- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
- 恋人たち 2025/10/11 22:15:31 NOVEL,その他ジャンル
No.17, No.16, No.15, No.14, No.13, No.12, No.11[7件]
ホワイトクリスマス
寒い、と言い出したのはどっちが先だっただろうか。
窓から覗くのは白い白い牡丹雪。
空のこんな高いところにいても、それでもやっぱり雲の下にいるのだから当然雨も雪も舞い降りる。
ただ、もっと低い、いわば地上にいた頃より、空からの降下物は近くなった気がしてた。
「ユウ、ダイジョブ? 寒くない?」
「寒いに決まってンだろうが。誰のせいでこんな格好してると思ってやがんだ」
一応暖炉に薪はくべた。ふわふわの毛布も何枚か持ち出してきた。
せっかくだから窓辺で雪を見よう、と言って聴かないラビにつき合わされ、音もしない雪を、ふたりで見上げだしたのは、確か1時間ほど前で。
それでも最初の方は、故郷の季節について語り合ったりしていたんだ。冬にはとてつもない雪が降る、とか。夏にはセミがうるさくてかなわない、とかそんなこと。
「えー、オレのせいさ? なにユウちゃん。服着たままの方が興奮する?」
「誰がそんなこと言ってる」
やがては指先が冷えてきて、ぎゅって手を握り合ってしまったのが、そもそもの間違い。
久しぶりのそろっての休み、薄暗くなってしまった外の景色、しかもホワイト・クリスマス、なんて、雰囲気も手伝って、自然と口唇が合わさってしまう。
柔らかなブランケットの上にふたり倒れこんで、繋がりを深くしてしまったのは、どちらもお互いを責めきれない。
「少し、疲れた」
「眠る?」
優しく髪をなでながら、耳元で囁く。そういえば寝顔ひとつにドギマギしていた、そんな時代もあったなぁなどと、少し物思いに耽った。
「バカ、こんなとこでこんな格好で眠ったら、それこそ風邪を引く」
一糸まとわぬ姿なら、それは否めない。確かに抱きしめてくる彼の体温は温かかったが、眠ってしまうには、包む毛布が頼りない。
「明日、だっけか。教団のパーティー」
「うん。リナリーが、任務から帰ってくるはずさ」
一緒に出ようねとラビが額にキスを贈る。
くすぐったい、と身を捩るユウの首筋に、スキ有りとばかりに口づけた。
「バッ…」
口唇でラインを辿り、濡れた舌で熱を確かめる。
「バ…カ、やろ…まだ足んねェのかよっ…」
「足りんさ」
「おいッ……やめ…」
ブランケットの中で脚が絡まる。尚も抗議を続けようとするユウの口唇を、無理に塞いだ。
「んんっ…」
奥深くまで貪ると、気持ちよさそうに鼻を鳴らして背中に腕を回す。この人は本当にキスが好きだと、よりいっそう愛情込めて抱きしめた。
「っは……」
「ユウ…やっぱ身体少し冷えてるさ」
「んあっ…」
何処を触っている、と振り上げた拳は、いとも簡単に受け止められてしまう。どだい、こんなことをされていては力が入るはずもないのだ。
「ごめん。でもこんな日くらい、オレのワガママに付き合ってよ、ユウ」
組み敷いて見下ろした恋人の、綺麗な蒼眼が見開かれる。その中に映っているのが自分と天井だけで、嬉しいなんて思った。
「べ、別に…お前と、こ、こんなことすんの、ワガママに付き合ってるわけじゃねぇぞ…!」
言われて、首をかしげた。
顔を真っ赤にしながら言い募る、その表情が、たまらなく愛おしい。
「俺が……お前を欲しがってないとでも…思ってんのか」
「…ユウ…」
愛しくて、愛おしくて、強く抱きしめた。
普段、こんなことは言ってくれない恋人に、いくつもの、いくつもの口づけを降らせる。
窓の外に舞う、雪のように。そっと、静かに。
「ユウ、ユウどうしたんさ? 今日はめちゃくちゃ嬉しいこと、言ってくれる」
本当に嬉しそうなラビの表情に、ユウの頬が思わずに綻ぶ。
「クリスマス、だからな」
白い雪に酔ったのかも知れない、とユウは照れ隠しに続けた。
じゃあ毎日クリスマスだといいのにな、と口づけてくるラビを、呆れながらも愛しいと思ってしまったことは、言わないでおこう────
翌日ふたり、風邪を引いてパーティーには出られませんでした、とさ────。
#両想い #ラブラブ #クリスマス
天気がいいから
ユウは頬杖ついて、シーツに広がるオレンジ色を見下ろした。
珍しく起き出さないな、と。
こうして寝顔を見るのが初めてな訳ではない。先に目覚めることは幾度でもあったし、そのたびに抱きしめられて眠っていた事に安堵する自分に気づく。
それでも自分が起きればこの男も、その気配に気づいて目を開けるのが常だった。
「……」
すぅすぅと規則正しい寝息を立てながら、惰眠を貪る、ユウが恋人と呼ぶ男。
赤橙の髪と陽に焼けた肌。つい、と伸びた鼻梁と黒の眼帯。
…その、覆われた向こう側になにがあるのか、いまだ訊く勇気を持たない自分に、この男はどれだけ気づいているだろうか。
「ラビ…」
小さく呼んでも、男は夢の中。
どんな夢を見ている?
そこに入り込めない自分が悔しくて、そっと髪を梳いてみる。
案外にさらりとした髪はユウの指を難なく受け入れ、ラインを作る。
「……」
それがやけに楽しくて、くすりと笑う。
こんな自分は、普段の自分から考えるといささか背筋が寒い、と思いながらも、自然顔が綻んでしまう。
鍵をかけたラビの部屋に、他に誰がいるわけでもなし、見咎められることはないのだが。
それでもやはり気恥ずかしい。
いつからこんなふうになってしまったのだろうと考えると、眠る男が小憎らしい。
指で髪を弄びながらそんなこと考えて、自分が思っている以上にこの男に恋しているのだと気づかされる。
「…っち…」
そんな気も知らないで気持ちよさそうに寝るな、と腹が立つ。
軽くイタズラでもしてやろうと、ユウはベッドの下に手を伸ばした。
手にしたのは、いつも自分の髪を結っている紐。
起きないようにと、そっとラビの髪に指を入れる。
「ん…」
さすがに気づいたのか、ラビの鼻が鳴る。
大丈夫だまだ寝ていろと、額にキスを贈ってやれば、単純なものだ、すぐに寝息を立ててしまう。
それだけ自分の隣で身体を休められるのだという事実に少しくすぐったさを感じながら、ゆっくりと手指を動かした。
「……ここまでして起きないのか」
寝ていろとキスを贈ったのは確かに自分だが、いい加減気づいて起き出してもいいだろう。
確かに昨日は任務が終わったばかりだった。それも長期のだ。
その間はもちろん逢うことなんてなくて、頼りない無線で言葉を交わしたのも、片手で足りるくらいだった。
無線で最後に交わした言葉は【逢いたい】。
再会して最初の言葉は【逢いたかった】。
疲れているはずだった。お互いに。
日々生まれてしまうAKUMAを破壊して、伯爵の計画を阻止しながら、それでも自分たちエクソシストはそれが役目だと割り切って生きなければならない。
同じ境遇の戦友に、癒しを求めたところで、咎められる謂れはない。
「ラビ…」
生きていたことに笑いあい、息をつく間もないほどキスをして、ふたりベッドに倒れこんで。
疲れていた身体を、抱き合うことで癒した。
「いい加減起きろ、…ラビ」
いつまでも夢の中で、ひとり世界に置いていかないで。
ユウはラビの形のいい口唇に口づける。
ちゅうと啄ばんで、舐めて、息を奪う。
「ん、ん?」
くぐもった声に、起きたか、身体を離しかけたが、無意識の腕に阻まれた。
「バッ…てめ…おい!」
「んー」
背に回された腕に引かれ、さっきとは逆に、…奪われた。
「ん…ー!!」
舌を差し込まれ、寝起きにしては烈しいキスを繰り広げられる。起きなければ良かったのに、と思ってもあとの祭り。
「ん、おはよ、ユウ」
「っはぁ…、てめ、朝っぱらからサカんじゃねェよ…!」
腕が緩んだスキに、ついていた手を思い切り伸ばして身体を離した。この男のキスは、本当に意識を奪ってしまう。
「ユウこそ、なに人の寝込み襲ってるんさー」
「てめェがいつまでも起きねーからだろ」
乱れてしまった息を落ち着かせ、顔を上げて思わず噴き出した。
「くくく…っ」
「? ユウ? どしたん…」
滅多に笑ったりしないユウを不審げに見上げ、ラビは起き上がる。
へにょん。
おかしな軌道をたどって瞼に落ちるオレンジの髪。わずかに引きつった頭皮。
さっき自分の髪紐で結い上げたラビの髪は、情けなさそうに額の上にへたりと陣取っていた。
「ユウちゃん、…なにさコレ?」
肩を震わせながら笑いをこらえるユウにもう、とため息をつきながら結われた髪を解き、髪紐の本来の持ち主であるユウの髪を梳く。
「ごめん、身体平気?」
「…てめェの方が疲れてんじゃねーのかよ。俺がそんなイタズラしても起きねーくらい」
サイドのチェストから櫛を取り出して、綺麗に梳いてやると、引っかかることなくラインを描き、改めてこの髪の美しさを知る。
「んー、久々にゆっくり寝れた。やっぱユウの傍だと落ち着くんさ? ありがと、ユウ」
「…フン」
気恥ずかしさに思わず顔を逸らしてしまう。そんなユウに微笑み、愛しいなあと鼻先にキスを贈った。
「ユウ、いい天気さ」
「あ?」
「浴場で汗流して、外でごろごろしよ?」
にこりと微笑まれ、一瞬何を言っているのかと面食らった。
「なんだ、ごろごろって」
「…ひなたぼっこ?」
世界の終焉に着々と近づいているというのに、なにを悠長な。
そう言ったらラビは笑った。だからさ、と。
「ユウといられる時間が好き。ユウと話してる時間も、ユウに触れてる 時間も。ねぇ? 今日はこんなにいい天気だから」
外でいろんなことを話そう。
任務のこと、世界のこと。
好きなこと、嫌いなこと。
今までのこと、これからのこと。
ふたりの、こと。
「…仕方ねぇな」
付き合ってやる、とシャツを羽織るユウを、ラビは本当に愛おしそうに見つめてた。
天気がいいから。
今日は飽きるまで語り明かそう。
あなたが わたしの傍で 安心して 眠れるというのなら。
#両想い #ラブラブ #ラビユウ
果てるまで口づけを
何度も何度も、角度を変えては口づけをした。
逢えない時間も今回は短かったのに、それでも求めることを止められない。
「っ…ラビ」
服の上から胸を這う手を掴み止め、男の名を呼んだ。なに、と小さく返ってきた声に、上がった息で返す。
「明かり……消せっ…」
「ん…なんで」
神田の衣服をこれ以上ないというくらいに乱しながら、ラビは音にする。
「あっ…」
首筋に吸いつかれ、思わず声を上げた。
「バカ、は…恥ずかしいだろうが…っ」
大きく開けられた胸元は自分の目にも入り、人工的なライトに照らされ浮かび上がる。
そんなものを目に入れるのは、組みしかれる自分の状況を無意味に認識することになり、正直ありがたくない。
それでもラビはにこりと笑って口にした。
「却下」
「なっ…なんでだよ…!」
抗議を続ける神田の腕からシャツを抜き、取り払う。
「だってオレ、明るいトコでユウの裸見たいさ」
当然至極、といったふうなラビに、思わずそうかと返しそうになる。
「みっ、妙なこと言うなバカ!」
「えぇ、どこがさ~? 好きなコの裸とかって、すみずみまで見たいじゃんさ…」
ほら、とベッドサイドのライトをくいと引き、照らす角度を思い切り変える。
「バッ…カやろ、よせ!」
「だって、見たい。…ユウは?」
入らない力でラビをせめて押し退けながら、あぁ?と振り仰いだ。
「ユウは、オレの裸とか、興味ない?」
上から見下ろされて、カァと身体の熱が上がる。
「そっ…そんなもんねぇ……!!」
「ホントに? ちょっと切ないんですけどオレ」
浅く吐かれた息に、神田の眉が寄せられる。本当に、この男の気持ちも自分の気持ちも厄介だ、と。
素直に声に出せない自分と、隠すことをしないラビと。
「全くねぇ……わけじゃ……ねぇけどよ…」
小さく、小さく呟く。蚊の鳴くような音だったけれども、この距離ではやはり耳に入ってしまう。
「…じゃあ、見たいとか思う? 触りたいとかって、ねぇ?」
柔らかく笑うラビに、こんな表情をしてくれるなら、自分の羞恥心なんてどうでもいいかと少し思う。だって、ああ、どうしよう。本当に嬉しそうなのだ。
誰かに見せてやりたい。
でも誰にも見せたくない。
「……あぁ」
「よかった、おんなじ」
笑うラビに、神田はするリと手を伸ばす。ラビの身体を包む黒いシャツの裾から手を滑り込ませ、肌に触れてみた。
「…ユウ?」
「いいんだろ…触っても」
ぺたり、と。腰のラインを確かめる。
「…こういうのはちょっと想定してなかったさ…」
ドキドキする、と目を逸らすラビに、神田は思わず吹き出した。
「こういうオマエは初めて見たぞ」
なるほど中々に面白い。
そのまま前に回した手で、シャツをたくし上げながら腹の体温に触れる。割れた腹筋を指でなぞり、軌道を上昇させていった。
ぺたり。ぴとり。
「ユウの手…気持ちいいさ…」
はぁ…と熱っぽい吐息が聞こえる。そのうっとりとした表情に、嬉しくなる自分に気がついた。
────…ラビにこうされてるオレも…こんな風なのか?
だったら、嬉しいと思っている今の自分の気持ちも、普段ラビが思っていることと同じ、なのだろうか。
ラビの肌に触れながらそんなこと、考えてみたりした。
「ラビ…腕、上げろ」
「ん」
神田の声にラビが片腕を上げる。神田はシャツを引き上げ、ラビの腕を抜き、頭を通過させ、肩を通り引き下ろす。
サイドライトに浮かび上がるラビの裸体は、目を瞠るほど綺麗、だった。
「……綺麗、だな。こんな風にじっくり見るのは、初めてかも知れない」
整った筋肉。力強そうな腕。焼けた肌の色。
「そうかな…傷跡ばっかりさ。綺麗なのはユウの方」
「バッ……あ」
被さり、喉を強く吸うラビ。ビクリと、神田の肩がわなないた。
ちゅ、ちゅう…と、残される痕に熱が上がる。
「バカ……よせ…」
自分の身体は嫌いだった。どれだけ鍛えてもラビのような筋肉が備わらなくて、細身過ぎて白すぎて。こんな身体を抱きたがるラビの気が知れなかった。
「や。オレはユウの身体にキスするのが好きなんさ。見るだけじゃ、触るだけじゃ全然足りない」
「…こがイイんだよこんな身体っ…」
顔を背けた神田に、苦笑して身体を離した。
「今さらそれ、訊くんさ? 伝わらなかった? さっき、ダイスキって言ったの」
ユウが抱きしめてくれたから、伝わったと思ったんだけど…と俯くラビに、心臓が痛む。
「オレはユウのこと好きで、大好きで、愛してる。身体も心も、全部。ユウっていう、字や発音さえも」
「ラビ」
「オレの方が断然気持ち大きいって知ってるけど……さぁ…ちょっと切ないなー今の」
「バカ言うなオレの方が愛し…っ…」
言いかけてハタと気づく。自分は今何を言おうとしていたのか。
愛している。そんな事は言ったことがない。
「え…ユウ? 今」
事実は事実だが、それを口にしたことなど、一度たりともなかった気がする。
「今、ねぇ? ユウ、もっかい」
「~ああ、もう、知るか!!」
ぐいと、ラビの身体を引き寄せる。今の顔を見られたくなかったこともあるが、ラビの体温を感じたかった。すぐ近くで。この肌で。
「…ラビ」
抱きしめて、実感する。
生きているのだと。
生きていて、動いていて、愛しているのだと。
「ラビ…」
トクントクンと心臓の音が重なる。
生きている。
ふたりともが生きている。
今目の前にある肌が愛おしくて、愛おしくて、口唇を寄せた。
「! ユウ…っ?」
「黙ってろ…」
焼けた肌、鎖骨のちょうど、下あたり。
ぺろりと舐めて、ちゅう、と吸った。強く、強く吸った。
「あ…」
赤く痕が残る。案外に柔軟な肌だと思い、位置をずらして同じような痕を残した。
「ユウ……ユウ、どうしよう、オレ」
ぺたりと、力をなくしたかのようにラビが被さってくる。
「…ラビ?」
「ユウも……こんな気持ちでいてくれんのかなぁ…」
「あ?」
耳元で、震えた声。泣き出す寸前の、掠れた。
「愛してる人に触ってもらったりすんのって、気持ちいいだけじゃないんさね…」
「────」
手が震えた。腕が震えた。心臓が震えた。
良かった。
おんなじ気持ちだった。
嬉しい。
おんなじ、気持ちだった。
「変な心配…すんなよ…」
「ヤバ……ユウの誕生日なのに、オレの方がいっぱいもらっちゃった感じさ…」
ぎゅう、と強く抱きしめられ、愛しいと、素直に思う。
「じゃあ…同じにしろ…」
「ユウ?」
不思議そうに名を呼ぶラビに、身体を離して苦笑した。
「だ、…抱いて、くれるか?」
ラビが息を止めたのが分かる。この至近距離だ、当然といえば当然か。
「オレははっきり言って自分の身体が嫌いだ。だがオマエが触れてくれるというなら……好きになれる」
この身体を、受け入れられる。
「ユ、ユウ……ちょ、ねぇ、今日大胆過ぎさ…!」
吐息が近づいてくる。余裕のなさそうな瞳に、思わず笑みが漏れた。
「加減できなくても、いい?」
「いい…ぜんぶ…欲し」
欲しい、と言い切る前に口唇を塞がれる。舌先から熱を移されて、声が上がる。
「んっ…!」
ぴちゃりと湿った音と、衣擦れの音。漏れる吐息。
「んぁ…」
滑る手のひら。踊る指。
いつの間にか露にされた下肢に、身体を割り込まれる。
「ユウ…ユウの身体…好き…」
「んんっ…あ、ん、…っふ」
舌先で胸の突起を転がされ、ビクビクと足が踊る。いつもより鮮烈で、息が上がった。
「ラビっ…やべ……今日…おかし…いっ…」
「ん、いつもより敏感さ…可愛い」
「バカ、言う、なっ…あぁ…ッ……!」
握りこまれ、のけぞる。どれだけ理性を保とうとしても、ラビの手淫の前にはそんなもの吹き飛ばされる。
手のひらで、指で、爪で、視線で、吐息で、言葉で、愛される。
「んあ、う、や…」
「ユウ…綺麗…」
汗で、滑る肌。絡みつく、長い髪。艶かしい、濡れた声。
抱きしめてくれる、腕。
きっと神田自身は自覚していないのだろう。それがどれほど美しいのかを。
「あ…ラビ…」
そんな悩ましい目で見上げてこないで下さい、理性決壊ギリギリ。
「んん…」
指で奥のほうを刺激されて、相当気持ちが良かったのか、神田が腰を浮かせる。
ぞくりと背筋に電流が走り、こくりと唾を飲み込んだ。
「ごめんユウ、もう我慢できんさ…!!」
「あっ…」
濡れた指を引き抜き、代わりに自分を押し込んだ。
「ひぁっ…ああぁあ…ッ!!」
締め付けられ、それでも中に入りたがったそれが、腰を押し進めさせる。神田が苦しそうな顔をしているのは分かったけれど、もう止める余裕がどこにもなかった。
「ん、んんっ! ラビ…ラ、ビ…っ」
「息、吐いて…ユウ…」
「あ…ふ」
流れ落ちる涙を舌先で拭い取って、抱きしめる。せめて少しでも負担を減らそうと、神田を愛撫した。
「ん…ふ…平気、だか、ら…ラビ…」
「ダイジョブ…? オレ、かなり余裕ねぇンだけど」
「いいと…言っただろう…もう訊くな…」
「愛してるさ…ユウ」
口づけた後でせわしなく、動き出す腰。
部屋にはもう、濡れた音と、喘ぐ神田の声。そしてふたりの吐息。あとはベッドの軋む音。
明日も生きたい。
明日もこの人と生きていたい。
キスして
ここで
抱きしめて
果てるまで
微笑みを
翌朝。使い物にならなくなったふたりは、一日の大半を、ベッドで過ごしたとか、過ごしていないとか…────
#R18 #両想い #誕生日 #ラビユウ
指先
抜けるような、青い空。
こんな晴れた日は、二人で出かけるのもいいと思ったけれど。
「暑くねえか?」
「そりゃ、暑いさ」
なんと言っても夏の一歩手前。日差しも暑いし風も乾いてる。
窓の外に広がってく青い空を、二人して見上げた。
「あの雲なんか、ホントもこもこしててアツそうじゃんね?」
指したラビの指先に、ユウの視線が動く。
指した雲ではなく、その指先に。
「ユウ?」
自分の手を見下ろし、そしてまたラビの指先に、瞳を映す。不思議がったラビが、ユウの名を呼んだ。
「オマエの指って、結構太いんだな」
自分のとはまるで違う、と放ったユウの言葉に、ラビは苦笑。
「待って待ってユウ。それ絶対自分基準に考えてるっしょ~?」
オレのは普通さ、と右手を広げてみせる。太い関節が男らしいと、思った。
「ユウの指が、細いんさ」
「そんなことねえだろ」
いや違う、違わない、と双方引き下がらない。こんなケンカは犬も食わないだろう。
「だったら今度、コムイやリーバーと比べてみるといいさ。アレンだとまだまだお子さまだしなー」
「バカヤロ。どっちにしろ年齢合わないだろ、比べようがねー」
そうだそういえば、年齢が同じなのはお互いしかいないんだ。
この人が唯一だったんだ。
「ユウの手はイノセンスを操る大事な指さ。この指が、六幻を発動させる」
「お前だって変わらないだろ、エクソシストなんだから」
この手が世界を救う。そしてこの手が自分を堕とす。
「ユウの手、好き」
「お前の手は、心地いい」
二人、手を重ね合わせた。指先を合わせ、離し、そして絡ませる。
きゅうと握り合った手は、やっぱり熱かった。
二人きりの部屋ではこれだけじゃ物足りなくて、お互い苦笑を漏らす。
引き合わせた口唇は、どこからか入り込む風で乾いていた。
「ん…んぅ」
「ユウ…」
指を絡み合わせたままで交わす口づけは、いつもより意識を麻痺させる。
「ねえユウ…外で熱くなるより、ここでアツくなろ…?」
口唇を離した隙に漏れる誘い文句。言わせてしまったら最後、だ。
「てめ、責任もって浴場つれてくつもりなんだろうな?」
だからたまにはそんな風に甘えてみたり。
「おやすい御用さ、ユウ」
愛してる、と囁く声が、高い空に抜けてった。
#ラブラブ #ラビユウ
果てるまで微笑みを
なんでこんな時に任務なんかあるんさ
そう叫んで部屋に走りこんできたのは、確か昨日のこと。
任務は突然やってくるものだろう、学校じゃないんだからと説いたのも、確か昨日のこと。
普段を見ている限りでは、しぶしぶ任務に就いている風ではなかったと思う。それがその日に限って、本当に恨めしく思っていたようなのだ。
突然言い渡された任務と、それを言い渡したコムイ・リーを。
「今回はどこなんだ?」
ベッドの上で六幻の手入れをしながら、ふてくされたラビに訊いてみた。ノックもせずに部屋に入り込んでくるのは、まあいつものことで。恋人同士という間柄のせいか、神田もそれに対して何かを言うつもりはなく。
「んー、ドイツで2件ほど」
「2件もか? 別の部隊組んだ方が」
「近場なんよ。それが」
別部隊組む余裕なんて、今の教団にはないっしょ、とため息をつくラビに、まぁそれもそうだと神田は天井を見上げた。エクソシストは不足していて、イノセンスも全然集めきれてなくて、イノセンス回収の一報が入るとそれはもう、教団が揺れるほど歓声が上がる。
任務がある、というだけでもありがたいことだったのだ。それは、必ず先へと繋がっているのだから。
「無茶すんなよ、ラビ?」
だからこそ、ラビが任務に乗り気でない理由がどうしてもわからなかった。いつもであれば、それこそ率先して任務に就くこの男にして、
「行きたくねーさ…」
この言葉。
いったいなにがあったのかと心配にさえなってしまう。不審に思って身体ごと振り向くと、強い強い力で抱きしめられた。
「なっ…」
付き合い始めてもう2年。だけどいきなりのスキンシップには今でも慣れなくて、身体中の細胞が騒ぎ出す。
「………」
「…、ラビ? どうし」
神田を抱きしめたまま黙りこくったラビに、どう声をかけていいものかと思った矢先。
「よし、補充完了さ~!」
「は?」
グッと両肩を掴みバッと身体を離す。文字通り、突然に。さっきまでの消沈した声とは打って変わっていつも通りの。面食らう、というのはまさにこんな風なのだろうか。
「ユウ、オレもう出なきゃいけないんさ」
「あ、あぁ? おお」
らしくなく外れた反応。実際ラビが何をしたいのかわからなくて、読み取れない自分が悔しくて、そんなことを思ってしまった自分に戸惑った。
「ユウ、オレさ、明日中には帰ってくるから。遅くなるかもだけど、絶対帰ってくるからさ。だから」
正面から見つめられる。灰色がかった綺麗な緑に自分の姿が映っていて、なぜだか酷く安堵した。
「だから起きて待ってて」
そう言って口唇に軽くキスをし、背を向けたのも確か。
「……おかしかったな、昨日は」
神田はひとり、第3書庫室。陽当たり悪く他の書庫より若干狭いせいか、この書庫を好むものはあまりいない。実際神田だって、好んでこの書庫には来ない。というよりは、書庫自体あまり用がない。知識は必要だと思っても、古びた紙面に所狭しと並べられた文字を追うのはとても疲労する。
それでもココに来るのは、恋人と呼んでいる存在が入り浸っている場所だから。
呼び方が【キサマ】から【オマエ】に変わって、【ジュニア】から【ラビ】に変わるまでは、そう大して時間を要したとは思わない。
同い年というオブラートに包まれて、同性同士という背徳は目に入らなかった。それを押しのけてでも、傍にいたいと思ってしまった。
「………」
きっと想う力は自分の方が大きい。一方通行でないことはわかっていても、こんな風に離れていると、時おりアクマがやってくる。
────××してあげましょうか?
ああそんなことできるはずもないのに
共にいきたい
道はないのに
あの腕が欲しい
繋がれているのに
自分にあまり先がないことは解っている。神田はふ、と自嘲気味に息を吐いた。ラビが好んで読んでいる書物に自分はやはり入り込めなくて、手にしたそれをまた棚に押し戻す。
不意に鳴る、無線ゴーレムの無粋な。この静かな書庫室にしてこの音は、あまりにも不釣合い。神田はチッと舌を打ちながら応答を返す。
「任務か?」
ゴーレムに入電してくる人物はふたりしかいない。指令を言い渡す室長か、いちばん近しい人物か。そしてそれは私用で使うべきものではないがために、大抵、前者だった。
『そう。ごめんねこんな日に。司令室来てくれる神田くん?』
いつもと変わらない言葉、変わらないやり取り。ただどこか、声が遠慮がちだっただけで。
「…わかった」
不審に思いながらもそう答えを返し、神田は書庫室を後にした。
言い渡された任務は断れない、のが哀しいところ。神田は任務を受け、軽く息を吐いた。コムイからは、割と近場なんだけれどと言いながらもチュニスでのアクマ討伐及びイノセンスの確認・回収を命じられ。
「ああ、お疲れ様神田くん。結構ギリギリだったね」
任務を終えて戻ってきたのは、日付が変わる、少し前。
「ギリギリ?」
「ごめんねぇ、せめてこんな日くらいゆっくりさせてあげたかったんだけど」
帰還中に仕上げた報告書を手渡す神田に、申し訳無さそうに息を吐くコムイ。コムイといいラビといい、今日は何かあったんだろうか。
起きて待っていて欲しいと言われたにも関わらず、急な任務が入ってしまった。
だがコムイがラビとの約束を知るはずはなく、自分に気を遣う必要はない。
「何、言ってんだ?」
心の底からの疑問符を口に出すと、コムイの方が不思議そうな顔をした。
「…いいの? 神田くん。【今日】は後もう5分もないけれど」
「あ?」
「だって今日、誕生日じゃない」
「────」
す、と息を呑んで、止めた。いや、飲んだ息が、止まった。ゆっくりと瞬いた瞳が、泳ぐ。
チッと舌を打ち踵を返した時には、もう日付変更、3分手前。荒々しく閉ざされたドアに、おめでとうとコムイは小さく呟いた。
自分の足がこんなに遅いと思ったのは初めてだ。教団の廊下にカツカツと鳴るブーツ。心臓の音と重なって、とんでもなく煩わしかった。
日付変更あと2分。
あと1分、せめてあと10秒。12時の鐘は鳴ってくれるな。
せめて。せめてせめてあと少し。
「ラビ!!」
向かったのは、自分の部屋だった。絶対そこにいると思った。だけど勢いのまま乱暴にドアを開けたことをここで後悔。
「……っ」
その人は、眠っていた。
ベッドサイドの机に突っ伏して、疲れた顔を晒していた。
「ラビ…」
ドイツで2件、なんて任務を無理にこなして、こんな疲れた顔をしてまで、【今日】という日に帰ってきたがった理由を、気がつけなかった。
「…ラビ…」
鳴り響く、24時の鐘の音。神田は口唇を噛み締めた。額に流れたオレンジの髪をふわりと掻く。そのかすかな変化に、ラビの身体が蠢いた。
「ん…」
パッと引っ込めた手がいけなかったらしい。ことにエクソシストは気配に敏感だ。ラビがガバッと身体を起こした。
「え、あ、ユウ!? オカエ…っていうかオレもしかして寝てたさ!?」
その反動でか、バサバサと数枚の紙が落ちる。何事か調べ物をしていたらしく、机には数冊の本と紙と、ペン。
「…ラビ」
「オカエリ。良かったさ、帰ってきてくれて。任務オツカレさま」
にこりと笑うラビ。だけどもう、6月6日は過ぎてしまった。逢いたかった【今日】は【昨日】に変わって、意味なんて失くしてしまったのに。
それでもその人は笑っていた。
「悪い……間に合わなかった…」
俯いた神田にラビは首を傾げ、小さな置時計を覗き込んだ。長針は12を少し回り、6月7日を告げている。
「忘れてた……自分が生まれた日なんて…」
「大丈夫さ、ユウ」
神田が俯いている理由を悟り、ラビはその置時計に手を伸ばした。
「…ほら」
キリリ、と左にずれた長針が10を指す。それを神田から見えるようにコトリと置き、腰を抱いた。
「これでこの部屋だけ、まだ6月6日さ?」
「………バカだろ…」
「だってどうしてもユウに渡したいもの、あったんさ~」
はい、と無造作に渡された1枚の紙切れ。ふたつに折られたそれを、神田はただ見下ろす。
「ごめんさ、オレもついさっき帰ってきたばっかで。プレゼント買う余裕、なかった。明日一緒に街行こうさ?」
ゆっくり、かさりと開いた紙切れ。そこにつづられた文字に、神田は瞠目した。
「なん……で」
「よ、読めるさ? 色んな文献引っ張り出してきたけど、難しかったさー」
それは紛れもなく母国の。
ああ何てことだ。顧みもしなかった母国語が、こんなにも。
「発音、違ってたらごめんさ」
ラビは椅子に腰掛けたまま神田の左手を取り、薬指に口づけてこう言った。
「ユウ、えと…誕生日、オメデトウ。ダイスキ」
カタコトながらも、紙につづられた言葉を、そのまま。
神田の国の────言葉で。
「間違って…ないさ? ユウ」
ココ最近書庫に入り浸っていたのはこのせいか。角ばった漢字と少し曲がったひらがなが心に沁みる。口唇が震え、歯がカタカタとぶつかった。
「ラビ……」
「ん?」
「…────抱きしめていいか」
震えた声に、背中に腕を回すことで応えるラビ。導かれるように、神田は身体を動かし、ラビをぎゅうと抱きしめる。
「………っ」
ラビ、と呼ぶ音は声にならない。ただ抱きしめる腕の強さで、心の底からのありがとうを。
「でもこれだけって情けないさ。ユウ、明日街に行こ。何が欲しいさ?」
「…いらねぇ」
充分だ、という神田に、そういうわけにはいかないさ、と膨れるラビ。抱きしめてくぐもった声に、ふたりで口の端をあげた。
「願って叶うもんならな」
身体を離し、神田はラビの左目に口づける。いつもいちばん最初に自分を映してくれる、灰緑の瞳に。
「ユウ?」
「…────オマエとの…続きが欲しい」
保証のない明日。先の知れない命。深くなる想い。やるせなくて背を向ける。それを追ったラビが、ぎゅうと力強く抱きしめた。
「ユウ、来年はI Love Youを日本語で伝えるさ」
もっと勉強するから、と笑うあなたが愛おしい。神田は少し振り向いて、
「それ、言うまで死ぬんじゃねーぞ、バカうさぎ」
「ユウこそ、ちゃんとオレに言わせてね?」
一拍置いて、ふたりで笑う。
合わさった口唇。12で合わさった時計の針たち。
ふたりで、ベッドに倒れこんだ────
#両想い #誕生日 #ラビユウ
アイノアイサツ
ギシリ、とスプリングが軋んだ。
もう、何度目なのかわからない。
「ラビ……もう無理…」
奥深くに若い情熱を放たれて、深く息を吐いた。
「ユウ、そのセリフ今日3回目」
耳元で聞こえる楽しそうな笑い声。そういえば確かに先ほども同じようなセリフを吐いた記憶がある。
その度に口唇を塞がれ、押し込まれた。
「いい加減に…しろよバカヤロ…」
ラビはそんな神田の抗議を聞きもせず、自身を挿れたまま彼の腕を引く。繋がった部分が引き攣れて、快感の混じった激痛が背筋を揺るがした。
「ひっあ……!」
「まだイけるさ…ね?」
「急に動くんじゃね…!! 殺すぞ!」
腰から抱え込むラビを、神田は睨みながら振り仰ぐ。もっとも、潤んでしまった瞳では眼光の威力も半減していたが。
「ん? どうせ死ぬんならユウの手でイきたいさ? なに? 上の口のがイイ?」
ずぐり、と入り込むラビを反射的に締め付け、神田は声を上げる。
「んん、イッ……」
「ああ…ほらユウ…ココはすごいさ? 自分から引き込んでる…上も下も、随分おいしそうに飲み込むようになってるさ…」
背中から回された腕に脚を開かされ、抱え上げられる。耳元で聞こえる荒い息遣いと卑猥な呟きは、神田の羞恥心をかき立てる。そしてそれは、明らかに確信的なものだった。
「ラビ…ちょ…っ無理だって言って…ああ…! あ、あっ…」
「ホラ……そんなに脚開いて」
ぶるる、と横に【違う】と振られる首。パサパサと、長い黒髪が宙を舞った。
「何が違うんさ? オレはちょーっと手で支えてるだけさ…」
「いやっ……だ、そ……な奥…まで…っえ…」
「ユウが引き込んでんの。オレのせいじゃないさ~」
それでも、【絶対違う】と快楽に耐えながら首を振る神田の背を押し、仕方ないなとラビは笑う。
「ユウ、腰上げて」
「ひぅっ…」
首の根元を片手で包み硬いベッドに押さえつけ、上げさせた腰に己の体重を乗せた。
「ああぁっ…」
体勢が変わり、抉られる箇所がずれる。疼いた快感に飲まれ、せめて乱れたシーツに縋った。
「やっぱ中…すごいさ…? ユウの身体…エロい…」
「ひ、あ、あっ、んん、く…ふ、ラビ…もっとゆっく…やぁっ…」
「もっと奥…でしょ? ユウ…」
ギリギリまで引き抜かれ、最奥まで一気に埋められる。慣れた身体とは言え、その衝撃と快楽には耐える、という僅かな理性さえ吹き飛んで。
「あっ…ラビ…ラビぃ…イ…」
腰の前後運動が速度を増す。神田は悦楽に潤んだ涙目でラビを振り向いた。
「ラビ……この体勢……嫌だ…っ」
そうして懇願する。
「オマエの顔見て……イきて…」
「────」
脳天つくようなアイのコトバにノックダウン。上気した頬にふわりと口づけて、神田の脚を持ち上げてゆっくりと体勢を入れ替える。
「ラビ……すき…」
「ユウって朝方意識朦朧としてきた時…嬉しい事ゆってくれるさ…」
だから自分は、何度も何度も、気が遠くなるまでアイを流し込む。
そう言って笑ったラビは、優しく優しく口付けながら、ゆっくりゆっくり、アイを埋めこんだ。
「ん…んんぅ…」
「ユウ────愛してるさ」
そうしてその日何回目かのアイを飲み込むことになって────
「…っていう【夢】ェ、見たんさー?」
食堂で見つけた神田の横に陣を取り、ラビは彼の肩にぽんと手を置く。
「ほぉ…」
ちゃきり、と構えられた六幻にも、欲望の前にラビはひるまず。
「ってことで、今夜はオールナイトさ? いっぱいイかしてやるかんな、ユウv」
「刃で斬られたいか、それとも一幻出すか? 選ばせてやるよさぁ選べ」
「だからイくんならベッドの上がいいさ~」
「貴ッ様あああぁぁぁああぁぁ! 朝からサカんなバカウサギ!!!」
ふたりの声が、食堂に響き渡る。周りの人間はもはや慣れ、それぞれ朝食を片付けるのに忙しい。
これがふたりの朝のアイサツ。
はてさて夜のアイサツは────?
#両想い #ラブラブ #R18 #ラビユウ
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「ユウちゃん。ユウ」
何度目になるだろう、と思った。
ベッドの上で読んでいた書物から顔を上げ、短く吐いたため息は、彼に届いただろうか。
「そんな何度も呼ばなくても、聞こえてる。なんだ、さっきから」
脚の間、背後から抱きしめられて、耳元で呼ばれればイヤでも聞こえてくる。
だけど別段呼んだ後に何をするわけでもなく、ただ抱き込んで、肩に顔を埋めるだけ。髪が首筋に当たって、くすぐったさに身を捩る。
最初呼ばれたときは、1度だけ返事をした。けれども首を振って【なんでもない】と返されて。不思議に思いながらも視線を戻したが、10分経つか経たないかの内に再度呼ばれて、視線だけを返してやった。
それを気にする風でもなく、嬉しそうに笑うラビ。
内心で首を傾げながら書物に集中しようと目を戻したのは。3度目まで。
4回目からはもう面倒で、視線を返すことさえしなくなったけれども。
「ユウ」
「だから、何なんだよ。怒るぞ」
何がそんなに楽しいのかと思うほど嬉しそうな彼を、そう言って振り返る。
「ごめん怒んないで。ただユウの名前呼びたかっただけなんさ」
「…はぁ?」
一瞬、何を言われたのかと思った。大体においてラビの言うことは突拍子もなくて、理解するまでに多少の時間を必要としてしまう。
「ユウちゃんの名前、好き。すごく好きなんさ」
抱く腕が強くなる。普段なんでもないようなことのように呼ばれる音が、感情ひとつで受ける印象がまったく違う。
「ユウ、大好き」
本当に愛しそうに声に出されて、言葉に詰まる。
なんと返してやるべきなのか。
礼を言うには照れくさいし、では名を呼び返してやろうか。それとも不意の口づけで。
「ユウ、っていう音が、世界でいちばん好きになった」
だから呼ばせて?と振り向いたこめかみに、ふわりと落ちる口づけ。先を越された様で何故だか酷く悔しいと感じた。
「ユウ、…ユーウー」
「……」
そして、同時に気づく。
スキだ、と手放しで喜んで呼んでやれる名前を知らないことに。
ラビ、という音の名前は知っていた。昔ジュニア、と呼ばれていたことも知っていた。
ただ、本当の名前は知らなかった。
「俺…、は、お前の名を呼べん」
躊躇いがちに呟いたユウに、ラビは首を傾げた。
「どうしてさ? いつも呼んでくれてんじゃん。ラビ、って」
「それはお前の名前じゃねぇだろ!」
この男は今、その名を名乗っている。だがそれはこの世界に生れ落ちたとき、貰い受けたものではない。
「ユウ…」
ブックマンを継ぐと決めたとき、現ブックマンからもらった物だと聞いたことがある。名前も国籍も捨てて、この男はブックマンとなる生を選んだのだ。
「俺は、お前の国も名前も知らないで…っ…お前のことなんか全然、何もわからねぇ…っ」
「ユウ、ユウちゃんごめん、泣かないで」
そう言って強く抱き寄せると、【泣いてねェ】と強がる言葉が返ってくるのは、いくらか想像できたこと。この人は弱みを見せることを潔しとせず、いつもひとりで耐えている。それをどれだけ悔しいと感じているか、知りもせずに。
「…ユウ、ごめん。オレの本当の名前、ちっちゃい時に売ったんさ」
ビクリと身体が強張ったのが、密着させたそれから伝わってくる。数瞬後に顔を上げたユウを、優しく見下ろした。
「売っ…た?」
「貧しかったんさ、家。だから、売ったよ。名前とか、……右眼も」
声が出て来なかった。自分の家も裕福な方ではなかったが、それでも。
そんな顔しないで、と苦笑が零れ落ちてくる。なんでもないことのように口にされたことが、思いのほか衝撃だった。
「オレの名前は今、誰かが使ってる。だからオレがそれを名乗ることはできないんさ」
ごめんね?と微笑まれて、湧き上がってくる感情を抑えきれず、思わず顔を逸らした。こんな自分は見られたくない。
「ユウ? ごめんイヤな思い、させちゃったさ?」
「触んなっ…」
引き寄せた腕をパシリと払い、身体を遠く離す。彼が寂しそうな顔をしたのはわかっていたけれど。
「今俺に…触んじゃねぇ…っ」
こんな感情に巻き込むべきではない。こんな感情を持った自分に触れていて欲しくない。
こんな。
「ユウ、どうしたんさ?」
「………っお前の、名を…! 顔も知らない誰かが使っているのかと思うと……っ腸が煮えくり返る……!!」
こんな感情が自分の中にあったのかと思うと、嘔吐感すら沸きあがってくる。
自分が知らない名前を、【そいつ】は知っている。
嫉妬というには激しすぎて、憎しみというには少々幼すぎた。
自分の身体を抱きこんで、せめてこれ以上感情が流出しないようにと息を止める。
「ユウ」
「だ…から、触んなって…!」
尚も抱き寄せようとするラビと、逃れようと身を捩るユウ。ふたりの重みを受けて、古いベッドはぎしりと嘆いた。
「んっ…!?」
力任せに抱き寄せた、彼の口唇がユウのそれを奪っていく。
勢いにのけぞって、苦しさに息を漏らした。
「ん、んむ…っ…ぁ、ふ」
舌を差し入れて奥の方まで貪って、逃げ惑うユウを強く強く抱きしめる。
「ユウ」
口づけの合間に小さく囁いて、愛しそうに吐息を分け与える。
「ユウ、オレの名前、呼んで?」
解放されたユウは荒い息の中ラビを見上げて、人の話を聴いていなかったのかと目を細めてみたけど。彼はそれでも愛しそうに見下ろしてくるだけだった。
「ユウは、オレのことなんて呼びたい?」
「は…?」
そんな言葉が返ってくるとは思わなかった。
なんと呼びたいか。そんなことを考えて名前を呼んだことなど一度もない。ただその【名前】というのが脳の奥にあって、自然と口から出てしまうだけで。
「ユウちゃんの好きなように呼べばいいさ? だいたい名前なんて、自分で好きに決めれるもんじゃないんだし」
それはそうだ。生まれ落ちた時にたいていは親から名づけられるもので、自分で選べるものではない。
「ユウちゃんに呼んでもらえるんなら、なんだって幸せ」
ぎゅうと強く抱きしめられて、黒く渦を巻いていた負の感情がふしゅりと薄れてく。
そっと背中に腕を回し、肩に頬を預けた。
「……うさぎ…?」
小さく呟いたつもりだったが、彼にはやはり届いてしまった様で、くすりと笑う声が耳に入った。
「うん、ユウちゃんにそう呼ばれンの、好き」
では他にどんなものが好きだろうかと口唇を動かす。
「…ジュニア、とか」
「懐かしいさ~」
普段呼びなれないその音は、自分にも新鮮なもので。ふたりしてくすくすと小さく笑った。
「じゃあ……バカ」
「…………それは、あんまり、嬉しく、ない、けど」
うぅんと唸るラビがなぜだか可愛らしく思えて、だけどこれでは自分の呼びたい名前になってくれない。ユウはゆっくりと身体を離し、正面からラビを見つめなおしてみた。
「ユウちゃん?」
不思議に思って首をかしげたラビの口唇に、ちょんと小さな口づけひとつ。
その口唇の先で、呼んだ。
「……Lavi…」
呼んで口唇を覆うと、強く肩を抱かれて押された。
ベッドの上に僅かに跳ねた身体を、ラビが衝撃をやわらげてくれる。それを知ってもう一度、彼に口づける。合間に呼ぶ【彼の名】が、次第に深くなる口づけの中に消えてった。
「La……vi」
愛しそうに呼んでやったら、吐息と共にユウと囁かれ、嬉しくて抱きしめた。
心に残る、音、あなたの、【名前】────
#両想い #ラブラブ #ラビユウ