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No.709
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.28
恋人の顔越しに、もう見慣れてしまった天井を眺める。胸の上の重みが心地良くて、機嫌の良さそうな可愛い…
No.709
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.28
恋人の顔越しに、もう見慣れてしまった天井を眺める。胸の上の重みが心地良くて、機嫌の良さそうな可愛い…
恋人の顔越しに、もう見慣れてしまった天井を眺める。胸の上の重みが心地良くて、機嫌の良さそうな可愛い恋人の頬に指先を伸ばしてみた。
「少し重いんだが、跡部」
「アーン? 知るかよ」
心地良くはありつつも、重くないわけではないと、暗に降りてくれと伝える。ほどよく筋肉のついた肉体は、見た目よりもずしりとくるのだ。
だが跡部は楽しそうに、嬉しそうに口の端を上げるだけで、退いてくれる気配は少しもない。手塚はふうと短い息を吐いて、したいようにさせておいた。
何しろ昨夜は、手塚の方がしたいようにしてしまったのだから。
パジャマの隙間に、昨夜の名残であるキスマークが見え隠れする。柔らかなベッド上でそんなものを見てしまえば、また新たな欲望が頭をもたげそうだが、朝っぱらからそんなことをするわけには、と視線を背けた。
「ほら、眼鏡」
サイドテーブルに置いていた眼鏡をそっと持ち上げ、跡部が丁寧にかけてくれる。視界は先ほどまでよりクリアになって、恋人の顔をより鮮明に感じることができた。
「クク、今日もいい男だぜ、手塚」
「それは礼を言うべきだろうか」
面を食らったように驚き、そうして「どちらでも」とふるふる肩を震わせる。何かおかしなことを言ったのだろうか。
「人の上で笑わないでもらいたい」
「いーいじゃねーかよ。こんな時でなきゃ、お前にマウント取れねえんだから」
「取れてないと言うならお前はすぐに意識を改めろ」
乗っかられている状態では、確かにマウントポジションを取られている形だが、何を言っているのだこの男はと、呆れたように脱力してわずかにのけぞった。
跡部景吾のどこに、手塚国光に対して優位でない時があるのだろう。頭から足の爪の先まで、「跡部景吾」というだけで、ずっとマウントを取られっぱなしのような気さえするのに。
恋を告白してくれたのは、確かに跡部の方が先だった。跡部はどうも、それを不覚だと思っているらしい。
告白されることはあっても、告白することなんて生まれてこの方なかったのだろう。〝惚れた方の負け〟なんて言葉を気にもしているようで、いつも、いつでも、「俺の方が分が悪い」と口を尖らせている。
そんな尖った唇に、いつも、いつでも、キスをしたいと思っている男がいるとは思わずに。
初めての恋を一生懸命に告げてくれた跡部が、愛しくてしょうがない。この男の〝初めて〟をもらえたのだと思うと嬉しいが、手塚とて〝初めて〟だったのだ。先を越されたことを悔しく思っているのは、言わないでおこうと思っている。
「ところで昨夜は随分と情熱的だったな、手塚。何かあったか?」
胸の上に乗っかって、嬉しそうに笑いながらつんと鼻先をつついてくる跡部に、また優位に立たれる。
余裕があったことなんて一度もないし、夜を過ごして朝を迎えれば、こんなふうに跡部の方に余裕があるようにすら思う。
何を基準にして、「マウントを取れていない」というのか、心の底から疑問だった。
「特に何もないが。しいて挙げれば、昼間のテニスでより多くポイントを取れたことだろうか」
「腹立つなテメェ」
跡部の眉間にしわが寄ってしまうが、そんな顔も綺麗だなと思ってしまうあたり、やはり分が悪いのは自分の方だと手塚は思った。
テニスをした時に、いつもより多く跡部からポイントを取れた。それは素直に嬉しかったし、言ったことは噓ではない。
ただ、夜が激しくなってしまった理由は、少しだけ違う。
ポイントを取った際、悔しそうに顔を歪めた後に「やるじゃねーのよ、手塚ァ」とそれはそれは楽しそうに笑った跡部に、ポイントを取った以上に嬉しくなってしまっただけだ。
永遠にライバルであり続けるこの関係を、嬉しく思ってくれている跡部を、いつもより愛しく思っただけだ。
そんな気持ちが、行為に現れてしまったのだと思う。
恋人という関係に甘んじず、手加減はしない。それはお互いにだ。
手塚もその事実を嬉しく思っており、やはりこの男を好きになって良かったと心の底から思った。
「こんなことを言うのもなんだが、体は大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえ。股関節が痛い」
ぐに、と頬をつままれて、痛みを感じる。不機嫌そうに目を細める跡部だが、染まった頬が、不機嫌なのではなく照れくさいのだと悟らせる。
「すまない。お前が可愛かったのでつい」
「か、…………わいいとか言うんじゃねーよ」
「事実だろう。だがそういうのは俺の前だけでいい」
その形容詞に慣れていないらしい跡部が、さらに頬を赤くする。可愛さが上乗せされて、やっぱり朝っぱらからおかしな気分になりそうだった。
「やっぱりテメェには勝てる気がしねえ……」
「俺の台詞なんだが」
「噓つくなよ、悪い口だな」
そんなことを言いながら、跡部はずいと胸の上を這い上がってくる。そうして唇同士を触れ合わせ、押しつけてきた。
噓など言っていないと手塚は抗議したかったが、そうするよりも触れていたい。朝にしては濃密なキスが、体温を上げた。
「……ああ、くそ、悔しい。こんな時でも涼しい顔しやがって」
ふいに唇を離したと思ったら、悪態を吐きながら頬に触れてくる指先。
いったいどんな顔をしているのかと、手塚は苛立ちに似た思いで濡れた唇を尖らせた。
「いったいどんな顔をしているか知らんが、胸の内も涼しいなどと思うなよ、跡部」
「アーン? どう、い……う、…………分かった。分かったから落ち着け。つーかテメェはちょっと顔に出す訓練くらいしやがれ」
手塚の状態を認識して、跡部は体を離そうとする。けれども、それより速く、手塚の腕がその体を引き留めて放さない。
「その訓練に、お前が付き合ってくれるというのなら」
「…………それって、お前の顔眺めてていいってことか? それなら一日中でも付き合ってやるぜ」
「飽きないか、そんなに俺のことばっかり見ていて」
「ちっとも」
冗談のつもりだったんだがとは言えないで、楽しそうに笑う恋人にまた負けたような気分に陥る。
一日中顔を眺められるのは、落ち着かないことこの上ないだろうなと思いつつ、長く一緒に居られるのは願ってもないことだ。
「ほら手塚、手始めに、にっこり笑って愛してる、言ってみな?」
人の胸の上でくすくすと楽しそうに頬杖をつきながら、小悪魔みたいに笑う恋人が相手だとしても。
それならばこちらは、その期待に応えてやろう。
手塚は口の端を上げて呟いた。
「愛してるぞ、跡部」
胸の上で、跡部が息を飲む。反撃されるとは思っていなかったのか、見開かれた瞳は気分が良かった。
「……手塚、それは〝にっこり〟じゃなくて〝ニヤリ〟ってヤツだろうが……」
「そうか。ではやはり練習が必要だな」
ねだっておいて恥ずかしそうに視線を背ける恋人を抱いて、くるりと体の位置を反転させる。もっと真っ赤になった頬を見て、手塚の口の端はさらに上がることになった。
#お題 #両想い