No.158, No.157, No.156, No.155, No.154, No.153, No.1527件]

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傷無-KIZU・NA-

NOVEL,PSYCHO-PASS,狡宜 2012.11.24

#執×監 #両片想い

カツカツと踵を鳴らして廊下を歩く宜野座伸元の前方――視線の先に、見知った男が壁に背をもたれさせていた…

NOVEL,PSYCHO-PASS,狡宜

傷無-KIZU・NA-


カツカツと踵を鳴らして廊下を歩く宜野座伸元の前方――視線の先に、見知った男が壁に背をもたれさせていた。
俯けていた顔を上げてこちらを向いてきたところを見るに、恐らく待っていたのだろう。宜野座はわずかに眉を寄せて目を細め、その男……狡噛慎也と視線を合わせた。

「何か――言いたげだな、狡噛」

宜野座は、我ながら馬鹿げたことを言ったものだと心の中で自嘲する。何もなくて、わざわざ待っているわけがないのだから。
だがその何かをおとなしく聞いてやるような義理は、もうない。お互いを相棒と呼んでいたあの頃ならまだしも、今は監視官と執行官、上司と部下、飼い主と猟犬……そんな風に対比するべき関係なのだ。
向けられる視線に一度は立ち止まってやったものの、それすら煩わしく思えて、視線を逸らし再度足を踏み出した。

「ギノ」

通り過ぎてやろうとしたにもかかわらず、それは狡噛の手によって止められる。掴まれた右腕にわずかな痛みを感じて、宜野座は苛立たしげに振り向いた。

「なんだ」
「怪我――したんだってな」

お前だけ、と付け加えてきたのは、狡噛なりの厭味だろうか。上がる口角からはそうとしか読み取れずに目を細める。

今回の事件の犯人が利用していた部屋に踏み込んだ途端、罠として仕掛けられた爆弾が作動したおかげで宜野座は確かに右手に怪我を負った。最前にいたはずの縢や六合塚は無傷だったというのにだ。
反射神経の問題なのか、彼らが犯罪心理を理解し得る潜在犯だからなのか、それは宜野座には分からない。だがきっと、あの現場にもし狡噛がいたなら、自分はきっとこんな怪我など負っていなかっただろうことは分かる。
狡噛と行動を共にしていた頃は、怪我らしい怪我など負った記憶がない。危険な目に遭ったことがないわけでもない。犯人の追跡や現場の検証で、それなりに危険はあった。だが決して、狡噛に守られていたわけでもないのだ。
現場での状況判断――直感というものは、どれだけ勉学に励もうが養えるものではなかった、それだけのこと。
言いようのない感情が胸の中にくすぶり続けている。他人に言わせれば、嫉妬だの羨望だの陳腐な言葉に替えられてしまうのだろう。

 ――――誰が、こんな男に。

自覚したくない。立場が違ってしまってもまだ尚自分の前を歩くような存在に、どんな感情も抱きたくはない。

「相変わらず……詰めが甘えんだよ」
「業務に支障はない、放せ」

共になどいられるかと、宜野座は狡噛の手を振りほどこうとした。しかし、さらに強められた指の力にそれは叶わず、抗議しようと睨みつけた視線の先に、不快そうに寄せられた眉を見る。

「傷、見せろ」

そう言い放つ狡噛の視線は、だが一瞬も包帯の巻かれた右手には落ちず、ただ宜野座を射抜くようにまっすぐ見つめていた。
傷、とは、包帯の下の右手の傷ということか――と宜野座はわざわざ確かめるように頭の中で整理して、次いで目を細める。

「お前に見せなきゃならない理由が分からん。見せた瞬間に治るというなら、いくらでもそうするが?」

ハ、と息を吐くように笑い、撥ねつけてやったというのに。

「ギノ、傷を見せろ」

狡噛はそう繰り返し、宜野座の口唇を引き結ばせた。
流れた冷たい沈黙を裏切るような、視線の絡み合い。何故と問うのも視線なら、見せろと強要するのもまた視線だった。
やがて宜野座は狡噛に右手の甲を向けてみせ、殊更ゆっくりと包帯をほどいていく。そうすることでやっと、狡噛は宜野座の右手を見据えた。

「……満足か?」
当てつけるようにも晒された患部を確かめて、狡噛はゆっくりとひとつ瞬く。宜野座はそれを合図にしたかのように、ため息を吐いて自らも傷の具合を確認した。
爆風で吹き飛んだ際に擦りつけてしまったのは確かに自分の失態だが、包帯が少し不便なだけで業務に支障はない。痛みもすぐに消えるだろう。いや、事件を追っていればそんな痛みなど気にしている余裕もないだろうか。

「この程度では痕も残ら――」

残らないだろうと言いかけた口唇が、そのまま止まる。
名残のように手首に垂れ下がっていた包帯を無造作に引き掴み、口許へ寄せた男のせいで。
冷えた手の甲に、触れる口唇の感触。宜野座は瞬くことさえ忘れて男を――狡噛を凝視した。

「狡、噛……?」

その男の名を呼んだほぼ同じ瞬間、関節部分に歯を立てられて顔を歪める。傷の痛みよりも強く感じた噛まれた痛みに、思わず息を呑んだ。

「お前に俺の知らない傷があるのは気に食わないからな」
「なっ……」

狡噛はそう言って宜野座の手を投げるように解放する。
そんな理由か、そもそも何故自分の傷をすべてお前に把握されなければいけないんだ、意味が分からない! と、そんな抗議が噴き出しそうだったのに、何から言っていいのか分からず結局どれをも言えなかった。

「ギノ、行くぞ。捜査方針立て直すんだろ」
「お前に……ッ、言われるまでもない!」

狡噛は何もなかったように分析室へと足を向けている。
それが腹立たしくて、宜野座は対抗するようにも踵で床を蹴り彼を追い越した。


痛み出した手の甲に包帯を巻き直し、鼓動を速めた心臓には、気がつかない振りをして。


#執×監 #両片想い

予定調和

NOVEL,PSYCHO-PASS,狡宜 2012.11.23

18歳以上ですか? yes/no

NOVEL,PSYCHO-PASS,狡宜

予定調和

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副作用

NOVEL,マクロスF,ミハアル 2012.08.13

#ミハアル #両想い #ラブラブ #お題

ミシェル・ブランは格好イイと思う。惚れてる欲目を除いても、道ですれ違うヤツらがみんな振り向いてくくら…

NOVEL,マクロスF,ミハアル

副作用



ミシェル・ブランは格好イイと思う。
惚れてる欲目を除いても、道ですれ違うヤツらがみんな振り向いてくくらいは、格好イイと思う。
だから、仕方ないと思うんだ。

あいつがああして、教室前で女に囲まれてんのは。

あぁ、今日はまだ少ない方かな。そういえばあの子は昨日も来てたよな。
何を話してんのかはここからじゃ聞こえないけど、ミシェルは優しく対応してやってんだろう。フェミニストって言えば聞こえはいいけど、あいつは女好きなんだ。年上好みって、聞いたこともあったな。
それでもめげない同級生や下級生は何人もいるみたいで。
こんなの毎朝の光景だから、今さらどうこう言うつもりはない。
いくら俺が、……ミシェルの秘密の恋人だからって。
好きなんだなあっていつからか自覚して、それを言おうと思ったらミシェルに先を越されて意地みたいにキスしたの、何ヶ月前だっけ。
ミシェルが泣きそうな顔して笑ってたのは、まだ頭から離れてない。
あー、困った。
マジで困った。
恋人って認識するたびにどうすればいいか分からないくらい心臓がくすぐったくなる。
それくらい、俺はミシェルが好き。
名前も知らない女と楽しそうにしゃべってるミシェルを見て、ヤキモチなんか妬かないって言ったらそれは嘘になるけど、いいんだ。
知ってるから。

「ミシェル!」

俺がこうして登校していちばんはじめにあいつに声をかけると、

「姫、おはよう」

どんなヤツに対する時よりも優しい顔で振り向いてくれること。

「ちょっと話あるんだけど」

どれだけの人間が気づいているだろう。あんな顔、俺が関わってないと見せないんだぜ。

「ああ。じゃ、ちょっとごめんね」

ミシェルは取り囲んでいた女たちに、それでもにこやかに手を振って駆けてきてくれた。あいつらには悪いけど、この瞬間がとても好きだ。
ミシェルの中で、俺がいつでもいちばんなんだって分かるから。


「起きられたみたいでよかったよ」
「お前がバカみたいな目覚ましかけるから」

ミシェルと一緒に、廊下を歩く。もうすぐ授業始まるってのに、廊下は人がいっぱいだ。ダメだな、こんなとこじゃ。
まぁ、人がいなくてもこんなところじゃ話せやしないけど。

「バカみたいって?」

屋上へ上がる階段の途中、踊り場で折り返して三段目、ミシェルがニヤニヤと面白そうにのぞき込んでくる。
近い。けど嬉しい。でもそんなこと言えない。

「なあ、どんな?」
「…………いつ録ったんだよ、勝手に人の携帯いじんな」

今日の朝は、ミシェルの声で目が覚めた。別に隣にいたわけではないし電話をもらったわけでもない。

おはよう姫、愛してる。

朝っぱらから歯の浮くような台詞は、きっとボイスレコーダーで録ったものだろう。
マジでびっくりして、一瞬うっとりして、時計を見てはね起きた。学校に来る間も、ずっと考えてた、ミシェルのこと。

バカじゃないのか、なんであんなことするんだ、嬉しいとか思ってねえ。

そんなことばっかり。
一言くらい言ってやろうと思ったんだ。勝手にアラーム音変えるなって。起きられなかったらどうするんだって。

「毎日アルトの耳にいちばん最初に入る音が、俺の声だったらいいなって思っただけだよ」

脱力して言えなかった。どうしてこの男は、こうも恥ずかしい台詞を言えるんだろう。
もしかして俺も、録音してやった方がいいのかな。

「姫も今度俺の携帯に愛のメッセージ入れてよ。ミシェル大好きカッコイイ愛してるとかさ」
「絶対にしねえ!」
「ちぇ、ケチ。で、なに話って」

階段の途中で立ち止まって、別に、と壁にもたれた。携帯のことは話したし、実を言うとそれほど重要視してることじゃなかった。
ただ、

「何それ意味分かんない。……ははん、さては俺が女の子たちと一緒にいたから、ヤキモチ妬いたんだろ。可愛いなーもう」

ミシェルも俺の下の段で立ち止まって壁にもたれる。こうしてミシェルを見下ろすのはあまりない。悔しいけど背も少しミシェルの方が高いから、いつもどうしても目線が上になってしまうんだ。

「いや、ヤキモチ……は、妬くけど……」

俺がミシェルを見下ろす時って言ったら、こいつの上に乗っかってる時くらい。
こんな風に、少し目にかかりそうな前髪に上から触れるのも、新鮮な感じだ。

「けど、なに?」
「あ、その顔」

額に指先が触れた瞬間、ミシェルの表情が変わる。でも俺がそう言った次の瞬間には、不思議そうなものに変わった。

「顔?」
「俺、ミシェルの顔結構好きなんだ」
「は? 顔が好きって、なにそれちょっと複雑なんだけど」

しまった、言い方間違えたな。顔だけが好きなのかって、誤解させちまった。

「そうじゃなくてさ。ミシェルさ、女子たちと話してても……俺が声かけるとな、今みたいにすげえ優しい顔して振り向くんだぜ」

それが嬉しい。だからわざと、割り込むみたいに声をかけるんだ。……サイアク。
ミシェルのこと好きなヤツらには悪いなってのも思うけどめいっぱい優越感もあって、俺やっぱりミシェルのこと好きなんだなあって実感して、ミシェルに好かれてんだなあって嬉しくなって、心臓が……体ぜんぶがくすぐったくなる。

「だから、お前が誰と仲良くしてたっていいんだよ。お前が好きなのは俺で、俺が好きなのは……お前なんだから」

心の底からそう思って言ってやったら、ミシェルのほっぺたが心なしか染まったように見えた。やっべ、可愛い。

「なんだよ、照れてんのかよ」
「だって、アルトはあんまりそういうこと言ってくれないだろ」

そうは言いつつも別にすねた風もなく、ミシェルは段をひとつ上がってくる。やっぱり正面に来ると目線が上になって、悔しい。

「イヤか?」
「ちっとも。その分俺が言うし、アルトの照れ屋なところは助かってるかもな」

こつんと額が当たる。鼻先がもうちょっとで触れる。ミシェルは俺を包むように手すりを握って笑う。

「助かるって、なんで」
「だって、ところかまわずそんなこと言われたらさ」

意味が分からなくてへの字に曲げかけた口唇に、

「……キス、したくなるだろ」
「ところかまわないのはお前だけだ」

別にそういうことを誘って言ったわけじゃないと視線を逸らしたら、俺だけ見ててなんて言うようにまたキスが降ってきた。
バカだな。バカだなあ、こいつ。
俺はいつだってお前しか見てないのに。
こんなところでされるキスに、恥ずかしさより嬉しさの方が勝ってしまうくらい。
もっともっとキスしたいって両肩を引き寄せてしまうくらい。
いっそ誰かに見られて噂が広まって、独り占めしても誰にも文句言われないようになったって構わないって思うくらい。
好きだなんて言葉じゃもう足りないくらい、お前のこといっぱいいっぱい、好きになってるのに。

「アルト、アルト……好きだよアルト」

俺以外には絶対見せないような優しい表情と甘ったるい声と、子供みたいに甘えてくる仕草。体にゆるく巻き付いてくる、ミシェルの腕。頬に触れる、前髪。互いのシャツ越しに伝わってくるドキドキ。やっかいなキスの副作用。

「なあアルト、気づいてる?」
「……なに」
「さっき、授業のチャイム鳴っちゃったの」

キスに夢中で気づかなかったって言ったら、こいつはどんな顔するんだろう。さっきみたいに照れるかな、それとも面白そうに意地悪な笑い顔するんだろうか。

「あとね、キス終わったあと、いっつもそうやって寂しそうな顔すんの。気づいてる?」

甘い声で先手を打たれた。っていうか自分の顔なんか分かるわけねえだろ。

「こんなキスじゃ足りないって俺のこと引き留めるんだよな」
「し、知るかよそんなの。都合いいように解釈すんなっ」

言われてみればそうかもしれない。だけど、言われてしまったから悔しくて認めてやれない。
だけどもっと一緒にいたいんだ。もっと触れてほしいんだ。
ミシェルが言うように、キスだけじゃ足りない。
キスをする前だったら、キスだけでも……言葉だけだっていいって思うのに、キスをしてしまうともっともっと欲しくなる。

「そう? じゃあどっちか選んでよアルト」
「選ぶって……何を」

訊き終わらないうちに、ミシェルの腕が俺をぐいと抱き寄せる。口唇が触れそうな近さで、ミシェルが笑った。

「このままサボってセックスか、キス100回か」

選択肢の意味が分からねえ。
俺がどっちかを……っていうか前者を選ぶと思ってんだろ、くそっ。

「じゃあ……」

ミシェル・ブランは格好イイと思う。
そんで、可愛くてズルくてちょっとバカだ。


「選べないから両方だ」

俺がどっちかで我慢できるわけなんてないのに。


#ミハアル #両想い #ラブラブ #お題

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恋人だったら

NOVEL,マクロスF,ミハアル 2012.07.27

#ミハアル #両片想い #誕生日

早乙女アルトは、いつになくそわそわしていた。ちらちらと隣の親友を横目で盗み見て、いつ切り出そうかと考…

NOVEL,マクロスF,ミハアル

恋人だったら



早乙女アルトは、いつになくそわそわしていた。
ちらちらと隣の親友を横目で盗み見て、いつ切り出そうかと考える。

――――……やべェ、やっぱりこいつカッコイイ……。

その合間にやってくる、なんとも言えない波のような恋心。
こんなに近くで見つめていられる幸せと、眼鏡のレンズ越しに眺められているモニターへのつまらない嫉妬心。
あの緑の目にじっと見つめられたら、自分だったら茹で蛸になってしまうに違いないと小さく息を吐いて、また切り出せなかった情けない自分を心の中で詰った。

――――簡単なことじゃねえかよ、いつもと変わりねえって。

今日買い物つきあってくれないか。
ただその一言を言うだけだ。
放課後に街へ繰り出すなんてことは今までも何度だってしてきたし、友人同士の他愛のない戯れだ。
一緒に街へ行って目的もなく歩いて、喉が渇いたらカフェでお茶して、学校のことやバルキリーのことを話す。
そうだ、なんてことはないはずだ。
別にそれ以上を望んでいるわけではない。

恋人同士になりたいなんて、そんな大それたことは。

ただ近くで過ごしていたい。
手なんかつなげなくてもいいから隣を歩いていたい。
時には笑いかけてもらいたい。

それを思うだけで幸せになれるのだ。
だから今必要なのは、ほんの少しの勇気だけ。

「あっ、あのさあミシェル」

勇気は出せたけど、案の定声が上ずってしまった。できることなら時間を戻してみたいけど、そんなことはできやしない。

「ん? なに、アルト」

それでも親友はなんでもないように振り向いてくれて、そんな些細なことはどうでもよくなった。

「今日さ、放課後……空いてるか?」
「んー、特に予定は入ってないな。なに、なんか買い物?」
「あ、ああ、そう、そうなんだ。えっと……携帯のバッテリーとか、そういうの見たくて……どういうとこ行けばいいのか」

相手の方から切り出してくれて、アルトはホッと胸をなで下ろす。
しかし、うまく口実になっているだろうか。
本当はバッテリーなんか買う必要もなくて、ただ単にミハエルと一緒にこの日を過ごしたいだけ。

「ああ、いいぜ。暇だしな。ついでにどっかでアイスでも食いたい。今日暑くない?」
「えっ、あ、ああ、うん、そうだな、暑いな。アイスとかかき氷とか、そういうの食いたくなる感じ」
「決まりな。確かシスコのソフトクリームが美味いって話だぜ」
「……どこからの情報だか」

内緒、とミハエルはウインクなんかしてくる。それだけでアルトはノックアウトだ。どこの女からの情報だろうが、やっぱりもうどうでもよくなってしまう。
今日ふたりで、ソフトクリームを食べられるなら。




「容量多い方がよくないか?」
「え、でもこれだって結構もつんだろ?」

放課後、アルトの希望通りふたりでアイランド1にやってきた。買い物をするならやはりこのストリートがいちばんである。ミハエルと過ごす口実にした携帯端末のバッテリーは、専門のショップで。
しかしながらやはり口実なので、どうしても入り用というものではない。容量が多ければコストパフォーマンス的にもよいのだろうが、アルトはいちばん安いものを選んだ。

「とりあえずの予備ってとこかな。こんなにあるなんて思わなかった」
「俺も久々にショップ来た。新しい機種いっぱい出てんだな。機種変更しようにも、目移りするぜ、これじゃ」

目的の買い物を終えて一安心、ショップに展開されている様々な端末を眺めて呟いたミシェルに驚いて、アルトはえっと振り向いた。

「き、機種変更……するのか?」

アルトは自分の携帯端末をぎゅっと握りしめる。
スタンダードモデルのおかげか、ミハエルと一緒の機種だ。狙ってそうしたわけではないのだが、せっかく同じなのにと残念な気持ちになってしまった。

「あー、しばらくはしないかな。もうこれに慣れちゃってるし」
「そ、そうか」

同じ機種だからといってどうなるわけでもないのに、心臓が震える。嬉しいと、音を立てて。

「……アルト、さてはお前」
「えっ!? な、なんだよ?」

ミハエルの神妙な面もちに別の意味で心臓が震えて、思わず振り向く。
聞こえるほどの心音ではないはずだ。表情だってうまく隠しているはずで、バレてしまうわけがない。

――――バレてないよな? バレるわけねえよな!? 俺がお前を好きなこと!

ドックンドックンと鳴る心臓を押さえて、挑むようにミハエルを睨みつけた。

「充電器とかの規格一緒だからって、貸してもらおうと思ってんだろ」

ため息混じりに返ってきた言葉に脱力しかけ、どうにか踏ん張って耐える。

「え、あ、そ、そうそう、お前のと一緒だし、もし壊れても大丈夫かなーとか」

――――そんなわけあるか、バーカバーカ。

気づかれなかったことにホッとして、やっぱりちょっぴり残念で、出口から足を踏み出す。
でも本当は、気づいてほしかったのかもしれないと少しだけ俯いたら、

「まぁ、お前に頼られるのは嫌いじゃないけどな」

ぽん、とミハエルの手のひらが頭を叩いて通り過ぎた。アルトは目を見開いて、ミハエルの背中を視線で追った。

「こーら何してんだアルト、アイス食いに行くんだろ」
「あっ、うん、行く!」

ミハエルの触れてくれた髪を撫で、タッと駆け寄る。振り向いて待っていてくれるミハエルを、やっぱり大好きなんだなあと苦笑しながら。





そうして、女の子たちの間で美味しいと評判のソフトクリーム屋を見つける。行列ができているということは、評判に間違いはないのだろう。

「美味そう」
「どれにしようかなあ、俺。……アルト、買ってやろうか」
「えっ、い、いいよ自分で払う」
「……そう? しっかし、結構並んでんなー」
「美味いからだろ? 今日暑いってのもあるだろうけど」

行列のいちばん最後に並んで、アルトは視線を泳がせた。どれにしようか迷う意図でなく、こんなに近い距離では落ち着かないのだ。歩道とは言え人通りは多く、通行の邪魔にならないように並ばなければいけない。
ということは、密着とまではいかなくても距離はそれなりに近くて、熱が上がってしまう。
気づかれませんようにとあさっての方向を眺め、心を落ち着けようとはしてみるけれど、うまくはいかない。

「アルト、決まったのか?」
「えっ、あの、チョ、チョコかかったヤツっ」

メニューを見てもいないことに気がつかれたのか、ミハエルがひょいと覗き込んでくる。飛び退きたいほど驚いて、とっさに目に入ったカウンターのポップを指さした。

「ははぁ、アルトが好きそうなヤツだな。俺やっぱヨーグルトのにしよう」
「え、それも美味そう。さっぱりしてそうだよな」
「あっは、一口やるからチョコのにしとけよ」
「えっ、…………ああ、うん、もーいいやお前」

アルトはミハエルを振り向いて、そして頭を抱える。
意味をちゃんと理解して言っているのだろうか。そんな、嬉しいこと言われても。こちらは困ってしまうのに。

「なに、何か言いたげ?」
「別に。ほらもう順番回ってくるぞ」

言いたいことはたくさんあった。気になるとか好きとか大好きだとか。
だけどそんなこと言えるはずもなくて、アルトはただひとときのこの時間を幸福に想うだけにしておいた。

「ほらアルト、ヨーグルトの」

木陰のベンチにふたりで座って、冷たいソフトクリームで喉を冷やして潤す。周りのベンチにも、友人同士で来ている可愛らしい女の子たちや、恋人同士がたくさんいた。
レジでもらってきた使い捨てのスプーンでソフトクリームをすくい、ミハエルはアルトの口許へ持ってくる。一口やると言っていたのは本当だったのかと思うが、そんなことよりこの動作はつまり、あれなのか。
【食べさせてあげる】ということなのか。

「いっ、いいよバカっ」
「早く食えって、溶けちまうだろ」

恥ずかしくて何か後ろめたくて拒んでみたが、ミハエルはなおもズイとスプーンを差し出してくる。どうあっても退かないようで、アルトは困ったように眉を下げた。
今にも溶けて落ちてしまいそうなソフトクリームをじっと眺め、息を止めてかぶりつく。冷たさとヨーグルトの酸味が口の中に広がった。

「美味い?」

ミハエルが優しい瞳で覗き込んできて、アルトは両手で口を押さえてコクコクと頷くくらいしかできない。うっかりドキドキが飛び出してしまいそうだ。

「そ、良かった。アルトのも一口ちょうだい」
「す、好きに食えよ」
「ふーん、食べさせてくれないんだ」
「知るかっ」

アルトは頭を抱えて、自分のソフトクリームを差し出してやる。まともに顔も見られないのに、あんな恋人同士みたいな仕種ができるものか。
ミハエルは仕方なさそうに、差し出されたソフトクリームをスプーンですくって自分の口へと運んでいく。甘い、と眉を寄せる彼を横目で盗み見て、少しだけ口許を緩めた。

「……アルト、あのさ」

それを見計らったかのように、ミハエルの視線が飛んでくる。ドキッと跳ねた心臓を押さえて、ゆっくりとミハエルを振り向いた。

「な、なに」
「何か欲しいもんない?」
「……は?」

唐突に何を言い出すのだろう。アルトの頭の中に、クエスチョンマークが押し寄せてくる。

――――え、……え? 欲しいものないかって……うそ、まさか。

「お前今日、誕生日だろ。何かプレゼントしてやるよ」
「ミ、ミシェル」

顔の熱が急激に上がっていくのが分かる。
そうだ、今日は早乙女アルトという人間がこの世に生まれた日。
一年に一度のその日を、好きな人と過ごしてみたかった、アルトの恋心。

「な、んで……知ってんだよ」
「ふふん、そりゃあ俺は早乙女有人のファンだからな」
「茶化してんじゃねえっ」

ミハエルが得意げに眼鏡を押し上げる。それにさえ胸が鳴った。
だけど、期待をしすぎてはいけない。ミハエルは、有人として誕生日を祝ってくれるだけなのだ。間違っても、アルトと同じ恋ではない。

「茶化してねーよ別に。ホントは今日俺から誘おうと思ってたんだぜ。けどお前の方から来てくれたから、手間省けたと思ってたのに」
「い、意味わかんねーし。それに男って、友達同士で誕生日プレゼントとか、やらねえんじゃねーの」
「………………にっぶ」

小さな呟きと、大きなため息が聞こえてくる。
その理由が分からなくて首を傾げたら、

「友達じゃダメだっていうなら、恋人ならプレゼントやってもいいのか?」
「は、…………はァ!?」
「恋人になれば、お前にプレゼントやってもいいのかって訊いてんの」

瞬きができなくなる。ミハエルの言った言葉を何度も何度も頭の中で反芻して、ひとつひとつ、飲み込むように理解していく。
その意味のすべてを理解した途端、アルトの顔が真っ赤に染まった。

「な、ななななな何言ってんだお前! 寝ぼけてんのか!?」
「告ってんのにその言いぐさ、ひどくない? 遠回しにフッてんの?」
「フッ……てねぇし!」

そもそもフるだのフラれるだの以前の問題だと思っていたのだ。
まさか。
まさかこんな結末……いや、始まりが待っていたなんて。

「じゃあ、答くれよ。これ以上こんな気持ちでお前の隣にいんのってマジ生殺しっていうか。お前だって悪いんだぜアルト、ちらちらこっち見たり恥ずかしそうにデート誘ってきたり、思わせぶりな態度とるし」
「デート!? って、これ!?」
「いや、そこは俺の願望っていうか、だったらいいなっていう……でも、うぬぼれだけじゃないとも思ってんだけどな」

目の前がチカチカと光る。
何をどこまで信じて期待して、想いを返せばいいのか。

「アルト。好きだよ」

ミハエルが、一語一語を大切そうに紡ぐ。
嘘ではないのだと、夢でもないのだと、改めてその言葉がアルトの中に入り込んでくる。

「だから、今日も来年もその先もずっと、お前に特別なプレゼント買いたい」

こんなに優しい声をしていたなんて、とアルトは目蓋を伏せて、口唇を開いた。

「い、……いらない」

ミハエルが息を呑んだのが聞こえた。残念そうに、そうかと呟いたそのすぐあとに、アルトは。



「今年はもう……もらったから。あ、あの、来年から頼む」



顔を真っ赤に染めて、精一杯伝えたつもり。
形に残るモノよりも、心に残る嬉しい言葉をくれた、大好きなひとへ。

「……――アルト……!」

それで理解してくれたのか、嬉しそうな声が耳に届いた。
はふーと長く息を吐いたあとで、ミハエルはいつものようにキザったらしく言ってみせる。


「リクエストは当日デートの直前までな」



その日初めて、手をつないでふたりで歩いた。



#ミハアル #両片想い #誕生日

ポケットの中のシルバー

NOVEL,その他ジャンル 2012.07.19

18歳以上ですか? yes/no

NOVEL,その他ジャンル

ポケットの中のシルバー

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触れられる距離

NOVEL,その他ジャンル 2012.05.31

#BRAVE10 #真田幸村 #海野六郎 #幸六

海野六郎は、視線を上げずに訊ねてみた。「若、いかがなされました」自分の仕える主――真田幸村は、先ほど…

NOVEL,その他ジャンル

触れられる距離


海野六郎は、視線を上げずに訊ねてみた。

「若、いかがなされました」

自分の仕える主――真田幸村は、先ほどから寝転がったり起きあがったり、あるいは部屋の中を歩き回ってみたりとせわしない。
普段はそのような仕草はなく、むしろゴロゴロと寝ころんでいるだけのように思う主を目にして、何事かあったのかと思うのは当然のことであった。

「いや、どうも落ち着かんのでな……」

幸村は頭をガシガシとかきながらそう返してくる。六郎は読んでいた書物をはたりと閉じ、主を振り仰いだ。

「お察しします、若。徳川の所行は今や目に余る……さりとて表立って動く訳にもいかず、更には石田殿からの密書……お心休まる時がないかと存じます」
「六郎?」

六郎は目を伏せる。世の民の知らぬところで、煮立つほどの原のさぐり合い、書面の攻防、勝手な布令。小さくはあれど真田の領地を守る幸村にとっては、そのすべてが頭の痛いことだろう。

「ですが、若。何の為に私がいるとお思いなのです? 若は私がお守りいたします故、どうぞ落ち着かれませ」
「ふ……ん? できた家臣よのう。したが、落ち着かん原因を作った張本人が、何を言うておるのだ、六郎」

幸村は六郎を見下ろし、目を細める。呆れと、若干の苛立ち。そして、愛しさを込めて。

「……私が、何か不始末でも?」
「お前が朝、ワシから煙管を取り上げたであろう。落ち着かんのはそのせいだ」

不思議そうに首を傾げた六郎に、シラを切るつもりかと告げてやる。六郎は一度目を瞬いて、ああそれでですかと悪びれもせずに頷いた。

「一日くらい、よろしいではないですか。喉にも悪いようですし。若の御為です」
「一日我慢したとてなんになるやら……六郎、返せ」
「なりません。今日一日、お預かりいたします」

六郎のいうことも分かる。だが習慣になてしまっているものを今さらやめるのは難しい。欲求の方が勝ってしまう。

「あれがないと手持ち無沙汰でならんのだ。口も寂しいしのう……鬱憤が溜まって死んでしまうぞ」
「ではその時は私もお供つかまつります」

しかし六郎はおそらく本気であろう忠誠で拒んでくる。幸村はがっくりと項垂れ、力が抜けたのかそこに座り込んでしまった。

「お前には、敵わん……どうあっても返さんつもりか」
「時には耐えることも、優れた武将の務めかと存じます」

朝、六郎は幸村に煙管を渡さなかった。
体に悪そうだというのが一番の理由で、いつも手にされている煙管に嫉妬したのが二番の理由。
もちろんそんなことを言えるわけもないが、ここまで気落ちされるとは思っていなかった。今さら撤回するのもどうかと思うが、指先が迷って動く。

「六郎」
「は、何か……」

大きなため息のあとに名を呼ばれ、動きかけた指がぴくりと止まる。気づかれただろうかと思った次の瞬間、強く引き寄せられた。

「んんっ……!?」

突然塞がれた唇と、抱かれた腰。何が起こったのかすぐには把握できず、目を見開く。

「ん、は……っふ、んんっ……」

熱い舌先が入り込んできてようやく、口づけされているのだと気がついた。
唇を吸われ、舌を絡められ、吐息さえ奪われる。抗議したがった声が鼻から抜けていった。

「はぁっ……ぁ、んふ……」

強く吸い上げたあとにちゅっと音を立てて唇は離れていく。ようやく呼吸ができたような気がして、六郎は責めるように幸村を見上げた。

「涙目で睨まれても、少しも怖くはないぞ、六郎。そんなに気持ち良かったか?」
「なっ、……なんなのです、突然に!」

否定仕切れずに頬を染め、それでも虚勢を張って幸村の体を押しやる。そんな六郎を笑いながら眺め、悪びれもせずに幸村は答えた。

「口が寂しいのでな。ふむ、これなら苛立ちも収まるのう……さて暇を持て余しとる手は……お前を撫でておれば良いか」

つ……と指先が背筋を撫でて、手のひらが脇腹を包む。六郎は息を呑んで眉を寄せた。悪戯好きの主の手の癖など知っているが、これを止めるにはどうしたら良いのか。

「若っ……手を、どけてください……!」
「では、選ばせてやろうかの」

幸村の指先に反応してしまう六郎だが、こんな時間からそんなことができるものかと抵抗を試みる。たいていは無駄に終わるのだが、今日は幸村の反応が少し違う。
選ぶ? と六郎は不思議に思って幸村を見上げた。

「素直に煙管を返して夜ワシの相手をするか、このまま朝までワシの相手をするか。ん、どちらが良いかのう、六郎」

ワシはどちらでも良いぞと意地の悪い笑みが見下ろしてくる。選択肢を与えてやるとは優しい主だと、確信的な揶揄を持って。
言葉の意味を把握して、六郎の頬が真っ赤に染まった。
この場合どちらが良いと言えばいいのだろう。
幸村の為を思って煙管を取り上げたのは本当だし嫉妬が混じっているのも本当だが、このまま朝までだなんて死んでしまう――主の寵が嬉しくて。

「か、返しませんし朝まで若のお相手など、私の体が持ちません。どうしてもと仰るのでしたら、命じなさればよろしいでしょう」

ふいと顔を背けて、幸村の出方を待つ。命令という建前に自分の欲求を隠して甘えるくらい、きっと許してくれるはずだ。

「この策士めが……惚れた者を抱くのに命令などしとうないわ」

幸村はそう言いながらも気分を害した様子はなく、六郎の髪を指に絡めて遊んでいる。暇な指先はどうやらそこに落ち着いたらしく、何度も何度も髪を梳いてくれた。

「ではせめて夜まで、触れる位置におれよ、六郎。その後は拒ません」

幸村は今一度六郎の唇を啄んで、頬を撫でる。
六郎は幸村の出した答えに恥ずかしそうに御意と答えた。

夜まで、こうして唇が寂しくない距離に、指先が暇を持て余さない距離に。




#BRAVE10 #真田幸村 #海野六郎 #幸六

祭りの後の宴

NOVEL,その他ジャンル 2012.05.22

18歳以上ですか? yes/no

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