No.199

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Ich liebe dich-004-

その他ウェブ再録 2014.02.09

#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い

 イクスアインは、アードライとクーフィアの眼前にすっと手を差し出す。「ハーノインの……遺品だ。私だけ…

その他ウェブ再録

Ich liebe dich-004-


 イクスアインは、アードライとクーフィアの眼前にすっと手を差し出す。
「ハーノインの……遺品だ。私だけが持っているわけにもいかないだろう」
 それはハーノインを飾っていたピアス。それを身につけていた彼の姿が、まだ鮮明に思い出せる。
「いーのかなぁ、裏切り者の遺品なんて」
 これ、僕らの髪の色だったんだとクーフィアがひとつを手に取る。キザなことするよと思いつつ、ハーノインなら似合うかと眺めてみた。
「ここまでしていた男が、どうして裏切りなんて……」
 アードライも自身の髪色をしたものを手に取る。ハーノインが、イクスアインの髪を連想させるピアスを買いに行ったのは知っている。製作者である女性といたところを誤解して詰め寄りさえした。
 その時からハーノインのピアスが何を意味しているのかは見当がついていたが、だからこそ信じられないのだ。何があって自分たちを―イクスアインを裏切るような真似をしたのか。
 裏切りという言葉は、アードライにとっても他人事でない響きを持つ。残った二つのピアスのうち、裏切った男の髪色をしたものを摘み上げた。
「あ、それ」
「これは―私のだ」
 エルエルフは何を思って、この目を撃ったのか。義眼にせざるを得なかった瞳に目蓋をかぶせ、アードライはピアスを握りしめた。
「渡せてよかった。ハーノインのしたことをどう思おうが構わないが……どうか持っておいてやってほしい」
 イクスアインはたったひとつ残ったピアスを包み込んで握りしめ、踵を返す。
「やっぱり元気ないねぇ、イクス」
 その背中が小さくなってから、クーフィアはいつもより落としたトーンで呟いた。仕方ないだろうとアードライは小さくなったイクスアインの背中を眺め、いまだにどう慰めの言葉をかけてやればいいか分からないままの自分に、苛立ちさえ感じていた。
 本当に、どうして裏切ったりしたんだハーノイン―と、手の中のふたつのピアスをもう一度眺めた。



 イクスアインは自室のベッドに腰をかけ、やっと逢えたハーノインに問いかける。
「何故だ、ハーノ……」
 どうして一人で全部背負おうとしてたんだ、と指で転がした。どうして一人で行動したりしたんだ、と涙の流れる寸前のように喉を痛ませる。
 ハーノインがいなければ生きてなんかいられない―なんて言うつもりはないけれど、それに近い感情はあったかもしれない。
 イクスアインが軍人になったのは、あの日カイン・ドレッセルに助けられたおかげだ。仇討ちなどとうに意味がないものだと悟っても退役しなかったのは、知ったからだ。友も、自分も守る術というものを。
 背中を預けるだけではいつか共倒れしてしまう、どちらも守ってこそだと教えられたからだ。
 ハーノインを守るという術を教えてもらったからだ。
 その彼がいなくなったのに、どうやって生きる意味を見つけ出したらいいのか。
 ―だが……ハーノ、お前を殺せるヤツなんて……。
 よほど腕のいい軍人じゃないか、と不審げに眉を寄せ、彼の遺したピアスを指で転がす。
 と、途中で違和感があった。
 カチリと音がしたのだ。
 耳朶を挟み込むタイプのものだから、開閉できるのは分かる。分かるのだが、それを考慮してもこの仕様はおかしい。
 内側にスピーカーのような小さな機器が取り付けられている。
「これは……」
 イクスアインは思い出した。お前の色は特注な、と言っていたことを。
 それはそうだろう、集音装置にもなっているらしいそれは、耳のすぐ傍で音を聞くためのスピーカーというより、録音機器としての利用が目的だ。こんな物は普通の店には売っていない
 イクスアインは眉を寄せた。ハーノインが理由もなくこんな細工をするはずはない。もしかしてこれに何か当時の様子が録音されているのではないかと。
 しかし、スイッチであろう開閉をしてみても何も聞こえてこなかった。
 作動している様子がないのだ。壊れてしまったのか、動かし方が違うのか。何にしろこのままではただの飾りだ。
「……ハーノ……」
 やはり知ることはできないのかと、力を落として名を呼んだ、その時、ジ……とわずかにノイズ音が聞こえてきた。再生が始まったのだ。
 ハーノインのような用心深い男が、ロックも設定せずにこんなものを使うはずがなかった。そしてそれは、何よりも愛しい相手の声紋だったのだが、イクスアインがそんなことに気づく前に、衝撃が走る。

『やはりきみの嗅覚は評価に値するよ、ハーノイン』

 ほんの少しのノイズに混じって聞こえてきたのは、カイン・ドレッセルの声だった。
 ―な、ぜっ……!!
 イクスアインは目を瞠る。
 聞き間違えるはずがない。ハーノインの声も、カインの声も、いつも傍で聞いてきたものだ。
 顎が震えて、ぶつかる歯がカチカチと音を立てる。
 なぜ。なぜカインの声が聞こえるのか。なぜハーノインはこれを録ったのか。
『どんな時も、背中を預ける友は必要だよ』
 笑いさえ混じっていそうな声に、イクスアインの額から汗が流れて鼻筋を通っていく。
『あなたらしくない物言いですね』
 怒りと不審を混じらせた、ハーノインの声。
『十二年前、俺たちを助けてくれたあなたはこう言った。友に背中を預けるな、背中も友も、両方守れる強さを持てと』
 ハーノインの声で繰り返される、イクスアインの生きる根幹。覚えていたのか、ハーノインも―ずっと覚えていたのか。
『真逆なことを言うなんてな。―イクスが聞いたら泣くだろうよ』
『ふ……くくっ、そうか……この男はそんなことを言ったのか』
『この男……?』
 ズガァン!!
「……っ」
 不思議そうなハーノインの声をかき消すように、銃声が響いた。イクスアインの肩がすくむ。
 どうして、なぜここで銃声が聞こえるのか。あの洋館にカインがいるのは当然で、声が入っていてもおかしくはない。おかしくはないのだが、問題は内容だ。
 ハーノインのピアスからは、彼の息づかいと速い足音が聞こえる。おそらく館内を走り回っているのだろう。息づかいから、銃で負傷したのだろうと窺い知れた。
 撃ったのは―カインだ。
 少し考えれば分かったことなのに、脳が拒否していた。ハーノインを殺せる人間など、多くないのに。
 ―うそだ……嘘だ! うそだッ……こんな、こんなこと、あるはずが……ッ!
「カイン……大佐……―!」
 嘘だ、と思いたかった。
 カインがハーノインを撃ったということも、ハーノインがもういないことも。だけど、尊敬しているひとが、愛するひとを撃った、その事実はここにある。
 ハーノインは不真面目な態度を取っていながらも、イクスアインに対して根底で不誠実であったことなどない。そして、狙った獲物を逃すカインではないということも知っている。
 そのカインに撃たれたのなら、よほどの奇跡でもない限りハーノインは生きてはいないだろう。
 ほんの少し残っていた希望が、ガラガラと崩れていく。
 その時、

『イクス……』

 ハーノインの声が聞こえた。ノイズも混じらず、吐息のようなその声に肌があわ立った。
 伝わってくる。ハーノインが、どれほど自分を想ってくれていたのか。
 言えなかった理由が分かる。カイン・ドレッセルを絶対とし忠実に仕える自分になど、カインへの不審は話せないだろう。
「ハーノ……お前……」
 そのあとに録音されていた真実は、およそにわかには信じられないものだった。何発かの銃声と、ハーノインの痛々しい呻き、総統の声、肉体を求める老人の声、怒りに震えるハーノインの激情。
 イクスアインは装置を止めて、項垂れた。困惑と、怒りと、それを凌駕するほどの愛しさに涙さえ出てきそうになる。だけど必死でそれを抑え、息を吐くようにハーノと呼んだ。
 望んだような結果ではなかった。最悪だ。まさかハーノインを殺したのが、尊敬する上官だったなんて。
 こんな形で彼の最期を知ることになるとは、思っていなかった。
 カインへの不審を隠しつつ触れてくるハーノインを、怪訝に思ったこともある。だけどこんな風に、全力で守られていたなんて。
「やはりお前は頭がいいよ、ハーノ……」
 自分はハーノインの死をもってしか、カインへの不審を信じられなかっただろう。ハーノインはそれが分かっていたから、何も言わなかったのだ。何も言えなかったのだ。
 お互い臆病だったなと、イクスアインは深く長く息を吐く。
 臆病な愚かさが、ハーノインを死なせた。もっと多くを話し合っていれば、こんな事態は招かずにすんだかもしれないのに。
「すまないハーノ……ッ」
 ハーノインを殺したのは自分かもしれない。イクスアインはそう思って、ピアスを包み込んだ手を強く強く握った。
 そうして目を閉じ、ゆっくりと目蓋を持ち上げる。
 せめてもの償いだ、仇を。
 仇を討とうと十二年前彼が言ったように、愛するひとの死に怒りと、贖罪と、敬意を持って。
「……ハーノ……お前は、怒るだろうか……?」
 仇討ちなんて無意味な行動だということは、お互い戦いの中で知り得ている。それでもイクスアインは、剣を取らずにいられない。
 ふたつのものを、同時に失ったイクスアインには。


#革命機ヴァルヴレイヴ #ハノイク #ハーノイン #イクスアイン #両想い