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No.703
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.22
#お題 #両想い
スマホから、ピー、ピー、ピーという電子レンジの音が聞こえた。ややあって、足音と、コトンと硬い音。『…
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン
お題:リライト様 /いい夢を見るために
favorite いいね ありがとうございます! 2025.03.22 No.703
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スマホから、ピー、ピー、ピーという電子レンジの音が聞こえた。ややあって、足音と、コトンと硬い音。
『すまない跡部、ミルクを温めていた』
「ホットミルクか。はちみつ入れると美味いぜ」
どうやら向こうもスピーカー通話にしているようで、時折生活音が挟まる。それは不快なものでなく、むしろ耳を癒やし、心を満たしてくれた。
『そうなのか。今度買っておこう』
「なんなら送ってやるぜ」
『お前がよこすものは高級そうだから、結構だ』
行動を把握されてしまっていて、跡部は肩を揺らして笑った。はちみつだけではあれだからと、なんやかんや高価な物もついでに送ってしまうだろうことも。
『そんなことに使う金があるなら、こっちに来る旅費にしろ』
のけぞって、危うく窓ガラスに後頭部をぶつけるところだった。
どうしてこの男はこう、脈絡なく愛の言葉を吐いてくるのだろう。
それはつまり、「逢いたいから来い」ということではないのか。時間に都合さえつけば、今すぐにでも飛んで行きたい。しかし日本からドイツは遠いなと、なんとか踏みとどまった。
「フン、リボンでもかけて行ってやろうか、手塚ぁ」
『どうせすぐ解くのだから、要らないと思うが』
「おいおい、言うじゃねーの」
我慢した理性が、ブチ切れてしまいそうだ。逢ったらすぐに解かれるという愉快なことも体験したいものだが、ひとまずそれは機会があればだ。
「まったく、昼間からサカッてんじゃねーぞ」
『俺は事実を言っただけだ。そっちは、夜か?』
ドイツとの時差は七時間ほど。こちらが二十三時ならば、向こうは十六時頃だろう。今日は休息日らしく、珍しく長く通話していられる。
「ああ、今日は割と早めに寝られると思う」
『いいのか、電話なんてしていて。疲れているのならもう切るが』
「待て待て、切るんじゃねーよ」
手塚も連日の練習で忙しいだろうが、それは跡部だって負けていない。加えて家の仕事を手伝っているのだから、睡眠時間は平均より若干少ない。
手塚はそれを心配してくれているようだが、睡眠よりも大事なことがあると気づいてほしい。
いや、睡眠の大切さを軽んじているわけではないのだが、たまにゆっくりと恋人と通話できるのだから、こちらを優先したいと思ってもバチは当たらないはずだ。
「お前の声、落ち着くんだよ。疲れなんか吹っ飛ぶくらいにな」
『そうか? まあ、俺もお前の声が聞けて嬉しい』
「…………お前、そっち行ってちょっと変わったな? 前はそんなこと言わなかっただろ。どっちかっていうと、俺がそういうこと言うのに呆れてた気がする」
ぐっと言葉に詰まったような音が聞こえた。恋人関係ではあるものの、手塚からのアクションはあまりない。とはいえ気持ちはつながっていると思っているから、跡部の方になんら不満はないのだけれど。
『…………愛想を尽かされても知らないぞとは、言われた。日本に恋人がいるということが、なぜかバレていて』
「アーン? いや俺がテメェに愛想尽かすことはねえんだが……いったいなんだってバレてんだ。言ったわけではないんだろ?」
『彼らが言うには、電話をしている時だけ嬉しそうにしていると。自分では分からないが、そうなのだろうか』
気まずそうにしながらも、素直に説明してくる手塚が、愛しくてしょうがない。あの仏頂面の手塚に周りがそう感じてしまうほど、自分との電話を嬉しく思ってくれているのだろう。無自覚だとしてもだ。
「ビデオ通話にするか? 確認してやるよ」
『……駄目だ』
「なんでだよ。そんなににやけた顔してんのか? 余計に見てぇだろ、そんなの」
くっくっと喉を震わせて笑う。想像したらおかしくて、冗談と揶揄と本音を混じらせてそう呟いたら、
『顔を見たら逢いたくなる。声だけだから、まだ我慢できているんだ』
返ってきた言葉にボッと頬が染まった。もしかしたら、自分が思っているよりもっとずっと、手塚に愛されているのかもしれない。
「そ、そうかよ……」
『だから跡部、時間が合えばまたこうして電話をしたい』
「そりゃもちろん。一日の最後にお前の声聞けたしな、今日はいい夢が見られそうだぜ」
この幸せな気持ちのままベッドに入れば、夢に出てきてくれるかもしれない。
『明日も早いのではないのか? もう寝るといい、跡部』
「ああ、そうするぜ。起きたらまた電話する。そしたら、お前も一日の最後に俺の声が聞けるだろう」
跡部は端末のスピーカーモードを解除して、耳元に当てる。
「楽しみにしている。跡部、おやすみ。いい夢を」
「おやすみ手塚。次は、俺が起きてお前が寝る時に」
ああ、という吐息のような声を聞いて、通話を打ち切った。
体温も、心音も、心地良い。
さあベッドに入ろう。このままいい夢を見るために。
#お題 #両想い