No.732

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君に結ぶリボン

NOVEL,テニプリ,塚跡 2025.06.12

#未来設定 #ラブラブ #リクエスト

 じっ……と彼の顔を見つめてみた。それは意図的なものではなく、手塚にとっては無意識のもの。 跡部の横…

NOVEL,テニプリ,塚跡

君に結ぶリボン


 じっ……と彼の顔を見つめてみた。それは意図的なものではなく、手塚にとっては無意識のもの。
 跡部の横顔が、真剣なものであったり、柔らかな表情であったり、はたまた険しいものになったりと、ころころ変わるのが不思議でしょうがない。目が離せないというのが正直なところだろう。
 跡部は、これでもかというほど一所懸命に、リボンを選んでいた。
 あれがいいか、これがいいか、それともあっちか、こっちか。
 手に取ってみては戻し、また手に取って、他のリボンと並べてみる。その真剣な表情は手塚が好きなもののうちのひとつで、こんなふうに待つ時間さえ惜しくはない。
「うーん……どっちが似合うか……」
 ぼそりと聞こえた呟きに、それは四度目だなと心の中で思う。手塚としてはなにをそんなに迷うのかさっぱり分からないが、跡部にとっては大事なことなのだろう。
「なあ手塚、どっちがいい?」
「……どちらがいいかと言われても、俺が着けるわけではないからな」
 不意に振り向かれて、手塚はひとつ瞬く。すっかり自分の世界に入り込んでいたようなのに、存在は忘れていなかったようだ。しかし、返した通り今跡部が選んでいるのは、何も手塚への贈り物ではない。かといって自分自身のためのものでもない。親しい女性にプレゼントというわけでもなかった。
 では何かと言えば、
「でも、お前がくれたあれに着けるんだから、お前の意見もあった方が」
「ぬいぐるみにリボンを着けてやるという発想がそもそも俺にはない。お前が好きなのを選べばいいと思う」
「……そうかよ」
 そう、跡部が選んでいるのは、ぬいぐるみに着けるリボンだ。
 サテンかグログランか、はたまたベルベットかジョーゼットか……などと悩んでいるようだが、手塚にはさっぱり分からない。手触りの良いものをと思っているらしく、跡部は手に取って一所懸命に選んでいる。
 ぬいぐるみにそこまでせずとも……と思ってしまうのは、今日の今までそういった文化に触れてこなかったからだろう。少し寂しげな表情に変わってしまったのはどうしてだろうと、手塚は言葉を探した。
「跡部は、昔からそうなのか? ぬいぐるみにリボンを着けるというのは」
「……そうだな。小さい頃にもらったテディベアも、名前つけたりして大事に扱っている。俺にはそれが普通だったが……もしかして引いてるか?」
「いや、そういうわけではない。知らない世界だから、物珍しく感じただけだ。不快に思ったのならすまない」
 不安そうな跡部の表情を目にして、手塚はハッとして弁明した。ぬいぐるみは幼児の玩具だなどと言うつもりはない。確かにあのぬいぐるみを選んだ時も少々躊躇ったものだが、あの時は他に手頃なものがなかったのだ。
「イギリスでは子供にテディベアを贈る風習があるからな。だからあのユキヒョウもらった時は本当にびっくりしたんだが」
「お前がいまだに大事にしてくれているのは嬉しい」
「惚れた男からのプレゼント、大事にしないわけがねえだろ」
 中学生の頃、まだ片想いだと思っていた手塚だが、多忙な跡部の癒やしになればいいと買い求めた物がある。青い目をしたふわふわのユキヒョウ。十年を経て両想いだと気づいた鈍感二名だが、いまだにそれを大事にしてくれているのはとても嬉しい。
「……待て跡部。今までも着けていたのか? リボン」
 十年も大事に持っていて、コレが初めてのおめかしというわけではないだろう。幼い頃からぬいぐるみと触れ合ってきたのならば尚更だ。手塚がそう訊ねると、さほど間を開けずに跡部は頷いて帰してきた。
「もう暑くなるからな、衣替えってわけでもねえんだけど。今まで赤いリボンだったから、少し涼しげなのがいいかと思って」
 言いながら、手に取って手触りを確かめている。ずっと青っぽい系統の色だけ手に取って見ていた理由が分かって、胸がむずがゆくなった。
 季節に合わせてリボンを替えているのだと気づいて、嬉しい反面その甲斐甲斐しさがぬいぐるみに向けられていると思うと少し面白くない。
「衣替えまでしてやるとは、ずいぶんとご執心だな」
「アーン? てめェにもらったもんなんだからとうぜ……おい待て手塚、なんだ今の」
 返す途中で違和感に気づいた跡部が、くるりと振り向く。それとほぼ同時に、手塚は時分の口許に手を当てた。
 なんだ今の、と言いたいのは手塚の方である。この胸のモヤモヤはいったいなんだろう。分からなくて首を傾げれば、今度は跡部が口許を押さえて項垂れた。
「跡部?」
「こ、こういう時どういう顔したらいいか分かんねーな……」
「なんだ、いったい」
「お前、それ、ヤキモチだろ」
 上目遣いで、躊躇いがちに告げてくる。正直そのアングルは勘弁してほしいのだが、発言の方が気にかかった。
「…………………………そんなわけないだろう」
「考え込むくらいの余地はありそうだが?」
 そう言いながら跡部が笑う。事実、まったく的外れではないような気さえしている手塚は何も言い返せなかった。
「俺がお前より大事にするもんなんてねえんだから、妬くことねえだろ。なんならお前にもリボン選ぶか?」
「いらん、結構だ」
「……なら、お前が俺に着けるリボンを選ぶのは」
 そう言って、跡部は白いリボンをそっと引いて取る。手塚はぱちっとひとつ瞬いて、なるほどと頷くように今度はゆっくり瞬いた。
「リボンを上手く結ぶ自信はないが、お前に似合う色を探すのは楽しいな」
 こういう感覚なのかと、手塚も素材違いの白いリボンを手に取る。大切なものに、特別な装いをさせたいという跡部の気持ちがよく分かった。
 あれがいいか、これがいいか、それともあっち。
 しかしよく考えたらどこに結べばいいのだろう。ユキヒョウのように首にだろうかと想像してみて、そんな倒錯的な趣味はないと首を振る。では髪にだろうかと想像したが、どうやっても上手く結べるわけがない。
 色も素材も悩むが、どこにというのを考えて手塚は意外にも一所懸命選ぶ羽目になってしまう。そんな手塚の横で、跡部も楽しそうにリボンを選んでいる。鼻歌まで歌い出しそうな雰囲気に、ご機嫌だなと胸が温かくなるのを感じた。
 そうして、ふと彼の左手が目に入る。
 ゆっくりと瞬いて、考えて、純白のサテンリボンのスプールを手に取った。細かい刺繍がなされていて、他のと比べると若干値段が高い。まあそんなことはどうでもよくて、彼に似合うかどうかの方が重要だ。
 手塚はスプールごと跡部に向けて、ほんの少し引き出したリボンを合わせてみる。
「……うん」
 これがいいと頷くと、跡部が気がついて振り向いた。
「決めたのか? ふふ、真っ白とは意外だったぜ。一緒に会計するか」
 跡部もユキヒョウに着ける青いリボンが決まったのか、スプールを手にしている。量り売りのため店員に切ってもらう必要があるようだが、会計は別にしたい。
「これは俺がお前に着けるのだから、俺が払う」
「そんな高ぇもんでもねえのに。まあいい、ひとまず切ってもらおうぜ」
 そうして欲しい長さだけを切ってもらい、無事にリボンを購入することができた。店を出てすぐ、跡部が訊ねてくる。
「白って、なんでだ? まあ俺様なら何色でも似合うだろうが」
「いちばんふさわしいと思ったんだ。あとでお前に着けてもいいか?」
「ああ、帰ったらな? ……ていうかどこに着けんだ」
 結んでくれるつもりがあったのかと若干驚いた顔をしながらも、跡部は快諾してくれる。選べと言ったのはお前の方だろうと思いつつ、手塚は告げた。
「左手の薬指」
「…………ひだりてのくすりゆび……」
 ぽかんとした顔で、ゆっくりと手塚の言葉をなぞる。そして〝ひだりてのくすりゆび〟を見つめ、ボッと顔を赤らめた。どうやら意味は正しく理解してくれたようで、言葉が継げなくなっている。
「いいか? 跡部」
「……てめ、そういう、大事なことを、さらっと……!」
 キッと潤みかけた目で睨まれたが、見つめ返したらコクンと頷いてくれた。
 その後仕返しのように宝飾店に引っ張っていかれたのは言うまでもない。


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