話すのは久しぶりで、不二に至っては本当に数年ぶりだ。
「跡部、久しぶりだね。招待してくれてありがとう。青学を代表してお礼を言わせてもらうよ」
「ああ。悪いな、バラバラの席でしか取れなくてよ」
 とんでもないと不二が首を振る。せっかくの手塚の晴れ舞台だ、彼をよく知る人物たちには間近で見せてやりたかった。
 以前滝が、『どうせなら同窓会でも開こうか』と言っていたのを思い出して、かつての青学のレギュラーメンバーをイギリスに招待した。もちろん観戦チケットを取ってだ。
「本来なら副部長だった大石が来るべきなんだろうけど、英二のお守りに慣れてるのも大石だしね」
 不二がふふっと笑って肩を竦めるのに、菊丸がはしゃいでいるのが目に見えるようだぜと跡部も笑った。
「お前ら、ナマで観るの初めてか?」
「手塚がプロになってからは、そうだね」
「中継入る試合は、録画とかで観てるけど、なかなかスケジュールが合わなくて」
「俺らはこっちの道に進まんかったけど、やっぱり体がウズウズしよるなぁ……なんせセンターコートやで」
 券面に指定された席に座り、指先で膝を叩く忍足に、跡部は微笑む。テニスの道に進まなかったからと言って、あの頃がなかったことになるわけではない。皆同じようにあの黄色いボールを追いかけていた。
「今日の対戦相手、強いよね。手塚はどう攻めるかな」
「まあ、越前を倒したヤツだからな。アイツもどっかで観てるはずだが……」
「越前は残念だったね。でもそれで余計に火がつくタイプだし、心配はしてないけど」
「俺らの世代から、まさか三人も立て続けにプロになれるヤツが出るとは思わんかったで。せやけどついにウィンブルドン決勝戦か」
 感慨深いわぁと忍足が呟く。
「せや、忘れとったわ。ベスト8おめでとうさん、跡部」
「そうだった。おめでとう跡部」
「景吾くんと手塚の試合は、鳥肌が立ったよ」
「ああ、ありがとよ。俺様としては優勝狙ってたんだが、まぁ……満足だぜ」
 そうは言うものの、実のところ優勝という栄冠にさほど執着はなかった。どちらかといえば、手塚と再戦するということの方に重きを置いていたような気がする。
 そしてそれを最高の形で迎え、上り詰めた至高。あの関東大会と比べても遜色のないほどの高みだ。
「ねえ跡部、手塚は……何か言ってた? 試合前、君に」
 滝の横から、不二がひょいと顔を覗かせる。何か、という曖昧な言葉に、跡部は首を傾げた。選手にとって試合前の精神統一は大事なファクターだ。大会のスポンサーになっているとはいえ、控え室に行けるものではない。手塚と言葉を交わす機会はなかった。
「いや、邪魔もできねえし、声もかけてねえぜ」
「そう……ならいいんだ。気にしないで」
 気にしないでと言われると気になってくる。そういえば、何か相談したいことがあると準々決勝の後に言っていたが、そのことだろうか?
 不二にも何か相談していたのだろうかと口を開きかけた時、間もなく試合が開始されるというアナウンスが入った。
「始まるで」
 忍足がポンと背中を叩いてくる。反対隣の滝が、小さく「景吾くん」と呼んでくる。
「傍にいるから」
 膝の上の拳にそっと手のひらを重ねて、すぐに離れていく。まあ気づかれているだろうなとは思ったのだ。彼らを傍に呼んだ理由には。
 手塚のテニスを見届ける自分の傍に、いてほしい。
 あの頃ともにボールを追った仲間であり、手塚への想いを知る数少ない大切な友人たち。
 この世界中の誰よりも好きな男が栄冠を手にするその瞬間を、共に迎えてほしいというわずかな不安と感謝の念を、きっと分かっていて来てくれたに違いない。
「勝てよ、手塚……!」
 胸の前で、ぐっと拳を握る。
 もう自分は、信じるだけだ。惚れた男のまっすぐ過ぎる信念を。


 さすがに、長い試合になった。相手は優勝経験もある選手。球速はいまだに衰えていない。
 相手選手にポイントが入るたび、歓声が上がる。手塚にポイントが入るたび、歓声が上がる。もはやどちらの応援をしているというわけでもない観客が増えてきた。
 ただこの白熱したゲームの行く末を見守るだけだ。
 それほど、両選手のプレイは勝利に対して切実で、相手に対して誠実だった。
 返す一球一球が、相手を陥れるためでなく自分が勝つためのものであり、返せなかった怒りは自分自身だけに向いている。
 ぐっと握った拳に、汗を感じる。瞬きをすることさえ躊躇われ、跡部はじっと手塚を見つめた。荒い息と、流れる汗。相当苦しいのだろう様子が伝わってくる。
 それでも力強いサーブを打つ彼の勇姿が、本当に眩しい。あの球を自分が受けてみたかったと、未だに思う。満足のいく試合だったけれど、欲は果てしない。
「手塚、いつもより鬼気迫るものがあるね……」
「そらそうやろ、決勝戦やし。押され気味やけど、大丈夫かいな」
「手塚は勝つぜ。何しろアイツ、よりによってこの俺に宣言しやがったからな。必ず優勝カップを手にするって。破りやがったら承知しねぇ」
「え、手塚が、……跡部に? いつ」
 不二の小さく驚いた声が耳に入る。
「俺との試合が終わった後だな」
「ああ、それで……へえ。それは、まあ、負けられないよね」
 なるほどと正面に視線を戻し、不二は頷く。ライバルにそう宣言した以上、無様なところは見せられないということだろうか。
 だが跡部にはそれもしっくりこなかった。手塚にライバル意識を持たれていると感じたことなどないからだ。
 この想いは、恋にしろライバル意識にしろ、一方通行だ。だがそれでもあの男を想うことを止められないのだから、どうしようもない。
「そうでもしないと踏ん切りがつかないっていうのは、手塚らしいな」
 愉快そうにも、呆れたようにも笑う不二を振り向こうとしたけれど、ちょうどその時手塚のボールが相手選手の足元を撃ち抜く。わっと歓声が上がった。見逃さなくてよかったと安堵のため息を吐く。
 あと二ポイントだ。それで決まる。
 今はこの試合に、手塚の勝利を祈ってやることに集中したい。
 ――――手塚。大丈夫だ、お前なら。……手塚。
 何度も、何度も手塚の名を呼ぶ。心の中で呼んだつもりではあるけれど、もしかしたら音になってしまっていたかもしれない。
「……マッチポイント……!」
 あと一ポイント。手塚のサービスだ。場内が、しんと静まりかえる。ボールのラインを確かめて、トン、トン、と突く音ばかりが聞こえてくる。
 不二が、滝が、忍足が、食い入るように身を乗り出す。
 跡部は、思わず浮きかける腰を必死で落として、歯を食いしばった。
 高いトスが上がる。手塚の熱い視線が、その一球を見つめる。振り上げられたラケットが、そのボールを打つ。パァンと銃声のように響いたインパクト音で、心臓が撃ち抜かれたような感覚を味わった。
 そしてその弾丸は相手選手のラケットに捕まることなく、芝を跳ねて背後のスポンサーウォールに当たる。それが跡部グループのものだったのは、果たして偶然だっただろうか。
「ゲームアンドマッチ! ウォンバイ手塚!!」
 審判のコールがなされる。
 手塚は腹の辺りで拳を握り、青い空を見上げる。その瞬間、ワァッと歓声が沸いた。
「ホンマに勝ちよったわ」
「手塚も、さすがに嬉しそうだね……」
「アレは俺でも分かる」
 忍足たちが口々にそう言うが、跡部は数秒茫然としていた。耳をつんざくような歓声も、拍手も、耳に入ってこない。
「手塚……」
 ただ、小さく名を呼ぶ。今度こそ、確かに音になってしまったのを自覚する。そしてその瞬間、体中にようやく血が巡ったかのような感覚を味わい、思わず立ち上がった。
「――手塚ァ!!」
 声を張り上げ、今度はその名を叫んだ。この歓声の中で彼の耳に届くはずがないと思いつつも、呼ばずにはいられなかった。
 そう、届くはずはないと思っていたのに、手塚の視線がしっかりと顔ごとこちらを向く。視線がちゃんと重なった。
 跡部はぐっと強く拳を握り、胸の前に突き出してみせる。それを受けてか、手塚がゆっくりと拳を掲げた。口許に浮かんだ笑みは、彼にしては珍しいものだった。
 歓声がさらに大きくなる。立ち上がって歓喜する客たちが増える。跡部はその観客たちに埋もれて、手塚からはもう見えないかもしれない。
 だけどあの一瞬、確かに応えてくれたと分かる。
 指先まで熱が巡るようだ。跡部は突き出していた拳をもう片方で覆い引き寄せる。
「やったな……手塚……!」
 手塚ならやると思っていた。信じていた。実際目の前で栄冠を手にされて、感極まって泣いてしまいそうだ。
 手塚、と呼ぶ吐息が拳にかかる。熱いなとその息を飲み込んで、目蓋を閉じた。


 授与式後のインタビューでは「戦いはまだこれからです」などとまた不敵なことを言っていて、跡部は肩を竦める。
 確かにひとつの大会を制しただけであり、すぐにグランドスラム制覇とはいかないだろう。来年はその座を守れるかどうかということも課題のひとつだ。
「景吾様、そろそろお時間です」
 後ろから声をかけられ、もうそんな時間かと秘書を振り返る。
「これから仕事終わらせて祝勝会なんだ。ゆっくりできなくて悪い」
「跡部も大変だね。ボクたちのことは気にしないで」
「明日は来られるんだろ?」
 もちろん、と不二が頷く。
 今日の祝勝会は上位者たちを祝うものだが、明日は跡部主催でごく親しい人物たちだけを集めたパーティーがある。当然手塚や越前も主役のうちであり、この試合に招待した青学メンバーはゲストとして招いている。
「じゃあ、明日な。忍足、ジローのヤツに寝坊すんなよって言っとけ」
「それくらいなら任されたるわ。多分引きずってくんのは樺地やろうけどなぁ」
 あの頃と変わらない光景を思い浮かべ、跡部は愉快そうに喉を鳴らして戦友たちに背を向けた。
「…………ねえ、不二。この後時間あるかな? ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
「奇遇だね、ボクもそう言おうと思っていたところだよ、滝。忍足も」
 残された三人は、跡部の背中を眺めながら、どこか確信めいた密談のために会場を後にするのだった。


#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

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永遠のブルー-029-

永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

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 ウィンブルドン、準々決勝。跡部はネットの向こうの対戦相手をじっと見据え、口の端を上げた。 ――――…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

永遠のブルー-029-


 ウィンブルドン、準々決勝。跡部はネットの向こうの対戦相手をじっと見据え、口の端を上げた。
 ――――奇しくも準々決勝、ってか。
 対戦相手は、手塚国光。
 トーナメント表が発表された際、彼と準々決勝で当たると知って、どこか運命めいたものを感じた。
 中学三年の夏、全国大会準々決勝。個人として相対することはなかったが、チームを率いる部長同士、勝つための想いが交錯した。
 今回も、勝つためだ。
 チームを率いてこそいないものの、国やファンの熱意を背負って向かい合っている。あの頃とは髪型も変わったが、向かってくる情熱は変わらない。向ける情熱は変わらない。
 ぞくぞくとせり上がってくる興奮。こんな幸福があっていいのかとさえ思った。
 プレイヤーとして、一人の人間として、惚れた相手と世界の舞台で戦える。今持てるすべてをかけて、このボールを打とう。たとえあの時のように、どれだけ長いゲームになったとしても。
「手加減はしねーぜ、手塚」
「加減などしてもらっては困る。本気のお前でなければ意味がない」
「上等じゃねーの!」
 サービスは跡部から。めいっぱいの力を込めて打ち込んだボールは、やはり返される。ぞくりと、悪寒にも似た歓喜が体中を駆け巡る。
 これだ。この感覚だ。この男とでなければ味わえない――快感。
 観客席のどよめき。審判のコール。足元を撃ち抜くボールの音。ネット際に詰めた時の呼吸。そのすべてが跡部の全身をわななかせる。
 球を打つ。返される。受け止める。重い打球を、手塚のコートに向かって返す時の高揚感といったらない。とても言葉にはできそうになくて、ただ返す一球一球に想いを込めた。
 このボールを返せるのは自分だけだ。この球を打ち返してくるのは手塚だけだ。
 テニスが好きだ。手塚国光が好きだ。
 ボールを打つたび、想いが募っていく。こんな大舞台で惚れた相手とテニスができる。
 ――――そんな幸運味わえるのは、世界でたった一人、この俺だけだろうぜ。なぁ手塚。
 歓声も、コールも、何も聞こえない。
 鼓動と重なる、心地よいインパクト音。隙をつこうとじっと見つめてくる熱い瞳。跡部もそれを見つめ返して、ラケットを振るう。
 観客たちが固唾を呑んで見守る中、やがて勝敗は決した。
「ゲームアンドマッチ! ウォンバイ――手塚!」
 大きな歓声が沸き上がる。跡部は「ああ……」と息を吐きながら青い青い空を仰いだ。
 流れる汗が、ドクドクと打つ脈が、そよぐ風が、心地よい。
 ――――満足だ。
 勝つために臨んだ試合だが、悔いはない。
 跡部はネット際へ歩み、手を差し出した。
「コングラッチュレーション。やっぱり強ぇな、てめぇは」
「ああ、ありがとう。……良い試合ができて嬉しい」
 そう返してくれた手塚も、清々しい顔をしている。跡部はそれが心の底から嬉しくて、破顔した。
 そうして、握手を交わした手を高く掲げる。あの日と同じように。
「次も、勝てよ、手塚」
 あの日交わせなかった言葉を投げかけて、正面から彼を見つめる。ぐっと握り返してくれたのは、気のせいではなかっただろう。
「跡部。このウィンブルドンで俺は必ず優勝カップを手にする。そうしたら、少し時間をもらえないか」
 応援してくれたファンへ手を振って応えながらベンチに向かうと、珍しく手塚の方から声をかけてくる。手塚が宣言するのはこれで二度目だ。相変わらず強気だなと思いつつも、ぱちぱちと目を瞬いた。
「ああ、それは構わねえけど……どうした?」
「いや、少し……相談したいことがある」
 若干泳いだ視線が、正面へと向かってくる。
 手塚がわざわざ告げてくるということは、よほど重要なことなのだろう。
 次の大会のことか、それとも出資関連のことか。怪我……ではないと思いたい。何にしろ、手塚に頼ってもらえるのは嬉しい。力になれるのなら、何だってしてやると背中をポンポン叩いた。
「いいぜ。お前のためなら、いつだって時間空ける」
「……助かる。ありがとう」
 ホッとしたような表情に変わる手塚に、胸がきゅんと締めつけられる。
 跡部自身のウィンブルドンは終わってしまったし、これ以降は手塚の応援に専念しようと足を踏み出した。中学時代から何度か味わってきた敗北だったが、今日ほど充実した敗北はない。
 二人は青い空を背に、コートを後にした。


#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

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永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

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 あの時のインタビュー記事が載った雑誌が発売されて以来、女性誌の取材が増えた。それだけでなく、経済誌…

永遠のブルー,塚跡WEB再録

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 あの時のインタビュー記事が載った雑誌が発売されて以来、女性誌の取材が増えた。それだけでなく、経済誌とファッション誌もだ。
【跡部様の一途な片想い】とファン界隈を騒がせた雑誌は、紙・電子書籍ともに過去最高の販売数を叩き出したらしく、それに伴って跡部のオフィシャルサイトがサーバーダウンし、販売していたグッズは数分と保たずに完売した。
 それを商機と捉えた各界が、こぞってオファーを出したのだ。
 跡部グループが展開する事業の株価は上昇し、思わぬ相乗効果に跡部自身驚いたくらいだ。
『俺のとこにもいくつかね、依頼が来たよ。氷帝メンバーのところにいってるんじゃないかな』
「悪いな萩之介。そっちにまで波及するとは思わなかったぜ」
『景吾くんは少し自分の影響力ってものを自覚するといい。まあ、こっちは楽しんでるからいいけど。多分忍足もね。だってあの対談、よりによってお相手本人がいるんだもの』
 笑っちゃったよと言う滝に、跡部は肩を竦める。あの場に滝や忍足がいなくて良かったと心から思う。いたら絶対に背中から撃たれていたに違いない。
『ほぼ十年、長いな……よくまあ飽きもせず好きでいられるね』
「だからこじらせてるって言ってんだろ。あんな強烈なヤツに出逢っちまったら、他のどんなヤツでも物足りねえ。テニスも、恋もな」
『そりゃまあ、手塚じゃねえ……。そういえば、後半戦からものすごい勢いで各大会制覇していってるねえ、彼。何かあったの?』
 その言葉に、跡部はややあってから「さあな」と返した。本当に分からないのだ。
 一年の前半を締めくくるとされるウィンブルドンが終わってから、手塚は各地で行われている大会で次々と好成績を収めている。
 もちろん飛び入りで参加できるものではないのだから、元々予定は組んであったのだろうが、それにしても破竹の勢いだ。
 祝いの電話をしても「ああ、ありがとう」と言うだけだし――まあこれは元からだが、以前はそれでもオフに逢うことだってできていたのに、「練習がある」と切られる。
「越前に上を行かれたことがよほど悔しかったかねえ……。アイツも負けず嫌いだからな」
『そんなところも好きなんでしょ、景吾くん。可愛いな』
「……俺様を可愛いなんていうのはテメーと忍足くらいだぜ」
『で、君は次の大会欠場するって? 怪我……じゃないよね』
 滝は本来の電話の目的であっただろうことを問いかけてくる。
 そう、跡部はエントリーしていた次のトーナメント戦の欠場を決めていた。トレーナーやコーチ陣にも何度も相談して決めたことで、すでに主催側にも伝えてある。
「次のウィンブルドンにすべてを懸けたい。手塚と試合してえんだ。今のままじゃ、アイツの覚悟の前じゃ、負ける」
 あのインタビューを受けた日、手塚は越前と――跡部に宣戦布告してきた。「次は俺が優勝カップをもらう」と。
 手塚でなければ何の冗談だと言ってもやれるが、あの男が嘘やこんな冗談を言ったことはない。本気で優勝を狙いに行っているのは、ここ最近の目覚ましい活躍からも分かる。前回だって優勝を狙ってはいただろうに、わざわざそう宣言してくる手塚の覚悟のほどが、伝わってきた。
 だから、あれから休日を合わせてまで彼とオフを共にすることはなくなった。邪魔はできない。
 それ以上に、自分自身の鍛錬もしなければならない。
 試合の結果だけを確認して、『おめでとう』とメッセージを入れるのみ。それに『ありがとう』と『次も勝つ』以外の言葉が返ってきたことはない。
『全米や全豪じゃないんだね。ウィンブルドンにこだわりでもあるのかな』
「さあな。体の仕上がりをベストに持ってこられる時なんだろ。アイツと本気で優勝争いするのは楽しみだ」
『俺たち氷帝メンバーは、もちろん景吾くんを応援させてもらうよ。久しぶりに同窓会でも開こうかな』
 大きなテレビの前で氷帝コールでもしておく、と滝は笑う。
「ありがとよ、萩之介。どこにいたってお前らのコールは聞こえてるぜ」
『さすが、キングは言うことが違う。じゃあ、またね。元気そうで安心したよ』
「ああ。もし雑誌の方がうるさければ対処するから、遠慮なく言ってくれ」
『うん、みんなにも伝えておくよ』
 通話を打ち切って、跡部は息を吐く。トークアプリの履歴を開いて、手塚からのメッセージを眺めた。
 遡って、十月四日。
『誕生日おめでとう』という短いメッセージ。
 大会で忙しい時期だったはずなのに、忘れずにいてくれたことが嬉しかった。この短い一言が、どれだけ自分を力づけてきたことか。
 端末をぐっと握りしめて、額を当てる。
「手塚……」
 目を閉じれば今もまだ、目蓋の裏に鮮やかによみがえるものがあった。
 頂上決戦と言われた、あの夏の暑い日。
 手塚と試合がしたい。
 まだこんなにも彼との再戦を望んでいたのかと、改めて思い知らされた。
 プロの世界に入って、その厳しさも知って、以前のようながむしゃらさは年月とともに薄れていったと思っていたけれど、ただ眠っていただけだった。
 目覚めるきっかけがまたあの男だというのは、悔しくもあり、幸福でもあった。
 自分はまだ、こんなにも手塚国光という男に恋い焦がれている。
「上り詰めるぜ、手塚ァ……!」
 恋も、テニスも、まだ目指す高みがある。血湧き肉躍るこの感覚が、跡部景吾を作り上げていく。ぞくぞくするほど楽しいなと、跡部は顔を上げて笑った。


#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

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永遠のブルー,塚跡WEB再録 2022.04.10

#塚跡 #片想い #未来設定 #ウェブ再録 #シリーズ物 #永遠のブルー

「あの、ちなみにお相手はどんな方なんですか? 跡部選手をそこまで虜にする人物とはいったい……!」 そ…

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「あの、ちなみにお相手はどんな方なんですか? 跡部選手をそこまで虜にする人物とはいったい……!」
 そこまで突っ込んでくるかと舌を打ちたい気分だが、元々「タイプの女性」とやらを訊ねる質問だったのだ。
「どんな……」
 それこそ適当に答えておけばいいものを、どうしても手塚しか浮かんでこないことに頬が赤らむ。
「うわ、跡部さんが赤くなったのなんて初めて見たッス……」
「うるせえぞ越前っ……。いや、そうですね……。俺にとっては誰よりも美しくて、強い人……だと思います。すみません、これくらいで勘弁してくれませんかね」
「じっ、充分です、ありがとうございます!」
 赤い頬を隠すために顔を覆い、俯く。みっともないと思いつつ、当人を隣にした状態でこんなことを言うのはとてつもなく恥ずかしいのだ。
 言えるような気持ちならば、越前のように堂々と宣言してみせるものを。そう考えると、越前が羨ましく思えて仕方がなかった。
「……なぜ、想いを告げないんだ? 跡部。お前ほどの男ならば、好きだと言われて相手も悪い気はしないだろう」
 その時、まさにその男から声をかけられる。心臓を撃ち抜かれた気分だった。
 跡部自身に向けられたものではないのに、『好きだ』という音を手塚の声で奏でられ、体中の血が沸騰しそうだ。いつだかも経験したのを思い出して、顔の熱が上がったのが分かる。
 跡部は項垂れてゆっくりと深呼吸をし、恨みがましく手塚を振り仰ぐ。
「そう思わねえ人間だっているだろうが」
「言ってみなければ分からないだろう。お前らしくないな」
「他人事だと思って勝手なこと言ってんじゃねーぞ手塚ァ」
 いつものごとく、まっすぐすぎる瞳を睨み返す。
 彼にとっては他人事でしかないだろうが、跡部の中で手塚は当事者だというのに、無責任なことを言わないでほしい。
 そんなことを言うのなら、いっそ告げてやろうかとさえ考えてしまった。
「部長、跡部さんイジメるのはそのくらいにしといた方がいいんじゃないスか」
 それでも越前の声にハッとして、危うい思考を奥底に閉じ込める。生涯告げずに生きていくと決めたではないかと、跡部は己を叱咤した。
「別に悪意があったわけではない。それに……その想いを塗り替えるような相手と言っていたが、替える必要はないだろう」
「あぁ?」
「跡部がその人を想っている事実は変えようがないのだろう? ならばその上で、他にも目を向けたらいいと言っているんだ」
「精神的に二股じゃねーの」
「その想いごと受け入れてくれる相手が見つかるといいな」
「ああはいはい、ありがとよ」
 他に目を向けようと思っても、今想っている相手が強烈過ぎて霞んでしまうんだがなどとは、口にできない。
 一応は跡部の幸福を祈ってくれているようだと分かっただけで、よしとしよう。
「っていうかそういうテメェはどうなんだよ手塚ァ。浮いた噂のひとつもねぇじゃねーか」
 人のことをおちょくり回して自分は知りませんでは筋が通らないと、記者が訊きたそうにしている空気を察して振ってみる。
 まさか跡部から振られるとは思っていなかったのか、手塚がわずかに目を瞠った。ややあってそれはいつもの切れ長に戻り、低い声が返ってくる。
「今は――そういうことは考えないようにしている。テニスのことだけ考えていたい」
「手塚選手は本当にストイックというか……それがたまらないという女性ファンが、多くいるんですよね」
「コイツ中学の頃からまったく変わってないんですよね。同じこと言ってやがる」
 そう茶化しながらも、跡部はどこかでホッとしてしまう。
 あの頃とまったく変わらない情熱は、今もテニスだけに向かっているらしい。
「タイプだけでも教えていただけませんか?」
「…………何事にも一生懸命な人には、惹かれます」
 手塚らしい答えだと口許が緩む。自分自身も一生懸命な彼だ、隣に立つのは同じく前に突き進む芯の通った女性に違いない。
 しばらくその光景は見ないで済みそうだと安堵する反面、早いところ身を固めてほしいとも思う。
 彼が身を固めたところでこの想いは消えていかないだろうが、言われたように他に目を向けることもできるかもしれない。
「ありがとうございました、雑誌ができたらお送りします」
 インタビューが終わり、記者たちが帰っていく。ドッと疲れが襲ってきて、大きく息を吐いた。跡部個人としてのハプニングのせいで、いつもより長い時間に感じられた。
「試合してる方がいくらか楽だな……」
「それは同意する」
「お前らこの後空いてんのか? 何か食いに行くかよ」
「いいッスね。部長も行くでしょ?」
 いや俺は……と言いかけた手塚の腕を、越前が引っ張る。
「先に下行ってるんで。俺、和食が食いたいッス」
「ああ、いいな。手塚も和食の方がいいだろ。寿司が美味いところ連れてってやる」
「…………悪くないな」
 空いた手でガッツポーズする越前と、眼鏡を押し上げる手塚。
 揃って応接室を出ていく彼らを微笑ましく見送って、メールのチェックだけ済ませてエレベーターへと向かった。
「跡部さんに、あんなベタ惚れの人がいるとは思わなかった。十年て、長いッスね」
 エントランスに着くと、モンステラの陰で言葉を交わす越前と手塚がいた。話題はまさかの跡部のことで、出ていきづらい。
 ほぼ十年。手塚国光という男に惹かれて、もうそんなに年月が経ったのかと思うと、感慨深いものはある。
 言葉にすれば確かに長いが、その年月の中でこの恋情は日常に溶け込んでしまっていた。特別な想いではあるけれど、何も記念日のように指折り数えることもない。
「ずっと想っているというのは驚いたな。だが、情熱的で跡部らしいとも思う」
「あの人って見た目がああだから、女遊びとか慣れてそうなのにね。あれで純情一直線とか、ギャップがすごい。……部長なら分かるッスけど」
「越前」
「心配しなくても、言ったりしないッスよ。応援くらいならいいでしょ」
 諌めるような手塚の声に、越前が肩を竦めたところで、「待たせたな」と声をかける。わずかに手塚の肩が揺れたように見えたのは、気のせいだろうか。
「跡部さん、腹減った」
「おう、じゃあ行くか。越前、お前もう酒飲めるよな?」
「年齢的にはね。ただ、あんまり飲んだことない」
「それなら祝杯といこうじゃねーの。なあ手塚、少しくらいいいだろ」
「……まあ、少しならな」
 どうにも越前の保護者気分が抜けていない手塚を振り向いて、了承を得る。三人ともが体資本のプレイヤーだ、無茶な飲酒をするつもりは毛頭ない。ただ少し、あの頃に戻ったような気分を楽しみたいだけだ。
 跡部はパチーンと指を鳴らして、運転手にドアを開けさせた。


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