華家
-HANAYA-
好きなものを好きな時に
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No.222
NOVEL,銀魂,高桂 2016.06.26
#3Z #両想い #ラブラブ #誕生日
きっと、何をやっても喜んでくれる。ありがとう晋助って言って、嬉しそうに笑ってくれる。アイツはそうい…
NOVEL,銀魂,高桂
favorite いいね ありがとうございます! 2016.06.26 No.222
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きっと、何をやっても喜んでくれる。ありがとう晋助って言って、嬉しそうに笑ってくれる。アイツはそういうヤツだ、と高杉は恋人の笑顔を思い起こして口許を緩めた。
もうすぐ恋人の――桂小太郎の誕生日だ。しかもつきあい始めて最初のともなれば、大事なイベントになる。
何をプレゼントしようか。
携帯のケースか、それとも財布か、ベタにペアのマグカップか。いつも使ってもらえるようなものがいい。使うたびに自分を思い出してもらえるようなものがいい。
その光景を想像すれば、男ひとりでこんな雑貨店にいる恥ずかしさも我慢できる。いや、それどころか嬉しいとさえ感じてしまうのだ。
「あー……どんだけ好きなんだよ、俺……」
桂への想いは結構前から自覚していて、嫌われてはないだろうなあと思いつつ告げたその恋心に、桂は応えてくれた。
叶うまでは、恋人になれたらいいなあくらいにしか思っていなかったのに、叶ってしまえばどんどん欲張りになっていく自分を知って、嫌われやしないだろうかと悩んだこともある。
そのたびに桂は、こともなげに全部受け入れて、受け止めてしまうのだ。
そんなとき、高杉は自分がひどく子供のように思えてしまう。
高校生ということを考えれば確かに子供で間違いないのだが、桂には一生敵わないのだろうと思うのだ。
初めてキスをした時だって、何も言わずに押し倒した時だって、恥ずかしそうに目を瞬きながらも笑ってくれた。好きだぞ、と言ってくれた。思い出すだけで胸が締めつけられる。
いつか桂をちゃんと包み込めるような男になりたい。それまで待っててくれるだろうか。
そう思いながら、ハートのイラストが描かれたペアカップを手に取った。
「これはいくらなんでもアレだろ……」
これを桂が使うのはよしとしよう。正直いって、可愛い。ピンクのハートの上を歩く子猫なんて、可愛すぎる。イラストがじゃなくて、それを持つ桂がだ。きっと指先でツンとつついて、嬉しそうに使うに違いないのだ。
しかしペアということは、一緒に使うのは高杉だということだ。そのほかには許さない。
だがしかし、これを自分が使うのは御免被りたい。こういう可愛らしいのは、桂が使ってこそ映えるのだ。
ペアというのは惹かれるが、もう少し落ち着いた柄の物がいい。せめてこのハートがもう少し小さかったり、静かな色だったらいいのに……と棚に置き直す。
その隣には、兎だか犬だかが飛び回っているカップ。その隣には、英字だらけのカップ。何が書いてあるのかは面倒で読んでないが、ペアカップというのだから甘いラブストーリーでも綴ってあるに違いない。
デカデカと描かれたハートマークよりはいいけれど、どうもしっくりこない。カップでなく、他の物を選んだ方がいいだろうか。
――――桂に欲しいもの訊いた方が早いかな。でも……サプライズってやつやりてーしなあ……。
彼の本当に欲しい物を贈ってやるのがいちばんなのだろうが、内緒にしておいて、驚かせてもやりたい。桂はきっと目を見開いて、次にぱちぱちと瞬いて、泣きそうに歪めてこっちを見て、ありがとう嬉しい、と笑ってくれる。
――――か わ い い。
高杉は口許を押さえて項垂れた。妄想だけでこんなに胸が鳴るなんてどうかしている、とは思うが仕方がない。相手が桂では、可愛いと思うしかないのだ。
――――落ち着け、俺。桂相手に可愛いとか何言ってんだいや可愛いんだけどよ。めちゃくちゃ可愛いんだけどよ。今はそういうこと考えてる場合じゃねえんだって。
ふう、と深呼吸を一度。早いところ決めてしまわないと、買う機会がなくなってしまう。そうそう何度も、今日は用事があるんだなんて、桂を置いてもこれないだろう。
いつも一緒に帰っているのに、頻繁にこんなことをしていては、怪しまれる。いっそもうバレているかもしれない。
決めた、今日ここで何か買っていこう。そして明日は一緒に帰るのだ。
今日だって学校が終わった後に教室を出ていく時、桂が寂しそうな顔をしていたのだ。あんな顔、させたくない。何より自分も寂しくてたまらない。
――――桂……。
逢いたいなあ、なんて考えていると、一組のカップが目に入り込んできた。
薄紫のまあるい花。いや、まあるく花を開かせる、あじさい。薄紫色のそれは、かわいらしさと一緒に凜とした清らかさを物語っている。
桂みたいだ、と「以前」も思ったような気がする。いったいいつだったか思い出せないのに、そう思ったことだけ覚えている。
いつだっけ、と思い出すのはもう諦めて、高杉はそのカップを手に取った。カップをぐるりと一周、あじさいが咲き誇っている。合間に、小さなカエルや小鳥、子猫が雨宿りでもしているように隠れ込んでいるのも好ましい。
そして、これと対になっているカップがあった。
いや、ペアというよりはコンセプトが一緒といった方がいいのだろうか。こちらはあじさいの上を蝶がひらひら飛んでいる。羽根を休める花を探しているのか、ただ眺めているだけなのか。
――――ふぅん……。
これならいいかな、と高杉は二つのカップを手に取ってじっと眺めてみる。可愛らしすぎず、寂しくもない。
「……これにしよ」
一目で気に入ってしまったというと大げさだが、これ以外に何を選んでも、後悔しそうだった。
これにリボンをかけてもらおう、と高杉の頬が緩む。傍にあった、猫の形をしたティースプーンを二本付け足して、レジへと急いだ。
「今日は一緒に帰れるのか?」
金曜日、学校の授業が全部終わってすぐ、桂が高杉を振り向く。今日は帰り支度を急いでもないようで、ホッとしたような表情が見えた。
それに気がついて、ああやっぱり寂しがらせてたのかと、なじりたい気分にさえなる。
「あァ、帰ろうぜ桂」
だけど、悔やむより先に、この大事な恋人を安心させてやりたい。ゆっくりと帰り支度を整えながらそう呟くと、パッと嬉しそうな顔に変わる。
破壊力がスゲェ、なんて思うのは高杉ひとりで、頭を抱えたくなるのも高杉ひとりで、教室では他の誰も気に留めてはいやしない。
あの顔を向けるのは高杉にだけだという事実を知らずに、誰にも見られてなくてよかったと胸をなで下ろすのだった。
「晋助、ここ最近の用事は、もう終わったのか?」
「ん、あァ、まーな。寂しかったかい」
「別に」
ふたりで雨上がりの道路を歩きながら、桂がそわそわと訊ねてくる。くくっと笑いながら返してやると、面白くなさそうにふいと顔を背けられた。まったく嘘が下手だ、と思いつつ、嬉しい。
桂の全身から、寂しかったというオーラが放たれている。
可愛いな、とそっと指先を触れ合わせると、小さく、本当に小さく、さびしかった、と返ってきた。
「悪かったな、桂。……詫びと言っちゃあなんだが、明日と明後日、お前を独り占めできねーか?」
「ん? いいぞ? どこか出かけるのか?」
「出かけてもいーし、家でのんびりしててもいいし。お前はどうしたい?」
明日と明後日は休みだ、寂しくさせてしまった分、桂の要望を叶えてやりたい。そしてなにより、日曜日は彼の誕生日。いちばんはじめにおめでとうを言いたいのだ。
「晋助と一緒なら、どっちでもいいな」
しかし喜ばせてやりたかったのに、こちらが被弾してしまう。高杉は口を覆って、顔を背けた。
――――アホか。アホかこいつ、可愛い。
何を言ったのか自覚しているのかさえ怪しいが、惜しげもなくくれる想いに、少しでも返したい。幸せをくれる彼に、少しでも幸せを感じてほしい。
「じゃあ、デートしようぜ。動物園でも水族館でも映画館でも、ネコカフェでも――」
「ネコカフェ」
高杉は、 そうやってデートの定番を挙げていく中で、即答してきた桂に一瞬言葉を止めて、ついでブハッと噴き出した。
どうも桂は毛玉というかもふもふしたものが好きなようなのだ。だからこそもふもふがたくさんいる動物園だとか赤ちゃんぺんぎんのいる水族館だとか、もふもふの出てくる映画が観られる場所だとかを提案してみたのだが、やはり直接触れられる方がいいらしい。
「わ、笑うな晋助、ねこちゃん可愛いだろうが」
「いや、別におかしくて笑ったわけじゃ、ハハッ、やべ、止まんね」
一七五センチといった標準より少し高めの身長で、【ねこちゃん】とは恐れ入る。そのギャップがたまらなく可愛くて、愛しい。自分の前で、何も飾ることなくいてくれる桂が、愛しくてたまらない。
「晋助っ」
「悪い悪い、んじゃ、ネコカフェな。どっか良さそうなとこ探しとく。あとは? 行きたいとことかねーの」
いつまでも笑っていると、桂が不機嫌そうに諫めてくる。さすがにこれ以上はマズイかなと我慢して、高杉は機嫌の降下し始めた桂の手をきゅっと握りしめた。
「……すぐには……思いつかない……。本当に、晋助と一緒にいられるなら、それでいいんだ……」
「桂?」
「あ、あの、明日までに考えておく、から。それじゃ……駄目か?」
どこか戸惑っているような、そわそわと落ち着かない様子で、桂が告げてくる。
本当ならこのまま部屋に連れ込んでしまいたいところだが、明日から独り占めできるのだ。我慢しようと、高杉は子供っぽくだだをこねないように口許を緩めてみせた。
「あァ、いいぜ。どこへでも、連れていってやるよ」
「ん、じゃあ一生懸命考えておくから」
そうして桂の家の前に着いてしまう。ここから数歩進めば高杉の家。ほんの少しの距離、ほんの数歩しか離れていない距離で、いつも一緒にいた。
これが恋だと知ったのは、そういえばいつだったっけ、と考えて、高杉は桂の手を放す。明日の待ち合わせ時間を決めて、玄関の前でいつものように別れた。
普段よりほんの少し気合いを入れてめかし込んだ。ら、桂の方もめかし込んできていて、互いに頬を染めてしまう。どうにも、自分のためにそうしてくれることが嬉しいのだ。
「お、……はよ、晋助」
「……おはよ……。なァ、なんで顔赤いの」
「あっ、赤くない! 晋助の方じゃないか、赤いの!」
赤くない、赤い、冗談言うな、そっちこそ、なんて言い合いながらも、自然と手が重なっていくのはすごいことではないだろうか。
そうしてふたりは、ひとまず電車に乗って街へ出た。高杉がチェックしてくれたネコカフェに向かうと、開店前の店先に二組ほど先客がいる。開店を心待ちにする客がいるほど良い店なのだろうかと、そのあとに並んだ。
「ドキドキするな」
「お前の百面相見てる方がおもしれー」
「なんだと」
そうこうしているうちに、開店時刻になったようで、ドアが開く。前に並んでいた客達は常連らしく、スタッフとにこやかに挨拶を交わしてフロアに入っていった。
二組を迎え終わって、スタッフが高杉たちの前にやってくる。当店のご利用は初めてですかと訊ねられ、ふたりはそろって首を縦に振った。この店どころか、ネコカフェに来ること自体が初めてだったのだ。
店のシステムと注意事項を説明され、手を消毒され、ではフロアへ、と案内される。
十畳ほどはあるだろうか、と思うその空間に、猫が十数匹。小さいのから小さくないのから、さまざまだった。柄も、茶トラやぶち、三毛、サビ、いろいろ。
猫なんてどれも同じだと思っていたけれど、こうして見てみると個性があるのだと気づく。
「し、晋助、晋助っ、ねこが! ねこちゃんいっぱい……いる……!」
「……あたりめーだろ、ネコカフェなんだから」
桂は目をきらきらと輝かせて、はわあああなんて奇妙な声を上げながら、フロア内の居心地が良さそうなところで座り込んだ。
そろそろ暑くなる季節だからか、さらさら素材のシートの上に寝転ぶ猫の背中を、そっと撫でてみている。
「し、晋助ぇ……可愛い……」
泣きそうな声を出す桂を見て、お前の方が可愛いンだけどなどとは口に出さずに、隣に腰を下ろす。
嬉しそうに猫を撫でる桂と、撫でられて気持ちよさそうな猫。それでまた桂の顔がほころんで、ふわふわと気持ちが浮き上がっていく。
――――ここにして良かった。
口コミを見て選んだ店だったけれど、店の雰囲気もスタッフの対応も悪くない。何より桂の嬉しそうな顔が見られた。
「なんか飲む?」
「あ、カフェオレがいい」
フリードリンクというのもありがたい。自販機のボタンを押せば、フタ付のドリンクができあがってくる。それを桂に手渡してやるが、猫を撫でるのに夢中らしくて、笑ってしまった。
「かーつら、飲んじまうぞ」
「えっ、あっ、あ、駄目……」
慌てて手を伸ばしてきた桂の膝に、猫の前足がかかる。撫でる手がなくなったことにご立腹なのかと思いきや、猫はそのまま桂の膝に乗り上げてきてしまった。
「え」
楽な体勢を模索し、体を丸めてくつろいでしまう猫に、桂は驚いてしまう。こんなに無防備なものなのかと。
「し、晋助、どうしよう、猫ちゃん……膝に」
「好きにさせとけば? 抱っこは禁止って言われたけど、膝に乗ってくんのは別だろう」
「そ、そうか……」
にゃあーと桂の膝の上で猫が鳴く。言葉にならなくて、桂は高杉のシャツをつんつん引っ張った。分かった分かった、と呆れつつも、これだけ嬉しがってくれる桂を、やっぱり可愛いなんて思う。
「あらあ珍しい、その子あんまりお膝とか乗らないんですよ。シンちゃんごろごろいっちゃって……嬉しそうですね~」
スタッフが、そんな桂たちに声をかけてくる。ふたりで、え、と言葉を飲んだ。
「こ、この子、シンっていうんですか?」
「ええ、あ、あそこにみんなの写真と名前書いてあるので、良かったら呼んであげてくださいね」
スタッフはそう言って壁を指さす。そこには確かに猫の写真と、特徴、そして名前が表示されていた。桂の膝でごろごろ喉を鳴らしてくつろいでいるのは、シンというオス猫らしい。
桂の視線が、顔ごと高杉を振り向く。それを受け流すように、高杉も顔ごと視線をあさっての方向に向けた。
「そうか、シン、俺のことを気に入ってくれたんだな」
それを面白そうに笑い、猫を撫でる。心地よさそうに足をぴんと伸ばし、もっと撫でてと言わんばかりに顎を突き出すシンに、桂は応えてやった。
シン、と呼ぶ桂の声は優しすぎて、高杉はいたたまれない。
別に自分を呼んでいるわけではないと分かっているのに、気恥ずかしい。そして少し羨ましい。そんなに優しい声を投げかけるのは自分相手だけだと思っていたのに、その毛玉にも向けんのかい、と小動物相手にヤキモチをやく自分が情けなくてみっともない。
そんな高杉の前に、一匹の子猫。じ、とこちらを見ているが、猫の気持ちなど分かるはずもない。分かりそうな桂を振り向くも、シンを撫でるのに忙しそうである。
高杉は携帯端末を取り出して、猫との触れ合い方なんてあんのかねぇと検索しようとした。
にゃあん、にゃん、にゃー。
「あ?」
すると、その猫がてててと駆けてくる。
「おい、こら」
子猫がその端末につけたストラップにじゃれついているようで、ちゃりちゃりと、パーツがぶつかり合って音を立てた。高杉はフロアを見渡し、傍に片付けてあった猫用の玩具を手に取ってみる。
にゃあん!
取った途端に飛びついてくる子猫。猫ってこんなに俊敏なのかと驚いてしまう。左右に、上下に振ると、ちゃんと追ってくる。
ててててて、てててててっ、ててっ、ててっ。
軽快な足音が耳に届く。追いつかなくて体勢を崩すことはあっても、すぐに飛びついてくるのだ。
「コタロ-、お兄さんに遊んでもらえていいねー。ふふ、はしゃいじゃって」
さっきとは別のスタッフが、母親目線で声をかけてくる。またふたりで言葉を失って、高杉は噴き出した。肩を震わせて笑う高杉をぺしぺしと叩き、桂は顔を真っ赤に染めた。
「いいじゃねーか、可愛いぜ? コタロー」
「どっちに言ってるんだ」
「どっちも」
「馬鹿」
そんな風に猫と遊び、猫を撫で、時には背中に乗っかられ、ちょうどご飯の時間だったらしくガツガツとむさぼり食べる様子を眺め、気がつけば入店してから二時間も経っていた。
「まったく恐ろしいシステムだぜ……時間忘れてた」
名残惜しそうな桂を、腹も減っただろと促して、初めてのネコカフェをあとにする。
「あっという間だもんな、時間過ぎるの……」
こんなに長居するつもりはなかったんだが、と思ったが、自分たちと一緒に入店していた二組のうち、一組はまだ店にいたから、特におかしなことでもないのだろう。
「また来たいな」
「そうだな。ひとまずメシ食いに行こうぜ」
そうして昼食を取る間に、次はどこに行きたいのか桂に訊ねてみた。一生懸命考えると言ったのだから、普段行かないようなところなのだろう。
「ん、ここなんだけど……」
照れくさそうに、桂が携帯端末でその場所を示してくる。高杉は驚いた。時間があれば一緒に行こうと思っていたところだったのだ。
「見頃は過ぎてるみたいだけど、それでもまだ咲いてるだろうし、一人じゃちょっとな……」
そこは、あじさい園。毎年、開花の時期にはたくさんの来園者がいるらしい場所だ。前から気になっていたんだけどと桂は付けくわえてくる。
高杉は笑ってコーヒーを飲み干し、携帯端末でブラウザの検索画面を示してみた。今度は桂が驚く番。
「前から気になってたんだけど」
桂の言葉をそのまま真似て、口の端を上げる。桂も、嬉しそうに笑ってくれた。
電車で移動しなければならないところだったが、ふたりでいれば移動時間も楽しい、嬉しい、幸せ。途中で妊婦さんとその伴侶らしき相手に席を譲り、数駅を電車に揺られて過ごした。
「花を見にいくなんて、初めてだ。晋助と一緒だと、初めてがいっぱいあるな」
「まァ……確かにわざわざひとりでは見に行かねーかな」
これからもきっと、色んな初めてを一緒に経験していくのだろう。初めてのふたりきりでのクリスマス、初詣にバレンタイン、ホワイトデーは外せない。そして、なにより初めてふたりで過ごす、誕生日。
明日はどんなわがままを聞いてやろうか。考えるだけで楽しくて、この恋が叶って良かったと思わず口許が緩んだ。
そうしてあじさい園に着けば、親子連れがたくさんいる。カップルもちらほらといったところだ。入り口でマップを渡されて、それぞれ雅な名前のついたコーナーを順に回っていくことにした。
「あじさいってこんなに種類があったのか」
「確かに形が違うな。あ、カタツムリ」
「え、どこ」
葉っぱの上でどっしりと構えているカタツムリや、ぴょこんと顔を出す小さなアマガエル、花びらについた雫や土の匂い。久し振りに感じたみずみずしさに、二人は思っていたよりゆっくりと歩き回った。
「桂、そこで立ってて」
「え、なに」
「写真」
「恥ずかしい」
「なんでだよ馬鹿。いいからほら、動くなって」
最近の携帯端末はカメラ機能がすばらしい。あじさいの花を背景に、桂を映す。
――――ネコカフェじゃ可愛いばっかりだったけど、ここでは綺麗に見える。
「晋助も」
「俺はいいんだよ」
「よくない。あ、じゃあえっと、一緒に? 自撮りってのできるんだろう?」
「そっちの方が恥ずかし……分かった、分かったって」
む、と口をとがらせる桂に、結局高杉が折れてしまう。あじさいの前で、ふたり並んで写真を撮った。桂を撮ることは慣れていても、撮られることに慣れていない高杉は、少しむずがゆい気分を味わう。
「へぇ、ここって夜はライトアップされるんだな。晋助、今度は夜にも来てみたい」
「綺麗だろうな」
お前が、とは口に出さずに、「また今度、一緒に」を実感させてくれる桂に笑いかける。何をそんなに幸せそうに笑っているんだ? と桂の頬もほころぶ。
幸せそうなのはお互い様だと、自然に重なっていく手のひらの温度を楽しんで、あじさい園をあとにする。
近くにあったカフェでお茶をして、他愛のない会話を交わす。ときおり会話は途切れるけれど、少しの苦痛も感じない。相手が感じている空気を自分も一緒に感じて、周りのざわめきに耳を傾けて、スプーンでくるくると回すコーヒーの渦を眺める。それだけでも、一緒にいられることが嬉しかった。
「晋助、ドーナツ食べたい」
「お前さっきスコーン食ってなかった?」
「だって一〇〇円セールやってるんだ」
「あーはいはい。……あの砂糖ついたヤツもラインナップに入ってるのか?」
入ってるよと、桂は笑う。高杉の好きなドーナツも、ちゃんとセール対象だ。なんだかんだで、たまに食べる甘い物は嫌いじゃない。セールをやっているドーナツ屋へは電車で一駅あるが、腹ごなしにと歩いていくことにした。
たどり着いたドーナツ屋は、セール期間中だけあって混み合っている。イートインでなくテイクアウトにして、紅茶のティーバッグでもどこかで仕入れて、家でゆっくりするのもいい。
「なぁ、俺んち行かねーか? そろそろ歩き疲れてンだろうし。ついでにメシも調達してさ」
「そうだな、途中で何かDVD借りていこう。観たいのあるんだ」
出した提案に、桂も乗ってくれる。ルートとしてはドーナツを買ってDVDを借りて、夕食の調達が妥当だろう。
好きなドーナツをそれぞれ二つずつ選んで、紙袋に入れてもらう。つぶれてしまわないように大事そうに抱える桂が面白くて、高杉は意地悪のつもりでなく口の端を上げた。
帰り道の途中にあるレンタル店で、DVDを借りる。高杉が観たがったアクション映画と、桂の観たがったもの。案の定もふもふした生き物も出てくるらしい。
夕食は、簡単なものなら作れるからと言って聞かない桂の要望を受けて、スーパーで食材を購入した。
買い物袋などを提げて二人で歩いていると、まるで同棲でもしているようだ。
いつかは桂とそうしたい、と思う高杉は、予行演習かなと一人で肩を震わせて笑った。
ご機嫌だなと、桂が不思議そうに首を傾げてくるけれど、何でもねーよとごまかす。
高杉の家に着いて、一休みしてから夕食を作り始める。
本当に簡単な物しか作れないぞと念を押す桂が頑張って作ってくれたのは、ふんわりたまごのオムライス。それは高杉の好きなもので、簡単か難しいかでなく、単純に嬉しかった。
「あ、晋助まだ駄目、終わってない」
「なんで。旨そうにできてるけど」
「だーめ」
これやりたかったんだ、とテーブルの上に並べたオムライスに、最後の仕上げ。
しんすけ♥
とケチャップで書かれた文字に目を見開いて、噴き出した。これがやりたかったなんて、なんて可愛いひとなのだろう。ますます「予行演習」みたいになってきた。
「じゃあ俺も」
そう言って桂の分のオムライスに、こたろう、と書き、大きめのハートマークもつけたした。
傍から見たらなんて馬鹿馬鹿しいやりとりだろう。だけど周りの目なんかここにはないし、桂が恥ずかしそうに笑ってくれたから、そんなの関係ない。
いたただきます、と胸の前で手を合わせ、夕食の開始。
「晋助、今日は本当にありがとう。楽しかった」
「なに、改まって」
「……あのさ、晋助ここ最近変だっただろ。一緒に帰らないし授業中もスマホ構ってなんか嬉しそうにしてるし。授業はちゃんと聞いてろ」
一緒に帰れなかったのは事実だが、授業中のことなんて気づかなかった。確かにここ最近は桂へのプレゼントを探して色々検索していたけれど、変だったと言われるほどだったのだろうか。
「だから、ちょっと……不安だったというか……。他に好きな子とかできたのかもって」
「おい馬鹿なこと言ってンじゃねぇ!」
「うんごめん。今日一緒にいて、ちゃんと晋助が俺を好きでいてくれてるの、分かったから」
失敗した、と高杉は眉間にしわを寄せた。まさかそんなことを思わせていたなんて、想像もつかなかったのだ。
「悪い、お前がそれ不安になってんの分かんなかった……。そういうの、絶対ねーから」
想いが足りないわけではないと思う。ただ、伝えきれていないのだ。自分の中の想いさすべてを伝えられていれば、こんなこともないのだろうか。
「お前以上に好きになれるヤツなんて、いねーから。何年越しだと思ってんだ」
前から、ずっと昔から、桂が好きで好きで仕方がなかった。いっそ生まれる前からなのではと思うほど、桂にしか視線が向かなかったのに。
「この際言っておくけどさ、桂。大学行ったら、あー、別にすぐじゃなくてもいいんだけど、その。…………お前と一緒に暮らしたい」
もっと具体的にプランを考えて、現実的な問題をクリアできそうになってから、言うつもりだった。
だけど、そんな計画なんてどうでもいい。今は目の前の恋人を、笑顔にしたい。
目をぱちぱちと瞬かせて、桂はふわりと笑顔を向けてくれた。
「じゃあ今日は、予行演習かな」
それはOKの意味でしかなくて、高杉の方こそ嬉しそうに笑う。予定通りの告白ではないけれど、こうして笑い合えるなら、過程は受け入れよう。
「桂、片付けは俺がする。作ってくれたのお前だし」
「え、でも晋助だって手伝ってくれたじゃないか」
「いや皿出しただけだろ。ドーナツの前に風呂入ってこいよ。さっぱりして、ドーナツとDVD、だろ?」
綺麗に平らげた皿を重ねながら、桂に提案する。風呂、という言葉の意味が分からないわけではないだろうが、高杉はあえて、告げた。
「今日、帰すつもりねーから」
途端に、桂の顔が真っ赤に染まる。別に初めてのお泊まりというわけでもないのに、この初々しい反応はなんだろう、可愛い、と染まった頬にちゅっとキスを贈った。
「ひ、ひとりで食べるなよ晋助」
「はいはい分かった、待ってるから」
ひらひらと手を振って、桂を風呂へと送り出す。テーブルの上の食器をキッチンへ運び、そっと洗う。今までこんなに丁寧に扱ったことはあったろうかと思うくらいだ。それほど、桂とのことが嬉しくてしょうがない。
風呂に入り終わって、DVDを2本も観ていたら、多分ちょうど良い頃合いの時刻になるはずだ。高杉はその時に渡そうと、部屋から桂へのプレゼントを持ってくる。
喜んでくれるといい、と綺麗にラッピングされたペアカップをソファの陰に隠して、タブレットで明日のデートコースを検索する。
もっとも、デートに行けるかどうかはこのあとの盛り上がりで左右されるのだろうけど。
――――別に、立てねーくらいするつもりはねぇんだけどな。予定ってのはあくまで予定だしな。アイツが可愛かったら、無茶しても仕方ねぇ。
もしかしたら加減ができないかもしれないという思いを責任転嫁して、桂の好きそうなスイーツを扱う店を探しておいた。
そうして、風呂から上がってきたパジャマ姿の桂にまた被弾して、ひとりで食べるなよとくぎを刺してから、高杉も入浴を済ませることにした。
このままコトを進めてもしまいたかったけれど、どうしても今回はその瞬間を素面で迎えたい。夢中になって、大事な瞬間を逃すことだけは避けたいのだ。
恋を告白する時よりも緊張しているような気がして、風呂場で何度も深呼吸を繰り返す。
今さら緊張するなんて思ってなかった、と最後に大きく息を吐き出して、桂はとことん俺の初めて持っていくんだなあと諦めにも似た喜びで、笑ってしまった。
「あ、晋助、髪ちゃんと乾かさないと駄目だろ」
「んー」
めんどくせ、なんて言っていると、桂がドライヤーを持ってきてくれる。脱衣所に置いてあるのだから、ちゃんとそちらで使ってこいというのに、と文句を垂れながらも、桂が髪を乾かしてくれる。
気づかないのだろうか、こんな時間が好きで、泊まりの時はわざと髪を乾かしてこないことに。
桂の指先が気持ちいい。温風に混じって、鼻歌が聞こえる。ともすればこのまま眠りに落ちてしまいそうな心地よさだが、まさか眠るわけにはいかない。ごまかすように咳払いをすれば、ちょうど乾かし終わったらしくて、桂の手が離れていった。
「サンキュ。戻してくる」
「あ、なあ晋助、どっち先に観よう?」
「どっちでもいーよ」
いそいそと鑑賞の準備をする桂にそう返して、ドライヤーを脱衣所に戻す。普通のマグカップに二人分の紅茶を入れて、リビングに持っていく。日付を越えたら、カップを変えて飲めるだろうか。
そうして、最初はアクション映画を選んだらしい桂の隣に座る。
皿に取り分けたドーナツと、温かな紅茶。面白そうな映画と、隣には大好きなひと。これが幸福でなくて、なんというのだろう。
「アクションっていうから、銃とか剣とか、そういう喧嘩ものかと思ってたけど」
「あー、カーアクションてヤツかな。古いけど、好きな車出てくるんだ」
「ふぅん? どれ?」
「もうすぐ」
そんなことを言い合いながら、画面に注視する。ときおりソファの上で指先が触れ合うけれど、濃密に絡み合うことはない。
二本目のDVDは、映画というよりドキュメンタリーだった。地球の様々な地で生息するもふもふ。明日はやっぱり動物園の方がいいだろうか? とはしゃぐ桂の隣で笑う。
「あ」
そんな風に過ごしているうちに、日付の変更が近づいてくる。高杉は桂の肩を抱き寄せ、なァ、と鼻先をすり合わせた。ふふ、と笑う桂と、額がこつり、ぶつかる。
口唇を触れ合わせて、舌先を絡め合わせて、吸って、閉じ込める。
「ん……」
はあ、と息を吐き出しても、またすぐに触れる熱。ソファの上でお互いを大事そうに抱きしめながら、日付を挟んでたっぷり三分、キスをした。
「……小太郎、誕生日、おめでと」
「ありがとう、晋助……嬉しい」
恋人同士になって、初めての誕生日。いちばん初めに伝えられてよかったと、もう一度鼻先を合わせる。
「あのさ、プレゼント、あるンだけど」
「え、独り占めがプレゼントじゃなかったのか?」
「ちげーよ」
驚いてぴんっと背筋が伸びる桂の頭に、猫のぴんとした耳が見えたような気がしたが、きっと幻覚だろう。
高杉はソファの後ろに隠しておいた包みを持ち上げる。
どうやらバレてはいなかったようで、そんなにわかりやすいとこに隠してたのかと、桂が悔しそうに口をとがらせた。その口唇にちゅっとキスをしてなだめては、テーブルの上にその包みを置く。
「ん、プレゼント」
「ありがとう。あ、開けてもいいか?」
「どーぞ」
桂がそわそわと包みを開けていく。高杉もそわそわと反応を待っている。
「わ……、マグカップ? ふたつも? え? 晋助、もしかしてこれって」
「ペアのだよ。お前がよければ、片方は俺に使わせて」
箱の中に入っていたのは二つのマグカップ。それぞれの取っ手にリボンが結んであって、どう見ても恋人同士で使うもの。さらには、カップに描かれたイラストは、あじさい。
「今日、っつーかもう昨日か。見にいったあじさいそっくりだよな。別にそういう意図はなかったンだけど」
「び、びっくりした……晋助がなにか魔法でも使ったのかと思ったぞ……」
「バーカ、んなわけあるかよ」
桂はふたつを手に取って、部屋の灯りにかざしてぐるりと一周させ眺める。そこかしこに隠れた生き物たちを見つけて、桂ははしゃぐ。特に、やっぱり黒い猫を見つけた時にはふるふると指先を震わせさえしていた。
「嬉しい、嬉しい晋助、ありがとう。こっちのねこちゃんいるヤツ、俺のにしていいか?」
「ハハッ、やっぱりそっち選ぶと思った。じゃあ俺こっちの蝶々な」
「晋助によく似合う。大事に使わせてもらうよ、本当に嬉しい……」
両手で大事そうに抱える桂を見て、高杉は心の底からホッとした。何でも喜んでくれるとは思っていたけれど、本当に嬉しそうに受け取ってくれて、こちらの方こそ嬉しくなってしまう。
「桂。好きだぜ」
はらり、こぼれるように口唇から出た言葉に、桂が目をぱちぱち瞬く。言うつもりではなかった言葉が出てくるなんて、と高杉も少し驚いてしまった。
「もう……、晋助は、……ズルイ」
こてんと、桂が肩に身を寄せてくる。どうもツボにハマッてしまったようで、すりよせられるしなやかな体に、熱が上がった。
頬に手を添えてそっと顔を上げさせると、目蓋がゆっくりと落ちていく。
そのまま口唇が触れる――かと思ったのだが、
「あ、晋助、これで紅茶飲みたい、コーヒーでもいいから、なぁ」
「…………このタイミングお前な……」
すいと躱されて、高杉はがくりと項垂れた。まあ元々、日付が変わったらこっちのカップで飲みたいなと思ってもいたし、高杉は仕方なくソファから腰を上げる。
二つのカップを持ってキッチンへ移動する前に、桂に確認した。紅茶でいいのかと。
「ん、紅茶がいい。砂糖だけ入れて。コーヒーは、明日の朝、……かな」
「モーニングコーヒーってか? でも、今紅茶なんか飲んだら、眠れなくなるンじゃねーの」
そう言いつつキッチンで二つのカップを洗い、ティーバッグを放り込んでお湯を注いでいく。
少なめでいいかなと思ったそこへ、桂のバクダン。
「大丈夫だよ晋助。俺、今夜は眠る気ないから」
二秒ほどその言葉の意味を考えて、高杉は硬い動きで桂を振り返る。何を言っているのか分かっているのかと。
桂はソファの上で可愛く首なんか傾げて笑っている。これはもう確信的なお誘いだろうと高杉は頭を抱え、少なめのお湯で二人分の紅茶を作って舞い戻る。
初めての誕生日と、初めてのペアカップと、初めての桂からのお誘い。
「お前のせいで、加減する気なくなったじゃん」
「ふふ、俺だって、朝まで放す気ないからな?」
中身のなくなったカップが、ことりとテーブルに置かれる。今回くらい、洗い物は後回しにしたって許されるはずだ。
手をつないでリビングをあとにして、階段の真ん中で口唇を合わせる。
はじまりのキスは、紅茶の味がした。
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