No.734

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どうやら思っていたより大好きみたいで

NOVEL,テニプリ,塚跡 2025.06.20

#両想い #ラブラブ

 すう、すう、と規則ただしい寝息が聞こえてくる。こんなところまでクソ真面目か、などとおかしなことを…

NOVEL,テニプリ,塚跡

どうやら思っていたより大好きみたいで



 すう、すう、と規則ただしい寝息が聞こえてくる。こんなところまでクソ真面目か、などとおかしなことを考えた。
 そのクソ真面目な男が、夜にこうして抱いて眠るのは世界中でただ一人自分だけなのだと思うと、幸福で仕方がない。
 跡部は、珍しく夜中に目が覚めてしまったことを最初はもったいなく感じていたが、とんでもない。恋人の寝顔と寝息を堪能できる貴重な時間だ。
 何しろ二人で過ごす夜は大抵抱き潰されて先に眠りに落ちて、朝も後に目が覚めるのだから、恋人の――手塚の寝顔に遭遇できることはほぼない。
 だが昨日は『そういう気分ではない』などと言ってベッドに潜り込むだけ。もちろん肌を合わせられれば幸福だが、それだけのために想いを告白したわけでもなかったから、気分が乗らないのなら構わない。
 その気にさせてやると強引に抱かせるほど飢えてもいなかったし、何より頑固な男にそうしても後が面倒くさい。
 跡部も寝る準備をして隣に潜り込んだのは二時間ほど前。体調の問題かタイミングの問題か、いつもは朝までぐっすり眠れるのに、今日はどうしてか目が覚めてしまったのだ。
 跡部は手塚を起こさないようにそっと顔だけで振り向いて、寝顔をじっと眺める。
 遮蔽物がなにもない恋人の無防備な顔。
 それを眺めるだけで嬉しいなんて、そんな感情がまさか自分に芽生えるなんて思っていなかった。
 ――――かわいい。
 いつもつり上がっている眉は緊張が解けた状態で、目尻も下がっている。ほんの少し開いた唇は少し幼さを感じさせて新鮮だ。
 跡部の体に巻き付けられた腕にも力は入っておらず、いつもベッドの中で感じる熱さはない。逃がさないように抱いているわけではなく、ただ触れていたいという無意識らしい行動に、胸が高鳴った。
 もしかして、自分はいつもこんなふうに抱かれて眠っていたのだろうか。そう思うとどうしようもなく恥ずかしくて、心音で手塚を起こしてしまいそうだ。
 深く息を吸い、吐いて、ざわつく胸を押さえようと試みる。
 自分で思っているよりもずっとずっと手塚に想われているようで、嬉しい。起きている時は起きている時で、端々にちゃんと愛情を感じ取れているのだが、無意識というのがいつも以上に嬉しい。
 ――――俺も相当溺れてんな……。つーかコイツこんな顔をしてたのか。
 恋人に対して〝こんな顔をしていたのか〟というのもおかしな話だが、普段あまり気にしたことがなかった。
 整った顔をしているとは思う。自分を基準にしてしまうのは良くないのだが、手塚の顔が好みかどうかと言われたら、間違いなく好みではないというか、そもそも性別が想定外である。顔がどうこうと思う間もなく恋に落ちてしまったのがいけないのだ。
 手塚ならどんなふうでも良い。そう思うのは、彼の魂に惹かれたせいだろう。だから改めてじっくり眺めてみると、今さらながらに案外睫毛が長いことに気づいたりする。
 精悍なイメージの強かった顔つきは、意識がないとこんなにも幼く見える。普段にない静かな空気を纏う手塚の顔は、とても良い。
 普段にない、というのがどうしてこんなにも嬉しいのかと考えたら、ああなるほどそうかと納得してしまった。
 いつもの手塚は誰もが知っているしこれからも誰もが見られるものだが、無防備に寝ている手塚をこんなに近くで見られるのは自分しかいないという優越感だ。お互い相手が初めての恋人で、他にこんな距離を知っている者もいない。
〝自分だけ〟という特別感が、愛情に上乗せされる。
 跡部はそっと腕を伸ばして、髪を撫でてみる。起きる気配はなくて、ホッとしつつゆっくりと髪の感触を楽しんだ。
 この髪の感触が手に馴染むのは、一緒に過ごす時はいつも跡部が乾かしてやっているからだろう。ドライヤーを使えというのに、何度言っても聞きやしない。仕方なくドライヤーを手に取るのだが、実は彼の世話を焼くのが好きだというのも自覚している。手塚がそれを知っていてあえてさせてくれるのか、本当に面倒だからなのかは分からないけれど、この髪を乾かす時間も大好きなのだ。
「……眠れないのか?」
 そんなことを思いながら髪を撫で続けていたら、聞き慣れた声。手塚の唇から放たれたその音に、しまったなと思いつつも跡部が手を引っ込めることはなかった。
「悪い、起こしたか」
「構わないが、珍しいな。お前が途中で起きるなんて。……何かあったのか」
 ゆっくりと開いた鳶色の瞳に、自分だけが映っている。怖い夢でも見たと思ったのか、宥めるように背をさすってくれる温かな手のひらに、愛しさが募った。
「別に何もねえよ。お前の寝顔見られて嬉しい」
「なんだそれは。別に楽しいものでもないだろう」
「楽しいか楽しくないかは俺が決めることだろ。何だよ手塚、お前は俺様の寝顔眺めてニヤニヤしたことはねえってか?」
 何も言葉が返ってこない。沈黙は時として言葉よりも雄弁である。なるほどねと一人で納得して口の端を上げたら、それが気に食わないらしい手塚からようやく反論が返ってきた。
「ニヤニヤはしていない」
「はいはい」
「……していないと言っているだろう」
「眺めてたことは否定しねーのな。素直なお前は大好きだぜ」
 バツの悪そうな顔をして、手塚は小さくため息を吐く。跡部はそんな手塚に身を寄せて、背中に腕を回した。
「なんだ」
「いや……くっつきたくなっただけだ」
「ベッドは広いぞ」
「俺を抱きながら眠ってたてめェが何言ってやがんだよ」
「抱き心地が良いのだから仕方ないだろう」
 開き直って背をぐっと抱かれてしまい、跡部はくっくっと肩を震わせて笑う。肌を合わせなくても、こうして温もりと愛情を感じることができる。
 起床時刻まではまだ時間がある。もう一眠りしようと、温もりと睡魔に身を預けることにした。
「あ……そうだ手塚」
「なんだ」
「俺、お前の顔好きだぜ」
「……は?」
 唐突で今さらの告白に、手塚は困惑の声を吐いたけれども、跡部が答えることはない、そのまま眠りに落ちていき、やがては規則正しい寝息が聞こえるようになる。
「……言い逃げされた……」
 どういう過程を経ての発言なのか聞きそびれた手塚だが、跡部の寝息を聞いては仕方がないと諦めて、そっと背を抱き自分ももう少し眠ることにしたようだった。


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